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『Folle』 「直せ」  唐突に現れた客は、開口一番の台詞だけで理解しろとでも言うように口を引き結んで、家主が許すより先に部屋の隅にある木箱に腰掛けた。 「……血の臭いをつけたままここに来ないでって何回もお願いしたと思うんだけど」 「あぁ、悪かったよ。さっさと直せ」 「はいはい。どうせまた返り血ついたまんま来るんでしょ? 分かりましたっての」  一度壊したものは二度と直らない――なんて嘯いてるのはどこの誰でしたっけね。  などと心中のみで呟いたのは、これ以上この客人を怒らせたら危ないから。 「まぁ、それも面白そうだけど」 「何がだ?」  つい口に出してしまったらしい。  何でもないと首を振るが、訝しげに睨み付けてくる客人の機嫌は徐々に傾斜がついてきている。 「ただ、この子は今日どんなお仕事をしたのかなって」 「おぉ、知りたいか!」  客人は我が意を得たりとばかりに身を乗り出した。 「ぶん殴ってやったのさ。拳で!」 「……爪の付け根で思い切り殴りつけたら折れるってそろそろ理解しようよ」  折角、ナックルにつけた爪が見事に根本から折れていた。  けれども、このタイプのナックルを気に入っているのか、客人は次も爪付きを希望してきた。 「一応、普段はしまって置いて、使うときにだけ出せるタイプだって言ったよね? 使い方分かってから使っても遅くないんじゃないかな? まぁ、僕は修繕費用貰えるから良いんだけどさ」 「何言ってんだ、お前」  バカじゃないかとはっきり顔に書いて客人は嘲笑する。 「俺を誰だか忘れた訳じゃないだろう?」 「そうだね、ぶっ壊し屋さん。僕が間違ってました」  両手を挙げて降参する。  趣味と実益を兼ねて「ぶっ壊し屋」を営むこの男は、どんなモノだろうと嬉々として破壊し尽くすのだ。  ナックルを壊さずに使うなど無理に決まっている。 「今日は何を壊して来たのさ? 建物? 人?」 「しいて言うなら両方だな。強いと思っている奴らを壊すってのはどうしてこうも気持ちが良いのかねぇ」  恍惚とした表情で舌なめずりをする姿に、家主は小さく苦笑いを浮かべる。  ここまでの殺気を常に撒き散らしておきながらこの学園で生きていられるのは、彼よりも強い人たちが彼みたいな愚か者を相手にするほど暇じゃないからだとどうして気付かないのか。  家主は心中だけで舌を出す。  実際に言ってしまっては、こんな小さな工房なんか嬉々としてぶっ壊してしまうだろう。家主も含めて。 「だが、やっぱり一番イイのは頑強に護られたお姫様をぶっ壊す事だろうねぇ」  客人の下卑た笑いに家主の視線が途端に冷ややかなものへと変わるが、客人は気付かない。 「ご名答。誰でも良いからさっさと依頼してくれないもんかねぇ。今にも爆発しちまいそうだ」  ぶっ壊し屋を営むにあたって依頼があるまで壊さないと誓約している客人は、自分の欲の通り彼女を殺す事は出来ない。  そして、そろそろその依頼をする愚か者も現れるだろう。 「……ならさ、その依頼が来たら真っ先に僕の所へ来てよ」 「あん? 殺られる前に殺ろうってのか?」 「ある意味近いねぇ」  先程までの温和な雰囲気とは違う家主の声色。 「もし僕よりも先に彼女を殺されたりなんかしたら、悔しくて悔しくて大切なお客人である君を殺してしまいたくなるでしょう? 僕は綺麗な血以外に染まりたくないんだ。君なんか殺したくない。だから、彼女を殺すより先に僕を殺して行ってよ。ね?」 「お前も相変わらずだなぁ」  美しいものを醜くおぞましく殺し尽くし、血の一滴も残さず食すのを快楽とする家主は、心の底から楽しげに口元を歪ませた。
