創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ―― Act.6C

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
 ――それは、奇妙な感覚だった。

 メインストリートの端の「上空」から眺める光景。
 人、キャリアー、建物――全てが全てミニチュアのように小さく見えて、途轍も無く広かったはずのスチームヒルがまるで箱庭。あれだけ大きく見えたビルドグランデも対等に……いや、少し小さくすら見える。

以前リョウの店で「ガリバー旅行記」という本を借りて読んだ事があるが、その話の中で小人の国に行ったガリバーはこんな気分だったのだろうか……なんてふと考えた。

「…………」

 ただ、ガリバーと俺の最大の違いは、彼は自身の大きさは変わらず周りの全てが縮んだ「小人の国」に迷い込んだのに対し、俺の場合実際に巨大な「何か」を通して巨人の気分を味わっているという事だろう。

 その「何か」――白銀に輝く機械の巨人。
 全高4,50mはあろうかという巨体は、今は俺そのものであり、だが何故か第3者の視点からもその威容を伺える。
 言うなれば自身でありながら自身ではないどうとっていいのか分からない絶妙な状況。それ故にか俺には銀の巨人となった自身の姿がはっきりと捉えられていた。

 “巨人”は俺が先程まで纏っていた銀の甲冑に類似した意匠を多少持つものの、あくまで“類似している”という位であり様々な点で大きくその姿を変えている。
 その中でも一番の違いと言えば、顔を覆う黒い「面」。
 半透明でありながら底の見えないそれは人で言う“顔”なのだが、その最大の特徴である表情を表す機能を持たず、ただその奥より輝く蒼く鋭い眼光にて自身の「敵」を射抜くのみ。
 機能美で言えばマシンダムのモノアイやキャノピーには劣るし、カッコよさで言えば漫画なんかで見たヒーロー達には遠く及ばないだろう。
 ただ冷たく、ただ無機質で、そうでありながらどうしようもない憤怒を湛えるそれは見る者に「恐怖」という感情を喚起させる為だけに特化したような印象さえ受ける。


「――ソートギガンティック。この“解”の名だ。」

 アリスの声。
 見れば彼女は彼のすぐ脇に腰掛けていた。同時にディーの姿もそこにいる事が認識され、形を成す。

「ソートギガンティック……」

 直径5mほどの青白い球体。その中央にディーは浮かび、その隣にアリスがいる。
 球の全周囲には膨大な情報が溢れ、見た事も無い文字の群れが猛烈な勢いで上下に乱舞していた。

「って、アリス、その格好……!」

 そこまで見終えた所で気付いたアリスの異変。薄っすらと、今にも消えてしまいそうなその姿。思わずまじまじと上から下まで見つめてしまった。
 普段から何処か儚げなアリスの姿が更にそんな事になれば心配しないわけが無い。
 だが問われたアリスは、ああこれかと何事も無いように返すと更に言葉を続ける。

「今の私はイグザゼン――貴方を覆うこの機械。貴方も含めここにいるのは仮想義体――コミュニケーション用の立体映像のようなものだ。何も気にする事は無い。」
「そっか……」

 未だどういう事かは良く分からないものの、心配しなくていいというのならそれが一番。ディーは少しだけ胸を撫で下ろした。

「……?まぁいい、話を続けるぞ。この“解”はイグザゼンが「破壊」のロストフェノメオンとして最大の力を発揮出来る様解かれた形態。基本はソートアーマーと同じだが、出力は比べものにならん。
 私も補助は行うが扱うのは貴方だ。慎重に行けよ。」
「慎重に――ッ!?」

 不意な振動。
 イグザゼンの瞳を通して外を視ると、4本のチェーンソーがそれぞれ装着されたロボットアームがビルドグランデより伸び、イグザゼンの胸部へと押し付けられていた。
 高速回転する4枚の鋭い刃は白熱し豪快に火花を散らすも、だがイグザゼンの装甲に傷1つ付く事は無い。

「――このッ!」

 ダメージは受けてないようだがこのまま火花を散らしておく理由も無い。むんずとアームの内1本を掴むと下向きに捻り、一思いに一気に千切る。

――10100101010100101010101!!!

 内部のコードが断裂し火花が散り、更に黒い外殻がバラバラと砕けてアームの一本が欠落する。それで怯んだのか声にならない声を上げつつビルドグランデは数メートル後方へと退避した。

「ったく、不意打ちとはいい度胸だ。」

 手に持ったままのチェーンソー付きアームを地面に投げ捨てつつ怪異を見据える。
 対する空中に浮遊した機械球は3本になったアームの先端にチェーンソーの他にツイストドリル、ネイルガンを1基ずつ顕現させた後改めてこちらへ迫り来る。

――0101011110001010010101001!!!

 鈍い音を立てながらネイルガンの銃口がこちらを捕らえ、無数の巨大な釘が高速で打ち出される。確かにソートアーマーなら当たれば串刺しどころじゃないが――

「ベクトル干渉。」

 アリスの声。
 それと同時に機体の周囲に事象震。釘の群れはイグザゼンよりある一定の距離にて前触れ無くぴたりと動きを止めた。そしてそのまま力尽きたかのように足元の道路へとパラパラと落ちていく。

「…………」

 イグザゼンの力「ベクトル干渉」。
 紛う事無きこの世ならざる力。ただ、今の彼は別に違和感無くその事実を受け止めていた。

――011101011101100101010111101!!!

 釘が効かなかったと見るや間も無く袈裟刈りに振るわれるチェーンソー。
 無駄な足掻きだがその足掻きに付き合うほど彼もお人好しでもない。

「効かねぇな!」

 右の手の平でブレードを受け止め、そして握り潰し、そのままの勢いで引き千切る。
 同時に左から突っ込んできたツイストドリルも難なく先端を握り締め、チェーンソーの後を追わせた。

――010101010101011111000101010101010101010110!?

 確かに敵は強大だ。
 ツイストドリルは大地を抉り、チェーンソーの一撃はビルをチーズの如く容易く切り裂き、ネイルガンより射出された釘は何軒もの民家をぶち抜いてもなお止まらない。だが

「相手が悪かったな。」

 「破壊」のロストフェノメオン「イグザゼン」の前ではその理不尽たる強大さも、それをも越える大理不尽にてさも容易く凌駕される。
 確かに今持つ武器はその拳のみ。だがその拳は怪異であれなんであれ、己に害成すモノに対しては総てを総て分け隔て無く一様に粉砕し、殺戮する力の象徴であり実行者。逃れられるモノなどいない。

 恐慌状態に陥った奴は後方に全力で退避しつつその球状のボディーを高速回転し、そして静止。12本のアームを一気に顕現させその全アームに超大型のバーナーを生み出す。
 更に奴の周囲に忽然と現れる無数の工具の群れ。

――0101010111100101010101010101010100101011110101!!!!!!

 声無き声と共に放たれる一斉放火。
 吹き荒れる青白い炎がイグザゼンの巨体を包み込み、更に工具の群れがその内へと突貫していく。
 闇夜を不気味なほどに明るく染め上げ渦巻く超々高熱の火炎。鉄の融点を軽く越えるそれは万物を悉く焼き尽くし、蒸発させていく。しかし――

「――全っ然効かねぇな。」

 燃え立つ陽炎の内。ゆっくりと、ゆっくりと、歩む白銀の巨人。
 超高温に晒されても尚その堅牢極まる装甲は一切変異を起こす事無く、真っ赤に熱せられ溶けかかったアスファルトにその足跡を残しながら突き進む。

「だけどな、お前が来てくれたお陰でな。」

 更に歩む。歩む。
 一歩、また一歩とイグザゼンは歩む。鋼の怪異「ビルドグランデ」に向かって。
 バーナーによる超高熱の攻撃は止まないが、イグザゼンにその熱は届かない。

「この街はめちゃくちゃになった。分かるか?」

 ディーの言葉は冷静そのもの。だがその内に燃える憤怒の炎は怪異の火炎など比べものにならない程熱く、熱く、熱く……

「みんなこいつほど頑丈じゃあない。傷ついた人もいる、死んだ人もいるかもしれない。そんな事をてめぇはしたんだ。急に現れて、何の前触れも無く……!」

 ギリッという音がした。
 ディーの歯をすり合わせた音。圧し折れたのではないかというほどのそれは、これ以上無く彼の怒りを体現していた。

「だから、それ相応の例ってもんをさせてもらうぜ。」

 イグザゼンの黒き面、その内の瞳にこの上無く冥い光が宿る。
 己の主に仇成すモノを完膚無くまで滅する為に、この世ならざるモノの極致にて、在り得ざるモノの極致にて、物質の限界を超え、空間の限界を越え、セカイの許容限界を超えた途方も無い力が震えた。

「輪転炉フルドライブ、全補機オールグリーン――いつでもいけるぞ。」
「応よ!」

 立ち止まり右の拳の掌を機体の方へと見せて顔のすぐ上へと突き出し、顔の前へと下ろしてく。
 空間が歪に歪み、掌の上で猛烈な勢いで“式”が、“解”が編まれていき、巨人はそれをおもむろに握り締めた。
 全身より吹き上がる莫大な余剰エネルギーが纏わり付く周囲の炎を瞬時に掻き消し、銀の巨人の姿を夜の闇へと晒す。

「イグザゼン……!」

 口を開くと共にこれでもかと腕を振り被る。
 そしてブースト。機体各所のスラスターより膨大なエネルギーが吹き荒れる。

「インフィニティットォ……!!」

 蒼い軌跡を描きつつ桁外れの推力を持ってイグザゼンの巨体が宙を走り、猛烈な勢いでビルドグランデへと突貫。
 その拳を


「「ブレイカァァァァァァァァァァァッッッ!!!」」


 全身全霊をもって突き立てた。
 走る紫電。燃ゆる黒雷。ビルドグランデの球状のボディーの丁度中央を捉え突き刺さったイグザゼンの豪腕は、その物理的な威力以上に内包された「破壊」の力にてビルドグランデを内部より崩壊させていく。


01101010110100101001010100100101010――――!!!


 断末魔。
 全身に亀裂が走り、機体を構築していた無数の歯車が脱落、落下し、地面に到達する前に白い粒子となって消失していく。

「消し飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

―――――!!!!!

 閃光。轟音。白い闇。鋼の怪異は「破壊」の力の奔流に呑まれ、自身がこの世界にいた証拠を漏れなく失っていく。そして――



――「門」よ。何故お前はそこにいる?



 その刹那の間。ディーの脳裏を過ぎったビジョン。
 白い背景。白衣を纏った初老の男の背が見える。その向こう側には「門」としか形容出来ない、黒い2枚の板状の物体によって構成された何かがあった。

(ここは……?)


――貴様は、私に何をさせたい?


 突然の出来事に戸惑いを隠せないディー。
 そんな事は知らぬと言いたげに男は更に言葉を続ける。疲れたような、呆れるような、怒れるような、恐れるような、震える掠れた声。
 この声の主をディーは知らない。だからこそなおさら困惑しているというもの。


――このような力、この世界にあってはならんものだ!何故それを分からん!


 「門」に語りかける男。
 その「門」がほんの少しだけ開いたような気がした――否、確かにそれは開いていた。否応無くディーはその向こう側に魅入られる事と相成った。

(……………夢?)

 門の隙間から覗く光景。
 それは紛れも無く紅い夢のそれだった。見るもおぞましく猛る炎。だがそれは炎にあらず。
 セカイを飲み込む異形の劫火。異次元の業火。その内に、巨大な影の姿があった。
 影。そう、影だ。この上無く冥く、紅い世界に闇を墜とす。ただ分かるのはその大きさだけ。形など分からない。だが、それは確かに


――イグザゼン!!


 白銀の、巨人だった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー