クリフトとアリーナの想いは @ wiki

2013.04.04

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kuriari

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クリフトのアリーナの想いはPart12.5
926 2 名前: その花は別れの印 1/5 山麓 Mail: sage 投稿日: 2013/04/04(木) 20:57:13.01 ID: pLCGo3040

その花が咲く時は別れの季節と言われている。

神官服を畳み、その上に神官帽子と帯剣をクリフトは置いた。
クリフトは何か感慨深いものが過るかと思ったがそんな自分の予想を反して、心はただ静かだった。
形式上の挨拶は既に終わらせていた。肝心な時に役に立たなかった元神官を労い見送ろうという奇特な人間は
いる筈もなく、散った花びらを踏みながら、人気のない廊下をクリフトは歩いていた。
ゴーン、ゴーン……
四十日祭の弔いの鐘がなる。
「主よ、なんじの眠りし姫の幸いなる眠りに永遠の安息を与え、彼に永遠の記憶をなしたまえ。永遠の記憶……」
クリフトはお付きの神官としての最後の祈りを彼の人の為に捧げた。

アリーナの体の異変は唐突に起きた。
あの途方も無い冒険が終わってすぐ、突如前触れもなく倒れると、日を追う毎に衰弱をしていった。
クリフトも無論不眠不休で身と精神を削り、自分が身につけた呪文を唱え、世界中の薬草を集め処方もした。
あらゆる手を尽くしたが、その甲斐も虚しく、アリーナは呆気なく永遠の眠りについた。
お付きとして、体の変調に気づかずに放置した咎で、クリフトが謹慎を申し付けられたのはそれからすぐだった。
「神官クリフト、その任を解き、サントハイムから永久追放する」
娘を亡くした王の怒りは収まる事はなく、その怒りは何も得しなかったクリフトに全て向けられた。
「それはあまりでもありませんか、陛下」
[黙れ、ブライ。本来ならば死を持って償わせる咎だが、今までの功名により罪を一等軽減の追放だ。そして儂に
も慈悲がある。お主に猶予を与えよう。アリーナの四十日祭が終わるまではサントハイムに滞在する事は認めるが
一切の葬儀に参加する事は認めぬ」
「了解致しました。陛下」
クリフトは膝をついて、頭を深々と下げた。

「世界を救いし、選ばれし者の旅立ちにしては寂しい事だ」
「ブライ様」
城から振り返る事もせずに出て行こうとしたクリフトの背後から憔悴したブライの声が聞こえた。
「全く、こんなになるまでした奔走した人間を追放するとは。あれは運命だったと皆、理解しておる筈なのにな」
白くなったクリフトの髪にブライは手を伸ばした。
「選ばれし者から解放され、隠者として流離うには、都合がいいぐらいです。それにどちらにしても旅立つつもり
でしたから」
「そうか」
「そういうブライ様も準備万端という所でしょうか」
「旅は道連れじゃろうて」
誰も見届ける者がいない花吹雪の中、旅装束の老魔術師と神官は互いに顔を合わせて寂しげに笑い合った。

「姫様、どこに行きましょうか?」
花が舞い散る中で、隠していた腕輪状に編み上げられた橙色の髪にクリフトは優しく問いかけた。
周囲がいぶかしがる程に冷静だったのは、最後の最後でやっと通じ合った繋がりがあったから、その証が一房の髪
で作られた腕輪。
「難儀な事じゃの」
ブライは小さなため息を吐いた。自分が取り成した事とはいえ、このような顛末は求めていなかった。しかしアリ
ーナもクリフトも心は救われたのだからと何度も言い聞かせても、後悔の念は消える事は死ぬまでなかった。
「いいえ、後悔はしてません。ブライ様のお陰で姫様とまた旅が出来るのですから」
魂の安息を祈りながらも、彼の人の最後の願い「自由になりたい。魂は貴方と一緒に」を叶える為に、彼の人の心
と共にさすらうという相反する矛盾に満ちた旅に、王の怒りによって命を絶たれる事なく、無事に出る事が出来た
のも、このブライの力添えのおかげだった。

なぜもっと早くとは言わない、生きている内にとは言わない。
体を通い合わせる事は出来なかったが、心は通い合わせる事は出来た。

淡いピンク色の花びらが舞い散る中、三人はあてのない新しい旅へと旅立った。

数十年後、サントハイムという国があった地が見下ろせる丘の上。
崩れ落ちた城跡に美しいピンク色の花が咲いていた。
そんな季節の中、一人の老人が行き倒れて死んでいたのが見つかった。その死に顔は、焼け乾いた肌には深い皺が
刻まれていたが、表情は穏やかだった。
持ち物は髪で作られた腕輪、小さな骨が入ったロケットペンダント、ロザリオと身元がはっきり分かるものはなく、
杖にサンと読める文字が残っていただけだった。人々は老人を身寄りのない行き倒れとして、その丘の上に持ち物と
共に埋葬し、小さな石を墓標とした。
それが世界を救った導かれし者達の一人、元サントハイム神官クリフトの静かな最期だった。

 やっぱり綺麗よね
 そうでございますね、姫様。戻って来た甲斐がありました
 サントハイムは世界で一番美しい場所じゃ



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