創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

第6話 ヴァイタル

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sousakurobo

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デストラウによって無残な傷痕を刻んだ遥ノ川高校の一階で、少女は気を失っているのか静かに横たわっている。
少女の特徴である黒ブチの眼鏡は、周辺に散らばる瓦礫の破片によって潰されており、少女が持っていたノートも、既にボロボロで使い物にならなそうだ。
何分ほど経ったであろうか、少女は強く目を瞑り、やがてゆっくりと目を開け、少しずつ体を起こした。そしてあろう事か、呑気に欠伸をした。

今の少女には、どこか妙な雰囲気が漂う。いつものか弱く、生真面目でかつ、どこにでもいる様なそんな平凡さが――――全く見えない。
少女は薄汚れた黒髪を手で整えながら、正面の玄関口まで歩く。玄関の外、校庭での凄惨な光景など見向きもせず、空を見上げ、少女は呟いた。
「相変わらず趣味が悪いんだから……オルトロック」

パニックにより教職員でさえ居なくなった学校で、少女は廊下を歩く。その足取りは何処か軽く、少女の口調も軽い。
「楽しかった学園生活も、今日で終わりかぁ。まぁ……」

そう言いながら、少女は制服の内ポケットから何かを取り出す。その何かとは――――カードだ。
そう、メルフィーとオルトロックが持っていた、アストライル・ギアを召喚する為の。ただし決定的に違う所は、メルフィーが白、オルトロックが黒なら彼女のは赤、いや、真紅だ。
「あっちの世界での暮らしも、刺激的だから退屈しないけどね」

かつて、隆昭や氷室に木原町子と呼ばれた少女は、もうそこにはいない。そこにいるのは――――魔女、とかつて未来でそう呼ばれた女だ。
魔女は窓に目を向けて、ふふっと笑ってみせる。その笑みは少女らしからぬ妖艶さと、得体の知れぬ深遠さがある。
魔女は取り出したカードに小さく口づけをすると、囁く様に言った。
「貴方もそう思うわよね――――ルヴァイアル」

『ヴィルティック・シャッフル』

第6話
ヴァイタル

コックピットが傾き、体に落ちていく感覚――――重力が押しかかる。モニターには、俺達を狙ってライフルを向けるオルトロックが見える。
どれだけ距離があるのか分からないけど、少なくとも避けられる距離じゃないってのは分かる。自分自身の武器で狙われるなんて情けないにも程があるぜ……。それに。
あのライフルの威力を考えるに食らえばタダじゃ済まない。ここまで考えて出てきた答えは一つ――――防御だ。凌ぎきるんだ、チャンスが来るまで。
俺はアルフレッドにどうするべきかを聞いた。

「アルフレッド! どうすればいい! このままじゃ狙い撃ちされる!」
『ならば……ディフェンスのカードを使うんだ。一定時間、機体の耐久力を上げる事が出来る。ロボットが鎧を纏った、青い縁のカードだ』
「分かった! 一か八か……シャッフル!」

シャッフルを発動させて、アルフレッドが教えてくれたカードを取ってモニターに投げる。ライフルの銃口がぼんやりと光りだす。まずい……!
頼む、今だけでもヴィルティックを守ってくれ。このまま死んじゃ、俺は死んでいった人達に……顔向けできない。

――――凄ましい衝撃がコックピットを襲い、ふっ飛ばされるのかと思うくらいシートが揺れた。ベルトが体を圧迫して息が詰まる。
俺は球体に必死にしがみついて、モニターを睨む。オルトロックはライフルを遠慮なくヴィルティックに速射しまくる。くそったれ、何処まで歪んでやがる!
早く体勢を立て直さないと、このままやられっぱなしだ。球体を前面に押し出す様に、俺は手を滑らした。

「ヴィル……ティック!」
歯を食いしばりながら、ヴィルティックを一回転させるイメージを取る。モニター画面がオルトロックに見下ろされた視点から、見上げる視点に変わる。
どうにか体勢を立て直す事が出来たみたいだ。だが立て直した所でぶっちゃけ状況は好転しちゃいない。むしろ逆だ。
悔しいがオルトロックの乗っている機体は、ヴィルティックの比じゃ無いくらい強い。何か打開策が探さないと……。


