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2014.09.15

    
【クリアリ】クリフトとアリーナの想いは Part13【アリクリ】
920 名前: 一 秘められた恋 1/3 Mail: sage 投稿日: 2014/09/15(月) 20:50:16.67 ID: KapdKcF70

とある世界の北西に位置する国、サントハイム王国。
ここで今もなお静かに語り継がれる、悲しくも美しい物語。

唯一の王位継承者たる王女と、幼なじみで腹心の臣下でもあった神官の青年。
やがて成長した二人は、とある長旅をきっかけに想いを寄せ合うようになった。
だが、彼の出自が明らかでないことを理由に周囲から反対の声が根強く、
淡い初恋は実を結ぶことなく散っていった。

青年は報われぬ自分の想いを断ち切るべく、自ら国王に申し出て
長年慣れ親しんだこの城を離れ、一人新天地へと赴いていった。

『それならば、私は国家の花嫁になりましょう――――』

それが執拗に縁談を勧める父王に対する、王女唯一の抵抗でもあった。
そして父王の死後、彼女は女王として即位した。
後に「処女王」と呼ばれ、生涯独身を貫き通すこととなる。

当初は女王の政治的手腕など、それほど期待はされていなかった。
が、後に世界を救うこととなる旅で、多くの経験と実力を培った彼女の判断は
実に的確であり、一般国民はもちろん、貴族や教会からの信頼も次第に勝ち取っていった。


さて、処女王である女王には世継ぎがいないため、父方の親類から
九歳の男児を養子として迎え、王族としての教育を施すことになった。
父王の弟の孫にあたる利発そうな男児。彼女はその子を慈しみ、大切に育て上げた。

やがて立派な若者となった彼は、持ち前の聡明さと行動力で、
養母である彼女の補佐役として、多少の勤めも果たせるようになってきた。
これでこの国も安泰だ。国中の誰もがそう信じて疑わなかった。

しかし、悲劇というものは突然訪れるものである。
長年の無理がたたり、女王が重い病に倒れてしまったのだ。
神官長の見立てによると、余命は長くても半年だという。

一人息子である青年は、養母の病を治す方法を求めて東西を奔走したが、
その努力も虚しく、彼女の病状は悪化の一途をたどった。

ここ二、三日の養母は、ずっと眠ったままのことが多かった。
だが、大事な公務で遠方に赴かねばならず、一切を代行する立場の青年は、
後ろ髪を引かれる思いで出立せざるを得なかった。

当初の予定を繰り上げて城に戻っても、病状は回復どころか好転の兆しすらなく、
彼が敬愛してやまない養母は、今日も夢と現の間をさまよっている。

「養母上、ただいま戻ってまいりました。…養母上?養母上!
 ああ、どうかお気を確かに!私です。私がわかりますか?」

 床に伏した女王は力なく目を見開き、か細い声でこう呟いた。

「まだ…大丈夫よ。ありがとう、クリフト…」
「…クリフト!?」

青年はこの名前に何度か聞き覚えがあった。

あれはまだ、彼が城に迎えられて半年ほど経ったある日のこと。
初めての試験で満点を取り、結果を報告しようと喜び勇んで女王の部屋へと入った。
その時、彼は誰もいない室内で、机の上に置かれた一冊の本を見つける。

何気なくページを開くと、古ぼけた写真が一枚挟まっていた。
そこには少女の頃であろう若かりし養母と、傍らで寄り添う男性の姿が。

幸せそうに微笑む二人。写真の裏にはこう記されていた。

『クリフト。たとえ添い遂げられずとも、あなたは私が愛した最初で最後の人です』

風のうわさ程度だが、話には聞いたことがあった。

かつて世界を闇の恐怖から解放した、天空の血を引く勇者と七人の英雄たち。
その一員である若き王女の活躍と、誠実な臣下であった聖職者の献身。
そして、許されることなく終焉を迎えた彼との悲恋。

「クリフト?ねえ、そこに…いるんでしょう?私よ…アリーナよ」

両の瞳こそ開いてはいるが、もう女王の視界には誰も入り込む余地はない。
青年はしばらく黙考していたが、何かを決意した表情で立ち上がると、
人払いをして自分以外の者を部屋から下がらせた。

二人だけになった部屋で青年はひざまずき、養母の手をそっと握り締めた。

『アリーナ姫様、お久しぶりでございます。長い間お待たせして申し訳ありません』

 無論、クリフトはここにはいない。
目の前の青年が、彼のふりをして話しかけているのだ。

「…本当だわ、長すぎよ。でも、きっと帰ってきてくれると…思ってた」

青年は胸にこみ上げる思いを必死に押さえ、淡々と演技を続けた。
乗りかかった船とはいえ、ここで中途半端にやめてしまえば
直ちに我が身は自責の念に押しつぶされてしまうだろう。

