クリフトとアリーナの想いは @ wiki

2012.05.29

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kuriari

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クリフトのアリーナの想いはPart12.5
357 名前: サントハイムの玉座 1 Mail: sage 投稿日: 2012/05/29(火) 01:27:57.64 ID: Mm4l045S0

~サントハイム城の玉座~


風薫る5月。導かれし者達が世界を救った旅から5年――
ここサントハイム城では、壮大な式典が催されていた。

女王アリーナの戴冠式である。

厳かな空気の中、一国の女王となったかつてのおてんば姫は、優雅な気品を纏い、
深く玉座に腰を下ろした。サントハイム国王のみが座ることを許される、代々
受け継がれてきた由緒正しき玉座。その美しい真紅の座面は、新しい女王を認め
受け入れるように、優しくアリーナを包み込んだ。それはまるで――

…クリフトのホイミみたい…

女王は口元に穏やかな笑みを浮かべ、遠い旅の日々に静かに想いを馳せた。

それもそうよね。だってこの玉座は――



『バルザック討伐は、私達で行かせて。』

サントハイムの姫と従者、そしてモンバーバラの姉妹は静かに、しかし強い語調で
勇者に話を切り出した。特にアリーナとマーニャは、いつになく真剣な面持ちだ。
「無茶ですぞ、姫様!勇者殿を含めた編成でなければ!」
「そうですよ、みなさん。今の城の中がどんな状況かもわからないのに。」
「それに城内では、マーニャ殿の火炎呪文は多用出来かねるのでは…。」
ブライ、トルネコ、ライアンの3人は、若者達の申し出に釘を刺す。
父王も民も一晩で消されてしまったこの城の王女と、その一番の臣下、父親を無残に
殺され、その研究成果までも奪われてしまった姉妹。彼女達の無念さは確かに
計り知れないものがあるが、それでも実際仇を討伐に行くにあたって、計画性のない
編成で向かっては返り討ちにあうというもの。
「勇者殿、何とか止めてやってくだされ!」
年配の3人は若きリーダーの返答を促した。しばし沈黙を守っていた勇者は、深く息を
つき、アリーナ達を見据えて口を開いた。
「わかった。バルザック討伐はお前達に任せる。ただし、」
勇者の深緑の瞳が、アリーナ、クリフト、マーニャ、ミネア、一人ひとりを映し、揺れる。

「必ず生きて、4人全員で帰ってきてくれ。」


「バルザックはきっと…玉座にいるわ。」
魔物の巣と化したとは到底思えぬ美しい城の城壁を見上げ、マーニャは確信したように
呟いた。その横顔はいつもの陽気な表情ではなく、ミネアは改めて姉の決意を感じ取った。
「キングレオ城でもそうでしたからね。強欲の権化のような男です。アリーナさん、
クリフトさん、玉座までの最短の先導をお願いします。」
「……」
「わかりました。さぁ、参りましょう、姫様。」
無言のアリーナに代わり、クリフトはそっとアリーナを促して城の重い扉に手をかけた。

ゴ…ゴゴ…ゴゴゴゴ……

扉の奥から、異常な静けさと魔物の蠢く気配が溢れ出す。

憎き仇は玉座に、いる。

それぞれの想いを胸に、4人は一気に駆け出した。


階段の上からより一層邪悪な瘴気が流れてくる。決戦のときは近い。
「この先が玉座です。私とミネアさんでサポート致しますが、ライアンさんが仰ったように
マーニャさんの呪文が使いにくい状況ですから、長期戦になるのは否めませんね…。」
クリフトは、あくまで平静を保つよう心がけ、端的に述べた。サントハイムの城を牛耳る
バルザックは確かに憎いが、憎悪の渦に飲まれては正しい判断が出来なくなる。補助役の
自分がそうなっては討伐はおろか、大切な姫君を守りきることすら出来なくなる。

このサントハイムで姫様が…そんなことはあってはならない。断じて!

クリフトは硬く拳を握り、アリーナの方を振り返った。じっと俯いたままのアリーナの表情は
窺えない。玉座の方を覗き見ると…いる。青黒い醜い巨体の魔物が。
「バルザック……!!」
「まさかあんな姿になってるなんて…!」
姉妹は唇を噛み締め、苦々しくその名を口にした。美しい二人のおもてが苦悶に歪む。
その時、込み上げる怒りに打ち震える声でアリーナは呟いた。
「…さない……さま…の…」
「姫様?」
緋色の瞳に憤怒の炎を宿し、王女は叫んだ。

「お父様の玉座を汚すなんて、許さない――!!!!」


「お待ちください!姫様!!」
クリフトの制止も聞かず、アリーナは山のような巨体に飛び掛かった。瞬速の拳がバルザックの
腹部にめり込むように沈む…が――
「!!!き…効いてない!?」
ドラゴンのように硬い皮膚と肉塊に阻まれ、全くダメージを与えられない。
「なんだ、貴様は?…あぁ、異空間に消され損ねたと言うこの城の王女か。その奥にいるのは
エドガンの娘どもだな。貴様ら如き人間が何人で掛かってこようと、進化の秘法の力を得た
バルザック様の敵ではないわっ!」
振り下ろされた棍棒がアリーナの頭上に迫る。瞬時に飛び退いたが、その風圧で小柄な少女の
身体は吹き飛ばされた。
「きゃあぁぁぁーっっ!!!」
「ひめさまーっっ!!」
クリフトは身を投げ出すように飛び込み、アリーナの身体を抱き留めた。
「大丈夫ですか、姫様っ!なんと言う無茶をなさるのです!!」
「っ…だって…だって…!!おと…さま…ぁっ」
怒りと涙で瞳を潤ませ、アリーナは言葉を紡ぐことすら出来ず、クリフトの胸に臥せった。
クリフトは腕の中のか弱き少女をしっかりと抱きしめ、眼前の敵を見据えた。

姫様の攻撃が効かないとは…回復と補助呪文を掛けたところで、こちらがやられてしまうのは
時間の問題…一体どうすれば――

戦況を思案する神官の前に、すっと褐色の舞姫が立ちはだかった。その右手は、呪文詠唱時特有の
光を纏っている。
「マーニャさん!だめです!!ここで火炎呪文を放っては…」
慌てて自分を止めようとするクリフトをちらりと振り返り、マーニャは不敵な笑みを見せた。
艶やかな紫の髪がふわりとなびく。
「安心なさいな、坊や。誰が火炎呪文を使うなんて言った?」

「ルカニ!!!」

マーニャの指先から走った青い閃光は、縄のようにバルザックに纏わり付く。
「今よ!泣いてちゃだめ!行きなさい、アリーナ!!」
その言葉に弾かれたように顔を上げ、アリーナは立ち上がった。改めて身を構え、バルザックへと
突き進んでゆく。
「はぁぁぁあああッ!!!!」
怒涛の如く叩き込む拳は、先程より確実にバルザックにダメージを与えている。
「ぐぅう…!小賢しい人間どもめっ!!」
バルザックは身を仰け反らして大きく口を開いた。次の瞬間、身を切るような猛吹雪が渦を巻いて
アリーナ達に襲い掛かる!

「フバーハ!!」

「!!?なんだ、この光は!?」
バルザックが放った吹雪は淡い光のベールに包まれるように消えた。その光の先に立つのは、
もう一人のエドガンの娘。
「バルザック…あなたは魔の力を得て進化したのかもしれませんけど、私達もあの頃とは違います。
大切な仲間を、守るべきものを…そう、光の力を得て進化しているのです!」


その後もアリーナ達の猛攻が続いたが、やはりその巨体ゆえ決定的なダメージはなかなか与えられず、
アリーナの体力、クリフト達の魔力もその限界が見え始めていた。

致命傷を与えるには、やはり頭部を狙うしか…しかし姫様の跳躍力をもってしても、そこまでは
届かない……!そうだ!!

「マーニャさん、あの呪文をお願いします。」
クリフトはバルザックに気付かれぬよう、素早くマーニャに耳打ちした。
「!!なるほど、そういう事ね。了解!」
マーニャは茶目っ気たっぷりにウィンクを送り、呪文詠唱の構えに入る。クリフトはバルザックと
対峙するアリーナに向かって叫んだ。
「姫様!マーニャさんの後ろにお下がりください!!」

「天にまします竜の神よ、我にその御力を与え給え……ドラゴラム!!!」

その言葉と共にマーニャの身体は光り輝き、バルザックと変わらぬほどの巨大な竜に姿を変えた。
「今ですっ!!姫様っ!!!」
クリフトの眼光ですべてを理解したアリーナは、ドラゴンの背を一気に駆け上がった。
「てやぁぁぁあああッ!!!!」
巨竜の頭上から飛び上がったアリーナは、渾身の一撃をバルザックの脳天に放った!
「ぐわあぁあぁぁあああッ!!!」
バルザックの身体は地面に沈み、再び起き上がることはなかった。暫くしてその身のまわりに
黒い霧が澱み、一瞬人間の姿に戻ったが、骸は跡形も無く消えた。その傍らに遺されたのは、
粉々に砕けた玉座のみであった…。

