クリフトとアリーナの想いは @ wiki

2006.04.17

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kuriari

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クリフトのアリーナへの想いはPart5
13 :【う~ん う~ん】1/4 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/17(月) 09:43:33 ID:EEzPQpsM0

青ざめた顔、滲む脂汗。乾いた唇からはかすれた呼吸しか聞こえてこない。
ホフマンは額のタオルを変えてやりながら、知らずため息を漏らす。
生家が宿屋であったため、病を得て苦しむ旅人を見る機会は多かったように思われるが、これほどひどい状況は稀であったと記憶する。
(中途半端に体力があるのも大変なんだな)
大抵の人間なら、この状態になる前に亡くなることが多いと思う。しかし、幸か不幸か、目の前に横たわる青年はいまだ苦しみの中にいた。ホフマンはクリフトと呼ばれる青年の顔をタオルで拭ってやると、窓の外に視線を移した。
(まもなく日が暮れる。ソロさんたちは無事、お姫様とパデキアを見つけただろうか?)
病を怖がる宿の者たちの代わりにクリフトの看護を引き受けたホフマンであったが、共に旅をしてきた者たちのことを思えば心配は尽きない。
(まぁ、大丈夫だとは思うけど)
そうひとりごちた時、部屋の空気が僅かに動いた。
「う・・・、・・・めさま」
青年の口から呻き声のようなものがあがり、ホフマンは手を止める。
荒い呼吸が乱れ、必死に何かを紡いでいる。
「クリフトさん? 大丈夫ですか?」
いま、ソロさんたちがパデキアを取りに行っています。もう少し、頑張って。
そう励ましたものの、ホフマンは耳を掠めた声に思わず押し黙った。
「う~ん、う~ん、姫様・・・、・・・は・・・を・・・」
しばらく無言でクリフトの声を聞いていたが、やがて枕元にあった紙の束を手元に引き寄せると、クリフトの言葉を猛然と書きつけ始めた。
夕暮れが押し迫る頃、クリフトの呻き声とホフマンが一心に筆を滑らせる音だけが、朱に染まる部屋を支配していた。

どれほどの時が経ったのであろうか。
宿の従業員がホフマンとクリフトに夕食の膳を届けに部屋を訪れた。そしてそこに広がる光景に思わず息を呑んだ。
「あの・・・?」
「黙って!!」
鋭い声が宿の従業員の言葉を遮る。その鋭さに驚いた従業員は膳を取り落としそうになり、慌てて体勢を整えた。
(まさか・・・)
宿の従業員はそっと膳を机の上に置くと、音を立てないように部屋を後にした。
そして階段のあたりにまでやってくると、ふたりのいる部屋を振り返る。
「いよいよ・・・」
脳裏を過ぎった考えに、思わず身震いすると早々に立ち去る。
ホフマンの真剣な面持ち、青ざめた病人のうわ言。
それらが意味するものは何であるのか。
宿の従業員たちはこの話を聞くと、病人に残された時間を思い、皆一様にうなだれた。

「それでは、皆さん、お気をつけて」
走り去ってゆく馬車を見送りながら、ホフマンは手を振る。
ヒルタン老人に弟子入りを希望した彼は、今日からミントスで見習いをすることになり、旅から離脱することになった。
馬車の影をいつまでも見つめている彼に、同僚となった宿の従業員が話しかける。
「よかったな。あの紙が役に立たなくて」
肩に手を置く先輩を振り返り、ホフマンは怪訝な顔をする。そしてかぶりを振ると視線を馬車の走り去った方角へ戻し呟いた。
「いえ、いつか役立つことになると思います」
その言葉に宿の先輩は「不吉な」と顔をしかめたが、ホフマンの真剣な面持ちに押し黙った。
そしてホフマンの横にたつと、パデキアによって命を助けられた青年と、彼を救った者たちの旅の安全を心から祈った。

それから数年が経ったある日のこと。ホフマンはサントハイムの王城を訪ねていた。
「ご婚約おめでとうございます」
そう言う彼に、当事者のアリーナとクリフトが照れたように笑った。その横で、「しゃきっとしなされ、しゃきっと」と小言を繰り出すブライも、どこかうれしそうである。
ホフマンはそれぞれにあいさつを交わすと、満面の笑みを浮かべる。そして移民の町からのお祝いを机の上に並べた。それを目にした瞬間、アリーナの顔が輝き、対照的にクリフトとブライの顔がこれ以上ないほどに青ざめた。
「懐かしいわね~」
思わず駆け寄ったアリーナが手にしているもの。それは、モンスターを素材にした料理の数々。
ソロと合流するまで、サントハイム三人衆は徒歩での移動が多かった。それゆえ、食糧が尽きてしまった時はモンスターを狩っては糧食にすることも多々あった。だが、同時にそれは、まさにサバイバルなシロモノでもあったのだ。
衝撃からやや立ち直ったクリフトがホフマンに引きつった笑いを向ける。
「あの・・・お気持ちは嬉しいのですが、モンスター料理は少々・・・」
調理法にコツが・・・。
言いにくそうに口を濁したクリフトに、ホフマンが自身ありげに微笑む。
「大丈夫です。調理法もばっちりですよ」
あく抜きというか、毒抜きというか、火の通し具合とか、食べられないものとか!
完璧です!とウインクしてみせるホフマンにクリフトが目を見開く。
「まさか、ご自身で試されたのですか?」
な、なんと剛毅な。
驚きを隠そうとしないクリフトとブライに、ホフマンは「あー」と少し困ったように首を傾げる。
そして少し間をおくと、クリフトとブライに真相を語った。

ミントスの宿屋でクリフトが病に臥していたとき。
彼はうわ言のように語ったという。
「う~ん、う~ん、姫様。ドードーどりはしっかりと火を通さないと食中毒を起こします・・・
それからマージマタンゴは、お化けきのこより毒性が強いので食用には向きません・・・・・・ブルホーク・・・は・・・」
これは使えると判断したホフマンは、そのとき一言一句漏らさず紙に書き付け、その後試行錯誤を繰り返して今の味にたどり着いたのだという。
「下ごしらえ・・・危険部位とか、あく抜きの方法があらかじめ判っていたので、本当に助かりました」
砂漠の町に住み始めた当初も結構役に立ちましたねぇ。
しみじみとした声色が、その有意性を大いに語っていた。
「本当にありがとうございました」
お礼の言葉と共に差し出された分厚い紙の束を見せられたとき、ブライは眉間を押さえてかぶりを振り、クリフトは力なく笑った。
「お役に立てたようで、何よりです」

いついかなる時も冷静な判断を。
その商魂のたくましさが、砂漠の町を成功に導いたのかもしれない。
                                        (終)
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