王の贖罪

    

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どこか不穏な熱気を孕んだ人だかりの中で、俺は懐に隠した細身の短剣を緊張の面持ちで押さえていた。
もうすぐ、城の前でこの国の王が大勢の国民に向かって政略演説を始める。
そしてその時、子供っぽい利己的な理論によって積み重ねられた王の暴政に終止符が打たれるのだ。

俺は、本来暗殺者などではなかった。どこにでもいる一般市民・・・むしろ、農民といってもいいだろう。
心無い政治に苦しめられる人々が寄り添い合ってついに革命を企て始めたとき、俺は真っ先にその実行役を買って出た。あの王のせいで、俺には誰も親族がいなくなってしまったからだ。
何もかも毟り取られるような苛烈な税の徴収、人足として無償でこき使われる男達、時には戯れた王が市民の中から若い娘を城に連れてこさせ、そのまま一夜をともにすることさえあったという。
そんな中で父は過労に倒れ、母は俺が城の補修工事に駆り出されている間に幼い妹を連れて国を逃げ出した。
もう、失うものは何もない。それなら、俺があの傲慢な王に鉄槌を下してやる。
市民達の秘密の会合の場で俺がそう言うと、彼らからの希望の眼差しが一身に注がれた。
王を刺した後、きっと俺は処刑されることだろう。だが、それはもとより覚悟の上だった。
もしかしたら奮い立った市民達が一斉に雪崩れ込んで俺を助けてくれるというような奇跡があるかもしれないが、ここに集まった市民達はみな役人の顔色ばかり窺って暮らしているような者達なのだ。
王の最期を見届けようとする数人の仲間が混ざってはいるが、彼らにだってどうすることもできないだろう。

ギイイイィ
錆びた金属が軋むような嫌な音を立てて、城の扉が兵士によって左右に開かれた。
それに少し遅れて、無駄に厚く着飾った王がゆっくりと外に出てくる。
途端に注がれた数人の殺気に気付く様子もなく、王は用意された石の壇上へと上っていった。
2mほどの高さの壇上に立つと、王は聴衆が静まるのも待つことなくいきなり演説を始めた。
恐らく王本人も、誰1人としてまともに自分の話を聞いていないことを知っているのだろう。
ただこの場に大勢の市民達を集めたという事実だけが、彼の権力の象徴として語られるだけなのだ。
無遠慮に垂れ流される演説を聞き流しながら、俺は短剣を投げつける機会をじっと窺っていた。
周りにいる人達はざわついているとはいえ、役人に目をつけられるのを恐れて直立不動の姿勢を維持している。
こんな中で誰かが・・・つまり俺が何かを投げるような仕草をすれば、目立ち過ぎて失敗する可能性が高い。
くそ・・・緊張する・・・俺は死ぬことよりも、暗殺が失敗することの方が何倍も恐かった。
一応、短剣には毒が塗ってある。人間ならかすり傷1つで十分に殺せるほどの強力なものだ。
だが王が羽織っている分厚い赤マントも、厚手の布地で作られた衣服も、この短剣を投げつけただけではとても貫通できそうにない。
狙うなら頭か、最低でも顔をかばうであろう手に傷をつける必要がある。
なかなか訪れぬ投擲の機会に、俺を含めて計画を知る者達の間に焦燥が広がり始めた。
この示威演説は、俺達革命派にとって千載一遇のチャンスなんだ。
これを逃せば、また何年もの間市民達が悪政に苦しむ羽目になるかもしれない。

だがそんな不安と焦りをよそに、王は演説を終えてしまった。
結局、俺は最後まで短剣を投げることができなかったのだ。
もうだめだと思った次の瞬間、市民達が一斉に騒ぎ始めた。
上辺だけとはいえ王を称える真似事をしているのだろう。
ふと壇上を見上げると、王が市民達に向けて手を振っている。

今だ!殺るなら今しかない!

