「<9,決戦>」(2009/09/25 (金) 02:11:59) の最新版変更点
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「こちらショウイチ・マーチマン。応答願います」
「ファースト、定位置に着いた。どうぞ」
「セカンドも同じく」
「サード、準備万端だ」
「フォース、いつでも……つっても奴が来ないとしょうがないが」
「すまないショウイチ君、ちょっと良いかな」
「どうしました? ギーシュさん」
「リールがどうしても戦えないって、腹痛が止まらないっていうんだ。悪いがリールをあっちに行かせていいか?」
「ん~・・・・・・ギーシュさんは一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫! だってこいつは命令どおりに動くんだろ? 確かに火を入れるのは一人じゃ大変だが、ま、何とかなるぜ。じゃ、互いの健闘を祈る」
<9,決戦>
通信機を切り、ショウイチは改めて自らが組み立てた作戦を思い起こす。
大型自動人形をタウエルンを使い、ギリギリまで寄せ付ける。そしてブラックキューブの搭載箇所に黒騎士にぶつけ、搭乗しているであろうシュワルツを疲弊させる。
そして一気にコックピット部分まで押し切り、シュワルツを捕らえると共にブラックキューブを破壊する。これで一先ず・・・・・・。
・・・・・・どうなのだろう。ギーシュの意向を組んで考えてみたが、どことなく不安要素が多い。しかしそれはタウエルンさえうまく動けばカバーできる。
一番危惧していることは・・・・・・あぁ、くそっ。ショウイチは思わず髪の毛をばさばさと思いっきり掻いた。人に助言しておいてこの様かと情けなくなる。
「ショウイチ、見えたよ。例のが」
タウエルンに呼ばれ、ショウイチは持っていた双眼鏡を覗き込む。ずっと先にこちらに向かってゆっくりと前進していく大きな影が見えた。
そのシルエットは巨大な蛇、いや、アナコンダだ。排気口だろうか、両端に巨大なエラを広げながら前進していく様は異様な威圧感を感じさせる。
ショウイチは双眼鏡を下ろすと、タウエルンに力強く飛び乗った。タウエルンが粒子を焚きつけ、蛇――――ダルナスへと飛んでいく。
モニター上に反応が奔る。シュワルツはその反応に気づき、無意識に操縦桿を握った。
見られる反応は1機。複数のロックオンサイトが捕らえたそれは、まさかの緑の自動人形だった。ダルナスに向かって全速力で低空飛行してくる。
思わずシュワルツの口元から笑みがこぼれる。自ら死にに来たのかそれとも命乞いか・・・・・・。
明らかに前者だ。緑の自動人形――――タウエルンはダルナスに向かって右腕を掲げると、収納状態のウエハース状小型ソーラーキャノンを取り出す。
牽制として一発、二発と打ち込むが、やはり大型自動人形の装甲は伊達ではない。放たれたビームはいとも簡単に弾かれる。
タウエルンは回り込みながら、ブラックキューブ、およびシュワルツがいるであろうコックピット部分を詮索する。
「遊んでいるのなら心外だな。こっちは本気なのでね」
シュワルツがタウエルンの動きに若干呆れた口調でそう言う。同時にダルナスから頂点の蛇の頭を象ったパーツから、舌を思わせる極太のチェーンが数本飛び出す。
先に鋭利な高周波ブレードが具わったチェーンは、伸縮自在にタウエルンを右へ左へと攻撃する。ブレードの刃は空気中で震え、常にタウエルンを寸で斬ろうと伸びる。
その攻撃は熾烈であり、タウエルンに隙を与えない。その合間にも、ダルナスは村へと移動する。
「どうしよう、ショウイチ。結構きついよ」
「タウ、こういう時はどう行動するか、教えたはずだぞ」
背中にいるショウイチにアドバイスを乞いたタウエルンは、ショウイチの返答に呼応するかの如くダルナスの真正面へと全速で滑り込む。