「残弾数が残り三、か。まぁ、こうなるか」
オルトロックはそう言って舌打ちした。モニター上にヴィルティック・ライフルの残り弾数を知らせるアイコンが点滅する。
ヴィルティックに対して激しい砲撃を与えたが、大したダメージを与える事は出来なかった。それもそうだ。
ヴィルティックはディフェンスなるカードを発動させている為、全身に蒼く半透明の鎧を纏っている。その鎧はヴィルティック・ライフルの弾丸をいとも簡単に弾き飛ばし続けた。
例えディフェンスの効力が切れた所を狙った所で、この三発を撃っても決定打にはならないだろう。それならば、だ。

「それならば心を削ろう。本気になってくれないと、潰しがいが無いからな」
そう言ってオルトロックは口元を歪ませ、操縦桿を握り、デストラウの背面スラスターを噴出させる。
そしてライフルを担ぎ、地上に向かってデストラウを飛ばす。体勢を立て直したヴィルティックを挑発するかのごとく。


「あいつ……まさか!?」
自分で言っておいてアレだが、恐らくそのまさかだ。あいつは狙いを、ヴィルティックから町に変えた。多分――――いや、考えたくも無い。
まだオルトロックの姿はモニターに映っている。今の内にあいつを止めないと、また沢山人が……くそっ!
俺はオルトロックを追いかける為に、ヴィルティックを限界まで飛ばすイメージを浮かべる。だが――――。

「アルフレッド! もっと早くならないのか!」
いくらヴィルティックを飛ばしても、全くオルトロックに追いつけない。それどころか、オルトロックの乗っている機体はグングンとヴィルティックを追い離していく。
モニターに映っていたオルトロックの姿が豆粒ほどに小さくなっていき、やがて、見えなくなった……。元から……元から性能が違うのか……?

「見えなくなった……」
『デストラウ……やはり半端では無いな。それに比べ、こちらはほぼ初期性能のままだ。カードも補充出来てないしな』
「……冷静に観察してる場合じゃないだろ。教えてくれ、アルフレッド。あいつに……オルトロックに対抗できる手段は無いのか?」

「アルフレッド、あのカードを使いましょう。アレなら一定時間、デストラウに対抗できる筈です」
『だが、仮に追いつけても効力が切れたらこちらの状況が今以上に不利になるぞ。それにまだ彼が操作に慣れているとは言えない』
「ですが……ですが既に無関係の人が大勢殺されたんですよ! どんな手段であろうと、オルトロックを止めなければ……!」

ブラウザが開いて、メルフィーが険しい顔でアルフレッドと何か会話している。オルトロックの乗ってるあの機体ってデストラウっていうのか……趣味の悪い名前だ。
……待て、メルフィーは今あのカードと言った。そしてこうも言った。アレなら一定時間、デストラウに対抗できると。なら話は早い。
俺は悪いと思いながらも、二人の会話に割り込む。メルフィーが言う通りだ。どんな手段だろうとオルトロックを止めないと、何もかも終わりになる。

「メルフィー、そのカードがあればデストラウに対抗出来るんだな?」
「えぇ。絶対ではなくあくまで可能性ですが……」
「なら良い。アルフレッド、そのカードを使わしてくれ。どんな手段を使ってもあいつを止めないと……。」

俺の懇願に対し、アルフレッドは渋る様な口調で返答した。それほど危険なのか、そのカードって……。

『駄目だ。私はあくまで君達が生き残る事を優先する。あのカードは効力が優れている代わりにリスクが高すぎる。もっと確実な方法で』
「聞いてくれ、アルフレッド。もう……もう、四の五の言ってる場合じゃないんだ。これ以上あいつを野放しにしてたら、もっとたくさんの人が死ぬ。だから……」

『駄目だと言っているだろう。これから私がプランを練る。そのプランに従って』

「アルフレッド!」

「頼むよ……俺は、俺はもう、大切な人が死ぬのは……嫌なんだ」
自分でも驚くくらい、俺はアルフレッドに大きな声を上げていた。だけどそれが今の俺の正直な気持ちだ。
もうこれ以上、あんな奴に学校も、街も蹂躙されたくない。仲間が、家族が目の前で殺されているのを前に冷静になれる程、俺は……人間が出来てない。

