Blitzkrieg――電撃戦 (前編)


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正立方体で灰一色の何の面白みもない部屋。
その一面にあるこれもまた簡素なドアと、その対面に存在する103インチサイズの大型モニター。
この部屋はR-0109がテリトリーとする、モニタールームだ。

壁一面を占領する巨大モニターの前には、コンソールの役割を果たすネオジオコントローラとマイク等々。
R-0109はそのコントローラをカチャカチャと鳴らし、今は監視モニターが録画していた記録映像を見ていた。

「うわー……、ちょっと見ない間にけっこう進んでるなぁ……」

第2回の放送を終えた後、昼食と昼寝で時間を潰したR-0109は、知らない内に進んでいたロワに息を漏らす。
たった半日と少しで生存者は半数を切り、参加者である書き手達は覚醒を繰り返している。
そんな書き手達の生き様に感嘆の声を漏らしながらR-0109はログを辿り、遂に最新話へとたどり着いた。

「あ。………………」

モニターに映るのは、今まさに殺しあわんとするメイド2人であった。
片方のメイドさんは腕を切り落とされており、その流血によって両者ともその真っ白だったエプロンを真っ赤に染めている。
息を荒げ、今にも殺害されんとしているのは永遠のうっかり侍。そして、もう一人は――……。

ちょうどいい――それだけ呟くと、R-0109はかけていたパイプ椅子から立ち上がり部屋を飛び出した。


 ◆ ◆ ◆


森の中――単純にそう表される風景の中を、3人の男女が北の方角へと向って歩いていた。

先頭を飄々とした態度で行くその容姿に具体的描写のない男は、フリクリ署長。
彼が指摘した通り。日に照らされて全容を明かした森はどことなく作り物っぽい。鮮やかな緑も、鮮やかすぎるといった印象だ。
10を超えてから数えるのをやめた見覚えのある切り株の脇を抜け、彼はただ歩き続ける。

フリクリ署長の背を追って歩くのは、取り立てて特徴の無い名前通りに地味な地味子と、太ったピザの1号である。
両者ともに僅かに息を荒げ、少女よりも足取りの重いピザの1号の方は汗も垂らしている。
誰よりも早く走れる男はそんな彼女らを気遣ってか、足ではなく口のスピードの方を速めた。

「……先程も言いましたが、この世界はどこも作り物めいている。この舞台も、私達もです。
 つまり、今の私達は役者にすぎない――ならば、何を成せばよいんでしょうね?
 誰かが書き上げた台本通りに役を演じきることでしょうか? それこそマッドスクリプトの様に?
 はたまた、我々は我々の物語を作り上げるべきなのか? 最悪の脚本を破り捨てて――。
 しかしやはり、ここで問題になってくるのがまた、我々がいかなる存在なのか? ということですよねぇ。
 書き手としての記憶だけを持たされた人形――そうであるなら、話は簡単。何も悩む必要はありません。
 実際の私達にリスクが及ばないというのなら、これを催した者に全てを任せればよい。
 だがしかし。もし、この私達の記憶が、魂が本物であるというのなら難しい――。
 我々はここから脱しなければならない。そう、まるで私達が書く対主催キャラクターの様に運命に抗わねばならない。
 しか~し~……、これもまた脚本通りなのでは――とも考えられるんですよねぇ。
 我々は、釈迦の掌の上の悟空どころか、すでに真名板の上の鯉でしかないかも知れない。
 メタを考えるが故に生まれる思考の万華鏡。推理の無限地獄。思索のラビリンス……。
 何者に対しても絶対にノゥ! と言い切れる反逆者――それに、なるためには我々は一体どうすれば――?」

一人、口車と脳の回転を同期させているフリクリ署長。
その前が開け、彼の前に新しい景色が飛び込んできた――桃源郷である。

「おぉ、想像はしていましたがやはりこのMAP――舞台はループしている」

南下し街へと向かう。そんな選択肢も彼らにあったが、それを選ばなかったのはこれが理由であった。
せっかく端に近い位置にいるのだから、その端がどうなっているのかを確かめよう――と。
戦闘力においては自衛以上には自信がなく、そして考察派を主張したが故の選択である。

