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深淵を覗き込む者は……


――時間は少し、遡る。

あやかが襲われた翌日の放課後。チア3人組の凄惨なケンカが起きた、少し後。
暗くなってきた空の下、森の中に建つ小屋を訪れる人物がいた。
「す、すいませ~ん……。だ、誰かいませんか~~?」
ノックにも反応のない小屋の中を、恐る恐る覗き込む少女。胸に抱えた分厚い本。
宮崎のどか、だった。
この地上2階地下1階建てのログハウスも、初めてではない。勝手知ったるエヴァの家。
誰も居ないということは、みんな地下の『あの場所』に居るのだろうか……?
「……オイ、ヒトノ家ニ何ノ用ダヨ?」
「ひゃぁっ!?」
唐突に背後から声をかけられ、飛びあがるのどか。
咄嗟に振り返っても、相手が見えない。下に視線を下ろし、ようやく相手を視認する。
「ちゃ、チャチャゼロさん……!」
「ナンダ、読心術師ノガキカ。御主人ニ用カ? ソレトモ、ガキノ方?
 悪イガ御主人ハ『別荘』ニ篭ッテルゼ。ボーヤニ頼マレテ、一緒ニナ。
 何故カ知ランガ ココ数日、ヤタラト張リ切ッテヤガルンダ、アノガキ」
ケケケッ、と不気味に笑う魔法人形。そんなゼロに、のどかは怯えを隠し切れない。
相次いで生徒に犠牲者を出してしまったネギ。守りきれなかったネギ。
この時点では、裕奈とチア3人組の犠牲は認識していなかったが……それでも。
自責の念に駆られた彼は、今まで以上に熱心に、魔法の修行を重ねていた。
強くならねば。強くなってみんなを守らねば。強くなって犯人を捕まえねば。
……ネギはまだ気付かない。気付いていない。
『別荘』に篭り外界と遮断されたその間は、生徒たちの危機を感知すらできぬ事に。
悪意を持って彼の生徒を狙う『犯人』にとって、それがこの上ない好機である事に――!

「そ、そうですかー。ちょっとせんせーに相談したいことが、あったんですけど……」
「たいみんぐガ悪イナ。アト20分ハ出テコレネーシ、今カラ『別荘』ニ入ッテモナァ」
外の時間で1時間が、中の24時間になるエヴァの『別荘』。
便利な魔法の道具だが、しかし「中での1日単位でしか使えない」というルールがある。
このため、 こういう風に入る時間が大きくズレると、ちょっと困ったことになってしまう。
「ドウスル? ボーヤガ出テクルマデ、待ッテルカ?」
「い、いえー、べ、別に急ぐ用事でもないので~。また明日にでも、学校で声かけます~」
「ケケケッ。マ、好キニシナ」
のどかの言葉にチャチャゼロは軽く笑うと、小屋の中に消えて。
バタンと、扉が閉じる。ゼロの体格ではノブに手が届くハズもない扉が、勝手に閉じる。
小屋の外に1人残されたのどかは、閉まった扉をしばらく見つめていたが……
やがて、強い意志の篭った目で、抱えていた本を開く。
「せんせーは居ないけど、い、今が確かめるチャンスなのかも……!」
のどかの左手の上、フワリと空中に浮かぶ魔法の本。
ネギとの仮契約でのどかに与えられたアーティファクト、『いどのえにっき』――!

昨夜のどかは、深夜の病院でこの本を2回、使用している。
『記録』が残されたままのページを、彼女は改めて確認する。
対象の表層意識を絵と文章で写し取るアーティファクト、「いどのえにっき」。
それを用いて探った、入院中の犠牲者2人。
どちらも意識が朦朧としていたために、文章も絵もいまいちはっきりしない。
はっきりしないのだが……支離滅裂な文の上に描かれた、下手な絵には。

あやかの記憶の中にあった、子供と呼ぶことさえ躊躇われるほど小さな「犯人」の影。
亜子の記憶の中にあった、小さな翼を持ち高速で飛びまわる「犯人」のシルエット。
それぞれ単独では、何が何だか判じがたい。
判じがたいが、もしその2つが、同一の犯人の姿を断片的に捉えたものだとしたら。
のどかには、1人(?)心当たりがあった。思い当たる相手がいた。
――それは、他ならぬ、先ほど言葉を交わしたエヴァンジェリンの使い魔。
呪いの殺人人形、チャチャゼロだ。

その疑いを持った時点で、誰かに相談しておくべきだったのかもしれない。
ゼロが怪しいからみんなで調べよう、と周囲に呼びかけるべきだったのかもしれない。
けれど、臆病で引っ込み思案な彼女には。
陰口を叩くことさえ嫌う、平和主義者の彼女には。
これだけの断片的情報から、知人であるゼロを犯人扱いしてしまうのは、気が引けた。
ゼロが犯人だとは、のどか自身も信じたくはなかった。
ちょっと似ているだけの、無関係な『何か』なのだと思い込みたかった。
だから、彼女は。
疑惑を確実にするため、というより、疑惑を払拭するためにこそ……。

「ゼロさん……すいませんけどー、ちょっと心を読ませて下さいー。
 私の思い過ごしであってくれれば、いいんですけどー……」
暗くなっていく空の下、のどかはゼロの名を呼んだ。『いどのえにっき』を発動させた。
本が淡く輝き、本に込められた魔力が発動する。
白紙のページに、文字が浮き上がって、家の中に居るはずのゼロの表層意識を――
「――な、何なの、これ?!」
そして、映し出されたページに、のどかは思わず驚きの声を上げる。
かつて見たこともないような魂の絵日記が、そこにあった――

 5th TARGET  →  出席番号27番 宮崎のどか ?