───────Interlude ───────


「まずいな、始まってるぞ…」

 発見はほぼ同時であったのに、接触は騎士達の方が一足早いというなんとも微妙な結果となっていた。
 彼らの目的であったティルフィングはたった今し方セイバーとの戦闘に突入した。

「………僅かに遅かったようですね。
 しかしこのまま戦えばセイバーの勝利はまず揺るぎません」
 のんびりとそう断言するキャスター。間桐が不愉快そうに非難の声を上げる。
「何をのんびりとしてるんだよキャスター!
 早くなんとかしないと魔剣が奴らに破壊されちまうじゃないか!
 お前まさか俺達が勝つ為の切り札になるカードが破かれるのをみすみす指を咥えて見てる気かよ!?」
「ですけど、今下手に手を出すと最悪セイバーと直接矛を交える事になりますが?」
 それはあまりに不利では?とキャスターの眼が語る。
 非常に高い対魔力スキルを備えたセイバーが相手では圧倒的に不利な展開になるのは疑いの余地もない事だった。
 だが間桐はそんな危惧などいらないとばかりの陰湿な笑みを浮かべる。

「はあ? おいおい馬鹿だねキャスター、寝言を言ってる場合じゃないだろう? 
 なぜわざわざセイバーと交戦する必要があるってのさ。
 あそこでボーッとつっ立ってる小娘、あいつを消せばいい」
 サーヴァントが不落なのなら容易く落とせるマスターの方を消せばいい。
 幸いこちらはキャスターのクラス。
 他のクラスに比べて間接的な干渉や遠隔的な攻撃は得意なクラスである。
 おまけにマスターを守る肝心のセイバーは、ティルフィングとの戦闘に気を取られている。

「…………………なるほど、確かにその手は有効のようですね。
 ではマスター、どういう風に攻めますか?」
「人間の空間転移は出来るか?
 遠距離射撃はあの脳筋馬鹿の事だ、野良犬みたいな卑しい嗅覚で勘づかれる可能性がある。
 しかも攻撃魔術だとあの女を庇いに入ったセイバーの護りを貫けなければ意味がないからな。
 だから回りくどいやり方ではあるが一度こっちに喚んでから確実に殺す。
 あ~そうそう、先に命じておくが令呪は使わせるなよ?」

 キャスターはマスターの指示に素直に頷くと、ローブの中から『世界の書』を取り出しページを開いた。
 そして古今東西の魔術の記録からお目当ての空間転送術を探し出す。

 ではいきます。と最後にマスターに眼で確認の合図を送ると、
 一小節にも満たない短さで、少女に対する転移魔術を発動させた────!!




───────Interlude  out───────



 綾香は一瞬だけ自分の身体が四散し溶けて無くなったかのような感覚に陥った。
 イメージは水に溶けて消える泥団子。
 突如足下に開いた落とし穴の底には強酸の沼があって、そんなものにダイブしたらそりゃあ体の一つもなくなっちゃうね。
 なんて頭の中のもう一人の自分が暢気にそんな感想を並べている。

 だけどそれらは全部錯覚だ。
 彼女の身体は溶けてもいないし、足下に落とし穴もない。
 ただ突然の空間認識力を奪われる事態に晒されたせいで脳がそんな空想をしただけだ。

「────へ!!?」

 気付いた時にはもう空間転移は終わっていて、眼球にはさっきまで居た場所とは別の風景が飛び込んできた。
 そして同時に、背骨には氷柱を捩じ込まれる感覚に似た怖気が走った。

「ようセイバーのマスター。まずお目にかかれない空間転移を自らの体で体験した気分はどうだい?」
 圧倒的に有利な立場の者がよく浮かべるニヤニヤとした弱者を見下す嫌な薄ら笑い。
 彼女の耳朶に入ってきた第一声は間桐燕二の皮肉。
 しかし綾香の視界や耳に間桐はいない。
 カタカタと少女が恐怖に震えている相手は、

「申し訳ありませんお嬢さん。
 セイバーと直接対峙するのはあまりにも面倒なので貴女にだけ来て頂きました」

 どうしようもなく温厚で柔和な顔立ちをした処刑人だった。

 どうして脱落した筈のキャスターと間桐が一緒にいるのか?なんて当然の疑問すら浮かんでこない。
 今綾香に分かるのはこの瞬間自分が殺されかかっているという寒気のする現実だけだ。
「あ、あ………ぁ、────ぅ」
 本能的に逃げようとした。
 が、両脚が地面に凍って張り付いたみたいにちっとも動かない。
「あははははは! なんだビビって悲鳴も出ないか? まあこの状況じゃそうだろうね!
 だけどこっちもあまり時間がないんでさ、とっとと用件を済ませる事にするよ。
 セイバーに見つかったら面倒だ、殺れキャスター」
 間桐が冷酷な処刑命令を下す。
 しかし今の会話で少女は自分がセイバーという剣を持つことを思い出した。
 希望の火が再燃する。恐怖で凍結していた判断力が僅かにだが解凍された。
 ここにセイバーを呼べばまだ助かる道がある。
 そして、その願いを叶えるとっておきもまだちゃんと残ってある。
 
 ─────令呪一画を消費してセイバーを呼ぶ。

 そう心に決めて綾香は大声で騎士を招来しようとした。

「すみませんがこれ以上の来客はお断りさせて頂きましょう」
 だがそれをみすみす見逃すキャスターではなかった。
 令呪を発動される前にキャスターが人差しと中指で少女の唇を指差す。

「セイ────、……? …、………!! …………!?!?」
 すると信じられない事に声帯が本来の機能を失ったのか一言も言葉を発せられなくなってしまった。

 相手の詠唱を潰す為の魔術なのか、それとも単に喧しい者を黙らせる為のものなのか。
 ただ一つ言えるのは綾香は水から引き上げられた魚みたく口をパクパクするだけで、その喉からは呻き一つ出てこないという事。
 それからもう一つ。
 突然言葉を話せなくなれば大抵の人間は混乱や恐慌状態に陥り易いという事だ。
 そしてそれは当然彼女も例外ではなかった。
 唐突なアクシデントの連続により少女の処理能力は完全にフリーズを起こした。
 声が出せずとも令呪は使用可能な事実をすぐに思い出せない。

「真に心苦しいですがマスターである以上ボクらは敵同士。残念ながら貴女にはここで脱落して貰います」
 哀悼の念を抱きながらローブの青年が掌を少女の顔面の前にかざした。
 攻撃魔術発動の気配に薄明かりを帯び始める掌。
 きっとキャスターの攻撃は痛みも感じる間もなく慈悲深い即死を少女に与えるだろう。
 手足は動かず声も出ない。
 逃げる真似はおろか助けも呼べないのではチェックメイトも同然だった。
「────……ッ!!」

 ────もう駄目だと、咄嗟に綾香は固く眼を瞑った───。




 しかし、たとえ当人が諦めようとも、
 天と救世主は死に瀕した彼女をまだ見捨ててはいなかった。


「ぬおおおおーーー見つけたぞぉぉオーマーエーらーーーーーー!!
 許さねぇ! 絶対に許さん覚悟しやがれぇえええええーーーーーーーッ!!!」


 弱き少女を救う白銀の救世主は憤怒の絶叫と共に怒涛の勢いで現われた。
「うわあッ!? もうここを嗅ぎつけやがったのかあの野郎!!?
 畜生ハイエナかよてめえはッ!! キャスター早くその女を消せ!!!」
「そんな真似させるかよコノヤロウーーッ!!」
 激怒に身を任せて地を蹴り空へと跳び上がる白銀の甲冑姿。
 全力疾走のままで跳躍した体は猛烈な勢いでキャスターへと突っ込んで行く。
「───くっ!」
 間に合わないと瞬時に悟ったキャスターは咄嗟に少女を射貫こうとしていた光弾を騎士へと向けた。
 間を開けずに発射される魔弾。
 だがどれだけの威力があろうとも聖堂騎士の対魔力を突破することは叶わない。
 直撃と同時に霧散する攻撃魔術。

「───うごが………ぁ!?!?」
 そして一直線に飛来する騎士を撃ち落とせなかった代償は、鋼に包まれた足による渾身の飛び蹴りだった。
 頬にめり込むセイバーの踵。物凄い勢いで吹き飛ぶ魔術師の身体。
 顔面を蹴り飛ばされて、さらに地面で頭を強打。
 とどめとばかりに大地で体中を擦りながら滑って行くと、最終的に20m程の地点で止まった。

「うぎ、ア、は、あ……ハァ、ハァ…!」
 ふらふらしながらやっとこさ立ち上がるキャスターの姿はとても弱々しく、頭部からは出血までしている。
 不意討ち気味に入った騎士の攻撃は予想以上にダメージが大きい。
「な、何やってんだよキャスターこのノロマッ!?
 お前がチンタラやってるからもう追いつかれたじゃないか!」
 だが間桐は心配や気遣いの台詞もなくサーヴァントに不出来な下僕と叱咤した。
 その表情は少女を殺し損ねた怒りと、セイバーの登場による焦りが一杯の複雑極まりないものだった。

「剣も構えぬ状態のアヤカを狙うとはこの卑怯者め! 正々堂々と戦えないのか貴様たちは!!
 ……って言うか何でお前たちがまだ聖杯戦争に残ってるんだ。脱落したんじゃなかったのか?」
 綾香を庇うようにして立つセイバーが怒りの声を上げた。
 聖剣はとうに抜き放たれており、いつでもかかって来いやの状態である。
「セイバー……あ、ありがと…また助けられちゃった。でもどうやってここが?」
 動悸の激しい心臓を平静に保とうと努めながら彼女はお礼を言った。
 騎士がこの場に参上してくれた事で多少安心したのか、彼女も物を考えるだけのゆとりが戻ってきた。
「そんなの気にすんな、騎士が婦女子を助けるのは当然だ!
 でもラッキーだったぜ、勘とレイラインを頼りにここら一帯虱潰しに探すつもりでいたのに一番最初で大当たりを引くなんてな。
 おっと、それよりもアヤカはこいつを持ってた方が良いみたいだぞ?
 キャスターが相手だと流れ弾でも普通に死ねる」
 そう言うとセイバーはどこからともなくいつかの魔導剣を取り出し、再び少女に手渡す。

「え? ちょっと、コレ……セイバーは使わないの?」
「ああオレはいい。どうも今回はアヤカが魔導剣を持ってた方がいい気がする。
 キミにいきなりあんな真似を仕掛けてくる汚いやり口の連中だ。護りは多いに越したことはない。
 まあそれもいらん心配だろうとは思うけどな。なにしろキャスターはなぜか既に弱ってる」
 そう笑い視線を送った先にはかなりのダメージを引き摺るキャスターがいた。
「なぜか弱ってるだと!? ふざけるなよ!!
、お前が問答無用でキャスターを蹴り飛ばしたからだろうがこの野蛮人が!
 大体いつ俺らが脱落したって?
 寝言も休み休み言えよな、情報源の信頼性が低すぎるんじゃないか、ええ?」
 野人の如き敵の蛮行に激昂した間桐が吼える。
 目眩を堪えるみたいに額に押さえた魔道の英雄は未だふらふらと足下がおぼつかない。

 しかしそんな無様を晒しているのも今の内だけであった。
 キャスターの唇が微かに動く。
 そして、次の瞬間には全ダメージが綺麗さっぱり癒えた青年の姿があった。
「………ふぅ、これでよし。
 それはともかくとして魔術師に正々堂々の戦いを求められても困りますよセイバー。
 そもそもボクらの場合クラスの問題上、正々堂々など望めないのですから」
 傷が消え去ったキャスターがさっそく騎士の文句に苦笑した。
 だがセイバーは鼻息をフーンと荒く吹き出してそっぽを向く。
「ふん。そんなもん弱虫の言い訳じゃねえか。
 アーチャーのマスターが卑怯者だってのはとっくに知ってたけどキャスターもだったとは正直ガッカリだ」
 セイバーはキャスターの近くにいた間桐を一瞥くれると、
 すぐに興味のない素振りでキャスターの方へと向き直った。
 敵の眼中に無いといったそんな態度に自尊心が傷つけられたのか間桐が喚き出す。
「な、なんだと?! ぐぎぎ…! おいキャスター! そこの阿呆に痛い目を見せてやれ!!」
「なっ、マスターしかし相手は…! ここは一時撤退をすべきです!」
「黙れ! こうなったら同じことだ。目的を果たすのならどの道やるしかないだろう!
 戻ってきた時にアレがどうなってるのか分からないんじゃ今ここにいる意味がない」
「………………それも、そうですね。いいでしょうマスター、ではここでセイバーを潰します」
 マスターに諌められて本来の目的を思い出す。
 そうだ、ティルフィングを回収する前に撤退など出来ない。
 そんな真似をすればたちまちセイバーに魔剣が破壊されてしまうことだろう。
 もしそうなれば彼らのこの聖杯戦争の勝算はさらに低くなるのは明らかであった。
 ならばどの道戦うしか選択肢はない。

 相手の戦意を感じ取った騎士も意識を戦闘モードに切り換える。
 敵の出方を窺うように広く距離を開け、睨み合う二人の英霊たち。
「しかし戦う前にマスターに一つだけ伝えておく事があります。
 今の貴方が本気で戦えば仮に超一流の名門魔術師が相手でも勝利するでしょう。
 これは厳然たる事実です。ですので先に言っておきます。
 足下を掬われる前に敵は倒しなさい。
 前のマスターはボクが与えた複製刻印の力で増長してしまった。
 圧倒的になった己の力量を過信し、すぐ倒せる相手にも関わらず敵マスターと遊んだ。
 そのことは一度彼に敗れた貴方自身がよくわかっている筈です。
 そしてその結果が現在であるということも。
 敵を侮った彼が先に斃れ、必死に生き延びようとした貴方が今もこうして生き残っている。
 闘いで生き残れるのは常に必死で生きようとする者です。
 どうかマスター、あの少女に足下を掬われぬように────」