『B-8』から『A-8』までを真っ直ぐに北上し、その北端から見えるのは『I-8』の南端であった。
少し遅れて到達した地味子とピザの1号。彼らの目の前にも、一面に広がる温泉と立ち昇る湯気が見えた。

「――温泉って、本当に温泉ばっかりなんですね」

全く冗談の様です――と、地味子の声にフリクリ署長は苦笑する。
RPGツクールで作成した様な風景が延々と続く光景を実際に見れば、それはまるでシュールレアリスムの様でもある。

「隣りの『I-9』はすでに禁止エリアですし……、とりあえずはこのまま北上してみましょうか」

言って、フリクリ署長はエリアの境界を跨ぎ先へと進み、そして後ろの2人もそれに倣い彼らは温泉地帯へと入っていった。


 ◆ ◆ ◆


ある3人が眼前に桃源郷を見ていた頃、別の3人は目の前に広がる虚無に唖然としていた。

「なんだいなんだい。ここに旅館があったってのかい? だとしたらまぁ、随分と……」

大仰な事があったんだろうね――と言うのは惜しげもなく全裸を曝す老婆、底上げ中の残月である。
つい先刻に死闘を演じたばかりだが、最後に1枚残っていたケロンパスのおかげで今は元の快活さを取り戻している。

「……まさか、こんなことになっているなんて」

残月と同じく目の前に広がる旅館跡。いや、そうとも呼べない延々と続く荒野に静かなる~Chain-情~は喉を唸らせる。
場所が間違っていないのは、地面に張り付く様に残っている建物の土台から分かる。
だが、どうしてこんな……地面から上が一切合財なくなる様な、そんな事が起きたかは想像もつかない。

「一体……何があったんでしょう?」

その犯人は2人に続いてしれっとそんなことを言う。
一つのエリア全てを巻き込んだ大規模テレポート。それは彼女、素晴らしきフラグビルドの仕業であった。
愛しのChain-情との愛の逃避行――それを成すために行なった彼女の策である。

困惑しながらも、彼ら3人はその荒地を歩きまわり仲間が戻ってきていないかと探し回る。
昼前に立てた予定通りならば、ここを出立したギャグ将軍達が戻ってきているはずなのだ。

「そういえば、建物ごと飛ばされてたってことは……シルベストリさん達はまだあそこらへんにいるのかな?」

Chain-情は、旅館をマスク・ザ・ドSに襲撃され、その後気絶から覚めた時の事を思い出す。
確かにあの時彼の目の前に積みあがっていた瓦礫は、彼らが滞在していた旅館の成れの果てであった。
ならば、一緒に行方の知れなくなったシルベストリやコロンビーヌもまた、そこにいたのではないかと推理できる。

「でも、そうだったら。あの人達も私達みたく、ここに戻ってくるかもしれませんよ?」

ただの廃墟以下の光景に、当てを得ることができないでいるChain-情をフラグビルドは諌める。
この現場で得られるものは何もないかも知れないが、かといって出て行ってしまえばすれ違う可能性も大だと。

「フラグビルドの言う通りさ。焦る気持ちは解るけどね、時には待つことも重要なんだよ情の坊や」

加えて言う残月はすでにコンクリート片の上にと腰を下ろしていた。
時には40秒以内での完遂を要求する忙しない彼女ではあったが、さすがは年の功というやつか頼りになる落ち着きがある。

そして、結局。
彼ら3人は陽に暖められたコンクリートの上で仲間の帰りを待つという結論に達した。
もしかしたらギャグ将軍達は一度ここに帰ってきて、それから自分達を探しにいったのかもしれない。
しかしそれを追っても事態は解決いたらない。いや、かえって混乱するだろう――と逸る気持ちを押さえつけたのである。

