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クリフトのアリーナの想いはPart12.5
199 名前: 調理実習 1 Mail: sage 投稿日: 2012/02/17(金) 09:12:44.64 ID: axrZkRco0
「あ、あの、あたしたち…さ…」
トレイに並べられた可愛らしいクッキーと、明らかにクッキーの残骸とおぼしきものを見比べながらあたしは呟く。
「何か?」
隣でクリフトが微笑む。
「厨房借り切って何遊んでるんだと思われるだろうね…」
「よろしいのでは」
「だけどさ…」
「あなたも料理のひとつぐらいおできにならなくては…」
「そうなんだろうけど…」
クリフトと、可愛いクッキーを見比べる。
人づてに、クリフトはさりげなくお料理が上手だと聞いてはいた。でもまさかここまで差があるとは思ってなかったな…。
「あたしたちさ、同じ材料使ったはずだよね…」
「そのはずです」
「配分も間違ってなかったよね」
「そうですよ」
「なのに何で、こんなにしたたかに差が出るかな…」
あたしが焼いたほうは、チョコレートが入っているわけでもないのに真っ黒け。明らかに焦げている。
「焼き過ぎたでしょう」
クリフトが焦げたクッキーとあたしを見比べて微笑む…というよりこの表情は、笑いをこらえている顔だ。
「だって時間通りに焼いたのを出して触ったら、ふにゃっとしてたから…」
「それでいいのですよ」
「え?」
「焼きたてはしっとりしててもね、冷めると固くなるのです」
「へえ」
あたしは彼を見上げた…当の彼は、おかしくてたまらないとでも言うようにくすくすと笑っている。
「わ…笑うことないじゃない…」
一応強がりを言ってはみる…けれど、ああもう、こればっかりは笑われても仕方ないな…。
「私も同じ失敗をしましたのでね…」
「あなたでも失敗するんだ…」
「この手のことに失敗はつきものですよ…」
なおもクリフトはくすくす笑いをやめてくれない。
「ひどいなあ…」
笑うのをやめてくれないクリフトに対してか、自分の料理の腕に対してかわからないひとことを、あたしは呟く。
何かさすがに落ち込んできちゃう…。
と、クリフトがトレイに手を伸ばして…なぜか、あたしが焼いた、したたかに焦げたほうのクッキーを手に取る。
「あ、それ駄目!」
まずいって初めからわかっているはずなのに、なぜか彼はあたしの制止を振り切って、無造作に真っ黒なクッキーをかじる。
うわ、がりり、と、いかにもまずそうな音。
「ひ、ひどいでしょ…」
さすがに恥ずかしくなって、あたしはうつむく。
そんなあたしをよそに、なぜかクリフトが微笑んだ。そして
「あなたにしてはなかなか…」
「そりゃ…材料は間違いないもん…」
その間違いない材料で、何でこんなことになるかな…。
あたしはクリフトの焼いたクッキーを手に取ってかじった。う、評判どおりおいしいから腹が立つ。
神学校って料理まで教えるもんなの…。
「悔しいけどおいしい…」
「お口に合ったようで…」
「ん…」
…ますます恥ずかしいじゃない…やだよ、あたし今間違いなくゆだってる…。
あ、不意に何かに気づいたように、小さくクリフトが声をあげる。
「…どうかした?」
「火傷されているようですね…」
あ、そういえば、右手の指先が少しひりひりする。
「焼いたばっかりのクッキーに触っちゃったからそのせいじゃないかな、大丈夫よ、これぐらい大したこと…」
「お待ちを…」
クリフトがあたしの右手を取って、ひりひりする所に軽く唇を押しつけて息を吹きかけてくる。
あ、ホイミ…か。みるみる痛みが軽くなってくる。
「あ…ありがと…」
お料理教わった上に手当てまで…ああ、あたしって何者…。
「ね、ねえ、あなたが焼いたのはとにかく、あたしのはどうしよ…」
「私がいただきます」
平然と怖いこと言ってんじゃないのよ…自分で作っておいてこんなこと言うのも何だけど、あたしだってこんな
クッキーだか何だかわからないもの口に入れるの嫌よ…。
「お、お腹壊したって知らないから…」
か、片づけなくちゃ。
恥ずかしいのをごまかすためにあたしは流しに駆け寄った…はずみに食器棚にぶつかって、お皿とカップを落としてしまう。
…お皿とカップの割れる、派手な音。ううっ、何でこんな時に、しないでもいい派手な失敗するかな…。
クリフトがくすくす笑いながら寄ってきて、割ってしまったお皿のかけらを拾い上げた。そして
「もう厨房はお借りできないかもしれませんね…」
「うん…」
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