クリフトとアリーナの想いは @ wiki

2006.04.27

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kuriari

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クリフトのアリーナへの想いはPart5
89 :【姫さまの手作りケーキ】 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/27(木) 12:22:57 ID:By/mwePC0

今年もこの日がやってきた。
クリフトは神官衣の襟を正すと、鏡の中の自分に向けて叱咤する。
「大丈夫だ、クリフト。あの辛い旅でさえ切り抜けてきたおまえじゃないか。大丈夫。おまえは十分強い。大丈夫・・・」
なにやら面妖なことを呟き続ける不審神官だったが、これは致し方ないことだったのかもしれない。
今日は、クリフトの誕生日。そしてそれはアリーナの手作りケーキが届く日。
毎年毎年、クリフトはこの日を複雑な思いで迎えていた。誕生日ということもあってか、この日ばかりは王もブライも、アリーナがクリフトとふたりっきりで過ごすことを黙認してくれている節がある。それは正直嬉しい。邪魔が入らず、愛しい者と過ごせる時間はとても貴重だから。
ただ、同時に試練の日でもある。それはアリーナの手作りケーキ。過去これを食べて無事でいられたためしがない。大抵はそのあまりのまずさに「失神」してしまうのだ。
それをアリーナは喜びのあまり気を失った、もしくは疲れのたまっているクリフトが眠ってしまったと思っているようだが、断じてそれはない。
あの気の遠くなるような味、否、実際に気が遠くなるのだが、どうしたらあのような味になるのか。世界最大の謎とされてきた「進化の秘法」が明らかとなった今でさえクリフトの前に立ちはだかる大いなる謎である。
だが・・・。
「今年こそは・・・今年こそは耐え抜いてみせる!」
そして今年こそは姫様と・・・。
(らぶらぶな時間を過ごしてみせる!!)
神官にあるまじき煩悩といえるかもしれないが、若い男としてこの願望は普通だったのかもしれない。

クリフトが鼻息荒く気合を入れなおしていると、部屋の扉が小さく鳴っていまだエプロン姿のアリーナが姿をみせた。手には少し形の崩れたお手製ケーキ。
クリフトは湧き上がる恐怖心を無理矢理煩悩で押し込め、笑顔で出迎える。
「ようこそおいでくださいました」
クリフトの運命や如何に!!



90 :【姫さまの手作りケーキ】 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/27(木) 12:24:39 ID:By/mwePC0
(バージョン・1)

「おいしゅうございました」
さりげなく紅茶でケーキの塊を流し込んだクリフトが、青ざめた顔で笑う。胃が悲鳴をあげ、背筋をいやな汗が伝うのを自覚していたが、食べてしまったものは仕方がない。あとは運を天に任せるのみだ。食前に飲んだパデキアの効力に期待しつつ、クリフトは早急に事を推し進めようとする。
「姫様・・・」
真摯な顔を作り、アリーナの手を取る。いざらぶらぶタイムへと意気込んだ矢先、世界が反転するようなめまいが襲ってきた。
思わずよろけたクリフトは弾みでアリーナを押し倒してしまう。
「え、ちょっと、クリフトったら」
展開早すぎ!!
焦るアリーナだったが、クリフトの身体が不自然に弛緩するのを感じ、恐る恐る目を開けた。
と、そこには綺麗な青い瞳を伏せたクリフトの顔。
「やだぁ、また寝ちゃったの?」
毎年毎年、仕方のない人ね。
不満半分といった表情で呟いたアリーナだったが、ごそごそとクリフトの身体の下から這い出すと、人形のように端正なクリフトの顔をじっと眺めた。
「でも、あなたの寝顔を見るのも悪くないわ」
好きよ、クリフト。
アリーナは顔をそっと近づけると、己の唇をクリフトのそれに重ね合わせた。



91 :【姫さまの手作りケーキ】 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/27(木) 12:25:23 ID:By/mwePC0
(バージョン・2)

ややいびつなケーキを切り分け、意を決して口に運んだ瞬間、クリフトは目を瞠った。
「おいしい・・・」
それはまさに奇跡。アリーナのケーキはいままで食べたどんなケーキよりおいしかった。
クリフトが思わず呟いた賛辞にアリーナは、少し照れたように笑った。
「実はね、今日は料理長にアドバイスしてもらいながら作ったの」
いつも焦がしちゃってたから。
いままでの作品の数々を思い出したのか、アリーナが少し遠い目をした。そして目の前のケーキに視線を戻す。
「相変わらず、形は変だけどね」
来年はもっと上手に作るから。
はにかむアリーナにクリフトの胸が高鳴った。
「姫様」
思わずアリーナの手を握り、距離を詰める。
いつもと違うクリフトの様子に戸惑ったアリーナだったが、真摯な瞳にまっすぐに応える。
「姫様・・・私は幸せ者です」
僅かに瞳を潤ませながら呟くクリフトに、「いやね、大げさよ」と笑ったアリーナだったが、クリフトの胸に頭をもたれさせると緋色の瞳を伏せた。
「料理長が教えてくれたの。ケーキにいろいろなものを入れる必要はありません、て」
必要なのは、相手に対する愛情だけでいい、と。
「だからね、あのケーキ」
私の愛情純度100%よ。
囁かれた言葉に、クリフトは嬉しさのあまり気が遠くなった。
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