そしてそんな3人の前へ、期待とは別の3人組が現れた――。


 ◆ ◆ ◆


R-0109が去り、無人となったモニタールーム。
そのモニターに残された誰も見ていない映像の中――メイド同士の対決は、死闘より惨劇へと移り変わろうとしていた。

血で滑る床の上を逃げ惑う、うっかり侍の手にはもう武器であった出刃包丁はない。
焦ったドラえもんの振るう刀を受けようとして、そしてそれが斬鉄剣であると気付いた時にはもう遅く、
握っていた指をも諸共に叩き切られてしまったのだ。
もう右手も左手も使うこともできず、彼女は襲い来る狂気のメイドに対し、それを止めるよう懇願しながら逃げ惑うしかないでいた。

「――やめてくだされ、焦ったドラえもん殿! あなたは、決してそんなっ!」

抵抗する術を失ったうっかり侍を、狂ったメイドはゆらりゆらりと刀を振りながらじわりじわりと追い詰める。
ひと思いに、などという気は毛頭なく。新しく芽生えた力に絶対の自信と確実な勝利を確信し、余裕綽々といった感じで。

「うっかり侍さんも、私を殺そうとしたじゃないですかぁ――」

哂うメイドのつま先で蹴られた包丁の破片が、へたり込むうっかり侍の直前へと刺さる。

「こんなもの振り回しておいて、殺意はなかった……なんて言いませんよねぇ?」

だったらもうお相子じゃないですか――などと、顔を蒼くするうっかり侍の前でメイドはケタケタと哂い、
吸血鬼の力で刀を振るって薄い傷を増やし、彼女を甚振り悦に浸る。

止めることもままならず零れるに任せている赤い血。そして、それが広がる先にいる吸血姫。
朦朧とし始めた意識の中でうっかり侍は今日を振り返り、出会った人々全てに――そして、何よりも強く目の前の吸血姫に謝っていた。
何が悪かったのかは解らない。でも、きっと彼女をこんな風にしてしまったのは自分の……うっかりのせいなのだろうと。

どうすれば、目の前の仲間を救い戻すことができるのかは分からないし、その手立ても思いつかない。
――だが。一つだけやってみるべきことがあった。それが本当に意味ある行為なのかは分からない。しかし彼は言っていた。


『鬱展へ巻き込まれそうになったら力の限りに雄叫ぶといいぜ。正義の熱血野郎が飛び出してきてくれる』


手は両腕共にもがれた、それに大量の失血のせいで足は言うことを聞いてくれない。
だけど、口はまだ塞がっていない。たった一度、後一度ぐらいなら叫ぶことぐらいは…………。


「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ――っっっ!!」


突然の奇行に驚く血塗れのメイドの前で、肺の中の空気を使い切ったうっかり侍は真っ白な世界の中へと落ちてゆく。
半分までが閉じた視界の中。そこに彼女はぶっ飛ばされるメイドと正義の――………………。


 ◆ ◆ ◆


突然の雄叫び。
それに焦ったドラえもんは一瞬気圧され、そして訳も分からぬ苛立ちに刀を振り下ろそうとして――ぶっ飛ばされた。

幾枚もの土壁を破り、無数の障子紙を無駄にし、最後はぶっといけやきの大黒柱に叩きつけられてメイドは止まった。
その衝撃に強靭を誇る吸血鬼の身体もさすがに砕け、焦ったドラえもんは先刻のうっかり侍と同じ様な姿勢で地に這い蹲る。

一撃を受けた右肩は全壊。そして、次いでの衝撃により脊椎を損傷。下半身が麻痺していた。
破れたメイド服は自分の血を所々から滲ませ、骨折以下の負傷においては数え切れない。
一瞬の検分において、吸血姫は自身の被害状況を把握する。
人間なら5人分程だったが、化物には足りない程度の負傷だった。

濛々と立ち込める土煙。その先から足音が近づいてくる。それはつまりは、この一撃を見舞った者だ。
吸血姫は耳を澄ませ、そいつに対し備える。そして、そいつは堂々と彼女の前に姿を現した。

