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captar2 MAIN 起 前編

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ParaBellum

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だれでも歓迎! 編集



 この物語は悪意に満ちている。
 けれどそれだけが全てでは無い。
 悪意に満ちているという事は、その逆でもあるという事だ。
 悪意とはそれと表裏になる概念があって初めて成り立つのだから・・・。



 これは走馬灯である。
 黒峰潤也が、琴峰藍の元に駆け寄るまでに黒峰潤也の脳裏に走る記憶の一つ。
 全ての終わりであり、全ての始まり。
 ブラックファントム捕獲作戦から4ヵ月前。
 まだ、黒峰潤也と琴峰藍が出会っていなかった頃、その最悪が最悪と定義づけられた時の物語。



 さて、それでは旋律が戦慄となる第二章本編の開幕で御座います。





 ―――――ああ、素直じゃ無いなぁ…。





CR capter2  The Nightmare THE MAIN STORY  起 ―Harlequin―




 第七機関統括区域 第二区画




 日が地平線に迫り、オレンジ色に空が染まる頃、破壊された街で二機の機械が闘っていた。
 一機は漆黒の鋼機『リベジオン』、もう一機は猿のような姿と大きな腕が異様な存在感を示す紫色の鋼獣『獅猿(しえん)』。
 リベジオンは翼を展開し、ブーストをかけて、獅猿の元に突撃する。
 無手で向かうリベジオンに対して、獅猿は大きな拳を向けて撃ち放つ。
 しかし、未だ、獅猿の拳の届く範囲に漆黒の鋼機はいない。
 故にその攻撃は届く筈もない攻撃であった。
 だが、獅猿はそれを可能にする鋼獣である。体の各部をバレルが展開するように高速で伸ばし、射程を延ばす。
 これが獅猿の特性だった。
「ちぃ。」
 リベジオンの中にいる青年、黒峰潤也は忌々しげにそう吐き捨て、回避行動に移った。
 リベジオンの顔をかすり横を通り抜けていくその拳。
 獅猿の拳先は大きく振動しており、触れただけでリベジオンの装甲など容易く砕く程の威力を持つ一撃である。
 再び潤也はリベジオンに獅猿との距離を取らせた。
(クソったれが、近づけない!)
 既に、闘いが始まって、5分程の時間が過ぎたが、潤也はそれからずっと同じ問題に直面していた。
 それは射程の問題である。
 通常の鋼機の武装では、あの鋼獣に傷一つ付ける事が出来ない。
 だから、リベジオンの攻撃手段はDSGCシステムによってエネルギーを纏わせた体なのである。
 紅い光を纏ったそれは鋼獣の装甲すら破砕する威力を持つが、いかんせん射程が短いのが欠点であった。
 だが、あの獅猿はリベジオンの射程外からも自身の腕や脚を伸ばす事によって攻撃が可能なのである。
 これは二機の間に決定的な差を生む事になっている。
 リベジオンが近づこうとするとあの伸縮する振動拳を振りかざし迎撃する。
 それを回避する為には行動を起こすと、また近づこうとして距離を詰めたのがまた離れてしまう。
 この獅猿相手には懐にすら潜り込ませない力があった。
 まさに、遠距離武器を持たないリベジオンにとってこの獅猿の能力は天敵とも言えたのかもしれない。
 単純な射撃攻撃であったのならば、怨念を用いた防壁で弾丸ごとそのエネルギーで消滅させえたが、これほどの大質量となると処理する事が出来なくなってしまう。
 回避行動をとったリベジオンに追撃の獅猿の左拳が襲いかかる。
 潤也は即座にリベジオンを上昇させ、その攻撃を回避した。
(糞!!このままじゃ不味い。)
 現状、獅猿はその射程差を活かし、リベジオンに対して一方的な攻撃を行っている。
 今はなんとか回避出来ているが、潤也の集中力も限界近くになってきており、もはや当たるのも時間の問題とも言えた。
 一瞬でも操縦を誤れば直撃は避けられないし、機体にも無理のある回避行動をとらせ続けてきた結果いい加減ガタがきている。
 あと持って1、2分といった所だろうか?
 それまでに突破口を見つけそれを実践し奴を破壊しなければならない。
 どうする?
 高速で伸びる腕を放つ、その先端にある拳は絶対破壊の振動拳。
 単純かつ隙があるように見えて、腕を伸ばした後、伸びた腕を鞭のようにして振りまわすそれは、反撃の糸口を与える 事もなく、リベジオンに回避するので精一杯という状況を作り上げていた。
 このままいけばジリ貧での敗北は必至である。
 だから、仕方がない―――と潤也は思う事にした。
 このままリスクが少ない方法で戦えば、問題は無いが、リスクを背負えば突破出来ないわけではない。
 アテルラナから支給されたサポートシステムを仲介して潤也はリベジオンのシステムを起動させる。

 ―DSGCシステム起動―

 リベジオンの肩、下腕、膝、翼の各部が展開する。
 そしてその展開した各部に大地から組み上げられた紅い光が収束されていき、その後、再びリベジオンの中から漏れ出した紅い光が拳に纏われた。
 それと同時にDSGCシステムの副作用である、怨念の奔流が潤也の精神を襲った。
 死んだ者の死の追体験。
 それは痛みを伴うものであったが、それは奴らに殺された自分の家族の思いを代弁しているように感じるものでもあり、その怨念たちの苦しみや絶望が潤也の中にある怒りをかきたてる。
 そして、その怒りが己が何をしないといけないのかを強く悟らせてくれる。
 だからこの怨嗟を、忌々しいなどと潤也は思う事は無かった。
 少なくともその時の黒峰潤也はそうと感じていた。
 リベジオンは再び獅猿に向けて滑降を開始する。
 獅猿は迎撃にまずその右の飛拳を放った。
 リベジオンはそれを真っ向から、紅い光、即ち怨念のエネルギーを纏わせた右拳を相撃たせる。
 拳と拳が激突する。
 鋼獣の装甲の耐久力を遥かに超えるエネルギーを纏ったその拳は獅猿の右拳を破壊するが、その反動でリベジオンの右拳は破壊された。
 それに構わず潤也はリベジオンを獅猿に突撃させる。
 それに対し、獅猿は拳を失ってもその右腕を鞭のようにリベジオンに向けて振り払った。
 だが、潤也はそれに対してリベジオンに回避行動は行わせない。これを回避すれば、再び、獅猿から遠く離れなければならない。
 右腕を犠牲にしてまで行った、受けたのである。
 獅猿の拳鞭を受け大地に吹き飛ばされ、リベジオンが落下した地点から土煙があがる。
 そしてその土煙の中から立ち上がる機影が一つあった。
 獅猿はその機影にトドメを刺す為に左拳を放った。
 左腕が展開する事でその射程を延ばし、機影に迫る。
 金属と金属がぶつかり、機械が壊れる音が響く。
 土煙の中にあった機影はそれと同時に獅猿の元に駆けた。
 獅猿は放った左拳の腕を再び鞭のようにして土煙から姿を現した漆黒の機影へと向ける。
 だが、遅かった、既に、土煙の中から現れた漆黒の鋼機リベジオンは既にその射程内に獅猿を抑えていたのだから…。
 土煙の中から現れたリベジオンの容貌はそれは酷いモノだった、頭部は半壊し、翼は折れ、左腕は呪魂手甲を用いた弊害で原型を留めぬ程、砕けていた。



 だが、これでいい。



 もはや半壊していると表現しても問題ない程のダメージを受ける事を代償にして、ついに潤也とリベジオンは獅猿を己の射程圏内へと収めたのだから…。
「うぉぉおおぉぉぉぉぉおおおぉぉぉ!!!!!」
 受ければ動けなくなる程のダメージ受ける攻撃のみ迎撃を行い、他のダメージは全て無視して仕掛けた捨て身の特攻。
 それが、この瞬間、実を結んだのである。
 右脚部の踵に紅い光、怨嗟によって生まれた膨大なエネルギーが右足に収束される。
 その膨大な熱量は、リベジオンの周囲の空気が歪むほどのものだ。
 そして、そのまま、リベジオンはその右足を振り上げ、獅猿に向けて振り下ろした。
 リベジオンの怨嗟を纏ったの踵により肩から真っ二つに裂かれ、その鞭のような左腕はリベジオンに当たる直前で止まる。
 間一髪のタイミングで獅猿はリベジオンの攻撃により戦闘能力を失い大破したのである。
 だが、潤也はそこで攻撃を止めなかった。
 潤也は倒れた獅猿の頭部を踏みつける。
 そして、怨嗟を纏ったリベジオンの脚を使い獅猿の頭部に少しづつ自身の自重をかけていく…。
 鋼獣のコックピットは、頭部にあるとされている。
 それがわかっていて潤也はあえて、踵落としを頭からではなく、肩から真っ二つにするように放ったのである。
「思い知れ……思い知れ……思い知れ……。」
 そう呟きながら、潤也はリベジオンに鋼獣の頭部を怨嗟を纏った右足で踏みつけた。
 鋼獣の頭部はリベジオンの足と大地に挟まれて徐々に潰されていく。
 これが父の受けた痛みだ、俺の母が受けた痛みだ、俺の妹が受けた痛みだ。
 それがお前らが俺から奪ったものだ。
 怖いか?徐々にコックピットが押し潰されていくのが怖いか?
 幸福じゃないか、そんな事がまだ思えたのならば、なんで死ぬのか納得して死ねるだろう?
 お前たちはそんな思いすら俺の大切な人たちに抱かせずに殺したのだ!!!!
 ただでは殺してやらない、苦しませて殺してやる、生まれてきた事を後悔する程恐怖させてから殺してやる。
 お前らのようなクソったれ共は苦みもがき絶望しながら死ね。
 そして、リベジオンの脚は獅猿の頭部を踏みつぶした。
 獅猿の頭部から紅い怨嗟の光がリベジオンの機体へと取り込まれ、その怨嗟の念がリベジオンのDSGCシステムを通して、潤也の中に流れ込む。
 それには死への恐怖と自身の主への救いを求める声があった。
「く…くふふ、あはは、ははは、はははは、ハーハッハーハッハー」
 それを感じて、潤也は頭を抱えて笑った。
 おかしかった。おかしくてたまらなかった。
 なんでこんな簡単に死ぬんだ?なんで簡単に殺されるんだ?
 お前は、もっと強く生きていなくちゃ駄目じゃないか…。
 父さんを殺した奴らの仲間なんだろう?母さんを吹き飛ばした張本人どもなんだろう?
 あの辺り一面焼け野原の絶望を作り上げた絶対的な侵略者なんだろう?
 それが、なんで、なんでこんな俺にすら勝てないんだ。
 滑稽だ、これ以上の笑い話はあるか?
 俺が怖いだと?咲はもっと怖かった筈だ。ああ、クソったれな笑い話だ。
 こんな笑い話がなんで、この世界にはあるんだ。
 ああ、死ね、シンデシマエ、オマエラノヨウナヤツラハ―――――

