夜の闇に静まり返るその門の前に、ただ1人アーチャーは仁王立つ。
 手には、彼女の細腕には重すぎるほどの投槍。
 2つの瞳が闇の向こう側をしっかりとにらみつけていた。

「――ライダー。隠れていても無駄です」
「この我に隠れるつもりなどない。全て踏み潰し、蹂躙することこ我が喜び」

 狼の唸り声と、馬の嘶きを引き連れ、姿を見せるのはライダーのサーヴァント。
 4匹の狼を展開し、4匹の馬を己とその周囲に配置したその姿こそ、世界最大の帝国を築いた蹂躙王その人である。

「ここから先は通しません、ライダー」
「ならば、我は押し通すのみ。貴様を犯し、その姿を貴様のマスターに見せ付けてやろう」

 ライダーの挑発を、アーチャーが睨み付ける。
 一閃――! 予備動作もなにもない。その瞬間に、灼熱の火箭が、アーチャーの背後より放たれた。
 弓の英霊に撃ち外しなどない。夜空を焦がす熱線は、四駿四狗を赤く染めながら狙い外さず蹂躙王を貫く。


「―――!」
「これが貴様の力か? 随分とぬるいな」
 撃ち外しできぬ矢、それは人であればまさに致命の一撃。
 されど、ここにいるものは人ではない。血と死を積み上げし英霊・蹂躙王。

「我の燃やした城の炎に比べれば、この程度は炉の火にもならぬ。
 さぁ、女。蹂躙のときが来た。ジェベ! スブタイ! クビライ! ジェルメ! 四狗よ。その名に違わぬ働きを見せろ!」
 ライダーのもとより、4つの黒い風が解放される。
 四駿四狗がうちの四狗、その全てが魔獣に匹敵するほどの獣、ユーラシアを駆け抜けた忠臣が昇華した宝具である。

「っ!」
 4つの影が、アーチャーの放つ熱線を宙を蹴り、すり抜け、駆け抜ける。
 疾風。まさに一呼吸の間に彼我の間合いは封じられ、弓の英霊の懐へと入り込む。
「――さぁ、女。見せよ、貴様の宝具を。さもなくば、死を」

 馬上、ライダーが嘲る。
 その嘲りを受けながらも、アーチャーには他の手段などなかった。
 青銅の腕が虚空より生え、4つの牙から少女を庇う。

「それが貴様の宝具か」
「ええ、そのとおりよ。そこまで私の宝具を見たいというのなら、見せてあげましょう。
 行きましょう――《青銅の守護巨神(タロス)》」

 次の瞬間、夜の街に太陽が生まれた。
 姿を見せた青銅像は金色に輝き、膨大な熱と光が生み出される。
 この巨像こそタロス。ヘパイトスに生み出されしクレタ島を守護する無敵の巨人!


「――見事だ、女。我の略奪物にも、これほどのものはない」
 されど。
 されど、尚、蹂躙王に、焦りは無い。
 太陽と見まがうほどの巨大な像を相手にしてもなお、その顔には笑みがあった。

「そう、その巨大さこそが、女、貴様の敗因よ。
 《覇道の証明》・・・今一度軍(群)へと戻れ、四駿四狗!」
 ライダーの8つの宝具。
 その全てが崩れ、本来の亡者の姿へと解けていく。
 深山町の通り全てが蠢く死体により埋め尽くされ、ライダー自身の姿もその中へと消え去った。

 アーチャーにとって、群れへと戻ったライダーの宝具は、脅威にならない。
 たとえタロスが無くとも、その手の槍だけで一方的に勝利できる。
 しかし――。
 彼女の背後に眠る、マスターは?

「我が僕よ! 押し寄せる怒涛となって、この地を蹂躙せよ!」
 亡者の群れの中から、ライダーの声が響く。
 氾濫する川は、いかにタロスといえども、留めることはできない。
 剣で川を止めれぬように。


「――それを、待っていました。ライダー」
 己とその周囲を避けて、怒涛のように押し寄せる亡者の中。
 タロスがぐるりと向きを変えると、その胸から渾身の熱線が放たれる!

 亡者の川を切り裂く赤い剣。
 それが引き裂いたのは、十数の死者と・・・サーヴァント・ライダー!

「・・・な、なぜ我を・・・!」
 ライダーといえども、四駿の守り無くタロスの一撃を受ければただではすまない。
 全身を炎につつまれながら、ライダーはアーチャーを睨み付けていた。

「良くやってくれたわね、ラエラプス。
 そう、私は教えてあげたはずよ? あなたに――」
 天星猟犬――タロスと同じように神より受けた最優の猟犬を呼び寄せながら、エウロペは静かに微笑んだ。
「隠れていても無駄です、と――」


以上。


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   ○
     ■あ。エウロペ勝っちゃったよ。