「アルフレッド、私からもお願いします。戦闘面の方は私が全力でサポートします。だから……」
メルフィーが凛とした声でアルフレッドに言った。俺はアルフレッドの返答をじっと待つ。

『……分かった。ただし――――絶対に、効力が発動している状態でオルトロックを倒すんだ。良いな』


「氷室さん! 立ち上がってくれ、氷室さん!」
耳を防ぎ、その場にうずくまる氷室に必死で呼びかける青年がいる。だが、青年に対して氷室は耳を押えたまま、頑なに動こうとしない、
周囲は救急車、及び緊急車両のサイレンと、凄惨な状況に呼応する様な悲鳴と怒号。目を背けたくなるような、正に地獄絵図と呼ぶにふさわしい状況下となっている。
その中でも――――草川は必死に氷室に呼びかける。自分自身も心が折れそうなのを必死に耐えながら。

しかし草川が幾ら呼びかけても、氷室は動くどころか顔すら上げない。まるで――――今の状況から自らを完全に遮断する様に。
草川は微動だに動かない氷室に苦悶の表情を浮かべて、どうするべきか悩んで頭を掻き、迷った挙句……氷室の右腕を掴んで、起き上がらせようとした。

「行こう、氷室さん! ここで止まってたら、またあの黒いのが来る!」
「いや……止めて……」
「氷室さん!」

「離してよ!」
そう叫んで、氷室は草川の手を振り解いた。草川と氷室の間に、言いしれぬ沈黙が流れる。草川は茫然と、氷室を見つめた。
氷室はしばらく顔をうずめると、ゆっくりと、力無く草川を見上げた。その氷室の目には――――止めどない涙が流れていた。自分自身で抑えきれない様な。

「ごめん……でも、もう私……無理。こんな無茶苦茶な事になって……何もかも、無くなっちゃったから」

今まで生徒会長として気高いプライドを保っていた氷室には、今の光景はあまりにも残酷で無情すぎた。
目の間で母校を無残な姿にされた挙句、生徒達がまるでアリを潰すか様に簡単に殺されていく。――――そんな状況になっても、私は何も出来やしない。
学校はおろか生徒さえ守れず、何が生徒会長なんだ。氷室の、生徒会長と言う名のプライドが粉々に潰されてしまった。もう――――私には、何も無い。

「私は……私はここで良い。貴方は、逃げて……。私は」

「ふざけんな!」

――――全く予想してなかった草川の言葉に、氷室の目が丸まった。

「……どうして死のうとしてんだよ。そんなんで、そんなんで生徒会長とか名乗れるのかよ!」
草川はそこまで言い切り、再び氷室の右手を引っ張った。氷室は驚いている為か、その手に引っ張られるように立ち上がる。
氷室と向き合う草川の顔も――――泣いていた。それもみっともなく鼻水を出しながら。だが、その顔には何時ものおちゃらけている草川ではなく、確かな男前の面影がある。

「いないんだ……。喪男同盟の奴らも、メルフィーちゃんも……隆昭も。いくら探しても、探しても……」
草川は流れている涙を両腕で拭う。どうにか男の面子を保とうとしているが、それでも草川の目から涙が止まらない。

「けど、俺は皆……皆と生きて会えるって信じてる。だから俺は死ねない。絶対に」

氷室はハッとなる。確かに自分にも草川と同じ様に、また会いたい人がいる。私にも……死ねない、理由がある。

「だからさ……頼むよ、氷室さん。俺みたいに……どうしようもなく心細い奴が、まだ一杯いると思うんだ。
 何時もの氷室さんらしく、そういう奴を叱咤してくれ。遥ノ川高校の、生徒会長としてさ」

草川の言葉に、沈んでいた氷室の目が次第に輝きを取り戻していく。きっと口を一文字に締めると、氷室は草川の手を離した。
そして乱れていたツインテールを整え、草川に背を向ける。氷室は草川に聞こえない程度に小声で言った。

