創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

「ヒューマン・バトロイド」 第6話

最終更新:

ParaBellum

- view
だれでも歓迎! 編集
[退け!小僧!]
「うぉぁ!?」
リキの後ろの部隊に容赦なくミサイルを連射するウィンス。
悪態をつきながらも、その隙にウィンスに襲いかかる敵機に射撃を行うリキ。
多すぎる敵、対してこちらに増援は無い。
場所は大西洋上、地中海を通ってジブラルタル海峡を抜けたスタークは同盟の中心、EUの本隊による攻撃を受けていた。
目に見えるだけで巡洋艦が5隻、輸送機が12隻、HBの数は1000に届くほどだ。
死機使いの時はほとんどがオートパイロットだった為、比較的戦闘に負担は無かった。
しかし、今回の相手は有人。しかも本隊のパイロットというだけあって優秀なパイロットが多かった。
スタークは全速力で戦線を離脱しようとするが、思うように進めていない。
「くそっ、ここまで狙われるとは……」
[当たり前だ。この艦は戦うたびにエース級を退けているからな]
「強すぎるのも考え物だなっと」
近寄ってきた大型一区分をブレードでいなして、バランスを崩した敵機に連射する。
リキの操縦技術は一般兵の枠を超えているが、機体は一般機の為狙われやすい。
「本当に、そろそろ撤退しろよ!」
ミサイルが一気に放たれて爆炎をまき散らす。


[貴様が白い魔弾だな?]
リクは戦場の中心部で過激な攻撃を繰り返していた。
人を殺さない様に、戦闘力のみを奪う戦い方は意外と疲れる。
そんなリクの耳に音声が聞こえた。その声と同時に攻撃が薄れる。
声の方向を見るとそこには7機のHBが悠然と佇んでいた。
「何者ですか?」
HBのデザインは統一されているが、一機だけアレンジが違う。
恐らく特殊な部隊、その機体は隊長機なのだろう。
しかし、その意図が見えない。その部隊のHBは一切火器を搭載していないからだ。
[我々は同盟軍所属特殊部隊、聖剣騎士団]
[そしてここにいらっしゃるのが我らが聖剣騎士団団長にして、同盟軍最強の戦士!「剣帝」銀騎士(シルバーナイト)様だ!]
銀騎士と言われた隊長機は他のHBの包囲網の中に進み、剣をこちらに向けてこう言った。
[連邦軍のルーキー、白い魔弾!我は貴様に剣による一対一の真剣勝負を申し込む!]
恐らく、このエースの実力は本物だ。若いながらも芯の通った声は、否応なしにこちらを緊張させる。
同盟軍最強の名に間違いはないだろう。
さらに言えば、この空気感。
周囲の敵機は彼の声が響いた瞬間に戦闘をやめた。
銀騎士の戦闘が常に一騎打ちである証拠でもある。
既に銀騎士は剣を構えてこちらの隙を窺っている。
手に持っていた武装はグラビティライフル。これでは戦えない。
リクは唾を呑み、背中にマウントされている二つの武器の内、ひとつに手を伸ばす。
武器を保持していたアームの力が無くなると同時に、グリップを掴んで構える。そう、重力場レールガンを。
[のぉぁ!?]
一気に構えたレールガンを一気に撃ったが、紙一重でかわされた。
[貴様……卑怯者め!その大剣で勝負しろと団長は言ったのだぞ!?]
[そうだ!恥を知れ!]
リクはため息交じりに言った。
「相手の射程外からの攻撃は基本でしょう?むしろそれを捨てろと言ってくる貴方達の方が卑怯者では?」
『マスター……外道ですか?』
イザナミにまで言われた。少し落ち込む。
[我々は騎士道に基づいた決闘を申し込んだのだぞ!それを無視するなど――]
「誰がその決闘を受けたんですか?そもそも騎士道なんて僕知りませんし……」
呆れるリク。こんな駄々をこねる子供の様な部隊が同盟軍最強?黒揚羽の方が強かった筈だ。
「とにかく、そちらの意見なんて知ったこっちゃありませんから」
連射されたレールガンの黒い光が銀騎士を襲うが、銀騎士はそれを避け続ける。
[おのれ、ホワイトブレッとぉぉぉぉ!?]
避けた所にグラビレイトのドロップキックが命中する。
装甲をへこませた銀騎士は海に墜落して沈んでいく。
「軍隊はいつからこんなふざけた集団になったんだか……」
ぼそりと呟くリクに激昂する聖剣騎士団。
[よくも団長を!]
[貴様は許さん!]
6機が一気に剣を構えて突っ込んでくる。訓練はされているのか、フォーメーションはしっかりしている。
リクはライフルをマウントすると、ブレードを取り出してワイドグラビティを牽制に放つ。
時間差攻撃の間を自分に対応できる絶妙な間隔に調整すると、レールガンを撃つ。
2機が一気に腕を失ってバランスを崩す。
3機の攻撃をかわすと最後の一機の攻撃をブレードで弾く。
距離を取ってレールガンをマウントしてブレードを構えなおすリク。
一気に振り回して下段に構え[まだどぅぁ!?]たらブレードの峰が何かに当たった。

