「ほぉ、あの子が新しい・・・。」
「結構若いねぇ。」
「総長と同じぐらいだろうか。」
「にしても顔は無愛想なのね、もっとカワイイと思ったのに。」
色々な事を施設内の人々は口々に呟く。
老若男女問わず色々な人が通路を歩いたり途中で話したりしている。
服も制服などでは無いらしい、皆バラバラである。
通路も豪華では無く、鉄やパイプがむき出しでちょっと質素である。
「・・・ここがその、あれか。施設のメインみたいな所か。」
「まぁ、それに似てますね。」
他人の呟きをそっちのけて、キールとゼロは喋っている。
シャオスは仕事が残っているらしく、途中で別かれてしまった。
少し歩くと、ちょっと大きい鉄のゴツゴツしたドアが見えるようになった。
殴り書きで「総長の部屋」とドアにペンキか何かで大きく描いてある。
何でドアがこんなのなのかキールに聞くと、
「前総長の趣味です。」
らしい。



キールがドアノブに手をかけると、鈍い音を立ててドアが開いた。
そこには通路とは別世界が広がっている。
部屋の壁一面の本棚。
キチンと整えられた机の上。
ふかふかの絨毯が敷かれた広い床。
まるで映画の大統領が使ってそうな部屋である。
ゼロは呆然と辺りを見渡す。
「こちらに来てください。」
キールが紙を取り出しながらゼロを呼んだ。
「え、あ、分かった・・・・。」
ゼロは未だに辺りを見渡しながら机へと近づく。
机の上には書類の様な物が沢山積んであった。
「これにサインと、能力値・・・まぁ今日の朝渡したプリントですね。それと一緒に出してください、それで施設に入る手続は完了です。」
ゼロは紙に視線を移した。
六角形のグラフが書いてあり、「イヴシリウム」や「武器」など書かれている。
注意書きには、「プリントを一緒に出すだけでも良い」と書いてある。
ゼロは名前を書き込むと、キールに手渡した。
キールは少し笑って、
「はい、これで貴方は施設の一員です、おめでとう御座います。」



「おう、新入りか。」
「入隊おめでとう。」
「分からない事があったら聞くんじゃぞ。」
老若男女問わずすれ違い様に声をゼロにかけた。
施設の人は皆親切なんだな、とゼロはすこし嬉しがっていた。
この後は家に帰る予定で、IMの練習は明日からとゆうことらしい。
「あ、君がゼロ君?」
車とか飛行機とかヘリとかある部屋の入り口で、ゼロは男に呼び止められた。
茶色の混ざった綺麗な黒い髪をオールバックにしている。
グレーの背広に無精髭。
顔はお世辞にも親父くさい。
どうやらこの男が家まで送ってくれるらしい。
「俺の名前はジャック。ここに運転士として雇われてるよ。」
自己紹介だけ終わらせて、男は車へと案内する。
車は真っ黒のベンツ、政治家が良く乗ってるやつ。
「えっと、●●通りの●●の所で良いのかな?」
ゼロは顔を縦に振って答えた。
「分かった、じゃあ出発するね。」
「ちょっと待て。」
男は困り顔で振り向いて「何?間違いでもあった?」と聞いた。
「ちょっとよりたい所があるから、そこに送れる?」
男は「お安い御用!」と言って車を急発進。
因みにゼロは反動で顔を前にぶつけた。
「あ、大丈夫?」
ここには乱暴な運転をするヤツしか居ないのか、とゼロは頭の中でぼやいた。
施設を超高速で出ると、その後は山道が続く。
少しは舗装されているが、凸凹がある箇所が幾つもある。
その凸凹にタイヤが触れるたびに、鈍い音を立てて大ジャンプ。
大ジャンプの度にゼロは上に下に顔が揺れる揺れる。
朝と夕方連続、違う乗り物でスタントアクション並の運転を味わうゼロ。
「なぁ!おい!ちょっと!」
ゼロは揺れながら男を大声で呼ぶ。
男は平然と「次は何?」と聞き返した。
「運転をさぁ!緩めっ!ろよぉ!」
ゼロは揺られながら途切れ途切れに一生懸命声を出す。
舌噛むぞこれ。
「え、まだ185キロしか出してないよ?」
平然とすんなオッサン、とゼロは思ったが口にはしなかった。
「ここの運転手はっ!超人揃いっ!なん・・・ずっ?!」
舌を噛んだゼロ、ホントに噛んじゃった。
「超人?ああ、シャオスに乗せて貰ったんだね。良いなぁ。」
「良いワケ無いだろ!」
痛そうに口を押さえてゼロは話す。
目は痛さで涙ぐんでいる。
「何で?あの子腕良いじゃん?」
「・・・・。」
ゼロは絶句。
ああ、ここは超人が集まる施設ですか。
ゼロは口に出す気にもなれなかった。
「あ、もう平坦な道に入るよ。」
舗装された道に入るとウソみたいに激しい揺れがおさまった。
それでも時速180キロとメーターには出ている。
「えっと、行きたいのはどこだっけ?」
ゼロは紙を差し出した。
その紙はレシートで、上に大きく「鉄筋書店」と書いてある。
「・・・・・これ、本屋?」
ゼロは無言で頷く。
「大通りに出たらパチンコ屋の近くで止めて。」
「分かったけど、本が好きなの?」
「一様。」
「やっぱり図鑑か。」
「何故そうなる。」
「だってそれっぽいし」
「それは子供っぽいって意味か。」
ゼロとジャックはその他にも色々話をした。
何でこの施設に入ったのか、自分の能力は何とか。
ゼロの能力は未だ不明で、武器だけ出せるのにはジャックも驚いていた。
「始めて見たよ、そんなIMの人。やっぱり世の中は広いねぇ。」
「そんなに珍しいのか?」
「珍しいも何も、普通はIMの方が完璧になったらソレを出せるものだよ。」
「そうなのか。」
ジャックの説明は続く。
「まずイヴシリウムの量とか質とかを調節して、武器の形に整えなきゃいけないんだよ。それにあんまり熟練してないIMが使うとイヴシリウム同士の結合が弱くて触っただけで壊れたりするから。」
ゼロは興味なさ気に「ふーん」と一言。
「そうゆうものなのか。」
「そうゆうものだ。で、君の場合日本刀を1秒足らずで、しかも壊れない位完成させる程完璧だから普通はイヴシリウムを扱える筈なんだけど。」
「使えないからおかしい、ってワケね。」
「そう。」
何でなのかはジャックにも分からないらしい。
今度専門家に診てもらえ、とゼロは勧められた。
「ん?でも何で武器が日本刀って知ってるんだ?しかも壊れないって。」
「ああ、総長に教えてもらった。」
ゼロは納得。
ジャックは良くキールと話すらしい。
因みに歳は20以上離れている。
「あの総長も良い人だからね、偉いとか気にしないで話すんだよ。」
「良い総長なんだな。」
「まぁね。」


「じゃあ、明日も施設に来いよ。」
「分かった。」
家の近くのパチンコ屋の前でゼロはジャックと別れた。
ゼロはとりあえず家に携帯で連絡する。
「はい、クラシスです。」
ちょっと若い、女性の声が電話に出た。
「あ、母さん?」
「まぁ、ゼロ。今何所に居るの?」
「家の近くのパチンコ屋。」
「心配したのよ?警察から『強盗に巻き込まれた、今は取り調べに付き合ってもらってる。』って電話が来て。」
「え?」
「『え?』じゃないわよ、早く家に帰ってきなさいね。」
「わ、分かった。」
「じゃあ切るね。」
「うん。」
受話器を置く音と共に電話は切れた。
強盗に巻き込まれた?
何の事だか分からなかったが、キールの発言を思い出して理解した。
『後で家に電話しておきます。』
ヤツ等の仕業か。
(何でこんな言い訳したんだよまったく。)
ゼロは頭を抱えながら『明日文句言ってやる。』と心に誓い、本屋へ急いだ。


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最終更新:2006年09月30日 22:29