【Amicone】
店番がてら読書に勤しんでいた藤司朗は一時だけ、ページをめくる手を止めた。
表紙に描かれているのは、自分とその弟によく似た男たち。
何故か妙に密着しており、露出も多い。
「……ふーん」
平素であれば表面上だけは穏やかに保たれているはずの表情が、ほんの僅かな時間だけ不快げに歪む。
「……丈之助が前なのか」
パタリと音を立てて本を閉じると、調度良く帰って来た沙鳥と丈之助へ特上の笑みを向ける。
「おかえりなさい、二人とも」
「ただいまー。藤司朗一人?」
「引き篭もりを無視すれば、ほぼ一人って所かな。あ、篭森さんがケーキを差し入れてくれたよ」
「えー! 珠月ちゃん来てたの!? ショックー……もっと早く帰ってくるんだったぁ……」
さり気なく読んでいた本をあえてカウンターの目立つところに置き、沙鳥を奥へと誘う。
そして、その後ろを当たり前のように付き従う丈之助の腕を徐に掴んで引き止めた。
「ねぇ、丈……?」
そっと顔を近づけ、吐息を込めて甘く囁きかける。
店内の一部で小さな悲鳴のようなものが上がったのには、気付かなかったフリをして。
「……」
対する丈之助は難問を投げかけられた時と同じように、銃を藤司朗の額に押し当てた。
「死ね」
と、同時に引き金を引くも、一瞬早く藤司朗が軌道から逸れる。
「物騒だなぁ。サービス精神が足りないんじゃない? 客商売の基本でしょ?」
「口を閉じて手を上げて後ろを向け。以後、一切動くな。手元が滑らなければ一撃で終わる」
「仕方ないなぁ。そんなにお兄ちゃんと遊びたい? 丈はいつまでたっても甘えん坊だね」
隙をついて懐へ入り込み、頬にキスをする。
ぶらっくあうと。
「まだまだだなぁ」
その言葉で我に返った丈之助は、たまたまポケットに入っていた錐を眼球目掛けて投げつける。
紙一重で避けるも、同時に投げられた畳用縫い針が藤司朗の服に穴を開ける。
「……ッチ。そんな物投げたら他のお客様にご迷惑だろう? しかも、こんな穴まで……マサ姉に怒られたらどうしてくれんのさ」
「自業自得。つか、死ね。動くな、死ね。黙れ、死ね」
喋りながら、手に触れた武器全てを投げ付ける。
「危ないな。“Arresto(止まれ)”」
「……」
真っ正直に目を合わせてしまった丈之助の動きが停止する。
「……ホント、アホの子で良かった」
王子然とした微笑を浮かべたまま、身動きの取れない丈之助の胸を容赦なく蹴り飛ばす。
「兄弟喧嘩は表でやろうね。営業妨害になっちゃうし」
「殺す」
ドアを突き破って吹っ飛びながらも、両手に構えた銃口が完璧に藤司朗を狙う。
「……油断も隙もないな。本当に可愛くない」
交わし切れなかった銃弾に頬や脚を削られながら、藤司朗自身も銃を構える。
「お兄ちゃんを撃ってはいけませんって何回教えたら覚えるんだろうね、このバカは」
丈之助も起き上がるより先に銃を手にした両腕を上げる。
「忘れた。死ね」
互いの銃口が互いの眉間を捕らえたところで、二人はある気配に気付いた。
「……丈ちゃんにシロちゃん。何をやっているの?」
「あぁ、マサ姉。おかえりなさい。随分と早いおかえりだね」
「おかえりなさい」
藤司朗は降参するように両手を上げ、丈之助もゆっくりと身を起こす。
「……何をやっているの?」
「兄弟愛を深めた結果?」
「正当防衛」
二人は同時にこの後の展開を悟り、後退りする。
「どうして貴方たちはいつもいつも仲良くしてくれないの……? 同じ血を分けた兄弟なのに……」
溢れ出る涙。
その後、二人が取るべき行動はただ一つ。
「……一事が万事塞翁が馬って所かな」
「逃げるが勝ち」
脱兎の如く逃げる二人を政宗の“嘆き”の制裁が襲う。
逃げ切れるかどうかは運次第。命懸けの兄弟喧嘩はこうして幕を閉じた。