「……ありがとう。お陰で目が覚めたわ」
「え?」
「何でもないわよ! ……取りあえず今の内に逃げ遅れた生徒を誘導するわ。貴方も手伝いなさい!」
「はい! ……って何だ、あれ?」

返事をした草川が、ふと空を見上げた。氷室も空を見上げる。
雲を切り裂く様に高速で飛行する黒いのが見えた。そしてその黒いのを追うように――――白く巨大な物体が飛んでいる。
黒いのとかなりの距離を開けられてはいるが、白い物体は、黒いのに追いつこうと必死に飛んでいるように見える。

「またあの黒いの仲間か……もう何なんだよ……」
「……違う」

氷室の脳裏に、メルフィーが話したあの話が蘇る。もしもあの話が真実なら、あの黒いのに似て非なる、白い物体に乗っているのは――――あの二人だ。

後方でデストラウを追うヴィルティックが見える。その姿を見、オルトロックは笑いが抑えられない。
このライフルで今すぐ遥ノ川高校を焦土に変えるのは容易い。しかしそれでは何の面白みも無い。それにヴィルティック自体を潰すのは赤子の手を捻る程簡単だ。
だが、それはしない。じりじりとヴィルティック自身も、鈴木隆昭もすり潰す。たっぷりと絶望を与えてやろう。

「シャッフル」
シャッフルシステムを発動すると共にカードを引く。オルトロックが行う一連の動作には、一切の無駄が無い。
カードをモニターに投げて、操縦桿を傾ける。デストラウを急旋回させ、ヴィルティックに真正面から向き合う。
モニターには全速力で、こちらに向かってくるヴィルティックが見える。さぁ来たまえ、ヴィルティック。オルトロックの口元が一層歪む。


『いいか? あくまでデストラウの攻撃を避ける事だけを考えるんだ。あの男の性格上、私達に動きが無いと知れば即座に攻撃してくる』
「あぁ。攻撃はメルフィーに任せるよ。俺はあくまで俺が出来る事に専念する」
『良し、良い覚悟だ。見えてきたぞ』

出力に限界点が来るギリギリまでヴィルティックを飛ばし――――ようやく、デストラウの姿を捉える事が出来た。
だがデストラウは余裕といった様子でヴィルティックを見据えている。どこまで舐められてんだ、俺達は……!

「シャッフル!」
モニターからカードが実体化する。俺はその中から、切り札になるカードを引く。その手には何時の間に汗が滲んでいた。
このカードで、今の状況下が変わるのか何て分からない。確かに、アルフレッドの言う通り、限りなく勝つ可能性は低いのかもしれない。

だけど、このまま逃げるのだけは絶対にしたくない。例え相打ちになったとしても、俺はあいつを――――オルトロックを、倒す。


「ん? ……何を考えているのかな?」
何故だかヴィルティックが自らと同じく、静止している事にオルトロックは首を小さく首を傾げる。感情的に殺しに来るかと思っていたが。
まぁ、ヴィルティックがどう動こうがねじ伏せるだけだ。力の点でも、機動性の点でも、ヴィルティックに勝ち目は無い――――筈だ。


『良し、良いぞ』
アルフレッドの合図が聞こえ、俺はカードをモニターに勢い良く投げつける。アルフレッドが、カードの名前を復唱する。
『トランスインポート・ヴァースト』

「ターンアップ」

オルトロックがそう呟いた瞬間、デストラウを灰色の雲が覆う。その雲はデストラウから次第に分離していくと、何かの形を成し始める。
その形が次第に明確な姿へと変わっていき――――分離した4つの雲は、デストラウと酷似、否、ほぼ同じ姿となった。
それら疑似デストラウが、ライフルを持つオルトロックのデストラウを守るように囲んだ。

疑似デストラウは武器こそ持っていないものの、耐久性が半分である事を除き、ほぼデストラウと同じ能力値だ。今の状態はヴィルティックに限りなく不利だ。
オルトロックのデストラウが、ヴィルティックに向けてライフルを振り下ろし、オルトロックが静かな口調で言った。