「いやぁ~、これは失礼しました可愛らしいフロイライン。
 何せ危機一髪といったところでしたからね。正体も探らず、咄嗟にお見舞いしてしまいましたが……、
 まぁ、ご無事な様でなによりです」

土煙の向うから現れたのは、どこかで見たことのあるサングラスをかけた一人の男。
助けを呼ぶ声を聞き、最速で現場へと駆けつけた正義のヒーロー。燃え展開の男――フリクリ署長その人だった。

「見たところ、私とご同郷か漫画ロワ出身の書き手さんの様ですが……と、これはまた失礼。
 私の名前はフリクリ署長。アニメキャラ・バトルロワイアルから参上した男です。
 見下ろしたままですが、状況が状況だけにその点にはご容赦願いたい」

惨劇の場においてなお調子を崩さない男。
その彼を見上げ、吸血姫はサングラスの向こう側にある眼に射抜く様な視線をぶつける。

「おぉ、怖い。いや、重ねて謝罪しますよシニョリーナ。
 いくら速さを求めたからと言っても、不意打ちは騎士道精神においてあるまじき行為でした。
 それで、あなたはどれぐらいの時間でその傷を癒されるのでしょうか?
 ――ドラキュリーナ?」

相手は自分の性質を理解した上で舐めきった態度を取っている――そのことに怒りが沸き、吸血姫の喉がうなる。
だが、彼女は激情に身を任せすぐに飛び掛ったりはしない。あくまで冷静に身体が修復するまでの時間を待つ。
目の前の男はサングラスを除けば何の変哲もない男。ならば次は遅れを取るはずがないと彼女は考える。

「早い話。――抜きな。どっちが速いか勝負しようぜ。と、いうやつです。
 ああ、あらかじめ言っておきますが血の目潰しは通用しないですよ。だって、サングラスをかけていますから♪」

視線は固定したままで、しかし視界を広げ吸血姫はあたりを伺い失った武器を探す。
手にしていた斬鉄剣は飛んでいってしまったのか視界の中には無い。そして、背中に背負っていた鞄の感触も失せていた。
先程より随分と静かだと思ったら、バルキリースカートの姿も太腿にはない。
つまりは全くの無手。だが、逆にそれがどうしたと吸血姫は牙を剥く。武器は無いが武器はある――!


 ◆ ◆ ◆


――瞬間。半壊した部屋の中が白いモノで埋め尽くされた。

それは『紙』だった。
真っ白い無数の紙切れが旋風を受けたかのように舞い上がっている。

何者かが彼女に与えた巨乳の力。
その内にある、アニロワ2ndの巨乳エージェント――『紙使い』――読子・リードマン。
その力が吸血姫である彼女に紙を使わせている。

ぶっとばされた時に途中で破ってきた障子紙。
それを、吸血姫は巨乳の力を使って目の前の男に気付かれない様引き寄せていたのだ。

何時の間にかに引き寄せられていた散り散りの紙は彼女の意によって集合し、イメージされる武器の姿を取る。
出来上がったのは、真っ白な無言の、それでいて何者よりも凶暴なバルキリースカート。
男の臓物をぶちまけさせるべく、彼女はそれを振るう――だがしかし!

「遅いですねぇ……」

文字通りの白刃が通り過ぎた場所に、男はいなかった。
彼が過去に存在していた空間を紙の刃が穿った時、最速の彼はすでに吸血姫の傍らにへと移動を終えていたのだ。

「あなたには何よりもこう言わなくてはならない――」

犠牲者の消失を目視した吸血姫は気配だけを追い、そして捉え、身体を半分捻り鉄拳をそこに打ち込む。
並の人間であれば四肢が爆散するほどの威力。化物の拳――だが、それは男の元までは届かなかった。