【Folle】 「直せ」  唐突に現れた客は、開口一番の台詞だけで理解しろとでも言うように口を引き結んで、家主が許すより先に部屋の隅にある木箱に腰掛けた。 「……血の臭いをつけたままここに来ないでって何回もお願いしたと思うんだけど」 「あぁ、悪かったよ。さっさと直せ」 「はいはい。どうせまた返り血ついたまんま来るんでしょ? 分かりましたっての」  一度壊したものは二度と直らない――なんて嘯いてるのはどこの誰でしたっけね。  などと心中のみで呟いたのは、これ以上この客人を怒らせたら危ないから。 「まぁ、それも面白そうだけど」 「何がだ?」  つい口に出してしまったらしい。  何でもないと首を振るが、訝しげに睨み付けてくる客人の機嫌は徐々に傾斜がついてきている。 「ただ、この子は今日どんなお仕事をしたのかなって」 「おぉ、知りたいか!」  客人は我が意を得たりとばかりに身を乗り出した。 「ぶん殴ってやったのさ。拳で!」 「……爪の付け根で思い切り殴りつけたら折れるってそろそろ理解しようよ」  折角、ナックルにつけた爪が見事に根本から折れていた。  けれども、このタイプのナックルを気に入っているのか、客人は次も爪付きを希望してきた。 「一応、普段はしまって置いて、使うときにだけ出せるタイプだって言ったよね? 使い方分かってから使っても遅くないんじゃないかな? まぁ、僕は修繕費用貰えるから良いんだけどさ」 「何言ってんだ、お前」  バカじゃないかとはっきり顔に書いて客人は嘲笑する。 「俺を誰だか忘れた訳じゃないだろう?」 「そうだね、ぶっ壊し屋さん。僕が間違ってました」  両手を挙げて降参する。  趣味と実益を兼ねて「ぶっ壊し屋」を営むこの男は、どんなモノだろうと嬉々として破壊し尽くすのだ。  ナックルを壊さずに使うなど無理に決まっている。 「今日は何を壊して来たのさ? 建物? 人?」 「しいて言うなら両方だな。強いと思っている奴らを壊すってのはどうしてこうも気持ちが良いのかねぇ」  恍惚とした表情で舌なめずりをする姿に、家主は小さく苦笑いを浮かべる。  ここまでの殺気を常に撒き散らしておきながらこの学園で生きていられるのは、彼よりも強い人たちが彼みたいな愚か者を相手にするほど暇じゃないからだとどうして気付かないのか。  家主は心中だけで舌を出す。  実際に言ってしまっては、こんな小さな工房なんか嬉々としてぶっ壊してしまうだろう。家主も含めて。 「だが、やっぱり一番イイのは頑強に護られたお姫様をぶっ壊す事だろうねぇ」  客人の下卑た笑いに家主の視線が途端に冷ややかなものへと変わるが、客人は気付かない。 「ご名答。誰でも良いからさっさと依頼してくれないもんかねぇ。今にも爆発しちまいそうだ」  ぶっ壊し屋を営むにあたって依頼があるまで壊さないと誓約している客人は、自分の欲の通り彼女を殺す事は出来ない。  そして、そろそろその依頼をする愚か者も現れるだろう。 「……ならさ、その依頼が来たら真っ先に僕の所へ来てよ」 「あん? 殺られる前に殺ろうってのか?」 「ある意味近いねぇ」  先程までの温和な雰囲気とは違う家主の声色。 「もし僕よりも先に彼女を殺されたりなんかしたら、悔しくて悔しくて大切なお客人である君を殺してしまいたくなるでしょう? 僕は綺麗な血以外に染まりたくないんだ。君なんか殺したくない。だから、彼女を殺すより先に僕を殺して行ってよ。ね?」 「お前も相変わらずだなぁ」  美しいものを醜くおぞましく殺し尽くし、血の一滴も残さず食すのを快楽とする家主は、心の底から楽しげに口元を歪ませた。

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