俺は素早く胸元に隠した鞘から短剣を抜き取ると、無防備に愛想笑いを振り撒く王に向かって正義の矛を投げつけた。
頼む・・・当たってくれ!
ヒュンという風切り音とともに、市民達の怒りと祈りをこめた短剣が王の顔に向かって一直線に飛んでいった。

「ひっ!」
寸での所で己に向かって放たれた殺意の塊に気付いた王は、短い悲鳴とともに腕を振り上げて顔をかばった。
何層にも編み込まれた固い布の袖に弾き飛ばされた短剣が、ポーンと跳ねて壇上にへたり込んだ王のそばへと転がり落ちる。
カラーンという乾いた響きに、ざわついていた民衆が一瞬で静まり返った。
し、失敗だ・・・畜生・・・あと少しだったのに・・・
俺が懐から凶器を取り出すところを目撃していた役人が、呆然と立ち尽くしていた人々に大声で命じる。
「その男を捕えよ!」
もう終わりだ・・・くそっ、これじゃ犬死にじゃないか・・・
数人の市民達に取り押さえられて、俺はズルズルと石の壇上で立ち上がった王の前へと突き出された。
「この下民が・・・ワシの命を狙うとはいい度胸だ。この愚か者を地下牢に入れてやれ!」
さっきまでの慌てふためいた様子から一転し、王は俺を睨みつけたままそばにいた兵士達に命令を下した。
再びざわつき始めた民衆の中に、落胆に頭を抱える仲間達の姿がチラリと見える。
済まないみんな・・・何もかも俺のせいだ・・・
胸の内で謝罪の言葉を繰り返しながら、俺は仲間達の見守る中強引に城へと引きずられていった。

地下牢・・・人工の壁で囲む代わりに厚い岩盤を刳り抜いて造られた堅固な牢は、大抵の場合1度入れられたら2度と出ることはできない。
それにしても、なぜ牢なのだろうか?
てっきり、俺はあの場で自らが用意した毒の短剣で刺し貫かれるものだと覚悟していたというのに・・・
一生俺をここに閉じ込めたまま苦しみを味わわせようというのだろうか?確かに、あの王ならやりかねない。
ギイイイイ・・・
城の奥にある分厚い扉を開けた先に、地下牢へと続く階段が姿を現した。
壁に灯された燭台の炎がユラユラと揺れ、淡い光を闇の中に振り撒いている。
それはまるで、地獄への入口のように見えた。いや、実際この先には俺にとって地獄が待っているのだろう。
「さっさと歩け!」
ぽっかりと口を開けた闇の中へと踏み出すのを逡巡していると、武器を持った兵士が俺の背中をドンと小突いた。
「ぐっ・・・」
骨に直接響くような痛みに思わず呻き声を上げながら、俺は階段をゆっくりと下り始めた。

思いの外、階段はすぐに終わりを告げた。目の前に、暗い通路が真っ直ぐに続いている。
そしてその突き当たりに、大きな鉄格子が何重にもはまった地下牢が見えてきた。
へっ・・・厳重なこった・・・こりゃあ、本当に一生ここから出られないかもな・・・
鉄格子の一角に設けられた小さな入り口の前までくると、俺の背後についていた2人の兵士達がいきなり俺の服を脱がせ始めた。
「な、ちょ・・・何しやがんだ!やめろっこの・・・」
だが武器を持った男達に2人がかりで押さえつけられ、俺はロクに抵抗もできないまま素っ裸にされてしまった。
「さあ、入れ!」
裸のまま地面に座り込んだ俺に剣先を突きつけながら、兵士の1人が命じる。
くそ・・・ふざけんな・・・裸で牢に入れられるなんて聞いてなかったぞ・・・
半ば押し込められるように牢の中へと入れられると、もう2度と開くことのない扉がバタンと音を立てて閉じられる。
それを見届けた2人の兵士達は、俺の着ていた服をクルクルと振りながら階段の上へと消えていった。

