創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

第3話  必殺! 愛の戦士・田所カッコマン!

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sousakurobo

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 ※

 武闘派市民団体E自警団の拠点のひとつ、最強無敵ロボ・ネクソンクロガネを擁する秘密基地・セイギベース3。
 敗戦のパイロット・田所正男と、はぐれ研究員・龍聖寺院光は、手狭な作戦会議室に籠っていた。
「ネクソンクロガネビームを跳ね返した、あのバリアはいったい……」
 先の戦闘において、改良型のワルレックスが見せた不可思議な現象。金属粒子ビームを、発射したネクソンクロガネに向かって反射
してみせるという芸当を、田所正男は思い出す。
「道路標識で夜間にライトを当てると眩しいものがあるだろう? あれは鏡面だけでなく微小な透明の球体を無数に埋め込み、屈折を
利用して光が照射先に帰っていくよう工夫したものでね」
 龍聖寺院光はリモコンを操作して照明を消し、小学生にも分かる単純明快な図説を白い紗幕に投射する。かつては教員志望だったと
いう嘘のような本当の過去を持つ彼女は、そういった作業が好きなのだ。
「あの装甲は攻撃に瞬時に反応し、シャボン玉のような球形の重力力場を形成して、似たような効果を得ているんだ。出力上の限界は
あるが、今の最強無敵ロボ・ネクソンクロガネでは破れない。そう今の出力では」
「そんなことが……」
 愕然とする田所正男に、龍聖寺院光は薄く笑った。
「だが対策なら、ある」
 銀幕上で画面が切り替わる。
「これを見てくれ」
 円い枠組みの光景。それが道具を通してのみ覗き見ることのできる、極微の世界の様子であることは容易に知れた。
 電子回路を思わせる、暗灰色の幾何学模様。張り巡らされた無数の線はいずれも緩慢に脈動を繰り返し、恐らくは液体をその内部に
蠢かせている。毛細血管か葉脈のような、何かの生物組織だと田所正男は当たりをつけた。
「これは?」
「何だと思う?」
 生徒の回答を待たずに、先生になり損ねたはぐれ研究員は悪戯っぽい表情で種明かしをする。状況が状況なら思わずトキメいてしま
いそうなほど艶っぽい微笑だった。
「これはな、最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの構造材質、超ネクソン黒鋼(スーパーネクソンクロハガネ)の顕微鏡映像だ」
 田所正男はもはや絶句するしかなかった。金属がこのような動きをするなど、にわかには信じ難い話だった。
「詳細については今後の研究を待たねばならないが、これだけははっきりしている」
 龍聖寺院光は核心を突いた。面白がるような声だった。
「超ネクソン黒鋼は、生きているんだよ」
 こうしてカッコマン田所正男は、自らの乗る最強無敵ロボ・ネクソンクロガネが秘める、途方もない謎と真実に向き合うことになる。


 ※

「サッサッサーサーイエーンス、サササッサーサーイエーンス」
 調子っぱずれのメロディを口ずさみながら、悪のマッドサイエンティスト・悪山悪男はご満悦の表情で研究所へと帰宅した。
「快勝、快勝である! さすが悪の天才・悪山悪男、今年で七十七! また自分に惚れ直してしまった!」
 とはいえ、最強無敵ロボ・ネクソンクロガネを打倒するために、予想以上に大量のエネルギーを消費してしまった。
 活動の続行にはかなり心許ない残量のため、悪山悪男は地下に張り巡らせた輸送システムを使って引き揚げるしかなかったのだった。
それでも「今日はこの辺で勘弁してやろう」という勝者の余裕を持たせた台詞だけは忘れていない。
 ともあれ、あの最強無敵ロボ・ネクソンクロガネに土をつけたという事実は変わりはない。孫娘エリスに語る自慢話の種としては申
し分なかった。

