創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

荒野に生きる(仮) プロローグ

最終更新:

sousakurobo

- view
だれでも歓迎! 編集
 高層ビルの基礎らしき残骸が並ぶ、コンクリートの荒野が何処までも続いていた。
 大地はボロボロに朽ち、錆び、ひび割れ、巨大な何かによって耕されており、そこには動物が存在する痕跡は疎か、
雑草の一本すら生えていない。
 生命の息吹を微塵も感じさせない荒野の中心で、一体の鉄の巨人が風を感じているかのように静かに立っていた。
 強固な装甲に包まれた無骨なデザインのその巨人の名は「対鋼獣用人型兵器」……通称ヴァドル。地球上に蔓延る
鋼獣という異形の怪物に対抗する為に開発された、戦闘用ロボットである。
 骨組みとなる強化金属フレームを人工筋肉と擬似神経で覆い、ソコにパイロットの神経をダイレクトに接続する事で、
あたかも自分の肉体を操るかのように機体を操縦出来るという、モーターやエンジンを積まない最新の動力システムを
搭載している為に、ヴァドルは全体的にシャープなシルエットをしている。
 ヴァドルは全長10メートル程で、やや足が短く、逆に手が少し長い。流線型の装甲タイルが人口筋肉を覆っており、
甲冑を纏っているというよりは直接体に鉄板を打ち付けたような容姿をしている。
 加えて、僅かな手足のバランスを覗けば殆ど人間に近い造型をしている事や、駆動が静かで滑らかな事から、
ヴァドルからはロボットという機械っぽさがあまり感じられない。
 隊長機を意味する「00」とプリントされたそのヴァドルは、砲身だけで4メートルはあろうかというシールド付きの大型
ライフルを手に、腰にはナイフというよりも鉈に近い形状のブレードを装着していた。

『隊長、作戦配置に着きました』

 元はビルであったらしき瓦礫の小山に立つヴァドルに、女性の声でノイズ雑じりの通信が入る。
 ヴァドルの胸部前面に位置する、衝撃を吸収するゲル状の液体に満たされたコクピット内で、無数のコードが繋がった
パイロットスーツとヘルメットを身に着けた男――瀬名龍也は小さく息を吐いた。

「了解。各機へ、敵は電波や音の発信源を狙う性質を持つ。作戦開始までは通信回線を閉じておけ」
『一号機了解。』
『フン……。二号機、了解』
『さ、三号機了解です』

 それぞれの返事と共に各機との通信が切れ、コクピットに再び静かな時が流れる。
 龍也は静かにライフルを構え、ゆっくりと”ヴァドルの”目を閉じた。サポートツールが視界に表示するデジタルなメーターや
数字が視界から消え、本当の意味での暗闇が眼前に広がる。
 聞こえるのは風の音と、ヴァドルの人工筋肉に流れる血液の音。そして、龍也の心音のみ。
 それらの音の中に、小さな雑音が入り込んできた。次第にその音は大きくなり、やがて龍也の……ヴァドルの足元でピタリと
なりを潜める。

「作戦を開始する」

 自分に言い聞かせるようにそう呟いて、目を見開き、龍也はヴァドルを駆った。
 全長10メートルの鉄の巨体は、まるで生き物のような滑らかさで足元の瓦礫を蹴り、大きく跳躍した。

――ガキン!

 瓦礫の山から飛び降りた龍也のヴァドルは、大きな音を立ててコンクリートの大地を踏み砕き、着地する。
 途端、ヴァドルの足元が盛り上がたかと思うと、地面から巨大な黒い柱が立ち上り宙に舞った。
 全長20メートルを越える黒色のソレは、体の大半が口で出来た奇妙な生物だった。

