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鏡の廃墟


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1 フロンティアの時代


空京市内。開発の槌音と喧騒が、止まらない街と呼ばれるこの街の活気を示すドラムのように響いている。
パラミタが出現してから十数年。停滞していた世界は、変わった。
地球にはもう未開の地などない-だれもがそう思っていた。エベレストの山頂も観光地になり、利用価値の少ない海溝の奥でさえ探査艇のライトが照らし出す21世紀初頭、世界の常識をぶち破る事件が起きたのだ。
日本上空に突如出現した空中大陸、パラミタ。
最初は恐怖交じりだったら新しい大地の出現に、世界が熱狂するまでさほどの時間はかからなかった。
十五世紀の大航海時代、十九世紀のアメリカ西部開拓時代、そして二十一世紀はパラミタ開拓の時代だ!
日本が自分の領空に出現したパラミタを自領土と宣言したときは、流石に国連の多くの国は鼻白んだが、合衆国がそれを認めるとなし崩しに主要先進国はそれを認める方向に走り、日本にパラミタ開拓の協力を申し出た。
アメリカの支持には、日本との間に何かの内約があったという噂もあるが、それは別の話だ。ともかく、多くの国がパラミタへの調査に手を結び-そして失敗した。
パラミタは、地球人類を拒んだ。パラミタの周囲には巨大な龍が遊弋し、近づいた輸送機や戦闘機を片っ端からその炎で太平洋に叩き落し続けた。
ようやく上陸した少数の部隊は、信じられない災害や未知の病気を報告し消息を絶った。
夢の大地なのか、ただの地獄なのか。まるでファンタジー映画のような映像を、各国のニュースは毎日のように流し続け、意地になった国々が諦めるまで多くの命が失われていった。

-結局、必要なのは、そんなものではなかったのだ。

パラミタが出現してから、世界で数万人に一人が、これまでない超常現象を体験することになる。
不思議な霊的存在と交信し、その霊的存在が実態化し、交信者と縁を結ぶ。遺跡で掘り出されるようになった古代の機械が目を覚まし、話しかけた。
最初は失笑を呼ぶだけだったおとぎ話のような事象が何度も確認されるうち、世間はそれを現実と認めるようになった。
契約を求めた存在は、自分たちはパラミタの種族であると名乗り、縁を結んだ数万人に一人の地球人は「コントラクター」と呼ばれ、彼らだけがパラミタに何事もなく上陸できたのだ。
それは、これまで地獄の業火に埋め尽くされたパラミタへの道が何事もなかったかのように開かれたということだった。ただし、コントラクターにとってだけ-
最初は細々と空輸されていたコントラクターが拠点を築き始めると、恐ろしい勢いでパラミタの開拓は始まった。
パラミタ原住民が細々と作っていた村は切り開かれ、いまや巨大な都市となり、パートナー契約をしなくても入り込める結界があり、日本と特殊な空間結合をした新幹線が空京に乗り入れている。
そこを基点に、遠くへ、未知の大地を、もっと多くの実りを-
それは、そんな新しいフロンティア時代の物語である。

2 空京


空京駅からさほど遠くないビルのフロアの四分の一を1F~4Fまでぶち抜いたドーナツ店。
ミスタードーナル。
最近地球から出店してきたこの大資本ファーストフードは、空京の若者が気軽に利用している人気店の一つだ。
強気の出店は見事に当たり、今日も多くの客がやってきている。

「あっ!と、おおおお!」
情けない声を上げながら、一人の少年が二階の隅でよろけた。
テーブルに着こうとしたときにテーブルにトレイをぶつけ、ぼとっとドーナツが床に落ちた。
「ああ…もったいない」
恨めしそうに床のドーナツを見やる少年は、天良高志。17歳という年齢の割りに、外見は幼く、まだ中学生といっても通じるかもしれない。
ツァンダにある空京蒼空学園の生徒で、彼もコントラクターの一人である。
もっとも、蒼空学園には多くのコントラクターがやってきているので、10年前なら奇跡のような存在だった彼も、このパラミタではちょっと特殊な学生、というだけになっているのだが。
ツァンダ、とくに蒼空学園はパラミタで重要な空輸拠点になっている。しかしこの喧騒や、地球の大都市がそのままやってきたような、品物の豊富さはさすがにツァンダでは味わえない。
時々やってきて、地球の新しい品物を探すのに、空京でなければ、と多くの若者が思っている。
天良は今日、数人の友人と一緒に空京にやってきた。店をバラバラに見ているうちに、友人は三々五々ツァンダに帰っていく。
残った友人の初島伽耶とここで待ち合わせして情報交換でもして帰るか、そんなつもりでいたのに。折角のドーナツが。
「良ければ」
そんな声が聞こえて、天良が横のテーブルを見ると、皿にのったドーナツを差し出している少年がいた。中学生だろうか。薄い茶色の髪に透けた茶色の瞳が穏やかに笑っていた。
「いや、それは」天良が断ろうとすると、買いすぎたんだ、普段はパートナーと一緒に来るから、そのつもりで居てね、とはにかむように笑った。
ということは、彼もコントラクターなのだ。彼の名は鬼院尋人。タシガンにある中東系出資の地球系学舎、薔薇の学舎の生徒だと名乗った。同じテーブルに付いて歓談するうち、早速意気投合した二人は早速携帯の番号を交換することにした。
「暇なら今度の土曜日にツァンダに来てみないか?ちょうどその日は学園から校外に出るんだ。その前に蒼空学園も見てもらえるし」
「いいね。蒼空の人と今まであまり話す機会はなかったからね。どこかにいくのかい?」
鬼院の質問に、少し天良は迷った。よく考えると、これはかなり変な用件な気がする。
「実は廃墟見学に…」
「廃墟?」
「ツァンダの校外の森に気になる建物があって、そこに潜入を…」
鬼院は目を丸くする。これは確かにかなり変だ。
天良が少し困ったとき目の前に赤いミニスカートの少女がトレーを鳴らして着席した。

3 廃墟マニア?

4 窓のない城

5 黒い石碑

6 フォーマルハウトセキュリティサービス

7 その夜

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最終更新:2009年07月05日 09:24