ガン!ガン!
「くそっ・・・」
地下牢への扉が閉じられた重々しい音が聞こえ、俺は入口に思いきり体当たりしてみた。
まあ、当たり前だが壊れるわけがない。
まるで猛獣でも入れておくために作られたとしか思えないその堅牢さに、俺は無駄な足掻きを諦めた。
「それにしても暗いのは仕方ないとして、やけに広い牢だな・・・」
天井が妙に高い上に、牢の奥は真っ暗で全く何も見えない。
大人数を1度に押し込められるようにできているのだろうから広いのは理解できるが、天井が高いのはなぜだ?
罪人には低い天井で圧迫感を与えるのが普通だと思っていたが、この地下牢は天井まで5m近くもある。

ズシ・・・ズシ・・・
「?」
その時、暗闇の奥から何か音が聞こえてきた。
大きな何かが地面を踏みしめるような・・・そうだ、これはまるで足音だ。
「だ、誰かいる・・・の・・・」
闇の中に目を凝らした瞬間、黄色い2つの瞳が輝いたのが目に入った。その正体に気がつき、思わず言葉が切れる。
妖しく眼を光らせた大きなドラゴンが、俺を睨みつけていたのだ。
「う・・・あ・・・ド、ドラゴン・・・か?」
「クククク・・・よりによってこの牢に入れられるとは・・・貴様、余程の大罪を犯したのであろうな・・・」
冷たい地下牢の空気を震わせるように、ドラゴンの野太い声が辺りに響いた。
「あ・・・ああ・・・」
こ、これが処刑なのか・・・ドラゴンに食われることが・・・
腰を抜かして地面にへたり込んだ俺に向かって、ドラゴンはゆっくりと近づいてきた。
通路の明かりがドラゴンまで届き、その全貌が露わになる。
赤黒く分厚い鱗、数本の大木もなぎ倒せそうな太い尻尾、高いはずの天井が狭く見えるほどの深紅の翼・・・
「ひ・・・ひぃ・・・た、助けて・・・くれ・・・」
つい先程まで、俺は死を覚悟していたはずだった。
だが巨大なドラゴンの恐ろしげな双眸に魂を射抜かれ、その覚悟が粉々に打ち砕かれる。
「ククク・・・そう心配するな小僧。簡単には殺さぬ・・・貴様を食うのはもう少し後の話だ・・・」
そう言うと、ドラゴンは巨体に似合わぬ素早さで俺の上にのしかかってきた。
「わ、わああああっ!」
恐怖とパニックで両手をバタバタと暴れさせたが、ドラゴンの堅い鱗には全く歯が立たない。
「クフフフ・・・いいぞ・・・元気のない獲物はつまらぬからな・・・では、楽しませてもらうぞ・・・」
含み笑いを漏らしながら、ドラゴンが俺を地面に組み敷いたまま体を浮かせる。
そのドラゴンの股間で、さっきまで闇に紛れて見えなかった割れ目がグワッと大きく口を開けたのが見えた。

「はああっ・・・まさか・・・よ、よせっ、よせえええぇぇ!」
俺はドラゴンの意図を察して必死でもがいたが、ドラゴンは恐怖に歪んだ俺の顔を楽しむように見つめながら容赦なく一気に腰を落とした。
小さく縮み上がっていた俺のペニスが、熱く蕩けたドラゴンの膣に丸呑みにされる。
クチュクチュッヌリュッ・・・
「うわああああ!嫌だあああっ助けてくれええぇぇ!」
プルプルと揺れる厚い肉襞に萎えたペニスをグチュグチュと揉みしごかれ、俺は背筋を突き上げてくる強烈な快感に悲鳴を上げていた。

