双月の美酒 1


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男は闇の中を漂っていた。
そこには何も無く、自分という存在すらあいまいとしており、まるで目覚めかけの夢を見ているような状態が延々と続いている。
……しかし男は突如として自分がまばゆい光に飲み込まれるのを感じた。



左手の甲の焼けるような痛みで男は目を覚ます。
それは彼が十年以上前に経験した痛みに、令呪を宿した時のあの痛みに似ていた。
「あなたの名前は?」
すぐ目の前に立つ青髪の少女に問われ、彼はまだ微睡む意識の中答える。
「……言峰…言峰綺礼だ」
言峰綺礼、それが『生まれながらの欠陥品』である男の名前だった。
……私はどうして生きている?確かに衛宮切嗣の息子にアゾット剣で貫かれたはず。
それに冬木市にはこのような中世ヨーロッパを思わせる建造物は、私の知るかぎり、アインツベルンの城を除いて存在しない。
あるいはここは死後の世界と呼ばれる場所なのだろうか?
「ここはどこだ?」
先程自分に名を尋ねた少女に問う。
「ここはトリスティン魔法学院。あなたは私のサモン・サーヴァントによって使い魔として召喚された」
学院…なるほど辺りを見回すと目の前の少女と同じ制服のような物を着た子供達が騒いでいる。
「あいつ平民を召喚したぞ」
「ゼロのルイズならともかくあの雪風のタバサが失敗したのか?」
私は何らかの魔術によってここに召喚されたという事か。
しかし、そのような名の教育機関が魔術協会にあっただろうか?それに"魔法"学院というのも気になる。
「国の名前を教えてくれないか?」
「トリスティン」
かつて代行者として世界中を飛び回った綺礼にもまったく聞いた事が無い国名。
疑問が募り混乱する綺礼だったが、ふと空を見上げることによってそれ等の疑問はすべて氷解した。
まだ昼のため見にくいがそこにあるのは大きな二つの月だった。
平行世界とも違うまったく次元の異なる世界なのだろうか。
「フフッ……私の運命というのはとことん奇妙だとみえる」
誰にともなくつぶやく綺礼。
「私を使い魔にすると言ったな?君がマスターという事でいいのかな?」
コクリとうなずく少女。
「私はタバサ。契約は済んでいる」
と、持っている杖で綺礼の左手の甲を指すタバサ。
「この刻印が契約の証というわけか。…なるほど先程の激痛はこれのせいか」
「よろしく」
差し出された小さな手に答える綺礼。
この時、綺礼は二つの事を考えていた。それは目的と"娯楽"について。
当面の目的はこの世界について把握することだな。それに私がこの世界に呼ばれた何かしらの意味も探さねばならないだろう。
それに我が主となったこの少女は何か大きな苦悩を抱えているのが直感でわかった。
せっかく目の前に美酒があるのだ、急ぐ事はあるまい……。
綺礼の浮かべる笑みを理解できた者など、この場に一人たりともいなかった。

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