 セイバーに仕掛ける直前、キャスターはそんな乞うような独白をした。
 彼の元マスターであったソフィアリのように力に過信し溺れないようにと。
 それはいつか間桐燕二の身を滅ぼす毒になると。

 その願いがどこまで彼のマスターに通じたのかは分からない。
 間桐はキャスターの忠告に心底鬱陶しそうな顔をすると、

「俺に鬱陶しい説教なんぞするとはオマエ何様のつもり?
 そんなこといちいち言われるまでもなく……瞬殺してやるさ、あんな餓鬼───!!」

 猛るように吼えて少女に闘いを仕掛けた───!!




「仕掛けて来た……ッ! セイバーはキャスターを───」
「アヤカは前に出るな! 身を守ることに専念しろ! どっちもオレが相手をする!!」
 綾香の指示を聞かずセイバーが敵へと飛び出した。
 それと同時にキャスターと間桐の攻性魔術が火を噴く。
 両者共に発動こそ速いが内に秘めた破壊力は一級品の魔術だった。
 しかしセイバーは恐れを知らぬのか真正面から二大砲撃に突っ込んで行く。
 直撃する火砲。騎士を中心に一帯で大爆発が起こり激しい土埃が舞い上がった。
「ハッハー! まだまだーー!」
 間桐が景気付けの一発に歓喜の声を上げる。
 騎士の名を叫ぶ少女の甲高い声が響く。
 だが砲撃を放ったローブの魔道師はまだ終わっていないと知っていた。
 もうもうと立ち込める砂埃の中から白い影が飛び出す。
 驚く事に彼は殆ど傷を受けていないのかとてもピンピンしていた。
 マスターの制止も聞かず馬のような軽快さで戦場を駆けてゆく白騎士。
 とはいえあの俊敏さなら二秒かからず間合いを詰め切って、ついでに敵も斬り捨てられるだろう。
 しかしながら斬り捨てられるのを黙って傍観してくれる敵はいない。

「───開封。さあ、お行きなさい我が娘たち!!!」

 キャスターはまるで手品のように突如手元に一枚のカードを出現させると一言短く呪文を唱えた。
 すると次の瞬間にはこれまた手品のような不可思議さでカードの中から八体の可愛らしい西洋人形が登場した。
「全機投入、出し惜しみは抜きです」
 人形達は統率の取れた乱れぬ動きで一斉にセイバーへと襲いかかる。
 その可愛らしい外見とは裏腹に、少女人形らの手にはそれぞれ斧や剣や槍や短剣や鞭といった似合わぬ凶器が握られていた。

「ありゃ自動人形なのか…!!?
 へぇ、あんな綺麗な絡繰人形見たの初めてだぜ。おもしれえお手並み拝見だ!」
 笑みを零す騎士に八つの凶器が光る。
 敵を殺すという一切迷いのない太刀筋で八体の人形が同時攻撃を仕掛けた。
 瞬時に閃く八の剣光。
「────ぇ!?」
 可愛らしい小さな悲鳴。セイバーの武技によって阻まれる八の刃。
 続く連撃も同じ結果。何度やろうが人形達の武器が騎士に届くことはない。
 かつて最強と讃えられた聖堂騎士の剣が、鎧が、篭手が、完全に相手の連続同時攻撃を抑え込んでいた。
 口元に笑みを浮かべる騎士は余裕すら感じさせる。
 そしてその余裕は確かな真物であった。
 八つの凶器に身を晒されようとも緊張すらない落ち着いた態度。
 天賦の才とも呼べる勘と剣の腕がその自信を支えている。

 敵の圧倒的な戦闘技量を前に八体の人形達とその主人の顔に焦りの色が浮かぶ。
「く、やはり剣の騎士に該当するような英雄に白兵戦を挑むなど無謀ですか。
 あの様子だと手数の多さで辛うじて抑え込むのが精一杯……。
 隙を突かれて反撃に転じられたら瞬殺されるのも時間の問題。
 ………ならば、あの子達の誰かが壊されない内に戦術を変るとしましょうか!」

 このまま戦い続けても必敗すると判断した魔術師は分割思考で操作する薔薇人形に速やかに別の命令を送った。



「─────!! はい、お父様」
「───ん、なんだ? 逃げる気か?」
 命令実行は迅速だった。
 主人の出した新たなコマンドを受けたドール達は父の意のままに動き出す。
 次々にセイバーの周りから散開していく八つのフリル服。
 騎士も下手な深追いはせずに少女人形らの様子を見守る。

「────全刻印、発現……正統なる系譜は七と一だけに」
 すると人形達の誰かがポツリとそんな呪文を呟いた。
 呟きは伝播してゆく。他の人形も同様の台詞を呟き出した。

 そうして変化は瞬く間に起こった。
 人形達の小さな四肢に光って浮かぶ痣のようなモノ。
 セイバーと綾香は遠目からでもそれが何であるのかを瞬時に認識し、そして驚愕した。
「まさか魔術刻印!? そんな嘘、なんでそんなものがオートマタについてるのよ!!」
「おいアヤカ、オレ魔術にはそんなに詳しくはないんだが……。
 それでもあんなん普通は考えられないよな!!?」
 八人姉妹の華奢な細身に刻まれたアレは魔術が結晶した物───即ち魔術刻印に他ならなかった。
「ええ、まず考えられないわよ! 魔術刻印は一子相伝にして一族の秘宝みたいなものなの。
 あんな風にただの使い魔にホイホイと与えられるようなものじゃない……一体何者よあのキャスター?」

 綾香が口にした"ただの使い魔"という単語に余程の不満があったのだろうか、突然赤いフリルの人形が喋り出した。
「ただの使い魔、なんて聞き捨てならないわ。
 わたしたちはお父様の娘にして、魔道を歩む偉大な聖者に師事した七人の弟子たちの分身。
 ならばそんなわたしたちがお父様の魔術刻印を持つのは当然じゃなくって?
 うふふ、覚えておくといいのだわ。
 わたしたちは貴女のような地味で眼鏡で下品で下等な人間とは比べ物にさえならない存在なのよ?」
 などと赤フリルは小鳥の囀りのような可愛らしい声で最高にイカす罵倒を浴びせながら、最後に可憐な微笑を浮かべた。
 その表情はなんというか、女の綾香でさえ見惚れてしまいそうな……少女として完璧な微笑みだった。
 クリティカルヒットした騎士は顔を赤らめ放心している。
 それは綾香も同様で、彼女に至っては人形の罵倒に怒る事さえ忘れているらしい。

