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「エーヴィヒカイトが仮に敵としてお前のところに来たとしたとき、そんな仲が深い存在であるヤツを斬ることが本当にできるのか?」 それを言われたシュタムファータァは、怯えたようにビクっと体を軽く震わせ、下を向きうつむく。 「おい、椎名……」 「キツい言い方だとは思うが、今の切迫した状況で、いざという時に躊躇って俺たちが命を落とすことになったらどうする?」 椎名の言い分はわかる。理解できる。だが、この状況だからこそシュタムファータァのモチベーションを下げさせるのは得策じゃない。 「俺たちは、この少女に頼るしかないんだぞ。下手に気を使って傷つくのは俺たちだけじゃない。シュタムファータァもだ」 「……」 「だから、前もって決意をしておくのは当然だとは思わないか? 少なくとも、間違ったことを言ったとは思っていない」 ……たしかに、椎名の言っていることは間違っていない。正論だ。今ここでそれははっきりしておくべき問題であった。 だが、オレは椎名の言った言葉によってシュタムファータァが俯いたとき、思わず心が感情的になりそうになった。 「(情が、移ってきてるってのか)」 別にオレはシュタムファータァ自体は嫌いじゃない。だからと言って、別に友人でも何でもない。目的のために利害が一致しているだけだ。 シュタムファータァは揺籃を守りたい。オレは日常を守りたい。それが一致したから体を張って協力しているだけに過ぎない。 まぁ、イェーガーの前で言った通り、せっかくのこんな非日常に満ちた世界をもっと楽しみたいなんて思いもあるのだが。 「……大丈夫です、ヤスっちさん。心配しないでください」 シュタムファータァが顔を上げる。その表情は明らかに無理をしているのがわかったが、それを言うようなことはしなかった。 ここはシュタムファータァの言葉を待つ。オレが何か言うべきではないだろう。 「仮に、仮にエーヴィヒカイトが私たちの敵になってしまったそのときは……。私が、斬ります」 「……その言葉、信じていいんだな」 「っ……はい」 明らかにつらそうな彼女の表情。そりゃあそうだ。仮に今オレに自分の親がリーゼンゲシュレヒトだったから斬る覚悟をしろ、なんて言われてもできるはずがない。 でも、仮に言葉だけだったとしても、シュタムファータァは決断してくれた。 ならば、オレたちはそれに精一杯答えるだけだ。それが、今のなすべきことだろう。 「そうか、なら俺はシュタムファータァを信じる。……ちょっと待ってくれ、今、主将に連絡を取ってみる」 椎名はポケットから携帯を取り出す。……あれ、今ってもう1時間目の授業が始まってるよな?。 たぶん授業中に電話に出るなんてこと、あの真面目なハル姉がするとは思えないんだが……。 「……主将か?授業中だってのにすまない。 いや、すいません……。そんなことどうでもいいんだ、いや、いいんですが……」 電話に出たみたいだ。意外すぎる。あの人もそういうところがあったんだな……今も。 結構椎名の電話が難航しているみたいだ。ハル姉の性格を考えるとまぁ当然だろう。授業中に抜け出すなんてこと、あの人がそう簡単に許可するはずない。 「椎名さん、大丈夫でしょうか」 「どうだろうな……。今はアイツの交渉力に期待するしかないな」 オレはそう言ってシュタムファータァの頭に手を乗せる。……まぁ、労ってやることも必要だろ。 「ありがとうございます、ヤスっちさん……」 「……おう」 素直に礼を言ってくる。やっぱり、オレ以上に年上とは言ったって辛いものは辛いし、何よりまだまだ子供だ。オレたちと……同じで。 そうこうしている内に椎名の電話が終わったようだ。相当難航していたようだが、大丈夫だったんだろうか。 「なんとか、許可を取った。……ったく、もう少し融通を効かせてくれてもいいってのに」 椎名が愚痴を言うなんてまた珍しい。やっぱり色々と大変だったんだろう。 「じゃあさっそく今から行くか。足はどうする、タクシー呼ぶか」 「ご丁寧に向こうからお迎えを用意してくれるらしい。さすがにこの時間だから正門から堂々とってわけには行かないから、裏門に来てくれる手筈だ」 「じゃあ、行きましょうか」 3人で屋上の扉を出て、校舎内へと戻る。校舎内の方が若干ながら涼しかった。というか屋上はめちゃくちゃ暑かった。 誰も言いこそはしないが、暑かっただろうとは思う。ここに千尋か松尾がいれば暑い暑いと騒ぎ立てていたんだろうが、オレも椎名もシュタムファータァも、そんなキャラじゃない。 「いやー、しかし屋上は暑かったですねー……」 言ったよ、こいつ。 そんなかんなで先生に見つからずに裏門まで行くことができた。見つかったら見つかったで色々と面倒なことになっていただろうから、ラッキーだった。 外には黒塗りの車が一台。なんというか、あれだ。いかにもそれっぽい車で、地味に笑いがこみ上げてくる。 オレたちが車に近付くと、自動的に後ろのドアが開いた。 「お待ちしておりました、お客様」 「無理を言って申し訳ない。この前から迷惑を掛けっぱなしで、本当に恐縮です」 椎名が丁寧に謝罪する。やっぱりオレなんかより全然しっかりしている。学年でもトップクラスの成績だけはあるな。 「いえ、それが人助けならば我ら神守家。なんら苦ではありませんよ。さ、お乗りください」 「そう言っていただけるとこちらとしてもありがたいです。感謝します」 そう言って、椎名、オレ、シュタムファータァの順で車に乗り込む。車内はクーラーが行き届いていて、とても涼しかった。 『いやー、しかし高そうな車ですねー……それに運転手さんの発言も格好良かったですね……』 『まったくだ。まさしく金持ちの部下のそれって感じだったよな。テンプレ通りだが、実際に見るとこうも格好いいんだな』 シュタムファータァと念話で会話する。こういうときにも念話は便利だ。ファンタジー万歳だな。 いや……もうファンタジーじゃないか。こうして、今実際に自分が体験して、それがもう慣れてきてしまっているのだから。 「大体10分程度で着くはずだ。そこまで遠くはない」 やはり車だとそんなもんで着くよな。オレの家からだと結構かかるから、予想してたより大分早い。 窓から見える、流れるように過ぎ去っていく揺籃の景色。普段車に乗る機会が少ないからか、その風景はとても新鮮に見えた。 シュタムファータァも同じことを思っているのだろうか。窓の方を憂い気な表情で見つめていた。 『こうしてまた違う風に揺籃を見ると、やっぱり良い島なんだな……って思います』 『……そうだな』 子供みたいに無理したり、今みたいにどこか達観したような、大人びた表情を見せるシュタムファータァ。 オレはシュタムファータァの過去については知らないし、普通の家庭で幸せに過ごしてきたわけではないのは容易に予想がつく。 だから……オレより年上であっても、精神は成長してる段階なのだろう。オレたちと同じように。 どんなに非常識な出来事や、どんなに辛い出来事でもそれは必ず自分にとってのプラスになる。 そういった出来事を幾つも経験してきた人間のことを、大人と言うのだろう。 と言っても、オレみたいな高2の餓鬼が何悟ったようなことを言っているんだ、って感じだな。 『エーヴィヒカイト、協力してくれるといいな』 『……そうですね』 そうして互いに何もしゃべらず、そのまま時と風景は何事も無く過ぎ去っていった。 ちょうど10分くらいしたころだろうか。車がとある豪邸……神守家の本宅の前で止まった。 何故かはわからなかったが、時間がやけに長く感じた。やはり緊張からだろうか。 「ここって……」 「ああ、デカイだろ? ハル姉……神守遥先輩の家だ。っても、こっちは官邸の方だから、ハル姉が住んでるのは別宅の方だけどな」 「エーヴィヒカイトは、神守家に預けられていたんですか……?」 シュタムファータァの顔が強張っている。先程までの緊張した表情とかではなく、今の表情は驚愕という2文字の言葉で表すのが相応しいだろう。 「ああ、言ってなかったか? 病院以外で治療できる場所っていったら、俺はここしか知らなかったし、お願いすることのできる関係でもあったからな」 椎名がそう答えると、シュタムファータァはその表情のまま軽く下を向き、何かをボソボソと呟いた。 「……ディアリエント……いや、遥……だから、大丈夫ですよね……。ええ、大丈夫……」 「シュタムファータァ? 大丈夫か?」 シュタムファータァの顔の前で手をひらひらと振って、ようやくオレの方を向いた。 「あ、すいません大丈夫です。こんな豪邸を持ってるとこに泊めてもらって、エーヴィヒカイトの素性とか大丈夫なのかな、と不安になっただけです」 「まぁ、たしかに素性の知れない男の治療なんて……なぁ。っても、ここまで来ちまった以上は腹括るしかないぜ」 「はい、わかってます」 椎名が門の前にいた人物と会話し、しばらくすると本宅から一人の使用人らしき男の人が出てきた。 「エーヴィヒカイト、さすがに本宅に見知らぬ人間を泊めるわけにはいかなかったから、離れの方にいるらしい。案内してくれるそうだ、行こう」 本宅、別宅に離れまであるのか。なんというか、金持ちはすごいな……。そんな感想しか浮かんでこない。 ……ハル姉の部屋の大きさ、オレの数倍くらいありそうで怖い。 門を潜り、そのまま広大な庭を使用人の後に続いて歩き続けること、数分。 ドでかい本宅の奥にある和風建築の小さな家に着いた。……いや、それでもオレの家よりは大きいのだが……。 「この中だ。使用人の人は入らないで、俺たちだけでいいそうだ。中には誰もいないから、気兼ねなく喋ってくれていいらしい」 「わかりました」 扉を椎名が開け入り、オレたちもそのあとに続いて入り、シュタムファータァが扉を閉める。 玄関も立派な作りになっていて、なんというか、庶民には場違いな雰囲気しかしない。 椎名の後に続いて、廊下を歩いてさほどしない内に、1つの襖の前で止まる。 「……この部屋だ」 部屋の奥からは何も感じることはない。……まぁ、当然か。オレが知覚できる"セカイ"なんてシュタムファータァの物くらいなのだから。 「シュタムファータァ、お前が一番最初に入った方がいい」 「ありがとうございます。それでは……お言葉に甘えて、失礼します」 シュタムファータァが襖をゆっくりと開け、中に入る。オレはそれを、後ろから見守っていた。 襖の向こうには、立派な和室が広がっており、その真ん中に布団が1つ。 そして、そこで上体だけ起こしている人物……。肩まで伸びる金髪に、誰もが目を引くような整った顔立ち。上体だけでわかる高い身長に、服の上からでもわかる引き締まった筋肉。 この人が……リーゼンゲシュレヒト・エーヴィヒカイト……! 「お前……シュタムファ」 「動かないでください!」 エーヴィヒカイトが何かを口にした瞬間、シュタムファータァがエーヴィヒカイトに向けて声を上げる。 オレと椎名も、そしてエーヴィヒカイトも……シュタムファータァの突然の行動に驚きの表情を隠せなかった。 「おい、シュタムファータァ!?」 「答えてくださいエーヴィヒカイト! 貴方はどうしてここに来たんですか? 返答によっては、いくら貴方でも、私は……!」 肩を震わせながらも、エーヴィヒカイトに向けて凛とした声を上げて警告する彼女の背中は、いつもよりなぜか余計に小さく見えた。 きっと、来る前の椎名の言葉に対しての返答の通りにしたのだ。深く……考えすぎたのだろう。 エーヴィヒカイトはそんなシュタムファータァに対して驚いた表情を見せていたが、やがてゆっくりと目を閉じて、穏やかな表情を見せて口を開いた。 「……安心しろシュタムファータァ。オレが今まで、お前の敵になったことが一回でもあったか? 常に、お前の味方だよ、オレは」 優しく、シュタムファータァを心から心配し、安心させようとするエーヴィヒカイトの言葉。オレは……それが嘘だとはどうしても思えなかった。 シュタムファータァはエーヴィヒカイトに向けていた警戒心をゆっくりと解いて……そして、エーヴィヒカイトの胸に思い切り飛び込んだ。 「痛ッ!お、おいシュタムファータァ!?」 「……ほんとうに、本当に味方、なんですか?」 手を震わせながら、エーヴィヒカイトの服をギュっと握り締めるシュタムファータァ。そんな彼女の背中にゆっくりと手を当てるエーヴィヒカイト。 「ああ。話を聞いて、お前を助けに来た。っても、遅くなった上に、こんな体たらくじゃあ頼りないにもほどがあるけどな」 「うっ、助けに、来て……?」 「ああ。お前のおかげでようやく行動を起こせた。……今まで、よく一人で頑張ったな」 エーヴィヒカイトのその言葉をきっかけに、今まで、溜めに溜まっていた、シュタムファータァの感情が涙となって溢れ出た。 「うっ、うわあああああああん!エーヴィヒカイト!エーヴィヒカイト……!」 エーヴィヒカイトの胸に顔を押し付け、ひたすら泣き続けるシュタムファータァ。 今までセカイの意志に反旗を翻してから、本当に心から頼れる人間というのがいなかった。 もちろんオレという存在はいたが、あくまでパートナー。よくて友達程度の関係の存在だった。 だから今、シュタムファータァが頼れる保護者……家族とも呼べる存在の人間に出会えて、今まで無理をして抑えてきたものが溢れ出たのだろう。 「お前としては、複雑な気分か?」 隣りに立ってこの光景を見ていた椎名が、オレに対して問いかけてくる。 「……さすがにそこまで性格悪くないぜ」 むしろ今のオレの気分は非常に清々しかった。2つの懸念が綺麗に晴れたのだから。 1つはエーヴィヒカイトの問題。そしてもう1つは、シュタムファータァのメンタル面。 オレは友人や戦友、パートナーにはなれても、保護者や家族になどなれやしないのだから。 「どうやら、俺の懸念してた問題は杞憂で終わったみたいだな」 「ああ、……本当、良かったよ」 ここに、オレとシュタムファータァという少ない反攻グループに、強力な味方が1人増えた。……いや、2人……なのかな。 「リーゼンゲシュレヒト・ヴァイスにシュヴァルツか。"ケッツァ"であることは知っているが、能力などについてはすまない、オレは知っていない」 とりあえずシュタムファータァが泣き止むまで待って、10分後、ようやく落ち着いたシュタムファータァと一緒にエーヴィヒカイトに今の状況を説明する。 「そうですか、エーヴィヒカイトであっても知らないなんて……」 何か参考になるかもしれないのでエーヴィヒカイトにあの2人について聞いてみたのだが、真新しい情報は仕入れることが出来なかった。 「あの2人は"ヴィオツィーレン"という非常に強力なリーゼンゲシュレヒトの傘下……というか、持ち駒でな。あまり他と関わることはしなかった。  任務を受けたという話も今まで聞いたことがなかったくらいの存在だ。正直、今こうして矢面に立っていることに驚いてるよ」   オレたちが暗い顔をしていると、エーヴィヒカイトは少し表情を明るくした。 「と言ってもそんな強力な能力ではないと思うぞ。そんな能力を持っていたらさすがにそう隠しきれ無いだろう。それに、戦ってみてイェーガーよりは弱かったんだろう?」 「そうは言われてもな。あの長距離射撃は厄介だぜ。こっちは接近戦しかできないんだ。尚且つ相手は2人。やりにくい相手だ」 だからこうして今苦戦して、オレが必死になって作戦を考えている必要があるのだ。そう簡単に行ったら苦労はしない。 「なぁ、エーヴィヒカイト。あんたが一緒に戦ってくれることってのは、やっぱりできないのか?」 シュタムファータァがあれだけ強力強力と言っていたリーゼンゲシュレヒトだ。強力してくれればアイツ等なんて敵ではないだろう……きっと。 だが、オレの言葉に対してエーヴィヒカイトは顔を歪めてしまった。 「非常に心苦しいんだが、今のオレの力は皆無に等しい。正直に言えば、リーゼンゲシュレヒトとしての力はほとんど使うことができない状態だ」 「マジかよ……」 オレはエーヴィヒカイトという最強クラスのリーゼンゲシュレヒトが味方になってくれれば、戦況は一片し、一気に事態は好転すると思っていた。 だが、今のエーヴィヒカイトの力は皆無と聞いて、正直落胆を隠しきれ無かった。 「一体何があったんですか?」 「ナハト……アイツに不意を突かれたとはいえ、一撃で真正面からバッサリと斬られてしまってな。普通の傷ならそれこそ重傷でも一週間程度で完治するのだが、  どうやら、ナハトの剣は特別性らしい。傷の治りが非常に遅い。戦えるようになるまで一ヶ月はかかってしまうだろう」   リーゼンゲシュレヒト・ナハト……。あのとき一度だけ会った、漆黒の騎士のリーゼンゲシュレヒトか。たしかアイツも"エクスツェントリシュ"だったよな。 あのとき感じたアイツの力はただの人間のオレでも感じてしまうほど、とても強い力を持っていた。 エーヴィヒカイトでも、勝てない相手なのか? 「すまない。結局偉そうなことを言っておいて、今のオレでは何の力にもなれない……」 エーヴィヒカイトが深く頭を下げる。 