創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

最終話 グッドバイ 後 下

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匿名ユーザー

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学校を横切って、周辺を街路樹に囲まれた、玉模図書館に着く。図書館がある事は知っていたが、別に本が好きでも無い為あんまり行った事が無い。
結構大きい建物なんだな。図書館内が見えるであろう大きな窓ガラスは、全てカーテンで閉められている。まさか……休館か?
いや、でも……。考えてみれば、書庫の整理って相当な大仕事だよな。て事はやっぱり休館だよなぁ。おい、いきなり詰みかよ。
草川……教えてくれるのは……いや、文句は止めよう。何も調べなかった俺が悪いんだよな。にしても参ったなぁ。

とは言え、ここでぼーっとしてる間にも時間が過ぎてしまう。明日にはもう、この世界に居ないかもしれないんだ。
どうにかして会長に会わなきゃならない。どこか入れる所は無いか、ぐるぐると図書館を回ってみる。……正面玄関には、はっきりと休館とプレートが下がっていた。
裏口? いや、無理だろう。開いていたとしても忍びこめば警察沙汰だ。警察沙汰とかお先真っ暗っつーか未来真っ暗じゃん!
だけどどう考えても、図書館に入れる方法が思いつかないんだよなぁ……。万事休す……か?

「……鈴木君?」

背後から一番聞きたかった声がして振り向く。そこには……エプロンをして、何冊か本を抱えた会長が居た。結構家庭的……じゃなくて。
会長は草川と同じくよっぽど驚いたのか、ポカンとしたまま固まっている。……取りあえず声を掛けよう。

「お久しぶりです、会長」
「あ……うん、久しぶり……。……って、馬鹿!」
「え?」

会長は抱えていた本を脇に挟んで、つかつかと俺の所まで歩いてくると、思いっきり襟を掴んだ。す、凄い力だ……全く抵抗できない。
会長は無言で俺を裏の駐車場へと引っ張っていく。普通に歩けるし苦しいから話して欲しい……とは言えない。
ぱっと、体が軽くなる。どうにか解放されたみたいだ……。瞬間、会長が凄い剣幕を俺を怒鳴り始めた。

「全く連絡しないとか何考えてるのよ馬鹿!」
「あ、いえ、色々と立て込んでいて……」
「だとしても……あぁ、もう! どれだけ心配したと思ってるの! もう……馬鹿馬鹿馬鹿!」

まさかここまで怒られるとは思わなかった。けど何だろう、罵声が罵声に聞こえない。むしろ嬉しい。
俺は頭を下げながら、どうにか上手い事ごまかせないか頭を回転させようとするけど、空腹の為か全く回ってくれない。

「心配させてしまい、申し訳ないです、会長」
「……もう良いわよ。それとメルフィーさんは無事なの? 貴方の……」

そこまで行って何故か会長は言葉を詰まらせた。俺はその理由は聞かずに、聞かれた事を答える。

「……はい。今は病院でちょっと。けど元気ですよ」
「病院って……何処か怪我したの? 何て病院?」
「んっと……」

まずった……病院は駄目だよな。更に会長を心配させてしまう。というかウソってばれちまう。
ホテルに居ますなんて言ったらどう考えても悪い方向に行くとしか思えない。とは言え、他に何も思いつかないし……。
俺が言葉に迷っていると、会長はため息をついて、呆れ交じりの口調で言った。

「全く……嘘付いてるでしょ?」
「……バレました?」
「ホント、とことん馬鹿ね、貴方……。ここで話してても仕方ないし、図書館に入って。貴方に言いたい事、腐るほどあるから」

……未来に行く前に死ぬかもしんない、俺。でも会長と話せるならもう何でもいいや。
職員専用の裏口から、俺と会長は図書館内に入る。カーテンは閉めてあるものの、中は電気が点いており、職員と……顔馴染みと言うか、顔見知りの人達がいた。
会長に呼び出されたのか、図書委員全員と、数人の生徒会員が積み上げられた本を小説、学術などの紙が張られた複数の段ボールの中に仕分けしている。
……間違いなく俺も呼び出されてやるんだろうな。お疲れ様です。と、会長が貸し出しカウンターの中にいる職員と何か話すと、こっちを向いて手でメガホンの形を作った。