 ソレは金属を喰らう生き物であり、鋼獣と呼ばれていた。現在の地球上で最強と言われる、龍也達人類における最大の
天敵である。
 巨大で禍々しい顎を持つ、太く短い胴の、バランスの悪い魚のような容姿をした怪物――土竜型と呼ばれるその鋼獣は、
巨大な顎でコンクリートをスナック菓子のように噛み砕きながら、レンズのような赤い目玉をギョロギョロと動かし、今自分が
「喰い損なった」獲物を見た。
 その眼球に映るのは、地中から土竜型が飛び出した際の一噛みを横っ飛びで回避し、地面に倒れこんでいるヴァドルの姿だ。
 土竜型は地下に存在する下水道や地下鉄道といった空間や、自ら掘ったトンネルを利用して地中を高速で移動しつつ、
感じ取った音や電波の発生源である獲物を捕食する性質を持っている。
 地中からの噛み付きを回避する事は難しく、鋼獣が姿を見せるのはその時だけである為、攻めるタイミングも一瞬しかない。
 その上、悪食故に内臓が異常なまでに強化されており、爆弾等を喰らいつかせて爆殺させることも難しいという、鋼獣の中でも
厄介な部類に属されるタイプだ。
 魚の様に水中から飛び出した土竜型は、空中で身を捻り、ヴァドル目掛けて急降下した。
 ようやく起き上がろうとしているヴァドルに対し、土竜型は既にヴァドルの目前に迫る。ヴァドルがソレをかわす事は不可能だった。
 土竜型が巨大な口を開き、ヴァドルに喰らい付く。
 その寸前。土竜型の側面に、殴りつける様な強烈な一撃が撃ち込まれた。
 ソレを放ったのは龍也のヴァドルではなく、周囲の瓦礫に埋もれ、一切の気配を殺して居たヴァドルだ。その機体には01と
プリントがされている。
 その一発を合図に、残るヴァドル二機が瓦礫から飛び出した。どちらも、今の一撃で吹き飛ばされたまま宙で無防備を
晒している土竜型に銃口を向けている。
 同時に伏兵のヴァドル三機が引き金を引いた。
 一号機のライフルと、二、三号機のマシンガンの掃射を受けた土竜型は、錐揉みしながら地面に叩きつけられる様に跳ねた。
 しかし、それだけでは絶命にまでは至らない。全身から緑と紫の体液を噴き出しながらも、土竜型は必至に地面に潜ろうと
足掻いている。
 ソレを見て取った二号機がとどめを刺そうと、弾倉を交換しながら一気に距離を詰める。

「……あの馬鹿が!」

 ようやく機体を立て直した龍也は、ソレに気付き舌打ちした。
 急いで通信回線を二号機に繋げ、叫ぶ。

「迂闊に近寄るな!」
『土竜型の表面温度急速上昇!』

 龍也の声と同時に入った、三号機からの通信に、二号機が僅かに動きを止めた。
 次の瞬間、土竜型の全身の表皮が破裂した。
 脱皮と呼ばれる、土竜型の切り札の行動だ。逆立った鱗のような土竜型の表皮は非常に硬質かつ鋭利であり、ソレが榴弾の
ように周辺数十メートルに撒き散らされる。
 土竜型に迫っていた二号機に、放たれた無数の表皮をかわす術は無い。土竜型の表皮は二号機の全身を一瞬で切り刻み、
突き刺さる。
 直撃を受けた二号機が数歩後退り、グラリと傾ぐ。今の被弾で何処かの人工筋肉が致命的なダメージを負ったらしい。
 被弾によるパイロットの生死は判断できなかったが、あの状態で土竜型に噛み付かれでもしたら、回避する事はまず不可能だろう。
 結果的に、ソコには死が待っている。

「クソ、間に合え!」

 龍也のヴァドルが大型ライフルを構え、照準を合わせる間ももどかしく引き金を引く。
 一瞬の強烈な閃光と、重く篭った爆音と共に、龍也のヴァドルがビキビキと唸りを上げて軋む。
 その一撃は一瞬で二号機の右膝を跡形も無く消し飛ばした。
 片足を失い、二号機がバランスを崩す。その左腕を、一瞬の内に土竜型の鋭い顎が食い千切っていた。
 もしバランスを崩していなければ、二号機は丸ごと土竜型に噛み砕かれていただろう。