―DSGCシステムの稼働が危険領域に突入、対応措置として全システムの緊急停止を実行します―

 操縦室内のディスプレイの灯りが消え、リベジオンの機能の全てが眠っていく…。
 サポートシステムがこの機体が暴走の域に達した事を察知し、セーフティが起動させる。
 そして、潤也の中に取り込まれたナノマシンがサポートシステムとリンクし神経に電気を流した。
「ぐがっ…。」
 それは微弱な電流ではあるが、神経に直接に流されれば想像を絶する痛みとなる。
 だがそれによって、潤也は失いかけていたが己を取り戻す。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……………。」
 潤也は周りを見渡し、己が今どのような状態にあったのかを理解した。
 それと同時に酷い頭痛と吐き気を感じた。
 あれに乗っ取られそうになるといつもこうだ。
 電子音が鳴る。通信が入った事を示す音だ。
「ちっ。」
 潤也は心底嫌そうに唾を吐く。
 この機体の通信コードを知っている人間は一人しかいない。
「やあ、兄弟、また酷い具合に怨嗟の魔王を壊したみたいだね、僕の手が必要だろ、合流地点の所は第七機関の第4区画あたりにしよう、あそこならそこからも近い、座標も添付しておいたから見ておいてくれよ。」
 そういって通信をしてきた男は一方的に用件だけを告げて通信を切った。








 第七機関、第4区画、そこはかつては日本の中部と呼ばれた地域である。
 あの男が指定してきた場所はそこにある小さな廃工場だった。
 潤也はリベジオンを歩かせ、廃工場の中にいれ、コックピットから降りた。
 強い錆びた金属の臭いに潤也は顔をしかめた。
 その後、辺りを見渡しあの銀髪を探す。
「いやっほーっ。」
 潤也の耳の後ろに息を吹きかけながらそう囁くものがあった。
 潤也は構わずそれに裏拳をかます、後ろにいた人間はよろけ、倒れそうになるのをなんとか踏みとどまった。
 男は殴られたにも関わらず面白可笑しそうに笑っている。
 その人間は流れるような銀髪が印象的な男だった。
「アテルラナ、ふざけるな、もう一発喰らいたいのか?」
 アテルラナと呼ばれた男は殴れた鼻頭を触りながら…
「なんだよー、兄弟、3日ぶりじゃないか、この感動を分かち合う為の僕の挨拶をこんな酷いボディーランゲージで返すなんて…ねぇ、この久しぶりの再会が嬉しくない?嬉しくない?僕は嬉しい。」
 潤也はそれにため息を吐いて、頭に手をあてる。
「俺は最悪な気分だ、アテルラナ、大体、血も繋がって無い人間を兄弟呼ばわりするな、殺されたいか?」
 そう怒気を込めて、吐き捨てた。
 それを受けて大げさに驚くような仕草をした後、仰々しく、手をあげて感情的にアテルラナは言う。
「出来もしない事を言うなよ兄弟、器がちっちゃく見えるぜ、それに兄弟は兄弟さ、ソウルブラザー、同じ境遇の人間、だから僕にとって君は兄弟なんだよ。」
「同じ境遇?」
 そう問う潤也に対して、アテルラナは顔を笑い顔を浮かべながら黙る。
 この男はいつもそうだ、理解出来ないような事をうれしそうに語ってはそれが何かと問うと煙に巻く。
 潤也はニタニタと何かを観察するように自分を見るこの赤い瞳がたまらなく嫌いだった。
「ちっ、俺の事情はあれだけ根掘り葉掘り聞いた癖に、自分の素姓はひた隠しなんだな…。」
「くす、DSGCシステムからの思念の流出にでも当てられたのかい?やたらと気がたってるみたいだけれど、あれを御するには平常心が重要だよ。今は君の復讐心と怨念が上手く同調しているから精神的な負担も少なめで済んでるんだろうけれど、その分浸食も激しい、あんまり馴染ませているとその内、取り込まれて自我が飛んじゃうよ、その点には気をつけてね。」
「まるで使った事があるみたいなもの言いをするな…。」
「まあ、君の機体の修理をやるさいにDSGCシステムの調整をやっているのは僕だからね、あのシステムの検査をやる為に、あの思念の影響を受けたりはするよ。だから危険性は身を持って知っているというわけ、まあ、君みたいに戦闘機動で使ってるわけじゃないから、ほんのちょっとぐらいのものだけれど…。」
 アテルラナ、この男に黒峰潤也が出会ったのは3週間ほど前の話だ。
 3週間前、家族を失ったあの日から2度の鋼獣との闘いを経て、リベジオンはボロボロになっていた。
 鋼獣獅猿との闘いのような事を2度も行ったのだ、ある意味はそれは当然の事と言えた。
 2度目の戦いを終えた後、既に、リベジオンはまともに歩く事すら出来ない状態にあった。
 だが、潤也には当然ながらリベジオンを修理するというような知識は無い。
 リベジオンにデータベースに問いなおしても修復は至宝で行えとただそう返してくるだけだった。
 そんな潤也の元に一人の銀髪の男が訪れる。
 男は自身をアテルラナと名乗り、無償でリベジオンの修復を行うと告げたのだ。
 たった1日自分に預けて貰えば完全に元通りに修復する所か強化して潤也に返す。
 それがアテルラナが最初に潤也につきつけたモノだった。
 相手に得する事は無いのになんで自分にそんなに無償の協力をするのか?
 潤也はそんな率直な疑問を投げかけたが、それにアテルラナは笑って言った。
 あの一週間前に現れた未知の敵に現状で立ち向かえる唯一の戦力として、自分達の危機を救える可能性があるから無償の協力をするのだ。
 アテルラナは自身で言うには自分は資産家の息子なのだという。
 趣味で昔の電子文献を集めていた際に怨念機と呼ばれる機体のレポートが発見されたのだそうだ。
 かつて史竹孝三郎という男が作り上げた怨念を力に変える特別な鋼機。
 それに関する詳細な内容がそこには記されていた。そこに書いてあったのは余りに非現実的な話であったので最初は信じていなかったのだが、偶然、リベジオンと鋼獣との戦闘に遭遇し、それを目の当たりにした際に、それがその怨念機である事を確信したらしい。
 そして、その記述を持つ自分がそれをベースにしてリベジオンを自身の鋼機工場で修理するというのだ。
 アテルラナ本人の気味の悪さもあったし、この話に疑問を抱く点も多かったが、潤也からしてみればだからといってどうする事が出来るわけでもなく、その申し入れを断る理由も無く受ける事になった。
 そしてアテルラナはリベジオンを運びだし、その三日後に潤也の元に完全な状態で修復されたリベジオンを持ってくる。
 いや、正確に言うならば完全以上の状態で持ってきたのである。
 かつてのリベジオンには無い一つのシステムがこのリベジオンには搭載されていたのだ。
 そしてそのシステムが、彼がその史竹孝三郎のレポートを元にして改善し組み込んだというサポートシステムであった。
 DSGCシステム、怨念変換機関とも呼ばれるそれはこの数世代前の鋼機のカスタム機に搭載されている唯一無二の特色である。
 怨嗟をかき集め、その魂の力をエネルギーに変える事で常軌を逸したパワーを得る。
 このシステムによって、リベジオンは数世代前の機体ながら、現行機を遥かに超える、パワーを持つ。
 だが、このDSGCシステムの怨念収拾を行うシステムは出来が悪いものだったのだとアテルラナは当時、潤也に語った。
 怨念の組みあげを行ってもそこまで大きな出力を出す事が出来ず、怨念の汲み上げもあまり効率的なやり方を行っておらず機体にも無駄に負担がかかるようになっていたのである。
 それをこのアテルラナは現行機のシステムとすり合わせ、使い勝手やより高い出力を出す為のサポートシステムを開発し、リベジオンの中に組み込んだのだそうだ。
 リベジオンの体の各部に搭載された展開機構がそれである。
 この展開部はリベジオンのDSGCシステムにおける怨念の受け皿の役割を担っているのだそうだ。
 サポートシステムの搭載前は小さな受け皿だったが、怨念がその受け皿から吸収される際に、受け皿に入りきらない怨念が大量に出て、その怨念がリベジオンの機体にダメージを与えてしまうという大きな欠陥部分を持つ。
 だが、アテルラナはこのサポートシステムをリベジオンに組み込んだ事によりその展開し大きくなった受け皿により、短時間でかつてより大きなエネルギーを得る事が可能になり、また漏れ出る怨念も減り、機体自体が背負うリスクも小さくなったのである。
 当時、たったの三日間でこれだけのシステムを組み込み、そしてリベジオンを完全に修復したこのアテルラナという人間に潤也は驚愕せざるおえなかった。
 まるで、最初からリベジオンを修復し、それを組み込む事を計画していたかのような、そんな速さで彼はリベジオンの改修を行ったのだ。
 潤也は何度か、本当は何を知っているのか?等と聞いたが、アテルラナは「史竹博士のレポートの出来が良かっただけだよ。」と笑ってはぐらかすだけだっだ。
 潤也自身も結果的にこのアテルラナのお陰で、あの敵と戦えているのだという事もあり、そこまで深く追求する事はしなかった。
 アテルラナの本人の気味の悪さも手伝って、これ以上深く関わりたくないとも思っていたというのも追求をしなかった一つの要因であった。
 それに裏でアテルラナが何かをしていようと、そんな事は潤也にはどうでも良い事であったし、仕事が早く、見返りを求めないアテルラナは潤也からしても非常に有用であった。
 そして、今も潤也とアテルラナの付き合いは続いている。
「さて、兄弟、この機体は預からせて貰うよ、3日後、いつもの手筈で君にこの機体を返すよ。それまでは、そうだね、ここから少し離れた所にセントラルシティがある。そこでゆっくり羽でも休めててくれ、宿もとってあるしね、それにお金に関しては前に渡したカードを使ってくれればいいよ。今回は中々に激戦だったみたいだし、しっかり休養取って、次の戦いに備えといてね。工場の前に車の方も用意してあるから、遠慮せず乗ってくれ。用意周到準備万端、ああ、僕って凄く良い人だよねぇ。」
 アテルラナはそう自己陶酔して、彷彿な表情を浮かべる。
「知るか…。」
 と唾を吐き捨てるようにして言った後、潤也は工場前にあった黒い車に乗る。鍵は車内の引き出しの中にいつも通り置かれていた。
 そして、潤也はその車に乗って、工場を離れる。
 アテルラナはそれを見送った後、ふふっと笑い。
「未知ほど甘い蜜はこの世に無し、故に我、その蜜を求めて、無限の道を歩こう。あらゆる既知を通り越して知らぬのモノ知るたびに出よう。さあ、兄弟、君は僕にどんな未知をもたらしてくれるんだろうね。ふふふ、期待しているよ。」












 第七機関統括領第四区画セントラルシティ。
 そこは第四区画の最大ともいえる都市であり、第七機関の8つある中枢都市のひとつである。
「ちっ。」
 黒峰潤也はその中の街を苛立ちながら歩いていた。
 苛立ちの原因は街中の視線がよく自分に集まり、それを見た人が好奇の目で自分を見るからだ。
 だが、潤也は特別目立つようなことをしていたわけではない、ただ、普通に街道を歩くだけで、必然そういう風に見られてしまうのだ。
 つまるところそれは風貌だった。
黒峰潤也の髪は第七機関白い髪だといえるだろう。
 透き通るような白、老化によってもたらされる白とも違うその白は大きく人目を引くものであり、潤也が望もうが望むまいが彼自身を目立たせてしまっていた。
 この髪も染めたわけではなく元々リベジオンに乗り込んだ際に、体内に注入されたナノマシンによって変わってしまったものだ。
 何度か黒く染めようと試みたがそのたびに、ナノマシンが色素を分解し、染めた髪はすぐ白くなってしまう。
 それ故に潤也はこの髪のまま外を出歩くしかなかった。
(どこかで帽子でも買うかな…。)
 そんな事を思いつつ潤也は街を散策する。
 ここには4年ほど前、観光旅行で家族で訪れたことがある。
 その為、なんとなくであるが、この都市の構造は覚えてはいた。
 そう遠くないところにショッピングモールがあるはずだ。
「一ヶ月前にあった第三区画での大規模な爆破テロに関する続報です、犯行を行った組織はタカ派の――」
 都市の中心にあるビルにかけられた大型モニターから、ニュースが流される。
 潤也が家族を失ったあの事件だ。現状では鋼獣に関しては政府も機関もどうやら大きな情報統制をしいているらしく、 真実はまるで語られていない。
 鋼獣もテロ組織が用いた出来損ないの鋼機と称して説明している。
 現在、鋼機と鋼獣にある絶対的な力の差があることなど説明しようともしないのだ。
 だが、その嘘がもっともらしく聞こえるようなストーリーをアナウンサーは語る。
 わざわざポストの犯人をでっちあげて、発表してしまっている始末だ。
 何も知らなければ、うっかり信じてしまうような話だ。
 けれど、潤也はそれが嘘だと知っていた。
 リベジオンの中に残されていた資料の中にあの鋼獣に関する詳細を記したデータがあったのだ。
 鋼獣を操り、今、地上を襲っている者たち。
 それはデータではアンダーへブンもしくはアンダーヘルの住人、UHと呼ばれていた。
 自分たちよりはるかに高度な文明を持ったが、それ故に、地下に追いやられ封印された者達。
 そう、データに記されていた、そしてかつて確認された鋼獣のデータもいくつかそこにはあった。
 おそらくは彼らは再び、この地上を取り返そうとしてあの地下からやってきたのだろう。
 数千年もの間、地下に押し込められていた者達…彼らにも同情の余地はあるのかもしれない。
 だが、そんなことは知ったものか…と潤也は毒づく。
 だからといってUHが自分の家族を奪ったという事実は変わらないのだ。
 たとえ彼らがどんな思いで今、地上で戦っていたとしてもそんなことは関係ないのだ。
 思い出すたびに波のように押し寄せる止めようの無い怒り。
 それを糧に黒峰潤也は今、行動を起こしている。
 あの呪われた機体に乗って、仇である敵と戦っているのだ。
 だから、今その力が手元に無いこの時間がなんとももどかしくもあった。
 街を歩く、第三区画の事件から、色々な厳戒態勢をしかれているせいか、街のセキュリティも相当厳しくなっているようだ。
 街中はこうやって比較的、普通の光景が見られているが、この都市に入るまでに様々な身分証明や持ち物の調査を求められた。
 都市外部では機関の兵隊が、鋼機まで持ち出して警備している始末だ。
 それに普通といっても人々の顔には不安そうな顔をしている人もいくらか見受けられるし、かつて家族でここに来た際にはこの街はもっと活気にあふれた町に思えたが、そんな雰囲気はあまり感じさせないものになっている。
 隣の第三区画であんな大きなテロがあったと報道されれば、次はわが身にそれが降りかかるのではないかと人々も不安に思いながらも暮らしているのだろう。
(ん、ここは…。)
 見覚えのある大きな公園が目に入った。
 とりあわけて何か特別なものがあるという公園ではなかったが、家族で来た当時はここらでは大きな祭りがあって、そこに出店が来ていたのだ。
 屋台という文化が既に廃れてしまっており、こういった祭りでないとこの手のものは見れなかった為、もの珍しさもあって、たくさんの観光客でにぎわっていたのが印象的だった。
(ああ、そういえばあいつは好きだったな。)
 かつて家族でここに来た際、咲は屋台というものに目を子供のように光らせたものだった。
 日時を決める際わざわざその祭りがある日と決めたのも咲だった。
 あれやこれやと買いあさり、食べてはうまいだのまずいだの値段と釣り合ってないだの嬉しそうに文句をぐーたれていたのを思い出す。
 得に印象的なのが射的で目当てのぬいぐるみを当てようと躍起になった際、目当てのシェットランドシープドックのぬいぐるみだけは当てる事が出来ず他のぬいぐるみに全て命中させてしまった件だ。
不器用とかそんなレベルじゃない、むしろ狙ったもの以外、全てに当てるなんて我が妹ながら不器用が一蹴回って習得できるようなスキルに笑ったものだった。
 そして旅行の為に貯金したお金を湯水のように放出し、底が付いて、ふぐぅ~と目に涙を浮かべていたのを思い出す。
 あれは我が妹ながら弄りがいがあり、それでいて愛らしかった。
「はは、俺って結構、シスコンだったんだなぁ……。」
 「え、今更自覚したの?」とそう咲の幻影が目の前で無邪気に笑っているのが映る。
 それを見て少しモノ悲しい感傷に浸った後、潤也は目をつむり、頭を振って、再び目を開く。
 そこに再び映るのは静かで誰もいない公園、質素で人気ない公園、先ほどまであった網膜に過去の光景が重ねて映されているような情景はそこにはもうない。
 ここはあの日ではなく、現在なのである。
 もはや、潤也の傍にあの陽気でいじっぱりで、犬好きな妹はいない。優しく、料理が上手く、少し天然な母はいない。厳しく、それでいて高潔なあの父はいない。
 黒峰潤也の周りにはもはやだれもいない、一人ぼっちで黒峰潤也はここにいる。
 彼が最も愛し、彼を最も愛したものは既にはそこにはいない、この世界のどこにももういないのである。
 それは怒りと同時に虚しさを感じさせる事実だった。
 時折、潤也は空虚に囚われる事がある。
 こんな事をしても何にもならないんじゃないか?という疑問が胸を襲うのだ。
 いつもならばそんが疑問を振り切るようにして闘いに挑むのだが、今、その闘う力が潤也の元には無く、その思いが潤也の精神にいくらか留まっている。
 この感覚が潤也はたまらなく嫌いだった。
 それはまるで自分がこの数ヶ月間命をかけてやってきた事を無為にするような事だ。
 頭を振ってその妄念を振り切る。
 そして、殺された家族の事、今まで体験してきた死者の念と重ね合わせてイメージする。
 その無念さを思い、それを怒りとして、自身に顕わす。
 憎しみ。
 後の事など知った事では無い、今、黒峰潤也に必要なのはこの感情だけでいいのだ。
 それ以外の感情など忘れてしまえ。
 最悪、黒峰潤也などの意思など消えてしまっても良い。
 お前は家族の無念を晴らす為、怒りによって行動する傀儡でいいのだ。
 そうだ、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め!

「お兄ちゃん、大丈夫?どこか痛いの?凄く辛そうな顔をしてるよ。」

 その時、女の声が聞こえた。
 えっ、と思い潤也は振り向く。
 そこには少女がいた。
 白いガーディガンに赤いスカートをはいた7、8歳ぐらいの見知らぬ黒髪の少女。
 どこにでもいそうな少女だったが異質なのは少女が裸足であったという事だ。
 兄と呼ばれた事で一瞬、潤也はそれが自分の妹である咲と錯覚したが、すぐに違う事に気づく。
 潤也の記憶にある妹の声はもっと高い。
「なんでもないよ、そんな顔をしてたか?」
 そんな気分でも無かったのだが、潤也は無理矢理、笑顔を作って少女にそう言った。
 そういえば、笑顔を作るなんて事をするのもどれぐらいぶりだっただろうか…。
 少女はすこしもじもじと指と指を合わせた後、
「凄く、辛そうな顔をしてたよ、泣きそうな顔してたの、お母さんがね、よく言ってたんだ、辛そうな顔をしてる人は体のどこかが悪いかもしれないから、すぐに病院につれていってあげないといけないんだよって、私、近くにある病院を知ってるよ。」
「そうか…俺はそんな顔をしていたのか…。」
「うん、だからね、病院いこ。」
 少女は潤也の袖を引っ張ってそう言った。
 顔は似ても似つかないがその仕草に潤也は妹である咲を思い出し、胸を締め付けられるような感覚に受けた。
「なんでもないよ、きっと辛い顔をしてたってのも気のせいさ、さっさとお母さんの所におかえり。」
 そう言って潤也は少女を帰そうとする。
 けれど少女は首を横に振って、
「お母さん、第二区画に出張してていないよ、だから私は今、お留守番してるの。」
 そう少女は笑って言う。
(――――第二……区画…だと…。)
 潤也はそれに嫌な予感といったものを感じた。
 それは昨日、黒峰潤也が鋼獣と闘っていた区画だ。
「実はね、さっき『こじいん』って所の人がね、私の所に訪ねて来たんだ、お母さんは遠い所に行っちゃったからこれからはおじさん達と一緒に暮らそうって…くす、そんなの嘘に決まってるよね、お母さんはね『3日、留守にするけれど一人でちゃんとお留守番が出来たら、おいしい料理屋さんに連れて行ってあげる』って言ってたんだよ、私のお母さんはね、私に嘘を吐いた事が無いんだ。」
 少女は腰に手をあてて自慢気に笑った。
「そう教えてあげたのにおじさん達は私の手を引っ張って無理矢理連れて行こうとするんだ、だから股間にグーでパンチして逃げてきちゃった。これね、お母さんが教えてくれた怖い男の人をやっつける必殺技なんだよ。まったくもう、ああいうのがゴーカンっていうんだね、お母さんが言ってたよ、ゴーカンは最低最悪、女の仇敵だって…。」
 怒ったようにして少女は言う。
 しかし、少女が言っている事が何を意味するのかを潤也は察した。
 あの紫色の鋼獣は潤也がリベジオンで駆け付けた時、そのいた街を全て破壊しおえていたのである。
 第三区画のあの事件のような区画の都市が全て消滅するような大規模な話では無かったが、街一つが破壊しつくされてしまったというのは事実である。
 もし、その中にこの少女の母親がいたとしたら―――――否、おそらくはいたのだろう。
 少女の話からすればそれは明白な事実である。
 おそらく、この少女の母親はおそらくあの襲撃に巻き込まれて、死んでいるのだ。
 それでこの少女を引き取りに施設の人間が現れたというわけだ。そして少女はその施設の人間から逃げだしてきた。
 少女が裸足なのもその推測が正しいと確信させる要素だった。
「本当に嫌になっちゃうよね、あの人たちずっと家の前に張ってるから私、家に帰れなくなっちゃった。明日になったらお母さんが追い払ってくれると思うけれど、それまで家には帰れないなー。」
 潤也は、少女の言うおじさん達が彼女が考えているような悪い人間などでは無いという事を伝えていいものか少し迷った。
 それは彼女の母親が死んだという事実をこの少女の目の前に突きつけるような行為だからだ。
「お父さんはいないのかい?」
 そう潤也は聞いた。
 だが、その望みは薄いなと潤也は思う、もし父親がいるのならば施設の人間などが来るわけが無いのだ。
「いないよ、お父さんはね、ずっと昔に天国にいっちゃたんだって…。」
「そうか、悪い事を聞いたな。」
 そう潤也は少女に謝る。
「何が悪い事なの?お父さんは今、天国ですっごく幸せに暮らしてるんだってお母さんが言ってたよ。」
 無垢な笑みを浮かべて少女は言う。
 それに対して潤也はどう答えていいのかわからなかった。
「君は今かからどうするつもりなんだ?」
「どうするって?」
「いや、家に帰りたくないのだろ?どっかに行くあてはあるのかなって…。」
「無いよ、だからノジュクする予定~、よくドラマでやってるのを見てたんだけれどね、一度やってみたかったんだ~。」
そう言って少女は笑って、手に持った青いお守りを潤也に見せる。
「お母さんがもしもの時の為にお守りの中にお金を入れておいてくれたんだ、これがあればご飯は食べにいけるし、お布団も買いにいけるよ。」
 そうこれから待っている冒険に目を輝かせるように少女は言う。
 それがどれほど危険なものなのか少女は理解していないのだろう…。
 引き取りに来た施設の人間に引きわたすべきなのでは無いかとも思ったが、理不尽で家族を失った時の悲しみを思い出し、こんな少女にそんな思いをさせるような真似をする事は抵抗はある。
 どうせ、いつかは知ってしまう事実であるのは間違いないのだが…。
仕方ないと潤也はため息を吐く。
「俺の所にでも泊まりに来るか?正直、やたらと毎度とってある部屋が豪華でな、俺一人じゃ持て余してるんだ。」
 他人のような気はしなかった。ある意味、同類故の同情めいた感情を抱いていたのかもしれない。
「え~、でもお兄ちゃん知らない人だしなぁ。お母さん、知らない人についてっちゃダメだよと言ってたよ。」
 まあ、これは当然の反応。
「そうだな、まあ、俺を信用できるかどうかはお前が決めれば良いよ。」
 潤也はそういって、静かに少女の反応を待つ事にした。
(まったく、何の気の迷いだ。)
 そう潤也は心の中で自嘲する。咲の面影をこの少女に重ねているのだろうか…?
 少女はう~んと悩むように腕を組んで少し考えた後、
「いいよ、一緒に行く。」
 そう笑って言った。
 この答えは潤也からすればいささか意外だった、てっきり断られるものだと思っていたからだ。
「そうか、しかし、俺みたいなの信用していいのかい?お母さんの言いつけは守らなくても大丈夫なのか?」
 うん、と頷いて少女は言う。
「さっき、お話したからもう知らない人じゃないしね、それにお兄ちゃん凄く優しそうだし、信用できるよ。」 
「優しい?俺が?」
 とてもじゃないが、潤也は自分の事が優しい等とは思えなかった、この数週間ずっと憎悪の火をともし、復讐に身を焦がしてきたような人間が優しい人間である筈が無いと思っていたからだ。
 それに潤也の今の風貌は白髪に目の下に大きなクマがあるという自分で鏡を見ても気味が悪い部類に入ると思っていた。
 簡単にいえば、子供に恐れられても不思議じゃない顔をしている筈なのである。
 それをこの少女は何を持って優しいというのか?
 そんな潤也の心中を知ってか、知らずか少女はニコっと笑い言った。
「目を見れば、わかるよ。お母さんとおんなじ目だもん。」


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