人蟹姫


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真昼の太陽の下に、その異様を誇らしげに曝している一つの城があった。
威容……ではなく、異様である。
城と形容しても、そこにあるのは決して厳かなそれではなく、甘く淫靡。そして、下品な存在だ。

『キャッスル・満漢全席』――それが、この城の名前。

一言で表せば、ブティックホテルである。
その、つまりは如何わしい事を行うことを主目的に据えた宿泊施設のことだ。
ちなみに、これらの宿泊施設は一様にラブホテルと呼ばれることが多いが、
風営法上でそう呼ばれるために必要な条項は決して少なくなく、『正式なラブホテル』というのは案外少ない。

まぁ、そんなどうでもいい事はともかくとして、
別にそういうホテルだからといって、必ずしも相方と連れ立って入らなくてはならないという義務はない。
料金や手続きの手軽さ故に、ここを単純な宿泊施設として利用する人も少なくはないのだ。

そして、今。
一人の少女がキャッスル・満漢全席の中へと入ろうとしていた。


勿論。休息を得るためにである。


 ◆ ◆ ◆


ぺたりぺたり、と濡れた音を立てて裸足の……そして、全裸の少女がロビーを通り過ぎる。
全身を何かの液体でずぶ濡れにしている彼女の名前は――蟹座氏。

蟹座氏は他の何にも眼もくれず、ロビーの中をエレベータに向かって真っ直ぐに進む。
元より、ここはバトルロワイアルの会場。
ならば、出迎えてくれる職員もいなければ、必要な手続きもないはず――なので、彼女はそこを通り過ぎるだけだ。

そして、全裸の少女の後をついて行くのは、大量の蟹。
蟹座氏の前に突如として現れた蟹世界の古参兵――バッド・カニパニー。
出てきた時は五月蝿かったが、今は行儀良く幾何学模様の隊列を組んで静かに付き従っている。

そして、彼女と蟹の軍隊はこのホテル唯一のエレベータの中へと入り込んで行った。

「大きい子は小さい子の上にのっちゃだめだよ」

エレベータの箱の中で『開』のボタンを押し続けながら、蟹座氏は蟹の兵士達を優しく誘導していた。
断じて蟹座氏自身の子供ではなく、異世界からの来訪者でしかないはずの蟹達……なのだが、
やはり彼女には自分を慕うものを無下にすることはできなかった。
加えて、生き物は大切にしましょうという性分も持っている。

エレベータ内に蟹達が乗り終わり、重量過多のブザーがならなかった事に安堵すると、
蟹座氏は『開』のボタンから指を離し、続けて迷わずに最上階行きのボタンを押した。

先にも書いたが、ここはバトルロワイアルの会場。
つまりは宿泊に料金は発生しない。そして、決まってホテルの最上階には一番いい部屋があるものだ。
それが、蟹座氏がそのボタンを押した理由。

無論、その先に何が待ち受けてるかなんて知る由もない――。


 ◆ ◆ ◆


扉を開くと、そこは如何わしくもあったが、彼女が見たことも無い様な豪奢な部屋だった。
それに、疲れた表情をしていた蟹座氏の顔が少しだけ綻ぶ。

ちなみに扉には錠がかかっていたのだが、鉈が鍵の代わりをしたのでそれに問題はなかった。
現実の常識上では問題はあるのだが、やはりここは(ry ……なのである。

そして、目に映るものよりも彼女の気を引いたのは、かぐわしい薔薇のそれをのせた湯気の香り。
すぐ近くに目的の浴室があると知ると、蟹座氏はその他を無視し吸い込まれるかの様にそこへと入っていった。

標準よりも遥かに広い洗面所の前を横切り、少しだけ開いていたドアをスライドさせると、
――もわっ、とした蒸気が溢れ出して蟹座氏を熱烈に歓迎する。

自宅の風呂とは比べ物にならないほど広く豪華な浴室。
それに、蟹座氏の顔は驚きの表情に変わり、続けてにっこりと破顔した。

上等な香が焚かれ、生花まで生けられている上に、アメニティグッズも高価な物で揃えられている。
そして何よりも彼女の気を引くのが、大きな浴槽とその淵のギリギリにまで張られた透明で綺麗な湯。

その中に自分の身体を放り込みたくなる衝動が脳髄を駆け巡る。
だが彼女はそれを必死に抑え、まずは身体の穢れを落とすためにと、シャワーヘッドへと手をのばした。



「…………――――――♪」

症候群が発した訳ではないが、降りかかる水の粒が肌を叩く気持ちよさに♪も自然と飛び出してくるものであった。
細かい三つ編みを解いた頭の上からシャワーを被り、彼女は全身に被っていたヌルヌルを落としてゆく。
セオリー通りに身体の上から下へ、頭頂から足先の爪先の方へとヌルヌルを拭う手を移動させる。

