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リオレイア ─ 竜盤目・獣脚亜目・甲殻竜下目・飛竜上科・リオス科
この世界の全域に広く生息するワイバーンの雌。
強靭な脚と鋼にも匹敵する強固な甲殻を有し、陸の女王とも呼ばれる。
全身は美しい鱗に覆われ、生態素材としての価値は高い。
繁殖期には卵を守るために凶暴化する。
古代文明の遺跡からは飛竜種と人間が共同生活を営んでいるかのような壁画が幾つか発見されており、
学者の中には彼らの知能レベルが人間に匹敵するのではないかと唱える者もいる。



──今まさに、その雌火竜と対峙している一人のハンターがいた。
いや、彼が獲物といったほうが正しいのかもしれない。
彼の手に握られた大型のナイフは大きく刃毀れし、
ナイフと対になって左手に握られるはずの盾は雌火竜の足元で鉄屑と化していた。
後ろは高さ数十メートルはあろうかと思われる断崖絶壁。
幸い下に広がっているのはマリンブルーの海であるが、この高さでは助かる見込みは無い。
「み、密林にリオレイアが出没しているなんて、ギルドの資料には載っていなかったのに…」
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら後退るハンター。
幼さが残る顔立ちから察するに、成人して間もない年齢であろうか。
「グオォォォオオオン!」
そんな彼を追い詰めるかのように、雌火竜は一際大きな咆哮を上げ、突進を始めた。
彼女が一歩踏みしめる度に、大地が大きく揺れ動く。
耳を塞いだまま身動きが取れないハンターの頭を雌火竜の顎が捉えようとした、その時である。
「うわああああああっ!」
崖の先端に位置する岩盤が地響きに耐えられず剥がれ落ち、ハンターもろとも崖下の海へと落下したのだ。
大岩に波を叩きつけたかのような音が崖下から響き、密林に生い茂る木々の葉がざわめいた。
邪魔者は消えた。
彼女のなわばりを侵す脅威は、もう存在しない。
雌火竜は満足げにくるりと振り向き、巣がある洞窟へと歩き出した。
が、彼女の歩みは程なく止まる。
崖下に突き落とす直前に見せたハンターの顔が彼女の頭から離れないのだ。
あまりに無力、かつ無抵抗な青年を殺した。
ましてや捕食のためですらなく…
飛竜種のプライドの高さ故か、雌竜の奥底に眠る母性本能によるものなのかは定かではないが、
とにかく彼女にとって後味が悪かったのだ。

"まだ間に合うかもしれない"
雌火竜は一抹の希望を胸に振り返り、崖の下へと滑空した。
生まれて此の方、誰かの命を救ったことなど無い。
まして脆弱な人間の命を救うなど、考えたこともなかった。
いや…今この瞬間、自分の身を突き動かしている衝動の正体すら分からない。
それでも彼女は迷うことなく水の中へと飛び込んだ。
リオレイアの水浴びは度々目撃されている事例であるが、水中を泳いでいる姿を目撃したという報告は一度も無い。
保湿性に優れた翼膜は吸水性も高く、重量を増した翼は彼女達の身動きを容易に封じてしまうのだ。
"あれだ!"
危険を省みず水へと身を投じた彼女の目に、あのハンターの姿が飛び込んできた。
ぐったりと項垂れているものの、幸い外傷は無いようだ。
彼女はその鋭い鉤爪で器用にハンターの体を掴むと、渾身の力で水上へと飛び出し、巨大な翼を羽ばたかせた。

巣に戻った彼女は、枯枝で拵えた寝床にハンターの体をゆっくりと寝かせた。
するとハンターは口から水を噴き出し、僅かながらも呼吸を始めた。
生きている。
奇跡的に一命は取り留めたようだ が、決して予断が許される状態ではなかった。
顔色は真っ青に変色し、歯をガチガチと震わせている。
この状態が危険であることは変温動物である彼女にも生物的な直感で伝わった。
"凍えているのか…?"
雌火竜はハンターが身に纏っている服を翼爪で器用に引き裂くと、大きな翼と巨躯でハンターに覆い被さった。
決して体重は掛けず、まるで卵を温めるかのように。
火竜種は体内に火炎袋と呼ばれる器官を持ち、そこでブレスの火種を生成している。
故に、変温動物でありながらも体温を自在に上昇させることが可能である。
彼女は生まれながらにしてその特性を知っていた。
そしてこの人間を暖めるためにはその特性を利用するのがもっとも賢いということにも気づいていたのだ。