少し視点を変更して今の場面を見てみよう。
海に沈んだ銀騎士はすぐに意識を取り戻す。
「く、まだ負けでは無い!」
すぐに機体のブーストで海上に上がる。
水面が近くなる、機体が水の抵抗で悲鳴を上げる。水圧の変化で意識が飛びそうになる。
銀騎士は自分を奮い立たせるために声を上げる。
水面に出るのとほぼ同時に、水面近くにいたグラビレイトの大剣の峰が迫ると同時に。
「まだどぅぁ!?」
今度こそ銀騎士は完全に意識を落とした。
[団長ぉぉ!?]
6機のHBは我先にというように水中へと飛び込んで行った。
「えっと……あれ?」
間抜けな倒し方でリクは同盟軍最強のエースを戦闘不能にしてしまった。


「戦況はどうです?」
ハーミストの声には焦りが含まれている。
正直言って、現在のスタークはかなりぎりぎりな状態だ。
既に4つのメインブースターの内1つが沈黙、2つも危険な状態になっている。
補助ブースターも3基が煙を上げている。
武装面ではミサイルが残りわずかなのと、フィールド用のエネルギーが切れかけている。
艦底レールガンもオーバーヒートしている。
「かなりつらい状況ですが、イザナミさんからの通信でリク君が銀騎士を撃墜したそうです。敵はかなり動揺しています」
「銀騎士を!?あいつ何したんだ?」
ゴースが驚くのも無理はない。銀騎士は一騎打ちでは常に勝利してきたエースだ。
さらには1000人斬りを実践した事もある。その銀騎士を撃墜する事はかなり敵の士気にひびを入れる事が出来るだろう。
「それが、遠距離からレールガンを撃った後ドロップキック。その後偶然ブレードで峰打ちして沈めたとか……」
「……一騎打ちを受けなかった事による動揺のようですね」
「いえ、向こうの通信を傍受した所[鬼畜だ!悪魔だ!容赦なく殺られるぞ!]との事です」
「「「………」」」


リキは戦況の微妙な変化に気付いた。
「ウィンスさん、これ……」
[む、どうした?]
「敵の動きが……変わってる……ブリッジ、何かあったか?」
[そんなに影響出てるのか!?]
ゴースはリキの疑問に驚きの声を上げる。
[いや、私には分からないが……一体何が?]
[リクが銀騎士を悪魔のような殺り方で落としたんだ]
リクの行動による戦況の変化、あまりにも些細な変化をリキは見切っていた。
「それに、なんかこの陣形……」
[足止めの様ですね]
ハーミストが通信に加わる。
[足止め?]
[ええ、これはどうやら何かを待っているようです]
「何が……っつ!?」
突然、高速の何かがリキの機体をかすめた。
「何だ!?」
あまりに速過ぎて肉眼どころかレーダーでも捉えられない。
「っく!」
殆どカンで攻撃をかわす。さっきの攻撃の間が次に攻撃が来る間のは――
ガンッという音が自機の右肩からした。
「な、何が!?」
目の前には一機の黒いHBがいて、赤いツインアイを光らせながらリキの機体の右肩に刀を突き刺していた。
「まさか……こいつ!」
すぐに右肩の関節部分を分離する。ライフルを失ったが、命の方が大事だ。
押し当てられていた敵機の銃口から逃れられた。
そのHBは刀に突き刺さっていた腕を放り投げると、再び消えるような高速移動を開始した。
リキは一瞬の判断で自分の部隊の2機にアクションを起こした。
1機には左手のシールドを投げつけて、もう1機には内蔵火器の迎撃用バルカンを背中のミサイルポットに当てる事で。
シールドが当たった機体は少し吹き飛び、その真横を黒い機体が通った。
バルカンを当てられた機体はミサイルの爆風でバランスを崩して、さっきまでいた場所に黒い機体が通り過ぎるのを見た。
「撤退しろ!こいつは次元が違う!」
リキは部隊を連れて脇目もふらずに逃げる。最後に一瞬、敵機の姿を思い出す。
あの機体は―――