「およしなさい、はしたないですよ。ボクの娘が失礼を致しました。
 ああそれから同じく眼鏡を掛けている者として言わせて頂きますが。
 貴女のその眼鏡…大変お似合いですよ?」
 すると今度は人形達の父の方が赤い人形に諌めを、綾香には謝罪の言葉を投げかけてくる。
 そして見ているこっちの心がつい暖かくなってしまうような微笑みを浮かべた。
 赤フリルの可憐な微笑にノックアウトされた騎士に続いて次は少女の顔が僅かに赤らむ。
 セイバーと綾香の二人は夢想もしてないダブルパンチを受けたせいで現在戦闘中であるという意識さえ一瞬飛んだ。
 幸福な空白。死に繋がりかねない隙。
 だがそんな二人の放心状態を振り払ってくれたのは間桐の耳障りな罵倒であった。

「おい馬鹿共! 戦闘中に敵とナニやってんだよ! キャスターも人形どもも真面目にやれ!」
「…………ハッ! ぐおぁ、やべえぞアヤカ見るな! ま、魔性だ…ありゃ魔性の笑顔だぞ!
 な、なんて恐ろしい魔術攻撃なんだ……つい毒気を抜かれちまった」
「ハッ! そ、そうだった今戦闘中だったんだっけ?」
 我に返った二人。
 命のやりとりはまだ続いているのだ。隙を見せたら寝首を掻かれかねない。
 セイバーは気持ちを切り替えて自身を囲む八体の天使……いや違った訂正する。
 八体の小悪魔を見回し改めて白刃を構え直した。

「ちぇっ、折角相手が隙だらけだったのに余計な真似を……。
 あいつ嫌いですぅ。お父様の今のマスターかなんか知らねーですけど昆布の癖に生意気な……ぶつぶつぶつ」
「文句言ってないでいくわよ!」
 ドールたちに再び八つの殺意が灯る。
 セイバーも敵の動き方を地に伏す大型獣のように観察する。
 またも示し合わせたみたいに一糸乱れず一斉に動き出す西洋人形。
 今回の攻防はさっきまでのやりとりとはまるで正反対になった。
 まず攻撃を仕掛けてくる間合いが違う。
 ドール達は絶対に近接戦にならない遠中距離を保ったまま攻撃してきたのだ。
 次に攻撃の手段が違った。
 彼女達はそれぞれが手にしていた武器は用いず、ただ小さな両手を騎士の方へと向ける。

 すると次の瞬間…、
 魔力が爆ぜ、怒涛の勢いでセイバーに対し絨毯爆撃が降り注いでいた───!!

 思わず絶叫するセイバー。
 過剰なまでの火力投入は地表を丸禿げにしかねないだけの威力があった。
 驚くべき事にドール達の言葉は嘘偽りない真実だった。
 設計段階から人間ではない彼女らは人の上を行く魔術行使を可能とする。
 敬愛する父から授けられた複数個の魔術刻印はその異能を存分に発揮し、親の敵を討たんとフル可動する。
 ましてや彼女らに与えられた魔術刻印はキャスター自身が選りすぐったの名門家系の刻印。
 ソフィアリや間桐に貸し与えられた刻印など虚しく思えてしまう程の純然たる質の差が存在していた。

「──ゴア、うがぁ痛…ッ! こ、このぉ…、あの人形ども可愛い顔してなんて破壊力なんだよ!!」
 過去確かにこの世に存在した魔道の力は暴風の如き魔術となって騎士を襲っていた。
 薔薇人形達の出来過ぎた連繋は指揮官でもあるキャスターの技能によるものだろう。
 おかげでドール達の四方八方からの休みなく続く激しい弾幕に磔にされた騎士は身動きが取れないでいた。
 しかしその事自体は聖堂騎士からすればさしたる窮地ではない。
 セイバーの高い対魔力を以てすれば半端な魔術は無効化し、高威力の魔術でもその大部分の威力を削減出来るからだ。
 さらにローラン自身にも生前の経験から魔術に対して素で高い耐性がある為、仮に対魔力の壁を貫通されても致命傷にはなり難い。
 だが、あれは少しばかりマズイと彼の本能が警戒音を発していた。

 セイバーが問題とし真に脅威を感じているもの、それは………


「─────大いなる雷鳴を喚べ。黒き闇雲を裂いて一筋の光を。その不浄の身を焼き滅ぼす天の雷を。
 定められし運命に従い吾が今地上に天意の刃を突き刺すのは、我らが神の与えし試練と死である─────!!!!」


 ドール八姉妹を前衛に展開させる事で、自身は後方から悠々と長詠唱による大魔術の準備しているあの優男───!

「ぶっ殺してやれキャスター! 肉片も残すな!!」
 真下に振り下ろされるキャスターの指先。その動作は落雷を連想させた。
 十以上の小節を以て簡易的な儀式と成す瞬間契約《テンカウント》詠唱にさらに余剰な呪文を加える事でその大魔術は威力を増す。
 天が刹那の明かりを灯して、空は黄光の歪な縦線で分割される。
 ランクに換算すればA+を超える雷の槍が聖堂騎士の身体を容赦なく撃ち貫いた───!

「がぁぁああああうあああああぁぁああああああああああーーーーーーーーッ!!!」
 絶叫は騎士の喉から迸っていた。
 圧倒的な豪雷の余波が大地をバチバチと焼き払う。
 派手な魔力放射と物理的な爆発により激しく目が眩む。
 セイバーの全身を瞬き以上の速さで走り抜けた鋭敏な激痛。
 聖堂騎士の高い対魔力でさえ貫通し十分な損傷を与えられる魔術攻撃に綾香は戦慄した。
 落雷の直撃を受けよろめくセイバー。少女の心配そうな叫び声に騎士の魂が奮い立つ。
「が、……ぁ、は…い、痛ってぇえだろがぁあああコンチクショウーーー!!」
 セイバーが怒りを起爆剤にして落雷のショックから持ち直した。
「うわぁああッ!? ももも持ち堪えやがったぞアイツ!!?
 キキャキャ、キャスター! キャスターもう一度喰らわせろすぐにだッ!!」
「今のを受けてまだ元気とは、流石ですね……!
 やはりたった一発で沈んでくれるほど生温い相手ではありませんか。
 ────おまえたちもう一度です、いきますよ!!」

 キャスターが娘たちに合図を送る。
 父の意を察した人形達が僅かも乱れぬ動きでセイバーに再攻撃を仕掛ける。
 先と同じようにドールズが弾幕を張って標的の動きを封じ込め、後方のキャスターが本命の主砲を撃つ。
「ぬわあああああああああああーー!! こ、こ、この……ぉ! もうあったまにきたぞ!!」
 走る閃光。深い群青の夜空が白色線で分断される。
 見事な命中精度で再び豪雷がセイバーを直撃。
 騎士の全身を痺れるような鋭痛が苛む。ダメージは致命傷という程ではないが決して軽くもない。
 だがこのまま延々と喰らい続ければ、いずれはジリ貧で死ぬ結末になるのも分かる。