こうして、雌火竜は弱ったハンターの青年を抱いたまま、三日三晩暖め続けた。
無論、外敵から彼を守る必要があるため、睡眠など取っていない。
空腹感のあまり抱きかかえた人間が肉に見えることもあった。
それでも彼女はただひたすらに、彼が目覚めるのを待ち続けた。

鼻をくすぐる硫黄の匂い。空を覆う緑のカーテン。
自らの体を毛布のように包み込む大量の枯葉、そして枯枝。
意識を取り戻したハンターはその状況に言葉を失った。
断崖絶壁から落下していく光景こそ脳裏に焼きついているが、その後の記憶は霧散している。
自らの置かれた状況が全く飲み込めず唖然とするハンターの顔に、生暖かい風が吹き付けた。
「…寝息?」
ああ、確かに寝息である。
だがそれは間違っても人間のものではなかった。
喉を雷の如く鳴らして寝る生き物など、彼の知っている限り一つしかいない。
───ワイバーン。それも間違いなく、自分を崖から突き落としたあの雌火竜であった。
そうか、捕食目的で生け捕りにされたのだな…
恐怖と絶望で顔を強張らせるハンターの顔を、緑の天井から見開かれた大きな瞳が捕らえた。
覚悟を決めて目を閉じ、次に襲い掛かってくるであろう激痛に備えるハンター。
しかし、彼の予想を裏切り、雌火竜は一向にその強靭な顎を開こうとはしない。
いや、それどころか、彼女の目には殺気すら無いのである。
ハンターの覚醒を確認すると、リオレイアは彼の体を覆っていた翼をゆっくりと畳んだ。
ハンターは鈍った体を引きずるようにして彼女の懐から這い出し、周囲を不思議そうに見渡す。
まるで子犬のように丸まり、こちらを一心に見つめる雌火竜。
「まさかキミが…俺の命を救ってくれたのかい?」
愚問だと分かっていても、聞かずにはいられる筈がない。
飛竜が人間の命を救うなど前代未聞である。
ましてや自分は雌火竜の縄張りへと足を踏み入れた侵入者。
命を救われるような心当たりなど、何一つ無い。
しかし、彼女から投げかけられた純粋無垢な眼の前では、それらの疑念も塵と消えた。
「ははは…服を脱がせて暖めてくれるなんて、ギルド付きの看護師でもやってくれないよ。これじゃあ恥ずかしくて村には帰れないな」
全身素っ裸であることに気づいた彼は軽く顔を赤らめ、巣の周囲にボロ布のように捨てられていた自分の服を腰に巻きつけた。

見事な洞窟である。高い天井は厚い岩盤に支えられ、直射日光を防いでいる。
奥まった外壁から流れる滝は洞窟内の湿度を一定に保ち、洞窟の側方に開いた窓とも玄関とも取れる巨大な穴からは心地よい風と日の光が飛び込む。
ハンターがその幻想的な光景に酔いしれいていると、雌火竜は重い体を持ち上げ巣の奥へと歩き出した。
背後を見せた彼女に一層の警戒心を解いたハンターは、その後ろを追う。
と、程無く彼女は歩みを止め、こちらへと振り向く。
迫力に押され、思わず座り込むハンターの前に差し出されたのは草食竜の肉塊。
"腹が減っているのだろう?"
と言わんばかりにそれを差し出した竜は、また自らもその肉に食らいついた。
死後数日は経過しているようだが、不思議なことに腐臭は漂っていない。
成る程、この洞窟の気温と清冷な岩盤は食料を保存する上でも最適であるようだ。
…とはいえ、差し出されたのはただの生肉。
人間である彼にそれをそのまま食べろというのは酷であった。
「驚かないでくれよ」
彼は手馴れた手つきで周囲の石ころをかき集めると、それを円形に配置し、中心の穴へと枯枝を放り込んだ。
ギルド仕込みの着火法は即座に火種を生み、肉を焼けるだけの必要最低限の設備が整っていく。
「焼いた肉は嫌いかい?」
その光景を不思議そうに見つめる雌火竜にハンターが問う。
彼がこんがりと焼き目のついた肉を持ち上げると、竜は嬉しそうにそれを頬張った。

陽が沈む頃には、互いの警戒心は完全に消え去っていた。
ハンターは雌火竜の懐に身を預け、雌火竜はそれをやさしく翼で包み込んだ。

「名前…言ってなかったな。俺はベルティって言うんだ。」

洞窟の穴から差し込む月明かりに誘われ、ハンターがその口を開いた。

「幼い頃からモンスターが好きでね。特に飛竜種に対しては特別な憧れを抱いていたんだ。
 彼らの生態を知りたくて、ハンターズギルドの文献を毎日読み漁った。
 いつの間にか、村で最もモンスターの生態に詳しい人間になっていたよ。
 その功績が認められ、俺はハンターズギルドで働けることになった。
 嬉しかった。憧れの仕事だったからね。」

笑みを浮かべながら饒舌に語りかけるベルティと名乗るその男を、雌火竜は穏やかな表情で見つめていた。
しかし、男の笑顔は見る間にその明るさを失っていく。

「でも…現実はそううまく行かなかった。
 俺が配属されたのはギルド所属のハンター部隊だった。
 そりゃあ驚いたさ、飛竜種生態調査部門に配属されると思っていたからね。
 結局、重役はギルドのお偉方さんが牛耳っていたんだよ。
 俺はそれに踊らされただけの事だったんだ。
 そしてハンターとしての初任務がこのザマ。
 帰ったらなんて言われるか…」

心配そうにこちらを見つめる雌火竜の視線を気遣い、男は項垂れていた顔を上げた。

「でもこれで決心が付いたよ。俺はギルドを離れる。
 キミに助けられたという貴重な体験を元にして本を書くんだ。
 世界中の人間が驚くよ。竜にも情愛があるのだということを俺が証明して見せる。」

鼻頭を摩る男の手に雌火竜は喉を鳴らした。
言葉が伝わっている訳ではない。ただ、男の嬉しそうな表情が見れる、それだけで良かった。

「そうだ、キミも一緒に俺の村へ行こう!
 俺が一緒なら、村の皆も理解してくれる筈さ。
 この密林はハンターの狩猟区域、いつかキミも手練れのハンターに殺されてしまうよ。
 俺はそんなの耐えられない。」

急に大きな声を上げた男に困惑したのか、彼が何を伝えようとしているのか理解しようとしたのか。
雌火竜は首を傾げて、男の姿を見つめていた。
ベルティは身振り手振りを交え、必死にその意思を彼女に伝える。

「言葉が通じないんじゃあ無理だよな…」

男が諦めようとしたその時である。
竜は巨躯をゆっくりと持ち上げ、視線を遠方へと投げた。
何かを伝えようとしている。
直感的にそう感じた男は、彼女の視線の先へ駆け寄った。

骸だ。風化し、骨と皮だけになっていたものの、それは確かに骸であった。
大きな翼、大木ほどもある太い尾、岩と見紛う頭蓋…
骨格はリオレイアそのものであったが、その皮は炎のように赤い。

「リオレウス…?」

ああそうだ、間違いない。
飛竜種の生態について人一倍の知識を持つベルティは確信した。
この骸は雌火竜リオレイアと"つがい"になる雄火竜リオレウスのものであるということを。
そしてこの骸が、かつて彼女の夫であったということを。
だが、彼女が伝えようとしていたことはそれだけではなかったのだ。
リオレウスの頭蓋に深々と突き刺さった剣。と、その周囲に散らばる人骨。
ベルティはその剣に記された刻印がハンターズギルドのものであることに気づき、愕然とした。

「そんな…いや、ありえない…
 森林のリオレウスは個体数の少なさ故、狩猟が禁止されている筈だ。
 まさか密猟!?ハンターズギルドの奴ら、汚い真似を…」

彼が後ろを振り向くと、雌火竜は夫の亡骸の前で座り込んでいた。
その目から微かに零れ落ちた竜の涙は大地へと染み渡り、彼女の悲しみのように沈んでいく。

「グウゥォォォオオン!」

悲鳴のような咆哮を上げる竜の鼻に、再び男の手が乗せられた。

「何故…ここまで人間に酷い仕打ちを受けていながら、何故キミは俺を助けたんだ?」

雌火竜は男の手に顔を摺り寄せ、男もまたその顔を強く抱きしめた。

寂しかったのであろう。孤独で押しつぶされるほどに。
火竜種は孤高かつプライドの高い種族である。
何者にも縋ることなく、食物連鎖の頂点にあり続けなければならない。
ただ唯一、パートナーの存在を除いて。
孤高であるが故、パートナーに対する情愛は果てしなく深く、依存し合う。
彼女はその対象を突如として失ってしまったのだ。
心の傷はあまりに深く、別の相手を探すことも適わなかった。

そんな中、彼女が出会ったのがベルティであった。
崖下に突き落とされる直前に見せた男の目に、彼女は死んだ夫の眼光を見た。
どこか情けなく、どこか優しさを孕んだ瞳。
再び夫に巡り合えた、そう思った。

洞窟の穴から差し込む月明りが、身を寄せ合う男と竜を淡く照らしていた。

雫。
ぴちゃぴちゃと地表を濡らすその音が、彼らの抱擁を解いた。

「まだ泣いているのかい?」

男が竜の顔を覗き込む。
が、涙は既に止まっていた。
だが彼女がゆっくりと立ち上がった時、男はその正体を知ってしまう。

「…え?」

彼女の凛々しい足の付け根から、淫らな音を立て落ちる一筋の雫。
呆気に取られた男の視線から、雌火竜は自らの体に起こっていた変化にようやく気が付いた。

発情していた。紛れも無く。
パートナーを失い本性を隠していた雌としての本能は、眼前の男によって解放されてしまった。
脆弱で狡猾な種族、人間。
その前で誇り高き飛竜が、淫らに愛液を垂らしている…

"近づくな!"

雌火竜が一際大きく吼え、後退りを始めた。
目の前で立ち尽くす男に対する、最後の警告。
確かに自分は人間に心を許した。が、それには限度というものがある。
異種族間で肉体関係を持つなど言語道断。
ましてや相手は人間…これ以上進んではならない。
彼女の本能とプライドが、そう語っていた。
だが、牙を見せて威嚇する雌火竜に対して、男は臆することなく歩みを進める。

「意地を張ることはないよ。俺もキミが好きだ。愛している。」

男の手が、彼女の頬に触れた。
投げかけられた不器用な言葉。
地鳴りのような音を発していた喉はその声の前にぴたりと止まり、代わりに大きな翼爪が男の顔を掴んだ。
彼女は迷いを捨てた。
夫よ同胞よ祖先よ、笑いたければ笑うがいい。
私は、この人間を信じる。

男が竜の口先に唇をあてがい舌を差し入れると、彼女もそれに応じるように舌を差し出した。
決して牙で傷付けぬよう、慎重に、慎重に。
互いの舌と唾液が絡み合い、興奮が高まってゆくのを感じつつ、甘美な時間を堪能する二人。

「さあ、仰向けになってくれ」

やがて男は舌を引き抜き、こう告げた。
竜はされるがまま、男の手に身を委ねる。
まるで操り人形の如く、雌火竜の巨躯が天を仰ぐ。
続けざまに差し伸べられた手は翼膜を伝い腹を伝い、最も敏感な部分へと近づいていった。

「グ…ゥ…ル…ゥ…ウゥ…」

時折、びくん、と体を震わせ、快楽に喉を震わせる雌火竜。
その様子を伺いながら、男はその手をさらに滑らせる。
やがて到達した"そこ"は、既に彼女自身でびちゃびちゃに濡れていた。
甲殻に包まれていない柔らかな表皮を男の掌が滑り、周りの愛液を絡め取っていく。
一本、二本…
彼女の中へと侵入してゆく指が増える度、竜は翼と尾を激しく反らせた。

「痛かったら吼えてくれよ、直ぐにやめるから。」

差し入れられた男の指に順応し、息を荒げる竜。
その子犬にも似た喘ぎ声は洞窟の外壁に反射し、周囲へと響き渡った。
口から垂れた唾液は月光と交じり合い、彼女の鱗を艶かしく光らせる。
男は全ての指を沈めても尚飽き足らず、今度はそれを激しく動かし始めた。
野生では絶対に味わうことのない律動と、それに付随する快楽。
下半身が痺れるような感覚に、彼女の思考は白く塗りつぶされていく。

と、竜が脚をぴんと伸ばしたその瞬間である。
一抹の飛沫が男の指の間を付きぬけて飛散した。
"そこ"から噴出した透明な液体は見る間に量を増し、男の手と彼女自身の尾を濡らしていく。