[第二小隊、戦闘不能!謎の新型の様です!]
「了解です、すぐに行きます!」
リクが通信を受けて新型のいる筈の方向へ機体を向ける。
『敵機接近、新型のようです』
「なっ!?」
ブレードで攻撃を受ける。
加速によって上乗せされた衝撃がグラビレイトを下がらせる。
「パワー負けした、あの機体は……は!?」
そこにいた機体は、無駄な装飾がされていない。
カラーリングは黒、カメラアイは赤く光り、手には刀と自動小銃を持っている。
グラビレイトの青いカメラアイとその機体のカメラアイが目を合わせた。
その機体の他の機体とは違う唯一の特徴、両肩と両脛に胸部、こちらからは見えないが恐らく背部にもあるであろうダクト。
そこから散布される白い光の粒子。
その機体は、黒いグラビレイトそのものだった。
「なん…で……グラビレイトが……」
『データバンク照合、機体名、グラビレイトTypeβ。間違いありません、兄弟機です』
「なぜ、そんなデータがある!?」
『私の管理できていない情報領域の一部が解放されました。その中の情報の一つです』
イザナミの言葉に驚きを隠せないリク。その隙に接近してくるTypeβ。
『情報領域の中から文章ファイルを発見しました。読み上げます』
ブレードで攻撃を受け流しながらイザナミの言葉に耳を傾ける。
『この機体のパイロットになった筈の連邦兵へ。君はこの機体を宗教団体から、もしくは同盟軍から強奪したと思う。しかし、これは俺の仕組
んだ事だ。君達はこの機体を一機しかない機体として考えているだろうね。その考えは目の前の物で砕かれている筈だよ。この機体、グラビレ
イトTypeαは比較される対象でしかない。せいぜい、足掻いてくれ。宇宙開発同盟、特別技術顧問キセノ・アサギ。以上です』
「キセノォォ!あの野郎かぁ!」
最初から仕組まれていた。この機体は元々連邦にわたる筈の機体だったのだ。
キセノの考えたゲーム。その一つにすぎなかったのだ。
「俺は滑稽な道化でしか無かったって事かよ!ふざけんなぁ!!」
コックピットの壁を殴りつけるリク。
その間もTypeβの攻撃は止まない。
速過ぎる攻撃はブレードでは対応するのが難しい。
その時、Typeβが離れた。
「なぜ!?」
『敵機接近、危険です』
真後ろに現れた機体がこちらを抑え込もうとする。
「いつの間に!?おらぁ!」
機体を振り回して距離を取らせる。Typeβの攻撃が襲いかかり、鍔迫り合いに持ち込む。
Typeβが右足で蹴りを入れてくる。その蹴りはTypeαの動きを崩す。
振り下ろされた刀がTypeαに届こうとするが、リクはそれをかわす。
Typeβがすぐに後ろに下がり、上からさっきの機体が放ったミサイルが降ってくる。
そのミサイルはクラスタータイプで、一気に子弾を放つとそのシーカーがこちらを捉えた。
『レーザークラスターです』
「うあぁぁ!」
レーザーの雨をリフレクションで防ぐ。
『熱源、来ます』
「くっそ!」
リフレクションを中止、機体を錐揉みさせながらレーザークラスターから逃げる。
さっきまでいた場所を強力なレーザーが通り過ぎる。
『損傷軽微』
「被害個所を報告!それと機体の識別!」
『損傷個所は右肩、左腕、左大腿部。いずれも掠っただけです。敵機の識別ですが、増援の2機の内1機は青い知将です』
姿勢を整えながら敵機の方向を向く。離れた場所に青い機影が見える。拡大すれば胸部に描かれている青い旗のモチーフ、間違いなくかつて自
分を追い込んだ青い知将だ。
もう一機は見たことない機体、鈍く黒光りする機体にはそのカラーリングとはマッチしない血まみれのピエロのモチーフが描かれている。
エース機が3機。それも四聖獣部隊の様なチームワークで戦果を伸ばすタイプではなく、個人でも部隊でも活躍できるエースのチーム。
「さすがに分が悪い……救援要請を出してくれ」
この状況を打ち破るには個人では無理がある。1小隊でも回してもらえればどうにか五分五分になる筈だ。
[そろそろ、チェックメイトか?白い魔弾]
「黒揚羽!?暗号回線が……」
恐らく、Typeβのパイロットをしているのだろう。
「なぜ貴女がその機体に乗っている!」
[キセノ・アサギ特別技術顧問から託されたからよ]
「やはりキセノか!」
[さて、あの時、私が初めての敗北を味わった時の借りを返させてもらうわ!]


ゴースが受け取った信号を見て顔色を変える。
「グラビレイトから救援要請!?艦長、リクがまずいみたいだ!!」
「まさかこの状況でですか……新型の力ですかね?」
ゴースが詳細を見ていく。
「その新型と、青い知将、道化死までいるって……」
「なんだって!?」
リリが声を上げた。リクが3人ものエースに囲まれている。リリの焦りが最高潮に達した。
「か、艦長!?どうに…か……?」
その焦りもハーミストを見た瞬間に冷や汗に変わる。
「ゴース君、もう一度エースの名前。お願いします」
「え、えーっと、青い知将と道化死と、謎の新が――」
「もういいです」
ハーミストは今までにないほど冷たく、暗い顔をしている。
「……またか、また奪う気か……ゴードン・レンストル!!」
そう叫ぶとハーミストはブリッジを走り去って行った。
カルラはすぐに指示を出し始める。
「ハンガーに連絡、すぐに金若王の出撃準備!あとシエルさんを呼び出してください!」
「そろそろお呼びが来ると思ってたよー」
シエルがブリッジに入ってきた。
シエルは現在、スタークの通信士の交代要員になっている。
「貴女の情報処理能力、貸して下さい」
「もっちろん、死にたくないしね〜」


スタークのハンガーでは出撃準備が行われていた。
「出力は安定してるが、本調子じゃねぇ。あまり無理はしないで下さいよ?」
ジョージの忠告に頷くハーミスト。
そこにあった機体は神々しさをまとっていた。
白に金の縁取り、成金趣味の様な嫌な目立ち方をしないぎりぎりのラインのカラーリングだった。
金若王。HB史上最高の出力を誇るその機体は、かつて日本軍の地上基地であった富士山の標高を1撃で2000メートル縮めた化物だ。
凍結から解き放たれたその機体を起動していく。懐かしい雰囲気にハーミストは包まれていく。
かつての仲間と過ごした日々、成り行きで軍に入った自分が戦う意味を見つけた理由、初めて知った憎しみ。
今のハーミストを作り上げた全てがこの機体と共にある。
完璧に目を覚ました「戦友」にハーミストは声をかける。
「久しぶり、また一緒に飛ぼう」
伝説が、いま飛び立った。
すぐには飛べない。日光が金若王の背中に当たる。
背中についたソーラーパネルのエネルギーを、パワー・アンプ・システムが効率よくエネルギーに変えていく。
「エネルギーチャージは順調……いけます!」
すぐに充填されたエネルギーが金若王の背中のウィングブースターを起動させる。
少し前に戦った四聖獣部隊の朱雀にも搭載されていた物だが、規模が違う。
ウィングブースターは基礎のブースター部分から、姿勢を制御する為の金属板が伸びている。
それは天使の羽根が無機質になった様な物なのだが、普通はその金属板の数は十枚程度。
しかし、金若王は多大な推力を得るためにウィングブースターを巨大化している。
金属板の数は片方で三十枚。設計上のぎりぎりまで増やした金属板はブースターの作動と同時に、澄んだ音を響かせる。
シャーン、と響く音。その音は味方にとっては救いの鐘の音。敵にとっては、天国への招待の証。
「反撃の狼煙代わりです、遠慮は――」
両手に保持された二丁の巨大なエネルギーライフル、戦艦の副砲並みの威力を持つそれを同時に構える。
それと同時にバックパックの一部がスライドする。背部に伸びていたスラスターの役目を持つ長いパーツ。
それが上にスライドして、上がりきったところで肩に乗るように、先端を前に向けていく。
両肩に乗ったバックパック一体型高出力レーザー砲。威力は戦艦どころか、要塞の主砲を凌駕する。
四つの銃口が敵部隊の密集地点を狙う。
「要りません!!」
轟音、閃光、衝撃。一撃で敵部隊に壊滅的なダメージを与える事に成功したハーミストは、すぐにリクの元へと飛ぶ。
道化死への復讐の為に、かつての仲間の仇討の為に。