「クフフフフ・・・どうだ、心地よかろう?苦しいほどにな・・・」
グシッズシュッ
「うぐあああ~・・・」
休みなく与えられる甘過ぎる刺激に、俺は次第に何も考えられなくなっていった。
確かに快感であるはずなのに、恐怖に混乱した頭がそれを次々と苦痛に変えていく。
「それにしても、相も変わらず人間のモノは貧弱だな・・・」
「あ、あああ・・・」
絶望に沈む俺の表情を眺めながら、ドラゴンがいたずらっぽく呟く。
「あまりにヤワ過ぎて私がほんの少し力を入れただけで潰れてしまいそうだ・・・ククク・・・試してみるか?」
ギュウ・・・
「や、やめ・・・やめて・・・うわああああ・・・」
背筋が凍りつくような脅迫の言葉と共にペニスを締めつけられ、俺はドラゴンに泣いて懇願した。
ギュギュウ・・・・・・
「いやああぁぁぁ・・・」
容赦なく俺を弄ぶドラゴンの肉襞にペニスを握り潰すくらいの力があることは、すでに思い知らされていた。
だがドラゴンにはその拷問を止めるつもりはないようで、なおもギリギリとペニスを締めつけてくる。
「クフフ・・・果たしてどこまでもつか見物だな・・・それ・・・」
グリッと膣全体が捩れ、押し潰されんばかりに締めつけられたペニスがさらに捻り上げられる。
そしてそのまま、ペニスに食い込んだ肉襞がブルブルと振動を始めた。
「ぐあぁ~!た、頼む・・・許してくれえぇ・・・!」
極限まで追い詰められたペニスに細かな刺激を加えられ、俺はドラゴンの下で一杯に仰け反りながら喘いだ。
見る見るうちに激しい射精感が込み上げてくる。
こんな状態でとどめを刺されたら、一瞬たりとも耐えることなどできないだろう。
なにしろ俺が股間にちょっと力を入れただけで、ドラゴンの膣が張り詰めた俺のペニスをきつく握り締めるのだ。
「うあ、うあああ~!」
「ククク・・・絶対に耐えられはせぬ・・・人間などにはな・・・クフフフ・・・」
首を左右に振って思いきり暴れても、ドラゴンが嗜虐的な笑みを浮かべたまま更にペニスを嬲り尽くす。
チロチロチロチロチロ・・・
「く・・・・・・はぁ・・・」

もう限界だ・・・あと一撃・・・どんなに軽い刺激だろうとペニスに加えられたら、それがとどめになるだろう。
「フフフフ・・・そろそろ、貴様の精を頂くぞ・・・ついでに命もな・・・」
グシャッグリャグリャッ
ドラゴンがそう言った瞬間、とどめには十分過ぎるほどの快感が微塵の躊躇いもなくペニスに叩き込まれた。
「ぐあああああ~~~~~~!」
ブシュッビュルッビュルビュルビュルッドシュッ
頭の中で、爆竹が弾けたようだった。快感という名の地獄の炎が全身を焼き尽くしていく。
「クフ・・・クフフ・・・クハハハハハハハハ・・・!」
快楽に感電してバタバタと悶え狂う俺をギュッと地面に押しつけながら、ドラゴンは大声で笑い続けていた。

「う・・・・・・はあ・・・」
強烈過ぎる快楽の荒波に揉まれ、俺は巨大なドラゴンの下で息も絶え絶えに痙攣していた。
「クククク・・・もう楽になりたいか・・・?」
精を残らず搾り取られた俺のペニスを断続的にしごきながら、ドラゴンが眼を細めて聞いてくる。
「はぅ・・・く、くそ・・・早く殺せ・・・うっ・・・」
「では、望み通り丸呑みにしてやろう。半日くらいは私の腹の中で苦しむかも知れぬがな・・・ククク・・・」
そう言うと、ドラゴンは蛇のように顎を外して大きく口を広げた。
人間など簡単に丸呑みにできそうな暗い肉洞が、俺の頭に向けられる。
呆然とその口が降りてくるのを待っていると、ドラゴンは突然思い留まって不思議なことを聞いてきた。
「そういえば、まだお前の罪を聞いていなかったな。私に食われる羽目になるとは、一体貴様は何をしたのだ?」
「・・・え・・・?いや俺は・・・王を殺そうとしただけだよ・・・」
「何・・・?」
その返事に、ドラゴンが反応する。
「あの王を殺そうとしただと?お前がか?・・・ク、クハハハハハハ・・・」
「な、何がおかしいんだよ?あの野郎は大勢の人間に恨まれてるんだぞ!だから俺が・・・」
「そんなことは知っている」
俺の言葉を遮るように、ドラゴンがピシャリといった。
「私もあの人間には恨みがある。私をこんな牢の中に閉じ込めて罪人の処刑をさせているのは、奴なのだからな」
「え・・・閉じ込めて・・・?」
「この牢は元々私が棲んでいた洞窟に頑丈な鉄格子をはめて作られたものだ。城は、その後に造られたのだ」

ドラゴンの言葉に、俺は思わずぞっとした。この城が作られたのは30年も昔の話だと聞いている。
つまり、このドラゴンはそれからずっとこの闇の中で時折与えられる重罪人を糧に生きてきたのだ。
だとしたら、王に対する恨みも並々ならぬものがあるのだろう。
「どうだ、もしここから無事に逃げ出せるとしたら、貴様はまたあの王の命を狙うのか?」
「ああ、チャンスがあるのなら何度でも狙うさ」
「クフフ・・・こいつは面白い・・・」
ドラゴンはそういうと、俺を放して牢屋の入口に思いきり体当たりした。
バキッという音と共に鍵が壊れ、軋んだ音を立てて生への扉がゆっくりと開く。
「行くがいい。私は出られぬが、お前なら通り抜けられるであろう?」
「・・・いいのか?」
「無論だ・・・だがもし失敗してまたここに入れられるようなことがあれば・・・今度は容赦せぬからな」
ドラゴンに促されるままに、俺は小さな牢の入口を潜り抜けた。
「フフ・・・よい知らせを待っておるぞ・・・」
ドラゴンの呟きを背に浴びながら、俺は固い決意を胸に暗い階段を駆け上り始めた。

地下牢から続く大きな扉をゆっくりと押し開けると、俺はその隙間からそっと辺りを窺った。
部屋の向こうから兵士が1人こちらへ向かってくるのが見える。恐らく城の中の見回りだろう。
どうせ何も異常はないだろうと高を括っているのか、兵士は大きな欠伸をしながら気だるそうに歩いていた。
とりあえず、裸の俺は誰かから服を奪う必要がある。それも、兵士の服装を奪えれば最高だ。
どうせあの王は兵士達の顔などいちいち覚えてはいないだろう。
あの服を着れば、少なくとも城の中を自由に歩けるくらいにはなるはずだ。
そうこうしている内に、兵士が目の前の部屋へと入ってくる。
本当なら殺してでも服を奪い取りたい所だが、狙いは王ただ1人だ。
この兵士だって、内心は暴政に反旗を翻したがっている1人の善良な人間かもしれない。

「・・・ん?」
地下牢への扉が少しだけ開いているのに気付き、兵士がふとこちらに視線を向けた。
ぼーっとしているようでも、一応は辺りに注意を払っているらしい。
だがさすがに牢から誰かが抜け出してきたなどとは考えなかったらしく、その兵士は持っていた槍も構えず無防備に扉を閉めに近づいてきた。
今だ!
兵士が扉に手を伸ばした瞬間、俺はバッと扉を引き開けて兵士に踊りかかった。
ガッ
「ぐあっ!」
油断していたその顔面に思いきりパンチを入れると、兵士は鼻血を吹き出しながらその場に倒れて気を失った。
床に横たわった兵士をずるずると地下牢の通路へと引きずっていき、急いで服を着替え始める。

「悪く思わないでくれよ」
すっかり兵士の服に着替え終わると、俺は兵士をその場に残したまま扉から外に出ていった。
しばらくの間は目覚めないはずだ。そう、少なくとも王が生きている間は。
菱形の穂先がついた槍を真っ直ぐに構えたまま、ゆっくりと玉座へと続く階段に足を踏み出す。
さて、どうやってあの憎たらしい王に近づけばいいだろうか。さすがに正面からでは無理があるだろう。
階段を上りきると、反対側に更に階段があった。その両脇には兵士が立っていて、とても通してくれそうにない。
手摺の陰で思案していると、突然階下の外へ通じる扉が大きく開いた。そして・・・
「まさか・・・?」
なんと、王が誰も供を連れずに1人で城の中へと入ってきた。
どうやら、俺が牢に入れられてから今までずっと外で愚にもつかない演説を続けていたらしい。
きっと、ワシに逆らったものは云々と無駄なことを吹聴して市民達を困らせていたのだろう。
だが、これはまたとないチャンスだ。きっと奴はこのまま玉座に向かうはず。
そしたら、後は隙を見計らって奴の背中にこの槍を突き立ててやればいい。
たったそれだけで、俺の目的は達せられるのだ。

だが俺が息を殺して階段の手摺の陰に隠れていると、王は何を思ったのか地下牢の方へと足を向けた。
俺がドラゴンに食われたかどうか確認でもしに行くつもりなのだろうか?
くそっ、このままじゃ俺が殴り倒した兵士が見つかってしまう。
俺は他の兵士に気取られぬように祈りながら階段を静かに駆け下りると、無防備な王の背中を見守った。
やはり、地下牢に行く気だ。騒ぎになる前に殺るなら今しかない!
俺は誰かに見つかる危険も省みず通路へ飛び出すと、扉を半分開けかけた王に向かって駆けていった。

ギイイイ・・・
錆びた蝶番の軋む音とともに、王が地下牢への扉を開け放った。
きっと、さぞやわくわくしながら俺の最期を見届けに行くのだろう。
だが、残念ながら俺はもう牢の中にはいない。
王が床に横たわった裸の兵士を見つけて大声を出すまでは、もう間がないだろう。
それでも、奴と一緒に扉の中に入ってしまえば後はどうにでもなるはずだ。
扉を開けたまま王が階段を下り始めたのを確認すると、俺は躊躇うことなくその後を追った。
だが、間の悪いことに見回りに来ていた他の兵士に見つかってしまう。
「お、おい、どうした?そんなに急いで?」
「え・・・?あ、いや・・・ちょっとな・・・」
まずい、俺の正体がバレる可能性は低いが、今はこいつの相手をしている場合じゃない。早くしないと・・・
「お、おい!誰か!誰かおらんか!」
予想通りというべきか、薄暗い地下牢への通路の奥から王の驚きに満ちた声が聞こえてくる。
俺は目の前にいた兵士と思わず顔を合わせると、競うようにして開け放たれたままの扉の中へと飛び込んだ。
タッタッタッという軽快な足音とともに階段を駆け下りて行くと、王が倒れていた兵士を起こそうとしている。
今すぐにでも王の背中に槍を突き立ててやりたかったが、傍らの兵士が槍を構えて慎重に辺りを窺っていた。
これでは、王に向かって槍を振り上げたとたんに俺が刺されてしまうだろう。

その時、鉄格子越しにドラゴンが薄っすらと顔を覗かせた。それに気付いて、王と兵士がそちらに視線を向ける。
ガンという音とともに、俺は兵士の注意が逸れた隙をついて後頭部に槍の柄を激しく叩きつけた。
固い金属の棒で強打され、意識を失った兵士が前のめりに倒れてドサリと音を立てる。
「む?なんじゃ?」
その音に気がつき、王がクルリとこちらを振り向いた。
王を突き刺そうと槍を振り上げた体勢を目撃され、思わず体が固まってしまう。
「き、貴様、先程の演説の場でワシの命を狙った輩だな!?」
そう言いながら、王は腰に携えた剣をスラリと引き抜いた。
「くそっ・・・結局こうなっちまったか・・・」
「むう・・・一体どうやってあの牢を抜け出してきたというのだ?」
「うるさい!お前は黙って俺に殺されてりゃいいんだよ!」
剣先と穂先を突き合わせたまま、俺達はお互いに狭い通路で睨み合った。

本来細い道で一対一なら槍の方が遥かに有利なはずだが、生憎俺はただの農民だ。
鋤や鍬を振ったことはあっても、槍を突く訓練なんてしたことがない。
だからこそ奇襲をかけたというのに、これでは本末転倒というものだ。
「どうした?ワシを殺すのではないのか?」
いつまで経っても初撃が打ち込めずにいた俺に向かって、王が挑発の言葉を投げかける。
「くそっ、食らえっ!」
俺は勢いをつけると、思いきり王に向かって槍の穂先を突き出した。だが、あっさりと剣で弾かれてしまう。
ギィン!
やはり腐っても王は王、さすがに自分の身を守る術くらいは身につけているらしかった。
「それなら、こうしてやる!」
ブンという音とともに、俺は王に向かって槍を投げつけた。案の定、再び槍が剣で叩き落とされる。
だが俺はその隙に王の懐へと潜り込むと、強欲な仮面を被ったその面にきつい拳骨をくれてやった。
ガキッ
「ぐわっ!」
鼻の骨が折れたような音とともに、気絶した王が地面に倒れ込む。
後はとどめを・・・だが王にとどめを刺すべく槍を振り上げた時、俺はふとあることを思いついた。
そうだ、こいつにはもっと相応しい末路がある。
無様に崩れ落ちた王の姿を見ながら、俺はニヤリとほくそえんだ。

「う・・・うぐぐ・・・」
突如鼻に走った激痛に、ワシは暗闇の中で目を覚ました。
「うぬぬ・・・おのれあの下民め・・・絶対に許さんぞ」
だが真っ暗な地面に手と膝をついたとき、ワシは自分が服を着ていないのに気がついた。
それに・・・ここは一体どこなのだ?
辺りを見回しても、見えるのは漆黒の空間ばかり。恐らく城の地下なのに間違いはなさそうだったが、通路に燈っているはずの燭台の炎は全て吹き消されてしまっていた。

「クク・・・ククククク・・・貴様が目覚めるのを首を長くして待っておったぞ・・・」
その時、背後から空気を震わすような野太い声が聞こえた。ああ・・・ま、まさか・・・
ワシは咄嗟に後ろを振り向いたが、見えるのは吸い込まれるような闇ばかり。
「それにしてもあの小僧・・・なかなか粋なことをしてくれるわ・・・獲物をこの私に譲ってくれるとはな」
ズシ・・・ズシ・・・
姿は見えないが、ドラゴンが確かにこちらに向かって近づいてきている。
こ、ここは・・・地下牢の中なのか・・・
「だ、誰か!誰かおらぬのかっ!?」
ワシは必死で助けを呼んでみたが、その声に反応する者はだれもいなかった。
「いいぞ・・・貴様の恐怖に歪んだその顔・・・ククク・・・30年以上もこの時を待ち詫びていた・・・」
「う・・・うう・・・ひ、卑怯者!姿を見せんか!」
ただただ闇の中から聞こえてくるドラゴンの声に耐え切れなくなり、ワシは精一杯虚勢を張って叫んだ。
「フフフ・・・私ならここにいるぞ」
その瞬間ワシのすぐ目の前でドラゴンが閉じていた眼を開き、2つの黄色い大きな瞳がワシを睨みつける。
と同時に、耳を劈くようなドラゴンの咆哮が迸った。
「グゴアアアアアアアアアッ!」
「ひ、ひいいぃっ!」
予想以上に近づいていたドラゴンに驚き、ワシは腰を抜かして地面にへたり込んだ。
「ククク・・・貴様は今までの誰よりも、たっぷりと念を入れて可愛がってやるからな・・・クフフフフ・・・」
「や、やめろ!助けてくれ!誰か助けてくれぇぇ・・・!」
この上もなく愉快そうに笑いながら獲物を睨みつけるドラゴンに、ワシは悲痛な叫び声を上げていた。

革命が成功した10日後、俺のたっての希望で城の地下牢からドラゴンが救い出された。
「おおお・・・」
30年振りに見る太陽の光に、ドラゴンが眼を閉じて天を仰ぐ。
赤黒く見えたドラゴンの鱗は陽光を受けて真紅に燃え上がり、大きく翼を広げたその威容は市民達の目に王を討ち取った英雄の姿に映ったことだろう。
「礼を言うぞ、小僧・・・この私でよければ、これからはいつでも貴様の力になってやる」
ドラゴンはそう言って満足そうに微笑むと、巨大な翼をはためかせて雲一つない大空へと舞い上がった。
あのドラゴンがいる限り、きっとこの国は世界で1番平和な国になることだろう。
大地を埋め尽くした市民達は、みな逆光に目を細めながら空を舞うドラゴンの勇姿を称えて喜び合っていた。



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