「セイバーはボクらが引き受けます。マスターは今の内にあの女の子を倒してください」
「よしいいだろう。しかし絶対奴からマークを離すなよ!」
 そう言いつけて間桐が綾香の許へと向かって行く。
 サーヴァントはサーヴァントに任せて、マスターはマスターで一騎打ちを挑むつもりでいる。
 小煩い弾幕の集中砲火を浴び続けながらも騎士は主の様子を窺った。

 ────すぐに沙条綾香と間桐燕二によるマスター同士の魔術戦は始まった。

 二名の魔術師の詠唱と魔力の猛り。破壊に特化した攻性魔術が激突し合う。
 衝突して散る火花。巻き上げられる土塊。
 死傷させるつもりで放つ魔道の弾丸は氷塊と火炎と真空刃の形をしている。

 それにしても奇妙な違和感を感じざるえない闘いだとセイバーは思った。
 不自然なぐらいに間桐の能力が上昇しているのが遠目からでも見て取れる。
 以前の印象からだと奴にあんな力はなかった筈だ。
 それは少女の方も同じ思いなのか、驚いた表情のまま間桐と矛ならぬ魔弾を交えていた。
 綾香は明らかに苦戦している。いやむしろ圧されていた。
「あーはっはっは! 最高の気分だ、これが力ってやつか!」
「うぅ……、ど、どうなってるのアイツ!?」
 雨生戦で見せたあの圧倒的な火力を惜しみなく使っているというのに彼女の攻撃は間桐に届く気配がない。
 両名の間には圧倒的な力の差がある。
 間桐が異常に強い。鉄壁の防御能力。一息で撃ち出される攻撃魔術は機関銃の如し。
 綾香に出来るのはただ全力で魔力を総動員して大砲を撃つ事だけだった。
 小手先の技が通用するような実力の術者ではない。
 最大の一撃を繰り出して単純な力勝負に持ち込むしか彼女に生き延びる術はなかった。
 間桐は生まれ変わったような感覚に興奮を抑えきれぬ様子で悦の入った高笑いをしている。
 この私闘で少女に運気があるとすれば、それはセイバーが予め魔導剣を貸してくれていた事であろう。
 様々な魔術を無力化してしまうこの概念武装は今や彼女の生命線と言っても過言ではなかった。


「ま、マズイぞ…この状態じゃいざって時に助太刀もできねえじゃねーか!」
「こちらはそんな真似をさせるつもりはありませんがねセイバー!」
 キャスターが詠唱を完了させ術式を発動させる。また雷が来ると騎士は身構えた。
 が、予想を裏切るようにして今度は足下から天空へ向かって特大の火柱が噴火した。
 真っ当な生き物ならば、まずこんがりと焼き上がるだけの熱量。
 しかしどうやらこの男はまともな生物には該当してなかったらしい。
 軽く煤焦げた身なりにこそなったが火柱の中から現われたセイバーは未だ健在。
 反撃は迅速に。突進は鼻息荒く猛牛の如し。
 何人たりとも我が勢いは止められんとばかりに魔術師目指して疾駆した。
 危険を察知したキャスターとドールズが一斉砲火で弾幕を張る。
 だがセイバーは十字砲火などお構いなしに前進し続ける。
 多少の痛覚は歯を食い縛って我慢と根性でなんとかなるものだ。

 キャスターとの勝負に勝つにはとにかく時間を与えないこと。
 疾風迅雷の電撃戦こそが勝利の鍵となる…!

「───いける! 今度こそ叩き斬ってやらあ!! まずはおまえだ赤いのー!
 いくら可愛い女の子の姿してるからってこっちも我慢の限界があるぞぉぉウオラァ!!」
 キャスターへと突撃する進行上に赤フリルのドールがいた。
 まずはあのドールを斬り捨てて敵の援護射撃の絶対数を減らしてやる。
 手加減する気はとうの昔にお空の彼方へ飛んでいった。

 騎士は行けると確信した。
 そして同時に魔術師は捕らえたとほくそ笑んだ。


「「「────薔薇の茨は蜘蛛の糸。傷つけ搦め捕る茨の巣───」」」


「──────あ!!?」
 息もつかせぬ一瞬の早業。
 セイバー目掛けて四方八方から八匹の蛇が伸びる。
 八つの詠唱が聞こえたと思った直後、セイバーはあっと言う間に身体中を八本の紐に縛られていた。
「ぐぐ……、な…なんだとぉ!? くぬっこの! ほ、解けないぞこれ?
 キャスターオレに何しやがったんだ!!」
「ボク一人では貴方を倒すのは大変骨が折れる。
 なので共闘する者に頑張って貰うのはバトルロイヤルなら当然の策でしょう?」
 人形達の可憐なクスクス笑い声が耳に届く。それで騎士にもなんとなく察しがついた。
 キャスターやドールズの様子ではここまでが折り込み済みの作戦だったらしい。
 言い訳の余地もないぐらいに自分はまんまと敵の術中に嵌ってしまったのだ。

 そして彼らの作戦の大本命である綾香と間桐の勝負の行方はというと───、
 綾香チームの雲行きが些か怪しくなっていた。
 より激しさを増してはいるがやはり戦況までは変わっていない。
 攻勢を強める間桐を綾香がやっとこさ踏ん張って騎士が援軍に来るまで持ち堪えている状態だった。

「……クソッ! この位簡単にぶち破ってやるさ!
 このやろ、これで、どうだ、うりゃ、おりゃ、痛たただだだー!??」
 蜘蛛の巣から逃れようと必死に足掻くが動けば動く程に紐は絡まる力を強くし、その圧力は茨の棘のように傷を与えた。
「いい加減に無駄な足掻きは止めたらぁ?
 お父様が下さったこのロザリオと私たちドールズ八体が力を合わせれば貴方程度のお馬鹿さんならご覧の通りよぉ。
 フフフ、後でお父様によくやったって褒めて貰わなくっちゃ、うふふふ!」

 一番姉っぽい黒いフリルが首から提げた薔薇十字の装飾品をこちらに見せびらかして哂う。
 それをよ~く観察してみるとロザリオからはかなりの魔力を感じた。
 とすればあの立派な細工が施された装飾品は礼装の類か……!