こちらの作戦は完璧だった。
まず、ミキがメインで白い魔弾を攻撃する。
その後の隙をゴードンが埋めて、さらに駄目押しにギルバートの砲撃。
予想では最低5分で戦闘不能まで追い込めると思っていた。
「腕が上がっている?成長が早過ぎる……」
ギルバートは作戦が上手くいかない事に苛立ちを覚えるも、それを呑みこむ。
指揮官に重要な事は常に冷静でいる事。決して戦闘中の仲間に弱音を吐かない事。
ゴードンが接近戦を仕掛ける。
Typeαはブレードでそれを遠ざけようとするがするりとかわして、膝の仕込み武器が作動する。
膝の装甲の隙間から伸びるニードル。それを掠るようにしてかわす相手も人間業じゃない。
道化死の名の由来は体中に隠された武器にある。
油断させて、近づき、一撃で仕留める。
日本で忍者と呼ばれていた隠密行動する者と同じ様な戦法、それでも隙をつけない。
[くぁっ……この!]
ミキが突っ込む、突進力のあるTypeβはTypeαと違うスピード型だ。
しかし、奴はそれをかわす。
「反射神経がいかれてやがる、性能がスペック以上じゃないか!?」
事前に教えて貰っていたTypeαのスペック。それを越える性能が今の奴にはある。
砲撃をかわす白い魔弾に追撃するゴードン。
やっとバランスを崩す白い魔弾は水中に落ちた。
[逃げられたか?]
しかし次の瞬間、海がうねり始める。
[何が……危ない!父さん!]
うねりは中心を持って渦を生み、その中心から黒い切っ先が現れる。
いつか見た展開されたブレードの攻撃だ。
全てを呑みこむ重力の剣は真っ直ぐにゴードンに向かって進み、思わずそれを仕込み剣で受けるゴードン。
[ぐっ!?]
[親父!?]
しかし、その剣はゴードンを弾き飛ばすに留まった。
白い魔弾が水中から姿を現した次の瞬間、重力の剣が爆発した。
そこから溢れたのは大量の海水。重力で押し固めた海水を空中で溢れさせたのだ。重力がゴードンを呑みこまなかったのも水がゴードンを押し
退けたのが理由だ。
雨や霧などでは無く、滝の様な海水に襲われる。
その中を水を弾きながら進むミキ。
白い魔弾と斬り合いながらあっという間に空へと上がって行く。
「また……水攻めかよ……」
[油断するな!]
父の言葉に不穏な気配を感じたギルバートはその場から急いで下がる。
目の前を強力なレーザーが通って行く。
「今のは…?」
[現れたか、クソガキ]
白と金の小型一区分ほどの機影。紛れもない伝説の機体、金若王だ。
[見つけましたよ、ゴードン・レンストル]
「と、トップ、ガン……」
金若王はライフルを一丁腰にさげて、レーザーブレードを取りだした。
[まだ、あの事を根に持っているのか?あれは――]
[黙れ]
ゴードンの言葉を拒絶するハーミストからは怒りしか感じられない。
[貴方の所為で仲間が、私の仲間が死んだんですよ!?]
戦闘が開始される。互いに接近、斬り合い、離れる。
[その貴方は!また私を!私の仲間を!傷つける気かぁ!!]
[あの場ではそうするしかなかっただろう!ああでもしなければ貴様が死んでいた!]
すれ違いざまに斬りつけ、遠距離から撃ち合う。
[私なら全員を助けられた!それなのに!!]
[それが傲慢だと、慢心だと言った筈だ!]
斬り結び、拒絶し、叫び合う。
まるで天災の様な攻撃をかわすゴードン。
「な、なんだよ……これは……」
次元が違う。
無力感は一瞬、すぐに戦況を把握する。
(これ以上やっても、勝ち目はない。ただの消耗戦だ……)
ギルバートは全軍に警告する。
「全軍撤退してくれ!金若王が目覚めた!!」