明るい色の髪の毛の中に指を挿し込み、わしゃわしゃ……と音を立てて根元まで纏わり付いたヌルヌルを掻き出す。
ぱっちりとした眼のついた顔を、そして首の後ろから顎までを掌で擦り、次は小さな肩の方へと掌を滑らせた。
白く細い腕を交代に働かせながら互いの穢れを掃わしあわせ、今度はその両手を胸へと伸ばす。
車のフロントを磨く様に掌を動かし、そしてそれを少しずつ下の方へと移動させてゆく。
汚れの溜まりやすいお腹の窪みを指先でほじり、もう片方の掌はさらに下方へ。
そこを清潔にすると、再び両の掌を合流させそれを後方へと向かわした。
掴む形にした掌で、それぞれに持ち上げたそこを綺麗にする。
次は一本の柱を磨くかの様に脚を片方ずつ擦ると、
最後に濡らしたタオルを一枚取り上げて、
それで背中の穢れを拭き取った。
仕事を終え一つ息をつく。
はぁ、サッパリしたと。
――――――♪
…………。
……。

ようやく湯船の中へと浸かることができた蟹座氏は、頬を上気させほぅ……と、息をつく。
ここに来るまでは冷たく白かった肌も、今はすみずみまで桃色だ。

ブクブクブクブク、ブクブクブクブク――――。

少しだけ手を伸ばし、端にあったパネルを操作してジャグジーを作動させると、浴槽の中は一瞬で泡一杯になった。

吹き出す泡が強く背中をなぞる感触。
肩を揉み解す水泡の心地よい圧力。
脇の下を通り抜け、胸の上を駆け抜ける小刻みな振動。
湯船の底を辿り、脚の付け根から爪先までを満遍なく解してくれる泡の流れ。

「――ぅん♪ はぁ…………っ、…………ん~♪」

全身をくすぐる泡の感触。それを受け、無意識の内に口から喜びが吐息となって漏れ出てくる。

「はぁ……、君たちはぁ、ちゃんと順番を……守るんだよぉ……ぅん♪」

蟹座氏が極楽を味わっているその外では、蟹の兵士達が並べられた洗面器を使って行水をしていた。
人が快楽を味わえる熱い湯も、蟹にとっては毒となる。
なので蟹座氏は、わざわざ彼らのためにいくつかの簡易な浴槽を用意してあげたのだ。


蟹座氏と、蟹の兵士達……まさにそこは天国であった。
ここがバトルロワイアルの最中であることを、そしてこれまでとこの後のことを忘れさせてくれるぐらいに――。


 ◆ ◆ ◆


「…………ぅあ? はわ、はわわ――、いけませんっ!」

部屋の中央に置かれた巨大なベッドから、薄いシーツを跳ね除けて全裸の幼女が飛び出してきた。
勢いよく飛び出し、曝した肌を隠す恥じらいも見せずに何かを探しているのは、したらば孔明である。

くるりくるりと頭を振って部屋中を見回し、ついにそれを彼女はサイドボードの上で発見した。
それ――時計がデジタルで表示する時刻を見て、彼女はがっくりと振っていた頭を落とす。

「ね、寝過ごしてしまうとは……この孔明。一生の不覚、です……うー」

事後。放送までの間だけでもこの安息を――と、思ったのがいけなかったのだろう。
それに気付く間もなく、極限まで消耗していた二人は深い眠りの中へと揃って落ちてしまった。
二人とは、孔明とまだベッドの中で眠りこけたままの彼女のご主人様――バトルマスターのことだ。

バトルロワイアルという状況を鑑みれば、命があるだけよかったというものだが、
情報としては最も重要度の高い放送を聞き逃したのは、あまりにも手痛いものだった。

「仕方がありません……、放送の内容は次に出会った人に聞きましょう」

とりあえずはそれを口にして孔明は気を落ち着かせる。
それがうまくいく保証はないが、対主催フラグを考えなければ放送の内容など所詮鬱展の材料でしかない。
落ち込むご主人様――バトルマスターの姿を見ずに済んだと、これを前向きに考える。
しかし、それでも彼女の気を落とさせるのは、ご主人様の前で失態を犯したという事実。
責任は互角である訳であるし、彼が自分を責めるはずがないと解っていてても口惜しいものがあった。

「お風呂……入ろうっと」

ここを出る前に浸かろうと、あらかじめ沸かしておいたお風呂の方へと孔明は足を向ける。
本当はご主人様とラブラブお風呂タイムを楽しむ算段ではあったが、今はそんな気分ではなかった。
とりあえずは汗に塗れた身体を濯ぎ、少しは気分を晴らそうとそちらへと一人進んだ。

ぺたぺたと小さな足音をならして浴室へと――……。


 ◆ ◆ ◆


がらがら~……っと、ゆっくり浴室のドアが引き開けられた。
そこに入ってくるのは全裸の幼女。そして、浴室の中――浴槽に浸かっているのも全裸の少女。
互いに全裸の女の子同士ではあったが、ここはお風呂なのでそれは大した問題にはならない。
では、何が問題かと言うと――……、

「か、かか……か、か、蟹っ! 蟹! かにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい――っ!!」

……――蟹であった。
孔明の顔を引き攣らせ、絶叫を上げさせたのは浴室を占領してる大量の蟹の群れである。

「蟹じゃないもん!」

浴槽の中の少女は否定する。だが……、

「ど、どう見ても蟹ですーっ! って、あなた誰ですか――!?」

やはり蟹だった。それは色んな意味で間違えてはいない。
そして新たなる問題も発生する。孔明から見れば、蟹の少女は不法侵入者である。

「だから、蟹じゃないって――!」

会話がすでにズレこんできているが、これも彼女に染み付いた条件反射ゆえに強くは責められない。
だからと言って、解決せねば先にも進めないのだが……。

「だから、何者なんですよぉ?」
『蟹です』
「えぇ、あなたも蟹なんですか!?」

間髪おかずに返ってきた答えに、孔明は仰天する。
蟹の群れを率いている少女は、こう見えても蟹なのだと言う。いや、確かにそう言われれば……。

「蟹じゃない――――ッ!」
「はわわ~……、意味不明です、この人!」

……だが、再び否定されてしまった。
蟹なのか少女なのか? それとも蟹であって少女なのか? はたまた蟹でも少女でもないのか?
と言うか、蟹のくせに少女なのか? それはおこがましくはないか? と、孔明の頭脳は混乱してゆく。

「蟹じゃ――……」
『蟹です』

再びの否定の後に、それを否定してのさらなる肯定。
お湯の中でざばざばと暴れているこの不確定名:[カニのようなもの]は一体なんなんだ?
寝ぼけて半回転しかしない孔明の頭脳は、ますますもって混乱してゆくのであった。


汝は蟹か? 否、蟹ではなし。
ならば汝は蟹に非ずか? 否、蟹に非ずでもなし。
しからば、そは何者ぞ? 蟹でなしなのか? 人でなしなのか?
否、蟹でなしにあらず。また、人でなしにあらず。しかし、こは蟹にあり――……。


口から泡を飛ばし、風呂場で蟹を連呼し合う二人の少女。そして、それを囲む蟹達。
もしギネスブックに『1分間に何回蟹と言えたか』みたいな項目があれば、彼女たちはその1番と2番になれると思う。
そこに、『全裸で――』とつければこれはもう間違いなく、この二人が世界の頂点に立つだろう。

とまぁ、それぐらい馬鹿馬鹿しい光景が延々と続いている。
浴室内は温かいため、例え服を着ていなくとも風邪はひかないだろうが、同時に話も進まないだろう。
全裸で蟹を連呼する二人の裸女――そこに需要は……ないでもない気はしないでもないでもないが……。

兎も角として、そろそろ収集を……と、思った頃にその男はやってきた。
蟹座氏が1番。孔明が2番目にここへとやって来たから、彼は3番目の男――サードマンと呼ぼう。

そして、そのサードマンもやはり――全裸だった。


 ◆ ◆ ◆


 【サードマン】(名称/用語)
 原作バトルロワイアルにおける三村信史を呼び表すあだ名。三村だからサードマン。安直である。
 ここから転じ、サードマンとはロワ内において彼と似た役割を果たす男キャラのことを言う。

 それが暗示するのは――、

  【表】:「頭脳派」「対主催」「脱出フラグ」「友情」「仲間との再会」「非常識の知識」「ハッキング」
  【裏】:「土壇場での失敗」「疑心暗鬼」「仲間殺し」「本筋以外」「どれだけ頑張っても主人公ではないという事実」

