待ってるときに限って、帰ってこない。りんりんりんと陶器が鳴る。弾いた指に軽い痛み。手持ち無沙汰を慰めるのも、いい加減につらい。もう陽も暮れてしまった。

「むー。どうしたのかしら、アーチャーったら」
「ずっと探し回ってるのかもしれないね。でも連絡がつかないってのは困るなあ」
「ですよねえ。せっかく夏海さんの居場所がわかるかもしれないっていうのに」
「……困ったなあ」

 鉄人さんがぼりぼりと頭を掻く。なにか、こう、見覚えがあるような。テレビで見た名探偵によく似てる気がする。この人は、どんなときでも暢気さんだ。

「みことちゃん、相談なんだけど……先に夏海を探しに行っててもいいかな」
「もう少し待つのはダメでしょうか?」
「手がかりがあるなら、放ってはおけないんだ。これ以上じっとしてるのは難しい」
「ですけど、アーチャーと一緒の方が探すのにも有利になると思います」
「そうだね。きっとアーチャーの力は必要なんだろう。夏海と一緒に居るのは、聖杯戦争の参加者だろうから」
「え?」
「いや、違うな。僕はね、夏海が聖杯戦争に参加してると思うんだ」

 かちゃりと音がする。今日の鉄人さんの刀を覆うのは、ステッキに模された木ではなく、細工の見事な柄と鞘。どうして、鉄人さんはそんなものを持ってきたんだろう。

「居なくなるちょっと前から、ずいぶん楽しそうにしてたらしいんだ。その前は落ち込んでたんだけど」
「それが、どう繋がるんですか?」
「あの子は、ずっと悩んでた。誰にもどうしようもできないものなのに、自分が無力だって感じてたんだよ。どの道、終わったものを救ってやることなんて、できないのにね」
「話が見えないんですけれど……」
「夏海は、ちょっとばかり特殊な才能の持ち主でね。僕の妹もそうだった。夏海たちほどじゃないけど、僕もそうだ。それで、悩んじゃうんだな。見なくてもいいものを見てしまうからね」

 柔和な表情が動いていく。珈琲にミルクが混じっていくようにゆっくりと。ふわふわの綿の中から鋭い切っ先がせり出される。

「――そこに、つけこまれたんだろう。あの子は、救えるものを探し続けてた。誰かを救ってあげたかった。その優しさを利用された」
「鉄人さん?」
「実はね、夏海と一緒に行動していた男のことは知ってたんだ。断片的だけど、見たモノから聞き出したからね」

 怖い。わたしは、この人を、初めて怖いと思った。ログハウスの中のか弱い明かりが、慄くように揺れては燃える。

「見つけられなくて、困っていたんだけど。昨日なったばかりのモノが知ってた。ようやく見つけた。それを逃がすつもりなんてないんだ。だから、これ以上は待てないよ」
「あの……」
「わからないかな? まあ、わからないように話しているからね」

 立ち上がった鉄人さんの顔は、影になっていて見えない。いやだ、膝が震えてる。手の動きが、止まらない。

「僕は夏海を助けに行く。そこだけは信じてもらっていい。それで、君はどうする? 僕としては、アーチャーの力を使いたいから、君にも来て欲しいけど……ね」

 夜に光る狼の目のように、影に浮かぶぎらぎらとした輝き。獣は誰に牙を剥く。共に何かを救うとしても、矛先が自分に向かないと誰が言える。わたしを引き起こしてくれたときの温かさを、覚えているけれど。

 わたしは―――

1:夏海を探しに行く
2:アーチャーを待つ