第39話まで

三戦英雄傳


第三十七回~奪還すべき女の名~


小魔玉:「何? それは真か」
八戸のぶなが:「はっ、確かな情報にございます。奥方様を南匈奴で見た、という商人と文人が数名おります」
小魔玉:「早くつれて参れ。本人の口から聞きたい」
八戸のぶなが:「これ、入りなさい」

 広い小魔玉邸で八戸のぶながの両手がパンパンと鳴らされ、数人の男が入室しました。

商人1:「私、馬商人の趙某と申します」
商人2:「私は奴隷商人の楊某と言います。取り扱う商品はお客様のお好みに副えられるものかと」
文人1:「私の名は陳某と申し、各地を彷徨う文人にございます」
小魔玉:「おお、よくぞ来て下さった。それで、各々方の目撃された女人はうちの媚嬢に間違いないのだな?」
八戸のぶなが:「事情を聞きましたところ、大尉の奥方様に間違いないかと」
商人1:「その女人は、とても美しい声で歌を歌い小さな顎が印象的な美女でございました。歌は南海の歌でございました」
商人2:「その美女の瞳は、美声以上に記憶に残るものでした」
文人1:「しかし、美女の手足はございませんでした」
小魔玉:「間違いない! オイラの媚嬢だ。して、その美女は何をしていたのだ」



八戸のぶなが:「大変申し上げにくいのでございますが……」
小魔玉:「八戸のぶながよ。あれほどの美女だ。劣情を抱かない者がいないはずはない。
おおかたの予想は付いておるわ。言え…いや、止めておけ」
八戸のぶなが:「大尉、それでは」
小魔玉:「ただちに中山幸盛と宇喜多直家信者を呼ぶのだ。おのれ、蛮族め。目に物言わせて見せようぞ( ^∀^)ゲラゲラ 」
八戸のぶなが:「では、南匈奴を討伐すると 」
小魔玉:「聞くまでもないわ。しかし、南匈奴とは考えもせなんだ……む。南匈奴というと」
八戸のぶなが:「蔡文姫も囚われている地にございます」
小魔玉:「蔡文姫を手に入れたなら、宇喜多直家信者がオイラの元から去ってしまうではないか」


中山幸盛:「ご心配には及びません」
小魔玉:「中山幸盛、居たのか」
八戸のぶなが:「中山司空は、存在感が薄いですからな。人によっては『空気司空』とも。おっと、これは失言」
小魔玉:「まあ、あの陳羣と幼なじみという時点で空気は決定したようなもの。陳羣ほど強烈な男と並んで空気化しない
男もいないだろうよ( ^∀^)ゲラゲラ 」
中山幸盛:(ちくしょう……人様を空気、空気と散々貶しやがって)「ここは、宇喜多直家信者に恩を売るのです」
八戸のぶなが:(空気も空気なりに私の教えたセリフを暗記したようではないか。さあ、ここからがサーカスショーの
はじまりだ。ククク……愚民ども、どこまで私を楽しませてくれるかな)

 中山幸盛は自分が八戸のぶながに言われた通りのセリフを小魔玉に進言しました。



小魔玉:「( ^∀^)ゲラゲラ いやー中山幸盛も、なかなか知恵を付けたではないか」
中山幸盛:「恐れ入ります」
八戸のぶなが:「これは宇喜多直家信者先生」
宇喜多直家信者:「遅れまして申し訳ありません。坊ちゃまの勉強に少々」(中山幸盛、八戸のぶながの教えた
通りのセリフを言いよる……八戸のぶなが、奴の意図は何なのだろうか)
八戸のぶなが:「実は南匈奴討伐の話が出ておりましてな。宇喜多直家信者先生には討伐軍総大将をお引き受けいただきたい」
宇喜多直家信者:「一学者の私に蛮族を討伐せよとは、これは異なこと」
中山幸盛:「これは南匈奴討伐というのも表向きのこと。実際は大尉の奥方を奪還せしためのもの。総大将に貴殿を選んだのには
わけがある。わかるな」

 中山幸盛は宇喜多直家信者の耳元に、そっと囁き目配せしました。宇喜多直家信者は、何も発せず、いつもの
無表情な様子で小魔玉に向き直りました。

小魔玉:「お引き受けいただけますな?」
宇喜多直家信者:「ええ。私で宜しければ」
八戸のぶなが:「配下の者も好きに選んで良いそうです」
小魔玉:「望みの兵の数を述べよ。どうせ官軍だ。いくらでも徴兵してくれる( ^∀^)ゲラゲラ 」
宇喜多直家信者:「勝敗は地形に左右されるもの。半日ほどお時間をいただきたく存じます。
それと、蛮族の地では何かと怪しい呪いなどで将兵の士気が気に掛かります。ここは、洛陽一の
易者・八戸のぶなが殿を参謀の一人として加えさせていただきたいのですが」
小魔玉:「八戸のぶなががいなくなるとは寂しいものがあるが、まあ占術の修行と思い行ってくるが良い」



八戸のぶなが:「私が参謀など懼れ多い」
宇喜多直家信者:「いえ、私は是非、八戸のぶなが殿にお願いしたいのです」(ふん、古狸が。演技まで上手いときてる)

 こうして、物事は八戸のぶながの描いた通りに進み、中山幸盛は退出時に宇喜多直家信者に恩を売ることも
忘れませんでした。

 自宅へ帰るなり八戸のぶながは、先ほどの商人と文人を呼びつけ銀子を渡し労をねぎらいました。

八戸のぶなが:「よくぞ演じた。なな板住人もびっくりのなりきりぶりだ」
八戸でぶなが:「いえ、商人の役など私にとってみれば学芸会の木のようなもの」
八戸将軍:「自演民主党よ。永遠なれ」
陳Q:「我が文民党も応援しますぞ」
八戸将軍:「陳Q殿はなぜ我が自演民主党にお力添えを」
陳Q:「乱世にも詩歌を愛でる余裕はあるもの。むしろ乱世でしか書けぬ、詠えぬものも
あるのですよ」
八戸のぶなが:「観客は中華の民、蛮族はどう出るかな。宇喜多直家信者は、ただの学者。
蛮族に理論は通じまい。舌戦とも行かないだろう。さてさて、私は茶菓子でも持参するかな」
陳Q:「茶菓子は、いかほどまで」
八戸のぶなが:「子供の遠足ではないのだ。好きなだけ持参するが良い。しかし、楽しみで眠れないと
いう点では遠足に近いものはあるな」

 八戸のぶなが、中山幸盛、小魔玉、宇喜多直家信者。この四人、それぞれ、自分の描いた絵の通りに
事が進んでいると思い込んでいるようでございますが…果たしてそうなのでございましょうか。

 女カが中華の民を造ったその昔より、人間というものは進化していないものなのかもしれません。
 三戦英雄傳、つづきは、また次回。



三戦英雄傳


第三十八回~定襄の戦い・両軍の駆け引きが始まるとき策士は微笑む~



 さてさて、後漢の世はいよいよ物々しい様相になったようでございます。
 表向きは大尉・小魔玉の愛妻を南匈奴より取り返すため。しかし、小魔玉の愛妻はとうの昔に
小魔玉が永遠に自分のものとしてしまい、生まれ変わったと信じて疑わない妻の正体は晋国の
丁原というのですから。全くもって奇異複雑。歴史というものは下手な恐怖小説よりも恐ろしく、
猟奇事件よりもおどろおどろしいものでございます。


 小魔玉は、さっそく「黄巾賊に苦しめられている民草が蛮族にも虐げられております。まずは、
外の敵を根絶やしにすべきかと」などと小銀玉皇后へ進言し、霊帝も先の深い悲しみよりただ、
小銀玉皇后に頷くだけでございました。


 南匈奴征伐軍には民間よりの義勇軍と官軍、総勢七十万もの大軍で洛陽より北へ北へと出発しました。

ちなみに官軍の構成は

総指揮官:宇喜多直家信者
副官:李儒
参謀:八戸のぶなが
それぞれの軍を束ねる大将として

牛金
華雄
呂布

などそうそうたる大将が六百名、と正史『晋書』には記してあります。



 すこし変わった記述では、宮中に仕える宦官・ロコふるーちぇなる男も自ら願い出て
馳せ参じたということでございます。この男、どうも純情すぎて激しやすく、根が真面目でございました。

 ですから小魔玉の「後漢の民のために」という言葉にすっかり扇動され、名門ロコ家の私財を投じ
参軍したのでございました。

 『晋書』に果物キラーは、こう記しております。

 あの進軍速度は尋常なものではなかった。愛する女の為となると男という生き物は斯くも限界を超えた
力を発揮するのであろうか。ああ、俺もまた恋がしたいものだ、と。

 そして後漢の軍を迎え撃つは、

Eusebio Di Francescoという切れ者の総指揮官以下

一本眉毛
コ~ヒ~じゃ!!

