第27話まで

三戦英雄傅


第二十五回~禍為す女性は誰なのか。丁原の失踪が新たな禍を国に齎す~



 女禍益々盛んなり。哀れむ可。
(女性による(国家へ与える)禍は益々盛んになっていった。哀れむべきである)

~正史『晋史』小魔玉傅より~

 栄安二年六月。曹操、学徒出陣、無双ファンが丁原を連れ帰った翌日、小魔玉邸は
蜂の巣をつついたような大騒ぎになっておりました。
 まず、異変に気が付いたのは小魔玉でございました。

小魔玉:「イタタ…昨日は呑みすぎたかな…。山崎の十八年物が手に入ったんでな。
それから袁紹が持ってきた久保田の万壽を呑んで、ムコーニンの作ったカクテルを呑んで
…やはりチャンポンは良くないな( ^∀^)ゲラゲラって、媚嬢、待たせたね。朝食の時間だよ。
今朝も口移しでオイラが食べさせてあげるからね( ^∀^)ゲラゲラ」

 小魔玉が愛妻の待つ甕を覗き込むと、いるはずの媚嬢はおりません。
小魔玉:「媚嬢、媚嬢。どこに行ったのかな? 這って逃げたのかな。
オイラとかくれんぼする気かい?よーし、負けないぞ( ^∀^)ゲラゲラ」

 小魔玉は当初、愛妻が臍を曲げて隠れていると思い込み、寝台の下から箪笥の中まで探し出しました。
しかし、愛する媚嬢は見つかりませんでした。小魔玉は激しく狼狽し、早急に手下の者を
集めました。



ムコーニン:「おいおい、なんだよ。俺は二日酔いで頭が痛ぇんだよ」
中山幸盛:「何事ですか。大尉」
リンリン大友:「どうしたの? パパ」
宇喜多直家信者:「……」
小魔玉:「媚嬢が、オイラの媚嬢がまた失踪した! お前たち、知らぬか?」
ムコーニン:「おいおい、勘弁してくれよ。自分の嫁の管理もできねーのか。おめーは」
中山幸盛:「奥方と最後にお会いになったのは、いつでございますか?」
小魔玉:「うむ。確か昨夜の宴会の前に夕食を食べさせた時にはいたのだが」
中山幸盛:「すると、宴会最中か、宴会後に失踪されたということですな」
ムコーニン:「ばっかじゃねーの。お前ら、現場を徹底して探せよ。それに犯人は
現場に戻ってくるっていうじゃねーか。探させろよ」


 こうしてムコーニンの一言により、媚嬢(丁原)の部屋が五十人体制で捜索されました。
宇喜多直家信者:「何が手がかりになるかわからぬゆえ、抜かりの無いよう」
ムコーニン:「早くしろよ」
リンリン大友:「うぇぇええええええん。ママ、ママぁああああああ!!!」
 現場はムコーニンと中山幸盛と宇喜多直家信者の指揮により統括されましたが、
皆、大尉・小魔玉の逆鱗に触れるのを恐れ、なかなか思うように動くことができませんでした。

 時を同じくして晋国の領土では、丁原を囲み、臣下一同今後の策を練っておりました。
元は男とはいえ、後漢の大尉の妻を誘拐したのですから、事は穏やかではありません。



袁紹:「漢の忠臣・丁原殿を見捨てるわけにも行かぬ。が、曹操に学徒、お前たちは
また晋国に争いの火種を齎すのか」
 袁紹は、眼光を鋭くし、曹操と学徒出陣を詰問しようとしました。袁紹の額には
汗が噴いていました。嫌な汗をかいていたのは、袁紹だけではありませんでした。
晋国臣下一同、晋国と後漢の今後を憂い、何か策は無いものかと頭ばかり回転
させておりました。

果物キラー:(今度は人妻を略奪とな。我が息子は人妻好きだったのか!)
袁術:「無双ファン、お前ももう子供ではあるまい。此度の件が、我が国に何を
齎すかくらいはわかるであろう?」
丁原:「この丁原、自分の尻拭いを人に任せるほど落ちぶれてはおりませぬ」
袁紹:「ほお、軍師殿に策がある、と?」
丁原:「はい。もう、既に種は蒔いてありますゆえ、後はなるように待つだけ」
曹操:「向こうから動いてくれるということか」
丁原:「ええ」
 丁原の体は義足と義手により、以前のような体に戻っておりました。
たった一晩で義手と義足を作り出す、やはり袁家の財力と権力は
他者の追随を許さぬものがございました。