「キャスターおまえ……自分の使い魔に魔術刻印だけでなく礼装まで与えてたのか!」
「ご名答です。ボクの娘達には事前に彼女達の魔術行使を補助し増強する礼装を渡しておきました。
 礼装と魔術刻印を装備させた娘達が全員で拘束魔術を使えば辛うじて貴方を捕らえられるレベルに届く。
 ああそうそう無論あのロザリオもボクが愛情込めて丹念に作成した逸品ですよ。
 娘達への贈り物の意味もありましたので。
 しかしそれもこれも全てはセイバーを倒す為に準備していたもの。
 貴方と戦うのなら最強装備で挑まねば勝負にすらなりませんからね。
 この勝機、逃すつもりはありません……お覚悟を。
 貴方とあの少女には申し訳ないですが勝たせて頂きます────!!!」
 キャスターの両掌に魔力が凄まじい速さで集束してゆく。
 ビリビリとした威圧感がする。やや危険な臭いまでぷんぷんしてきた。
 セイバーの頬を一筋の冷や汗がつたう。


「────儚き終幕を以て世界は終わる────」


 そして……これまでの魔撃の中で一番ヤバそうな一発がとうとう放たれてしまった────!!

「──────────あ」
 夜天が一瞬光り輝く。
 蜘蛛の巣で雁字搦めになった昆虫のような格好では躱すことも防ぐことも出来ず────
 鼓膜を破裂させんばかりの大爆裂と閃光がセイバーを一気に呑み込んでいった……!!


 魔術師の渾身の一撃が生んだ破壊は戦慄を覚えざる得なかった。
 単純な破壊力だけなら下手な宝具とさして変わらない。
 まるで自然災害にでも遭ったかのような……、
       周辺一帯は無残な荒地に豹変してモクモクと土煙が立ち昇っていた───。 

「はぁはぁはぁ……、────ッ…!!?
 ふ、フフフ…! そうですか、やはりそう簡単には倒れてくれませんか。
 流石はかつて世界最強の座に着いたパラディンというわけか……おのれッッ!!」
 吐き捨てられた呪詛は苦々しく、温和なキャスターにしては非常に珍しい悪態。
 心配そうな表情で八体のドールが愛しの父様の憤りと指先から伝わってくる恐怖を感じていた。


 怒りでも吐かなければ耐えられない現実が聖人君子の眼の前に堂々と"立っていた"────。

「ハアハァハァハア…ァっ! ナメんなよ、この程度の軽い攻撃でオレが死ぬ筈ないだろう……!」
 キャスター最強の一撃をまともに喰らってもまだセイバーは生きていた。
 白き外套は破れ、甲冑は所々が砕け散り、肉体は様々な箇所から血が流れている。
 だがしかし致命傷に至る深傷は一つ足りともない。
 雁字搦めに拘束された格好のままではあるが、煌く聖剣を握り締めたまま最強のパラディンは雄々しく立っていた。

 我こそはフランク帝国最強の聖堂騎士。
 膝を着くことなど有り得ないとまるでその雄姿で証明するかのように──。

「行くぜ魔術師。ここからが……互いに本気の決闘だ」
 ───キチン、と納刀時に鳴る金属音がセイバーの脳内で反響した。
 その心地良い音は脳内を侵食し肉体を変質させる。
 騎士の全身が戦う為だけの機能を追求した性能にシフトしていく。
 敵を侮っていたのは変え難い事実。
 心の底では対魔力スキルがあれば取るに足りない相手だと油断していた。
 なんて傲慢な油断……眼前にいる魔道士は伝説にその偉名を残すほどの実力者だったというのに……!

「体はちゃんと縛ったのに剣を持つ手首にまでは気が回らなかったらしいな」
 セイバーの眼に光が灯る。
 先の大技の影響なのか腕足や胴体部分と比べると右手首に微かな緩みがあった。
 破壊可能な脆弱点を見つけたと語る恐ろしい瞳にドール達は悲鳴を上げた。
「お、お父様逃げ─────」
 走る一閃。
 それは手首だけで振るわれた斬撃なのにこの上なく美しい剣閃だった。
 止める間も逃げる暇も貰えず、一本目の切断を皮切りに次々と断線されてゆく薔薇人形達の束縛呪糸。
 騎士の血が滾る、身体が軽い。
 ドールズが張った蜘蛛の巣を力技でブッ千切ってやる。
 そして間髪入れずに走った。

「──まず一体」
「えっ…………?」
 男は突風の化身なのか、気付いたら赤ドレス人形のすぐ眼前にその騎士はいた。
「逃げなさい!!」
 そして剣の風が幾重にも吹き抜けた。
「お父───」
 自分の身を案じてくれる父様の叫び。それが赤い洋服の童女が最期に耳にした福音だった。
 人間よりも美しかった少女の完璧な造形美はもはや原型を留めていない。
 ここに転がるのは見事にバラバラにされ地面に散乱する赤い布切れとガラクタ。
「く……、よくもボクの娘を…おのれセイバーーー!! 貴女達援護なさい!」
 キャスターの命令に従い残り七人のドールズが父の魔術行使のバックアップを実行する。
 展開された魔道書を左掌に乗せ右手は前方へ突き出す。
「───滅びの風───!!!」
 キャスターの掌から触れた物体を瞬く間に風化させる死の突風が巻き起こる。
 ドール達の援助を受けてより強力な術に昇華した魔風は草木や石を粒状の物体に分解させながら騎士へと襲いかかった。
 だがしかし、それでもこの敵にはまだ遅すぎた。
 突風は再び走り出したセイバーに触れる事さえ叶わず通り過ぎてゆく。
 そして次の瞬間には、別の場所に立っていた翠色の人形の首が為す術なく落下していた。
 さらにその近くにいた蒼いドールがセイバーの首をちょん切ろうと凶器を振りかざす。
 交差する二つの刃。
 スピードの次元があまりに違い過ぎる。
 ドールの素早い動きなど騎士にしてみれば欠伸が出そうなくらいに薄鈍い。
 こうしてまた一体の人形が抵抗も空しく破壊された。

 それがきっかけになったのかは定かではないが、指揮者であるキャスターに動揺が生じたのか、それとも人形達が恐れをなしたのか。
 それまで完璧に統率の取れた動きをしていたドール達の連繋が急に乱れ始めてしまったのだ。
 そうなってはもう結果は見えていた。
 一体、また一体とセイバーに次々と各個撃破されていく自律人形。
 キャスターの遠距離からの魔術攻撃はスイッチの入ったセイバーにはもはや掠りさえしなくなっていた。

「お前で最後だ!」
「お父様助け──きゃあああぁぁ……!!」
 そうしてとうとう最後のドールの断末魔が戦場に響き渡って消えた。
「…………なんて…こと……。バケモノですか貴方は……!」
 キャスターの声が身の毛もよだつ戦慄で震えている。
 セイバーが拘束を破ってから本当にあっと言う間の出来事であった。
 時間にすれば一分……いや数十秒も経っていない。
 しかしそのたったの一分間がセイバーとキャスターの立場を逆転させるのに必要な時間だった。