などという荒くれ者ばかりでございました。



 当然、後漢の大軍がこちらに向かっているという知らせは南匈奴に入っており、両者は定襄にて対峙することになりました。

宇喜多直家信者:「李儒殿。恥ずかしながら私は蛮族の文化も言葉も詳しくない。貴殿は涼州のお生まれ。私よりは詳しいことでしょう。
敵総大将Eusebio Di Francescoとはいかなる人物でしょうか」
李儒:「Eusebio Di Francesco…はてはて、また懐かしい名前だ。宇喜多直家信者殿、敵総大将の名にお間違えはございませぬか」
宇喜多直家信者:「間者の報告では確かに」

李儒:「さもあらん。あのような変わった名は二人といないでしょうなあ。そして、あのような知恵者も」
宇喜多直家信者:「それほどまでの賢者だと」
李儒:「蛮族にも読み書きはおろか、孫子に負けず劣らずの兵法家もおるのですよ。Eusebio Di Francesco、あやつと
私は同じ私塾で学んだ者同士」
宇喜多直家信者:「李儒殿のご友人とな」
李儒:「フフフ…正確には腐れ縁というものでございましょうな。配下にいる猛将共は『天政会』と名乗り
馬を己の足の如く操り弓を左右どちらからも自在に射、三日三晩寝なくとも戦場で暴れ回る豪の者。この大軍でも勝てるかどうか」



呂布:「李儒殿、金品で何とかカタはつかないのか」
李儒:「いやあ、蛮族は金品など…貴公もおわかりでしょう。下手をすればEusebio Di Francescoの軍は
ここ定襄を越え、洛陽にまで進入し、都を焼け野原にするでしょうなあ」
牛金:「貴様、お義父上に申し訳ないと思わぬのか。これでは我々は負け戦をしにきたようなものではないか」
李儒:「負け戦が怖い方は、今すぐ洛陽にお帰り下され。宇喜多直家信者殿、あなたも」

 李儒は、己の肉気のない頬をさすりながら諸将を見渡しました。薄い唇は明らかに笑みを湛えておりました。

 荒野には砂塵と馬の嘶きが響き渡るだけでした。

 中華の策士と蛮族の策士、その勝負の行方やいかに。果たして、両軍はこのまま膠着状態を続けているつもりなのでしょうか。
何か策はあるのでしょうか。

 三戦英雄傳、続きは、また次回までのお楽しみ。



三戦英雄傳


第三十九回~宦官・ロコふるーちぇ、舌戦挑み裸単騎待ち~


 蛮族にも知恵者がいるという事実は官軍に大きな衝撃を与え、士気にも少なからず影響しているようでした。
李儒の様子に言葉を失った諸将の中、ただ一人真っ先に兜をかぶり幕舎を出て行こうとする者がおりました。
宦官・ロコふるーちぇであります。

ロコふるーちぇ:「貴様らそれでも後漢の臣か!! 俺には男根は付いていないが貴様らより後漢を、陛下を
愛している!! そして後漢の民は俺の弟であり妹だ。貴様らは自分の兄弟が危険な目に遭うかもしれんというのに、
ただ指をくわえて眺めているしか能が無いのか。馬鹿者め!!」

 ロコふるーちぇの発した「兄弟」という言葉が宇喜多直家信者の心に突き刺さりました。

宇喜多直家信者:(我が姉・蔡文姫を助けるためなら私は何でもしよう。戦で散るのも本望。だが、せめて
姉上の、いや蔡文姫のお顔を見てから死にたいものだ。……私は懼れているのか。死を?)
李儒:「ほほう。ロコふるーちぇ。男根を自ら切除したとは言え、お主も名門・ロコ一族の端くれ。策はあろうな?」
ロコふるーちぇ:「馬鹿! 策など無い。行動あるのみ。これがロコ一族の掟。俺の後漢へ対する愛の嵐は止まることを知らない」
呂布:「策も無し。誇る武力も無し。なんという猪武者」
牛金:「いや、馬鹿なのかもしれぬ」
華雄:「馬鹿という奴は自分が馬鹿という……あれは真か」
ロコふるーちぇ:「馬鹿! 俺は確かに武力も統率力も何も無い。あるのは後漢への愛だけだ。
そんな俺にもできる戦いはある。罵声による挑発だ!」
李儒:「挑発により、敵を頑強な要塞よりおびき出す、と?」
ロコふるーちぇ:「そうだ馬鹿!!」
李儒:「面白い。お手並み拝見と行きましょうか」



 ロコふるーちぇは卑怯な行為を憎み、また苦手とする男でもありました。この定襄の戦いに於けるロコふるーちぇの
無謀さが後の「洛陽の屈辱」事件を引き起こすとは当の本人はおろか、李儒でさえ予測しなかったことでしょう。
 歴史は振り返るから見えるものがあるのであって、我々後世の人間はただの観客人。しかし、当時の
人々には生か死か、非情な選択の連続でありました。

牛金:「ロコふるーちぇ殿、何を!!」

 ロコふるーちぇはやおら甲冑を脱ぎ始め、全裸に兜のみというあられもない姿になりました。

ロコふるーちぇ:「俺は卑怯な真似は好かん!! 譬え戦でも防具を着けるのは俺の信念に反するのだ。
だが、罵声内容を考える頭だけは保護せねばならんのだ。馬鹿!!」
呂布:「せめて股間だけでも隠して行け」

 呂布はロコふるーちぇへ己の旗を切り裂き、渡してやりました。しかし、ロコふるーちぇはそれを地面へ叩きつけ
素足でダンダンと踏みました。

呂布:「人の好意を! 何をする!!」
ロコふるーちぇ:「頼んだ覚えは無い!! 俺の体は両親から授かったもの。俺は心も体も穢れてはいない。なんで恥ずべき
ことがあろうか!!」

 ロコふるーちぇに反論しようと試みる者は誰一人おりませんでした。
 もはやロコふるーちぇに懼れるものは何もありませんでした。彼は素足で定襄の乾いた土を踏みしめ、ただ一人
敵陣へと歩き出しました。



南匈奴軍物見:「ややっ!! 何やら不審な男がこちらに向かっております」
コ~ヒ~じゃ!!:「敵は何人じゃ?」
南匈奴軍物見:「一人にございます」
コ~ヒ~じゃ!!:「一人じゃと。我が軍も随分と嘗められたものじゃなあ。どれ」

 コ~ヒ~じゃ!!が物見の指す方角を見やると、全裸の男? が頭に兜のみ身につけ、肩で風を切ってこちらに
のっしのっしと向かっているではありませんか。これにはさすがのコ~ヒ~じゃ!!も動揺しました。

コ~ヒ~じゃ!!:「ぐ、軍師殿、ワイは目がおかしいんじゃろうか? それとも、あれは馬鹿には見えぬ服の
姉妹品で猛将には見えぬ甲冑か何かなのじゃろうか。全裸の男がこっちに向かっておるのじゃが」
Eusebio Di Francesco:「あれは、名門・ロコ家のロコふるーちぇ。敵軍副官は我が旧友・李儒……
はて、李儒は狡猾だが礼を知らぬ男ではない。毒薬か宝刀か選ばせるくらいの礼は知っているはず。
反面、ロコふるーちぇは頭に血が上りやすいことで知られる宦官。これは奴一人の暴走でしょう。
捨てておきなさい」

 南匈奴軍要塞には中華とは違う異様な色彩の旗が靡いております。要塞の向こうからはロコふるーちぇが未だ
耳にしたことの無い大勢の荒くれ者どもの息づかいが聞こえてくるようです。それでも、ロコふるーちぇは
己の考えられる罵倒で敵挑発を試みました。

ロコふるーちぇ:「この低収入!! 文字も読めない野蛮人が!! 要塞に閉じこもって引きこもりの練習か!!
こら、出てきて戦え!!」

 ロコふるーちぇは懸命に戦いました。それは孤独な戦いであり、彼の罵声は翌朝まで続きました。
 南匈奴の兵士にとってロコふるーちぇの罵声は痛くもかゆくも無いものでした。なぜなら、そこは
お国柄の違いで南匈奴人は収入が低かろうが文字が読めなかろうが卑怯だと言われようが「生きて勝ち続ければ良い」のでした。
 しかし、さすがに一晩も罵られたので兵士の一部は軽く不眠を患いイライラしておりました。



ロコふるーちぇ:「この粗○○野郎!! 馬鹿!!」

 この一言が不眠でイライラの募った一部兵士の何かを突き動かしました。

南匈奴兵1:「軍師殿、あんな宦官捕らえて焼き肉にしちゃいましょうぜ!!」
南匈奴兵2:「頭蓋骨で酒飲んじゃいましょう!!」
南匈奴兵3:「ここは私に出陣の許可を!! あんな宦官素手でひねり殺してやりまさあ!!」
Eusebio Di Francesco:「ふむ。我々匈奴の人間は三大欲求に忠実な生き物。君らも
睡眠を妨げられ、頭に来ているのだろう。ここは私があちらにお礼の品物を送るから、それで
心を静めてはくれないだろうか」

 Eusebio Di Francescoは、部下に一つの衣装箱を持ってこさせ「これをあちらの幕舎へ」とだけ言いました。
南匈奴の兵はまだ怒りが治まらないようでしたが、切れ者Eusebio Di Francescoの策だというので
おとなしくなりました。

 さて、このEusebio Di Francescoが官軍に送った品物の中身とは何なのでしょうか。
 三戦英雄傳、続きはまた次回。

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最終更新:2008年07月25日 04:29