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短編34」(2006/05/26 (金) 23:12:55) の最新版変更点

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ずっと真夏の太陽に照らされ続けていたこの街にもようやく雨が降ってきていた 夏休みで始めての雨、それがコンクリートに叩きつけられて激しい音を立てている ラウンジはそれを聞きながら宿題をさっさと済ませ様としていた クラウンの方はラウンジの部屋でごろごろと転がって漫画を読みながらポテトチップスを食べている ―バリバリモグモグ・・・― 「あはははは!」 ―ガサガサ― 「ひゃはwおもしろー」 「うっるさい!!」 ポテトチップスを咥えたままクラウンは漫画を片手にラウンジの顔を見た ラウンジは一直線にクラウンの咥えていたポテトチップスを奪い取ると口にそれを入れる 袋ごとポテトチップスを奪うとその入り口から手を突っ込んで取れるだけのポテチを掴んで口に入れた 「あぁぁー!私のなのに・・・」 「あんたがもしゃもしゃうるさいからでしょ!」 「う・・・」 少し涙を見せたクラウンにラウンジは漫画も取り上げて部屋の外に投げる 階段を転げ落ちていく漫画の音がなんとも言えない空気を放っていた 「・・・う・・・うぅ・・・ばか・・・」 グスグスと泣くのを我慢しながらクラウンはラウンジの部屋から出て行く そんなクラウンにラウンジはポテトチップスの空を無理矢理渡した 「それ、アンタのゴミでしょ」 「・・・う・・・うぐ・・・ふぇ・・・」 悔しそうな顔と悲しそうな顔を一辺にしたかと思うとクラウンは涙を流し始める 声を出さないように小さな声で何か呟いているように聞こえたがラウンジは無視した クラウンが泣くのはいつものことだ 暫くすると下の階から大きな鳴き声のような叫び声のような・・・不思議な声が響いてきた 「お兄ちゃぁぁん・・・おねぇちゃんがいぢめるぅうう!!」 ・・・またVIPに助けを求めてる・・・ラウンジは溜息をついた VIPもクラウンにはかなり甘い、甘いというか・・・二人を見ていると本当に仲がよさそうに見える まさか・・・自分が知らない所で二人は付き合っているとかじゃないだろうか? 急に不安になってシャーペンは全く進まない 「・・・まさか・・ねぇ」 自分に言い聞かせるように言ってみたが、なんとも不思議な気持ちだった クラウンからの電話にVIPは溜息をつく どうしていつもいつも自分に電話が掛かってくるのか、それが不思議だ VIPはそこまでクラウンに世話を焼いたつもりはない、ただ成り行きに任せていただけだ ぐじゃぐじゃの布団の上に寝転んで携帯を遠くに放り投げながらVIPは目を閉じる 虫の声が良く聞こえている・・・やっぱりのんびりと昼寝くらいしたいものだ 夏休みなのにどうしてこんなに忙しいのか・・・ 天井の木目を見ながらVIPはもう一度溜息をついて体を起こした 「顔洗って・・・部屋も片付けないとな・・・」 あまり気が進まないが一応相手は女の子ということなのでそのくらいはしてないと失礼だろうとVIPは考えた ・・・結局考えただけで片付けることは無かったのだが 「ぐす・・・VIPお兄ちゃん・・・」 「・・・お前、ポテチくらいで泣くなよ」 「だって・・・だってぇ!!私のお小遣いで買ったのにぃ・・・」 また涙が溢れ出てきたのか目を両手で擦りながら唇を震わせているクラウンにVIPは頭を掻く 外は少し雨が降っていて、クラウンのサンダルはびしょびしょになっていた 「ちょっとそこで待っとけ、タオルとってくる」 「うん・・・」 ホントに、自分の弟よりも世話が焼ける・・・そう思いつつも構ってあげないわけにはいかないだろう このまま追い返すなんてのは可愛そう過ぎるし、もし何かあっても・・・助けることができない とにかく誰もが外で一人きりになる状態は極力避けたほうが良いだろうと考えていた それがわかっているのかいないのか、クラウンはこうして歩いて来てしまったわけだが 「ほら、足拭けよ」 青色のふわふわとやわらかいタオルを差し出したVIPにクラウンはお礼を言って玄関に座る その瞬間、玄関の向こう側で何か見えたような気がしたが・・・何もいないようだ 「なんだろうな?