                                『民明書房刊-「大辞典◇バトルロワイアルの全て」より~』


 ◆ ◆ ◆


「何があったんだっ、孔明――ッ!」

仲間の名前を叫び、颯爽と現れたサードマン。
それは勿論、先ほどまで回転ベッドの真ん中でだらしなく惰眠を貪っていたバトルマスターその人である。
耳に届いた少女同士の言い争いに、痛みを訴える身体の都合を無視し、取るものも取らずに駆けつけたのだ。
事後。故に、全裸であった。

先程はお風呂場であれば、全裸であっても問題はない。いやむしろイイ……と書いたが、今度のは場合が違う。
なぜならば、男と女であるからだ。ここには『混浴』と書かれた札は下がってはいない。
尤も、場所が場所だけに、パートナー同士であれば一緒に入らない方がおかしいぐらいなのだが、
肌を重ねた幼女の方はともかく、湯船の中で泡を吹いている蟹の少女に裸を曝すのはまずかっただろう……。

「な、なな、なんだこの蟹は? ――って、君は蟹座氏か!」
「変態さん……じゃなくて、え? し、しし……し、ししょーなんですかっ!?」

お風呂場でバッタリ――とだけ書くとラブコメチックに聞こえる、唐突でマヌケな師匠と弟子の再会であった。


 ◆ ◆ ◆


敬愛するバトルマスター氏――ししょーとの出会い。

本来ならば、もっとドラマチックに……。
会いたくはない。などと状態表に書いてみても、本心を明かせば会いたくて仕方なかった。
そして! 乙女が絶望する時、颯爽と現れ涙を拭ってくれるヒーローであってほしかった――ししょー。

……そんな。都合のいい幻想を今まで脳内妄想していた蟹座氏だったのだが、現実は非常である。
数字にすれば『3』。やはり、3という数字はあまり縁起がよくないらしい。

だが、危機的状況と言えば確かにそれはそうかもしれない。
見も知らない幼女からの突然の蟹扱い。所謂、カニシャル・ハラスメント――通称カニハラ。
それに加えての、ししょーではあるが全裸の男の乱入。ギャグで流せなければ、まさに貞操の危機。
蟹見沢症候群にかかる負荷を考えれば、現状は相当なものであった。

しかし何故ししょーは全裸なんだろう? と、蟹座氏の中のカニ味噌……もとい、脳みそが疑問を抱いた。
お風呂場に来たのだから。――いやそれだけでは説明できない引っかかりがどこかにあるのだ。

「ご主人様っ、助けてください。意味不明な蟹女が!」

そうだ、こいつだ。と、蟹座氏の脳内にピンときた。
裸の幼女。裸のししょー。ホテル。そして風呂場――ああ、もう正解は近い。ああ、なんということでしょう!

「ししょーの、……こ、このロリコン――っ!」

蟹座氏は指を突き出して解答を叩きつける。状況というヒントから得られた答えがそれだった。
指差されたししょーはバキリと固まる。それが正解の証明だ。
オーマイガーな現実に蟹の少女の脳みそは、もうぐにゃーっとなってしまう――。


尊敬するししょーがロリコンだなんてっ! そんな変態性癖を持っていたなんて幻滅だぁ!
しかも目の前にいるのは幼女――ペドの領域。内角低めのスローボール。
もし、もしも……もう少し、ししょーが外角高めの直球をを好むのであれば……なんて考えても無駄。
私がししょーと、なんて可能性はついさっき壊れた幻想となった。
ていうか、ご主人様とか呼ばせている!
あぁ、ギャルゲロワ最後の良心は地に落ちた!
それになんだ。あのししょーの股間にぶら下がっているモノは!
あの、なんか黒っぽいモノ――って、アレ?


「……し、し、ししし、ししょー……の、ししょー……///」


突き出した指先。そこが指し示す一点へと蟹座氏の視点が固定されている。
見てはいけない。ししょー隠してください。と、思っても乙女の好奇心が視線をずらすことを眼球に許可しない。
その少しだけ防御力が高そうな『ししょー』に、あぁ――……。


ブクブクブクブク……、ブクブクブクブク…………。


人魚姫ならぬ、人蟹姫は泡の中へと沈んでゆく~――……。


213:オーダーイズオンリーワン。『ロワ完結』。オーバー。 投下順に読む 214:闘争制覇者
213:オーダーイズオンリーワン。『ロワ完結』。オーバー。 時系列順に読む 214:闘争制覇者
201:BIRTHDAY 蟹座氏 214:闘争制覇者
187:ぬくもりを抱きしめて バトルマスター 214:闘争制覇者
187:ぬくもりを抱きしめて 管理人・したらば孔明 214:闘争制覇者





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