飲酒運転者の飲酒禁止

Motion5: This house believes that convicted drunk drivers should be banned from drinking ever again
訳:飲酒運転者は、以後飲酒によって罰せられるようにすべきです
○前提知識
 ・飲酒運転の概略
 1-1 まず、飲酒運転が現状の概略を説明します。飲酒運転には二種類の区分があり、いずれも近年の厳罰化によって有罪判決をくらったら(今回のモーションの対象になったら)免許停止、あるいは取消しになります。

 ※飲酒運転の2種類とは、酒気帯び運転と酒酔い運転です。酒気帯びは血中または、呼気中のアルコール濃度が一定以上の状態で運転を行うこと。酒酔いは、濃度に関わらず、酒に酔っている状態で運転することです。

 ※一番軽いのは、過去に(飲酒運転以外も含めて、違反がない状態で)低濃度の酒気帯び運転をしてくら6か月以内の停止です。一方、酒酔い運転は、確実に最低3年車を運転できなくなりま
す。

 ※飲酒運転は、他の交通法違反と異なり、違反の中でもっとも違反点数が高いもののみを適用し、免許失効のポイントとするという原則を適用せず、他の交通違反の分に加えて、飲酒運転分のポイントを加算するという形をとっています。然るに、別の交通法違反を犯していると、もっと失効期間は長くなります。

 ※検問などにひっかかっても現行犯逮捕されない特例として、次の全条件を満たすというのがあります(全引用)
1.呼気中等のアルコール濃度等や運転者の状況等が、酒酔い運転ではなく酒気帯び運転の条件に該当すること(つまり、酒気帯びの範疇にとどまっていること)
2.呼気中のアルコール濃度が軽度(0.15mg未満)であること
3.飲酒運転時の外形、また本人の挙動において危険性、不安定性が見られないこと
4.飲酒運転等の再犯歴がないこと(常習でないこと)
5.呼気中のアルコール濃度を計測した証拠を提示され、現行犯逮捕もありうる状況にもかかわらず、犯行を認めない、抵抗するなどの、悪質行為をしないこと
6.併合する交通事故、あるいは信号無視や一時停止無視、速度違反など危険な交通違反の発生等がないこと
7.その他、刑事訴訟法に定める証拠隠滅や逃亡のおそれがないこと
 ・厳罰化の流れ
 1-2,1-3 二つのできごとをきっかけに、数回の法改正が行われています。初めの改正で通常の交通事故とは別に厳罰が適用されるようになり、後の改正ではその厳罰を逃れようとするひき逃げ対策として、ひき逃げが厳罰化されました。学校関係施設を中心に酒類の販売が禁止されたりするようになったのも、この影響だそうです。(九大の学祭も去年から禁止になりましたね)

 ※最初のできごとは、二つの事件です。一つ目は1999年11月28日、東京都は東名高速で起きた飲酒運転。飲酒運転の常習者が乗る12tトラックが4人家族の乗った乗用車に料金所で追突し、子供2人が死亡、父親も皮膚移植が必要な大火傷を負いました。判決で適用された業務上過失致死は最高刑が5年の罪で、最終的に4年が言い渡されました。これを契機に交通事故厳罰化の気運が高まります。
二つ目は、2000年6月に神奈川県は座間南林間線 小池大橋で起こった飲酒・無免許・無車検・無保険運転により大学生2人が死亡した事故。一人の父親がはじめた署名に、先の事故の被害者が加わり、全国に広まった署名は37万にのぼりました。この動きを受けて、2001年11月、最高刑を15年(現在20年)とする危険運転致死傷罪が刑法に加わりました。

 ※二つ目の出来事は2006年8月25日に起こった、福岡県は海ノ中道大橋での追突事故が発端です。追突された車は博多湾に転落、中に乗車していた家族5人のうち両親を除く子供3名が亡くなっています。公務員が起こしたこの飲酒運転事故を発端に飲酒運転に関する報道が多くなりました。その中で出てきたのが「逃げ得」という言葉。これは、危険運転致死罪の刑罰が重いため、飲酒運転で事故を起こした加害者が、ひき逃げをし、アルコールをなくしてから捕まり、業務上過失致死の適用を受けるというもの。これを受けて、2007年9月、ひき逃げに関しては最高の罰則を10年に引き上げると同時に、飲酒運転の同乗者、車の提供者、酒の提供者などにも罰則を広げる改正が行われました。