虫の声は聞こえる・・・気のせいか」 不思議そうに見上げるクラウンにVIPは苦笑いをする クラウンの足を今まで見ることなんてなかったが、あんなに食べているのに細い 流石に男の自分と比べるのは失礼かと思ったが、かなり痩せている方に見えた 「ありがとう・・・」 「どうしたしまして」 タオルを受け取るとVIPはクラウンを自分の部屋に行くように言った 静かな部屋に雨の音と自分の走らせるペンの音だけが響いているようだ 時計の音は遠くに聞こえて、机の前にある窓には水滴が沢山ついていた さっきまで妹のいたソファーには何もない、こんなに静かだと逆に気持ちが悪いくらいだった こんなことなら・・・追い出すんじゃなかったな・・・ 何処からか見られているような気がして、少しだけ寒気がした テレビでもつけよう、そうしたら少しは気分が紛れるから・・・ 椅子から立ち上がりテレビに手を伸ばすと同時に家のチャイムが鳴る ―ピンポーン― ビクっと震えてラウンジは少し迷ってから手に特殊警棒を持ってゆっくりと階段を降りる 家の中は静かで、いつもの家とは少し雰囲気が違う感じがした 「どなたですか?」 「・・・俺だよ、VIP」 その声は紛れもなくVIPであって、ラウンジはほっと溜息をつくと玄関の鍵をさっさと開けた びしょぬれのVIPは何処かから急いで走ってきたように見える 「ごめんごめん、ふぅ・・・」 「さっき、クラウンが電話してたみたいだけど・・・」 ラウンジが首をかしげながら言うとVIPはにっこりと微笑みながら 「うん、だから来たんだよ」っといつもと違う、さわやかな声で言ってのけた いつもと雰囲気が全く違うVIPにラウンジは少し驚くがまた気まぐれなのかと眉間に皺をよせた 「そんなに怖い顔しないでよ、可愛い顔なのに」 「な・・・アンタ、本当にVIPなの?」 ラウンジは特殊警棒を背中で持ち直しながらそのVIPの様な人物に向かっていう 「うん、俺はVIPだよ」 そいつは・・・微笑んだ 「・・・なんだこの感じ・・・?」 VIPは首をかしげながらザワザワと空気が揺れるのを感じていた 体の奥から凍るような感覚が頭の中から爪先まで一気に駆け巡るような感覚 それはいつものアレが出た時と同じ感覚に似ている 「クラウン!」 「あ・・・あぁ・・・あああああああ!!!!」 虫の声が遠くなる、やばい、世界が特殊な空間へ移動するのが手に取るように見えた 周りの音が消え、自分達が完全に隔離された空間に移される 急いで自分の部屋に戻ると頭を押さえたままのクラウンが背中から煙をあげていた・・・ いや、本当にこれは煙なのだ 焼けるような臭い・・・それは人間が焼ける・・・その時に出るような・・・頭の奥を刺激する臭いだ 思わず口を押さえながらクラウンに向かってバットを構える 「はぁ・・・うぅ・・・」 何が起こったんだ?クラウンが急に立ち上がる・・・ 犬のような白い尻尾に少し先端が折れたような白い犬のような耳が頭に生えている 両手両足が白い毛皮に覆われているように見えた 「何だ・・・?」 「・・・はぁ・・・はぁ・・・お兄ちゃん・・・?」 クラウンはVIPの姿を見ると急に涙をボロボロと流し始め大声をあげて泣き出した 人間と違う・・・別の生き物・・・これがクラウンの力・・・なのだろうか? VIPはバットを下ろすとクラウンの頭を撫でた 「今は、化け物を探そう・・・」 そのとき、クラウンの携帯に着信が入る 携帯の画面にはお姉ちゃんと表示されていて、どうやら姉が心配してかけてきたらしい VIPは携帯を耳元に当てる 「もしもし」 「・・・VIP・・・?え?どうして・・・?あなたがこっちにも・・・」 途中で声が聞こえなくなり、何かが叩きつけられるような鈍い音が聞こえた 受話器の向こうの誰かがこう言ったのが聞こえた 「俺はVIPだよ」 虫の声は聞こえない
「VIP!待ってってば!」 クラウンの声にVIPは服の襟を摘んでパタパタと扇ぎながら振り返る 虫が煩いほどの声で上からギャーギャー叫んでいて、その更に上で太陽がジリジリ照り付ける コンクリートが鉄板の様になっていて、ミミズがミイラになって道路に転がっている 「なんだよ?」 「なんだよ?じゃないってば!」 VIPの真似をしながらクラウンはVIPの傍にズカズカと歩いてくるとふぅっと溜息を吐いた なんとなく宿題でも写しにラウンジの家に行ったら見事にラウンジとは入れ違い、不幸なことにクラウンに捕まってしまった クラウンはVIPの手を掴むと嬉しそうに笑う その掴んできた手を握り返しながらVIPは不機嫌そうにそっぽを向いた 「何々?こんなに可愛い女の子とデートできるのに」 「えー・・・かわいくねぇもん」 「それは失礼だよ!」 手を離してクラウンはVIPを睨むと一人で歩き出した VIPはそんなクラウンをみて溜息をつくとクラウンを追いかけて歩き出した 太陽がギャーギャー鳴いている様な、そんな気がした いつもの駄菓子屋の前でクラウンが止まるのを見てVIPも足を止めた 「どうした?」 クラウンがアイスの入っている冷凍庫を指差すのを見てVIPの顔が引き攣る 「アイス」 「・・・アイス」 「奢って」 「・・・やだ」 しばらく二人の間を沈黙が流れ、太陽だけがギャーギャー叫んでいる 「だってだって、お小遣いもう20円だもん」 「俺だって200円しか持ってねぇよ」 二人が自分の全財産を見せ合うと、アイス1つの値段を見る 一番高いアイスが220円だ・・・220円・・・二人の所持金は220円・・・ 「一緒に食べよ」 「俺の方がどう考えても多く出す事になるだろうが!」 クラウンはVIPを上目遣いで見上げながら強請る 「・・・うっざい!」 VIPの拳骨にクラウンは小さい悲鳴を上げると目に涙を溜める また泣くのかと思ったが、何も言わずに目をゴシゴシ擦っている ・・・はぁ・・・ VIPは駄菓子屋に入るとレモンの輪切りが乗ったカキ氷を買って外に出た クラウンは何も言わずに目の周りを赤くして頭を擦っている 「ほら、これでいいだろ?」 「あ・・・」 「ありがとうは?」 「ありがと・・・」 クラウンの作戦にVIPがはまっている事にVIPは気が付いていない 「お兄ちゃん!VIPおにいちゃん!」 クラウンに腕を引っ張られてVIPは顔を引きつらせながら引かれる方に進む 携帯電話にクラウンからの着信があり、何なのかと電話をしてみればこの有様だ ラウンジがいない間にケーキを作ったのだが、手伝ってほしいということだそうだ それならお菓子に頼んだほうが良いような気もしたが、クラウンはまだ中学生か・・・ 「で?俺は何をしたらいいの?」 「これを混ぜて!」 ボールの中にはほんのりと薄く甘い匂いのする液体のようなドロドロとしたものが入っている それをぐりぐり混ぜろということか・・・テレビを見ながらVIPはグリグリ適当に混ぜる 「だめ!ちゃんとやってよぉ!」 「あーいあい」 ぐしゃぐしゃと混ぜだしたVIPをみてクラウンはテキパキと準備を進めている どうやらクラウンも料理には結構自信があるらしい ケーキも初めて作るものではないのだろう 「何ケーキ?」 「シフォンケーキだよ」 クラウンはうれしそうに笑いながら言った 綺麗に焼けた オーブンをあけると綺麗な色をしたシフォンケーキが出来上がっていて、匂いが部屋いっぱいに広がる 準備していたクリームやイチゴ、バナナ、チョコレートをクラウンは嬉しそうに並べる VIPはシフォンケーキを机の上で逆さまにしてコップの上に乗せる 「これでいいのか?」 「そうやって、冷やすの」 「ふーん・・・」 VIPはそう言うと背伸びとあくびを同時にする 手を洗って一息ついたクラウンはエプロンを外しているようだ その姿になんとなくVIPは不思議な感覚を覚えた 綺麗にフルーツを盛り付けしてシフォンケーキに挟む、それを繰り返してケーキは完成した シフォンケーキというのはケーキのスポンジだけというシンプルなケーキ そのケーキを利用してなんでも作ることができる 「へぇ・・・うまそう」 「食べる?」 クラウンの声にVIPは食べる食べる!と嬉しそうに飛びつく 「はい」 フォークに刺したケーキをクラウンがVIPの口の前に持っていくとVIPがそれを食べる しばらく無言で食べていたが、VIPは思い出したようにつぶやく 「うめぇうめぇ、お前も料理うめぇな」 「でしょぉ!」 クラウンのケーキは中々美味しかったがイチゴのヘタまで入ってました

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