クリフトとアリーナの想いは @ wiki

2008.09.11

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kuriari

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クリフトとアリーナへの想いはPart9
387 名前: 眠り姫1/6 ◆HDjZd37Phw  Mail: sage 投稿日: 2008/09/11(木) 17:12:36 ID: BDHvxGK80

地獄の帝王エスターク撃破から一夜が明けた今日。
皆の集まったテーブルの上には、瘴気渦巻くエスターク神殿で見つけた
一つの古ぼけた壷が置かれていた。

「なんだかわかるか?トルネコ」
トルネコはその壷を撫でたり、振ったりしながら、「うーむ」と唸った。
「私にはガラクタにしか見えないんですけどね。ただ……」
「ただ?」
「リバーサイドで耳にした話が気になりまして」
ソロたちは黙って話の続きを待った。

「その昔、人も空飛ぶ乗り物を持っていた、と。
 しかし地獄の帝王がその乗り物の源を奪い、地底に封じた……」
「よくそんな話を覚えておるものよ」
感心しきり、といった風情のブライ。
「どんな所に商売の種が落ちているとも限りませんからね」
「いやはや、商魂たくましいなぁ」
ライアンが肩を揺すって笑う。

トルネコは少し照れ笑いを浮かべたが、すぐに真顔で断言した。
「これはあの神殿から出てきた壷ですから、間違いなく、空飛ぶ乗り物の源ですね」
「……そういえばリバーサイドに、その乗り物を作りたいと言ってた学者さんが!」
「いたいた!そうよ。それがあれば、宝の地図の、あの岩山の先にも行けるじゃない!」

そういうわけで一行は、リバーサイドへと赴いた。

リバーサイドに住む学者は、一目見て「その壷を譲ってください」と願い出た。
それが目的で来たと告げると、
「必ずお礼は致します!明日には気球を完成させてみせましょう」
学者は図面の束を抱えながら、自信たっぷりに笑った。

「明日、また来てくれって。それまでは自由行動にしようか」
学者の家から出てきたソロは、外で待っていた仲間達に提案した。
ブライがやれやれといった様子で、腰をとんとんと叩きながら、早々に歩き出す。
「わしはちぃと疲れたので、宿をとるとしますかな」
「トルネコ殿、武器屋に付き合ってはくれぬか」
「ええ、行きましょう」
二人は談笑しながら、船に乗り込んだ。

それを見届けたマーニャが何を企んだのか、ミネアを目で促し、ソロの背中を押した。
「あたし達も船で遊ぼ!ね、ソロ」
「んえええ?なんで俺も?!」
「いいからさ。ほらほら、早く」
「なんでー?」
「じゃあねぇ、お二人さん」
背を向けて手を振るマーニャに引きずられながら、ソロの姿が船内に消えていった。
それとほぼ同時に船は前進し、ゆるゆると川を進んでいく。
取り残されたアリーナとクリフトは、対岸へ向かって進みだした船尾を、
突っ立ったまま、ぽかんと見送るばかりだった。

「―――もしかして、のけ者にされてない?わたしたち」
アリーナが悔しそうに地面を蹴る。
「まったく!あの人はどうしてああも……」
低くうめいたクリフトに、アリーナは首をかしげた。
「ん?何か言った?」
「い、いえ。何でもございません」
「あら、そう?……うーん。仕方ないから、二人で散歩でもしよっか」
アリーナはクリフトの袖をつかむと、腕を大きく振って歩き出す。
「は、はい。お供いたします」
上気した顔を悟られまいと少し俯きながら、クリフトは同じ歩幅で歩き出した。

暫くするとアリーナが、「この前見つけた場所に行きたい」と言い出した。
暗いトンネルを抜けると小さな原っぱがあり、右手には川、
左の奥は林に囲まれている静かな場所だった。

「今日はあのお爺さんいないのね。釣りはお休みかしら」
辺りを見回しながらアリーナが腰を下ろす。
クリフトはアリーナから一歩下がったところに立っていた。
「クリフトも座ってよ。久しぶりに物語でも聞かせて欲しいわ」
自分の隣をぽんぽん、と叩きながら言う。

アリーナは幼い頃から本を読むのが嫌いだった。
だが物語そのものは好きだったので、退屈な時は決まってクリフトにせがんだ。
神学書をはじめ、説話集、歴史書など、サントハイムの書庫にある本という本を
全て読破していたクリフトは、アリーナの本代わりでもあった。
それに、クリフトの温かく、耳に心地よく響く声が好きだというのも、
せがむ理由の一つだった。

クリフトは控えめに、少し後ろに座した。
「どんな話にしましょうか?」
「そうねぇ。ちょっと眠くなってきたから、そういうのない?」
「ありますが……姫様、途中で寝てしまわれそうですね」
「寝ない、寝ない」
かぶりを振るアリーナに微笑みかけ、
「寝てしまわれても、構いませんよ。それでは―――」
すうっと川風を胸に吸い込むと、クリフトは語り始めた。

「昔、ある国にとても仲の良い王様とお妃様がおりました。
 二人の間に子はまだ無く、お妃様は来る日も禊ぎをして願を掛けていました。
 ある日、一匹のカエルが言いました。
 貴女は一年以内に女の子を授かりますよ」
「何でカエルなの?」
「カエルは卵をたくさん産みますからね。子宝の象徴なんです」
「そうなんだー」
アリーナがうつ伏せになり、頬づえをつく。

