ゼロとさっちん 03a


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「あの人たちは嫌い」
 とルイズの言われて、「うん」とさつきは静かに頷く。
 二人の視線の先には、最後の宴を優雅に楽しむ貴族たちがいる。そうだ。最後なのだ。
 もうすぐ、明日にもあの人たちはみんな死んでしまうのだ。

 ここはアルビオン王国の首都ロンディニウム。

 ルイズと彼女の使い魔であるさつきは、ここにアンリエッタ王女の使いとしてやってきていた。
 目的は「手紙の回収」である。
 革命騒動に王党派は風前の灯と見られていて、その任務は圧倒的な困難なものになると思われたが――
 任務そのものは半ばだが成功した。
 どうやって貴族派に囲まれた城に潜り込もうかと思案のしどころであったが、アルビオン行きのフネを襲った空賊がアルビオンの王党派のフネであるという幸運があり、さっさと城に入り込めて、回収もできた。
 そうなればとっとと帰ってもよかったのだが。

「今夜が最後の宴だ。この国を訪れた最後の大使として、ぜひともその宴に出てくれたまえ」

 とか言われたら、でないわけにはいかないのだった。
 そんなこんなで宴で適当にアルビオンの貴族たちの相手をしていたさつきであったが、壁の花をしているご主人様が気になって話しかけた時、最初の言葉を言われたのだった。
 しばらく黙り込んでいた二人であったが、やがてルイズは。
「ねえ、サツキ……いくらあなたでも、五万もの大軍はどうにもならないわよね」
 と聞いた。
「いくらなんでも一人では……対軍レベルとか対城レベルとかの魔術とか体術があるってシオンに聞いたことがあるけど……」
 自分にはそういうのは使えない、とさつきは言う。
 というか、対軍とかってどういうのだろうかと思ってたりする。拳の一撃で軍隊をぶっとばせたりするのだろうか。
 いつかはさつきにもそういうことができるかもしれない、とシオンは言っていたが。
『さつきの資質は過去の二十七祖に匹敵します。力を積み重ねればあるいは彼らに並べる存在規模を得ることができるかもしれません』
(ごめん。さっぱり解からないよ、シオン)
 エジプトの錬金術師と路地裏同盟を組み、死徒になった当初よりは知識を得ている彼女ではあるが――つい最近まで一般人だった悲しさか、相棒のいうところの神秘だのなんだのというのは、まったくもって把握しづらいのである。
 それでもあれこれと聞いていると、吸血鬼の能力とかがなんとなく解るようになってはきているのであるが……。
「相棒、あんまり気に病んだって仕方ないぞ」
 今の相棒が、彼女の背中から語りかけてくる。
 鞘に入れてたら喋れないので、この魔剣デルフリンガーは少し鯉口を切った状態になるように細工をしていた。
 どうしてそういうことをしているのかというと、さつきが何をするのもハルケギニアでは不安だから、助言者としてのデルフリンガーを必要としているからであるが。
「貴族だの王族だのってのは、民のために戦うために存在しているんだ。その民からそっぽむかれちゃあ、意義もないってことなんだろうさ」
「だから、ただ滅びるために戦えるの?」
 貴族としての意義を失うというのはどういうことは、そういうことなんだろうか。
 ルイズは黙って二人の話に耳を傾けていたが、 
「ウェールズ様だけでも、なんとか説得したいわ」
 と呟いた。
 さつきは「うん」とだけ答えた。



◆ ◆ ◆



「結婚式を?」
 宴も終わり、すべてが寝静まっているかのような城の中でぼんやりと外を眺めていたさつきは、通りがかったワルドに話しかけられた。
 ラ・ロシェールで力試しとばかりに決闘を挑まれたが、二人の力は互角であった。
 グリフォン隊の隊長として体術と魔法をともに練り上げてきた熟練のスクエアメイジたるワルド子爵と、死徒として力をつけつつあるさつきは、以来、認め合っている仲である。
 まあ、つい先日の話ではあるのだが。
 その短い時間にさつきはワルドの心中に激しい何かを抱えているのを感じ取ったが、あまり気にしていなかった。怖いものを身の内に隠しているというのならば、彼女の好きな遠野志貴がまさにそうだったし。彼の眼差しがずっとルイズに向けられているのも解っていた。
 だから。
(ルイズさんがとても気になるんだね)
 と好意的に捉えていたりする。
 そんなこんなで話しかけられたのならば相手もするし、その内容が彼女の〝ご主人様〟に関わることならば積極的に関わろうとするのにも吝かではないのだった。
 で、ワルドの用件というのが「ルイズと結婚式をあげる」というものであったりするわけだが。
「結婚式――明日には開戦なんじゃないですか?」
「時間はあると思うよ」
 ワルドにいわれると、そういうものかとさつきは思う。
 思ってから。
「戦場の結婚式かー」
 呟いていた。言葉からして、とてもロマンがある。
「立会人には、ウェールズ殿下を頼んである」
「王子様に?」
 それは、ますますロマンだ。
「君はどうする? 私としては、ルイズの使い魔――というよりも、友人として是非とも参加して欲しいのだがね」
「そうですね……親戚のおねえさんの結婚式とかは出たことあるけど、お友達の結婚式というのはまだないですし」
 なんといっても、まだ高校生なのだ。
 少し思案してから
「……私みたいなのでもいいのなら――あ、やっぱりこっちの結婚式でも、エスコート役の人っているんですか?」
「エスコート? いや、いないな」
「ブーケを投げたりとかもしないですね」
「投げる? それもしないな」
「……うーん」
 実に残念そうに首を傾げていたさつきだが、やがて「うん」と強く頷いた。
「解りました! 私も結婚式に出席します」
「そうか。それは本当にありがたい」
 ワルドは笑った。それは実にいい笑顔に見えた。
 さつきも笑った。
 明日にこの城の人たちはみんな死ぬ。
 そんなところで結婚式を挙げるなどというのは。、あるいは不謹慎なのかもしれない。
 だけど、とさつきは思う。
 そんな時だからこそ、最後に祝福された恋人たちがいてもいいのではないかと。
 きっと二人はこの日のことを決して忘れないだろう。
 祝福する人たちも、それを想いながら死んでいくのだろう。
 それはとても悲しくて辛いことなのかも知れないが――
「あ、ひとつだけ条件があります」
 思い出したように、しかし真摯な言葉と眼差しでさつきはワルドを見た。
 ワルドもまた静かな眼差しで応える。

「ルイズさんを、絶対に幸せにしてください」

 勿論だとも、と子爵は言った。
 それは……約束の言葉だった。



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