クリフトとアリーナの想いは @ wiki

2006.09.10

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kuriari

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クリフトのアリーナへの想いはPart6
171 :笑顔を取り戻した日 1/6:2006/09/10(日) 23:09:51 ID:sh1Pk9Wr0

久しぶりだな、シンシア。また村に帰ってきちまったよ。
俺は一応元気にしてる。空元気の間違いじゃないかって?はは…そうかもな。

なあ、また俺の話を聞いてくれないか?今の仲間たちと腹割って話す勇気、まだないんだ。

この間さ、旅を続ける俺たちにまた新しい仲間が加わったんだ。
聞いて驚くなよ。何と、サントハイムって国のお姫様ご一行だぜ。

アリーナって名前のお姫様は、チビのくせに馬鹿力で、すっげえ強いんだ。
流行り病で倒れたまま、寝たきり状態になってるクリフトって神官を助けてほしいと、
魔法使いのブライって爺さんに泣きつかれたのがきっかけで知り合ったんだ。
まあ、俺たちの活躍で無事パデキアって特効薬を取ってきたのはいいんだけどさ、
早速薬を飲ませて意識が戻った奴の最初の一言が『うーん……。はっ!姫さま!』だったんだぜ。
おいおい、薬を手に入れたのは俺・た・ち!俺たちだってばよ。

それでわかったんだ。あいつがお姫様にベタ惚れだってことをさ。
本人は密かに想っているつもりらしいが、隠すのがド下手な奴で、思いっきりバレバレなんだよな。
そこまであからさまだと、普通は気づかれるはずなんだが…つーか、初対面の俺でさえピンときたってのに。
肝心の怪力姫の方は、クリフトの気持ちには全く気づいてねえみたいだ。
最初は『気持ち知ってて焦らしてんのか?』とも思ったが、どうやら本当にわかってないらしい。

でもなあ、恋愛関係までには発展してないが、あいつらどこから見ても仲良し二人組じゃんか。
当の二人は全然そんな自覚ないみたいだけどな。けど、俺にはわかるさ。
この村で平和な毎日を過ごしていた、あの頃の俺たちに似てたからな、どことなく。
だから、二人が何気なく笑いあってるのを見ると、俺はつい視線を逸らしちまうんだ。

なあ、シンシア。本当なら俺たちもここで、あの二人のように笑っていられたんだよな。
たとえどのような結末になっても、二人には今という現在があり、これからという未来がある。
俺がどんなに手に入れたくても、もう指先にすら届くことはない。

ちきしょう、何で俺だけがこんな思いをしなきゃいけねえんだよ!

クリフトの第一印象?そうだなあ…深緑の法衣を颯爽と着こなし、背高の帽子を深々とかぶった生真面目な奴。
お城生まれのお城育ちらしいぜ。いかにも温室育ちのお坊ちゃんって感じだな。
神に仕える身だか何だか知らないが、いつも笑みを浮かべてて、何考えてるかさっぱりわかんねえや。
それでさ、あいつの苦しむ顔が見てみたくなったんだ。いや、ぜひ見せてもらおうか、と。

温泉の町アネイルを訪れた時、俺はクリフトを連れ出し、ある場所に立たせた。
俺が合図をするまで動くなと言い聞かせ、そそくさとその場をあとにした。
あいつは軽く会釈をし、両手を前で組んで静かに待っていた。
ふん、いかにも人を疑うことを知らない神官らしい振る舞いだな。見てると虫唾が走るぜ。
植木の陰に隠れた後、俺は大きく息を吸って思いっきり叫んだ。

『おーい、誰かが女湯を覗いてるぞー』

クリフトの奴、あわてて周りを見回してる。ざまあみろってんだ。
すぐさま町の連中が駆け寄り、あっという間に奴を羽交い絞めにした。
あいつは救いを求めるかのように、俺の姿を必死になって探していたようだ。だが俺は、木陰から一歩も動かなかった。

バーカ、誰が助けてなんかやるもんか!
神のご加護だとか思し召しだとか、いちいちうぜーんだよ。
俺の両親や村人のみんな、それにシンシアを助けてくれなかった神様なんて…俺には必要ない。

村人からお咎めをたっぷり受けたあと、クリフトは俺たちのところに帰ってきた。
それから今度は愛しのお姫様からびんたを何発か食らっていたが、俺は見ないふりをし、他の仲間と雑談をしていた。
数十分後、俺は顔を腫らした奴とすれ違いざまに目が合ってしまった。

(まずい、仕返しされるかなあ…)

俺は万が一に備えて歯を食いしばった。でも、あいつ…仕返しどころか、また俺に笑いかけてきやがった。
恨み言の一つや二つはあったはずなのに。結局俺は苦虫を噛んだまま、しばらくそこで立ちすくんでたよ。

はあ、俺って一体何やってんだか。
シンシア。もしお前がここにいたら、びんたを食らってたのは俺だろうな、絶対。
ああ、わかってる、わかってるよ。こんなことをしたって優しかった父さんや母さん、頼もしかった村のみんな、
それに…愛しいお前が戻ってきやしないってことくらい、ちゃーんとわかってるさ。そこまで俺も馬鹿じゃねえよ。
俺のしてることは…何の関係ない人間に、ただ自分の憎しみをぶつけただけに過ぎないんだ。

仲間のみんなが心配するから、俺そろそろ戻るよ。またな。
クリフトには…明日必ず謝るからさ。

立ち上がって後ろを振り返った俺の目に飛び込んだのは、寝巻きのままで突っ立ってるクリフトの姿だった。
俺のあとをつけてきたってのか?こそこそとうっとうしい奴だな!
そうさ、ここが俺の育った村だよ!見てのとおりの廃墟さ。人っ子一人いやしねえよ。
魔物に襲われた村を見るのは初めてだって?そりゃ当たり前だろ。
町や村のあちこちがこんな状態だったら、とっくに世界は破滅状態じゃんか!

何だって、亡くなった人々のためにここで祈らせてくれだって?
ふざけるな、今さら祈って何になるってんだよ!お慰めならお断りだぜ!
ぶっきらぼうに応え続ける俺に、クリフトは真っすぐな瞳で俺を見つめる。
たいまつの炎に照らされる真剣な表情と深い青色の瞳に、俺は吸い込まれそうな感覚に陥った。

ふん、勝手にすりゃいいだろ。
聖水をふりまき、祈りを捧げる準備を始めた奴に俺は背を向け、そばにあった大きな石に腰掛けた。


 神よ、どうかあなたの下僕である私の祈りをお聞き入れ下さい。

 闇に閉ざされた大地から日輪の輝く大空へと、迷える清らかな魂をお導き下さい。

 現世との永遠の別れを余儀なくされた者に、あなたの御許での平穏と安息をお与え下さい。

 そして願わくば、現世で悲しみを抱きながら生を全うする者にも、しばしの安らぎを…

透き通った声が心地よかった。さすが神官というだけあって、祈りにも重みがあるように思えた。
いつの間にか、俺はクリフトの祈りの言葉に聞き入っていた。
とげとげしかった俺の心が、少しづつ穏やかになっていくのを感じ取っていた。

しばらく経って、足元の革靴にぽとりと雫が一つ落ちた。
雨か?いや、曇り空だがまだ雨は降り始めていない。
今度は手のひらにまた一つ。そう、それは空からではなく…俺の目からあふれ出る、温かい雨だった。

気がつくと、俺の頬はぐしょぐしょになっていた。昨日の戦いでつけたかすり傷にしみて痛い。
奴は俺の肩にそっと手を当て、持っていたハンカチを俺に差し出した。

『我慢なさることはありません。戦いの日々の連続で、涙を流す余裕などなかったのでしょう?』

そうだ。村が滅ぼされ、出会うべくして出会った仲間と共に戦う毎日の中で、泣いている暇なんてなかった。
俺は勇者なんだ、俺がしっかりしなくてはと気を張り詰めて、気がついたら…泣くことなんて忘れてた。

『うああああっ、父さん、母さん、シンシア、みんな。ううっ…』

張り詰めていた心の糸がぷつんと切れ、俺はクリフトの胸の中で大声を出して泣いた。
奴が俺の背中をぽんぽんと優しく叩く。もし俺に兄さんがいたら、こんな風に受けとめてくれるんだろうか。
俺は涙が涸れるまでずっと泣き続けた。聖水のおかげか、魔物たちに気づかれることはなかった。

『落ち着かれましたか?』

顔を上げた俺を見て、クリフトはまた微笑んだ。
あれほど毛嫌いしていた笑顔なのに、俺の心から不思議と嫌悪感はなくなっていた。
東の空が明るくなり始めている。もう夜明けなのか。早く戻らないと仲間たちに心配かけちまうな。
お互いに頷きあい、村をあとにした俺と奴は、たいまつを携えてもとの道を戻っていった。

村を出る直前に、俺はクリフトに釘を刺しておいた。

『なあ、俺が大泣きしたってこと、絶対みんなに言いふらすんじゃねえぞ。
 もし、ばらしたりなんかしたら、お前が誰かさんに抱いている想いを本人の目の前でぶちまけてやるからな!』

そしたらあいつ、首がちぎれそうな勢いで首を横に振ってた。決してそのようなことはいたしません、ってさ。
好きなら好きってはっきり言った方が絶対いいのに、変な奴だなあ。

走りっぱなしで少し疲れた。クリフトの奴、見かけによらず足速えな。
深い森の中で小休止を取った俺は、先を急ごうとする奴を呼び止めて小さく呟いた。

『ありがとな。それと…こないだは悪かったよ』

クリフトは振り向くと、何か言ったかと聞き返した。そうか、泣き続けたせいで声が嗄れちまって聞こえなかったんだな。俺は何だか照れくさくなって、結局二回目は言えなかった。

はあ、やっと着いた。
実は今回、俺と仲間たちは村の近くにある木こりのおやっさんの小屋で宿を取らせてもらっていた。
こっそり寝床に潜り込むつもりだったんだが…そこに立ちはだかったのは、越えられない壁だった。

『あんたたち、こんな時間にどこ行ってたのよ!』

やばい、あの豪傑姫だ。俺はとっさに頭を抱えて最悪の事態に備えた。
そんな俺は眼中にありませんと言わんばかりに、お姫様はすたすたとこちらに近づいてきた。
震える俺を素通りしてクリフトの首根っこをつかまえると、そばにあった切り株に座らせ、延々と説教が始まった。
病み上がりだから無理しちゃだめだとか、怪しい場所に行ったりしなかったかとか…

おいおい、普通それはお付きの神官である奴の役目だろ。あんたがお株取ってどうすんだ?
そんな二人のシチュエーションが妙におかしくって、俺は笑いをこらえずにはいられなかった。

ところで…なあ、俺は?俺の心配はしてくれねえのか?泣きっ面で顔面ぼろぼろなんだぜ。
ああ、要するに俺は放置ですか、そうですか。

豪傑姫の長ーい説教からようやく解放されたクリフトが、こちらに向かってきた。

『ソロさん、やっと笑ってくれましたね。その笑顔、とても素敵だと思います』
『そうか?俺、そんなに無愛想だったかなあ』

これが奴と交わした、初めてのまともな会話だった。
そう言えば、村での剣術の稽古で打ち負かされ、ふてくされた俺をいつもシンシアが慰めてくれたっけ。

『ソロ、そんな仏頂面あなたには似合わないわよ。あなたは笑顔が一番素敵なんだから』

シンシア。俺、頑張ってみるよ。
今はまだ心の底からは笑えないかもしれない。でも努力してみる。
お前の他に、俺の笑顔が素敵だって言ってくれる人がいたから。

今度村に帰る時は、他の仲間も連れてくるよ。大丈夫、もう泣かないからさ。



(おわり)
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