「――速さが足りないと」

まぁ、力に関しては申し分ないですがね――と、サングラスの男は目の前の停止した拳を前にそう言う。
吸血姫の拳を止めたのは、彼女の腕よりも長い彼の脚だ。
怪物の鉄拳よりも彼の蹴りは更に速く。アルターに包まれた切先が的確に彼女の急所を捉えていた。

「それでは、よい夢を。――ディエーヴゥシカ」

真っ直ぐに伸びた足の先より吸血姫はズルリと崩れ落ちる。
化物と言えども、人の形をしているのならやはりその有様も人に倣う。
人の急所を打たれ、人と同じ様に意識を刈り取られ、人と同じ様に吸血姫は――倒れた。


 ◆ ◆ ◆


ぶっ飛ばされた吸血姫の酷く荒っぽいトンネル工事のせいで、3分の1程が使い物にならなくなった旅館。
だが、3分の1程度ならば他にもまだまだ部屋は余っていると、そこに集結した人間達は考える。
失われた部屋と同じ間取りの和室。少し広めの団体客用のそこに彼らは集まっていた。

「――とりあえずは、止血だけは終わらせてやったよ」

そう言って、布団の上に横になるうっかり侍から手を放したのは全裸の老女。頼りになる女首領。残月だ。
フリクリ署長により窮地を脱したうっかり侍であったが、それでもなお生命――血の流出に死への危機は去りきってはいなかった。
その窮地を救い、彼女を現世につなぎとめたのが残月である。
的確で素早い処置。それにより辛うじて失血死という結末は逃れえた……が。

「でも……このままって訳にはいきませんよね? 腕も……指も、切られたまま、ですし……」

うっかり侍を挟んで残月の反対側。深刻な声色で話すのは彼女と一緒にここまで来たChain-情である。
狂った吸血姫に膾と切られたうっかり侍の姿は、居た堪れなくなるほどに痛ましい……。
左腕の肘に巻かれた赤く滲んだ包帯。その先にはあるべき腕が無い。
そして同じ様に巻かれた右手。それがグーの形に見えるのも、何も手を握りこんでいるからではない。

「切り口は綺麗ですし……。病院に、病院に連れて行ったらなんとかなりませんか?」

次いでの発言者は残月の脇からうっかり侍を見る地味な少女、地味子であった。
彼女の後ろには備え付けの救急箱。そして真っ赤に染まった幾枚ものタオルと、ぬるくなった湯が張られた洗面器がある。
この場所でできた治療といったら、せいぜいこれらを使った応急手当程度のものであった。
ならば、もっと最適な場所。例えば病院などに彼女を移せば……と、彼女は提案する。

「腕を切り落とされたから病院へ――ロワでは珍しくもない。ですが、それは期待薄ですなぁ」

彼女らより少し離れた位置で立っているフリクリ署長が、希望を打ち砕く。
確かに切り口は綺麗すぎるぐらいに綺麗だ。なので、可能性としてはそれが治ることも期待できる。
その為に、わざわざ切り落とされた腕と指はビニール袋に詰め、さらに冷水の中に沈めて保管してある。
移動に不便だというのなら、旅館中を探し回ればクーラーボックスの一つも見つかるだろう。しかし、それでも……。

「多分、お医者さんはいないですよね……」

フラグビルドの発言――それが現実だった。
切断された腕の接着。現代医学はそれを不可能と断じはしない。だが、ここにはその医学を知る者がいない。
しかも、医者一人では足りない。チームを組み、術式を吟味し、経過を見て、準備万端で挑む必要があった。
それはとてもではないが――ここで、期待できるものではなかった。

「ま、魔法とか……あるんじゃないですか? そういう、なんか……そういったものが」

突拍子もない発言をしたのは、部屋の隅っこで今まで所在無さげにしていた地味な男。ピザの1号だ。
だが、確かに彼の発言にも一理はあった。何もここは常識だけが支配する世界でないことはすでに皆の知るところだ。
むしろ、非常識な世界だと断じても構わない。ここに集まった人間もまた全員そういう存在なのだから。

