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「ヒューマン・バトロイド」 第15話 中編

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匿名ユーザー

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リクが思いっきり泣き続けていたその時、両軍に対して攻撃を仕掛けて殺戮を繰り返していた機体に重力場の衝撃が届いていた。
『強力な重力場が接近、衝撃に注意を』
左手に装着されていたシールドで防御態勢をとるその機体は、周囲の機体がひしゃげていく中でただ1機生き残っている。
「これは間違いないな」
『粒子照合、間違いありません。Typeαおよびβです』
周囲のマイアートを収納、そのまま衝撃の中央へと飛び立つ。
「見つけたぞ……白い魔弾(ホワイトバレット)……お前を殺す事が2人への手向けになる」
その機体のパイロットの虚ろな目に光が戻る。


『マスターマスター、お楽しみ中の所申し訳ないんですが敵機接近です』
時間も場所も忘れて宇宙の中心で愛を囁いていたリクとミキに、本当に申し訳なさそうにイザナミが言う。
「はぁ……もう少し空気を読んで欲しいよな、敵も」
[私は誰かに見られる前に気がつけたからよかったわ……]
心の底からそう思っているリクと、夢中になって周りが見えていなかったミキはそれぞれコックピットに戻る。
『そんなミキさんに朗報です。さっきのシーンの一部を記録してあります。スタークにて後ほど放送しますよ』
[消してぇぇ!]
リクはその会話に笑い、そして気を引き締める。
「ミキ、ここからじゃ通信が届かない。スタークに連絡が取れる距離まで飛んでくれ」
[わかった、気をつけてね]
Typeαは最高速度で接近する機影に近づく。
Typeβは逆に最高速度でスタークに向かう。


「これどうすんだよ!直せねぇぞ!?」
ジョージは長く整備士をやってきて初めての苦難、握りつぶされた戦艦の操縦桿修理を行っている。
「まさかブリッジでこんだけ苦労する事になるとは思ってなかったぞ………」
基礎部分から操縦桿の亡骸を取り外し、配線を確認していく。
「ラウル!換えのパーツは出来たか?」
[一応試作品をいくつか……今運んでもらってるっす]
「はい操縦桿お待ちぃ!」
ジョージはすぐにそれを受け取ると配線を繋げていき、基礎部分に取り付けようとする。
「あれ……入らねぇ……サイズが……」
[まじっすか……もうちょい細かい寸法分かります?]
「肝心の部分がボロボロだ。潰れてる」
スタークの設計者もまさか操縦桿のみがピンポイントで潰れるとは思っていなかったに違いない。
まったく手掛かりの無い状況から作る事はかなり難しい。
「重力場感知!この方向と規模……多分ミキちゃんが間にあったんだと思う!」
「ふう……これでひとまず安心ですね……リキさん、2機の回収をお願いできますか?」
[了解っと……あれ、向こうも戻ってきてるっぽいぜ?]
リキが捕えたのはブースターの光、Typeβの機影がだんだんと見えてくる。
[こちらミキ・レンストル、リクの説得に成功しました。現在は重力場に耐えきった敵機の反応を捉えたため彼は迎撃にでました]
「了解しました。ありがとうございます、ミキさん」
リクの無事に全員が安心した中、リリだけが聞く。
「それはつまり、お前がリクの支えになれたってことだよな?」
その質問でクルーの全員がミキに注目する。
[………うん]
その答えにどよめきが走り、そして気まずい雰囲気が流れる。
気まずさの中心たるリリはその答えに俯いて、すぐに笑いだした。
「あっはっはっは!そりゃよかった!」
事情を知らないクルーが戸惑い、事情を覗き見して制裁をくらった3人はますます気まずくなる。
「多分きついぜ?あいつのパートナーは」
[知ってるよ。それでも大事だから……]
「知ってるさ。立場が逆ならアタシもそう答えてる」
そう言ってリリは頷き、それを見たミキも頷き、そしてTypeβはリクの元に戻って行く。
「いいんですか?」
「これがケジメってやつだしな。大丈夫」
リリはそう言って既に不毛な作業になっている操縦桿修理の様子を見に行くと言って出て行った。
「……リキ君、君も援護に向かって下さい。少しでも助けを彼らに」
[わかってるさ。いってくる]
そのまま通信は切れて守護狂神もリクとミキを追った。