 しかし、天というものは有能な人物には安らぎを許さぬもの。
小魔玉邸では、丁原の置き土産たる陰謀がまさに今、発動しようとしているのでございました。



小魔玉:「ええい!! まだ見つからぬか!! 髪の一本、陰毛の一本くらいは
落ちていよう!!」
手下1:「それが、奥方様の髪の一本も見つからぬ次第でして」
小魔玉:「髪の一本も残さずに消えるとは……もしや、オイラは媚嬢に嫌われていたのか( ^∀^)ゲラゲラ」

 小魔玉は( ^∀^)ゲラゲラと言いながら、寂しそうに笑いました。
小魔玉:(媚嬢…どうしてなんだい。オイラとは子供の頃から仲むつまじく育った仲じゃないか……)
 小魔玉と媚嬢は幼馴染でございました。媚嬢の父親の加ト清正は、定職に就こうとしない
小魔玉に向かい「娘が欲しかったら、何か職に就くことじゃな」と諦めさせようとしました。
 ところが、小魔玉は媚嬢と所帯を持たんが為に、国で一番の名医と言われる吉平に師事し、
全国で過酷な修行に励み、見事医師となることができたのでございます。
 小魔玉が医師となり、現在の大尉の地位があるのは偏に愛する媚嬢への思いだけでございました。

小魔玉:「そうじゃ、実家に帰ってるかもしれん。息子よ、ママの実家にママを迎えに行ってきてくれないか」
リンリン大友:「うん。わかったよ。パパ」
 リンリン大友は小魔玉の命を受け、母親の実家たる加ト清正の屋敷へと向かいました。
加ト清正の邸宅は、もとは小魔玉の故郷と同じ南海にありましたが、娘婿の小魔玉の栄達に
伴い、洛陽の都に豪邸を建ててもらっておりました。

ととのえ老臣:「まあ、リンリンちゃん。すっかり大きくなって」
リンリン大友:「お祖母ちゃん、久しぶり! 今日はね、ママを探しに来たんだ」
ととのえ老臣:「ママって、媚嬢がどうかしたの?」

 ととのえ老臣は、媚嬢の母であり、リンリン大友の祖母でありました。
娘の媚嬢が玉の輿に乗ったので、ととのえ老臣は小魔玉の財産を食いつぶす
勢いで浪費に励んでおりました。彼女は、洛陽のあらゆる衣装や宝石を
買い占めんとばかりに全て小魔玉請求で買い物をしておりました。



ととのえ老臣:(死んだはずの媚嬢が生き返ったと聞いたから、また買い物天国に
浸かっていたのに……媚嬢がいなくなったら、また元の地味な生活に逆戻りだわ。
小魔玉にも、媚嬢にももっと稼いでもらわなきゃね。私の為に)
リンリン大友:「お祖母ちゃん、ママは知らない? 来ていない?」
ととのえ老臣:「リンリンちゃん、ちょっと待っててね。北浦和名物の餃子でも
食べて待っててね」

 ととのえ老臣は、孫に優しく微笑むと、転げる勢いで夫・加ト清正の下に
向かいました。

ととのえ老臣:「あなた、あなたぁ! 大変よぉ!!」
加ト清正:「なんじゃ、騒々しい」
ととのえ老臣:「媚嬢が、私たちの媚嬢がまたいなくなったらしいのよぉ」
加ト清正:「なんじゃと!?」
 加ト清正は目の前で慌てふためく妻を見ながら、「どうせお前が恐れているのは
請求書の山であろうが」と心の中で毒づいていました。加ト清正は長年連れ添った
妻でしたが、ととのえ老臣の浪費癖にはほとほと手を焼いておりました。

「変えられる事は、変える努力をしましょう。
変えられない事は、そのまま受け入れましょう。
起きてしまった事を嘆いているよりも、これから出来る事をみんなで一緒に考えましょう」が
モットーの加ト清正ですが、妻の浪費は『変えられない事』という結論に達しておりました。



 しかし、それにしても心配なのは愛娘の媚嬢の安否です。父親は娘を溺愛すると言います。
加ト清正も、そんな親馬鹿の一人でございました。加ト清正は己の浪費により妻が廓に売られようと
知ったことではありませんでしたが、媚嬢のことが心配でなりませんでした。

加ト清正:「だから、あやつとの結婚には反対じゃったんじゃ。媚嬢は結婚なんかせんで
良かったんじゃ。お前」
ととのえ老臣:「はい、あなた」
加ト清正:「取り乱したりはせず、リンリンは無事に帰らせることじゃ。孫もいる今となっては
詮無きこと。媚嬢が小魔玉の嫁になったのも今生の縁じゃろうて」

 ととのえ老臣は、夫の言葉に忠実に従い、リンリン大友は餃子で腹を膨らませながら帰宅しました。

リンリン大友:「ただいまあ。ママはいなかったよって、あれ、皆どうしたの?」
 見ると父親の小魔玉が中山幸盛とムコーニンを恐ろしい形相で睨みつけております。
リンリン大友が餃子を食している頃、小魔玉の手下が媚嬢の部屋から一本の男物の帯と
一枚の巾(髪を結ぶ布)を発見したのです。
 帯の所有者はムコーニンで、巾の所有者は中山幸盛でございました。

小魔玉:「なぜ、オイラの媚嬢の部屋にお前たちの帯と巾があるんだ?
帯を外す、巾を外すということはどういうことか説明してもらおうか?」
ムコーニン:「なんだよ、俺を疑うのかよ。それは誤解だぜ。洗濯して干していたら
無かったから無くしたと思っていた帯なんだ。それ」
中山幸盛:「大尉、誤解にございます」
小魔玉:「ほお、この状況下でこの証拠でどんな誤解があるというんだ? お前たち、
もしやオイラの媚嬢に懸想し、媚嬢をいずこかに隠しているのではあるまいな」
中山幸盛:「そ、そんな滅相もない!!」
リンリン大友:「ぶぇえええええん。ママを返してよおおおお!!」



 かつて『攻めのムコーニン、守りの中山』と呼ばれた小魔玉の知恵袋は
何者かも策略により窮地に立たされました。この謀略の創造主こそ、
丁原でございました。

ムコーニン:「そ、そうだ、大尉、中山幸盛って独りもんだろ? 俺は妾も
五人いるけど、疑うなら中山幸盛を疑うのが筋ってもんじゃないか?」
 機を見るに敏なムコーニンは真っ先に矛先を、己から変える為、
罪を中山幸盛に着せようとしました。
リンリン大友:「ひどい!! ママを返せ!!」
中山幸盛:「誤解にございます!!」(くっ、ムコーニン、そうきたか)

 中山幸盛は弁解したものの、中山幸盛とムコーニンはお互いを
犯人ではないかと疑っておりました。

中山幸盛:「そう言えば、ムコーニン。お主先ほど『犯人は現場に
帰って来る』と申したな。自分で証明されたのか?」
ムコーニン:「なにを!?」



 ムコーニンは自分に跳ね返ってきた疑惑を逸らそうと知略の限りを
尽くそうとしました。ムコーニンの目に入ったのは八戸のぶながでありました。

ムコーニン:「そうだ、そこにいる八戸、大尉の禄を食みながら
何の働きもしていないじゃねーか。占い師なんだろ? FBI捜査官みたいに
大尉の奥方失踪の真相を占ってみろよ。お前の力が本当なら、な」
八戸のぶなが:「なに!? 私の力を疑うのか」

 八戸のぶながは動揺しました。それもそのはず、彼の占いは適当に
相手の喜ぶことを出任せで言っていただけなのでございました。
 確かに八戸のぶながは優れた占い師でございました。しかし、小魔玉が
出世した今となっては、地位の保たれた小魔玉のご機嫌を適当に
取るだけの毎日でありました。

 今までのインチキがばれてしまったなら、今の小魔玉の怒りようからしても、
良くて宮刑、悪くて死罪。八戸のぶながは、懸命に小魔玉を満足させる
回答を考えました。

 さてさて、小魔玉と知恵袋二名の仲はどうなるのでしょうか。
三戦英雄傅、気になる続きは、また次回。



三戦英雄傅


第二十六回~梁父吟、再び~



 一朝讒言を被り、二桃三士を殺す。
誰か能く此の謀を為せる。国相斉の晏子なり。
~『梁父吟』より~

 さてさて、人間の欲というものは底の尽きないもの。
衣食足りて、生活が満ち満ちた人間が最後に欲しがる物。
 それは、『名誉欲』だと言われております。

 大尉・小魔玉邸にて睨みあいましたる四人の男、
小魔玉、ムコーニン、中山幸盛、宇喜多直家信者。いずれも、
後漢の中心を担おうと虎視眈々と狙っていた男たちでありました。

 小魔玉としましては、三名を己の忠実な犬とばかりに思っておりました。
しかし、ムコーニン、中山幸盛、宇喜多直家信者の三名はそれぞれの事情が
あり、小魔玉を踏み台程度にしか思っておりませんでした。

 「小魔玉の信を得て、踏み台として使うことのできる桃」は、今や
「誰も食べたくない犯人という名の毒皿をいずれか朋輩に押し付けた者」のみが
食すことのできる桃へと変わりました。



ムコーニン:(天が見放した後漢になど興味はない。いずれ俺が皇帝に取って代わってやる。
何のためにあれほど辛い受験勉強をしたのか。それは、この中華のただ一人の支配者となり、
阿房宮をも超える後宮の主となる為だ。積年の苦学、水にしてなるものか)

中山幸盛:(くっ……陳長文よ。やはり、お前の言ったあの言葉は正しかったのか?
この世には、『選ばれし者』という者がいるというのか? 生まれた時から人間の運命と
言うものは変えられぬのか?)

宇喜多直家信者:(あのお方の為だ。今まで共に知略を交し合った二人だが、ムコーニンと
中山幸盛いずれかには失脚してもらわねばなるまい。下手をすれば私の命さえ危ない。
今更、私の命など惜しくもないが、あのお方を取り戻すまでは我が心と身を鬼にも売る覚悟)

 三人は、各々の思いを胸に「誰に罪を着せるか」を考えておりました。
 一方、ムコーニンにより占術を押し付けられた八戸のぶながは、小魔玉の怒りように
戦々恐々としておりました。

八戸のぶなが:(拙い……非常に拙い。誰か一人に罪を着せるのは簡単だ。適当にでっちあげれば
いい。だが、ここにいる二人はいずれも大尉の後を継ぐべき実力の持ち主。力も拮抗している。
もし、罪を着せた者が相国の袁紹と組んで私の首を所望でもしたら。大尉でも庇いきれまい。
では、宇喜多直家信者に罪を着せるか? いや、宇喜多直家信者はリンリン大友坊ちゃまの家庭教師。
坊ちゃまのお気に入りに罪を着せても坊ちゃまの一言で大尉も減刑なさるに違いない。
と、なると、やはり怖いのは後のことだ。さて、どうする。どうする八戸!!)



 八戸のぶながは、脇の下に嫌な汗を感じながら、筮竹をシャラシャラと鳴らしつつ、サイコロを振りながら、
占術に熱中している振りをしながら時間を稼ぎました。


小魔玉:「八戸よ、まだか! いくら気の長いオイラでも、もう待てぬぞ!!」
八戸のぶなが:「ひぃ! は、はい。只今!!」

 占い師の中には、あらゆる占いの中で一番楽で頼りない物は姓名判断だと言う者がおります。
なるほど、姓名判断はその利便性により下は2ちゃんねらーから、保険のおばちゃん、果ては
政治家まで愛用者がいると言われております。八戸のぶながの出した決断もまた、
「姓名判断で」というものでした。
 占いに頼らねばならぬほど、ムコーニンと中山幸盛の実力は甲乙つけがたい物となっていたのでございます。
結果を出さねば小魔玉に処される、二名のうちどちらかにも復讐はされるだろう、しかも、
両者の力は同程度。なるようになれ、と八戸のぶながは考え付いたのでございます。


八戸のぶなが:(手っ取り早く総画で考えよう。ムコーニンは総画9画、中山幸盛は総画26画か。
うむ。これもまたどちらも良いとも悪いとも言えぬ画数……しかし、9画は女性の場合孤独を表すとも
言うな。ムコーニンは男だが、政治家に孤独は要らぬ物)

 八戸のぶながは、筮竹をピシャリと一つに纏め、たった今、占断が終わったかのように見せました。
そして、背筋を伸ばし、くわっと目を見開き占術の大家よろしく、静かに進言しました。



八戸のぶなが:「はっ、見える! 見えましたぞ!!」
ムコーニン:「早く言えよ!! このヘボ易者!!」
リンリン大友:「ママは、ママはどこにいるの?」
小魔玉:「して、オイラの媚嬢をかどわかした不届き者は、ムコーニンと中山幸盛のどっちなんだ?」
八戸のぶなが:「はっ、奥方様は最早、この洛陽にはいらっしゃいますまい」
小魔玉:「なんと!!」
八戸のぶなが:「私めの見たところ、奥方様に叶わぬ恋をしたムコーニン殿が奥様の手足の無いのを
良いことにかどわかし、ライバルの中山幸盛殿に罪を擦り付けたものと。いやはや、ムコーニン殿は
名門・早稲田大学出の俊才の上、大尉にはご尽力されてきただけに残念であります」

 八戸のぶながは、尤もらしく厳粛な顔で述べました。

ムコーニン:「てめぇ!! 出鱈目言いやがって!!」

 犯人とされたムコーニンは、我も忘れた様子で八戸のぶながに掴みかかりました。

八戸のぶなが:「ひぃいいいいい!!! お、お助けを!!」
小魔玉:「ふん、やはりムコーニンお前か」
宇喜多直家信者:「やはり?」



 宇喜多直家信者は小魔玉の「やはり」という言葉を耳にするなり、長い眉を顰めました。

小魔玉:「お前はオイラに次ぐ、この国で二番手の好色家だ。そのお前が媚嬢に何の興味も
示さぬはずはないと常々思っていたのじゃ」
ムコーニン:「違う! 誤解だ!!」
小魔玉:「お前には宮刑と手足を陵遅により切り取ること処分をつかわす。ふっ、良い妾が
五人居ても最早抱くこともできまい。五人の妾は代わりにオイラが可愛がってやろうか?
( ^∀^)ゲラゲラ しかし、これまで尽くしてくれたお前じゃ、」

 小魔玉は、ムコーニンの顔を覗きこみながら何か思案しているようでございました。

ムコーニン:(もしや、助けてくれるのか?)

小魔玉:「そう、これまで尽くしてくれたお前だからこそ、オイラの出世を特等席で見せてやろう
( ^∀^)ゲラゲラ」
ムコーニン:「八戸!! てめぇ覚えていやがれ!! 冥土の奥底から呪ってやる!!」
八戸のぶなが:「大尉、このままムコーニンの口を野放しにしては、大尉の数々の
悪行を言いふらす恐れがあります。ここは、猿轡でもして黙らせましょう」
小魔玉:「そうじゃな。ただ、黙らすだけも面白くあるまい。ここは首に罪状を書いた
札をぶら下げ、市中引き回しつけようかの( ^∀^)ゲラゲラ」
リンリン大友:「ムコーニン!! 信じていたのぃいいいい!!」
中山幸盛:(すまぬ。ムコーニン。されど、運も政治家には必要な物)

 中山幸盛は心の中でたった今までの同朋に別れを告げ、言いました。



中山幸盛:「坊ちゃま、お母様をかどわかした逆臣には猿轡に勿体無いでしょう。
ここは、皆の靴下で代用しましょうぞ」
リンリン大友:「それはいいや。僕、三日間お風呂に入ってなかったから、三日物の
靴下を履いているんだ」

 リンリン大友はムコーニンの口に三日物の靴下を捩じ込みました。

ムコーニン:(く、くせぇ)
宇喜多直家信者:「大尉、これなるムコーニンは才あり、また狡猾なる男。このまま
生かしておいては必ず大尉の憂いとなるに違いありません」
小魔玉:「何か、策があるようだな。宇喜多直家信者。申せ」
宇喜多直家信者:「憂いは、今のうちに絶つべきかと」
小魔玉:「宇喜多直家信者、いや、宇喜多直家信者先生。ただの学者かと思っていたが、
先生もこのオイラの色に染まってきたようだな( ^∀^)ゲラゲラ」
宇喜多直家信者:「恐れ多いことで」

 宇喜多直家信者と小魔玉は互いに笑い合いました。
小魔玉の派手な笑いと、宇喜多直家信者の含み笑いは奇妙な調和を見せました。

宇喜多直家信者:(許せムコーニン殿。これもあのお方の為なのだ。あの方を救う為なら
漢の逆賊の犬にも私はならねばならぬのだ)



小魔玉:「さあ、お前たち、やれ!!( ^∀^)ゲラゲラ できるだけ苦しませて始末するのだぞ」
手下達:「はっ」
リンリン大友:「あれえ、パパぁ、なんか手下多くない?」
小魔玉:「気のせいだろ( ^∀^)ゲラゲラ」
 哀れムコーニンは無実の罪により小魔玉の手下にひっとらえられ、宮刑の後、
陵遅により寸刻みにされてしまいました。

 しかし、因果応報とはよく言ったもので、丁原の手足を斬ることを小魔玉に提案したムコーニンも
また体を斬られ葬りさられたのでございます。

 丁原の復讐は、叶ったわけでございます。
 小魔玉邸の騒動より一月後、栄安二年七月中頃。
洛陽の方角より晋国に一人の男が駆け込んで参りました。

損権厨房:「軍師殿! 軍師殿!!」
丁原:「いかがしました? 損権厨房殿」
損権厨房:「損権厨房、只今洛陽の都より帰りました」
袁術:「うむ。ご苦労。して任務のほどは」
損権厨房:「小魔玉の知恵袋、あのムコーニンが陵遅の上殺されました」

 そう、リンリン大友の気のせいではなく、損権厨房が変装し密かに小魔玉邸に入り込み
諜報活動を行っているところを丁原が見込み、この度の計略を仕掛けていたのでございます。



丁原:「ほう、やはりムコーニンが」
 丁原は、報告を聞くなり美しい唇を歪めました。

損権厨房:「しかし、確率としては半々だったはず。どうして軍師殿は小魔玉はムコーニンを
処罰するとお考えになられたのですか」
丁原:「我々の他にも、ムコーニンの智謀が邪魔な者がいたということですよ。
今頃、小魔玉邸ではムコーニンの跡目争いで大変でしょうね。
小魔玉、ムコーニン、中山幸盛、宇喜多直家信者。この四人が手を組んでいたからこそ、
漢は小魔玉の思い通りにできていた。しかし、鼎の脚が一本折れてしまっては
中身の重さに耐え切れますまい」
荀攸:「逆賊の運が、揺れた!!」
丁原:「左様、まあまあ、皆さん、今夜は美味しいお酒が飲めそうです。
ゆるりと楽しもうではありませんか」

 丁原は、丁原の計略の鮮やかさにただ呆然とするしかない晋国の者たちを
尻目に女のように高笑いをしながら白い喉を仰け反らせ、酒を含みました。

丁原:(待ってろ。小魔玉。お前に受けた数々の行為、一つも忘れてはおらぬ。
お前を権力の椅子から引きずり降ろしてくれよう)

 丁原の双眸は、小魔玉のいる洛陽の方角を捉えて放しませんでした。

 今後、小魔玉は、晋はどうなってしまうのでしょうか。
小魔玉も後漢の大尉、そうそう簡単には滅びるとも思えませんが。

 三戦英雄傅、気になる続きは、また次回。



三戦英雄傅


第二十七回~新たな司空が誕生し、後漢最大の醜聞・裸照事件起こる~



 終わるところを知らぬは語り手の創作意欲と、人間の性欲。
皆様は、覚えているでしょうか。そもそも、なぜ、後漢の政治が荒廃を
極めるようになったのかを。

 そう、それもこれも、あの美しい皇后・小銀玉の美貌と性欲が元凶なので
ございます。
 後世の歴史家などに言わせると中国三大美女としては、西施、小銀玉、楊貴妃が。
そして、中国三大悪女としては妲妃、呂后、小銀玉が上げられます。
美貌と悪は、同居できるものなのか。小銀玉皇后の存在は、西洋の哲学者たちの
注目をも浴びております。

 しかし、小銀玉皇后は本当に悪なのでしょうか。いったい、人は何を以って物事を
悪と見なすのでしょうか。これは、現代にも言えることで、人は何を以って糞スレと見なす
のかというのと同じ永遠の議論でございましょう。

 後の世に『晋史』を編纂した果物キラーと無双ファンの親子は、小銀玉皇后について
それぞれ次のように述べています。



 人間だよ、一番かわいそうな生物は。
「生病老死」
という言葉通り、生きること、病を患うこと、老いること、そして死ぬこと。苦しみは途絶えることはない。
人間以外に、老いや病、死という概念を持つ生物はいない。
知能が高く、感情が発達したことの弊害。自殺したり、戦争したり、そんな悲しい生物は人間だけだな。
 その点、小銀玉皇后は幸せな生物だったかもしれない。彼女は純粋に、性欲の向くままに
大尉・小魔玉と後漢を弄び、純粋に生を楽しんだ。感情が発達していないとは、純粋とは、なんと
美しく残酷なのだろう。
 性欲を律することのできなかった小銀玉は、人間ですら無かった。
正に欲望を純粋培養したような女だった。(中略)しかし、アレはイイ女だった。一発、お願いしたかった。
~正史『晋史』小銀玉傅(果物キラー注釈)より~


 彼女は、誰よりも自治を好んだが、肝心な己を律することを知らなかった。
残念なことである。
~正史『晋史』小銀玉傅(無双ファン注釈)より~

 栄安二年七月。
策士・ムコーニンが息絶えた夜。一人の男が小魔玉邸にて琴を弾いておりました。
 男の目は切れ長で、眉は長く、美しい額の形をしております。
男の名は、宇喜多直家信者。「蔡ヨウの後に優れた学者は出ないだろう」と言われた、
あの蔡ヨウの一番弟子でありました。
 もともと、口数の少ない寡黙な男でありましたが、ここ数年宇喜多直家信者の言葉数は
益々少なくなっていました。



宇喜多直家信者:(あの方も、今宵同じ月を見ているのだろうか……)

 琴より上げられた双眸は物悲しげで、琴の音色は陰鬱に月夜に響きました。
宇喜多直家信者の言う「あのお方」、そう、悲劇の才女・蔡文姫のことでございます。
蔡文姫は、不幸にして匈奴王の妻として囚われの身となっておりました。
 宇喜多直家信者と蔡文姫との出会いは、宇喜多直家信者が少年だった頃に遡ります。
蔡文姫は宇喜多直家信者より二つ年上の少女で、宇喜多直家信者がこれまでに出会った
どの女性よりも賢く、魅力的でありました。

 面倒身がよく心優しい蔡文姫は、まるで弟のように宇喜多直家信者を可愛がり、
宇喜多直家信者も蔡文姫を姉のように慕っておりました。
 気が付くと少年・宇喜多直家信者は蔡文姫を違う感情で慕うようになっておりました。

「告げることもできず心に秘めていた思慕の念も、蛮族により踏みにじられた。
あのお方を幸せにできる男なら、素直に祝福しよう。だが、蛮族の地で、書物も字も無い地で
あの方が幸せなはずは無い。私は、鬼に魂を喰われてもあの方を救い出そう」
 蔡文姫救出の為に、宇喜多直家信者が選び出した駒こそが、大尉・小魔玉でありました。

 当初は小魔玉子息の家庭教師になることを拒んだ宇喜多直家信者でしたが、
「蔡文姫救出と匈奴討伐」を条件に承諾したのでございます。



宇喜多直家信者:(さて、空いたムコーニンの椅子だが、私と中山幸盛、小魔玉はどちらを
選ぶであろうか。中山幸盛、あやつにも私と同じ物を感じる。ムコーニンのように己の欲望の
為ではない、何か守る物のある男だけが持つ強さを。あやつも独り身だと言う。すると、
何か女性に関係したものだろうか……いや、考えるのはよそう。あやつの腹のうちは
あやつにしかわかるまい)

 宇喜多直家信者は、ふと浮かんだ己の考えを自嘲するように琴の弦を鳴らしました。
月は真っ白に、冴え冴えとしておりました。
 同じ月下では、怒りに任せムコーニンを処罰した小魔玉が我に返り、
己の宮中での立場を危ぶみ、早速小銀玉皇后のご機嫌を取っておりました。

小魔玉:「小銀玉ちゃん、オイラ、ムコーニンがいなくなってピンチなんだよね。
って、ここがイイの? 気持ちいいのはココ?( ^∀^)ゲラゲラ」
小銀玉:「ん…オウっ!」
 小銀玉皇后は、愛する小魔玉の攻めに陥落し、いつもの台詞を口にしておりました。
小銀玉:「もう、小魔玉さんたら、しょうがないな。漏れが何でもしてあげよう」 

 ムコーニン処刑翌日、宮中では新たな人事が交付されました。
もちろん、この人事も小魔玉の一夜をかけて体で奉仕した賜物でありました。


 これまで、後漢の三公は大尉・小魔玉(俸禄:万石)、司徒承相・王允(俸禄:万石)、
司空・ムコーニン(俸禄:万石)となっておりました。
 この三公は後漢に於ける臣下に許された最高位でございます。



文官1:「これより新しい司空の任命を行う。名前を呼ばれた者は前へ」
宇喜多直家信者:(ここで中山幸盛の名が挙げられても、私は中山幸盛と共存しよう。
あの方を取り戻すまでは)
中山幸盛:(ムコーニンがいなくなった今、司空の地位は宇喜多直家信者か私の
物になろう。さて、どちらか)

鍾ヨウ:(知恵者ムコーニンの後釜。力の足りぬ者には務まることはないだろう。
私が小魔玉なら邪魔で無能な奴をわざと任命するが、小魔玉にとってムコーニンを失った
損害は大きい。己の手下より選出するのが定石か)

陳羣:(中山幸盛……懐かしい我が幼馴染よ。お前にも、この宮中の床を踏むときが来たとはな)

 人々は様々な思いを胸に、文官の薄い唇に注目しました。唇の上に形ばかり生えた髭が
動きを見せました。

文官1:「ムコーニンの後任は、中山幸盛に命ずることとする。陛下の勅命である。
中山幸盛よ、謹んで受けられよ」

宇喜多直家信者:(中山幸盛か)
中山幸盛:「ありがたき幸せにございます」
文官1:「これより別室にて中山司空の就任祝賀会を開催するので、各々参加するように」

中山幸盛:(とうとう、とうとう、私は三公になったぞ。陳長文、私が三公になったのだぞ)
 中山幸盛は心の中で、旧友・陳羣に呼びかけました。
呼びかけが通じたのでしょうか。中山幸盛より二尺ほど前を歩いていた陳羣がくるりと
振り向きました。



陳羣:「君が司空とは。同郷の者として嬉しいよ。おめでとう」
 差し出された陳羣の指は、柳の枝のように細くしなやかで、透き通るように白い
指でございました。

中山幸盛:(これが、汗水垂らして働いたことのない、良家の坊ちゃんの指なのだ)
 中山幸盛は懐かしい旧友の指を眩しく眺めました。

中山幸盛:「お主は、昔、私に言ったことを覚えているか?」
陳羣:「はて、何のことやら」
中山幸盛:「世の中には、貢ぐ者と貢がれる者、崇拝される者、する者、
裁く者、裁かれる者がいる、と」
陳羣:「私が?」
 陳羣は大袈裟に驚いた様子を見せ、かぶりを振りました。
陳羣:「まさか。ただ、もし口にしたとしても子供の戯言でしょう。
ご容赦を」
中山幸盛:「いいや、確かに言った。私の方が残念ながら、一足先に法曹界の重鎮になったがな」
陳羣:「ひとつ穏便に頼みますよ」
 陳羣は中山幸盛の言葉に愛想良く笑いながら応えました。
中山幸盛:「それでは失礼する」
 会場へと向かう中山幸盛の後ろ姿を陳羣は、舌打ちしながら眺めておりました。

陳羣:「なんだって、ああいうのは覚えなくてもいいことを覚えているもんかねえ。
幼い頃私が『法曹界の重鎮になりたい』と言ったら
「アナウンサーになるなら、絶対フジがいいよ」などと言っていた
あの中山が司空ねぇ……あの、庶民の下民がねえ」

 どうやら、中山幸盛と陳羣は互いに含むところがあるようです。

陳羣:「まあ、いい。せいぜい、短い春を楽しむがいい。我が陳家は後漢を代表する
名士の家。お祖父様のまあcと小魔玉失脚の相談でもしてウサ晴らしをするか。
小魔玉の命綱は小銀玉皇后。小銀玉皇后さえ失脚すれば後は芋づる式よ」



 中山幸盛が司空となってから、二月後の栄安二年九月中旬。
数枚の絵画が後漢の下々から宮中までを揺るがせました。
後に言う「小銀玉皇后裸照事件」でございます。

民1:「な、なんじゃこれは!」
民2:「保存しました」
民3:「これは、小銀玉皇后と大尉の小魔玉?」

 なんと小銀玉と小魔玉の房中での写生画が市井にまで流出したのでございます。
その数、総計三百を超えました。

民1:「小銀玉皇后だけではないぞ。王貴人ことアダルト日出夫との絡みもあるぞ」
民2:「いや、それだけではない。いったい大尉は何人の女と枕を並べたんだ?」
民3:「絶倫にも程がある」

 人々は狂ったように件の春画を奪い合い、自家発電に励みました。
洛陽の町は、昼日中にも関わらず通りには人一人も通らず、四日後には
薬局に増血剤を求める客が殺到しました。

 人々は抜きすぎにより極度の貧血となりました。

霊帝:「ほほお。よく出来た春画よのお。皇后も、このようなことをして朕に
焼きもちを焼かせようとは可愛い奴よ」
張譲:「陛下、これはいつものプレイではありませぬぞ。ご覧下され、
民は自家発電に励み働くことをせず、あまつさえ貧血で倒れる者で溢れかえっております」
霊帝:「うむうう」
趙忠:「不貞の上、民をも惑わす小銀玉皇后には、相応のご処分が必要かと」
 趙忠に便乗するように他の十常侍たちは霊帝に、小銀玉の讒言をしました。

 実は、今回の事件には黄巾族の首領、聖天使ザビエルが関係しているのですが、
それは、また次回のお楽しみ。


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最終更新:2008年05月16日 17:43