しかし、それでも一行の雰囲気に希望が生まれる気配がないのは、彼らが書き手であったからだ。
便利でお手軽。切断された四肢を取り戻す回復手段。そんなものがある訳無いと『書き手の常識』が否定する。
ある種の消耗品として扱われる『疲労』や『魔力』……それならば、いくらでも回復する方法はあるだろう。
実際にChain-情やフラグビルド、残月はケロンパスというアイテムでそれを治した。
だが、四肢の切断。失われた身体――その再生については、ほぼ絶望的だと言わざるを得ない。
「緊張感がなくなる」「喪失したというキャラの旨みが勿体無い」etc.etc.……許容される可能性は限りなく絶無に近い。

何より、そんな可能性があるならもう誰かがここを飛び出していただろう。
唯一の可能性はChain-情の持つゴールド・エクスペリエンスの力であるが、これも決定的な助けにはならなかった。
GEが出来るのはあくまで無機物から生命を生み出す事のみ。切り落とされた腕は創れても接続まではできない。
ジョルノ・ジョバーナは初めての時に奪われた目を填め直したが……あれは、荒木先生お得意のその場のノリである。
それ以降、あんなに都合よく身体を治せる事はなかった。


 ◆ ◆ ◆


「も、もういいです。悪いのは某なのですから……全部、うっかりして、いた……某の……」

布団の中から、力無い声でうっかり侍が声を出す。
周囲の人間がそうである様に、中心にいる彼女もまた居た堪れなかった。
うっかり――そう言えば可愛いものだが、生死の狭間においてはそれは悪い冗談にしかならない。
為すべき事が、真っ当に行われない。……そんな性分を持ち合わせた自分自身を彼女は悔いていた。

「いーえ、違いますねぇ。私が考察するに、焦ったドラえもんさんが狂ったのはコレのせいだと思いますよ」

再び発言したフリクリ署長の手には白鞘に納まった斬鉄剣が握られている。

「あなたは、さっき言いましたよね?
 眠ったはずの彼女が起きてきたら様子がおかしく、そしてこの刀を握っていたと。
 ならば、話は簡単です。
 この場合は『寝ていた』――それが謎を解く鍵になります。そして錠前は彼女自身!
 焦ったドラえもんさんは『誰』に見えますか? そうセラスだ。ヘルシングに登場するセラス!
 寝る。つまりは夢を見る。そして、セラス。――鍵は錠に嵌りましたね?
 ――そう! ヘルシング原作においてセラスは寝たら夢を見ます。しかも、不条理で悪質な!
 では、差し込んだ鍵を回しましょうか。回すに必要な力。それは『斬鉄剣』です。
 有名ですよね? 知っていますよねぇ? 斬鉄剣――石川五ェ門のシンボル。何でも切れる刀。
 ここまで来ればあとちょっとですよ。皆さんもそろそろお気づきかと思います。
 そうです。この場合、『犯人』とは、この刀。
 正確には、彼女が夢の中で出会ったこの刀の精霊――斬鉄剣の精です!」

フリクリ署長の早口の推理劇に、パチパチと地味子が手を鳴らす。
ヘルシングを読んだ事があるものならこれ以上の補足は必要ないだろうが、一応言っておくと、
焦ったドラえもんのモデルであるセラス。彼女は寝るたびに、近くにある武器の精と夢の中で会うというお約束がある。
それは、不条理ながらも基本的にはいい方向に作用するが、今回は逆にそれが悪く作用したのだろう。
加えて言うなら、斬鉄剣の持ち主である五ェ門はアニロワにおいて巨乳――ロベルタに殺害されていた。
――これが、現状からフリクリ署長が導き出した回答であった。

「……しかし、それでも結局は……刀を放置した某の、うっかりが……悪い」

仲間が狂気に陥った原因は判明した。だが、やはりその最初の切欠を作ったのはうっかり侍である事には変わらない。

「ええ、そうです。そこは否定しません。
 ですが、そのうっかりの代償はもう十分以上に支払われたじゃあないですか。
 ですからあなたも、もうそれ以上自分自身を責めるのはおよしなさい」

出来れば笑って下さい。過ぎ去った過去よりも未来を見てください――そんなフリクリ署長の言葉に、うっかり侍の目から涙が零れる。
溢れる感情に睫は振るえ口はわななき、言葉を返すことができない。
でも、クッと少しだけ力を込めて笑顔を作り、彼女はそれを彼への返答とした。
その笑顔に、部屋の中に張り詰めていた緊張も弛緩してゆく。

「では、移動について検討しましょうか。
 先ほどは病院などといいましたが、手術ならともかく輸血程度なら私達でもできるはずです。 
 それに止血帯や消毒液。痛み止めなども欲しいですしね。荒治療ながらも、傷口の縫合もしませんと――!」

途端、明るい口調を取り戻しフリクリ署長が捲くし立て始める。が、その提案は最後の発言者によって却下された。

「……病院に行く必要はないよ」

うっかり侍達がいる方とは対角の部屋の隅。そこに寝かされていた焦ったドラえもんの声だった。


 ◆ ◆ ◆


――病院に行く必要は無い。穿ったものの見方をすれば、不穏にも聞こえるこの発言。
弛緩したはずの緊張が俄かに取り戻され、発言者以外の全員が身構える。だが、次の質問は誰も想像していなかった。

「あの……、聞きにくいんだけど。うっかり侍さんって……その、処女……ですか?」

緊張の種類が別種のものへと一瞬で摩り替わる。
また、発言の意図は何かという混乱も、先ほどの発言より増していた。

「いや、だからさ……。その怪我。吸血鬼になれば全部治るよってことなんだけどね?」

成る程。という表情が身構えていた内の何人かの顔に浮かぶ。
確かに、夜族、吸血鬼、化物、となれば腕の1本や2本なんのそのだ。それは提案者である彼女が見本である。
そして、処女もしくは童貞でないと吸血鬼にはなれないというルールもある。非童貞。非処女はただの屍鬼なるのみ。
ならば問題はそう――……。

「そ、某は……その、某は…………そういう、経験は……ないで、ござる」

聞かれたうっかり侍は、顔を真っ赤に染めながらも実直に答えた。
使うはずのないござる口調になっているのが、恥じらいと緊張を表している。
そんな可愛い彼女を見て、だったらよかったと焦ったドラえもんは顔を綻ばせた。

「じゃあ、吸血鬼にならないかな? うっかり侍さん。
 そんな怪我じゃこの先不便だろうし……その、私がやったんだから、少しでも償いがしたい……し。
 吸血鬼になるのは、また不便があるんだけど……でも、今よりはいいと思うし。
 ずっと、私が傍にいるよ? 退屈はさせないから、さ……」

その後の沈黙は長く続いた。
今のまま人間として不便な一生を終えるのか? それとも夜族となって頑強な身体を手に入れ永い夜を往くのか?
どちらが幸せなのかなどとは解りようがない。そして、それは本人同士にしか選べない選択肢だ。

結局――、


「……い、痛くしないで……ほしいで、……ござる」


――そういう答えが下された。

218:仮面の下の邪悪な微笑み 投下順に読む 219:Blitzkrieg――電撃戦 (中編)
215:空気でもいいよ 時系列順に読む 219:Blitzkrieg――電撃戦 (中編)
216:旅館に泊まってすぐ堕ちる~狂気の闇メイド~ 永遠のうっかり侍 219:Blitzkrieg――電撃戦 (中編)
216:旅館に泊まってすぐ堕ちる~狂気の闇メイド~ 焦ったドラえもん 219:Blitzkrieg――電撃戦 (中編)
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202:もう影が薄いなんて言わせな……あれ? 地味子 219:Blitzkrieg――電撃戦 (中編)
202:もう影が薄いなんて言わせな……あれ? フリクリ署長 219:Blitzkrieg――電撃戦 (中編)
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