今の自分は息子ではない。養母が今でも想いを寄せる彼の人なのだ。
青年は心の中でそう言い聞かせ、自らを奮い立たせた。

「もう…どこにも行かないで。もし行くなら…今度は…私も連れて行って」
『私は姫様のおそばにずっとおります。もうどこにも参りません。だからご安心下さい』

養母は最後の力を振り絞り、涙を浮かべて笑った。
無垢であどけない少女の頃を彷彿させる、ありったけの笑顔で。
その直後、わずかに残る砂時計の砂が完全に落ちきったかのように、
波乱に満ちた女王の人生は、静かに幕を下ろした。

「養母上…」

 青年は堪え切れず、目頭を押さえて嗚咽した。
彼の悲痛な声を聞きつけた神官長を始め、大勢の重鎮たちが駆けつけたが、
女王の魂は、すでに永遠の眠りへと誘われたあとだった。


 数日後、前女王の葬儀と自らの戴冠式を無事に終え、
新たな国王となった青年は、昔養母とよく遊んだ中庭に足を運んでいた。
のどかな春先らしく、花壇はまばゆいばかりの黄色で埋め尽くされている。

 ふと足元を見ると、鮮やかな緋色と淡い群青の花が支え合うように咲いていた。
緋色は緩やかな巻き毛、青色は清潔感のある短髪を思い起こさせる。
写真の二人を偲び、青年が複雑な面持ちで花をじっと見つめていると、
花壇の手入れを終えた老齢の庭師がこちらに近づいてきた。

「これは陛下。この度はご即位おめでとうございます」
「広大な庭園の手入れ、いつもご苦労さまです。庭師殿」

「もったいないお言葉で……おや?こんな所に赤と青の花がいつの間に。
 うーん、花壇の黄色にはそぐわないようですな。取ってしまいましょう」

花を摘み取ろうとする庭師の腕を、青年の手が反射的に遮る。

「悪いが庭師殿、この花はそのままにしておいてくれないか」
「はい…承知いたしました、陛下。ではこのままにしておきますので、これにて」

青年の意図がわからず首を傾げながらも、庭師は新たな主人の命に従った。
軽く一礼をしたあと、道具を抱えて別の花壇へと向かってゆく。

 庭師の姿が完全に消えた後、青年は懐から一通の親書を取り出した。

信書はクリフトが勤めていたゴットサイド修道院からのものだった。
彼は彼の地に赴くとすぐに修道院へと入り、数々の輝かしい功績を残した。

だが、生来病弱だったこともあってか、やがて大病を患い、
皮肉にも養母と同じ日にその生涯を閉じた、との知らせであった。
彼は最後まで自分のかつての恋人である養母の身を案じ、眠るように旅立ったという。

また、親書にはクリフトから預かったという、亡き女王宛の封書が同封されていた。
死期を悟った彼が、この世を去る数日前に用意したものだと聞いている。
しかし、受け取るべき主もすでに儚くなった存在。
かといって、このまま彼の遺志を葬り去るのはあまりにも無慈悲すぎる。

養母の代理としてなら――――青年は緊張した面持ちで封を開いた。
その中身は、意外にも手紙ではなく、養母が持っていたものと同じ古い写真のみ。
こちらの写真の裏面にも、達筆の文字で何かが書かれてある。

『東の空が白む穏やかな夜明け。私はこの日を終生忘れることはないでしょう。
 たとえあなたの大切なものを、奪ってゆく結果になったとしても』

記された文字を復唱しても、青年には皆目見当がつかなかった。

これにはきっと、自分の知らない特別な事情があるに違いない。
そう直感した青年は、急いで養母の遺品を捜すために部屋へ向かい、
遠い記憶を頼りに、例の写真を挟んでいた書物をようやく探し当てた。

謎を解き明かす唯一の手がかり。書物の正体は、養母が生前愛用していた日記だった。
そこには、愛する男性との別離の前夜に起こったことと、処女王としての名声が
日に日に大きくなると同時に、国民に対し自身を偽ることへの苦悩が綴られていた。

「養母上…もう…苦しまなくてもよいのです。他の者がいかに誹謗しようとも、
私は、私だけは養母上を…あなたの子として過ごせたことを誇りに思います」

「神よ。あなたの御許に旅立った養母上とその想い人に、どうか安らかな眠りをお与え下さい…」

青年は溢れ出る涙を拭おうともせず、遺品となった日記を胸に抱き、
ただひたすら二人のために祈りを捧げていた。

花壇の片隅では、緋色と群青の花が仲睦まじくそよ風に揺られている。
そう、まるであの写真の中で笑みを漏らす二人のように。

(二 綻びゆく絲 に続く)