「さあ、ようやく本番だぜ。無論覚悟はいいなキャスター」
 獲物の喉笛を噛み千切るべく獣が疾走を開始する。
 獣を追い散らそうと必死に魔術師の掌から魔弾の雨が乱射される。
 が、援護を失ったキャスターの魔術ではセイバーの対魔力の厚壁に阻まれ、その直進を止めるには火力がまるで足りていない。
「───ア、ガ……ごふっ!!!?」
 剣閃の煌きが冴える。
 断末魔の悲鳴と逆流して食道から吐き出される血塊。
 この一連の動作を仮に例えるならば、電光石火の早技と形容するのが最も相応しいだろう。
 騎士が疾駆を始めて魔術師の懐へ踏み込む足をキャスターの眼球が辛うじて捉えた瞬間には彼の体は真っ二つに両断されていた。
「勝負ありだ、キャスター」
 残心する騎士の背後では、血の雨を降らしながら魔術師の上半身が宙を舞い躍る。
 素人の目から見ても勝負あり。文句なしにセイバーの一本勝ちであった。



 ─────だがしかし、ここにいるのは怪我や病で苦しむ者達を癒した聖者として名を馳せた魔術師。

 肉体を欠損した程度で簡単に死ぬような腕前ではそんな奇跡は伝説にはならない─────!!



「───時よ巻き戻れ、そしてその傷を否定しろ────」
 瀕死の唇から紡ぎ出される呪文。
 するとキャスターの時間が逆行する。
 まるでそんな事実《キズ》は無かったと言わんばかりの奇怪なビデオの巻き戻しが騎士の目の前では起こっていた。
 間違いなく真っ二つになっていたキャスターの胴体が元の一つの形に戻っている。
 治癒魔術の範疇を大きく越えている。
 あんな奇跡の所業など聖堂騎士はひとつしか知らない。
「ふ、復元呪詛……? 貴様…吸血鬼だったのか!!」

 復元呪詛───それは主に吸血鬼、つまりは死徒がその肉体に宿している治癒の呪い。
 その本質は欠損した肉体の再生ではなく、局所的な時間の巻き戻しで損傷を復元する呪法である。

 吸血鬼呼ばわりされた青年は不快そうな顔をしながらも、まずは騎士と間合いを出来るだけ開けることに専念する。
「は、ハッ、ふぅぅ…。何を馬鹿なことを。
 いくら人を救う大義があろうとも他者の命を吸わねば生きられぬ吸血鬼に身を堕とすなどボクらの信仰する神は赦さない。
 これは死徒になった事で得た神秘ではありませんよ。
 単に自らの得意分野を極めんとした成果の一つに過ぎません。
 なんでしたら貴方の手足を焼却させたのちに一瞬で元通りに復元してご覧に入れましょうか?」
「…………驚いたな、復元の治癒術を一瞬で使えるのかよ?
 モージの話だとありゃ確か大魔術に分類されてた筈だろう?」
「完全に死に絶えた死者を蘇生させる奇蹟こそ持ちませんが、
 そうですね、死人になるまで0,0001秒でも残っていれば見事蘇生させてみせましょう」
 キャスターの堂々とした宣言にセイバーの視線がより鋭くなる。
 どうやらこのキャスターは治癒魔術と非常に相性の良い魔術師であるらしい。

 倒し切るのに少々骨が折れそうだな……。
 と、内心舌打ちしながら騎士は再び猛然と敵に襲いかかった。

「……オリャァ!!」
 白き疾風の一閃。
 手加減一切無しの一斬必倒のつもりで聖剣を派手に振り抜いた。
 キャスターからの迎撃はない……否、迎撃など間に合わなかった。
「ガッ───、ぐぁああああああああー!!!?」
 魔術師の喉から絶叫が轟く。
 騎士を撃ち殺す為に青年がローブから伸ばしていた右腕が───無い。
 彼の右腕は聖剣の鋭利な切れ味によって両断され、肉体の了承も得ずにお空の彼方へと飛んで行ってしまった。
 だが鋭利な痛みにのんびりと悶絶している場合ではない。
 キャスターの眼前には鬼よりも恐ろしい聖堂騎士が自分にとどめを刺すべく刃を振り上げている。
「だったら頭を潰されたらどうなる?」
「くっ、アアアアアアアアアァァア!!」
 せめて落ちる聖刀に脳天を破壊されまいとキャスターの首が横へ逃げる。
 しかしそんな足掻きをしたところで────身体を袈裟にバッサリと斬られる事に変わりはなかった。
 当初の狙いを外しこそしたがセイバーの手から伝わる手応えは十分であった。
 今までこの手応えで耐えられた敵はいない。

「ま、まだまだ……!! こんなところで、まだ終わってなるものかッ!」
 しかし眼鏡の優男は不死者かあるいは不死鳥なのか。
 キャスターはまたしても復元の呪いによって戦線へと舞い戻ってきた。
 致命傷だった袈裟状の裂傷も、両断された右腕も完全に元通りに戻っている。
「くそっまたか!!」
 騎士も魔術師を殺し尽くさんと怯まず前に出る。


 いつかのセイバーとバーサーカーの血戦も両者血塗れの凄惨な殺し合いだったが、今回のはそれをさらに上回っていた。
 何度でもキャスターの胴を裂き手足を斬り落とすセイバー。
 それに対して決して死ぬまいという決意と闘志を胸に何度も肉体を復元させるキャスター。
 キャスターの流血によって血肉の沼が次々に生まれ、血の雨が数え切れない程に降った。
 並の精神ならばとうに壊れてしまってもおかしくないような激痛をその身に幾度も浴びてまだ魔術師は秘術を行使し続ける。
 キャスターの精神を支えているのは悲願を成就させんとする清らかな祈りだ。
 人間の幸福の為。
 人類の霊的進化を果たす為。
 その為にはこんなところで斃れる訳にはいかないという信念が死ぬ事を許さない。

 セイバーの剣が届くような間合いに潜り込まれた時点でキャスターにはとうに反撃する余裕もないのだろう。
 攻撃魔術を撃つ事もせず、亀のように身を固めてただひたすらセイバーの猛攻に晒され続けていた。
 もう何度目か数えるのも億劫になる位に繰り返された致命傷になる一刀。
 脳を焼き焦がすような苦痛に魔術師が無意識に呻く。
 なのに彼の肉体は時を巻き戻すのを止めない、だから死なない。
 こんなものは拷問と変わらない。
 眼を背けたく惨たらしさに攻撃しているセイバーの方が苦しそうだ。


「ま…、だ……まだです、こんなことで、ボクは倒れ…ない!
 ボクのせいで散った……娘たちや、ラウネスの犠牲は…、無駄にはしません」
「キャスター……おまえ…ッ! なんでそこまで耐えられるんだ!?
 とっくに絶命しててもおかしくないって分かってるのか!?」
 理解出来ないとセイバーが叫ぶ。
 しかし騎士の疑問にキャスターは微かな笑みを口元に作って答えた。

