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パラベラム! イエス、マイディアレスト Prologue

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ParaBellum

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 砂漠の昼は暑い。
 かく汗を片っ端から蒸発させれらている一人の少女が、砂漠のド真ん中で息を潜めていた。
 ブロンド髪の幼さ残る少女である。
 鉄製と思しきヘルメットを頭に乗せ、砂色のローブを身につけ、体を砂丘の陰に寝かせた伏せ体勢にて、ボルトアクション式小銃の照準をそれに合わせる。目標、機械人形五体。
 機械人形、オートマタ。とある地域では機械人間だのカラクリだのの別称があるらしいが、機械人形が一般的である。
 オートマタとは、人類が叡智を結集して造り上げた超技術の結晶であると同時に、遺産である。
 前世代―――……数万年前という途方も無い過去、人類は『何か』に遭い、全てを失った。それに関する詳細を知る人間は無く、また記録にも残っていない。だた、軌道エレベーターや膨大なエネルギーを供給する地脈などを造り上げた人類にさえどうにもできなかったことだけは推測可能だ。
 少女は、照準器に重なるようにして、視線の先、のそのそ歩くオートマタのカメラアイを射抜かんとした。
 距離200m。無風。気温40度前後。
 片目を閉じるようなことはせず、しっかりと開けたまま、虫も傷つかないほど緩やかに優しく引き金を引く。
 直後、電流を伴った高速弾が小銃から火炎と共に射出された。
 電撃弾は寸分の狂い無くオートマタの小さな眼を麻痺させ、よろめかせる。火花が散った。
 少女はヘルメットを真横に放り投げ宣言した。

 「パラベラム!(戦への備えをせよ)」

 瞬間、ヘルメットが光の渦潮と化す。膨張。増幅。チェレンコフ放射光を彷彿とさせる涼しげな光となって、蛍のように空間に散り、砂埃を巻き起こしながら具現化した。
 ロボットにしては流線型の部位が多く細くそして美しい。すらりと長い足は女性的だが、膝に相当する部位に刺々しい部品がある。腰回りにスカート状の装甲。腕に手甲。頭部に華を添えるは優しい光を湛えたカメラアイ。
 マナの奔流が収まるより早く、少女はボルトを引いて薬莢を排出。射撃。やっとこちらに気がついたオートマタの一体の胴体部に電撃弾を叩き込む。効果は薄い。当然だ。威力が足りないのだ。
 傍らに降り立ったオートマタは、少女の方に顔を向けた。全長4~5m。少女と並ぶとその大きさが更に際立つ。

 <マスター、どうする?>
 「私が支援します。撃破を」
 <イエス、マイディアレスト(私の愛しい人よ)>

 真面目そうな男性の声がオートマタから発せられる。
 さらっと恥ずかしいことを言ったオートマタに、少女は一瞬動揺するもボルトを操作して排莢、装填、殺気を発しながら駆け寄ってくるオートマタの膝に電撃弾を撃つ。効果あまり無し。
 ボルト操作。熱せられた薬莢が地面に落ちた。

 「行って、エアスト!」

 少女の言葉に『エアスト・シュトラール』がマナを纏って宙を駆けた。
 マナ供給が不十分で、人間で言うところの貧血が永続的に続いているも同じなオートマタ五体は、迫り来るエアストを迎え撃たんと体勢を整える。ただし一体はカメラアイが麻痺していてふらついている。
 バーニアを吹かさず飛行し、尚且つ静かに接近してくる不気味な敵。武器を不所持のオートマタは、連携などあったものではなく、四体同時に殴りかかった。

 <残念だが、当たるわけにはいかないんでね>

 一体のオートマタが鉄製の拳を薙ぐ。
 回避。
 己の利点を活かし、届かない高度へ。
 野良オートマタが空を見上げた、刹那、エアストは片手を振った。光が収束し、一条の『鞭』となりて一体を掴み取ったかと思えば、真上に投げた。当然野良は飛ぶことなど出来ない。
 戦闘可能な三体は仲間が空にかっ飛んだこともお構い無しに、地面から岩を拾って投げつけ始めた。眼をやられた一体はまだよろめいている。

 <投げるってのは……>

 岩でもオートマタが投げれば装甲を害す威力になる。エアストは宙でふらふらと不規則に動いてかわす。
 エアスト、手甲に仕込まれた収束装置を再度唸らせ鞭を作り、絶賛落下中の野良を捕まえ、ぐるんぐるん回したかとおもえば、勢いつけて三体+一体が居る場所に投げつけた。

 <こうしなきゃカッコがつかんだろ!>

 咄嗟に横っ飛びに飛ぶ野良達だったが、近距離から投げつけられたため回避不能だった。
 落下速度に投げる勢いを加算された、オートマタ質量爆弾(無理矢理型)。
 カメラアイが正常に戻った一体が上を見上げ―――……目の前に仲間の背中が見えたのを最後に機能停止に追い込まれた。
 一投げで計二体がひしゃげて地面に死す。
 少女は援護射撃をせんとしていたが、様子を見て止めた。弾丸を抜き、銃を降ろす。これなら必要無い。
 残った三体が、岩を構えて後ずさる。
 エアストは神話に登場する天使のように、全身から光を地面に吹き付けつつゆっくりと地面に両脚を付け、俯き加減から真正面を向く。青いカメラアイが俄かに光を強めた。
 オートマタにだって感情は有る。人のそれと大差ない心を備え、悲しみや楽しみ、時に愛を理解し人を愛することだってある。道具であり兵器であり独立した固体なのだ。
 三体が覚えた感情は、即ち『威圧感』であった。
 マナを纏い、圧倒的な性能差を見せ付けてくる敵。片やマナの供給が潤沢でしかも空中を舞うことが出来る。片やマナが欠乏して武器といえば岩程度なもの。
 地面には今しがたまで稼働していた仲間の残骸が鎮座している。
 三体は目配せをして―――……逃げずに襲い掛かってきた。
 仲間の弔い合戦か、それとも単にマナ不足による思考能力が低下しての判断ミスか、どっちかを判断する術をエアストと少女は持ち合わせていない。敵対するなら、排除するまでだ。
 三体が岩を同時に剛速球で投げる。
 右手甲の収束装置に光が灯り、蛇のようにくねりながら鞭が生じ岩を叩き落す。左手甲の方にも鞭が出現、中央の一体目掛けて投げつけ拘束せんと。
 ひゅんと空気が鳴る。野良は迫る光鞭をわざと腕に巻きつかせ、あろうことかぎゅっと握ってエアストを引き寄せようとした。
 野良オートマタとエアストの視線が交差する。
 鞭を引かれ、抵抗せずむしろ地面を蹴って自分から突っ込む。マナを全身に滾らせ、相手が握る鞭を一度消し、再構築。三体全員の横っ面を鞭で叩く。
 三体がよろめきたたらを踏む隙を利用して距離を零に。空気を大きく乱す高速接近。

 <遅いぞノロマ>

 通り間際に挑発文句を。
 マナの光を砂漠に残し、氷上を滑るスケーターの如く滑らかに野良三体の隙間を通過。
 挑発されれば頭にくるのも道理。野良は、少ないマナを搾り出してエアストを追いかけんと、大きく一歩を踏み出し、全力疾走。鉄の巨人――3m――が走るのは闘牛の暴走より恐ろしい。重量的にも。材質的にも。
 エアスト両腕の手甲が妖しくマナを宿す。腕を軽くかざせば、自分と野良の中間に極々細いネットのようなものが展開され、するすると向かっていく。
 野良三体は思惑通り、マナで編まれたネットに突っ込んで捕獲されてしまう。もがけばもがくほどくっついて絡まるしつこい仕様なので逃げられまい。
 関節が軋むほど馬力を上げてもネットは壊れなかった。

 <ふぅ………あんまり暴れないでくれよな。MPがゴリゴリ削られてるってのに>

 人間の顔があったら疲れているに違いないな声がエアストから漏れる。
 余裕綽々に勝利をもぎ取った………訳ではない。
 エアストは格闘に特化した設計をされているのではなく、射撃に特化しているのでもなく、マナ出力と制御に特化されたオートマタなのだ。
 つまり、マナが枯渇すれば満足に戦うことが出来ない。固定装備がマナを固体化させた鞭の段階でマナ補給が生命線なのは明白である。野良になったら生き残れない。
 鞭が固定装備。他の装備は、眼に見えない。何故か。それはマナに作用し制御せしめ、ネットにしたり、縄にしたり、矢として射出するからで、機体そのものが制御装置なのだ。
 彼―――エアスト。彼のマナ補給の大半を担うのは契約者であり『管理者』に認められた『神子』である『彼女』だが、それだって万能じゃない。
 たとえばスタンガンがあるとする。
 スタンガンを全力で使いながら充電したとして、いつまでも使えるか否か。
 答えは否である。放電の方が圧倒的に消費が高く、充電が間に合わない。キチ○イ染みた高性能充電器と電池を併用すればなんとかなるかもしれないが、残念ながらエアストと彼女は違う。
 充電器が小さな太陽パネルのみなのが野良である。なんとも泣かせるではないか。
 ……友達の友達並に不正確な情報によると、地脈も使わず単体で大量のマナを生み出す『賢者の石』なる永久機関があるらしいが、青いキリンや羽の生えた馬並みに眉唾モノというほか無い。
 銃を背負った少女が砂に汚れたローブをはためかせ、エアストの元に歩み寄る。
 エアストはマナのネットに捕まって動けない三体のオートマタに注意を払いつつ、少女の方に頭を向けた。少女は直射日光を避けるように、エアストの影に入る。
 少女はネットが切れないか心配しつつ尋ねた。
 野良三匹からしたら逆光で顔の見えない幽鬼と一体の騎士に思えただろう。

 「マナ残量はどの位ですか?」
 <十分あるとも。マスターをお姫様抱っこして歩くくらいは>

 パチンっ☆
 オートマタであるはずのエアストがウィンクを決めたようでならなかった。気のせいだろう。瞑る目も無いのに。
 実はオートマタは器用である。
 どの程度器用かといえば、そう、ロリコン男の剃り残したヒゲを摘んで引っこ抜くくらいのことは可能なのだ。女性一人抱えて歩くなど朝飯前である。
 今はお昼過ぎとかそんなことじゃなくて、お姫様抱っこをなど……。
 少女は効果が無いと分かっていてもエアストの足を踏みつけた。

 「怒りますよ?」
 <ジョニー酷い、装甲がイカれてしまったじゃないか!>
 「映画みたいなセリフを言わないで下さい!」
 <じゃあなにを言えと!?>
 「逆ギレ?」

 大仰に頭を振るエアストと、ぷんぷん怒って……るように見える少女。
 一面の砂漠風景の中でギャーギャーしていていいのだろうか。いいわけがない。だが警告する人間もオートマタも居ないのだから仕方が有るまい。
 あーだーこーだ言い争っていた二人も、ここが砂漠で危険だということを思い出し、口論を止めた。野良オートマタが潜んでいるかもしれないのだ。
 その間存在を忘却していた野良オートマタ三匹を、二人は見下ろす。

 「………気絶させておいてください」
 <イエス、マイマスター。すげぇ喜んで超特急冷凍便>

 オートマタ三匹が気が付いた時、首から下は砂に埋もれていたという。



         【終】


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