 ・法改正の成果
2 さて、実際に飲酒運転の違反者数は減っています。2000年に一つの山を迎えた発生件数は、翌年の危険運転致死傷罪の登場を機に減少をはじめ、一度横ばいになった後、2007年の法改正後にはさらに減少しました。2009年8月のデータでは、10年前の1/4(200件)となっています。ただ、2008年に比べると8件増えており、また横ばいになるかもしれません。

逃げ得も一つの成果というのは皮肉ですが、このモーションにおいては重要な点には違いないですね。逃げた後は飲酒運転としてカウントされてない可能性もあるので、飲酒運転だけのデータを見ても仕方ないですが、ご安心を。飲酒なしでの死亡事故件数も着実に減っています。しかもこちらは横ばいにならない単調減少です。死亡事故の最大要因は安全不確認なので、警察(取り締まり)や国交省(道路に工夫)、車メーカー(性能UP)の取り組みによって、死亡事故が減っていくのはある意味必然ですか。

 ・厳罰化にあたって
1-2 確実に成果を出している厳罰化ですが、押さえておきたいのは、ただ厳罰化すれば良いのか?という視点です。
最初の危険運転致死傷罪が新設された際には、軽微な違反者(傷害が軽いとか)への救済措置として、情状酌量・刑免除の余地を残していること。
後のひき逃げに関する厳罰化に関しては、
1.時間がたった後の飲酒運転の立証は難しい
2.ただ厳罰化するだけではむしろひき逃げを助長してしまう
 といった事情から、飲酒運転が起こる環境をなくそうと、同乗者などへの罰則を加えるに至ったのだと思われます。

 3 一方で一部加熱気味と評される今の世論はどうなのでしょうか。ひき逃げ後、酒に酔っていたか証明できず、かつ、即死の死亡事故だった場合の懲役は現在最大7年6カ月です。(どちらかの条件が満たされなければ、逃げ得にはならず、20年になります)。この不公平をなくそうと、署名を募っている方もおられ、今まで18万が集まったそうです。


 さて、すでに結構長いですが、ここまでは飲酒運転に関する背景知識です。次は、モーションに関係ある前科者の取り扱い、再犯の知識をつけましょう。

 ・前科者の扱い
 1-5 過去に罪を犯した人が永久に権利の制限を受ける状況というのは今のところ、海外の法律で、前科者の渡航や永住を認めないという例があるくらいです。一時的に制限を受ける例なら、刑執行後5~10年、及び執行猶予中には、選挙・被選挙権や、一部の国家公務員になる資格を失うことになっています。運転免許に関しても、事故後数年間、罰則が厳しくなったり、事故を起こした時の失効期間が長くなったりします。
 また、前科者の前歴をみだりに公開することはプライバシーの侵害であるという最高裁判決があります。

 ・再犯者
 5 米国では飲酒運転再犯者は、その53%がアルコール依存症だということです。WHOのアルコール依存症判断基準は以下の6つのうち3項目以上が該当となっています。(引用です)
   ①アルコール使用への強い欲求
   ②使用の時期や量の統制が困難
   ③離脱症状とその回避のためのアルコールの使用
   ④耐性の増強
   ⑤アルコールに代わる楽しみや興味を失う
   ⑥有害性を気づいているがアルコールを使用防止対策

 1-6 さて、このアルコール依存症、かなり厄介です。まず治りません。ただ、酒を断つ以外に克服する方法もありません。害悪はいろんな病気のリスクが高まるとかいろいろありますが、このモーションとずれるので省きます。治療のための要点を整理すると、本人に自覚させ、専門家と周囲の協力を要する病ということです。

 ・オルタナ余地
 はい、散々引っ張ってきましたが、実はこのモーション、否定側が代案を出すとものすごく肯定側に不利になります。肯定側は、プランにできるだけ免責事項や加害者保護を盛り込んでいきましょう。

 <カリフォルニアの事例>
 6 アメリカはカリフォルニア州では、アルコール依存症の克服といった視野も取り入れて、飲酒運転専門の裁判所と、州民の協力によって成立する再教育プログラムが実施されています。再犯者ほど指導時間が長くなるこのシステム、初犯でも40時間近いカウンセリングとレクチャーを含んだプログラムを受けなければいけませんし、再犯になると、240~400時間となります。(とうぜん1年~3年という長期に及びます)んで、4回やらかすと免許の永久失効が待っています。

 ※ある時期、危険事故の50%が飲酒絡みだったという州だからこそ実現したのかもしれません

 <インターロック>
 7 米国内では4州、他国も合わせるともう数事例あります。アルコールインターロックというシステム。米国4州では初犯者に義務付けられていて、呼気のアルコール濃度が高いとエンジンがかからないという代物。同乗者などの無飲酒者に息を吹き込んでもらったり、緊急時用に解除コードが用意されていたりと抜け穴はありますが……あと、少しお値段がお高いです。交通事故の損害賠償よりは安いですが。再犯率は実験によると60%下がったそうです。


○方向性
 前提知識が多かったですが、もう少しです。頑張っていきましょう。
 ・組立
 導入ですが、やはり逃げ得や横ばいになる飲酒事故減少率を打ち出すべきでしょう。
 モーション的に、期限付きの飲酒禁止というのは苦しいですね。無期限でやるとなると、前科が生涯にわたって生活を制限する国内では(おそらく唯一の)事例になります。飲酒を認めないための条件をつけるべきでしょう。たとえば講習や依存症なら、依存症の治療を受けるとか。
 そして、これは必然的な弱みですが、飲んではいけない人が飲んだのを検知するシステムと、そういう人に酒を提供した人の処遇をどうするか、です。実に難しい。飲酒に免許を導入してもいいかもしれません。ただ、飲酒運転だけが免許停止の条件だと「前科をみだりにさらす」最高裁判決に背くシステムになるので、その他の条件も盛り込んでおきましょう。

 ・肯定側
 これ以上の飲酒運転の再犯防止は、刑期の厳罰化によっては不可能であることを述べたうえで、飲酒運転者はアルコール依存症というイメージ作りをしていきましょう。アルコール依存症とは、ここでは「飲酒運転の危険性を理解していない人」に対するレッテルという位置づけで。理解してないから飲んで乗るわけで、これはたぶん成功します。で、そのためには講習や治療(断酒)を受けさせる必要があるし、講習を受けない人には飲酒禁止もやむなしだろうという形で。

 ・否定側
 最大の武器は、終身刑もない日本で生涯にわたる制限という罰が厳しすぎるという視点と、知られたくない過去を他者にさらさなきゃいけないことになるという視点です。
 もしプランに漏れがあったら、講習に関しては受け入れつつ、インターロックなどのオルタナで攻めるのが楽だと思います。肯定側がすべてプランに盛り込んできたら、予算がかかりすぎることを主張し、十分減ってきたんだから、これからも減っていくというイメージで戦いましょう。

 4 お金の話と絡めて、飲酒運転の重大性(seriousness)を挫く手もあります。交通事故全体に対して10%に満たない飲酒運転対策ではなく、増加し続ける自動車利用者という背景がある以上、抜本的な交通状況の改善策を行い、全交通事故件数を減らすために予算を割くべきだという論調です。ただ、モーションがモーションなだけに、やりすぎるとディベートに否定的であるとみなされ、減点くらう可能性もあります。ただ、そこまでやんないとこの視点はポイントにできないのも事実。うぅん、やっぱ悪いモーションだなぁ。

○展望
 争点は飲酒を永久的に断つことが必要十分か、ですね。時間制限は厳しいですが、網羅性を高くできれば勝ちます。逆に低いと、まず勝てません。でもやりすぎて肯定側に一方的な試合になると、プランがずるいと減点をくらうかもしれません。

○資料
1.Wikipedia
-1.飲酒運転
-2.福岡海の中道大橋飲酒運転事故
-3.危険運転致死傷罪
-4.道路交通法
-5.前科
-6.アルコール依存症


2.警視庁統計 交通事故状況 2009年8月末版(PDFファイル)
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/Pdfdl.do?sinfid=000004518975

3.飲酒運転事故の厳罰化へ
http://www.ask.or.jp/ddd_topicks.html

4.飲酒運転事故は増えているのか
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/3da23ce284d794319c280acbc4ab73c0


6.カリフォルニアの事例
http://www.ask.or.jp/ddd_california.html

7.アルコールインターロック
http://www.transtex.jp/gf/show/215
http://interlock.seesaa.net/

その他の資料
☆カリフォルニア運転者のハンドブック
 http://www.kondomotors.com/text/carinformation/california-driver-handbook-020.html

☆交通事故の実情を見てみる
http://kasabake.jugem.jp/?eid=22
http://kasabake.jugem.jp/?eid=24

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最終更新:2009年10月02日 04:36
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