「成る程、斧と鎌か」
―――面倒な、ランサーは胃の腑の裡で毒づいた。
打ち割り、引き裂く。
この奇剣は刃を返すことで性質を大きく切り替えるのなのだろう
クエスチョンマークのように刀身半ばから大きく湾曲した異形は一見祭具かなにかと思ったが
なかなかどうして良くできている
「驚いたな、僅か三合でコイツを見切るとは思わなかったぞ?」
セイバーは曲剣を担いでニタニタと笑っていた
全くの自然体
ランサーの殺気を真っ向から受けて尚、鎌剣の担い手は飄々とした姿勢を崩さない

―――面倒な
とは言えセイバーとしても内心、そう穏やかではなかった
僅か三合で、とは言ったもののむしろ三合も振らされた事自体、想定外なのだ
出会ってすぐに二騎は闘争を開始した
そして初手から全ての攻撃は彼のペースであったのだ
セイバーの宝具は一刀掠りさえすれば大きなアドバンテージを獲得できる
にもかかわらず実質的に不治の損耗を与える鎌剣は銀髪の槍兵に額に僅かな切り傷を刻むのみに留まった
待たれた、セイバーはそう直感でそう理解した
ランサーはこの曲剣の癖を掴むために敢えてこちらの剣を受けたのだろう
特筆すべきは一級の英霊たるセイバーの、全霊を以てした剣撃を受けきったその手並みだ
徹底的に死角から忍び寄る虚実兼ねた斬撃を、反応速度と身体機能のみを恃みに捌き落としたのだ
推定ではあるがランサーの純粋な身体能力はバーサーカークラスのそれに比肩すると見て相違ない
凄まじい敵手である
あの三匹の魔女どもや大鯨など比べ物にならぬ程の


「賛辞をくれてやる、セイバー。そなた程の武人は我が騎士団にも十人といまい」
 傲慢な笑み。
 銀髪の槍騎士は得物の石突きで地面を掻く。
 槍の穂先が仄かに青く輝いた。
「賛辞に聞こえんぞランサー。貴様はどうやら喉笛を裂かれねば力量を計れぬと見える」
 無論セイバーとてランサーの軽口を大真面目に受け取ったわけではない。
 が、上から物を言われて流せるほどの器量は自身にはないというのも理解していた。
 セイバーは背負っていた円盾を左手に構え、腰を落とす。
「よもや今までで僕の全てを見切ったつもりではあるまいな?」
 何よりここまでの手練れ、既に宝具を隠しての戦闘には限界がある。
「ほう、まだ先があるか。そうであろうな」
 防御姿勢をとったセイバーの姿を見てもなお、ランサーの視線に焦りは見えない。
「次は飛翔でもしてみるか? 蛇殺し」
 ニタリ、とランサーは口元を歪めた。
「っ!?」
 真名が、割れている。その事実にセイバーは驚愕を隠せない。
「漸く表情が崩れたな、"アルゴス"のペルセウス」
 そう言い終わるや否や、ランサーは信じられぬような速度で踏み込み、槍を突き込んだ。
「ぬ、う」
 円盾で穂先をいなそうと体を捻る。
 十全に加速を得た突進は盾越しからの打撃でも十分すぎるほど、セイバーの身を打ち据える。
 続いて襲い来る石突きでの打撃をセイバーは鎌剣の内刃で受け止めた。
 湾曲した刀身で槍の柄を絡めとり、円盾を押し込んで対手を潰さんと圧力をかける。
「貴様ァァァッ!」
 自身のトラウマを抉られたセイバーは吼えた。


「自らの罪をなじられるのは堪えるようだなセイバー」
 ランサーの口元から嘲笑が漏れる。
 盾の向こうからでも表情が透けて見えるような悪意を載せた嘲笑であった。
「やはり冷血の英雄であろうが祖父を殺めたというのは罪悪を感じていると見える」
(黙れ)
 沸き上がる怒りを飲み込み、腹の奥で魔力に変換する。
(黙れェッ!)
「天駆ける白鷲(タラリア)ァッ!」
 宝具解放、セイバーの両足から猛禽の翼が生え、大地を踏み割った。
「ぬ、ぅ」
 苦悶を上げたのはランサーであった。
 痩躯のセイバーから発せられた莫大な推力に体を崩され、突き飛ばされる。
 セイバーが行ったのは宝具による二段跳躍であり。
 至近距離による瞬間的な連続ステップにより多大な運動量を生み出したのだ。
 青銅の塊である円盾で強かに体を跳ね上げられ、宙を舞った。
「ランサー、よもやここまでの屈辱を与えておいて、ただで死ねると思うなよ?」
 無理な体制で着地し、膝を屈していた憎き槍兵に曲刀を向け、怒りを吐き出す。
「ふん、手段を選ばぬと恐れられた怪物殺しの英雄が、この程度で怒り狂うとはな」
 大質量で殴打されてなお、減らず口を叩くランサーにセイバーは更に憎悪を燃え上がらせた。
 円盾での打撃は紛れもなく肋骨を数本、砕いた筈である。