「今日の作業はこれで終わりー。また明日も宜しくねー」
俺を問い詰めていた時とは一転、優しい声で会長が作業していた図書含めた生徒会員達にそう言った。職員以外の生徒会員達がエプロンを外して、各々帰っていく。
会長も帰……アレ? 会長は何故か再度、職員と話すと、気持ち悪いくらいにニコニコしながらこっちに戻ってきた。

「さぁ、鈴木君、2階で古書書庫の整理をしましょ。協力してもらった手前、私達も図書館に協力しなきゃ」
「え、でも俺……」
「協 力 しなきゃ……ね?」

係員さんに見えない角度で、ニコニコしながら襟首を絞めていく。勿論、俺に拒否権は、無 い。
俺は恐怖に慄きながらも、さぞ楽しそうに首を縦に振った。会長がゆっくりと絞めていた手を外して、俺の手を握った。うわ、仲良しアピールっすか……?
天使の様な悪魔の笑顔で、会長が言った。

「それじゃあ行ってきます!」


「うわっ、埃臭い……」
「当り前でしょ。古書の書庫なんだから」

何をどう言われたか分からないが、俺は会長と一緒にこの書庫にある古書を整理しなければならないらしい。……アレ、何しに来たんだっけ? 俺。
しっかし年代物というかヴィンテージすぎるといか、少し棚から出すだけで凄い埃が立つ。おまけにジメジメしていて、長居はしていたくない。
あぁ、外の空気が懐かしい。懐かしい……懐かしいなぁ……。

「何よその目。てかただ連れ込みたかっただけだから、貴方は何もしなくていいわよ」
「……もっとマシな場所って無いんですか? それか外とか……」
「この書庫の整理をするって条件で、係員さんに全面的に協力して貰ってるの。少なくともあと1時間は作業するから、それまで待ってなさい」

……俺、マジで何も関係無いんだけど……。とは言え、会長がここで話したいのなら、それを優先する以外に無い。
何もしないのも暇を持て余すだけなので、良く分からないけど俺も本を整理する。ボロボロだが、下にラベルが貼ってありアカサタナ順に並べられてるみたいだ。
何か懐かしいな、この感じ。会長と一緒に仕事するなんて。夢中になって作業していると、会長が話しかけてきた。

「真面目な話、メルフィーさんは何処にいるの?」
「えっと、ホテルです。俺と一緒に」

派手に古書が落ちる音がして、俺は振り向いた。会長が両手を口元に当てて、汚物を見る様な目で俺を見ている。

「か、会長?」
「三日間も居なくなってたと思ってたら……最低ね、貴方。……もしや病院って」
「い、いや、別に変な意味じゃなくて……。てか危ない事考えてません?」

しまった、というかさっきから病院に次いでうっかりしすぎだろ、俺……。何か会長の前だと誤魔化せないんだよなぁ。嘘が付けない。
つっても病院の時と違って次は上手く誤魔化せない……。旅行中でした、とか? いや、それはもっと駄目だ。こんな緊急事態に馬鹿かと。
ヤバい、これじゃあ酷いわだかまりを残したまま、俺は会長と離れ離れに……。何か上手い言い訳、上手い良い訳は無いか……!

すると会長は深くため息を吐き、言った。

「……詳しい事は聞かないわ。戦ってたんでしょ? あの黒いロボットと」

……会長? 黒いロボットってのはデストラウの事……ですよね? 何で……何で……会長が?
多分、今の俺の顔は至近距離から豆鉄砲を食らった鳩みたいな顔になっていると思う。軽いめまいがする。

「……三日前かしら。貴方が生徒会にメルフィーさんを入れたいって頼んできたじゃない。その時に、貴方にレポートを書く様に頼んだわね」
「はい……」
「貴方がレポートを書いている時、失礼だとは思ったけど、私はメルフィーさんに何故生徒会に入りたいかをしつこく聞いたわ。それで……。

 ……全部教えてもらった。メルフィーさんが未来人である事も、貴方がヴィルティックっていうロボットに乗って戦う事も、全てね」

……嘘だろ。それじゃあ会長は……俺がヴィルティックで戦ってた事も、俺が……何も守れなかった事も知ってるって事か?
持っていた本が手からするりと抜け落ちる。めまいが激しくなってきて、足元がグラつく錯覚に襲われる。
俺は……俺は、守れなかった。会長が大事に……大事にしていた、学校を。俺の膝が、地面に、落ちる。全身の力が、抜けていく。