「甚振ってやれ。殺さない程度にな」


握っていた球体の色と、指から伸びているラインが青から赤に変わる。俺は前を見据えて、デストラウの姿をしっかりと見据える。
……ビームを撃ち返すだけでなく、分身までしやがった。気付けばデストラウが5機、陣形を組んでいた。しかし一つ気付く事がある。
その4機はどれも、ヴィルティックライフルを持っていない。つまりオルトロックの乗っているデストラウと同じ性能なのかは分からないが、少なくともオルトロックが乗っていない偽物って訳だ。
何にせよ、その偽物共を倒さないと、本物の……オルトロックが乗っているデストラウを倒す事が出来ないんだ。俺は球体を強く握り、ヴィルティックを――――動かす。

俺が動きだしたからか、偽デストラウ達が一斉にこっちに向かって飛び始めた。
真ん中にはヴィルティックライフルを向けた、本物のデストラウが見える。あいつだ――――あいつが、本当の目標だ。

『まだだ、まだ耐えろ』

アルフレッドの言葉に従い、俺は感情を抑え込む。アルフレッドに止められなかったら今すぐにでも突っ込みそうになった、すまない、アルフレッド。
周囲から警告音が鳴る。色んな方向から、偽デストラウが襲いかかろうとしているんだろう。しかしまだアレを発動するタイミングじゃない。
耳をつんざく様な警告音が鳴り響き――――真正面のモニターに、偽デストラウの姿が映った。今だ!

「ヴァースト、起動!」

次の瞬間、ヴィルティックを攻撃せんとした4機の偽デストラウが、赤き閃光を放ったヴィルティックによって派手に吹き飛ばされる。
偽デストラウ達は何が起こったか分からず、周辺に慌しくカメラアイを上下させる。と、その中の一機に、赤き光を放ちながらヴィルティックが肩に乗りかかる。

続いてヴィルティックは両手を振り上げた。するとヴィルティックの掌に、巨大な剣――――ヴィルティック・ソードが浮き出て、即座に実体化した。
そのままソードを偽デストラウに向けて勢い良く突き刺す。偽デストラウの動きが止まり、カメラアイが黒くなると共に膨張して爆発した。
爆発によって周辺に大量の灰色の雲が広がる。と、ヴィルティックは動きを止めずに、次の機体に向けて突撃する。

ヴィルティックに気付いた偽デストラウが、手刀を突き刺そうとすばやく右手を伸ばす。紙一重でヴィルティックはその手刀をかわす。
そしてソードを偽デストラウの腹部に向けて深く突き刺すと、そのまま一回転して偽デストラウを切断した。
漂う灰色の雲の中で、ヴィルティックはその姿を現す。装甲板がスライドし、機体に疾る青きラインは赤く変化して、ヴィルティックを赤く染めている。


「ヴァーストか……これでやっと、互角に戦えるな」
目の前で形態を変えたヴィルティックを見てもなお、オルトロックは笑みを崩さない。むしろ――――この時を待っていたかの様に。

「だが、まだ戦うに値しない。ここまでおいで」
そう言って、オルトロックはデストラウを再び急旋回させて、ヴィルティックに背を向けると背面スラスターを飛ばして離脱する。
残りの偽デストラウが、一斉にヴィルティックに向かう。ヴィルティックは背中のスラスターを吹かしながら、ヴィルティック・ソードを構えて残り二機へと突貫する。


歯を食いしばりながら、俺はヴィルティックを必死に操作する。さっきまでと見ている光景が全然違う。いや、全く違う……!
体にかかる重力が半端無く、骨という骨が悲鳴を上げている。だが……その分コイツの速さが伊達じゃない。俺が考えている以上に動く。
実際、今戦っている偽デストラウは、ヴィルティックの動きに全くついてこれちゃいない。どんな攻撃も、ヴィルティックには当たる気がしない。
ふと、オルトロックのデストラウに目を向ける。……って逃げるな! 