「痛くなかったかい?」

男は静かに指を引き抜くと、朗らかに笑みを投げかけた。

竜は絶頂の余韻で力が抜けた体をよろよろと持ち上げ、首を伸ばした。
男の下腹部から立ち上る微弱な匂い。
野生生物に比べれは遥かに貧弱ではあるものの、それは確かに"雄"の証であった。
彼女はそれを頼りに首を伸ばし舌を這わせ、男の最も敏感な部分を攻め立てていく。

「うぁ…っ…あ…」

腰に巻きつけられていた簡素な布は無造作に捲り上げられ、隠れていた男根が露出する。
彼女の長い下が陰嚢の舌へと滑り込むと、敏感な器官全てをべろりと舐め上げた。
全身を突き抜ける快楽に男の脚はがくがくと震え、立っている事すらままならない。

「だ…だ、め…」

その顔色を上目遣いで窺いながら、男への愛撫に激しさを加えていく雌竜。
竿全体へと巻きつけられた舌は激しく前後に動き、男の快楽を貪る。
彼の体液は雌竜の口内で唾液と混ざり合い、びちゃびちゃと卑猥な音を立てながら二人の間へと零れ落ちた。

「で…る…」

限界が近い。
そう感じた彼は竜の頭を腕で押しのけようとした。
が、その性器は引き抜く際の快感に耐えられず、雌火の顔面へと白濁液を吐き出してしまう。
可憐で気品高い雌竜の鱗は、人間の精によって見る間に白く汚されていった。

「ごめんよ、こんなつもりじゃなかったんだけど…」

顔を赤らめる男を気遣うかのように、雌竜は長い舌で互いの体に付着した精液を舐め取っていく。
"これでお互い様だ"
そう言わんばかりに誇らしげな顔をした彼女は、男の唇を奪い取った。


長い口付けの後、彼女の鋭い眼光が再び男の"雄"を補足した。
…まだ萎えてはいないようである。
男を見つめたまま、雌竜の体が仰向けに倒れた。
その尻尾は前後に大きく振れ、男を彼女の秘所へと誘う。
どろどろに熟したそこは、まるで別の生き物のようですらある。

互いの体が接するまで、それほど時間はかからなかった。
男の上半身が雌竜の柔らかい腹部へと密着すると、
それを迎え入れるかのように彼女の翼が男の体を包み込んだ。

「グ…ゥウ…」

竜の喘ぎ声と共に、ぐちゃぐちゃと淫らな音が洞窟内に響き渡る。
男が徐々に腰を埋めると、あふれ出した愛液が彼女の足の付け根を伝い洞窟の地表へと染み渡った。
奥へ、少しずつ奥へ。

「は…っ…全部…入った…」

男の器官が全て消えたことを確認すると、雌竜は首を長く伸ばし男の口内に舌を忍び込ませた。
彼もそれに答えるように腕を伸ばし、彼女の首を強く抱きしめる。
その刺激は彼女の膣へと伝わり、激しい脈動を引き起こした。
まるで差し入れられた逸物のサイズに合わせるかのように、男のそれを強く締め上げていく。

「凄い…っ、も…もう…耐え…」

男はゆっくりと抽送を始めたが、彼女から断続的に与えられる強力な快楽の前に、その動きを失った。
瞬時に膨張した雄は彼女の中に大量の精液を吐き出すが、彼女の律動は尚も収まる気配が無い。
萎えかけの男根をさらに揉みしだき、一刻の猶予も与えず勃起へと誘う。
まるで無理矢理振らされているかのように男の腰が前後し、彼女の下腹部を奥へ奥へと突き上げる。

「アゥ…ッ!ゥ…ウウゥ…」

快楽を貪るように息を荒げ、翼を震わせる雌竜。
接合部から流れ出す愛液は更に量を増し、男が腰を叩きつける度にぺちゃぺちゃと音を発した。
男を包み込む翼に一層の力が込められる。
互いに限界が近かった。
と、その時、雌竜が尾と脚がぴんと天を突いた。
一際大きな咆哮が洞窟内に響き渡る。

「はあっ…はっ…出す…よ…!」
「グオォォォォォオオン!」

男の性器が大きく膨らみ、竜の子宮へと熱く練られた精液が叩きつけられた。
力なく崩れ落ちる二人の間から、どちらのものともつかない体液がごぽごぽと音を立て流れ出す。
朦朧とする意識。眩惑する視界。

「好きだよ、レイア…」

すべてが白く染まる中、竜と男は深い口付けを交わした。

洞窟の合間から見える星空は徐々に白みがかり、夜の帳が間もなく上がろうとしていた。
互いに身を寄せ合い朝日を待つ男と竜は、まるで一枚の壁画のように優雅で、あるがまま自然であった。

「レイア」

男の呼び声が彼女の耳へと飛び込む。
降り始めの雨音に遮られ今にもかき消されそうなその声は、
どこか吹っ切れたようですらある。

「どこか…遠くへ行こう。
 ハンターや人間の手が及ばないような秘境へ。
 キミが俺以外の人間に対して恐怖心を抱いていることはよく分かったよ。
 俺はキミの意思を尊重したいし、そのためなら村を捨てることも厭わない。
 探せばきっと見つかるよ。二人だけで静かに暮らせる場所が…」

言葉こそ通じないものの、雌竜は男の目と表情、そして仕草から、彼が伝えんとしていることを感じ取っていった。

「どうだい、悪くないだろう?」

安住の地を求めて旅をする…か。
全く人間らしい楽観的な考えだ。
この世に楽園など存在する筈が無いというのに。
…だが、この男と一緒にいられるのであれば、彼が与えてくれる情愛を享受し続けられるのであれば、それでも…

「うわあっ!」

突如発せられた男の声に、彼女の思考は寸断された。
洞窟に開いた巨大な横穴から突風が吹き荒れたのである。
岩盤の天井を叩く雨はたちまち豪雨と化し、密林に雷鳴が轟く。
洞窟内に立ち込める異様な殺気。
生い茂る苔や蔦さえもが、その存在に震え上がった。

古龍。
竜ではなく、龍の名を冠することを許された唯一の生物。
彼らに掛かれば、巨大なワイバーンですら捕食の対象でしかない。
それ故、彼らは食物連鎖の範疇に収まりきらず、存在そのものが天災とされていた。
洞窟に射し込んだ一筋の雷光がその姿を捉え、濃い影を落とす。
地表を捉える強靭な四本脚、空を切り暴風を巻き起こす漆黒の翼、すらりと伸びた長い尾。

「クシャルダオラ…?」

全身を錆びた金属の鱗で覆ったそれは、確かに風翔龍クシャルダオラであった。
この大陸に住む人間であれば、誰もが幼少期に奴の伝説を親から聞かされる。
見てはいけない。
気付かれてはならない。
雌竜と男は本能的に身を縮ませ、古龍がその場を去るのを待ち続けた。

「キュォォォオオオン!」

鉄板を引き裂いたかのような轟音。
古龍の咆哮が男と雌竜の耳をつんざく。
ああ、気付かれた。
睨まれたが最後、生きてその場を生還することは絶対に適わない。
ましてや美味しそうな獲物が二匹も眼前に転がっているのである。
助かる見込みなど無い。
しかし、雌竜は諦めようとしなかった。
彼女は鉤爪で男の体を優しく持ち上げると、渾身の力を込めて翼を羽ばたかせた。

「…え?」

だが時既に遅し。
雌竜と男の体が宙を舞う。
古龍の翼から巻き起こされた暴風は雌竜の翼を容易く奪い、彼らを地表へと叩き付けた。
幸い男の体は巣に敷き詰められた枯草の上に落下したが、背中に与えられた強力な衝撃により運動神経と呼吸器官が一時的な麻痺を起してしまう。
呼吸を奪われその場にうずくまる男へと、古龍が容赦なく歩を進める。

「レ、イア…俺は…放っ…逃、げ…っ」

よろよろと力なく立ち上がった雌竜が、古龍と男の間に割って入った。
鋭い眼光を向ける彼女に古龍は唸り声を上げ、大きく息を吸い込む。
同時に、雌竜の翼が左右に大きく広げられた。

「グウゥ…」

古龍が放った巨大な竜巻に耐えられず、彼女の片翼が小枝のように折れ曲がった。
風の刃によって緑色の美しい甲殻はズタズタに引き裂かれ、足元を赤く染めていく。

「お願いだよ、逃げてくれ…このままじゃ…キミが…」

男の声も虚しく、雌竜の体が力なくその場へ崩れ落ちた。
古龍はそれを確認すると彼女の首へと近づき、凶悪な牙を向ける。

「俺の…大切なヒト…なんだよ…お願いだ…殺さないで…くれ…」

必死に立ち上がろうとする男を嘲笑うかのように、彼の膝はがくがくと震え、起立を許そうとしない。
みしりと音を立て、古龍の牙が彼女の首筋へ姿を消そうとした、その時である。
雌竜の鋭い眼光が古龍の顔を睨み付け、その動きを封じた。
思わずたじろぎ、後退る古龍。
その瞬間を狙っていたかのように、雌竜の尾が大きく後方へと持ち上げられ、驚異的な速度で振り下ろされた。
反動で彼女自身の体が大きく空中で弧を描く。

「ギャアアアッ!」

彼女の尻尾は古龍の顎を確実に捉えていた。
鋼で生成された骨格が大きく湾曲し、悲鳴を上げながら洞窟から飛び去る古龍。

「レイア!」

痛む体をずるずると引きずりながら、男は彼女の元へと駆け寄った。

「ああ、酷い怪我だ…無理しすぎだよ、キミは…」

涙をこぼしながら笑いかける男に、雌竜は口元を緩ませた。
頭上から流れる血は視界を遮り、目に映る男の顔さえも赤く染め上げていく。
もう、助からない。
そう察知した竜は自らの尾を口で咥えると、一枚の鱗を剥ぎ取り、男の手に握らせた。
竜の逆鱗。
触れると必ず殺されると伝承されるその鱗は、竜にとって力の根源であり、象徴でもあった。

「ダメだ…死んじゃダメだよ、一緒に秘境を探そうって約束したじゃないか
 ほら、俺を背中に乗せてくれよ、どこへでも付いて行くから…」

男が彼女の顔を抱きしめると、それを包み込むように片翼が差し伸べられる。
互いの顔を覆い隠す緑のカーテン。
その中で、竜と男は最後の口付けを交わした。

雌竜の瞳がゆっくりと閉じられ、まるで眠るようにその巨躯が崩れ落ちてゆく。
彼女は男の胸に抱かれ、静かに息を引き取った。
夫の待つ世界へと、旅立った。

「どうして、俺なんかのために…
 どうしようもない屑なのに…
 あの時、彼女一人で逃げようと思えば逃げられた筈なのに…」

男は、彼女の遺した逆鱗を握り締めたまま泣き崩れた。
嵐が過ぎ去りようやく姿を現した陽光は、鮮血に染まる竜と男の背中を冷たく照らした。




男がその洞窟を離れたのは、それから数刻ほど経過してからの事である。
その手には雄火竜の頭蓋に突き刺さっていた剣が握られていた。

「ただいま」

雌火竜との出会いと別れから数週間。
風化した彼女の頭蓋の前に、男の姿があった。

「俺だよ、ベルティだ。分かるかい?」

全身を鋼の鎧で覆い、背に二本の凛々しい剣を携えたその姿は、以前の彼とは想像もつかないものであった。

「あれからずっと考えていたよ。 
 キミが俺に渡した逆鱗の意味を。」

男は鞘から剣を抜き取り、彼女の眼前に掲げた。

「キミが託したメッセージとは違うかもしれない。
 でも、今の俺には"あいつ"を忘れることが出来ないんだ。
 最後まで不器用な奴で、ごめんよ。」

双剣リュウノツガイ。
雄火竜の脳髄によって赤く染め上げられた剣と、雌火竜の逆鱗によって美しい緑色に磨き上げられた剣。
その二本が対となり、竜の"つがい"として男の手に収まった。

「じゃあ行こうか、ふたりとも」

男は剣を鞘へと収めると、嵐の吹き荒れる密林にその身を投じた。



───その後、ベルティという名の男が村に帰ることは二度となかった。
狩猟に出発する前日に書き残した狩猟記録書が、彼が存在したことを証明する唯一の記録となっている。
狩猟中の事故で命を落としたのか、別の土地へと移り住んだのか、その一切が謎である。

また、その数日後に、風翔龍クシャルダオラの亡骸が密林の砂浜に打ち上げられたという記録が残っているが、彼の失踪との因果関係は定かではない。


感想

  • よい物語で感動しました。
    形見が武器になったというオチが気に入りました。

    仮にアニメ化でもされてくれれば
    俺は近所の公園で一日中逆立ちしながら歌を歌っていられるでしょう。 -- helloagain (2007-11-05 22:26:34)
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