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ビューティフル・ワールド 第十一話 変異

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irisjoker

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                               ヴィルティック・シャッフル





『報告せよ、ノイル・エスクード』

真下からの照明に照らされた、動物を象った5体の彫刻が円卓を組み、一人の男を囲む。その男は理知さを感じさせる瞳をゆっくりと、目の前の狼に向けた。
狼に内蔵されているカメラアイが、男の姿を舐める様に観察する。男は狼、そして左右の2体に深く、頭を下げる。
手元の電子機器を作動させ、男―――――――――ノイル・エスクードは、5体に向かって淡々とした口調で、報告を始める。

「レギアスの発掘状況は95%を切り、残り3基の発掘が済み次第、本社に輸送いたします。発掘済のカプセルですが地下に」

『そんな事はどうでも良い。レファロ・グレイはまた、繰り返したようだな』

ノイルの報告を完全に遮る、怒りを内に秘めた、静かに滾る狼の声に、場の空気が一気に張り詰める。
狼の言葉に他の4体が軽くざわめく。初めて狼の口からそんな話を聞いたからだ。無論、ノイルからそんな報告は一言も聞いていない。

『繰り返した、だと? まさかレファロ・グレイはあの時と同じ事を?』
『おいおいおい……何で報告を寄こさなかった? というかウルフ、お前……何故俺達に黙っている?』

露悪的なまでに悪ふざけとおちゃらけを見せた猿が、神妙でかつ焦燥した様子で狼にそう聞いた。
象は狼の言葉を信じられないのか小声でそんな筈は無いと連呼し、他の2体は狼とノイルの言葉を聞く為に押し黙っている。
狼は猿の質問を無視すると、再びノイルへと質疑をぶつける。その声には露わにはしていないものの、確かな怒気を感じる。

『何故、奴の行動を黙認した? ジャック・トラインの件、忘れた訳ではあるまい。返答次第ではここで処分を下すぞ』

『どうした? 答えろ、ノイル・エスクード』

狼のその言葉に、他の4体が言葉を発せず、ノイルの返答を待つ。異常なほどの圧迫感と重圧感が、この場を支配する。
だが、ノイルはそんな空気などどこ吹く風で顔色一つ変えない、否、ノイルの口の端々が僅かに吊りあがっている。それは5体には分からぬ、冷ややかなる微笑。
ノイルは無言でスーツからリモコンを取りだしてスイッチを押した。天井からノイルの身長以上に巨大なモニターが降りてきて、5体の目線に合うように固定される。

『何のつもりだ?』

狼の突き刺す様な鋭い声の疑問にもノイルは何ら反応を見せず、モニターから退くと、軽く会釈して口を開いた。

「突然のご無礼、失礼いたしました。ですが皆さまには如何しても、見て欲しい物が御座います」

スイッチを押すとモニターが砂嵐を映し出し、やがて砂嵐から何かの映像へと変化した。その映像はモノクロとなっており、色彩は低いが映像自体は鮮明だ。

「これから皆様にお見せするのは、件のレギアスとレファロ・グレイが招集した傭兵部隊トラン・プレデターズの模擬戦闘の一部始終です。
 あぁ、そうそう。非常に心が痛みますが、そのトラン・プレデターズ―――――――――――想定外のトラブルにより全員亡くなってしまいましてね」

「お手数ですが後処理、宜しくお願いします」

                            ビューティフル・ワールド

                       the gun with the knight and the rabbit


                                  第 11 話 


                                    変異



「思い出せ。お前が現役だった頃に関わりあった」

「レインボウズって名の傭兵団をな」

ライオネルが見せる、背中に刻まれた、虹の刺青。数10年の年月をライオネルと共に歩んできたその虹は、多数の傷痕と合わして言い知れぬ哀愁を感じさせる。

レインボウズ、そしてこの刺青……。ライオネルは自分にこう言った。現役の頃に関わった傭兵団、レインボウズの名を思い出せと。だが、リヒトはその単語に覚えが無い。
何度も頭の中をフル回転させ、リヒトは記憶の引き出しという引き出しをくまなく開けてみる。過去も現在も隔てなく全ての記憶の引き出しを。
しかしどれだけ引出しを開けても、リヒトはライオネルの事もレインボウズの事も思い出す事が出来ない。記憶力には割りかし自信がある方だが……。
何故思い出せないのかというモヤモヤ感に多少イラつきながらも、リヒトは考えた末、ライオネルに返答する。
何にせよ、この男は倒さねばならない。ならば考えを切り替える他無い。

「悪いが覚えは無いな。これからも思いだす事は無い。永遠にな」

リヒトの返答を、ライオネルは無言で聞く。横顔さえ伺う事は出来ない為、今ライオネルがどんな表情を浮かべているのかは分からない。
しかしライオネルの背中には何処か、哀しみが滲んでいる様に見える。それは初めてライオネルが狂気と悪意以外の感情を見せた、ほんの一瞬だった
ライオネルは地面に放ったロングコートを拾い上げ、羽織りながら振り返ると、小さく溜息を付いて、リヒトに言った。

「少しばかり期待してたんだがな。緩やかな月日はお前の牙を抜いちまったらしい」
「……何?」

<ライオネル、何時までその男と下らん与太話を続けるつもりだ>

神威が背中を向けたまま、明らかに苛立っており今にも、それこそライオネルさえ殺してしまいそうな殺気だった雰囲気でそう言った。
ライオネルはコートのポケットから、湿気ている煙草の箱を取り出して一本取り出し火を付ける。じっくりと味わう。先端の煙が天井へと伸びていき、儚げに消えていく。
外は小雨から大雨、そしてどしゃ降りとなっており、ライオネルとリヒト、神威とヘ―シェンの存在以外、感じない。
水面の如くピンと静かな、だがじりじりと導火線に付いた火が爆発しそうな状況下。ライオネルの咥えている煙草の先端の灰がぽとりと、落ちる。

口から煙草を離し、地面に落として強く踏みつぶす。そしてリヒトを見据え、ライオネルは人差し指を2回曲げて、言い放った。

「さぁこい坊主、遊んでやるよ。全力で掛かってこい」

<――――――――――行くぞ>

「気兼ねなくぶっ倒せ、ヘ―シェン!」

<了解!>


所代わる。5体の彫刻の前のモニターには、生き物はおろか草っぱら一つも生えていない、真っ白な雪景色、もとい白い砂漠が映し出されている。
その砂漠には5基のカプセル――――――――レギアスが置かれており、その前にはオートマタのパーツが山となって乱雑に置かれている。
恐らくずっと前、レギアスによって無残にも惨敗を期し、挙句そのまま処分されたジャ―ヘッド部隊の残骸だろう。
と、そのカプセルと残骸の山の前に、様々な形状のオートマタを連れた、5人の人影が見えてきた。
―――――――――――――――――数日前―――――――――――――――――― 


「しかし本当に良いのか? 俺達の事を知らない訳じゃないよな? じ―さん」

トランシーバー片手にオートマタを連れたスキンヘッドの男が、通信先に居る相手に向かって渋くも熟練した戦士を思わせる心地の良い声でそう言った。

スキンヘッド含め5人全員、正に筋骨隆々という言葉を具現化した様な素晴らしく鍛え上げられた肉体の持ち主だ。男達と同じく、随伴しているオートマタも皆マッシヴで逞しい。
男達は左目の目元に共通の刺青を彫っており、スキンヘッドはジョーカー、他はダイヤ、スペード、ハート、エースと英語でかつ縦文字で刻まれている。
この男達の名はトラン・プレデタ―ズ。傭兵達の間では広く名を知られている、数多の実績を持つ傭兵団だ。
この傭兵団は様々な伝説を残しており、特にジョーカーは3分間で120機の野良を破壊したとか色々な噂が囁かれているが割愛させて貰う。

そんなトラン・プレデタ―ズ(以下プレデタ―ズ)をジャ―ヘッドの時と同じく遠方から、ノイルと共に双眼鏡片手に眺めている男、レファロ・グレイ。
この男は新たにレギアスの能力を試す為、ノイルを使い、プレデタ―ズに依頼を持ちかけたのだ。その依頼というのは……。


「我が社の新型兵器と模擬戦闘をして頂けませんか? 料金は前払いでかつ、もしも件の新型兵器を撃破した場合、依頼料金を上乗せします」

と言いながらノイルはジョーカーに対してアタッシュケースを開いた。そこにはビッシリと行儀よく、札束が詰め込まれている。
無論ジョーカー、もといプレデタ―ズもそうホイホイ依頼に乗るほど未熟ではない。最初は注意深く訝しがり、怪しんだ。
しかしノイルはそんなジョーカー、そしてプレデタ―ズへと言いのけた。演技ではあるが自信に溢れた口調で。

「無論依頼を受けるのかどうかは貴方達の意思に委ねます。ですが我々は貴方達の高い実力を見込んで、依頼しているのです。それとも……」

「多くの死中を突破した貴方達でも、私どもの新型兵器には恐れを抱いているので?」

このノイルの明らかな挑発に、ジョーカーはプライドを著しく刺激された。こう言われて黙る様な謙虚さを俺達は持ち合わせちゃいない。
それに怪しいとはいえ、ノイルが目の前に広げる札束、もとい金額は決してしょぼい罠に引っ掛ける様な、はした金では無い。
むしろ今まで自分達が請け負ってきた中でも上位の、いや、もしかしたら1位に上がるほどの依頼料かも知れない

例え罠だとしてもこれほどの金額を用意してくるとは罠は罠でもよほどの罠だろう。それ程新型兵器とやらに自信があるだろうかは知らんが……。
金額にしても罠にしてもこれほど心が躍る依頼は他に無い。ジョーカー、そして4人はノイルの依頼を承諾した。


「お前達の事に興味は無い。だが、お前達の実力を見込んでの依頼だ。全力で挑め」
「はっ、おもしれえじ―さんだ。せいぜい俺達の実力を見て腰抜かすんじゃねーぞ」

ジョーカーの軽口にHAHAHAとやけにアメリカンな笑い方で同調するジョーカーの仲間達。通信を切り、ジョーカーと4人、5機のオートマタは標的であるレギアスと対峙する。
レファロの部下である研究員達が慣れた手つきで丁寧に、かつ迅速に蓋を取り外す。円形ブロックからワラワラと、地面を黒く覆いながらレギアスが出てくる。

「うへえ気持ちわりい。アレが新型兵器かよ」
「油断するなスペード」

スペードに注意を喚起しながらも、ジョーカーはあくまで自らの勝利を疑う事はしない。これまでと同じく、俺達は確実に勝利を掴むと。
しかし奇妙な事に、ジョーカーは今までに無い不安を抱いていた。あの標的、レギアスとかいうロボットの様な黒く小さな物体を見ているとさっきからその不安が止まらない。
レギアスは残骸を黒く染めていきながら徐々に寄生していくと、アメーバの様に残骸の形を液体状に変化させ、次々と接合、一体化していく。
次第に残骸が原型も留めず跡形も無くなっていき、プレデタ―ズの前に、レギアスが凸凹と歪んでいきながら己が形を成型していく。

「ジョーカー、まだ攻撃しないのか?」
「まだ待て」

その時が来るまで攻撃を制しているジョーカーだが半ば、目の前で姿を変えているレギアスに圧倒されかけている。
今までの経験上、こんな……オートマタ……いや、違う。これはオートマタでも無きゃロボットにも、ましてや生物とも思えない。
何だ、これは……俺は今、何と戦おうとしているんだ? ジョーカーの足が無意識に後ずさる。レギアスは次第に己が姿である、人の形へと形を変えていく。

指示を待ち望んでいる仲間とは対照的に、ジョーカーはレギアスにそれまで感じた事の無い、強烈な恐怖感を感じていた。
それは強者でしか感じれない、一種の防衛本能と言っても良いのかもしれない。

「おいジョーカー! もう良いだろ!」

ダイヤの言葉にハッと我に返る。レギアスが人型として、完全な状態となって立ち上がる。5人と5機を覆う、大入道の様な影。
大きい、あまりにも、大きい。あの小さく群がっていた蟲みたいな黒い物体が、何時の間にかオートマタ以上に巨大で漆黒の、得体の知れない物体と化していた。
ジョーカーは右腕を上げながら人差し指を天に向けて潔く立てると、レギアスに向かって振り下ろし、叫ぶ。

「戦闘承認! ありったけぶち込め!!」

<イエッサ―!>

ジョーカーが叫んだ次の瞬間、ジョーカー達のパートナーである5機のオートマタが勇ましく逞しい男性的な、尚且つ物々しくゴツい銃火器を召喚したと同時に引き金を引く。
銃弾と砲弾が織りなす熾烈な一斉射撃と一斉砲撃の雨あられ。攻撃は1分ほど止む事無く、レギアスへと1点集中でぶち込まれていく。
偶然な事に全機が同時に、弾切れを起こして銃火器を下ろす。熾烈でかつ鮮烈な攻撃によってレギアスが居た地点は爆風と混ざって一時的な風雲が巻き起こる。
やがてその風雲が止んでいくと―――――――――真ん中には上半身が消し飛んでおり、下半身がチリチリと銃弾と砲弾で焼け落ちている、レギアスが、居た。

あの圧倒的な力で機動部隊を、ジャ―ヘッド達を一方的に打ちのめし虐殺したレギアスが成す術もなく、プレデタ―ズに再起不能にされた。
下半身から焼け焦げ、剥がれたレギアスの破片が、風に吹かれてはいづこへと飛んでいく。完全なる勝利。ジョーカーが振りかえり、仲間達に歓喜の声を上げた。

「良くやったなお前達! 正確かつ美しい射撃、さすがトラン・プレデタ―ズの愛すべき野郎共だぜ!」


「は、博士……」

双眼鏡越しから事態を観察していたノイルが、惑った様子でレファロの方を向く。しかし、レファロに特に反応は無い。
無言のまま双眼鏡を覗いているだけだ。が、レファロは双眼鏡を覗いたまま、抑揚の無い無感情な声でノイルに話し始める。

「お前はレギアスの能力に付いてどこまで分かっている? 分かる範囲で答えろ」
「能力……ですか? えっと……無機物に寄生する事により自己を成型する自己増殖と、敵の攻撃に対して瞬時に防御、反撃を行う自己再生、それと……」

ノイルが言葉に詰まっていると、レファロがそのままのトーンで言葉を続ける。

「自己進化だ。レギアスは一度体験した状況下を経験として蓄積し、成長する。言いかえれば、同じ失敗は2度としないと言う事だ」

レファロのその発言に、ノイルは若干首を捻りながらも双眼鏡を再び覗き込み、レギアスとその近くで喜びを分かち合っているプレデタ―ズを観察する。
プレデタ―ズは全く気付いていないが、レギアスから剥がれ落ち風に乗っかった破片が1枚、2枚とジョーカーのオートマタの頭部へと付着している。
その付着した部分は黒く変色しており、紙に零した水みたく、頭部へと黒く浸透していく。だが、ジョーカーはその事に気づく気配は無い。
何故なら目の前には凄まじい攻撃によって沈んだレギアスの姿があるからだ。まさかレギアスがまだ生きているとは、夢にも思わない。


「それにしてもなーにが新型兵器だ。ゴリ押しで勝てたじゃないか」
「大概ゴリ押しだがな。だがここまで手応えが無いと眠くなるぜ」

口々に好き勝手述べるスペードとダイヤ、笑いながらも同意する、ハートとエース。勝利した戦士達が味わう、一時の甘美なる瞬間。
ジョーカーもそんな仲間達と笑って激励しながら、何か落ち着かない。レギアスが沈んだのはこの目でしかと見た。だがしかし……。
だが、しかし、この心の奥底で引っ掛かっている危険信号は何だ? 杞憂だ。この予感は、杞憂に違いない。
恐らく今までの経験上、戦った事が無い相手と戦った故の不安のせいだろう。俺もまだまだだな……。自嘲しながらジョーカーは愛機を労おうとした。

「……何を、している?」

何故か相機が自分に向かって、先程召喚した銃火器の砲口をまっすぐに向けている。無論その銃火器はオートマタ用であり、人間に撃つなど人道的にあり得ない
状況が何一つ理解できず、ジョーカーは間抜け面で愛機を眺めていた。だが、愛機を襲っている異変に気付き、その顔が次第に青ざめてくる。
愛機のパーソナルカラーである、眩しい金色の頭部が黒一色に変色しているのだ。これは、一体……。

「お前……どう……したんだ?」

<逃……ゲ……テ……>

<逃ゲ……テ……マ……スター……>

―――――――――その瞬間、ジョーカーの仲間達4人のオートマタが自分達に向けて、重火器を向けた。
プレデタ―ズは気付かぬ間に、自分達がもっとも信頼する相棒によって囲まれて、しかも銃火器をしっかりと狙いを定めて自分達に向かって突き付けられている。
訳の分からない状況に混乱するプレデタ―ズ。しかし置かれ早かれ、ジョーカーと4人は気付く。黒く染まっている、各々のオートマタの頭部。この仕業は……。

「貴様の仕業か……レギアス!」

ジョーカーの咆哮に、カメラアイさえ黒く染め上げたレギアスがプレデタ―ズに向かって口火を切る。
その声はジョーカーの知っている愛機の陽気な声では無く、様々な人間の声が合成され混沌となった、気持ちの悪い声であった。

<我々は先の戦闘によって情報を収集。故に同一状況下における敗北の可能性は無に等しく、故に液体ではなく固体による侵食を提案>

<オートマタなる兵器の装甲、予想値以下の強度によって浸食は至って容易ゆえ、頭部機能の掌握、5.44秒で完遂。更なる短時間化を望む>

<尚今回の戦闘における情報の重要度は2と判断。特に特筆すべき点無き故に破棄を提案>

「貴様ら、何を言って……!」

愛機を乗っ取られて怒りに打ち震えるジョーカーを、スペードが制する。他の3人も同じ様に止める。

「お前ら、何を!」
「ここは逃げろ、ジョーカー! 俺達が……俺達がこいつらを食い止める!!」
「俺達が死んでもジョーカー、アンタが生きていれば、俺達の魂は永遠に不滅だ!」

そう言いながら4人は羽織っているジャケットを開き、忍ばせていた集榴弾やマシンガン、その他武器を取り出す。
ジョーカーも続こうとしたが、早く逃げ、生き伸びろという4人の男の背中にグッと俯いた。そして涙ながらに、言う。

「愛してるぜ……お前ら!」

ジョーカーが走りだしたのを感覚で察知し、4人は今まで付き添ってきた愛機達に、涙を流しながら攻撃を加える。
例えレギアスの手に落ちたとはいえ、共に命を掛けてきた相棒。だが……こうなってしまった以上、自分達の手で、決着を付けるしかない。
それが俺達の出来る、せめてもの手向けだ。スペードが手榴弾の栓を抜き、突進する。

後方で遠く、爆発音が聞こえる。恐らくスペードが手榴弾片手に突っ込んだんだろう。……畜生!
逃げても逃げても先に見えるのは、怒りさえ覚えるほど何も無い雪景色。ジョーカーは幾度かトランシーバーで連絡を入れるが、全く応答がない。
今更ながら謀られたと、ジョーカーは実感する。あんな常識もクソも無い化け物相手に、あんな金額は所詮……いや……違う。

俺達が勝てない事を見とおして、あの金額を……? そう思うとジョーカーは尚更、やり様の無い怒りを膨らませた。


「奴らの一部を採取し研究している内に判明した事だが」

双眼鏡で言うまでも無く事切れている4人と、必死の抵抗で破壊された4機、ジョーカーの愛機である、無傷の1機を観察しながら、レファロは語る。

「レギアスは自ら取り込んだ物質を、自在に他の物質へと変化させる事が出来る。
 その応用で無機物に取りつく事で、その無機物を構成している物質を分解、再構築する事して増殖し、やがて自らを成型させる」

「これからその一例が見れる。良く見ろ。これが」

「レギアスの、本領だ」

その1機の頭部含めた上半身は、スペードの突撃、もとい自爆によって炎上しており、炎の勢いが収まる様子は……否。
レギアスはその炎を鎮火する様に自らに吸収させていくと、一瞬で真っ黒な人型へと変化した。頭部から透けて見える炎が、次第に消えていく。
その炎が入れ替わる様に紫色の発光体となると、レギアスの頭部から目玉を彷彿とさせる凹凸がボコっと音を立てて飛び出てくる。

<再構築 再構築 再構築>

目玉の頂点で、紫色の発光体が妖しい光を放ちながら集束していく。
標的を定める様にゆっくりと頭部を動かす。標的を、捉えた。

<目標確認 距離11350。攻撃可能範囲>

<発射>

瞬間、レギアスの頭部から粒子を瞬かせながら紫色のビームが発射された。
そのビームは少しづつ調整する様に大きくなっていくと、標的、ジョーカー目掛けて鞭のようにしなりながら振り下ろされる。
苦痛を感じる事無く、ジョーカーはレギアスの放ったビームによって影も形も無く、この世から蒸発した。後に残るは地面をも抉った、深い、溝。


「……凄い」
レギアスのその無慈悲とも言える攻撃に、ノイルは只、感嘆する事しか出来ない。
双眼鏡を離し、レファロは結果を見る事も無く振り返り歩きはじめる。と、ノイルはある変化に気付いて声を上げた。

「博士!」
「実験はこれで終わりだ。後片付けをしておけ」
「いえ、レギアスが……」

ノイルの言葉にレファロの動きが止まる。双眼鏡を持って再び、レギアスを観察する。
レギアスの体が壊死していく様に灰色になると、そのままボロボロと砂の様に崩れ落ちていった。どうやらビームを撃った時点で、自壊していた様だ。

「流石に限界でしたか……」

「否、レギアスは負けた訳では無い」

双眼鏡を取ったレファロの顔は、最高の玩具を見つけた子供の如く、溢れんばかりの笑顔になっている。

「この経験を得て、レギアスはまた進化する。そう……」

「敵が居る限り、レギアスの進化は止まらん。永遠に」


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