チェーンが一度、蛇の頭まで縮むと一斉にタウエルンに向かって伸びてきた。集束された高周波ブレードが今にも突き刺さんと迫る。
瞬間、タウエルンは全身の力を使って空中へと飛んだ。チェーンが勢いのあまり、そのまま地面に突き刺さる。
突き刺さったチェーン目掛け、タウエルンはそのまま着地した。野太い音を出してチェーンが分断される。
ついでに、分断されたことで引き剥がされた高周波ブレードを思いっきり?ぎ取る。もはや高周波としての機能は無いが、十分切れ味は鋭い。
ブレードを脇に収納し、ショウイチの掛け声と共にタウエルンは瞬間的にトラクターに変形してまっすぐ疾走する。
「ふむ、さすがにこの程度ではね」
小さく拍手しながら、シュワルツはそう呟いた。ロックオンサイトはタウエルンを逃さず捕捉し続ける。
「少し早い気もしますが、どうせなら楽に死なせてあげましょう」
タウエルンを目標に入れたまま、ダルナスの「顔」が大きく口を開ける。口には黒く眩い光が集束し、そして。
「タウ! トランスだ!」
ショウイチが叫びながらタウエルンから急いで側方へと飛び降りる。同時にタウエルンが人型へと変形し、ショウイチを守るように受身を取る。
ほとんど紙一重、タウエルンの横を、光速で黒色の太いレーザーがよぎる。レーザーは地面に深々と深い溝を作っていた。
「やっぱいつでも慣れないな、こりゃ・・・・・・いくぞ、タウ!」
再びトラクターに変形し、ショウイチとタウエルンは村の中を疾走する。傍目から見ると、ダルナスから逃げているようだ。
実際、シュワルツにはそう見える。しかし不思議ではない。どんな強力な自動人形でも、威力・防御能力・そしてサイズにおいてに大型自動人形とはダンチだ。
「何をしているんです。第二弾を発射しなさい」
数分後、エネルギーを再充填したダルナスはタウエルンに向けて、レーザー砲を発射する。
タウエルンに向けて放たれたそれは、人々の家を、自然を無慈悲に破壊しつくす。まるで波に掻き消される砂の城の様に。
迫りくるレーザーから、必死にタウエルンとショウイチは駆け巡る。レーザーは甚振るようにゆっくりとしたスピードでタウエルンに迫る。
「・・・・・・ショウイチ」
「今は耐えろ、タウ。奴をあの場所まで誘い込むんだ」
やがて発射しすぎたのか、次第にレーザーの勢いが弱まっていき、煙のように消えていった。
タウエルンは村の路地へと変形しながら滑り込む。無論今の行動も、ダルナスは捉え続けている。
「む、逃げ込みましたか。まぁ、普通に考えて勝てるわけがありませんからね」
路地に逃げ込まれた事と、既に日が落ち、真っ暗闇な為、先ほどの様にタウエルンの姿が見えない。
しかし問題は無い。自然に「顔」の目がライトを作動させる。反映されるまで数秒掛かったが、モニターにその様子が映し出された。
路地には壁に背を着けているタウエルンと、その横で肩を上下するショウイチが見える。
「んっふ・・・・・・」
シュワルツがその光景に厭らしく舌なめずりする。このままレーザーで殺してしまえば早いが、それでは興が無い。
ダルナスをゆっくりと動かし、シュワルツは路地裏まで近づいていく。その途中で家など人々の居住区を踏み潰していくが、シュワルツは気にも留めない。
「あの時は期待しましたが、所詮はただのネズミですね。ガッカリです」
そう言いながら、シュワルツはタウエルンに向かって「目」を使いモニターをズームさせる。確かにタウエルンが・・・・・・。
だが、ここでシュワルツは妙な違和感を覚える。確かにモニターにはタウエルンが映っているが、どこか妙だ。
違和感は次第に膨らんできて、やがて確信として固まる。先ほどからタウエルンとショウイチの動きがまったく揺るがないのだ。
「・・・・・・くそっ!ホログラムか!」