「……やっぱ、そう簡単に状況が逆転するわけもないか」 いくら強力な味方ができたとしても、どうやら今回のことは自分たちで片付けなければいけないらしい。 とは言ってもまったくもって無駄だったわけではない。情報は武器になる。 ……そういや、ハーゼとかって今はどうしているんだろうな。 「エーヴィヒカイトはそのまま傷を治すことに集中していてください。今回も、私たちがなんとかしてみます」 「……私たち、か。どうやら、安田俊明。君はかなり信頼されているんだな」 「信頼されてなきゃ、一緒に戦ってなんていけないだろ」 オレがそう言うと、シュタムファータァが感動したような表情でこちらを見ていた。 「ヤスっちさん……」 「つか、そんなこと今はどうでもいいだろ。今は、アイツ等にどう勝つか考えねぇと」 妙に気恥ずかしくなったので、顔を逸らしてオレはそう言った。 「安田、現状の問題点をあげてくれ」 「ああ。問題は1つ。相手の狙撃者をどう倒すか、だ。狙撃さえなくしてしまえば、オレたちは負けない」 ガチンコ同士なら2対1でもこっちの方が上なのはこの前の戦闘でわかった。 つまり、狙撃者をいかんにして倒すか、が一番の大きな問題なのだ。こちらに射撃武器はないのだから。 「解決法としては2つ。気付かれずに狙撃者に接近して打ち倒すか、狙撃が出来ない場所で戦うか……だ」 「相手は感知能力に長けた"ラングオーア"だ。狙撃が出来ない場所で戦う方が現実的な案かと、私は思うんですけど」 「だが、この揺藍にそんな場所があるかと言われれば、難しいな」 椎名がそう言う。たしかにその通り、数メートルの巨人同士が暴れられる室内など、そんなのあるわけがない。 「だから、オレが考えてるのは"いかに気付かれずに狙撃者に接近するか"だ」 「そんな、相手はラングオーアですよ? それこそ難しいんじゃないですか?」 シュタムファータァがそう言うが、既にそれに対する答えは彼女自身が言った言葉から得ていた。 「"お前の能力"を使えば、不可能じゃない」 「"0の意識"状態か……!」 エーヴィヒカイトが合点がいったかのように言う。 そう、シュタムファータァの能力をいかに上手く使うかが、勝利の鍵となる。 「シュヴァルツにわざと狙撃させて、シュタムファータァを狙撃場所まで移動し、打ち倒す。それが勝てる方法だ」 「なんだ、しっかりと思いついてたんじゃないですか、ヤスっちさん!」 安心したような表情をシュタムファータァが見せる。が、椎名とエーヴィヒカイトは違い、難しい顔をしている。。 どうやら、二人ともこの作戦の大きな問題点に気付いてるようだった。 「問題は、いかに"同じ場所で狙撃を続けさせる"か、だな……」 「それとヴァイスを引きつけ続ける必要もある。だからこの作戦は没にしてた……だけど」 オレとシュタムファータァだけでこの作戦を実行するのは無理だった。 だが、今のオレたちには仲間がいる。 「椎名、オレに協力してくれ。お前が助けてくれれば、きっと勝てる」 「策が、あるんだな」 椎名が真剣な表情でこっちを見つめる。オレは、その視線を真っ正面から見返して頷いた。 「シュタムファータァ、たしか"固有兵装"ってのはどんな形でも作れるんだよな?」 「ええ……まぁ。斧でも槍でも銃でも、イメージできる物であれば理論上はどんな物でも作れますよ」 よし。これで必要な条件は全て揃った。あとは、誘い出すだけ。 「ならOKだ。アイツ等から攻めてきたらこの作戦はパーになる。こっちから打ってでるぞ」 「どうする気だ、安田」 「とりあえず学校に戻る。シュタムファータァ、お前も来い。それと椎名は松尾に連絡取っておいてくれ」 この作戦には松尾の協力も必要だ。ま、アイツなら特に話さなくても協力してくれるだろう。・・・・・・バカだし。 「すまない、シュタムファータァを頼む」 エーヴィヒカイトがこちらに対して頭を下げる。だが、それはできないというもの。 「違うだろ。逆に……シュタムファータァ。揺藍を、頼むぜ」 「はい、ヤスっちさん!」 力強く頷いたシュタムファータァ。その言葉は、何よりも信頼できる。 そうしてオレたちは、離れを後にし、再び学校へと向かった。

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