奈落の花


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フォーグラーの廊下を、蟹座氏はすたすたと歩く。
力強いその足取りとは裏腹に、彼女の顔にはナナシ戦の疲れが色濃く出ている。
そんな蟹座氏の背後を、ツキノンは賢明に追いかけていた。

「あのー、蟹座氏。少しは休んだ方が……。」
「そんな時間がないのは、ツキノンもわかってるでしょう?」

蟹座氏の言うことは正論である。会場崩壊までのタイムリミットを過ぎれば、その時点で参加者全員の命運は尽きる。
なんとしてもその前に主催者の所までたどり着き、それを打倒しなければならないのだ。

「それに……感じるんだ。きっと、この先にししょーはいる。」

絶対の確信を持って、蟹座氏は断言する。
具体的な根拠などない。だが、疑う気持ちなど微塵も湧いてこない。
師弟の絆、というやつなのかも知れない。

(ししょーは何度も何度も、ぼく……いや、私を救ってくれた。今度は、私がししょーを救う番だ!)


やがて、蟹座氏たちは広い空間に到達する。
そこはフォーグラーの心臓部、大蟹杯の間。
その場所で蟹座氏たちを待ちかまえていたのは、予想通りの男だった。

「待ってましたよ、蟹座氏。それにツキノン。」
「ししょー……。」

永遠神剣を手に、バトルマスターは不敵に笑う。
その目は、不気味な赤い輝きを放っていた。
蟹座氏にはその理由まではわからなかったが、異変がバトルマスターの能力を引き上げていることは何となくわかった。
ちなみに種を明かすと、バトルマスターの目が赤いのは彼の最後の支給品「ブラッディ・アイ」を使っているためだ。
ブラッディ・アイは使用者の動体視力を劇的に高める代わりに、強い依存性を持つ。
そのデメリットを嫌ったバトルマスターは今までこれを使わなかったのだが、テイルズロワの支配下に置かれた今の彼に薬への嫌悪感は消えていた。

「さて、今更話し合うこともないでしょう。早く始めましょう。」
「待って、ししょー! 本当に……話し合いで解決は出来ないの?」
「この期に及んで何を……。あなたと私はこれまで何度も刃を交えてきた敵同士。
 戦うことに何のためらいがあるというのです?」
「違う! 違うよししょー! 確かに私とししょーは何度も戦ってきたけど、それは……。」
「見苦しいですよ、蟹座氏! 敵同士が出会ったのなら、選択肢は戦いしかないはずです!」

蟹座氏の言葉にはいっさい耳を貸さず、バトルマスターは剣を構える。

「そうか……。やっぱりあなたを取り戻すには、戦うしかないんだね。」

蟹座氏も、右手に持っていた永遠神剣「誓い」を構える。その顔に、迷いはない。

「蟹座氏、私も一緒に戦います!」
「いや、これは私とししょーの問題だよ。ツキノンはそこで見ていて。」
「何言ってるんですか! そんなことにこだわっている場合じゃ……。」
「お願い、ツキノン。今回だけは、わがままを言わせて。」

そう口にする蟹座氏の表情は、いつになく真剣なものだった。
それを見てしまったツキノンはもはや反論できず、すごすごと引き下がる。

「ありがとう、ツキノン。もし私が殺されたら、あとはお願い……。」

相手に聞こえるか聞こえないかという小さな声で、蟹座氏は呟いた。

「そちらの話は終わりましたか。」
「うん。じゃあ、始めようかししょー。これが私とあなたの……ラストバトルだ!」


バトルマスターと蟹座氏。二人が同時に地を蹴る。
「冥加」と「誓い」、二本の永遠神剣がぶつかり合って金属音を鳴らす。
斬る。防ぐ。斬る。防ぐ。斬る。防ぐ。斬る。防ぐ。斬る。防ぐ。斬る。防ぐ。斬る。防ぐ。
一進一退の攻防が続く。

「やるようになりましたね、蟹座氏! 私も嬉しいですよ! でも!」

ふいに、バトルマスターが姿勢を低くする。そこから繰り出された足払いを回避できず、蟹座氏は派手に転倒した。

「相手が剣を持っているからといって、来る攻撃が斬撃だけとは限りませんよ!」

倒れた蟹座氏に、バトルマスターは容赦なく剣を振り下ろす。
かろうじてそれを回避した蟹座氏だが、代償として蟹沢きぬのトレードマークである三連お下げの左半分を持っていかれてしまった。

「くっ……。」

倒れたまま転がり、蟹座氏はいったん距離を取る。

「その程度で距離を取ったつもりですか!」

バトルマスターは素早く、荷物の中に入っていた首輪を投擲する。
反射的に、それを「誓い」ではじく蟹座氏。
一瞬視線がそれた瞬間にバトルマスターは距離を詰め、剣を振るう。
その刃は、蟹座氏の脇腹を切り裂いた。

「浅かったですか……。いけませんね、私としたことが。
 まだこの感覚になれていないようです。実戦で使うなら、ならしをしておくべきでしたね。」

淡々と語りながら、バトルマスターは剣を振るう。
そのスピードは、どんどんと加速していく。
最初は何とか受け止めていた蟹座氏だが、徐々に反応が追いつかなくなっていく。
肩が、二の腕が、次々と切り裂かれ、蟹座氏の体が少しずつ赤に染まっていく。

(くぅ、バリアジャケットがほとんど役に立ってない……。せめて黄金聖衣が残ってればなあ……。
 まあ、無い物ねだりしたってどうしようもないけどさ!)

体中を切り裂かれながらも、蟹座氏は闘志を失わずに戦い続ける。
少しずつではあるが、彼女はバトルマスターの動きに付いていけるようになってきていた。
それでも、バトルマスター圧倒的優位の状況は変わらない。

「素晴らしいですよ、蟹座氏。あなたは、戦いの中で着々と成長してきている。
 ですが……それでも私には勝てません!」

バトルマスターが繰り出したのは、大振りの一撃。
それに対して回避を選ぶ蟹座氏だが完全にはかわしきれず、背中のデイパックが切り裂かれる。
そこから、いくつかの支給品がこぼれ落ちた。

「くっ!」

とりあえず、目に付いたリュートを蹴り飛ばしてバトルマスターにぶつけようとする蟹座氏。
だが、そんな行き当たりばったりの攻撃がバトルマスターに通用するはずがない。

「いけませんね、そんな稚拙な攻撃では……。私なら、これを選びます。」

易々とリュートをかわし、お返しにバトルマスターが投げつけたのは対戦車用地雷。
直撃は避けた蟹座氏だが、爆風に吹き飛ばされる。

「えぇい、アクセルシューター!」

すぐさま体勢を整え、蟹座氏はケリュケイオンの力を借りて攻撃魔法を放つ。
この戦いにおいて初めて見せる攻撃だが、すでにその存在を知っているバトルマスターに驚きはない。
慌てずに落ちていた核鉄を拾い上げ、叫ぶ。

「武装錬金!」

バトルマスターの手の中に出現したのは日本刀の武装錬金、ソードサムライX。
その特性は、エネルギー攻撃を吸収して反射すること。
ご丁寧にも、この支給品の解説にはこう書かれている。
『少なくとも「魔法」には効果アリ。』と。
すなわち、魔法であるアクセルシューターは確実にこの武装錬金には通用しない!
バトルマスターは、器用にアクセルシューターを刀身で受け止めていく。
受け止めたエネルギーはすぐさま下げ緒から放出され、蟹座氏自身を襲った。

「うあああああ!!」

自らの仕掛けた攻撃を自らに受け、蟹座氏は悲鳴を上げながらさらに吹き飛んだ。

「そんな……。なんでその核鉄がソード何たらだってわかったのさ!」

蟹座氏の疑問はもっともだ。その核鉄を保持していたのはバトルマスターではなく蟹座氏なのである。
一応、核鉄に施されたナンバリングからどの武装錬金なのかを判断するのは可能だ。
しかしカズキや斗貴子の核鉄ならともかく、持ち主が脇役でしかないソードサムライXの核鉄ナンバーを瞬時に判断できる人間などはっきり言ってよほどのファンだけだろう。
そして、バトルマスターが「武装錬金」のファンであるという話は聞いたことがない。

「簡単な話です。このロワに登場した核鉄のうち、ニアデスハピネスとブレイズオブグローリーはDIE/SOUL氏と名無し氏の戦闘で破壊が確認されています。
 残るは魔王氏が持つバルキリースカートですが、魔王氏が戦友の形見であるバルスカをすでに十分な武器を持っているあなたに譲渡する可能性は低い。
 それからあなたの所持品に不明支給品はありませんでしたから、未登場の核鉄という可能性もゼロと言っていいでしょう。
 そうなれば、あなたが持っている核鉄はあなたが倒したナナシ氏の所持品であったソードサムライXである可能性が非常に高いというわけです。」
「……そこまで考えてたのか、あの短い時間で……。やっぱりすごいや、ししょーは……。」
「お褒めの言葉、ありがたくちょうだいしましょう。それでは、戦闘再開といきますか。」

右手に「冥加」、左手にソードサムライXを持ち、バトルマスターが蟹座氏に迫る。
武器がふたつになったからといって、単純に強くなるとは限らない。
武器が一つの時の戦い方と、二つの時の戦い方では求められるものが違ってくるからだ。
だが、バトルマスターの場合は単純に強くなる。
なぜなら彼はあらゆる戦闘を極めた者、バトルマスターだからだ。

「ううっ…!」

二つの刃が生み出す連携の前に、蟹座氏は徐々に追いつめられていく。
一度は何とか押し戻したパワーバランスは、再びバトルマスターに大きく傾いていた。

(ダメです、もう見てられません!蟹座氏がなんと言おうと、助太刀に入らせてもらいます!)

これまで蟹座氏の意志を尊重して静観を続けていたツキノンだったが、すでに耐えるのも限界だった。
鬼狩柳桜を手に、バトルマスターに向かっていく。

「来ないで、ツキノン!」

だがその行動は、蟹座氏の怒号によって制止される。

「ですが、これ以上あなたが痛めつけられるのを、黙ってみているわけには!」
「ダメなんだ……。ここは私一人で勝たなきゃ……。」
「なぜです! なぜあなたはそこまでこだわるのですか!」
「これは……けじめなんだ……。私は今までずっと、ししょーや他のみんなに助けてもらってばっかりだった!
 おんぶにだっこだったんだ……! だから私は! 一人でししょーを倒したい!
 倒さなきゃいけない! それが出来ないなら……一生ししょーを超えられない!
 ずっと……ししょーの背中を追いかけなきゃならなくなる!
 そんなことになって……たまるかぁぁぁぁぁ!!」

絶叫と共に、蟹座氏は「誓い」を振るう。それを「冥加」で受けたバトルマスターの体が、わずかに押される。

「蟹座氏……。わかりました! 私は手を出しません! 骨は……拾ってあげます!」

目にうっすらと涙を浮かべながら、ツキノンは鬼狩柳桜を収めた。

「ありがとう、ツキノン……。ごめんね、私なんかのわがままに付き合わせて……。」
「いえいえ、わがままなんかじゃありませんよ。師匠越え。実に王道のテーマです。燃えてくるじゃありませんか。」

蟹座氏の言葉に、意外にもバトルマスターが応える。
驚く蟹座氏に向かって、バトルマスターはさらに続けた。

「ですが、はっきり言ってしまいましょう。私を倒すことは不可能です。
 この部屋に入ってきた時から、すでにあなた方は私の固有結界の中にいる。
 私の固有結界の効果は知っていますよね? 発動している限り、私は絶対に負けない。
 つまり、あなた方に勝利はないということです。」
「それはちょっと違うんじゃないかな、ししょー……。」
「ん?」

予想外の蟹座氏の反論に、バトルマスターは思わず顔をしかめる。

「ししょーの能力は、僕もよく知ってる。でも、その力は『絶対に負けない』こと。
 『負けない』と『勝つ』は違うよね?」
「……何が言いたいんです。」
「ししょーの固有結界が存在する間は、私は『勝てない』。でも、だからといって『負ける』と決まったわけじゃない。」
「単なる言葉遊びです、それは。」
「そうかな? この差、結構あると思うけど。」
「……わかりました。そこまで細かいことにこだわるなら今すぐ教えてあげましょう。
 私にバトルで勝つことは不可能だと!」

令呪の宿る腕に意識を集中し、バトルマスターは叫ぶ。

「闘争制覇者-Battle Master アイン・ソフ・オウル!!」

宣言と共に、世界が変わる。戦場と化したその場に召喚されるのは、過去と現在と未来でバトルマスターが描いてきた、もしくは描いていくキャラクターたち。
バトルマスターの外見のモデルとなった少年、前原圭一が蟹座氏の前に立つ。
オボロが、ネリネが、トウカが、名雪が、瑛理子が、千影が、悠人が、武が、アセリアが蟹座氏を取り囲む。
彼らに加え、恭介が、トルタが、烏月が、ティトゥスが、杏が、なごみが、士郎が、サクヤが、アルが、乙女が、虎太郎が、なつきが、九郎が、ユメイが、ツヴァイが、このみが、包囲網を構成する。
他にも、まだバトルマスターが書いていないはずのキャラクターたちの姿もあった。
おそらく、未来で彼が書く運命にある者たちなのだろう。

「蟹座氏……これでさようならです。」

物憂げな表情を浮かべながら、バトルマスターは「冥加」を天に掲げる。
それが、攻撃開始の合図。
無数の拳が、刃が、矢が、銃弾が、蟹座氏を蹂躙せんと動き出す。
地の利を得ていたエロスコンビでさえも何の抵抗も出来ずに敗れ去ったバトルマスターの切り札、アイン・ソフ・オウル。
蟹座氏に、それに抗う力などない。
そう、蟹座氏だけだったら。

「そっちがロワの力を使うというのなら……こっちも! みんな、力を貸して!」

温存していたギャルゲロワの力を、満を持して解放。
お姉さまやうっかり侍の身体能力、歩く頭脳戦やステルス鬼畜の知力、汚れなき愛や孤高の黒き書き手の精神力、そしてtu4氏の空気力。
それらが蟹座氏の体を満たしていく。
最速の人の力が感じられないのが気になったが、今はそれを深く考えている余裕はない。
すでに、攻撃の嵐が目の前に迫っているのだから。
強化された頭脳をフル稼働して安全地帯を見つけ出し、地を蹴って素早くそこへ移動。
しかし、そこが安全地帯であるのは一瞬のこと。すぐさま新しい攻撃が飛んでくる。
だがそんなことは覚悟のうえ。お姉さまのパワーとうっかり侍の技術で「誓い」を振るい、攻撃をなぎ払う。

(いくらみんなの力を借りてるからって、このメンバーをまともに相手してたんじゃ命が10個あっても足りない!
 狙うのは大将……つまりししょーのみ!)

防御に専念しながら、蟹座氏は進む。ひたすらに、バトルマスターを目指して。
しかし、なにぶん敵の数が多すぎる。とてもすべての攻撃を防ぎきることは出来ない。
ツヴァイの狙撃が脚を撃ち抜く。
圭一の剣が脇腹を切り裂く。
虎太郎の拳が肋骨を砕く。
士郎の矢が肩を射抜く。
それでも、蟹座氏は走り続ける。
進路をふさぐアセリアを突き飛ばし、トウカを退かせ、バトルマスターを目指して前進する。
もはや全身至る所が痛くて、どこをどう怪我しているのかもわからない。
ギャルゲロワの力を行使し続けたことによる疲労も、半端なものではない。
疲れ切った両手両足は負傷と相まって金属で出来ているかのように重く、肺や心臓は今にも張り裂けそうに思えるほど痛い。
それでも、蟹座氏は止まらない。おのれが目指す勝利、そしてハッピーエンドのために。

「しぃしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

ボロボロの肺に鞭を打って絶叫を上げ、全身を血の赤で染めた蟹座氏が突進する。
目指すバトルマスターは、もう目の前。
背後から乙女に肩をつかまれ前進を封じられるが、その程度で蟹座氏はくじけない。
傷だらけの脚で踏ん張り、ズタズタになった腕で「誓い」を投擲する。
だがバトルマスターは、「冥加」を振るいそれをあっさりとはじく。

「そんなずさんな攻撃は通用しませんよ、蟹座氏!」
「まだまだぁ!!」

バトルマスターの言葉に耳を貸さず、蟹座氏は続けて足下に落ちていた杖を投げつける。

「人の忠告は聞くものですよ!」

ソードサムライXで、バトルマスターは飛んでくる杖を切り裂く。
だが、それは判断ミスであった。彼は、この杖を回避すべきだったのだ。
破壊された杖から、それに込められていた魔力があふれ出す。
そしてその杖の名は……まふうじの杖!

「これは……!」

襲い来る奇妙な感覚に、バトルマスターは表情をゆがませる。
まともに浴びた「魔力を封じる魔力」が、彼の魔術回路をせき止める。
その結果として、固有結界は消滅。バトルマスターが率いていた戦闘者たちも、一人残らず消え去った。

「そんな……バカな……。」

予想外の事態に、バトルマスターは確かな動揺を見せる。
それこそが蟹座氏にとって、千載一遇のチャンス。
それでも相手はバトルマスター。すべてが上手くいく可能性はおそらく一割もない。
だが、それがどうした。そんなことで、行動をためらう蟹座氏ではない。
武器を手放し、蟹座氏はしっかりと握りしめた拳を振るう。
ギャルゲロワのみんなと、自分の想いを乗せた拳を。

「受け取ってください、ししょー!」

小さな拳が、バトルマスターの額に叩き込まれた。
そこから、暖かい力がバトルマスターに流れ込んでいく。


「これ……は……。」

バトルマスターの中で、何かが変化していく。
蟹座氏の体を媒介に注入された、ギャルゲロワの力。
どんなに七氏の改竄能力が強力でも、それは所詮個人の力だ。
堅い結束が生んだ、一つのロワそのものの力には及ばない。
少しずつ、少しずつ狂った歯車が戻されていく。

「私……は……。」

数分の時をかけて、バトルマスターの記憶と人格は七氏の呪縛から解放された。
蟹座氏の思いは、確かにバトルマスターの元に届いたのだ。


ただ、その代償として。


「蟹座氏……?」


蟹座氏は、カウンターで繰り出された「冥加」の突きを心臓に受けることになったのだが。

「蟹座氏……? え……なんでですか……? なんでこんな状況に……。」

バトルマスターの言葉にも、蟹座氏は何ら反応を見せない。
当然の話だ。動物である以上、心臓を破壊されて生きていられるはずがない。
死人が生者の言葉に反応するものか。

「そんな……私が……蟹座氏を……? 殺し、コロシ……。」
「そうだ、お前はお前を尊敬する愛弟子をその手で殺した。そして、お前自身の命もここで終わりだ。」

ふいに部屋の中に響く、バトルマスターそっくりの声。
続いて、弾丸の発射される音が響く。
ショック状態だったバトルマスターがそれに反応した時には、すでに手遅れ。
彼の体は、ミサイルランチャーで吹き飛ばされていた。
闘争を制する者、バトルマスター。その最期は、あまりにあっけないものだった。

「最強の個人兵装とはよく言ったものだ。バトルマスターほどの男もあっさりと殺せるとはな。
 たまたまラピュタから持ち出した荷物の中にロケットランチャーの予備弾があったから回収してきたが……。どうやら苦労して運んだ甲斐があったようだ。」

七氏は、淡々と語る。その肩に担がれているのはDIE/SOULの残した十字架型兵器、パニッシャーだ。

「たかが一人を殺しただけで、こうもあっけなくぼくの術から解放されるとはな……。期待はずれもいいところだ。」

心底うんざりしたように呟くと、七氏は自分の筋力では持ち続けるのが辛いパニッシャーを床に置く。

「さて……。あとはあのへぼ神か。」

パニッシャーの代わりにポケットから取り出したナイフを構え、七氏はツキノンに向かって歩く。
そのツキノンは、目の前で仲間が立て続けに殺されたショックで放心状態に陥っていた。神だろうが何だろうが、この状態なら何の苦労もなく殺せる。
一歩、また一歩と、七氏は距離を詰めていく。
だがその途中、彼は気づいてしまった。

「ちょっと待て。なぜ何も起きていない?」

七氏は額に汗を浮かべながら、部屋の中央にあるもの、大蟹杯を見つめる。
すでにガチホモが死んでからそれなりの時間が経っている。
大蟹杯は7人のジョーカーが死んだ瞬間から暴走を始めるはず。
なのに、未だ平静を保っているとはどういうことだ?

「その答え、教えてあげましょうか?」
「何?」

誰もいなかったはずの背後から声をかけられ、思わず振り向く七氏。
その瞬間、彼の腹部を弾丸が貫いた。

「ガッ……!」

何が起きたのかわからぬまま、七氏は倒れ込む。
痛みに苦悶しながら彼が顔を上げると、そこには自分が先程手放したばかりのパニッシャーを軽々と担ぐ少女の姿があった。

「プー太氏……? バカな! なぜアンタがぼくを攻撃する!」
「私もあなたを攻撃するのは気が進まなかったんですが……。今のご主人様の命令なんですよ。
 666さんからの伝言です。『別にかに玉がどうなろうと知ったことじゃない。でも、ネコミミストが私の元にたどり着く前に死んでしまう可能性は少しでも下げさせてもらう。
 これ以上君に活躍されて、対主催の人数が減っては私との戦いが盛り上がらなくなる可能性もあるしね。』」
「くそっ、あの狂人が……!」

七氏は口の中の血と共に、忌々しげな言葉を吐き出す。

「それで……具体的に何をやった! なぜ大蟹杯が暴走しない!」
「それは、あなたの説明に矛盾があったからです。」
「矛盾だと……?」
「矛盾を操るのが特技であるあなたが、自分の台詞の矛盾に気づかないとは意外でしたねえ。医者の不養生ってやつでしょうか。」
「回りくどい話し方はやめろ! その矛盾がどうしたっていうんだ!」
「まあ、一から話さないといけないんで焦らずに聞いていてください。七氏さんは、666さんが影丸さんから魔力を蒐集したのを覚えてますか?」
「回りくどいのはやめろと言って……!」

なおも抗議の声をあげようとした七氏の肩を、銃弾が貫く。

「自分の立場はわきまえてくださいね? 今すぐ殺さずに丁寧に説明してあげているのは、私の慈悲なんですよ?」
「………!」

歯を食いしばり吐き出したい言葉を飲み込む七氏を見て、プー太氏は微笑を浮かべながら説明を再開する。

「実はあの時、影丸さんはある能力に目覚めていたんです。本人がそれに気づく前に死んじゃいましたけどね。
 その能力とは『SOS(世界を・大きく変える・すごいツッコミ)弾』。
 これは物語の矛盾にツッコミを入れることで、その矛盾の原因を消し去ってしまうというチート能力だったんです。
 あなたの能力とよく似ている……いえ、むしろ対極の能力ですかね?
 とにかく、666さんは影丸さんの魔力を蒐集した時に、この能力も一緒に手に入れました。
 それを使用することで、あの人は大蟹杯の暴走を阻止したんです。」
「くっ……! それで、その矛盾とは何だ! このぼくが、矛盾なんて……。」
「『ジョーカーが7人死んだら大蟹杯は暴走する』。これが矛盾です。」
「バカな! それのどこが矛盾だ! nanasinn、人外、愛媛、名無し、超展開、ナナシ、ガチホモで7人だろう!」
「いえ、『8人』です。」
「そんなバカな……はっ!」
「気づきましたか? このロワにジョーカーは『9人』いたんです。ニコロワの4人、テイルズロワの4人、そして……。」
「6/……!」
「はい、正解です。」

そう、このロワでジョーカーといえばニコロワとテイルズロワの8人だと多くの人間が思っていただろう。
だが実際には、彼らより早く参戦したジョーカーがいたのだ。
さんざん「ヘタレ空気ジョーカー」となじられたあげく、最後はシャリダムの餌となった◆6/WWxs9O1sという男が。

「『ジョーカーが7人死んだ時点で暴走する』というのなら、ナナシさんが死んだ時点で暴走しないとおかしいんです。
 惜しかったですねえ。『ニコロワとテイルズロワのジョーカーが7人…』とするか、『ジョーカーが残り一人になったら』としておけば、矛盾にはならなかったのに。」
「………!」

見事なまでに揚げ足を取られ、七氏は返す言葉もない。

「以上で、説明は終わりです。せっかくなんで、七氏さんの魔力も蒐集させてもらいますね。」

瀕死の七氏に近づくと、プー太氏はその胸に手を入れて魔力を蒐集する。

「はい、これでもうあなたにすべきことは果たしました。というわけで……光になれー☆」

七氏に向かって、ゴルディオンハンマーが振り下ろされる。

「くっ……認められるか! ぼくが、ぼくがこんな……!」

そのセリフを最後に、七氏の肉体は光の粒子となって消え去った。

「さてと……。ついでですけど、ツキノンさんも始末しておきますかね。
 同じ非参加者の上に、ちっちゃいのも共通してるから何となくやりづらいですけど。」

ツキノンを捜して、視線を動かすプー太氏。だがツキノンは、いつの間にかその姿を消していた。

「あらら、七氏さんと話してる間に逃げられてましたか……。まあ、別にいいですけどね。
 とりあえず、落ちてる物は666さんにプレゼントしましょうか。あっちもどうなってるかわからないし、急がないと。」

すぐさま頭を切り換えると、プー太氏は支給品の回収を開始した。


◇ ◇ ◇


(あうううう……。バトルマスター、蟹座氏……。あなた方には弁解の言葉もないのです……。)

両の瞳から止めどなく流れ落ちる涙を拭うこともせず、ツキノンはフォーグラーの中を走る。
その背中には、蟹座氏が残したボロボロのデイパックが背負われていた。

(私にもっと力があれば、この惨劇も避けられたかも知れないのに……。
 大切な仲間も救えずに、何が神の力ですか! これではもう一人の私にも、申し訳が立たないのです!)

ツキノンの胸を支配するのは、あまりに大きく重い後悔の念。

(ですが、私は諦めません! 必ずや、他の対主催と共に主催者を打倒して見せます!
 ……ギャルゲロワ、最後の生き残りとして!)

後悔と共に決意を抱き、ツキノンは走る。その先に何が待っているかは、神である本人にもわからない。


【バトルマスター@ギャルゲロワ 死亡】
【蟹座氏@ギャルゲロワ 死亡】
【HN「七氏」@テイルズロワ 死亡】


【2日目・深夜】【D-7 大蟹球フォーグラー内部・???エリア】
【ツキノン@GR1st】
【状態】:首輪無し、強い後悔
【装備】:鬼狩柳桜
【道具】:支給品一式(食料全て消費)×5、最高ボタン、カードデッキ(シザース)@ライダーロワ、閃光弾、バッド・カニパニーの甲羅、蟹座氏の写真×10
     腕時計型麻酔銃(1/1)@漫画ロワ、麻酔銃の予備針×3、変化の杖、対戦車地雷×1、
     ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃@トライガン、ドラゴンオーブ@AAA、ティーセット一式
【思考】:
基本:打倒WIKI管理人
1:ギャグ将軍、もしくは他の参加者と合流
2:????



※主催側に反抗したため(自滅ですが)支給品に封印されていました。
※何らかの主催側の情報を持っているかもしれません
※他お任せ
※羽入の力は使えます。


※バトルマスターの所持品(支給品一式×2、コイン、名簿、孔明のメモ、スタンガン@アニロワ1st、 G.Iのカード×2(種類不明・本人は確認済み)@LSロワ)は、
 ロケットランチャーの爆発により消滅しました。

※永遠神剣「冥加」、永遠神剣『誓い』(鉈型)、鉈、ソードサムライX@漫画ロワ、パニッシャー@トライガン(機関銃:残り弾数40%、ロケットランチャー:残り7発)は、
 プー太氏が回収し666の元へ運んでいます。

※ケリュケイオン@なのはstsは、蟹座氏の遺体が装備したまま放置されています。

287:D(後編) 投下順に読む 289:祈りは空に、願いは天に、輝く光はこの瞳に、不屈の心はこの胸に!
287:D(後編) 時系列順に読む 289:祈りは空に、願いは天に、輝く光はこの瞳に、不屈の心はこの胸に!
286:どんな時でも一人じゃない 蟹座氏 291:繋いだ手は離さない
286:どんな時でも一人じゃない ツキノン 292:愛は運命 運命は――
287:D(後編) バトルマスター 291:繋いだ手は離さない
287:D(後編) HN「七氏」 [[]]
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