「今だ!」
ショウイチが叫んだ瞬間、ダルナスの「顔」に向けて黒騎士が槍を構えて特攻する。そのまま槍は顔に突き刺さり、黒騎士は爆散する。
「次!」
続くように、潜伏していたギーシュの仲間――――セカンドが行動に移る。一人が黒騎士に巻かれたダイナマイトに火を点け、もう一人がダルナスの「顔」に向けて指を指す。
ダルナスに向けて特攻した二体の黒騎士は、ダルナスの「顔」に向けて攻撃した。左右より加えられた攻撃で、「顔」の目と鼻の外装がガタガタと揺らいでいる。
間髪入れず、サードとフォースが黒騎士をダルナスに向けて放つ。「顔」の口の外装に槍と爆発による攻撃が与えられ、今にも落ちそうなほど外装に深いダメージが入る。
ショウイチはタウエルンにある命令を下してその場から離れると、先ほどタウエルンに被せた、路地に入る黒騎士へと奔った。
「ふ、ふふ・・・・・・慢心か。私自身の」
突然の奇襲に、完全に裏を掻かれたシュワルツが自虐気味に嘲笑する。「顔」には予想外のダメージが下ったらしく、モニターが白黒となりまともに動かない。
操縦席の周囲から火花が散る。しかしまだ重要な機能は死んでいない。ブラックキューブもレーザー砲も。
シュワルツはメガネをはずしてモニターを自らの手で停止すると、赤外線スコープを目に装備し、操縦桿を操作して手動モードへと切り替えた。
その時、突如として天井に凄ましい勢いで揺れていた外装が弧を描くように切り刻まれ、その合間から無機質な機会の手がギリギリと入り込む。
シュワルツが驚き見上げるが、既にその手は中まで入り込み、渾身の力で外装ごと弾け飛ばした。目と鼻の部分が完全に露出し、コックピット部が露になる。
粒子を排気口より噴出しながら外装を剥ぎ取ったタウエルンは、その粒子で目と鼻の部分の機能をナノマシンにより停止させる。
ナノマシンが降りかかった機械部分は、錆のように赤く侵食されていく。タウエルンが着地すると、機械部分は簡単に粉砕した。
ゆっくりと粒子を収束させながら、タウエルンは操縦桿を握るシュワルツに向かう。
「見つけたぞ、シュワルツ・デイト。お前を倒す。トニーさんと、村人の為に」
「すげぇ……」
遠方で起こっているダルナスとタウエルン、そしてギーシュ達の戦いを呆然とマイルは見つめている。
意気込んで町に戻ってきたものの、ダルナスの迫力に完全に腰が抜けてしまった。おまけにダルナスから放たれた光線が町を破壊するのを見て動けなくなった。
やはり自分は無力だった。マイルは心の底から実感する。もしかしたら自分はあの人に――――ショウイチに憧れているだけだったんだ。
ギーシュの言葉が頭の中で反芻する。生きることを考える……それだけで良いんだ。俺に出来ることは……。
「マイル君!」
誰かに呼びかけられ、マイルは声が聞こえた方向に顔を向けた。必死な形相でマイルの元へと走ってくるトニーが見えた。
息を整えながら、トニーはしゃがんでいるマイルに手をさしのばす。マイルの涙腺に何かが込み上げてくる。
「……トニー、さん」
「……帰ろう。君の家族が心配してる」
じりじりとシュワルツに近寄るタウエルンに、シュワルツはなぜだか大声で笑い出した。その声には不気味なほどの自信がある。
笑いながらシュワルツはタウエルンに話しかける。
「思い出した……思い出したぞ、緑の自動人形、いや……タウエルン!」
「……なんで僕の名前を知っている?」
「何故? 何故だと思う? 私は元帝国軍人だ。ちょっとした役職に就いていてね。君がその姿になる前の事を知っているんだ。確か……アルタイルだったかな」
その時、タウエルンは無意識に小型ソーラーキャノンをシュワルツに向けていた。何故だかは、タウエルン自身も分からない。分からないが……。
「……違う。僕はアルタイルなんかじゃない。僕はタウエルンだ。ショウイチと旅をする農業型マシン、タウエルンだ」
「ははっ、世界を混乱に陥れた殺戮兵器が世界を救う? 下らないな、実にナンセンスだ」
「貴様!」
爆発音がして、コックピットが大きく揺れる。地上に巨大な物体が落ちる音が響く。恐らく口の部分の外装だろう。
軽快なフットワークで何者かが目と口の部分まで昇ってくる。やがてコックピット部に到着し、赤シャツにライフルを肩に掲げたその青年はシュワルツを見るとにっと笑った。
「タウ、そいつを倒すのは俺の役目だ。良く頑張ったな」
「ショウイチ!」
ショウイチに気づき振り向いた途端、タウエルンはその場にガクンと膝から落ちた。ショウイチはあせって駆け寄る。
「おい、お前まさか粒子……」
「ごめん、ショウイチ、さっきので力、ちょっと使い切っちゃったみたい……」
「ほう、君がショウイチ・マーチマンか。思ったよりずっと若いんだな」
意外そうにシュワルツがショウイチに声を掛ける。ショウイチはタウエルンを気遣いながら、シュワルツに顔を向けて皮肉そうな笑みを浮かべて言う。
「俺も思ったより悪人面でよかったと思うよ。ぶっ飛ばすのにまったく遠慮がなさそうだ」
ショウイチの言葉にシュワルツは掌で目を覆い苦笑すると、操縦桿の上で手を浮かしている。
「悪態を附くのは構わないが、私にはまだダルナスがあることを忘れてもらっては困るな。今だって操縦桿に掌を載せればすぐにレーザーを撃てる」
ショウイチは即座にライフルを構えるが、シュワルツは笑みを浮かべたままだ。
「ちなみに目標は……あぁ、あれは確かトニーとか言う男だ。それと名前が浮かばない子供だ。どっちにしろ取るに足らない命だ」
「トニー……だと?」
ショウイチは自分が感じていた不安が的中してしまったことに舌を打つ。薄々感じてはいたが、何も対策を打たなかった。明らかに自分のミスだ。
「そうだ。言っておくが私のどこを撃っても私は手を乗せるぞ? さぁ、どうする? ヒーロー君」
「こちらショウイチ・マーチマン。応答願います」
「ファースト、定位置に着いた。どうぞ」
「セカンドも同じく」
「サード、準備万端だ」
「フォース、いつでも……つっても奴が来ないとしょうがないが」
「すまないショウイチ君、ちょっと良いかな」
「どうしました? ギーシュさん」
「リールがどうしても戦えないって、腹痛が止まらないっていうんだ。悪いがリールをあっちに行かせていいか?」
「ん~・・・・・・ギーシュさんは一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫! だってこいつは命令どおりに動くんだろ? 確かに火を入れるのは一人じゃ大変だが、ま、何とかなるぜ。じゃ、互いの健闘を祈る」
<9,決戦>
通信機を切り、ショウイチは改めて自らが組み立てた作戦を思い起こす。
大型自動人形をタウエルンを使い、ギリギリまで寄せ付ける。そしてブラックキューブの搭載箇所に黒騎士にぶつけ、搭乗しているであろうシュワルツを疲弊させる。
そして一気にコックピット部分まで押し切り、シュワルツを捕らえると共にブラックキューブを破壊する。これで一先ず・・・・・・。
・・・・・・どうなのだろう。ギーシュの意向を組んで考えてみたが、どことなく不安要素が多い。しかしそれはタウエルンさえうまく動けばカバーできる。
一番危惧していることは・・・・・・あぁ、くそっ。ショウイチは思わず髪の毛をばさばさと思いっきり掻いた。人に助言しておいてこの様かと情けなくなる。
「ショウイチ、見えたよ。例のが」
タウエルンに呼ばれ、ショウイチは持っていた双眼鏡を覗き込む。ずっと先にこちらに向かってゆっくりと前進していく大きな影が見えた。
そのシルエットは巨大な蛇、いや、アナコンダだ。排気口だろうか、両端に巨大なエラを広げながら前進していく様は異様な威圧感を感じさせる。
ショウイチは双眼鏡を下ろすと、タウエルンに力強く飛び乗った。タウエルンが粒子を焚きつけ、蛇――――ダルナスへと飛んでいく。
モニター上に反応が奔る。シュワルツはその反応に気づき、無意識に操縦桿を握った。
見られる反応は1機。複数のロックオンサイトが捕らえたそれは、まさかの緑の自動人形だった。ダルナスに向かって全速力で低空飛行してくる。
思わずシュワルツの口元から笑みがこぼれる。自ら死にに来たのかそれとも命乞いか・・・・・・。
明らかに前者だ。緑の自動人形――――タウエルンはダルナスに向かって右腕を掲げると、収納状態のウエハース状小型ソーラーキャノンを取り出す。
牽制として一発、二発と打ち込むが、やはり大型自動人形の装甲は伊達ではない。放たれたビームはいとも簡単に弾かれる。
タウエルンは回り込みながら、ブラックキューブ、およびシュワルツがいるであろうコックピット部分を詮索する。
「遊んでいるのなら心外だな。こっちは本気なのでね」
シュワルツがタウエルンの動きに若干呆れた口調でそう言う。同時にダルナスから頂点の蛇の頭を象ったパーツから、舌を思わせる極太のチェーンが数本飛び出す。
先に鋭利な高周波ブレードが具わったチェーンは、伸縮自在にタウエルンを右へ左へと攻撃する。ブレードの刃は空気中で震え、常にタウエルンを寸で斬ろうと伸びる。
その攻撃は熾烈であり、タウエルンに隙を与えない。その合間にも、ダルナスは村へと移動する。
「どうしよう、ショウイチ。結構きついよ」
「タウ、こういう時はどう行動するか、教えたはずだぞ」
背中にいるショウイチにアドバイスを乞いたタウエルンは、ショウイチの返答に呼応するかの如くダルナスの真正面へと全速で滑り込む。
チェーンが一度、蛇の頭まで縮むと一斉にタウエルンに向かって伸びてきた。集束された高周波ブレードが今にも突き刺さんと迫る。
瞬間、タウエルンは全身の力を使って空中へと飛んだ。チェーンが勢いのあまり、そのまま地面に突き刺さる。
突き刺さったチェーン目掛け、タウエルンはそのまま着地した。野太い音を出してチェーンが分断される。
ついでに、分断されたことで引き剥がされた高周波ブレードを思いっきり?ぎ取る。もはや高周波としての機能は無いが、十分切れ味は鋭い。
ブレードを脇に収納し、ショウイチの掛け声と共にタウエルンは瞬間的にトラクターに変形してまっすぐ疾走する。
「ふむ、さすがにこの程度ではね」
小さく拍手しながら、シュワルツはそう呟いた。ロックオンサイトはタウエルンを逃さず捕捉し続ける。
「少し早い気もしますが、どうせなら楽に死なせてあげましょう」
タウエルンを目標に入れたまま、ダルナスの「顔」が大きく口を開ける。口には黒く眩い光が集束し、そして。
「タウ! トランスだ!」
ショウイチが叫びながらタウエルンから急いで側方へと飛び降りる。同時にタウエルンが人型へと変形し、ショウイチを守るように受身を取る。
ほとんど紙一重、タウエルンの横を、光速で黒色の太いレーザーがよぎる。レーザーは地面に深々と深い溝を作っていた。
「やっぱいつでも慣れないな、こりゃ・・・・・・いくぞ、タウ!」
再びトラクターに変形し、ショウイチとタウエルンは村の中を疾走する。傍目から見ると、ダルナスから逃げているようだ。
実際、シュワルツにはそう見える。しかし不思議ではない。どんな強力な自動人形でも、威力・防御能力・そしてサイズにおいてに大型自動人形とはダンチだ。
「何をしているんです。第二弾を発射しなさい」
数分後、エネルギーを再充填したダルナスはタウエルンに向けて、レーザー砲を発射する。
タウエルンに向けて放たれたそれは、人々の家を、自然を無慈悲に破壊しつくす。まるで波に掻き消される砂の城の様に。
迫りくるレーザーから、必死にタウエルンとショウイチは駆け巡る。レーザーは甚振るようにゆっくりとしたスピードでタウエルンに迫る。
「・・・・・・ショウイチ」
「今は耐えろ、タウ。奴をあの場所まで誘い込むんだ」
やがて発射しすぎたのか、次第にレーザーの勢いが弱まっていき、煙のように消えていった。
タウエルンは村の路地へと変形しながら滑り込む。無論今の行動も、ダルナスは捉え続けている。
「む、逃げ込みましたか。まぁ、普通に考えて勝てるわけがありませんからね」
路地に逃げ込まれた事と、既に日が落ち、真っ暗闇な為、先ほどの様にタウエルンの姿が見えない。
しかし問題は無い。自然に「顔」の目がライトを作動させる。反映されるまで数秒掛かったが、モニターにその様子が映し出された。
路地には壁に背を着けているタウエルンと、その横で肩を上下するショウイチが見える。
「んっふ・・・・・・」
シュワルツがその光景に厭らしく舌なめずりする。このままレーザーで殺してしまえば早いが、それでは興が無い。
ダルナスをゆっくりと動かし、シュワルツは路地裏まで近づいていく。その途中で家など人々の居住区を踏み潰していくが、シュワルツは気にも留めない。
「あの時は期待しましたが、所詮はただのネズミですね。ガッカリです」
そう言いながら、シュワルツはタウエルンに向かって「目」を使いモニターをズームさせる。確かにタウエルンが・・・・・・。
だが、ここでシュワルツは妙な違和感を覚える。確かにモニターにはタウエルンが映っているが、どこか妙だ。
違和感は次第に膨らんできて、やがて確信として固まる。先ほどからタウエルンとショウイチの動きがまったく揺るがないのだ。
「・・・・・・くそっ!ホログラムか!」
「今だ!」
ショウイチが叫んだ瞬間、ダルナスの「顔」に向けて黒騎士が槍を構えて特攻する。そのまま槍は顔に突き刺さり、黒騎士は爆散する。
「次!」
続くように、潜伏していたギーシュの仲間――――セカンドが行動に移る。一人が黒騎士に巻かれたダイナマイトに火を点け、もう一人がダルナスの「顔」に向けて指を指す。
ダルナスに向けて特攻した二体の黒騎士は、ダルナスの「顔」に向けて攻撃した。左右より加えられた攻撃で、「顔」の目と鼻の外装がガタガタと揺らいでいる。
間髪入れず、サードとフォースが黒騎士をダルナスに向けて放つ。「顔」の口の外装に槍と爆発による攻撃が与えられ、今にも落ちそうなほど外装に深いダメージが入る。
ショウイチはタウエルンにある命令を下してその場から離れると、先ほどタウエルンに被せた、路地に入る黒騎士へと奔った。
「ふ、ふふ・・・・・・慢心か。私自身の」
突然の奇襲に、完全に裏を掻かれたシュワルツが自虐気味に嘲笑する。「顔」には予想外のダメージが下ったらしく、モニターが白黒となりまともに動かない。
操縦席の周囲から火花が散る。しかしまだ重要な機能は死んでいない。ブラックキューブもレーザー砲も。
シュワルツはメガネをはずしてモニターを自らの手で停止すると、赤外線スコープを目に装備し、操縦桿を操作して手動モードへと切り替えた。
その時、突如として天井に凄ましい勢いで揺れていた外装が弧を描くように切り刻まれ、その合間から無機質な機会の手がギリギリと入り込む。
シュワルツが驚き見上げるが、既にその手は中まで入り込み、渾身の力で外装ごと弾け飛ばした。目と鼻の部分が完全に露出し、コックピット部が露になる。
粒子を排気口より噴出しながら外装を剥ぎ取ったタウエルンは、その粒子で目と鼻の部分の機能をナノマシンにより停止させる。
ナノマシンが降りかかった機械部分は、錆のように赤く侵食されていく。タウエルンが着地すると、機械部分は簡単に粉砕した。
ゆっくりと粒子を収束させながら、タウエルンは操縦桿を握るシュワルツに向かう。
「見つけたぞ、シュワルツ・デイト。お前を倒す。トニーさんと、村人の為に」
「すげぇ……」
遠方で起こっているダルナスとタウエルン、そしてギーシュ達の戦いを呆然とマイルは見つめている。
意気込んで町に戻ってきたものの、ダルナスの迫力に完全に腰が抜けてしまった。おまけにダルナスから放たれた光線が町を破壊するのを見て動けなくなった。
やはり自分は無力だった。マイルは心の底から実感する。もしかしたら自分はあの人に――――ショウイチに憧れているだけだったんだ。
ギーシュの言葉が頭の中で反芻する。生きることを考える……それだけで良いんだ。俺に出来ることは……。
「マイル君!」
誰かに呼びかけられ、マイルは声が聞こえた方向に顔を向けた。必死な形相でマイルの元へと走ってくるトニーが見えた。
息を整えながら、トニーはしゃがんでいるマイルに手をさしのばす。マイルの涙腺に何かが込み上げてくる。
「……トニー、さん」
「……帰ろう。君の家族が心配してる」
じりじりとシュワルツに近寄るタウエルンに、シュワルツはなぜだか大声で笑い出した。その声には不気味なほどの自信がある。
笑いながらシュワルツはタウエルンに話しかける。
「思い出した……思い出したぞ、緑の自動人形、いや……タウエルン!」
「……なんで僕の名前を知っている?」
「何故? 何故だと思う? 私は元帝国軍人だ。ちょっとした役職に就いていてね。君がその姿になる前の事を知っているんだ。確か……アルタイルだったかな」
その時、タウエルンは無意識に小型ソーラーキャノンをシュワルツに向けていた。何故だかは、タウエルン自身も分からない。分からないが……。
「……違う。僕はアルタイルなんかじゃない。僕はタウエルンだ。ショウイチと旅をする農業型マシン、タウエルンだ」
「ははっ、世界を混乱に陥れた殺戮兵器が世界を救う? 下らないな、実にナンセンスだ」
「貴様!」
爆発音がして、コックピットが大きく揺れる。地上に巨大な物体が落ちる音が響く。恐らく口の部分の外装だろう。
軽快なフットワークで何者かが目と口の部分まで昇ってくる。やがてコックピット部に到着し、赤シャツにライフルを肩に掲げたその青年はシュワルツを見るとにっと笑った。
「タウ、そいつを倒すのは俺の役目だ。良く頑張ったな」
「ショウイチ!」
ショウイチに気づき振り向いた途端、タウエルンはその場にガクンと膝から落ちた。ショウイチはあせって駆け寄る。
「おい、お前まさか粒子……」
「ごめん、ショウイチ、さっきので力、ちょっと使い切っちゃったみたい……」
「ほう、君がショウイチ・マーチマンか。思ったよりずっと若いんだな」
意外そうにシュワルツがショウイチに声を掛ける。ショウイチはタウエルンを気遣いながら、シュワルツに顔を向けて皮肉そうな笑みを浮かべて言う。
「俺も思ったより悪人面でよかったと思うよ。ぶっ飛ばすのにまったく遠慮がなさそうだ」
ショウイチの言葉にシュワルツは掌で目を覆い苦笑すると、操縦桿の上で手を浮かしている。
「悪態を附くのは構わないが、私にはまだダルナスがあることを忘れてもらっては困るな。今だって操縦桿に掌を載せればすぐにレーザーを撃てる」
ショウイチは即座にライフルを構えるが、シュワルツは笑みを浮かべたままだ。
「ちなみに目標は……あぁ、あれは確かトニーとか言う男だ。それと名前が浮かばない子供だ。どっちにしろ取るに足らない命だ」
「トニー……だと?」
ショウイチは自分が感じていた不安が的中してしまったことに舌を打つ。薄々感じてはいたが、何も対策を打たなかった。明らかに自分のミスだ。
「そうだ。言っておくが私のどこを撃っても私は手を乗せるぞ? さぁ、どうする? ヒーロー君」
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