「お妃様は間もなく美しい女の子を産みました。
 王様はとても喜んで祝宴を開き、国内の魔女を十二人呼びました。
 ですが、本当はこの国には、十三人の魔女がいたんです」
「わかった!不吉な数だから呼ばなかったのね」
「そうです。怒った魔女は宴に乱入して、姫に呪いをかけました。
 十五歳で糸車の針が刺さり、死んでしまうと。
 すると、一人の魔女が進み出てこう言いました。
 私は先の呪いを解くことはできませんが、弱めるくらいならできましょう。
 姫は死ぬのではなく、百年の眠りにつくのです」
「百年かぁ……退屈ね。体が鈍っちゃうわ」
今度は仰向けになり、頭の後ろで両手を組んだ。
いかにもアリーナらしい言葉に笑いが込み上げてきたが、クリフトはそのまま続けた。

「王様は直ぐに国中の糸車を燃やし、呪いがかからないように用心しました。
 そののち、姫はそれはそれは美しく、優しく、聡明に育ちました。
 ちょうど十五歳になった日。
 古い塔の上で糸紡ぎをしていた老女に出会いました。
 初めて見た糸車に興味を持った姫が指を伸ばすと」
「刺さっちゃったの?」
「はい。姫はそれきり、長い長い眠りに落ちました。
 その間に城は茨で覆われ、美しい姫が眠っているという噂を聞きつけた
 男達が侵入しようと試みても、鋭い棘で命を落としていきました」
「……」
「百年が経ち、隣国の王子が茨の城にやってきました。
 王子が進むと、不思議な事に茨が道を開けていきます。
 塔にたどり着いた王子は、眠り姫の美しさに息を呑みました。
 そして王子は姫に」

クリフトが言葉を切った。
左隣からは、すうすうと、規則正しい寝息が聞こえてくる。

「やはり眠ってしまわれたのですね」
クリフトは穏やかに微笑むと、うっとりとした瞳でアリーナを見つめた。
その瞳には、忠臣のそれとは違う、別の感情が滲んでいる。
戦いのときには真っ先に躍り出て敵をなぎ倒していく猛々しさもあったが、
こうして見つめている寝顔は、まだあどけなさの残る可憐な乙女そのもの。

長い睫毛。通った鼻筋。そして、真紅の薔薇が咲いたように艶やかな唇。
匂いたつばかりの美しさ……。
――――まだ、物語の余韻に浸っていたのかもしれない。

「私は王子ではないが……
 貴女のためなら、茨の道を歩む事も厭わない」

クリフトは上体を倒し、アリーナの耳の横に左肘をついた。
覆いかぶさるような体勢で真上から美しい眠り姫を見下ろすと、
見えない糸に引っ張られ、息がかかるほどまで近づいていった。
おもむろに瞼を閉じる。

「私は姫様を、あ……」

唇が触れそうになったその時―――。
川魚が勢いよく跳ねあがり、ちゃぽん、という水しぶきの音が静寂を破った。
クリフトの体が一瞬金縛りにあったように硬直したが、次の瞬間には目を見開き、
体を起こして後方へと飛び退った。

風が渡る銀色の水面には、緩やかな波紋が拡がっていた。
―――アリーナは未だ、夢の中。

「わ、私は、一体なにを……!」
口元を手で覆い、乱れた呼吸を必死で整えようとしたが、
心臓が早鐘のように鳴り響き、全身の血が一気に頭にのぼっていくのがわかる。
「な、なんて、こと……」
くぐもった声で繰り返すと、今度はどっと水を浴びせられたように、
冷や汗が噴き出した。

なんて愚かなことを!
私は姫様が目覚めたときに、今までと変わらず平静を保てるだろうか……。
虚ろな目で宙を見つめたままのクリフトの顔が、苦悶で歪んでいた。

「ああ、神よ!どうか、罪深い私をお赦しください……」



392 名前: 眠り姫6/6 ◆HDjZd37Phw  Mail: sage 投稿日: 2008/09/11(木) 17:19:50 ID: BDHvxGK80
(おまけ)

実はこっそり物陰で見物していた五人は、放心しているクリフトに気取られないように
その場を離れ、宿へと向かっていた。

「ちょっとー!!見た?あれ」
「ブライが居なくてよかったよ、マジで」
「それにしても、あともうちょっと、だったんですけどねぇ」
「おしいですなぁ。あそこで魚が跳ねたりしなければ!」
「でも寝ている女性にあんなこと……ほんとにしてたら見損ないますよ」
「確かに。無抵抗の女に手を出すなんて、俺のポリシーに反する!!」
「抵抗されたいの?!」
「ちょw違う違う」
「……不潔」
「しっかし・・・・・・あのキザなセリフ、聞いたー?」
「クリフト殿はかなりのロマンチストですな」
「若さ、でしょうねぇ」
「あーあ。せっかく二人きりにしてあげたのに、結局今日も進展なし、か」

「「「「「ずっと、このままだったりして」」」」」

重なり合った五人の声が、風に流されていった。




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