リクは既に敵機の姿を確認している。
『あと20秒で接触します』
おぼろげにしか見えていない機体の姿は宇宙用にしても少し大きいバックパックを背負った青い機体だった。
右手にブレード、左手にシールドと一体化したレーザーを装備している。
「あの機体、嫌な予感がするんだが……ッ!」
次の瞬間、ほんの少しの感覚に従って機体を捻るように大きく動く。
装甲の上を弾丸が掠って行く。
「攻撃?どこから……またッ!?」
立体的にこちらの機体に見えない敵からの攻撃が飛ぶ。
反射でマズルフラッシュを感じるたびに回避運動を取り続ける。
ブーストの光すら見えない敵でもリクは見切る。
そうしながら徐々に敵の姿を掴んでいく。
「これは……浮遊砲台か?」
普段ならこの程度の攻撃はフィールドで防いで本体であると思われる敵機に攻撃する。
しかしこの攻撃もまた、重力場フィールドが効かない。
そうでなければ最初の一撃が装甲をかすめる筈がない。
「なるほど、新たに開発された武装か!」
仕組みさえ分かってしまえば対応は簡単だ。
当たらない様にして砲台を破壊してしまえばいい。
だが砲台の大きさはHB基準では小さく、攻撃をかわしながら進むグレネードを撃ち落とせと言っている様なものだ。
それでも、手がない訳ではない。
「本体さえ墜とせば!」
遠くに見える青い機体にクラビティキャノンを放つ。
敵機は身じろぎ一つせず、その姿は重力の坩堝に覆われた。
しかしその中から無傷の敵機の姿を確認した。
「こいつにもやっぱり効いて無い……そういう事か……」
至近距離で仕掛けるために一気に接近、その過程で右肩のグラビティキャノンに弾丸が直撃した。
機体が強化されてから久しぶりの衝撃にリクは歯を食いしばり、そして敵機に体当たりを仕掛ける。
敵機も近接専用のブレードを右手に構えてこちらに振り下ろす。
ブレードに纏わりつく鈍い輝きを確認した瞬間、リクは機体を急停止させて右肩のグラビティキャノンをパージする。
大量の重力場粒子をチャージされたグラビティキャノンは一撃で切り裂かれて爆発、リクはその爆煙を引き裂いて再び体当たりを行う。
シールドにブレードが当たり、火花を散らす。
恐らく重力場粒子がまき散らされていなければここで左手はシールドごと切り落とされている。
目の前の機体は予想通りの姿をしている。
青いグラビレイト。
その機体の肩には見覚えのあるモチーフ。
「やはりあなたか!」
[殺す……殺す……殺す……]
たった1人、リクが勝利を収める事が出来なかった相手。
徐々に粒子が薄れてきてシールドに刃が通り始めている。
青いグラビレイト―――恐らくTypeγと呼ばれているであろう機体を蹴りつけて距離を稼ぐ。
その直後、母機に対する誤射の危険が無くなった子機達が射撃を再開する。
「三機目は予想していたが……ここであなたが出てくるのは予想外だ」
[お前を殺さなければ……二人が報われない……]
彼から伝わってくる物はただ1つ、憎悪。
それが心の表面に浮かびあがり、そして内側は空虚な悲しみに彩られている。
彼の人格を、彼の人生を壊すだけ事をリクはしてきたのだ。
その罪が目の前に立ちはだかる。
「誰の事を言っているのか理解しかねるが……そこまで言うのなら俺が殺したんだろうな。でも、俺はもう死ぬわけにはいかない。それが俺に
求められた唯一で全ての事だからな!」
[お前が死ななければ……殺さなければ……]
振り回されるブレードをかわし、レーザーをかわし、機関銃をかわす。
がむしゃらに振り回される攻撃の1つ1つは、全ての攻撃と合わさってリクを追いつめる。
「くっそ、腐ってもエースって訳か!」
『それに特化型AIの補助もありますね。さすが自立型特化式AIといった所でしょうか』
「どういう意味だ?がッ!?」
攻撃が少しづつ命中してTypeαはだんだんと満身創痍になっていく。
『聴こえているんでしょう、スサノオ。挨拶もなしですか、あなたらしくもない』
『イザナミ、か……旧式が何の用だ』
『その言い草は無いでしょう?立ち位置的にはあなた達の母なんですから』
『指向性も付けられていない試験型がぬかすな』
通信から聞こえてきたのは男性の声。
これがAIスサノオの声なのだろう。
『彼が自立型特化式AI戦闘型、スサノオです。開発順で言えば5番目、HBでの戦闘補助のためにそれ専用の成長の指向性を持たせたAIです。特化
式AIには3番目のアマテラス、4番目のツクヨミがいますが2人とも別の能力を持っています』
「厄介そうだな、クソ!」
リクは毒づきながらも機体を旋回させる。
後ろを弾丸が通り過ぎていくのを感じながら敵機の特徴を整理する。
武装はバラバラ、近接戦にブレード、中距離にレーザー、全距離に砲台。
どこに居ても攻撃は迫ってくるうえ、こちらの動きを確実に狭めている。
さらにAI、イザナミよりも戦闘に特化していると言うのは多少厄介だ。
そして粒子、全ての原因はここにある。
推測でしかないが、この粒子の特性は重力を消し去る。
それどころか0にするだけではなくマイナスにする。
重力を相殺されてこちらの武装は意味をなさず、装甲の重力をマイナスにされて防御力を極端に下げている。
いわば反重力場粒子といった所か。
「だが……1つだけなら差を埋められる」
『さすがマスター、その秘策でなんとかがんばって下さいよ。機体損傷率18%超えました』
「いや、がんばるのはお前だ」
『………がんばれマスター!』
「逃避すんな。一旦システムダウンさせて戦闘用OSの書き換え、俺の戦闘データ記録してあるだろ?」
イザナミの補助を切断、その間でOSを書き換えてもらう。
もちろんこちらの戦闘能力は下がるが、そこは自分の腕を信じるしかない。
「本当はこんな急にやるつもりはなかったんだけどな……仕方ないか」
たった1人、それでも死ぬつもりはない。