「エーリースー? おじいちゃんなぁ……」
 数十年は若返った感のあるはしゃぎ声を上げながら玄関に靴を脱ぎ捨てたところで、悪山悪男ははたと気がつく。
「ややっ! エリスのプリチーな靴がない!? ……そうか、とうに帰っておったのか」
 それまでのハイテンションから一転して、老博士はがっくりと肩を落とした。結局、この日は愛孫の顔を見ることは叶わなかったこ
とになる。一週間に二度しかない団欒のチャンスだというのに。人生レベルのひどい損をした気分だった。
「そろそろリホームするかの」
 意地悪にも二人の仲を裂く開かずの扉を思い浮かべ、悪山悪男は苦虫を噛み潰したような顔をした。あれに比べれば自分の悪さなど
全く大したことはないと思う。
(それとも派手にやられて大怪我でもしたら、毎日お見舞いに来てくれるかしらん)
 とうとうそんな末期的な思考まで浮かんでくる、寂しがり屋のマッドサイエンティストだった。
 ただし、捨てる神あれば拾う神もあるものである。
「ムオッ! こ、これは!?」
 とぼとぼと廊下を進み、灯の消えた居間の畳を踏んだ悪山悪男は、嬉しい誤算に目を見開いた。
 台所の方から漂ってくる、食欲をそそる醤油の匂いに気づいたのだった。


 ※

 ロボヶ丘市立ロボヶ丘高等学校。
 カッコマンスーツではなく黒い詰襟学生服に身を包んだ田所正男は、二年甲組の教室にいた。
 類稀な操縦センスをはぐれ研究員・龍聖寺院光に見出されたとはいっても、高校生である彼の本分はあくまでも勉強である。カッコ
マンとしての活動をひた隠しにしつつ、田所正男はここでも勉強にスポーツにと青春闘争を繰り広げているのだ。
 朝礼まであと数分。ほとんどの生徒が出揃い、最も雑談に花が咲く時間帯である。
 予想だにしない結末を迎えた、あの戦闘の翌朝である。一夜が明けたとはいえ衝撃は未だ冷めやらず、絶対無敵ロボ・ネクソンクロ
ガネ敗北の話題で持ちきりだった。
 ヒーローの不甲斐なさを嘲笑する者もいる、ここぞとばかりに巨大ロボットに関する持論を展開する者もいる、非難の集中砲火に同
情を寄せる者も少しは。
 当事者である田所正男は、まるでそうすることが義務であるかのように、感想や意見のさまざまにじっと聞き入っていた。「他人の
苦労も知らないで勝手なことを」とわずかにも思わないといえば嘘になる。だが、今は何より歯を食い縛って自らの敗北を受け止め、
明日への糧にしなくてはならなかった。
 ロボヶ丘に猶予なし。昨夜から始まった超特訓を、必殺技を編み出すためのあらゆる試行を田所正男は思い出す。
 不発。不発。不発。
 不発。不発。不発。
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネが、地下訓練場の強烈な照明の中を躍動する。
 会心の戦闘挙動ならば幾度も実現できた。しかし、違う。そんな機体の性能や小手先の技術に物を言わせたものなどでは、最強無敵
の必殺技たりえない。
『また不発……っ! これでもダメなのか!』
 若きパイロットは手応えのなさに焦っていた。
(根本的に発想を変えなくてはならないのか? だが、下手の考え休むに似たりという昔の格言もある! 今はとにかく動いて、やれ
ることを手当たり次第にやっていくしか!)
『田所カッコマン! 今の君では、何度やっても同じだ!』
 はぐれ研究員・龍星寺院光もまた、心を鬼にして指導に当たっていた。いつになく苛烈な駄目出しが繰り返される。
『最も大切なことを理解できていないのだ、操縦以前の、ヒーローとしての。それがウルトラ致命的!』
『大切なこと……!! それは一体っ!?』
 問い返す田所カッコマンに、龍星寺院光は拳を握り締めて叫んだ。
『甘えるでない! 自分の力でそれを掴まない限り、君は悪山悪男と同質の悪でしかない。悪と悪との戦いならば、勝利するのは悪の
天才・悪山悪男だ!』
『悪……!? 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネに乗るこの俺が!』
 田所正男は雷に打たれたように仰け反った。
 そんなことは許されない。何故なら彼は正義のヒーロー・田所カッコマンなのだ!
『そうだ! 君は正義たれ、田所カッコマン!』
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』
 血と汗と涙の特訓が、夜を徹して行われた。
 未だ答えが出る風情はない。

(お陰で疲労に睡眠不足だ……。博士に妙なクスリをもらわなければ死んでいたかもしれん)
「いよーう。まさやん、どうした? 今日はなんか暗いじゃんか。悩み? 寝不足?」
 どうしたものかと自分探しをしていると、隣の席の毛山三郎(けやま さぶろう)が話し掛けてきた。肥満気味の体が椅子からはみ
出している。にんまりと人懐こい笑顔を見ていると何となく明るい気分になる、親しみの持てるキャラクターをした同級生だ。
「おはよう。まあ、ちょっとな。あって」
 意味をなさない返事だったが、カッコマン田所正男としては言葉を濁すしかない。
「深刻そうだなー。なーに大丈夫大丈夫! どんな嫌なことあってもそのうち勝手に何とかなるって! 根拠ないけど!」
「ははは」
 あまりの言いように、田所正男は思わず口の端を緩めた。毛山三郎は広い交友関係の中に、絶えず「大丈夫。根拠ないけど」と無責
任な楽観論を振り撒くのだ。それでいて憎めないのだから得な性格だった。
 いい加減に煮詰まっていた田所正男はふと、彼に考えを訊いてみたくなった。
「なあ、必殺技に必要な物って毛山は何だと思う?」
「必殺技? ヒーローなんかの?」
 毛山三郎は、彼にしては珍しく、少しだけ考えてから答えた。
「んん? 愛と勇気じゃね?」


 ※

(結局……)
 放課後になっても、田所正男は自らの致命的な欠陥とやらに見当をつけることができないでいた。
 改めて自省してみると、むしろ足りないものだらけという気がする。しかしどれもこれも最強無敵ロボ・ネクソンクロガネとの結び
つきで見ると弱いのだった。
 取り敢えず今後の特訓の予定を振り返りながら、田所正男は下駄箱の立ち並ぶ玄関口まで降った。
(ん?)
 靴を履くにしては不自然な動きをする誰かの姿が目に留まった。よくよく見やれば、ひとりの女子生徒が、赤茶けた雑巾を片手に一
心不乱に清掃をしているのだった。
 ロボヶ丘高校の掃除は、昼休みの直後に全員で行うことになっている。放課後の時間帯に掃除をしているのは、美化委員会か、宿題
を忘れでもしたか。
 可愛らしい顔立ちをした金髪の少女。田所正男に見覚えがないことから、恐らくは一年生。
 群青色のリボンを巻いてひと掴み分だけ左右で結わえ、ほんの少し横幅を延ばしている。子どもっぽくも見える髪型だったが、体格
が小柄なのでむしろ似合っているともいえた。
 金髪自体は、ロボヶ丘市周辺ではさほど珍しくない。ただし、彼女のそれの色艶は美しかった。黒髪をこよなく愛する日本男児・田
所正男をも釘付けにするほどに。
 だが、それよりも田所正男が見惚れたのは、古びた下駄箱に念入りに磨く彼女の優しい手つきだった。世代を越えて生徒達の履き物
を受け入れてきたものを労わるように隅々まで雑巾を掛けていく。
「ずいぶんと丁寧に掃除をするんだな」
 田所正男は思わず声を掛けていた。
 金髪の房を揺らして、少女が振り返る。碧眼が田所正男に向けられた。
「美化委員さん?」
「はい」
 言葉は少ないが、受け答えはしっかりしている。惜しむらくは愛想がないことか。
「良かったら、名前を教えてくれないか? 俺は田所正男二年」
 少女は特に気を許す様子も、警戒した風もなく名乗った。
「悪山エリスです」



『無題』
 作詞・作曲/未詳
 歌/悪山エリス


 くずかごのなかで ぼくたちは ずっと まってた
 すてられる ひを じゃない
 ひろいあげられる ことでも ない

 すてても いいよ こわしても いい
 ぼくたちは そのために うまれたから

 だけどね たったひとつ おねがいが あるんだ
 ありがとうって ささやいて それだけでいいから

 へやのかたすみで ぼくたちは ずっと まってた
 なでられる ひを じゃない
 ほこりがはらわれる ことでも ない

 そまつに されたって おこらない けど
 ぼくたちを たいせつに つかってくれた

 だからね たったひとつ おねがいが あるんだ
 ありがとうって いわせてよ それだけでいいから



 田所正男は、しばらく呼吸するのも忘れ、美化委員・悪山エリスが黙々と掃除する様を見つめていた。
(俺は……今までロボットの気持ちなんてものを、考えたことがあっただろうか)
 それは、田所カッコマンとしての自問だった。
 “彼”が生き物だということを知らされてさえ、機体を思うがままに操作することばかりを考えてはいなかったか。
 なるほどそうすることも器物との正しい関わり方の一つには違いない。
 だが、最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの場合は、どうなのか。
(そうだ)
 ようやく探り当てた確かな手応え。
(俺に足りなかった大切な物それは!)
 言葉にすれば一笑に付されてしまうような、クラスメイト・毛山三郎も挙げたものに他ならなかった。 
「悪山さん」
「はい?」
 田所正男は心からの尊敬を込めて、悪山エリスに頭を下げた。
「……ありがとう。おかげで目から鱗が落ちた思いだ」
 唐突な感謝に、悪山エリスは小首を傾げた。金髪が撫で肩に零れる。
 ちょうどそのときだった。
 田所正男のポケットの中で、彼にしか分からない程度の微振動が起こったのは。携帯電話のバイブレーションではない。それはセイ
ギベース3の関係者専用の、ポケベルに近い暗号通信端末だ。
「っと」
 画面を横切っていく文字列は、緊急事態の番号だった。
「用事もできたことだし、俺はそろそろ帰るよ」
「そうですか」
「じゃあ。ありがとうな!」
 相槌のような素っ気ない挨拶に片手を上げ、田所正男は正面玄関を飛び出していく。
 自転車のある駐輪場へ走りながらセイギベース3に連絡を入れると、はぐれ研究員・龍聖寺院光にすぐさま繋がった。
『田所カッコマン! 悪山悪男の機械怪獣だ! ……出るだけ出られるか?』
 いつも冷然としている彼女には珍しい、不安げな響きだった。
「博士」
『どうした……?』
 言葉が自然と口から滑り出す。声音は真剣そのものだった。
「ご心配には及びません。あなたは今、愛に目覚めたカッコマンと、話しているのですよ」
 田所正男は「失礼」と囁き、通信を切断。
 冷静に考えなくても常軌を逸した台詞だったが、龍聖寺院博士の唖然としたさまを想像するとなかなか痛快でもある。
 今の田所正男は、無敵だ。
(そういえば……)
 宿敵・悪山悪男の名を聞いたとき、一瞬あの少女・悪山エリスの顔が脳裏に現れた。当然ながら顔の造作も一見しての性格も全くの
別物なのだが、どことなく雰囲気に近しいものを感じていたのだ。
(……まさかな。悪山なんてありふれた苗字だ)
 田所正男は一抹の疑念を振り払うと、秘密基地・セイギベース3への道を急ぐのだった。
 そうだ! 速く! もっと速く!
 駆けるのだ田所正男! いや愛の戦士・田所カッコマン!
 ようやく掴んだ答えをその手に握り締めて!


 ※

「ようやく我が科学力を存分に見せびらかせる日がやってきた! 見よ! エネルギー注入のついでに更なる進化を遂げたニューマッ
シーン、誰が呼んだかゴクワルレックス! あの最強無敵ロボ・ネクソンクロガネを粉砕した、恐怖の化身の再臨でああある!」
 赤銅色に燃える金属の暴君竜は、ロボヶ丘の市街に三度その巨体を現した。ひどく興奮した口上の主は、もちろん彼だ。
「だ、誰か最強無敵ロボ・ネクソンクロガネを!」
「ダメだ! 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネは当てにならねぇ! こうなったらオレが!」
 騒然とする無辜の人々。何やら腕まくりをする男もいたが、巨象に挑む蟻んこよりも果敢ない抵抗だった。
「愛すべき一般市民ども、儂を崇め讃えよ! この悪のマッドサイエンチスト・悪山悪男を! 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネに期
待しているなら無駄なこと! あんやつは来るまい! 儂が完膚なきまでに叩きのめしたのだからな!」
 だが、悪山悪男が、老人とは到底信じられない肺活量を披露したその時だった。
「果たしてそうかな!? 悪のマッドサイエンティスト・悪山悪男!」
 強い意志を感じさせる若者の声に遅れること数瞬、空の高みより降臨する巨大な物体。狭隘な空間を見晴るかすために着地はやわら
かい。だが、腕の一振りで烈風を巻き起こす力を秘めている。
 それは、巨人族の重戦士ともいうべきスーパーロボットだった。
 闇と光の混在する装甲は、黒曜石の祭器を思わせる。陽光に輝く文様は、魔王の居城に絡みつく黄金の蔦。
 カメラの眼には、悪の心胆を寒からしめる凄み。
 誰かが言った。
 勇者の復活を待ち侘びた天が、地が、人々が口々に呼んでいたのだ!
 その名は、
「SO!」
「ネクソンクロガネ!」
「最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ!」
「YES……」
 歓声に応えるパイロット、田所カッコマン。言うまでもないが彼もまた健在であった。
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネが再び、悪山悪男の野望の前に敢然と立ちはだかる!
「ふぅっふうん。前回とは王者と挑戦者の立場が逆じゃが、ちゃんとパワーアップしてきたか? 生半な攻撃では、我が悪山理論が生
み出したゴクワルリフレクチブシールドは崩せるまい!」
「悪山悪男。お前には聞こえるか、巨人の聲(こえ)が……」
 田所カッコマンは、悪山悪男の台詞を無視して、一方的に言葉を投げつける。
「……何じゃって?」
「“全ての物に心は宿る”。ある少女に俺が教わったことさ……」
「当たり前のことを偉そうに! それがどうしたぁ!!」
「いいや! お前には聞こえていない! 悪のマッドサイエンティスト、悪山悪男! 早く気づくんだ、ワルレックスの気持ちに! 
そいつはお前の心を癒すため、敢えて悪事に付き合っているだけだ! 本当は、誰も怖がらせたくはないのに!」
 違う。言っていることは脈絡がなさすぎて意味が分からないが、これまでの我武者羅に手足を振り回していただけのカッコマンとは
何かが違った。これではまるで……。
(愛の戦士……!?)
 悪山悪男は無意識に一歩、ゴクワルレックスを後退させていた。
(圧倒されている? この悪の天才・悪山悪男が? 馬鹿な……ッ!)
「俺は最強無敵ロボ・ネクソンクロガネを信じる! そしてワルレックスをも信じたい! だから戦う、俺達なりのやり方で!!」
 嗚呼、最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ! 漆黒の英雄巨人の碧の瞳に、強い光が宿る――!!

「……掴んだようだな」
 セイギベース3の作戦司令室。大型モニタで戦況を見守っていた美貌のはぐれ研究員が、振り返って白衣を翻す。
「もしも、超ネクソン黒鋼との交信によって、生物と無生物の断絶を突破できるとすれば」
 戦いの結末は見届けるまでもない。
 何故なら彼らは愛の戦士・田所カッコマン、そして最強無敵ロボ・ネクソンクロガネなのだ。
 龍聖寺院光の朱を引かれた唇は、ひとりでに戦唄を口ずさんでいた。
「最強無敵の必殺技・ネクソンクロガネアニヒレイター。それが、奥義だ……!」



『必殺! ネクソンクロガネアニヒレイター!!』
 作詞・作曲/龍聖寺院光
 歌/龍聖寺院光&田所カッコマン


 ダーク ダーク ダークネス 闇に蠢くダークネス
 引き裂く光 覚悟は不退転 奇跡を起こすぜ
 最強無敵のネクソンクロガネ 今 怒れる神の合力を

※エネルギー解放! コンデンサ灼ききり!
 ホ・ト・バ・シ・ル! 勇気!
 放て必殺! ネクソンクロガネアニヒレイター!

 ヒート ヒート ヒートアップ カラダの火照りをヒートアップ
 照準(ねらい)はハート お前を信じる こいつでトドメだ
 最強無敵のネクソンクロガネ 今 全てのモノに愛の手を

 エネルギー燃焼! リミッターぶちぎれ!
 モッ・タ・イ・ナ・イ! 精神!
 決めろ必殺! ネクソンクロガネアニヒレイター!

※くりかえし

 砕け邪悪を! 必殺ッ! ネクソンクロガネッ――アニヒレイタァアァァアッ!!



 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネが光を帯びて疾走る! かつて竜の時代を終わらせた巨大隕石のように!
 悪山悪男に知覚できたのはそこまでだった。
「たっ、退避! いかん! もう間に合わうわああああっ!?」
 暖かくさえある浄化の光が、機械仕掛けの暴れん坊を呑み込んでいく。
 意識を手放す間際、老博士の脳裏に去来したのは、愛する孫娘を膝に乗せて恐竜図鑑を広げた、そんな幸福な時間の記憶だった。
「エリス……」
 ホワイトアウト。
 …………――――!
 誰もが、眩惑から覚めるのに十数秒を要した。
 恐る恐る瞼を持ち上げた人々は見たもの、それは聳え立つ英雄巨人と、その傍らで眠る鋼の竜という神話の光景。
 ゴクワルレックスに目に見える破損はない。中の悪山悪男も、恐らくは無事。ただ、爬虫類の顔からは、心なしか表情の険が取れて
いるようにも見えた。戦うことを止めたのだ、機械の暴君竜は。それ自体の意志で。
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネはそれを可能とする。
「全ての物には心が宿る。そうだな」
 コクピットの中で、田所カッコマンはもう一度口にする。
 実感を伴って心に馴染んだ言葉は、もはや受け売りではなかった。
「ありがとう、ネクソンクロガネ」
 田所カッコマンは、誇らしげに操縦室の計器盤に拳を当てた。
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネは、相変わらず物を言うことはない。しかし愛の戦士となった田所カッコマンには分かるのだ。
 操縦装置のスティックもペダルも、心が重ね合わさったように動く。
 ふたりでのガッツポーズ。
 そうして、ロボヶ丘における正義と悪の戦いは、ひとまずの決着を迎えた――


 ※

 ――かに思えた。
「あれがネクソンクロガネ。最強無敵ロボですか。来日してすぐに拝めるとは、イッツァミラクル(それは僥倖です)」
 しかし見よ。双眼鏡を手に、街路樹の木陰から全てを見ていた男がいる。針金のような長身に黒いスーツ。
 瞳の異様な昏さを眼鏡で覆い隠した、それは危険なかほりの男。
「あるいは我ら悪の総本山・ワルサシンジケート最大の障害になるやもしれませんね。……何ですって、イッツァミラクル?(有り得
ませんか?) ……フフ。油断は敵にミラクルを起こしますよ」
 彼は携行する通信機で何者かと会話している。口調や物腰こそ丁寧だが、そこに他者に対する尊敬などといったものは微塵も感じら
れない。慇懃無礼な怪人物というべき。
「組織の最上級エージェント、いえ最上級ワルジェントの地位にあるこのワタクシ、イッツァ・ミラクルの名において、シロガネ四天
王に召集を」
 眼鏡の男の唇が酷薄に歪んだ。
「敵は、くだんのロボヶ丘にあり」
 魔笛が轟くような音がした。遊戯に興じる悪霊じみた狂風が一陣、束の間の平穏に沸く巷間を通り過ぎたのだ。既に喉元に魔手を掛
けるところまで迫った、新たな脅威の兆しのようでもあった。
「イッツァ、ミラクル(それは、奇跡です)。まことにミラクル」
 黒い男が踵を返し、路地の薄暗がりに融けていく。
 遂に姿を現した悪の総本山、ヤツらの名はワルサシンジケート!
 そこからやってきたという危険な男、イッツァ・ミラクルの暗躍は、ロボヶ丘に何をもたらすのか!?
 突き止めろ! 田所カッコマン!
 そして粉砕せよ! 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ!



 新章につづく!!

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