「バルザック……」
「父さん、仇討ちは終わったわ…。」
哀しいながらも、漸く安堵した表情を見せた姉妹達の傍で、アリーナは複雑な面持ちでいた。
「お父様の玉座が……」
壊れた玉座の前で膝を付き、泣き崩れる王女。一般の民であるマーニャとミネアには、掛ける言葉が
見つからなかった。
「バルザックを倒しても、お父様も…誰も戻ってこないなんて…。どうして?どうしてなの……」
「アリーナ…」
「アリーナさん…」
声を掛けあぐね、戸惑う姉妹に軽く目礼をし、サントハイムの若き神官はそっと王女の傍らに
しゃがみ込んで、まるで幼子をあやすように柔らかな声で話し始めた。
「姫様、大丈夫ですよ。大丈夫です。ほら、思い出してください。先程バルザックは、城の皆さんは
『異空間に』『消された』と言っていたでしょう。それはつまり誰も『殺されて』はいないと言う
ことです。きっとご無事なのですよ。ただ、消した張本人がバルザックではなかったので、倒しても
残念ながら呪いは解けなかったのでしょうね…。」
「クリフト……」
「おそらく首謀者は、もっと強大な悪…デスピサロ…。それを打ち滅ぼせばきっと…!さぁ、姫様、
いつまでもここで泣いてはいられませんよ。立ち上がって、王様や城の皆さんの笑顔を取り戻すための
旅を続けましょう!」
「…うん!」
泣き腫らして赤くなった目を擦りながら、それでもアリーナは精一杯の笑顔で力強く立ち上がった。


「おっと、その前にやらなくてはならないことが。」
クリフトはそう言って玉座の残骸の方へ向かう。アリーナ達は不思議そうにその背を見つめた。
「どうしたの、クリフト?」
「姫様の愁事をこのままにしておくわけには参りませんからね。さて、上手くいくかどうか…」
アリーナにいつもの優しい笑みを送り、クリフトは呪文詠唱を始めた。淡くほのかな光が彼の掌から
発せられ、緩やかに玉座を包んでゆく。

「神よ、癒しの御力をどうぞこの玉座に注ぎ給え……ベホマ!!」

「!!!?」
その刹那、玉座は眩くきらめき…なんと、元の荘厳な姿を取り戻した!
「やるじゃない、坊や!」
「物質に回復呪文を掛けるなんて…!神業ですわ、クリフトさん!!」
「すごい、すごいわ!クリフトっ!!」
大喜びで駆け寄るアリーナ達の目の前で、クリフトは力尽きたように倒れ込んでしまった。
「クリフト!?大丈夫?クリフトっ!!!」
「…どうやら魔力を使い果たしてしまったようですね。アリーナさん、大丈夫よ。少し気を失って
しまっただけのようですから。暫くすればお目覚めになりますわ。」
「やれやれ、愛しの姫様のために無理するからよ。アリーナ、お姫様のキスで起こしてあげれば?」
「っ…!!ちょっと、マーニャっ!!!」
アリーナは顔を真っ赤にし、この日はじめて心からの笑顔を見せた――



城に集まった群衆の歓喜の声に、女王はふと我に返った。

そう、この玉座はあの時クリフトが癒しの力で『治して』くれたのだものね…

その後、神聖な戴冠式は滞りなく終了し、自室に戻ったアリーナはいつもの軽装に着替え、ようやく
一息つくことができた。ぐんと大きく伸びをしてソファに腰掛けた時、コンコンとドアをノックする
音が聞こえた。
「クリフトです。失礼致します。」
いつも通り礼儀正しい口調で―今やサントハイム正教会の大神官となった―クリフトが部屋にやって来た。
「おめでとうございます、姫様!本日は大変素晴らしいお式でございました。このクリフト、これほど
感動したのはエンドール武術大会以来でしょうか…!!」
「ふふふ、ありがとう。でもクリフト、私はもう姫様じゃないわよ?」
「はっ!し、失礼致しました!女王陛下ですね!!」
「もう、そうじゃないでしょ。」

アリーナ、でしょ?

女王は大神官の耳元でそう囁いて、唇を寄せた。


花嫁の永久(とわ)の幸せが約束される6月。
ここサントハイム城では、新女王と大神官の盛大な結婚式が予定されている――




<FIN>


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