「隆昭、右!」
メルフィーに言われてハッとした。真正面から偽デストラウが両手で手刀を突き刺そうと両腕を伸ばしてくる。俺は寸ででヴィルティックを後ろに……。
と、妙な違和感を感じ、モニターを上に向けた。上から別の偽デストラウが、手刀を構えて突っ込んできた。
連携技か! しまった、距離が足りない……これじゃあ……。

「隆昭! 呆けないで!」
次の瞬間、メルフィーが上から襲ってきた偽デストラウに向かって、勢い良く剣を投げつけた。投げられた剣は偽デストラウの頭に向かって突き刺さる。
同時にメルフィーがヴィルティックを回転させて、正面から襲ってきた偽デストラウに向けて、回し蹴りを見舞った。

その時、背後からけたたまく警告音が鳴る。オルトロック……まさかライフルを……!

「一気に上昇して! 隆昭!」
メルフィーの言葉に頷き、俺はヴィルティックを上の偽デストラウに向かって急上昇する。するとメルフィーが偽デストラウに刺さった剣を振り上げた。
真正面の偽デストラウが、二発、ビームの直撃を受けて爆発した。危なかった……。少しでも遅れていたら、こっちが直撃を受けていた所だったな。
そのままメルフィーが剣を残り一機の偽デストラウ目掛けて振り下ろした。これで、偽デストラウ全機……撃破か。

「大丈夫ですか、隆昭」
ブラウザが開いて、メルフィーが心配してくれる。……正直凄く疲れたが、そんな事言っている場合じゃない。

「あぁ、まだ全然大丈夫だ。メルフィーは大丈夫か?」
「私の事は構わないでください。……敵が来ます」

そう言ってメルフィーがブラウザを閉じた。……何だろう、普通の時と凄いギャップを感じると言うか……。戦い方が凄いというか……。
って今考えるべき事じゃないな。俺は邪念を振り払い、きっとモニターを睨む。残るは、オルトロックが乗る本物のデストラウだけだ。

その時、突然コックピット内にノイズみたいな不愉快な音が聞こえ――――あの男の声が響いた。

「やぁ、鈴木君。偉く頑張ってくれてるじゃないか。感心するよ」

オルト……オルトロック! 

『……ジャックか。相変わらず醜悪だな、オルトロック・ベイスン』

オルトロックの声に、アルフレッドが反応した。何故だかアルフレッドの声は、さっきまでの冷静な声では無く怒気を孕んでいる様な気がする。
てかジャック……電波ジャックみたいなもんか? 何にせよ気味が悪いぜ……! 俺は聞こえてるか分からないが、オルトロックに叫んだ。

「オルトロック! どうしてこんな酷い真似をする! お前には、良心の呵責とかそういうのは無いのか!」

「無い。そもそもこれらの惨状は全て……君のせいなのだよ、鈴木君」

「何……?」

「君が余計な事をしたおかげで、未来そのものが崩壊したんだ。君は本来、生きてはいけない人間なのだよ、鈴木隆昭君」

『駄目だ、奴の言葉を聞くな!』

どういう事だ……? 俺が、未来を崩壊させる? どうして俺が……?
いや、今は奴の戯言を聞いている場合じゃない。一刻も早く奴を止めないと――――と、俺は奴の行動に血の気が引く。

「おい……止めろ、ライフルを町に向けるな。おい、おい!」

「どうも君には覚悟が足りない。だからもっと本気になって貰わないとな。そうでないと――――潰しがいが、無い」

やめろ……止めろ……。

「止めろぉぉぉぉぉ!」


……ヴィルティックライフルの銃口から、ビームが発射された。ビームは遥ノ川高校の周辺に当たって、その地点が……。             
……どうして、どうしてだよ、どうしてこんな事が出来るんだよ。少しでも、少しでも罪悪感とか沸かないのかよ!
何でそんな簡単に、人を殺せるんだよ! オルトロック……オルトロック・ベイスン!

「どうだい? 自分のせいで、無関係の人間が死んだ気分は?

 さぁ、本気になってくれ、鈴木君。それとも、もっと人が死んだ方が興奮できるのかな?」

瞬間、俺の頭の中が真っ赤になり――――俺は、デストラウにヴィルティックを全速力で飛ばした。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


ヴァーストの制限時間――――残り、30秒。


                               ヴィルティック・シャッフル

                                    次回

                                   デストラウ
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