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ザイフリード バレンタインSS

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ParaBellum

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【※このお話に登場する人物は、機甲聖騎士ザイフリードのみなさんとは何の関係もない人たちです】

「~~♪」
 鼻歌を歌いながら、由希音は上機嫌でキッチンに立っていた。
 バギンズ邸、調理場。今日は由希音の貸し切りで、彼女は一人手作りのチョコレートを作っている。
 この不思議な世界、元の世界とは全然違うのだと思っていたが、案外そうでもないらしく、チョコレートは普通に存在するし、バレンタインデーもごく当たり前に存在していた。
 となれば、花も恥じらう現役女子高校生(今は騎士団員)である由希音が、このバレンタインデーを満喫しないわけにはいかないのである。
 この世界でも特に親しいファルバウトやオドレイに、手作りのチョコを振る舞わねば。
 妙な使命感に燃えながら、由希音は溶かしたチョコを型に流し込む。


 ファルバウトは悩んでいた。
 相変わらず全てをさらけ出した状態で、ファルバウトは自室の前にうずたかく積まれたチョコレートの山を見て嘆息する。
「……普段は避けられるのだが、今日は特別というわけかね」
 そのほとんどが屋敷に仕えるメイド達からの贈り物であるが、生憎ファルバウトは全員の名前を把握してはいなかった。
 それもそのはず、目が合うだけで避けられてしまうから会話が続いた試しがないのだ。尤も、その原因はどこをどう考えても自分自身の性癖によるが。
「そういえばユキネはどうしたのだろう」
「ユキネ様なら調理室をお使いになっています」
「オドレイ。君も私にチョコレートを?」
 後ろから声を掛けたのは、整備士兼メイドのオドレイである。
 例によってクールな彼女は、「何言ってんだこいつ、頭湧いてんのか」と言った顔でファルバウトを見据えた。
「私が、ファルバウト様に、チョコを、義理でも渡すと、寸分でもお思いですか?」
「いや、訊いた私が馬鹿だった」
「はい。どこをどう考えても、天地が逆さまになろうとも、まず、私があなた様にチョコレートを差し上げるなんて事は……」
 くどくどと語るオドレイに辟易したファルバウトが、そろりそろりと彼女の背後に回る。
 オドレイは後ろ手に何かを持っていると判断したのだ。
 素直ではないな、可愛い奴めなどと勝手なことを考えながら、ファルバウトは小さな可愛らしい包みを発見した。
「……オドレイ」
「はい? って、何で後ろに……!」
 急に背後から聞こえてきた主人の声に、オドレイが飛び退く。
「全く可愛い奴じゃないか君は」
「え、えっと……、ファルバウト様、何を……」
「君が素直じゃないのは勿論わかっていたさ。それにしても手渡しとは……、わかっているじゃないか……オドレイ……!」
「な、何故かひどい誤解を招いているような気がしてならないのですが」
「さあ、甘酸っぱいワンシーンを演出しようじゃないか、オドレイ……!」
「何を言ってるんですか……?」
「この照れ屋さんめ」
「……うわぁ」
 露出狂の言葉に、オドレイは呆れた顔を見せる。
「あの、このチョコレートは一応、違う方に渡すつもりなのですが」
「違う? 私ではないのか」
「だから、ファルバウト様にチョコレートなんて渡すわけないでしょう。……せいぜいがギロチンですね」
「ギロチン!?」
「いつも目障りなそれを切り落とすための小型ギロチンなんていかがですか?」
「オドレイ……、君はさりげなく恐ろしいことを言うね……」
 色々と身の危険を感じたファルバウトが、デリケートな部分を抑えながら後ずさりする。
「はて……、本気なのですが」
「余計恐ろしいよ! いいかいオドレイ、冗談でもそんなことを言ってはいけない」
「はぁ……。ところでファルバウト様は誰かにチョコレートをお渡しには?」
「ん? 私がね? ……いつも貰うばかりだな。そもそも男が渡すものなのか」
「あ、このチョコレートの山、大半が整備員からですね。男の」
「何だと……!」
「【マーチスより愛を込めて(はぁと】……。ああ、マーチスさん。整備班随一の巨漢ですね。彼に襲われた若い整備員は数知れず……。ああ恐ろしい」
「本当に恐ろしいよ! 私の屋敷はこんなに危険に溢れていたのか!?」
「そもそもいつも裸で歩いているあたりガードが緩いって思われているのでは?」
「……だが服は着ないぞ」
 勝手にして下さい、とオドレイはため息を吐いた。
「話を戻すが、男でもチョコレートを送るのか」
「ええ、親しい方に送る風潮があります」
「ふむ……、そうだな、ではオドレイとユキネ、それからバレルにでも送るとしようか」
 全てをさらけ出した状態で、ファルバウトは爽やかに笑う。
「……私はいりませんけど」
「遠慮するなオドレイ。私の型を取って、そこにチョコレートを流し込めば、【食べるのがもったいない! 等身大ファルバウトチョコ】のできあがりだ。素晴らしい」
「オルトロック様と被ってます」
「何を言っているんだ?」
「こちらの話です。まあ私としては型を取る時点で息の根止まれば嬉しいかな、と」
「酷いことを言うねオドレイ」
「割と本気です」
 しれっ、と真顔で毒を吐くオドレイに、ファルバウトは内心で涙を流す。
(昔はこんな娘ではなかったのだけれどね……)
「ファルバウト様?」
「ああ、すまない。じゃあ無難に手作りにしよう」
「それが良いと思います。私はいりませんけど」
「もういいよ……」


 キッチンで手作りチョコを生産する由希音の後ろ姿を、一人の変態ともう一人の変態が変態的な目で変態的に見つめていた。
「ユキネ……。私のために……!」
「それはないです。ユキネ様は私のために、精一杯手作りのチョコレートを……っ!」
「それこそないだろう! あんなに手の籠もったチョコレートが本命以外のわけがない。……つまり、君があのチョコを渡される確率は限りなく低いのではないかね」
 勝ち誇ったように、ファルバウトが笑う。だがオドレイは、くつくつと妖しげに笑っていた。
「……ふふふ、ファルバウト様、一つ失念していることがありますよ」
「なんだ?」
「ユキネ様が、百合ん百合んな性癖を持っているとすれば……! 私の勝利は揺るがない……!」
 ファルバウトを見下すように、オドレイが口の端を吊り上げた。
「何だと……! そもそもオドレイ君はそっちの気が……?」
「……深くは語りますまい」
「ちょっと待つんだオドレイ、その点非常に気になるんだが。……はっ、まさかその小包……!」
 ファルバウトは、オドレイが大事そうに持っていたチョコレートの包みに視線をやり、冷や汗を流した。
 いやな、予感しか、出てこないよ!
「ふ、ようやくお気づきになりましたか。そう……、これは私が、ユキネ様のために昨晩不眠不休で作り上げたオドレイスペシャル。紛う事なき本命です!」
 自信満々でオドレイが語る。
「\(^o^)/」
「ファルバウト様、普通の言葉をどうぞ」
「……君にそんな性癖が……」
「ふふ……、オドレイスペシャルのスペシャルは伊達ではありません。媚薬配合済みの超スペシャル品です。……私無しでは生きられないカラダに……、うふふ」
「オドレイ! やめるんだ! このままでは私よりも君のキャラの方が濃くなってしまう!」
「ふ……、私の勝ちですね」
「オドレイ……、貴様――」
「できたーっ!」
「「!」」
 不毛な争いを続けていた二人が、由希音の完成宣言にその動きを止めた。
 由希音の手に握られている包みは三つ。一つ多いことは気にせずに、ファルバウトとオドレイは転がるように由希音の前に姿を見せた。
「ユキネ!」
「ユキネ様!」
「しょ、将軍にオドレイさん……? 一体どうして……」
 突然の登場に、ユキネが驚いた声を出す。
「ユキネ様、このチョコレートをどうか……!」
「ユキネ、それは巧妙な罠だ! 手作りチョコレートを渡されては食べないわけにはいかないという心理を利用した卑劣な罠が――」
「――黙りなさい」
「ふぐぉぉぅっっ!?」
 声にならない声を出し、大事な部分を蹴り抜かれたファルバウトが轟沈した。
 さようならファルバウト、君の勇姿は忘れない。
「あ、将軍……」
「さぁ、ユキネ様……これを」
「あ、ありがとうございます。それじゃあ、私からもどうぞ」
 手渡される可愛らしい包みに、オドレイは震えた。心の底からわき起こる喜び。
 甘酸っぱいこの気持ちは、長らく忘れていた大事な感情……。テンションあがってきた!
「ユキネ様、開けても宜しいですか!」
「はい、どうぞ!」
 震える手で包みを開けると、キルデベルタの頭部パーツを象ったデザインのチョコレートが姿を現した。
 側にはカードも添えられている。
『いつもありがとうございます、オドレイさん。あなたに出会えて本当によかったです』
「……ユキネ様……」
 ああ、なんと。ユキネも同じ想いを抱いていたというのか。
 オドレイは目の前にいるこの少女がたまらなく愛おしくなって、すぐにでも抱きしめようと思ったが続きがあるのを見て自制した。
『……これからも、《大事なお友達》でいて下さいね』
「……」
「オドレイさん……?」
「……ふぇぇぇぇん……」
「ええっ!?」
 オドレイもまた撃沈した。
 いつものきりっとした相貌はどこへやら、大粒の涙を流すオドレイは由希音の母性本能を刺激して、それはそれで成功に終わったと言えば成功に終わったという。


「結局、義理でしたね……」
「ああ、私も義理だった」
「結局、ユキネ様の本命チョコは一体……」
「ああ、それは多分……」


「ねぇユキト、こ、これで良いのかな?」
「わ、わからない、わからない! ていうか何してんだよマナ!」
「え、あ、あの、ミナが言ってたの。これが良いって。だから、えーと、次は……『ユキト、私がプレゼントよ(はぁと』って何よこれ!」
「……いつの時代も、若い少年はリボンを巻いた半裸の女性には弱いものです」
「は、鼻血が出るから近づくな……」
「何よ、私が体張ってアンタを楽しませてあげようと」
「嬉しい、凄く嬉しいけど……やって良いことと悪いことがだな!」

「雪人雪人雪人雪人雪人。お姉ちゃんのことほっぽって……何を、してるの? ねぇ、雪人……」

「何かもの凄く嫌な予感がした! 天井に何かいるよなこれ!?」
「見たら負けですね、ユキト。嫌な予感しかしませんから」
「わかってんならマナを止めてくれよミナ! このままじゃ血のバレンタインだよ!」

「……チョコレートには、私の髪の毛をどーっさり……、ふふふ、あははははははは」

「いやああああああ!」

  おわり


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