「……すみませんでした」

「学校を……学校を守れなくて、すみませんでした!」

俺は頭を地面に擦りつけて、会長に土下座する。どれだけ謝っても、懺悔しても、何も戻って来ない事は分かってる。
だけど……どうしようもないじゃないか。ここで死んでも、俺は……悔いはない。
会長は何も答えない。やっぱり怒ってるんだな……俺が学校を、生徒を守れ……え?

「……良かった。貴方が生きていて、本当に良かった」

意外な言葉に、俺の視線が会長の方に向く。責められると……思ったのに……。会長の目は俺を責めるどころか、むしろ安堵している様に見える。
何で……何でなんですか? だって俺……俺は……。俺は会長に震える声で、聞いた。

「……会長、俺……俺、生徒を……誰も、救えなかったんです。救えなかったどころか……俺自身の……」

「……責めて欲しいの? 悪いけど、私は貴方を責める気は無いわ。だって、貴方は救ったじゃない。この町を」

会長は少し首を傾げて、俺に対して―――――そう言って微笑した。どうして……どうして、そんな事を言うんです?
俺は……俺は、責められるべきなんですよ。俺がちゃんと戦っていれば、学校も、街も……。皆死なずに、壊されずに済んだのに。
責めて……責めて下さいよ……会長……! 何で……何でそんな、優しい顔をするんですか?

「貴方を責めて……死んだ人は帰ってくるのかしら? 私は思わない。起こってしまった事は、もう取り返せないわ」

「だから……だから俺は……」


「なら――――二度と、同じ過ちを繰り返さなければいいだけの話じゃない? ひっくり返った覆水は戻せないけど、盆はまだ壊れてないでしょ?」

「私なら、二度と覆水をひっくり返さない様に、盆を必死に守るわ。貴方なら?」



――――目が、覚める。

「俺なら……」

「俺なら……いや、俺も同じです、会長。俺も……二度と覆水を零さない様に、盆を守ります。例えどんな障害が来ても、俺は……」

「それなら、次はしっかりと覆水を守りなさい。次は絶対にこぼさないように。貴方なら出来るわ。だって――――私の、部下ですもの」

そう言って、会長は微笑んだ。何故か、俺は赦された気がして――――何も赦されちゃいないのに――――。
アレ、何で泣いてんだろう、俺……。俺は……誰かに赦されたかったんだ。情けなくても良い。誰かに、俺の事を。

「会長……」
「男の子がそうやって泣くんじゃないの。全く、ホントにお馬鹿さんなんだから」
呆れ気味に、けど温かい声で、会長が懐からハンカチで俺の涙を拭う。俺がメルフィーにやった事と同じ事を。
抑えようとしても、涙は止まってくれない。……すみません。

「ちょうど1時間くらい経ったわね。お腹すいたし、何か食べに行きましょ?」


「何時食べてもまずいわね……」

図書館から出た俺と会長は、近くのファーストフードでだいぶ遅めの昼食を取る事になった。
俺はファミレスだろうが何でも良かったけど、会長は俺に、男だし沢山食べれてお腹が膨れる食事の方が良いだろうと言う事で、ファーストフードにした。のだが……。

「貴方達はこういうのを好んで食べるのね。それでダイエットとかもうね……愚の骨頂よ」
「駄目ですか?」
「駄目に決まってるでしょ。日本人に一番合うのは和食よ、和食」

確かに会長は飲み物……アイスティー以外に何も注文していない。対して俺はやけに腹が減っていたのか、バーガー2つにポテト3つだ。
腹減ってる時にこの味とボリュームは最高だった。持ってきて10分しないうちに食い終わり、俺自身驚く。もっと味わって食えば良かった。
にしても前から気になってたけど、なんでメルフィーと会長って髪の色が同じなんだろう。同じ国の人って事かな? まぁどうでもいいか。

「あ、そう言えば会長に聞きたい事が」
「何? 下らない質問だったら鼻からポテト食わすわよ」
「草川が会長に惚れてるみたいなんですか、会長って草川に弱みを見せたんですか?」

会長が飲んでいたアイスティーを逆流させて飲み込んだ。胸に詰まったからか、会長は何度か胸を叩いて咳き込む。
……聞かない方が良かったかな。この人、弱みを見せる事が一番嫌いだから。でもこういう所も、草川は惚れるんだろうな。

「……誰に聞いたの?」
「あ、今日草川にも会って、草川本人の口から」
「……あの男、一度地獄を見ないと自分の立場が分かんないみたいね」

会長の背後から、今まで見た事の無い様などす黒いオーラが放たれている……! けど、これでどうにか草川と会長をくっ付ける事が出来そうだ。
ホントに会長と草川の関係が今後どうなるか、見てみたい。未来に行きながらこっちの事も見れないかなぁ……無理だよな。
……そうだ。一つ、怖いけどやっておかねばならない事がある。今の覇王オーラが出ている会長に恐れながら、聞く。

「それと会長、もう一つ」

うわっ、こええ……。そんな無言で睨まないでくださいよ、会長。俺は会長の眼光にビビりながら、ズボンのポケットから紙を取りだし、書いてある名前を読む。

「木原……木原町子って人、知ってます? その、ウチの書記だった」
「木原? んー……。記憶に無いわね。書記は貴方と……あら? 貴方と……誰だったかしら……」

……本当の話だったんだな。本当に木原町子って人は、この世界から……。いざ実感してみると怖い。いや、凄く怖い。
けど、俺はもう迷わない。この世界から消えたとしても、俺は未来を守ることを決めた。これ以上、覆水を零れさせてたまるか。
……そろそろかな。草川とも話せたし、会長とも話せた。自分自身の弱さにも対峙出来たし、もうこの世界で心残りは無い。と言えば嘘になる。
だけど、やるべき事は全てやった。名残惜しいけど、俺には使命がある。未来を救うっていう、途方もない奴が。

「まぁ、どっかで思いだすわ。それより鈴木君、二回質問に答えてあげたから、私から質問」

「鈴木君はこの後どうするつもり? ヴィルティックで戦い続けるの?」

俺は誤魔化さず、ありのまま、会長に答える。

「メルフィーと一緒に未来に行きます。全てに決着を付ける為に」
「……帰ってくるんでしょうね?」

どう答えるべきだ……。あっち側に行った時点で、俺の存在はこの世界から消える事はさっきの事件で分かった。
ハッキリ言えば、俺が未来に行った時点で、この世界に帰ってくる場所は無い。
スネイルさんが言っていた事の意味を、完全に理解する。……俺を見つめる会長の目が潤んで見えた。気のせいかな。

「……帰って来れるかはわかりません。けど、俺は行かなきゃいけないんです。それが、俺の役目だから」
「必ず帰ってきて。出ないと、許さないから」

じっと会長は俺を睨んだ。けど、その目は――――泣きだしそうだった。こんなに泣きそうな会長を、俺は見た事が無い。
けれどどう言えば良いんだろう。帰って来れるかは全く分からない。いや、むしろ無理なんだ。だって、俺の存在は――――。

「……答えかねてるなんて、やっぱり変わってないのね。情けない子」

そう言いながら、会長は髪を結いでいるリボンをするすると外した。ツインテールが綺麗なロングに変わる。
……髪を解かした会長ってメルフィーみたいだ。もしメルフィーと並んだら、姉妹か何かと勘違いされる程。
……何かおかしい気がする。いや、気のせいだよな。一瞬マジで、会長の顔がメルフィーに見えた。目が違うのに。

「手、出して」
俺はテーブルの上に手を出す。と、会長が解いたリボンを俺の手に優しく握らせた。

「会長……」
「お守りにでも取っておきなさい。こんな物でお守りなんて、ナンセンス極まり無いけど」

俺はリボンを大事に握る。会長と正面から向き合う。会長は泣きだしそうな目をグッと閉じて、静かに開いた。

「……私には、貴方がこれからどんな辛い運命を送るのか想像できない。多分ずっと、ずっと辛い運命だと思う」

「もしも潰れそうになったら、このリボンを見て思い出して。貴方の事を必要としてくれる人がいる事を。貴方は、一人で戦ってる訳じゃないから」

「また、会いましょう。その時には、メルフィーさんも一緒に――――この町で」


<本当に良いのね? もう、この世界には戻って来れないのよ。零時になるまで……>

<良いんです。伝えたい事は、伝え終わりましたから>

全ての事が終わり、俺は遥ノ川高校に戻ってきた。もう夕刻だからか、誰も通っていない。修復工事も終わり、学校は未だに破壊された箇所を露にしている。
もう戻って来れないけど、修復が終わって、本来の状態になった高校をもう一度見てみたかった。いや、正直に言っちゃえば――――全部、最初から元通りの世界に。
何時も草川がちょっかいを出してきて、放課後が終わると、木原さんと……会長に尻を引かれる、……それで、メルフィーと一緒に屋上で飯を食う。
そういう世界をもう一度過ごしてみたかった。俺は目を閉じ―――――その想像を、振り切る。

学校から踵を返して、空を見上げる。綺麗な夕日が浮かんでいた。
この世界で見る、最後の夕日だ。胸から何かがこみ上げてくるが、俺は泣かない。

泣くのは――――全てが終わって、未来を手に入れた時だ。

静かに目を閉じ、スネイルさんに伝える。

<……戻ります。転送して下さい>


……閉じた瞼を開けると、見慣れない景色が俺の目に飛び込んできた。一面見渡す雪景色……いや、違う。雪景色ってレベルじゃない。もしかして……北極……か?
下に目を向けると、ブーツが雪で若干埋まっている事に気付く。さっきから顔が凍りそうなくらいに寒い。気付けば俺は防寒着を来ていた。それもエスキモー並みの。
てかホント何処だここ……歩くと深く雪を踏む音が聞こえる。空が曇っているからか、視界が良く見えない。
まさか転送失敗したんじゃないだろうな。こんな所で凍死とか冗談じゃないぞ。

<隆昭さん、こっちです!>
メルフィー? 直感的に、メルフィーの居る方向が分かり、俺はその方向へと走りだす。
曇っていた視界がだんだん鮮明になって行き――――見えた。俺と同じくパーカを着て手を振るメルフィーとスネイルさん。

それに――――膝を着き、元の姿へと戻った、ヴィルティックが。

「メルフィー!」
走ってくる俺に気付いたのか、メルフィーも走ってくる。
俺は立ち止まり、メルフィーを待つ。俺はメルフィーを抱き寄せる。服越しでも、メルフィーの体温を感じる。

「ごめんな、俺だけ町に戻って……」
「……氷室さんに会えましたか?」
「あぁ。何時か……何時か二人で……」
「二人で?」

メルフィーが次の言葉を待つように、俺を見上げる。二人で……。

<熱い抱擁は結構だけど、そろそろ吹雪いてくるわ。ヴィルティックに乗って>

スネイルさんに言われて、俺とメルフィーは一緒に頷く。
瞬間、俺とメルフィーの体がヴィルティックのコックピットに転送された。ってこの格好のままじゃ……そうだ、左肩を二回叩くんだ。
するとエスキモー姿が、一瞬でメルフィーが来ている様なパイロットスーツになった。……何か恥ずかしいデザインな、これ。
球体に触ると、ブラウザが出てきて、メルフィー……髪、切ったんだ。

「髪、切ったんです。似合いますか?」
そう言って、ショートカットになったメルフィーは優しげな頬笑みを浮かべた。俺は力強く頷いて、返答する。

「あぁ、凄く似合う」

もう一つのブラウザが出てきて、スネイルさんが映った。……上手く表現できないけど、凄く、過激なパイロットスーツだ。

「私が次元を超えるから、続いて一緒に飛び込みなさい。良い? 絶対に遅れないでね。チャンスは一度だけよ」

俺はスネイルさんの言葉に頷いた。天空を見上げると、大きく黒い渦みたいなモノが浮かんでいた。アレに飛び込むのか……。けど、怖くは無い。

「隆昭」

メルフィーが俺を呼ぶ。俺はそれに頷いて、あの言葉を唱える。



―――――光を掴めないのなら、俺が光になってやる。未来という、光に。



「シャッフル!」










                              『ヴィルティック・シャッフル』

                                  グッド・バイ

                              Inside of our hands in the future


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