一向に進まない修理作業にリリは呟く。
「なぁ、やっぱり直らねぇの?」
「無理っす。この戦闘中は無理っす。1週間あればなんとかなると思うっすけど」
ラウルはぐったりとしながら答える。
いまだに戦闘は終了していない。
生き残った機体の数は知らないが、リク達が戻ってこないと言う事はかなり切迫した状況なのだろうか?
「やっぱ援護いけたら楽だよな……」
「その選択肢をあんたがブチ壊したんじゃないっすか!?」
「いや、ここからでも出来る事あるんじゃないか?」
ラウルは思いっきり素人の意見に溜息をつく。
「通信が届かない位置で戦闘してるリクに、出来る事なんてないない」
「狙撃とかは?」
「とどくかッ!」
リリは少しでも出来る事を探そうとムキになる。
「滅茶苦茶強化すれば届くかもしれないだろ!」
「それこそミョルニル級のレーザーが必要だって!そこまでの発電装置もレーザー砲もこの艦には無い!」
「じゃあ重力場粒子とかの武装ならどうよ?あれならいけないか?」
「一応、理論値ではいけるけど問題が3つ」
リリは首をかしげるがラウルは何を当たり前な事をと溜息をつく。
「1つ目、粒子炉がない。2つ目、そこまでの高密度の粒子に耐えられる機体がない。3つ目、そもそも見えない!」
1つ目と2つ目はグラビレイトが戻って来なければ解決せず、そして3つ目は機械の限界がある。
「そっか……無理か……無理か?見えないか?」
そう、人ならば越えられるかもしれないという盲点があるが。
レーダーよりも遠くを見る事が出来る彼女なら、出来るかもしれない。


Typeαは次々と傷ついていく。
すでに左のグラビティキャノンのハッチは潰れ、左手のシールドは穴だらけでショットマグナムも使えなくなっている。
右手のシールドは半分切り落とされていて既に防御が難しい。
背中の4基のブースターも1基が破壊されている。
それでもまだイザナミの再起動は行われない。
息も荒く、玉のような汗が浮かび、目は霞む。
今までにない程リクは消耗していた。
必死に操縦桿を動かして機体を小刻みに動かすがどうしてもかわせない攻撃が次々と命中する。
「はぁ…はぁ……くそっ!クソ!」
生き残ったショットマグナムで攻撃を繰り返すが重量を奪われた弾丸に効果は望めない。
出力が低下しているグラビティキャノンも重力を中和されてしまう。
決定打を与えられるプラズマはまだ排気レベルまで精製できていない。
右側から飛んでくる銃弾を左手のシールドの生きている部分で受け流し、下から迫る銃弾は機体をバックさせてかわす。
胸部装甲が軽く削れて姿勢を崩される。
掠っただけでこの効果なのだから、リクは良く持った方だと言える。
「だけど……いくら過程が良くても……生き延びなきゃ駄目なんだよ!」
迫るブレードを無理矢理機体を動かして遠ざける。
可動部分が悲鳴を上げるが気にしてなんていられない。
近づいてきた砲台に蹴りを入れる。
いくらこちらの重量を操れてもサイズの違いで砲台は破壊される。
「あと……3つ!」
半分の砲台を撃破したリクはヘルメットを脱ぎ去って汗を拭う。
情報は全て脳内に表示する。
右足のブースターが射撃を何度も掠めてしまったせいで出力が低下している。
敵機は接近戦を仕掛けるためにレーザーを乱射しながら迫ってくる。
残ったグラビティキャノンをパージして爆破、再び接近状態で均衡を保つ。
両肩の粒子散布用ダクトが露出して重力場粒子の密度を保つだけの粒子を空間に放出可能になった。
右手のシールドでかろうじて保たれた微妙なバランスの中で息をつく。
跳ね上がるTypeγの左足を機体の位置を変える事でかわして再び離れる。
顔の周りに浮かぶ汗で水分を無理矢理補給して次の攻撃に備える。
その時だった。
[リク!大丈夫か!?]
「ミキ……助かった……」
一瞬気が緩んで意識が飛びそうになるが首を振って目の前の敵を見据える。
「厄介なエースが来てる。悪いが手伝ってくれ!」
[分かったけど……何者?]
「青い知将(ブルーリソース)だ!」


リクとミキの間には実は互いに気付いていない事がある。
この場合では、リクは青い知将が金若王(トップガン)と道化死(クレイジーピエロ)の死亡した戦場で爆発に巻き込まれた事を知らない。
そして青い知将がミキの義兄のギルバート・レンストルである事も知らない。
前者は自分が人を殺した感情のせめぎ合いに気を捕らわれて気付かず、後者はミキが言っていない為知らない。
逆にミキはギルバートが爆発に巻き込まれた後、無事救出された事を知らない。
そしてそしてミキが白い魔弾と相討ちになった直後から戦場に復帰するまで死亡したとされてた事を知らない。
また、ギルバートも救出された直後からキセノ・アサギに協力するため同盟から離れていたせいでミキが裏切ったことを知らない。
その為起こった勘違いは、リクに家族を殺されたとギルバートに勘違いさせるだけの意味を持ち、ギルバートをただの厄介なエースだとしかリ
クに思わせないだけの効力を持ち、そしてミキに死んだはずの義兄の生存に戸惑い混乱させる効果を持った。


[義兄、さん?]
「え?」
その声は味方同士の通信ではなく、オープンチャンネルで聴こえている。
ミキの声と同時にTypeγの動きが止まってその頭部のカメラアイがTypeβを捉える。
[ミキ……生きて、いたのか?]
[義兄さんこそ!生きていたんですね!]
その状況が1㎜も理解できていないリクは完全に思考が停止している。
[あぁ……よかった……生きて……]
ミキの声はだんだん泣き声になってくる。
[何故、ミキが、親父の仇と同じ勢力にいる?]
だが青い知将、ギルバートの声は止まらない。
「親父……道化死の事か?」
リクは1人思考の渦にはまって行く。
[義兄さん……私はいきてまず……ぐす……]
ミキは号泣していて周りが見えていない。
[何故だ、なんで……親父の敵を取らない!?]
ギルバートの声が大きくなっていく。
まるで自分が信じていた物が崩れていくのを見たくないとでも言うように。
「そして、青い知将がミキの兄?」
[お前は親父の死を知っていないのか!?]
[うぅ……にいざん、本当によかっだ……]
全員が全員真剣な事態に陥っているにもかかわらず誰1人他人の話を聞いていない。
一番最初にキレたのはもちろんギルバートだった。
[答えろ!ミキ!お前は何でそちら側に居る!]
[ひゅあい!?……あ……]
ミキはその怒声で質問の意図を理解した。
[私は……彼に――]
「待ってくれ、ミキ。俺から説明したい」
自力で思考の泥沼から脱したリクがミキを遮る。
[お前になんて聞いていない!答えろ、ミキ!]
「いや、俺から言わなければならない事です!」
リクは滅多に出さないような大声でギルバートを遮る。
「青い知将、いや、ミキのお兄さん!」
纏わりつくような殺気を受けながらもリクは眼をそらさずに叫ぶ。
「妹さんを俺に下さい!」
しばしの沈黙が戦場に走る。
つまりどういう事かと言うとリクは思考の泥沼で謎の結論に達した。
その結論は時代錯誤的ともいえるリクの知識の中から引っ張り出された「恋人がその家族に会った時の反応」というカテゴリの「結婚の挨拶」
に飛んだ。
理由としてはこの挨拶のあと恋人の父親との殴り合いに発展するという微妙に間違った知識を戦場に当て嵌めてしまったからである。
[り、リク?]
「俺は、完成孤児で、人の死の意味を知らずに生きて、その生もきっと人の半分しか生きられない事が決まっている。でもミキはそんな俺を受
け入れてくれたんです!俺にはもう彼女の支え無しで生きていく事は出来ない!だからお兄さん、妹さんを俺に下さい!」
[……ざけるな]
ギルバートとしてはたまったものではない。
一応の事情の理解はしたが、こんな状況を許容できるほど心は広くない。
[ふざけるな!]
ギルバートの内側には怒りが溢れている。
ミキはこの声を聞いて戦慄すると共に内心ホッとする。
この異常な方に転がってしまった状況もギルバートがとりあえずは戻してくれると思ったからだ。
[お前みたいなどこの馬の骨とも分からない男に!義妹をやれるかぁぁぁ!]
こんな事になるとは予想できる訳がない。
[あ、あの……義兄さん?]
[お前は黙ってろ!]
[は、はぁ……]
妙な方向性に変質した殺気の籠った声がミキを黙らせる。
Typeαとγは同時に動いて戦闘を再開する。
「俺は真剣に妹さんを、ミキを愛しているんです!」
[俺は親父からお前のような輩の処理を遺言同然の形で託されているんだ!ゆ、ず、れ、る、かぁぁぁ!]
「それこそ、こっちだって譲れない!俺にはもう安らげる場所がミキの前しかないんだ!」
[男だろ!甘ったれるんじゃない!]
「俺は男とか人である前に、ミキを愛しているんだぁぁぁ!」
恐らく2人とも今までの人生で一番の叫びをぶつけ合っている。
それがひしひしと理解できる音声が……オープンチャンネルで垂れ流しになっている。
無関係の人間が聞けばシスコンの兄と依存している男が古き良き日本の伝統を再現しているようにしか聞こえない筈だ。
[あの、2人とも?]
その瞬間、2機の動きが止まる。
「大丈夫だ、絶対にお兄さんに俺達の仲を認めさせて見せる」
[う、うん、ありがとう……て、そうじゃなくて]
リクはわざわざTypeαにサムズアップさせながら言う。
[駄目だミキ。こんなお前より先に死ぬ男にお前は嫁にはやらない]
[いや、義兄さん?話を――]
ギルバートは既にブレードを構えている。
「意地でも認めて貰います、お兄さん!」
[お前にお兄さんと呼ばれる筋合いはない!]
[ちょっと!?リクも義兄さんも恥ずかしいからやめてぇぇ!]
そんなミキの叫びも聞かずに2機は互いに接近する。
Typeαの胸部を銃弾が穿つ。
その影響でグラビティジェネレーターが異常を示した。
「パージ!」
胸部装甲を機体から離して手で払う。
その隙を残った全ての砲台が狙うが、その瞬間Typeαは胸部装甲を蹴り飛ばして後ろに飛ぶ。
重力の収束を止められなくなったグラビティジェネレーターが小規模なブラックホールを発生させて3基の砲台が全滅する。
そのブラックホールに右足が巻き込まれて消し飛び、その影響でTypeαの動きが一瞬止まる。
[隙ありぃぃぃ!]
自機に向けて真っ直ぐにブレードを突き出すTypeγ。
その攻撃をみてリクはデジャヴュに襲われる。
限りなく停止した時間の中でその光景を思い出す。
1回目はミキとの初戦闘。
レーザーブレードでリフレクションを突き破ったミキの姿勢。
この時リクは粒子による力押しで勝利を収めた。
2回目はTypeβとの初戦闘。
刺突刀を持って突っ込んでくるミキを受け流しながら連携を避けていた。
そしてこれが3回目。
粒子による誤魔化しは効かない。
避ける選択肢を取るにはもう機動力が足りない。
真っ向から挑むしかない。
自分が一番不得手とする真剣勝負だ。
「う、ぉぉぉぉぉ!」
ならば、この一瞬だけでも得意になってやろうじゃないか。
リクは左手を前に突き出す。
左前腕を貫くようにブレードが突き刺さるが致命傷じゃない。
膝を突き上げて相手のマニュピレーターを緩ませる。
奪い取ったブレードを鞘から抜くように左手から抜き放ち、一気に振り下ろす。
重力場粒子を纏った刃がTypeγの左肩を切り落とす。
「まだだ!」
ブレードを放棄して相手に取り付く。
腕の断面から右手を突っ込んで引き抜く。
マニュピレーターがボロボロになるのを気にせず2度3度と続けて、遂に本命を引き抜く。
その手には引きちぎられたケーブルをたなびかせる粒子炉があった。
粒子炉が1つ無くなるだけでグラビレイトの性能は極端に下がる。
勝負ありだ。
後ろに粒子炉を放り投げて機体を向き直らせる。
「どうします、お兄さん?」
[………]
声は聞こえない。
気絶した訳でも死んだ訳でもなく、ただ言葉を発しないだけの沈黙。
[義兄さん]
そこにミキの声が割り込む。
[お願い、彼を認めて。これは私が望んだ事でもあるから]
[………]
流れてくる粒子炉を手に取りながら、ミキは説得を続ける。
[私が望んで、私が行動して、私が掴んだ、そんな結果がこれだから。お願い、認めて]
[……認めなければどうする?]
沈黙を破るギルバートにミキの態度は敵対的になる。
[無論、行動で認めさせるだけ]
リクは驚きを隠せない。
家族を失って死を選ぼうとした、そんなミキが自ら家族と敵対する道を選ぼうとしている。
「いいのか、ミキ?」
[当たり前よ。今の私にとってはあなたの方が大事]
その言葉にリクは少し涙ぐみ、ギルバートからは驚愕の気配が伝わってくる。
その時、無差別に放たれた通信を受信した。
[えー、地球の皆さんおよび宇宙に戦争をしに来てる皆さんごきげんよう。宇宙開発同盟で特別技術顧問、そしてジャパン・テクノロジー・コー
ポレーションで取締役をやっているキセノ・アサギと申します]
流れてきたのはキセノの声。
世界各国に同時に流されているらしい通信をリクはいぶかしむ。
キセノは基本的に目立つ事、そして無駄な事を嫌う。
なぜこんな演説を世界中に流すのか、リクは理解できない。
[今日は皆様に、地球滅亡をお知らせするべくこのような演説を行わせていただきます]


キセノは完成した要塞、天駆龍(テンガリュウ)の中から世界に宣言を行っていた。
「これは私個人から世界に対する宣戦布告です。これより宇宙からの攻撃で地球を、生命を奪うのではなく地球を崩壊させるという意味で滅亡
させていただきます」
この為に11年間生きてきた。
全ては彼女の、片葉菜穂の為。
たった1人の女性のために、仇を取るために。
「なお、勘違いされない様に言っておきますがこれはJTCの総意とは一切関係ありません」
コツコツと理論を集め、フォトングラビティを完成させる。
その粒子の能力のデータを取るためにHBで稼働させる。
そしてキセノ自身の動きから目をそらさせるためにそのHBを両軍に散らせる。
「この戦争の意味は全て第三次世界大戦に起因しています。日本が起こしたとあなた方が信じ込んでいるあの戦争、その真実を知っている全て
の罪を償うべき者の、HBという戦争の道具を手に入れるために日本を取り囲んだ奴らの、全てを暴くためです」
何もかもが上手くいかない。
戦争を止められたかもしれない位置に居たのに何も出来ず、菜穂が追いつめられているのを黙って見ている事しかできず、完成孤児の生産を断
る事も出来ず、そして全てを負の感情として世界に矛先を向ける事しかできない。
「日本が戦争を仕掛ける理由なんてどこにもない。世界は理由をでっち上げて民衆に発表して、日本があたかも戦争を望んでいるように見せか
けた。この戦争に巻き込まれた当時一介の学生で、戦時中は日本軍技術部副長でもあった私はあの戦争で大切なものの全てを失った!]
だからこそ、見せつける。
自分が感じた全てを世界に叩きこむために。
「もし恨むのなら私、それでも足りないなら当時の国連、そして戦争を行った全ての国の首脳を恨むといい。2分後にはこの宇宙要塞、天駆龍よ
り攻撃を開始する。一撃で世界の全てが終わる」
そして終わらせる。
理不尽な世界の全てを壊す。
「最後に、この戦いは世界に敵とみなされ、そして殺された彼女、片葉菜穂の為の戦争です。それ以上でも以下でもありません。私にとって彼
女にはそれだけの意味があった」
それこそが生きてきた、復讐と言う理由。
「では皆様、地獄で会いましょう」
演説を終了、それと同時にアマテラスに合図を出して天駆龍の全システムを起動する。
光学迷彩を解除、メインの砲撃の為に製造した巨大粒子炉を稼働させてコンデンサーに粒子をチャージしていく。
『全システム起動完了、異常ありません』
「御苦労、後2分で世界が終るか……」
アマテラスの報告にもキセノの表情は緩まない。
きっと上手くなんていかない。
リク・ゼノラスは、いや陸羽(リクウ)はまだ死んでいない。


3人の視線の先には離れていても確認できる大きさの要塞がある。
巨大な主砲は恐らく地球を壊すためにある。
[そんな……そんな事……]
ミキの声が耳に響く。
リクはそんなミキを気遣う事も出来なかった。
キセノの口から出てきた名前、片葉菜穂。
それが自分にとってなじみ深いものだったからだ。
「あの人が、彼女が理由?」
片葉菜穂、日本軍技術部長だった女性。
HBの開発者にして日本の軍備の全てを担当し、日本を支えた人。
そんな戦争の中心人物でありながら誰よりも日常的だった人物。
自分に名前をつけた人。
[世界を破壊?出来るのか?]
「多分、フォトングラビティを使えば出来る筈。それが出来るだけの施設が、多分あの要塞だと……」
動揺の収まらないリクは自分がどうするべきかを決められずにいた。
[ミキ、これから俺がやる事を止めるなよ?]
その時ギルバートが言った言葉、その意味を理解するよりも速くTypeγが加速する。
[義兄さん!?]
「あんた、何を!?クソッ!」
真っ直ぐに要塞に向かうTypeγを呆然と見ているミキ。
リクはミキより早くその行動の意味を理解して後を追う。
「おい!止まれ!そんな機体の状況じゃどうなるか分かってるだろ!?」
リクは叫ぶ。
もし想像と同じ事を彼がしようとしているなら止めなければならない。
「答えろよ!ふざけるな!アンタが死んだらまたミキがきっと泣くんだ!アンタと父親の死はミキに死を選ばせかけたんだよ!死んだりしたら
駄目だ!」
[それは、あいつが弱かったせいだ。今は強くなっている。それなら問題は無いだろ?]
加速に差が付き始める。
重量を0に出来るTypeγの加速力はTypeαを越えている。
「問題無い訳ないだろ!あいつが泣くのを見たくないって言ってんだよッ!だから止まれよ!」
[世界が無ければどちらにしろ終わりだ。大丈夫、お前がいればミキは笑ってられる。先に死ぬ事が不安なら早く子供でもつくるんだな]
「そう言う問題じゃ――」
叫びは届かない。
警告音と同時にコックピットの明かりが消える。
「何で……まさか……」
意識的に機体のバッテリー残量を見る。
既に残量は0に近くなっていた。
グラビティジェネレーターが破壊された事の意味を今更ながらに思い出す。
この機体は、グラビティジェネレーターが無ければ15秒しか起動できない。
「こんな時に……ふざけんな!」
モニターを殴りつけても何も変わらない。
かろうじて生きている望遠機能が要塞主砲の射線に到達するTypeγを捉える。
「やめろ、自分から死にに行くな!」
主砲からはすでに光が溢れている。


目の前に粒子が迫る。
それは重力を操り、そして地球を破壊する粒子だ。
高密度の重力はちっぽけな機体など消し飛ばしてしまうだろう。
「それでも、この機体なら出来る」
切り落とされた左腕の関節から大量の反重力場粒子が吹き出る。
粒子の経路を破壊されている為、この位置から溢れる粒子が一番高密度になっている。
『止まれ、ギルバート・レンストル。この行動はプランを邪魔している』
スサノオの声が聞こえるが無視する。
『止まれと言った筈だ』
「人には、絶対に止まっちゃいけない時がある、今がその時だ」
『……オートパイロット起動』
機体がギルバートの意志を無視して移動しようとする。
ギルバートは懐から取り出した端子を差し込む。
スサノオが三度警告を出そうとするがその声が止まる。
「この知将が、復讐の邪魔を防ぐためにAIをフリーズさせる手段を講じなかったと思っているのか?」
すでにウイルスによって沈黙しているスサノオにそう声を掛けると、ギルバートは機体の位置を修正した。
向かってくる粒子と正面からぶつかり、光を捻じ曲げる闇を中和する。
[――いさん――義兄さん!]
追いついてきたらしいミキが通信の範囲に入ってきた。
[義兄さん!なんでそんな所にいるんですか!?]
「こいつを止めなければならない。そうしなきゃお前の未来も無いだろ?」
ギルバートは軋む空間に歯を食いしばりながら耐える。
[こんな事をすれば義兄さんの未来も無くなってしまう!やめてよ!]
「……ミキ、きっとお前は幸せになれる。それだけは保障するよ。白い魔弾によろしく」
通信を遮断して迷いを断ち切る。
「俺の未来は、お前達に託すよ」
その眼には涙が溢れている。
それは死への恐怖ではなく、家族の元から羽ばたいて行く義妹への、一抹の寂しさからだった。
「大丈夫だ、お前たちは幸せにやれる。何があってもお互いに信じ合えば―――」
その瞬間、Typeγの粒子炉が暴走を起こして粒子をまき散らしながら爆発する。
最期の瞬間、ギルバートが脳裏に見たのは2人の男女の姿。
女性は黒く長い髪の見慣れた女性、白いドレスに身を包む姿はとても輝いている。
男性は見た事の無い東洋人、目つきは少し悪いが着なれない礼服に少し表情は硬い。
いつの間にかその周りを歓迎するように人々が囲む。
馬鹿騒ぎをする人々に苦笑しながらも幸福そうな笑みをかわしあう2人は、きっと未来の―――


「やっぱり失敗か」
『まるで知っていて穴を埋めなかったみたいな言い草ですね』
アマテラスが報告した内容、Typeγによる砲撃阻止。
それは予想の範疇だった。
「正確には埋められなかった、といった所だな。人の感情はどうにもできない」
『薬物でどうにかできるでしょう?』
アマテラスは素でそう言う。
恐らくマスターであるキセノに似ているからだろう。
「それじゃあ意味が無い。戦う理由まで消してしまうじゃないか。さて、次の発射まであと何時間だ?」
『各部の冷却、破損部分の点検、粒子炉の再起動、粒子のチャージ、全て含めると15時間ですね』
「速攻で進めろ。奴らは絶対に来るぞ」
そう、この失敗も奴がいたからありえた。
「お前だけに俺は止められる。さて、どう動く?」
陸羽、お前は世界を救うのか?


「これは酷い……」
戻ってきたグラビレイトを見てラウルが開口一番にこう言った。
Typeβは右手を失っているだけだが、Typeαは左手、右足が使いものにならない。
右手と左足、胸部に頭部も機能に不備が出ている。
ここまで完膚なきまでに叩きのめされているグラビレイトを誰も見た事が無い。
[すぐにでも修理しろよ。今、世界はその機体に運命を委ねてる]
そう通信で言うのはオーディルだ。
キセノの演説後、すぐに3勢力が会談を行い現在の宇宙の戦力を確認した。
その結果まともに動けるのはスタークだけ、つまりキセノを止められるかどうかはたった一隻の戦艦に掛かっている。
その為宇宙開発同盟の保有する通信衛星経由で地球と宇宙の通信を行っている。
「分かってるっすよ!チクショー、さっきから働きづめじゃないっすか……」
「そう落ち込むな、整備班全員で作業するんだから楽だぞ?」
ジョージがラウルの背を叩き、そして整備班の全員がグラビレイトの前に並ぶ。
「全員!今からやる作業には一切の妥協も許されねェ!整備屋の根性と魂を懸けて最高の仕上げにするんだ!」
返事は視線で、すぐに整備が開始される。


リクはミキに頭を下げる。
「すまなかった、ミキ」
その言葉には自己嫌悪が詰め込まれている。
いつだって予想できた初歩的なミス、バッテリー切れのせいでギルバートを死なせてしまった事に対する謝罪だった。
「謝る必要はないと思うよ?私は少なくとも、リクを責める気は無いもの」
ミキはそう言うがリクが自分を許せていない。
それをミキは理解できている、だからこそミキはリクを許す。
「義兄さんはああするしかなかったの。それはリクがもし間にあっても変わらない。私としてはこうしてリクが自分を責める方が辛いのだけど
?」
「……ミキは、強いな」
リクは自分の弱さを改めて実感する。
だがミキは強い訳ではない。
「そうじゃないよ、私だって辛いもの。それでもリクがいるから強がれるの」
顔を上げたリクの胸にミキは飛びこむ。
それを支えたリクの耳にはミキのすすり泣く声が届く。
リクはそれを聞いて、ぎこちなくミキの頭をなでる。
「ごめん、本当にごめん」
「いいの……しばらくこうしてくれれば」
泣きたい時に誰かによりかかれる。
2人で歩ける事は、とても力強い。
それを求めた弱い者同士は支え合えるから、きっとこの先も強くあれる。


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