「三号機は二号機を回収しろ!」

 そう命令を下しつつ、龍也は即座にリロード作業に移る。
 土竜型は今の龍也の一撃に己の危機を察したらしい。地中に潜る暇すら惜しいといわんばかりに、目の前の二号機を押し退け、
蛇のように地を這いながら龍也に迫る。
 金属同士が擦れ合う鋭くも重い音と共に、真っ赤に焼けた巨大な空薬莢が煙を吹きながらライフルから吐き出された。
 地中を移動するほどではないが、地上でも土竜型の動きは早い。空薬莢が地面を跳ねる頃には、土竜型は龍也の目前に迫っていた。

『瀬名さん!』

 三号機から悲痛な叫び声が上がる。

「ぅぉおおおおおお!」

 リロードが終わるなり、龍也のヴァドルは全身でライフルを槍の様に突き出し、砲身を土竜型の口内にねじ込んだ。
 そして、土竜型が牙を立てるより一瞬早く引き金を引く。
 強大な破壊力を持つ一撃を零距離で頭に、それも内側から受け、土竜型は脳髄を撒き散らしながら大きく吹き飛んだ。
 龍也の視界の隅でライフルのロック表示がオンになる。ライフルの砲身が焼け付き、コレ以上の発砲が出来なくなったのだ。龍也の
使っているライフルは特注品であり、頑強な都市防壁すらも穿つ威力を持っている。反面、連続では僅か二発しか発砲する事が出来ない
欠点を抱えていた。
 だが、そんな事は既に問題ではない。
 魚のような容姿をした鋼獣は既に完全に動かなくなっていた。

『生体反応、消失を確認』

 三号機から呆然とした様子の声で通信が入る。

「了解。第二防衛線で待機している部隊に連絡しろ。土竜型の金属部位の回収と、生体部位の焼却を完了したら引き上げる」

 龍也のヴァドルはその巨大なライフルを地面に突き立て。

「コレにて、戦闘終了」

 通信を切り、龍也は軽く溜息を吐いた。



 少し経ち、大型トラックに乗った待機部隊と、ヴァドル用の輸送機がやって来た。
 一号機と以降の作業の引継ぎの確認を終えたらしい待機部隊の様子を見て取り、龍也はコクピットのゲルを抜いてハッチを開いた。
 コクピットから身を乗り出してヘルメットを外し、植物が見当たらない荒野を見渡しつつ、緊張した神経を解す様に深呼吸をする。
 相変わらず何も無い錆色の景色だったが、不思議と”都市”よりも空気が美味しい事に気付き、龍也は少しだけ感動した。
 龍也に続き、一号機と三号機のハッチが開いた。
 一号機からは、青みがかった銀色の長髪の、狼の耳と尻尾を持つ二十代半ばの女性。
 三号機からは、栗色の柔らかそうな髪の、犬の耳と尻尾を持つ15歳程の少女。
 少し遅れて二号機のハッチを内側から蹴破って出てきたのは、二十歳程の、炎のように真っ赤な髪をした狐の耳と尻尾を持つ女性で
あった。
 誰もが龍也と同じ気分なのだろう。深く深呼吸しては、気持ち良さそうに空を見上げている。
 よく見れば、土竜型の残骸の処理に取り掛かっている待機部隊の兵士達も皆、幼い少女達であり、その誰もが何かしらの動物の耳と
尻尾を持っていた。
 しかし、それらは現在の日本では至って普通の光景だ。むしろ、獣の耳を持たない龍也の存在の方がイレギュラーである。
 この荒野で動物の耳も尻尾も持たず、そもそも女性ですらない存在は、瀬名龍也ただ一人なのだ。


 再生暦164年、コンクリートの荒野が広がる未来――。
 日本と言う小さな世界は。
 『鋼獣』と呼ばれる異質異形の怪物と。
 『ヒューマニマル』と呼ばれる「獣の耳と尻尾を持つ少女」達が。
 人類の存亡を賭けて、ただひたすらに戦っている光景で溢れていた。

 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます)
+ ...

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー