破壊の轟音が空気を震わせ、ときおり崩れた建築物が地面を揺らす。
静かなビル街はバトルロワイアルの戦場となり、崩壊が進んでいく。
その只中を駆けていく五人の人影があった。
吸血鬼の主従、背中にこなたこと地球破壊爆弾を背負って走るクールなロリスキー。
その横で彼女を気にかけながらも、自分のスタミナ不足で逆に気を使われている忘却のウッカリデス。
その前を走り、露払いを務める前衛二人。黒い剣士こと神行太保のDIE/SOUL、そしてロリ吸血鬼のミスターマダオ。
彼ら五人のうち、三人は吸血鬼である。
通常の食料で空腹は満たされず、よって血液を求めて大きな病院があると思われるE-8エリアに向けて移動している最中だ。
色々あってやむをえず離れ離れになった最速の人に書置きを残し、後から追ってくることを願いつつ、彼ら五人は目的地を目指す。
「ねえ、ウッカリデス。大丈夫?少し休んだほうがよくない?」
「だ……大丈夫です、はっ、はっ……!」
吸血鬼、そして九大天王とガッツの力を持つ超人が居並ぶ中で、ウッカリデスだけは何の力も持たない一般人だ。
強がってはいるが、この移動スピードについていくにはさすがに無理があるだろう。
「ねえ!ちょっと休まない?ちょっとマダオ!DIE/SOUL!」
「ああ!?」
ロリスキーは自分たちの先を行く二人にやや大きな声で呼びかける。
何の用だ、とややいらだたしげに振り返ったDIE/SOULだが、ウッカリデスの様子を見て事情を察したようだった。
「……ちっ、しょうがねえな。だがちんたらしてんじゃねえぞ。止まるな、歩け」
「まあ、いいだろうDIE/SOUL。ほら……放送の時間だ」
マダオの言うとおりだった。
正午十二時きっかりに会場全体に響くノイズ交じりのラジオの音。
第二回放送が始まった。
◇ ◇ ◇
ギャルゲロワ版最速の人――。
その名が呼ばれてしまった。
仲間の名前が呼ばれてしまった。
知り合ってから十二時間にも満たないが、彼は紛れもなく仲間だった。
ロリスキーをはじめとする仲間を守るために命を懸けて何度も危険に立ち向かった。
そして――死んだ。
「……くそっ!」
ウッカリデスはその震える拳を強く握り締めた。
あの時、なぜ止めなかったのか。もっといい方法があったんじゃないのか。
そんな後悔と、自分への無力感があった。
「……ちっ」
DIE/SOULは空を仰ぎ、苛立たしげに舌打ちする。
彼にとっては仲間として共にすごした時間は無きに等しいが、だがそれで死を悼まないほど薄情でもない。
「君は義務を果たした。眠れ」
マダオは目を閉じる。
数秒間の黙祷を済ませ、己の義務を果たすべく決意を新たにする。
それぞれがそれぞれの思いを込めて、最速の人の死を悼んだ。
そして、それを胸に秘めて前へ歩き出そうとする。
一人を除いて。
「ロリスキーさん……大丈夫ですか?」
ウッカリデスが声をかけるが、こなたを背負ったまま、へたり込んだロリスキーは動かない。
俯いてその表情は読み取れないが、あまり声をかけやすい雰囲気ではないことは分かる。
ぽたり、ぽたりと地面に水滴がこぼれた。
続いて嗚咽が漏れる。
彼女は泣いていた。
あふれる涙はどうやったところで止まらなかった。
肩を震わせて、唇をかみ締めて、このまま泣いていられるような状況でないことはわかっていたけど、それでもやっぱり――
「ううぅ……うう……あぁ……」
クールなロリスキーは現在、参加者の中で最もキャラに『入り込んでいる』。
彼女はこのバトルロワイアルに放り込まれてから、いきなりマーダーと遭遇し、そして重傷を負った。
今はその不死という特殊能力ゆえに傷は癒えている。
だが、だからこそ常人では味わえないような痛みを幾度となく心と身体に叩きつけられ、自分自身について客観的に考察する余裕を失わせた。
熱血王子によって刻み込まれた痛みが、これは紛れもない現実だと何度も何度も彼女の心も同時に痛めつけ、その思考を縛り付けていった。
今の彼女にはマダオやDIE/SOULのように自分自身についての疑問など浮かぶべくもないのだ。
そして心の底から最速の人の死を悲しむロリスキーはまたひとつ心に傷を負った。
そしてそれは、彼女がまた一歩キャラクターに入り込んだことを意味する。
こなたの姿をした地球破壊爆弾に、吸血鬼の主従関係を超えた強い愛情のような思いを抱いているのも、おそらくはそれが原因なのだろう。
はたしてそれが今後、彼女とその仲間にどんな影響を与えるのかは――それはまた、ここで語るべきではない別の話である。
(第二回放送直後のお話です)
最終更新:2008年04月17日 00:50