第33話まで

三戦英雄傳


第三十一回~丁原、病に倒れる~


 姓はロコ、名はふるーちぇ、字は不明。都・洛陽の生まれで代々高級官吏を生み出してきた名門・
ロコ一族の者にして霊帝と●習院の御学友であった。元の名を音速の667と言う。(中略)

 音速の667は、異国の茶に対するこだわりが強く、『魔李阿ー寿・府零ー流』という店の
茶葉しか認めなかったが、如何せん、小僧の教育がなっていなかった。音速の667は、店の
小僧の態度に怒りを覚えつつ、店に通うこと数年、ある日所望しない茶葉を強引に勧める小僧に
腹を立て斬り殺してしまった。

 生まれて初めての殺人に音速の667は、罪の意識に懼れ戦きながらも、名門の自分が犯した
殺人という図式に酔っていた。彼は己の存在を他の追随を許さぬ破格のものとするために、ロコ一族の名を天下に
知らせしめるために、『後漢王朝』『光武帝』『霊帝』と竹簡に書いた己のネタ本を引きずり出し、
最後の自慰行為に耽ると半刻で6回ほど放出し、自ら己に宮刑を科した。ロコふるーちぇは早漏で
あった。彼は出血多量で遠のく意識の中、街頭に出ると己の新しい名を往来の人々に求めた。
 人々の好意と悪意により音速の667は『ロコふるーちぇ』という名を得た。

 後の世に「ロコふるーちぇは女性」説が流れたのは、単に「名門の子弟が宦官になるはずなど無い」と
いう歴史好きによる願望の具現だとも言われている。ロコ一族の名は確かに後漢全土に広がった。
 だが、それは栄誉のものではなかった。形はどうであれ、ロコふるーちぇの願いは叶ったわけである。

~正史『晋史』宦官 ロコふるーちぇ傅より~


 「徽皇子死す」の知らせを聞いた二人の者は、それぞれ
――そうか。
――アゥアウ。
と感想を口にしました。



 前者は晋国の軍師・丁原、後者は霊帝の長子・弁皇子でございます。

 弁皇子へ弟である徽皇子の死を伝えたのは、陳羣と一人の宦官でありました。

ロコふるーちぇ:「おお、なんとおいたわしや!! 弁皇子はかようなお姿に、
徽皇子は夭折、残るは協皇子のみ。いったい、後漢の未来はどうなってしまうのか」
陳羣:(名門・ロコ一族の栄華も昔のことよ…一族の男子を宦官にするとは。それとも、これも
ロコ一族の策略か…? 古来より権力闘争の鍵を握る後宮に唯一出入りできるのは宦官のみであるからな。
考え過ぎか)

 陳羣は傍らで激し、涙を流すロコふるーちぇに冷ややかな眼差しを向けておりました。このロコ
ふるーちぇ、元より一途と言いますか、狂信的と言いますか、恐ろしいものを秘めた男でありました。

 「俺は妻など要らぬ!! 俺は大漢(漢王朝)と婚姻する!! 俺は国家とのみ性交渉をする童貞三公になる!!」と
公言して憚らなかったロコふるーちぇ。暴走した彼は、固い信念の元、自慰行為に於いても後漢王朝の栄光のみを
妄想し、童貞の身のまま宦官になったのでありました。

ロコふるーちぇ:「皇子、弁皇子。弟君が、徽皇子がお隠れあそばしたのですぞ!!」
弁皇子:「だあだぁ」
ロコふるーちぇ:「せめて、せめてこの洛陽に袁紹か丁原、どちらか一人でもおれば。ああ、宦官のこの身が恨めしい!!」
弁皇子:「あばばばば」
ロコふるーちぇ:「陳長文殿は、この状態を何とも思わぬのか!! 貴公、それでも名門・陳家の者か!!」
陳羣:(ほお、ロコ一族とはいえ、宦官もこの私に敬語を使わぬとは随分と偉くなったものだな)



 陳羣は、予想していた言葉を耳にすると、充血さえ見せぬ澄んだ瞳を涙で潤ませロコふえるーちぇを見つめました。

ロコふるーちぇ:(どきっ! お、俺様は男色ではないぞ。馬鹿)

 異性経験も同性経験も無いロコふるーちぇは陳羣の見せたなよなよとした女性らしい表情に劣情を覚え、狼狽しました。

陳羣:「あまりにも悲しく恐れ多いことなので、涙さえ怖気を奮って流れないのでございます」
ロコふるーちぇ:「そ、そうか。それは悪いことをした」

 このロコふるーちぇと陳羣の遣り取りは、二人の性格を良く表すエピソードとして『世説新語』に収められております。

陳羣:(袁紹に丁原ねぇ。私の相国の座を暖めているだけの雌鳥をねぇ。丁原は雲隠れしたままだが、どうしたものか)

 陳羣は同じ名門として袁紹に軽い嫉妬を覚えつつ、忠義の士・丁原の行方を案じておりました。
 どうやら、陳羣は己の認めたものしか人間として扱わぬ人種のようでございます。

 同じ頃、丁原より知らせを受けた晋国では天地を揺るがすほどの動揺に揺れておりました。



袁術:「なんと、それは真か!!」
丁原:「はっ、間者より仕入れた確かな情報にございます」
袁紹:「なんと…なんという…龍が淵に潜むのは何のため。我らがこうして晋国で政治を行うのは
徒に惰眠を貪るために非ず。全て、後漢に、徽皇子に期待してのことだったというに」

 元より予想していたこととはいえ、やはり気持ちの区切りがつかなかったのでしょう。
袁紹は気落ちしたのか、崩れ落ちるように椅子に座りました。

曹操:「長子の弁皇子は未だご病状が思わしくないようだ」
奇矯屋onぷらっと:「暗愚な皇帝、蛇蝎の如き宦官、妲己の生まれ変わりの如き皇后…いったい後漢は
これからどうなってしまうのだ」
袁術:「いっそ、兄上が新しい皇帝となられては」

 袁術が袁紹に帝位に就くよう、言葉を漏らしました。
 袁術の言葉に一同は息を飲みました。

荀攸:(誰もが一度は考えたことのある、口にすることを憚ってきた言葉。いとも簡単に
口にできるのは、名門育ちゆえの鈍感さか)
奇矯屋onぷらっと:(袁紹殿が帝位に就くつもりなら、この武にて全力で支えるのみ)
曹操:(本初、お前も代々漢の禄を食んできた身。漢朝に反旗を翻すのか?)
曹洪:(新通貨に宮殿の建築、巨額の金が動くな。商人にとっては戦乱こそが大きな商売を
生み出すものよ)



袁術:「兄上! ご決断を」
袁紹:「ならぬ」

 一同の昂揚する気持ちを抑えたのは袁紹の一喝でございました。

 袁紹の言葉に、丁原が「ぱちぱち」とゆっくりとした調子で拍手をしました。
 丁原の義手から洩れる拍手は、まるで何かの演奏のようでございます。

丁原:「それでこそ殿。今、ここで皇帝を僭称しては我らが討伐される身となります。
大義名分を無くした集団はただの暴徒でございます。ゆめゆめお忘れ無きよう」
袁術:「そうだな…済まなかった。これからも、暴走しそうになったら叱ってくれ」

 言葉の代わりに丁原は袁術に微笑みました。丁原が袁紹に何か伝えようと口を開くと

丁原:「うっ」
袁術:「軍師殿!! いかがされた!!」
袁紹:「軍師、どうされた」
丁原:「し、失礼」

 丁原は真っ青な顔で口元を抑え、厠の方へと消えました。



袁術:「何か悪いものでも食べたのだろうか」
袁紹:「夏は食べ物が傷みやすいからのお」
荀攸:(あの尋常では無い様子……胃の病の前兆だな。いや、もう長くは無いかもしれぬ
……丁原が亡くなっても晋国は今の状態を保てるか……)
曹操:「軍師殿は大丈夫であろうか。そういえば、こういった話が大好物の果物キラーの姿が見えぬな」
曹洪:「このところ、姿を見かけませぬ」
ひょーりみ:「また袁家十人衆の職務であろうか」
曹操:「近頃の果物キラーの動きはわからぬのお」

 人々が丁原の容態と果物キラーの行方を詮索していると宮女の悲鳴が聞こえました。

宮女:「きゃぁああああああああ!!! 軍師様!! しっかりなさって下さい!!」
曹操:「何事じゃ!!」
中常侍うんこ:「軍師殿が廊下にて倒れておられる」
曹操:「倒れた、じゃと」
荀攸:(病とは、人目を避けて進行するもの。もはや手遅れか)
曹操:「医者だ! 医師を呼べい!!」

 さてさて、晋国にも混乱が生じたようでございます。
時代は乱世、乱れるのは世情と人心だけではないようでございます。

 三戦英雄傳、気になる続きは、また、次回。



三戦英雄傳


第三十二回~明かされる病の名~


 丁原が病に倒れた頃、晋国で安否を噂されていた果物キラーは成都におりました。
 この物語の中で成都がどのような都市であったか、皆様覚えておいででしょうか。
そう、黄巾賊の総本部のある都市でございます。

黄巾賊1:「止まれ、何やつ。名を名乗れ」
果物キラー:「私は、都・洛陽の馬商人、呂不韋と申す者。聖天使ザビエル様にお目通り願いたい」
黄巾賊2:「呂不韋、とな。はて、どこかで聞いたことのある名だが……」
果物キラー:「我が呂家は、都では名の知れた商人の家。遙か成都まで名が知れているとは
光栄でございます」
黄巾賊1:「おう、そうか。都で名の知れた商人とあらば教祖に会わせなくては失礼というもの。
参られよ」
果物キラー:「はっ」(咄嗟に呂不韋の名を使ったが、ここの奴らが無学で助かった)

 どうやら、果物キラーは馬商人に身を変え、聖天使ザビエルに面会をするつもりのようです。
これは、袁家十人衆の役目なのでしょうか。はたまた、果物キラー単独の行動なのでしょうか。
徽皇子の件以来、丁原と果物キラーはお互い相容れぬようでございましたが。

 果物キラーが黄巾賊1の案内のままに歩いて行くと、何やら騒がしい声が聞こえてまいりました。



聖天使ザビエル:「あはははは-、彼女いるってこんなに楽しいとは思わなかったー∬》´_ゝ`》つ†」
聖天使ザビエルの彼女:「もう、ザビ君たらっ」
聖天使ザビエル:「もう毎日書簡送りまくりー∬》´_ゝ`》つ†」
聖天使ザビエルの彼女:「一緒に住んでるんだし、話せばいいのに」
聖天使ザビエル:「恋人同士らしく書簡の遣り取りがしたいんだよ∬》´_ゝ`》つ†」

黄巾賊1:「こちらでこざいます」
果物キラー:(これが、聖天使ザビエル。後漢に反旗を翻した黄巾賊の首領か。先が、見えたか)
聖天使ザビエル:「あ、君はいつぞや金子とか兵糧とか援助してくれた商人だよね。ええと∬》´_ゝ`》つ†」
果物キラー:「呂不韋にございます」
聖天使ザビエル:「ああ、そうだった。今日も何かくれるの?∬》´_ゝ`》つ†」
果物キラー:「はっ。聖天使ザビエル様のため、本日は軍馬を」
聖天使ザビエル:「いつも悪いね! ゆっくりしていってね∬》´_ゝ`》つ†」
果物キラー:「はっ、ありがたき幸せ」

 なんということでしょう。果物キラーは、よりによって、黄巾賊へ金品の援助していたようです。
 いったい、この行動、晋国は把握している事項なのでしょうか。



 一方、晋国では病の床についた丁原が人払いをした後に、袁術を呼び寄せていました。

丁原:「無理なお願いをしたようで」
袁術:「なに、たった一言で皆の鬱憤が晴れるならいくらでも道化役を引き受けましょう」
丁原:「我が殿を皇帝に擁立せんとする動きには薄々気づいておりましたが、今は
時期尚早。かと言え、誰かが口にし、殿が諫めなくては前に進みませぬ。
そこで殿の弟君のお頭に芝居をお願いした次第」
袁術:「はっはっは。軍師殿は、まこと気の回ること風の如しじゃの。…顔色が、良くなったようだ」

 袁術は、丁原の顔色を確かめるように、まじまじと顔を見つめました。

丁原:「気休めは止して下さい。自分の体のこと。私が一番わかっております」
袁術:「ほお。そうか。軍師殿は医学にも造詣が深かったとはな。これは意外。では、ご自分の
病名を何と考えておられるのか」
丁原:「恐らく胃の病でありましょう。酷い吐き気で飯も喉を通らず……人間食べることができなくなれば
先は見えたもの。私は、そうして何人もの人間が亡くなるのを見て参りました。私も、もう長くは
無いのでしょう?」

 丁原は、諦めと期待を込めた眼差しで袁術の顔を覗き込みました。袁術は、丁原と目が合うと、
天井を仰ぎ、飾り窓の向こう側へ目を遣りました



袁術:「丁原殿。やはり、医術のことは医師にしかわからぬものですな」
丁原:「…どういうことでございましょう」
袁術:「どうか、お気を確かに聞いて下され」

 袁術は、丁原の華奢な肩を支えるように抱き、自ら確認するかのように言いました。

袁術:「医師の見立てでは、貴殿は懐妊されたと」
丁原:「え」
袁術:「四月を迎える頃であろうと。脈の様子やら、さまざまな見立てで出た結果じゃ。
吐き気も悪阻というものであろう」

 丁原は、血の気のない唇を震わせながら、呟きました。

丁原:「かい…にん……私が身ごもったと。私は、男。男の私が懐妊など……」
袁術:「医師は、貴公を本物の女性だと思い込んでいた。なるほど豊かな乳房があり、
顔など美女そのものだ。それに兆候はあったはず。月のものもあり、吐き気の他に
乳房が張り……」

 袁術の言葉に丁原の顔色はますます青ざめてゆきます。


丁原:「私があの男の種を? 後漢を蔑ろにするあの逆賊の汚らわしい種を? 私が……」
袁術:「男を女にするとは、小魔玉の医術は、まさに神の領域にまで達したのだ」
丁原:「いやああぁああああああああああああああ!!!!」
袁術:「丁原殿!!」

 丁原は、突如立ち上がり病人とは思えぬ勢いで走り出し、幾度となく卓の角へ腹をぶつけました。

丁原:「私は穢れてなどいない! 穢されてなどいない!! 懐妊などしていない!!」
袁術:「何をなさる!!」

 袁術は、丁原へ平手打ちをし、丁原は床へ倒れ込みました。

丁原:「穢れてなどいない。穢されてなどいない……」
袁術:「宿った子には罪は無い。どんな人間でもその子には、たった一人の父親であり母親なのだ。
堕ろすこともできようが、後悔してからでは遅い。よく、考え養生ずることだ」

 袁術は丁原に上着を掛けてやると、両手を打ち、侍女を呼びました。

袁術:「これ、軍師殿はご病状が思わしくない。お前たちでよく見るように。何かあれば、すぐに
知らせるように」

 丁原は、ただ、涙を流すだけでした。それは、悔し涙なのか、はたまた、想定外に己の腹に宿った
我が子への謝罪の涙なのか、丁原にもわかりませんでした。

 さてさて、物語はどうなってしまうのでしょうか。丁原の腹の子は無事、生まれるのでしょうか。
三戦英雄傳、気になる続きは、また、次回のお楽しみ。



三戦英雄傳


第三十三回~陳羣の謀略~



 晋国では、丁原が望まぬ懐妊を知った頃、洛陽ではどのような動きがあったのでしょうか。

 永安二年八月二十五日、都・洛陽にある陳家の屋敷に多くの人間が集まりました。
集まった者は、それぞれ老若男女肌の色も髪型も違う者ばかり。年長の男女が少女を
連れてきております。数人の男女は少女たちの親なのでしょうか。それとも。
 ただ言えるのは親と思しき大人たちの放つ目の光が、共通して鋭いことでございました。
集団の中に一人の青年がやってきました。美しい手、滑らかな肌。皆様覚えておいででしょうか。
潁川を国を代表する名家・陳家の陳羣でございます。

男1:「おお、坊ちゃま」
女1:「坊ちゃまお久しゅうございます。此度の商談は、是非、私のところで」

 女は長い爪の生えた指で、陳羣の手に触れ、笑いかけました。陳羣は、怒るでもなく、
喜ぶでもなく人形のような顔を女に向けただけでした。
 どうやら、この集団、商人のようでございます。集められた少女たちは商品なのでしょうか。
差し詰め奴隷商というところなのでしょうか。

女2:「ちょっと、アンタ汚いわよ。何色気使って商売に使おうってぇの」
女1:「へぇ、色気の無い女には使えないものね。色気があって、悪かったわね」
女2:「何さ!」
男2:「おい、やめんか。坊ちゃまの前で見苦しい」



 男2の声に二人の女は、はっとした様子で互いの胸ぐらを掴んでいた手を離しました。

まあc:「おお、羣や。十年前だったかのお。お前が奴隷商たちに『未来の西施』を依頼したのは。
しかし、今やお前も妻子を持つ身。今更妻を所望するわけでもあるまいて。妾か、の」
陳羣:「お祖父様は相変わらず知者でありながら鈍感のフリをなさるのがお好きなこと。私は
妻以外の女に金も暇も割かれるのは嫌なのでございます。妾など」
まあc:「ふぉっふぉっふぉっ」
陳羣:「まあ、良い。ところで私はお前たちに大金を払い、十年もの猶予を与えた。それなりの
成果物はあるのであろうな」

 陳羣の声に、奴隷商たちはばっと平伏し、一同「はっ」と返答をしました。

陳羣:「それでは一人ずつ見せてもらおうか。悪いが私の目に叶わぬ者、選ばれた一人以外は
後顧の憂いを絶つためにも死んでもらうが、異存は無いな?」
男1:「勿論でございますとも」
女3:「元はこれらも、坊ちゃまの、陳家のご支援があればこそ、この年まで生きてあまつさえ
身分不相応な教育まで受け、綺麗な着物まで着て生きてこれたのです。なんで怨みましょう」
陳羣:「私は十年前、ある目的の下、国中で名妓と名高い美女の生んだ女児たちを親に掛け合い
譲ってもらった。それが、そなたたちとそなたたちの子。やはり美女の娘は美女になるのであろうと
思ったのだが」
男3:「勿論でございます。うちの女房に似てうちの娘は間違いなく城を傾けさせるほどの
美女にはなりますぜ」
陳羣:「城をね……」



 陳羣の前で少女たちの父親が、母親が次々と自分たちの娘の美貌と教養を自慢し、
娘に一芸を披露させます。ある娘は詩歌を、ある娘は踊りを、ある娘は潁川の歌を
披露しました。
 皆、漢民族の女性美を秘めた手足の細い娘ばかりでした。全部で二十人ほどでしょうか。
 誰もが「自分が選ばれる」と信じて疑わない自信に溢れた顔をしておりました。

 陳羣は少女たちの貌を、芸を弓で獲物を射るような鋭い視線で眺めておりました。
 やがて、一人の少女の番になりました。少女の瞳は新緑のような深い碧色をしており、
髪は馬の毛のように栗色でした。背は低く、少々、肥えておりました。

陳羣:「混血か」
男4:「はっ。これなるは春梅と申す娘。異国の血が入っております故、少々脂が
乗りすぎておりますが、得も言われぬ体臭がたまらないと申す者もおります」
陳羣:「異国の血を引く娘……よし、決めた。此度の商談、この春梅に決めた。
後の者は始末せい」

 陳羣の一声に他の少女たちの悲鳴、奴隷商たちの嘆き、さまざまな声が
陳家の庭に響き、庭土には吸収しきれない十数名の少女の血が大雨の
後の水たまりのように赤くてらてらと光っておりました。



男4:「坊ちゃま、うちの春梅をお選びいただき、ありがとうございます」

 男4の礼に陳羣は、ただ軽く笑みを見せただけでした。白い歯が見える程度でした。

男4:「坊ちゃまは、周公旦にでもなるおつもりで?」

 陳羣は、男の問いには答えず、左右の下男に向かい言いました。

陳羣:「言い忘れていた。春梅以外の者も始末しなさい。余計な知恵のある者は困る」
男4:「ま、待ってくれ。坊ちゃま、お情けを!!」

 奴隷商たちは弁解をする間も与えられず、陳家の刀の露と消えました。

まあc:「ふぉっふぉっ、儂も知らぬふりをする方が良いのかのお。我が孫ながら
怖い怖い」
陳羣:「何を仰います。お祖父様。私たち清流の時代は、まだまだこれからではありませんか」

 陳羣は、祖父の顔を見やり初めて笑いました。さてさて、十年も前から陳羣は
何やら計画を立てていた様子。陳羣の計画とは。謎の少女・春梅の運命は。

 三戦英雄傳、続きはまた次回。

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最終更新:2008年07月25日 03:41