上空7000メートル、数十秒でその高度まで上がった2機のグラビレイト。
ミキは性能が同じになる事で、パイロットの技量を思い知らされていた。
「なんて…なんでこんな……」
明らかに、白い魔弾の方が技量が上だ。
コックピットを狙わないという弱点を知っていても、引っ繰り返らないほどの実力差がある。
現在はフィールドも不利になっている。
白いフォトングラビティ、それは黒いフォトングラビティとは性質が異なる物だ。
白い粒子は正式名称を重力偏向粒子という。
粒子の影響下の物体にかかる重力の方向を操作できる特性を持つ。
それは重力圏内でなければ効果が薄い。
つまり、地表から離れて重力が弱くなっているこの戦場はTypeβにとって最悪の状態だ。
「機体じゃない、私の力が足りてない……」
同時にリクもこの状況に危機感を感じていた。
頭が冷えてきた。今までの戦闘を思い浮かべて、しかし再現は出来ない。
「ぶっ飛んでたんだな……まさか途中で目が覚めるとは……」
先程まではいつも抑えていた物が溢れている感覚だった。
それが目を覚ませばどうにも出来なくなっている。
互いに動けない。
その時、ミキに通信が入った。
[全軍撤退してくれ!金若王が目覚めた!!]
義兄の声、そして金若王という言葉。
「イザナギ!最短距離で義兄さんの所へ!」
『了解しました』
一瞬で降下を開始したミキ。
それを見たリクは勘違いを起こした。
「まさか、艦をやる気か!?イザナミ!」
『敵機の方向ですね、了解です』
2者の降下が始まる。
加速力で勝るTypeβに距離を離されて焦るリク。
「もっと速く!」
『ですがこれ以上は……』
「構わない!」
目の前で死を繰り返させてたまるか。リクはその思いを持って一気に降下する。
機体表面が熱を持つ。コックピットに熱が伝わってくる。
限界以上の速度、それは、グラビレイトの弱点を露呈していく。


ラウルは戦況をモニターで眺めていた。
いつ、グラビレイトの弱点が露呈するか、それだけを心配してだ。
その時、上空に光が見える。
それを拡大してラウルは顔を青くした。
「どうしたラウル?そんなに顔を青くして」
ジョージの疑問に答えともとれない返事を返すラウル。
「救護班と回収部隊を……急いで!」
「ど、どういう事だよ?」
「グラビレイトが……リクが!」
すぐに連絡するようにジョージが指示を出す。
「一体何があるってんだよ?」
「……重力場粒子は重力を強くする事しかできないんっすよ」
「…な…んだと?」
重力を軽くは出来ない、ならばグラビレイトのあの加速力は……あの関節は……
「重力を軽く出来ないけど、あの機体は速いスピードと軽くないと使えない関節を装備している。あの機体の重量……小型一区分の3分の1く
らいしかないんっすよ」
「まさか……生命維持装置は?」
「ないっす」
「脱出装置は?」
「ある訳ないっす。それどころか、装甲には耐熱板どころか―――最低限の耐熱処理すら……」
今、グラビレイトは、限界を越えたスピードで、大気に焼かれながら飛んでいる。


ミキは追いつめられていた。
「っ………」
重力なんて感じない、自分にかかるGをも降下に使用しているからだ。
しかし、ミキの顔は蒼白で唇は噛み切られて血が出ている。
意識を保つためだ。
圧倒的な粒子制御を必要とする最大加速状態。
熱が機体に伝わらない様に機体周辺の大気の流れすら操っている。
しかし、ミキにそれを処理しきるだけの能力は無かった。
情報が顔半分を隠すヘルメットから雪崩込んでくる。
何も考える余裕がないほどの情報を処理していく。
『海面まであと20秒』
イザナギの声も聞こえない。
『脳波異常感知、オートパイロットに切り替え、母艦に帰艦します』
その瞬間、ミキの意識は深く沈んだ。


Typeβの動きが変わった。
情報処理が出来なくなってオートパイロットに切り替わったのだろう。
スタークの危機は去ったのだろう。
『減速出来ません、海面に衝突します』
衝撃、すぐにそれも収まる。
しかし、次の瞬間リクに襲いかかったのは人が耐えきる事が難しいほどの熱。
「グァ……熱い…熱……ウァァァァ!!」
服が熱で煙を上げる。空気が熱い。
あまりの激痛に一瞬で意識を失うリク。
『グラビレイト、オーバーヒート。機能停止します』
糸が切れた人形のように水面に落下していくグラビレイト。
「リク君!」
ハーミストがリクを支える。
明りが消えたコックピットの暗闇の中、リクは身じろぎもせずに、倒れた。


 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます)
+ ...

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー