創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

資源転生サイクラスト

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匿名ユーザー

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 鉄の体に打ち付ける 砂を運ぶ風。それに併せるか荒野の地に 響くノイズは体の主、横たわる「彼」のものである。
日を映し返す装甲板。日のように燃えるエンジンドライブ。そのいずれもが先のない事を示すがごとく黒ずんで。
ノイズに遮られながら、死を待つ患者の心電図 まさしくそれと脈を打つ カメラの光はただ弱く。
映る最期の風景は、いかれたピントの機能で歪み、陽炎で歪み、不変の荒野とそこに立つ ヒトガタ輪郭かろうじて とどめるまでになっていた。

僅かに時を遡れば、「彼」をこの地に沈めたものが このヒトガタであることと 同じ機械であることを、確認できていただろう。
そうでなくともここに居る、一人の青年その視界が 彼のものとは反対に、「彼」がヒトガタ見つめることと 同じく「彼」を見つめ返す、その様からも起きた事象 窺い知ることができよう。
電子パネルを隔てて二つ 相反するその表情は、語らずしてそれだけを示す 情報量を持っていた。

無数のパネル、鉄の壁。ヒトガタの臓でありながら 骨でもあるその小さな部屋に 篭る激しい息遣い。
缶に詰められた電解水を 青年浴びるよう飲み、噴出す汗とその息遣い 気休めばかりに抑え込む。
荒く飛び散る水滴を ものともせずとパネルが弾く。
その間に缶が底付くと、温度湿度を吐き出す為か 囲む鉄の壁スライドし。
背から吹き付ける荒野の風。瞳に映る堕ちた巨体。
それら一切に感傷を 見せることなく青年は、ヒトガタは、どことも知れず立ち去った。
もはや認識することもかなわぬ「彼」のカメラを借りるなら 陽炎もやが晴れるのと 共に消えたと映るだろう。

風音止んでようやくと かすかに拾えるノイズの上、中身失った金属の ぶつかる音が一つ重なる。
落ちた缶の回転運動 それが止まるのを見計らってか、ノイズは事切れ荒野には わずかばかりに風の音が 響くばかりの静けさが。
土に還ることもない 大小二つの金属塊。再度吹く風に流された その片割れの前に一つ 影が現れたのはそれから 数刻ばかりの後であった。



 空を覆う黒煙。
地を埋める廃棄物。
枯渇するエネルギー。
なにもこれは遠い世界の 絵空事ではない。

地球に起こる大変化、1500万分の一。地球の歴史上において たったそれだけの期間に起きた これら全てが周期であると 言い切ることなどできるのか。
例を挙げるならば日本の ごみ最終処分場。その残余年数にして もはや一ケタを下回る。
この数字を実際の、時から切り離すために行う 処理場増加という行為。これ有限である以上、行き詰る日も目前に、迫っていると言えるだろう。

このような背景敷き詰める一方で、この物語迫る危機に対し 人を導く聖書でなければ画期的な論文でもなく、荒唐無稽な喜劇である。
喜劇であり続けることを 語るものとして願いたい。


 ここに一つの村がある。
村とは言うが行政の 機能失われたこの地において 区分符号としての意味はなく、ただ集落を言い換えた だけの言葉に現されるもの。
ゆえに村に名前は無く。比較すべき対象も 遠くの地にしか存在せず 必要が、ない。
ほんの少しばかりの畑と、その前に立つ二本の木。それにもたれかかるようにして建てられた倉を中心に、あとはぽつぽつと小屋とも言えぬ 村人の家があるだけで、地平線まで延々と 不毛の大地が続くのみ。
晴れ続けば飲み水に困り、食の偏りで病人も絶えず。
そんな悪環境の中、ただ生きると言う目的を 全うすべく人々は 今日も今日とて汗を流す。

しかしそれを踏みにじるか、姿見るからに悪鬼そのもの、先とは異なるヒトガタの 機械が村に現れる。
踏み入れた一歩小屋を潰し、村全体に響く騒音と 機械を操る男の声。
「グハハこの村の作物は俺たち二人が貰い受けるッ!」
「命が惜しけりゃケツからげて逃げな!!」
その要求単純にして悪。
しかしこの村逃げたとして 生き残るすべがどこにあろうか。理不尽極まる行為には 村人もただ黙ってはいない。
「いきなり出てきて何をいうか!貴様らなんぞには種モミ一つ渡さんぞ!!」
「逆らうんじゃねぇ!!」
言うが早いがというより 既に決めていたのだろう、鉄の悪鬼 足を踏み鳴らし腕を振るう。
人の形はしているものの 腕の方やチェーンソー方や火炎放射器、破壊するだけの装置である。
ひとたびそれが暴れれば弱者は逃げる他がない。後がないと分かっていても。
「イヤフーッ汚物は焼却だぜェ!」
一方的な力の行使。既に村の木なぎ倒され、倉を残して小屋も潰され、村人は 迫る炎に追われ。
ならず者二人ここに来て あらかた破壊を終えたからか 己が狂気に酔いしれたからか、逃げ惑う人々追い回す。
「うあっ!」
その標的に選ばれた 少年必死に逃げ回るも、チェーンソーの手でめくれた地面に 足を取られ倒れこむ。
「グハハこうなりゃ犬一匹逃しゃしねぇぜ!!」
迫る影。その時―

「そこまでだっ!!」

「荒れた大地に芽吹く平和。それを乱すと言うならばこの俺が、相手をしよう!!」
村に臨む小高い崖、落ちる夕日を背に受けて 声の主がそこにはあった。
「あ、あいつはもしや!」
逆光に姿隠されるもならず者の一人はその主に、心当たりがある。
「知っているのかモビー!!」
「最近正義の使者を名乗ってならずロボをとっちめてるっつー奴じゃないですかね!?」
二人が慌てふためく間に 主は空を仰ぎ叫ぶ。
「来いッ!ジャステイオォーッ!!!」

この主こそが、我々の知る先の青年。そして今ここに降り立った 巨大な鉄の鎧こそ、先のヒトガタそれであった。
夕日をその身に受けてなお 白く輝く装甲。剣先が如く研ぎ澄まされた 流線型の、ライン。亀裂の走る地の上に 仁王立ちするその威風たるや、まさしく、帝王。
少年も、追う二人も、誰も彼もが目の前の その姿に圧倒される。
「覚悟しろならず者!地の底に埋めてくれる!!」
すでに人機一体となったそこから、エコーの掛かった啖呵が発せられる。

当然二人、売られた喧嘩を買わずにいられず。薄々感じる力の差だが、退けないのは彼らも同じ。
「なにが埋めるだ!そいつはテメーのほうだぜッ!!」
半ばヤケクソ、もとより戦術などとは無縁。しかし捨て身のその一撃、獅子の喉元破らんとも。鉄の悪鬼、駆ける。

二人は知らぬところだが、両機のスペックその数値に 極端なまでの差など無い。
それを大きく体感させるのは外観、言葉、立ち振る舞い。
ゆえに対するならず者が、己を鼓舞し 恐怖を捨てて、第一撃に全てを賭ける。
最善とは程遠いも、決して無意味なものではない。
だが迎え撃つジャステイオー、自ら追い立てた相手の力量 その脅威十分に知る。
否、知るからこそに追い立てた。相手の力を利用した、必殺の拳を放つために。

「―見切った!」
複数のパネル、センサーを自らの器官のように。研ぎ澄まされた感覚が、迫り来る巨体の中に 一つの点を見出した。
スローモーション。それは向かい合うヒトガタ機械と、その乗者だけが知りうる世界。その中で勝敗は、すでに決していた。
あとはそれを、現実に昇華するだけ。握り締められた拳が、今動く。
「必殺―『ジャスティ…


轟音!!

まさしく放つ、瞬間に。今起きる全ての動き、それをキャンセルしたのは―小屋!
二機の接触点に対し、垂直に交わった来訪者。その質量と運動に、二機軽々しく跳ね飛ばされる。
一体なにが起きたのか。目前にいた少年、彼であっても分からない。
見上げたものが文字通り、「巨大」な「小屋」にすぎないのだから。

「リサイクル工場『りばい屋さん』」

その衝撃か、傾いた 看板に荒く書かれた文字。トタンを破り突き出した パイプが、タンクが、施設の種別を裏付ける。
好機逃したこと以前に、なんの脈絡もなく現れた 人工物、それに怒るのは 数十メートルばかり先の 地面に伏した、ジャステイオー。
「な、なんなんだ君はっ!」
それはここに居る全員の、代弁の言葉とも言える。間もなく工場その前面、看板横に取り付けられた アナログチックなスピーカーから、返答の声。
「なんだも何も、"修理修繕から廃品回収まで、あなたの町の資源を循環!毎度お馴染み移動リサイクル工場『りばい屋さん』"だこのヤロー。」
宣伝文句と裏腹に、巨大小屋もとい工場の 外観滲み出るように ぶっきらぼうな声と態度。
移動工場の垣根を成す、無限軌道が後ろで喚く。
何者なのかは分かったが、果たしてそれが何故この場に。
一瞬戸惑う青年の さらに後ろで派手に倒れた 悪鬼と二人、起き上がる。
「てーっ…どうなってやがる!?」
直前までの加速により 跳ね飛ばされた衝撃も、ジャステイオーとは比較にならない。
ほんの僅かの間だが 気を失った乗者二人、状況把握も至難だが。
パネルに映るもの見て一変―
「!?なんじゃありゃあ…って―」

「「ゲェーッ!!"ジャンキーナオト"!!」」

二人そろって苦い顔、彼らが呼んだその名こそ 移動工場の桿を握る、工場長「直十=ジャン・クロード」その通り名であった。
機能無いため周りの者 知る由も無いが、その風貌は青年と 同じくどこか凄みを持つも 方向性は間逆。ならず者の延長か、通り名どおりの目つきの悪さ。
「久しく廃品回収に来てみりゃあー」
再び吠えるスピーカー。怒声ととも拾った音は、パネルのスイッチ叩くもの。
それを合図に工場を 激しい振動が包み込む。
「これまた地球によろしくねぇ―」
トタンの壁が四方に開き、突き出す巨筒は腕となる。
起こした上体支えるべく巨大な脚で大地踏みしめ。
体の各部がスライドと伸縮終えて蒸気吹き。
「粗大ゴミのお出ましだなぁ!」
無骨な頭部、その目が光る。
数えて四つ目のヒトガタ機械は、平地にしても見上げるような パーツバランスが加わって、他のそれらより二回りも 巨大であるよう見える。
これがこれこそがならず者どもを 震え上がらせるその要因、『資源転生"サイクラスト"』!

誰もが感じ取る強い闘気。それを先んじて察したのは、すでに構えるジャステイオー。
「クッ…こいつ…」
常識破りのイレギュラーに 今度は彼が、気圧される。
しかしそこは歴戦の勇士。平静取り戻し相手を見据える。
「お前も平和を乱すというなら容赦は―

 ―せぶばッ!!」再び中断貫く衝撃。
挙動も無しにどっせいと 突き出されるその鉄の爪、心の臓を見事に捉え 乗者を壁に叩きつけると、壁ごと外に抉り出した。
どこに繋がっているのだろう、音はあるが見えぬスピーカー、サイクラストから直十喚く。
「排気は垂れ流しエネルギーは吸い上げ、後でどうなるか考えもなしにブッ飛ばしては土に還るモン還らねーモン一緒くた!!
 それだけやってなにが平和だ!今のテメーに何言っても無駄だと思うがな、それでもこいつだけは言わせてもらう!!」
先の文句以上にも 早回しに語るその言葉、周りの者は精々最後を 聞き取るだけで一杯。果たして何が彼を動かすか。
コックピットを飛び出して 地面逆さに刺さる青年、そこに直十が投げつけたのは 一つの空き缶。
よく見ればこれも我らが知る、電解水を封じていたもの。
そして開口大きく息吸い、
「ゴ ミ ポ イ 捨 て し て ん じ ゃ ね ぇ え え ! ! !」
「そこー!?」
思わず突っ込む少年をよそに主を失ったジャステイオー、倒れるそれの両脇掴むとサイクラスト、凹むばかりに地面踏みしめ。
「てめぇが曲げた資源の循環、その性根もろともに…」
逆さ吊りに宙浮く巨体―そして!
「ブ チ 直 し て や ん ぜ ぇ ぇ え え え ! ! !」
腕と共に空気を裂いて 振り下ろされる、その先は 青年かすめ一尺、奇しくも立った缶の上に!
割れる地と風 衝撃波、立つ粉塵と垂直に 圧縮される、金属塊。
その力、大きすぎる機械巻き込んで 缶つぶしの行為を成す。

「はわわ…」
「逃、逃げましょうよアニキ…」
時間にしてわずか数分の 始終を目にした二人には 既に戦う意思などなく。
己らの機械悪鬼ならば、あれはまさしく鬼神。
後のことなどどうとでもなれ、兎にも角にも今の命と 焼け焦げた地からその足抜き出すが土煙の中から伸びた 鉄爪ぐいと背を掴み。
「テメーらはテメーらで…」
伝う冷や汗。
「自然ブチ壊してんじゃねぇええ!!!」
「ぐべろっ!」「やっぱりね゛!」
その末語るもがな。



 「あの…一応その助けてもらったわけなので、お礼か何か…」
大立ち回りから一変、村の騒がしさ治まって。唯一例外稼動音立てる 工場の中を少年、訪れる。
粉砕機、反応器、蒸留塔。パイプ、車、ベルトコンベア。
およその機能が凝縮され 巨大な炉心を囲み、休む間もなく動き続ける。
ヒトガタ機械の構成物も至る所に見え隠れし、過剰な大きさの外観に反し その内部は実に狭い。
「一応もなにも俺がお前らを助けようとやったワケでもねーのは分かりきってる事だろが。」
偶然できた空間に思える 僅かなスペース陣取って、工場の主も 油まみれた手を動かし続ける。
気配もないがその狭さ、他に人が居るのだろうか?
そんな事を考えながら「はぁ」と返事をする少年。それでも彼が壊れた小屋等に 処置を施した恩がある。
しかし目の前でひたすらと、機械ばらしては何が基準か、幾つもの箱に放り分ける この男気に留める様子なく。
村人皆に言われたこともあり、去るわけいかず気まずい。
コンベアに乗って運ばれる 悪鬼と帝王二つの頭部に 巨大な装置が被さって、離れたそこに包装された 小さな円筒残るという奇妙奇天烈な光景。
想像どおりの男の見てくれに 萎縮し視線が脇にそれる。
「あーまて…言ったそばからアレだがよ…」
不意に工場長直十、思い出したと口を開き。

「礼があるんならその代わりに、ちと忘れ物届けてくれるか。」



 「―ったくなんなんだあの工場ロボ!」
いまだとどまる夕日掛かった 荒野を徒歩で 歩く青年、土まみれの体叩きながら 愚痴る。
「だいたい…ってーなんでお前たちがついて来るんだ!!」
振り返る数歩後ろには、互いに体を支えあう…といっても体格差で釣り合わない、ならず者が二人。
「いいじゃねぇすか、どうせマシンもバラされ取られちまったんだし、同じ境遇同士。」
「てめーもどうせアテなしだろ?」
ここまで切羽詰ったら 流石にやり合う余裕も利もない。
痛いところを突かれたことで、反論できず唇かみ締める。
そこに後方から、呼ぶ声足音近づいてくる。
「待ってくださーい!」

駆けて来たのは村の少年。息絶え絶えに袋を持ち出し。
「あの、これ直十さんから渡すよーにって…」
なんだと覗き込む三人。
「"リサイクル資源回収、ご協力ありがとうございました"ってコレ。」

―包装された円筒はトイレットペーパー。

「「「ちり紙交換かよ!!!」」」
三人の声が虚しく響く。

どことも知れぬ暗闇の中 それを眺めているのか、深く腰掛ける男の姿。
年季を含んだ独特の口調と抑揚で呟く。
「…ついに動き出したサイクラスト…。E・C・Oドライブを持つ者…。」


 今日もまた、資源の環は保たれた。
"ゴミを捨てるは定められた場所"
エコ以前にまず成すべき条理。
直十よ、サイクラストよ、資源の明日は、未来は、お前と皆が作るのだ!


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