護るべき少女を他所に――
表紙に描かれているのは、自分とその弟によく似た男たち。
何故か妙に密着しており、露出も多い。
「……ふーん」
平素であれば表面上だけは穏やかに保たれているはずの表情が、ほんの僅かな時間だけ不快げに歪む。
「……丈之助が前なのか」
パタリと音を立てて本を閉じると、調度良く帰って来た沙鳥と丈之助へ特上の笑みを向ける。
「おかえりなさい、二人とも」
「ただいまー。藤司朗一人?」
「引き篭もりを無視すれば、ほぼ一人って所かな。あ、篭森さんがケーキを差し入れてくれたよ」
「えー! 珠月ちゃん来てたの!? ショックー……もっと早く帰ってくるんだったぁ……」
さり気なく読んでいた本をあえてカウンターの目立つところに置き、沙鳥を奥へと誘う。
そして、その後ろを当たり前のように付き従う丈之助の腕を徐に掴んで引き止めた。
「ねぇ、丈……?」
そっと顔を近づけ、吐息を込めて甘く囁きかける。
店内の一部で小さな悲鳴のようなものが上がったのには、気付かなかったフリをして。
「……」
対する丈之助は難問を投げかけられた時と同じように、銃を藤司朗の額に押し当てた。
「死ね」
と、同時に引き金を引くも、一瞬早く藤司朗が軌道から逸れる。
「物騒だなぁ。サービス精神が足りないんじゃない? 客商売の基本でしょ?」
「口を閉じて手を上げて後ろを向け。以後、一切動くな。手元が滑らなければ一撃で終わる」
「仕方ないなぁ。そんなにお兄ちゃんと遊びたい? 丈はいつまでたっても甘えん坊だね」
隙をついて懐へ入り込み、頬にキスをする。
ぶらっくあうと。
「まだまだだなぁ」
その言葉で我に返った丈之助は、たまたまポケットに入っていた錐を眼球目掛けて投げつける。
紙一重で避けるも、同時に投げられた畳用縫い針が藤司朗の服に穴を開ける。
「……ッチ。そんな物投げたら他のお客様にご迷惑だろう? しかも、こんな穴まで……マサ姉に怒られたらどうしてくれんのさ」
「自業自得。つか、死ね。動くな、死ね。黙れ、死ね」
喋りながら、手に触れた武器全てを投げ付ける。
「危ないな。“Arresto(止まれ)”」
「……」
真っ正直に目を合わせてしまった丈之助の動きが停止する。
「……ホント、アホの子で良かった」
王子然とした微笑を浮かべたまま、身動きの取れない丈之助の胸を容赦なく蹴り飛ばす。
「兄弟喧嘩は表でやろうね。営業妨害になっちゃうし」
「殺す」
ドアを突き破って吹っ飛びながらも、両手に構えた銃口が完璧に藤司朗を狙う。
「……油断も隙もないな。本当に可愛くない」
交わし切れなかった銃弾に頬や脚を削られながら、藤司朗自身も銃を構える。
「お兄ちゃんを撃ってはいけませんって何回教えたら覚えるんだろうね、このバカは」
丈之助も起き上がるより先に銃を手にした両腕を上げる。
「忘れた。死ね」
互いの銃口が互いの眉間を捕らえたところで、二人はある気配に気付いた。
「……丈ちゃんにシロちゃん。何をやっているの?」
「あぁ、マサ姉。おかえりなさい。随分と早いおかえりだね」
「おかえりなさい」
藤司朗は降参するように両手を上げ、丈之助もゆっくりと身を起こす。
「……何をやっているの?」
「兄弟愛を深めた結果?」
「正当防衛」
二人は同時にこの後の展開を悟り、後退りする。
「どうして貴方たちはいつもいつも仲良くしてくれないの……? 同じ血を分けた兄弟なのに……」
溢れ出る涙。
その後、二人が取るべき行動はただ一つ。
「……一事が万事塞翁が馬って所かな」
「逃げるが勝ち」
脱兎の如く逃げる二人を政宗の“嘆き”の制裁が襲う。
逃げ切れるかどうかは運次第。命懸けの兄弟喧嘩はこうして幕を閉じた。
護るべき少女を他所に――
「……むー。さったんお腹空いたぁ」