「うゴぐ?! あ、貴方にはわからないでしょうね、…ご、ふっゴ、ハ!!
 どうやっても救われぬ者が救われた時の歓喜を。
 神にこの世界で生きることを赦された人間の幸福感を!!
 ボクは決して忘れない、忘れはしない───。
 賢者達に救われた瞬間に感じたあの生の衝動を、この手で救った者達の歓喜の笑顔と涙を!
 あの衝動を! あの喜びを! あの慟哭を! あの生命の実感を!
 救われぬ全ての者に与えてやれるのならと、その一心でここまで来たんだ!!」

 キャスターの魂が燃え上がる。
 胸に篝火を灯せ。そして己が背景を、与えられた使命を思い出せ───。

「自分を神に選ばれた救世主などと驕るつまりはありません。
 けれどボクは選ばれた。
 神にではなく、時代が、救われたい人々が、ボクを後押しし英雄として選んでしまった!
 混迷する旧時代を打倒する新時代の希望の種として、この身は選ばれてしまったのです。
 そして我が団の理念は……予想した通りボクの死後、後の世で欧州全土に爆発的に広がりました。
 それが何故だが貴方に分かりますか? 人々はただ純粋に救われたかったからです。
 ボクが生きた時代も後世もその一点だけは何の違いもなかった!!」

 いつの間にか騎士の攻撃は止んでいた。
 彼はただ無言のまま真剣な表情で聖者の告白に耳を傾けている。

「薔薇十字団結成から幾つもの世紀を越えてどれほどの年月が流れようとも、
 団の存在がこの世から消え失せないのは───人々が声にならない声でボクに救いを求めているから」


 ────それを想えばこの程度の苦しみなど耐えられる────


 聖者は瀕死の重態の癖に、妙なまでに底力に満ちた瞳がそう宣言していた。

「それが───聖杯に懸ける、悲願……」
 ゴクリ。とセイバーが喉を鳴らす。
 まるでショックを受けたか気圧されたような行動だったが、騎士はすぐに頭を振って気持ちを切り替えた。

 そんな敵の瞳を視てセイバーは一つの確信をした。
 キャスターを倒すなら今のままではまず無理だと。
 こちらの攻撃力と相手の回復力が完全に釣り合ってしまっている。
 いくら猛攻を加えて斬り裂こうと、こちらの与えたダメージをそっくりそのまま回復してしまうのではキリがない。
 殲滅するのなら今まで以上の攻撃力でキャスターを攻め立てるしか勝利の術はない。
 いつまでも愚図愚図していては今もああして必死に間桐の猛攻に耐えている綾香が先に殺されてしまう。
 戦況を立て直すべくセイバーは一度大きく距離を開いた。

「魔術師であるにも関わらず他者のために立ち続ける清らかなその決意、本当に見事。
 貴様はオレの知る時代に蔓延っていたどの魔術師とも違う。
 刃を交えてみてわかったが邪悪さが微塵も感じられない。
 その様子だとこちらの真名は既にバレちまってるようだが、オレは貴様の名をまだ知らない。
 キャスター改めておまえの名を訊こう!
 我は誉れ高き聖堂王シャルルマーニュの十二聖堂騎士が筆頭ローラン、そなたは?」

 セイバーのそのあまりにもストレート過ぎる問いにキャスターは一瞬だけどうするか考えた。
 が、既に彼の最大の特性でもある治癒術を見せてしまった後では真名を隠す意味は殆どないと悟り、
「薔薇十字団初代団長、クリスチャン・ローゼンクロイツ」
 素直に聖堂騎士の名乗りに応じることにした。

「クリスチャン・ローゼンクロイツ…………。
 そうか、おまえがかつて教会が血眼になって追ってたっていう"聖なる異端者"か。
 ……チッ、当時の教会の中枢には節穴しかいなかったのかよ。
 どんな破戒僧かと思ったら全然まともな人物じゃないか。シャルル王なら喜んで臣下に迎え入れてる位だ。
 もしおまえがオレの生きた時代にいればきっと共に戦う仲間となれていただろうにな。
 生まれた時代が違ったのが残念だ」
 告げられたキャスターの真名にパラディンは僅かな驚きと共に憤りを感じずにはいられなかった。
 こんな逸材が異端扱いされるとは……。
 いや逸材であったからこそ脅威を感じた枢機卿らが異端者として指名手配したのだろう。

「だが…負けられないのはオレとて同じこと!!
 その高潔な精神、騎士たる礼儀を以て全力で挑ませて貰う───」

 しかしそれと勝負の行方は別問題だ。
 セイバーにもキャスターと同様に必ず救わねばならない人がいるのだから。
 黙ってその権利を譲る訳にはいかないのだ。

 ─────セイバーは天使の聖剣デュランダルに祈りを捧げた。
 天高く振りかざされる白刃。黒鉄の刃が蒼白い聖光に包まれる。
 聖堂騎士の無心の祈りに反応して、ここに聖剣の第三奇蹟が発現する───。

「それが、かの名高き聖剣デュランダルの能力ですか……」
 聖剣から放たれる尋常ならざる気配にキャスターは危機感を急速に強めているのが分かる。
「キャスター、知っての通りおまえが相手ではデュランダルに"破邪"の力は宿らない。
 ただ純粋に、何物をも凌駕する切れ味を誇る聖刃でしかない。
 しかし勘違いはしないでくれ。パラディンの誇りに賭けてオレは全力で貴様に挑む。
 きっとこの剣が貴様の無限回復を停止させる切り札となろう───いざ、ゆくぞ────!!!」

 セイバーが咆哮を上げた次の瞬間、蒼白い神風が吹き荒れた。
 僅か一歩で自身をトップスピードに持っていったセイバーがキャスターに斬りかかる。
 白銀の閃光が大地を殺す勢いで薙ぎ払われた。
 キャスターは考える暇もない。
 応戦する暇も、間桐と共に瞬間離脱する暇もなかった。
 何もかもが次元違いに速すぎる。
 肉体を稼動させる速度も、常に変動する状況への反応速度も、戦うという思考速度も───。

 限度を超えた鋭さは対象に自身が切られたという認識を与えない。
 騎士の斬撃の後、数秒の空白を挟んで魔術師の身体から色鮮やかな血飛沫が上がる。
「───カハッ!? そ、そんな…馬鹿な!!?」
 キャスターは驚愕に眼を見開いた。
 信じられない、気付いた時には斬られていたなんて……絶対にありえない!

 魔術師の肉体はすぐさま受けた傷を復元し始める。
 瞬く間に塞がってしまった裂傷。
「どりゃあああああーーー!!!」
 だがその復元した傷痕を即座にセイバーが抉る。
 そしてまた肉体は復元され、さらに新たな傷が生まれ、塞がるを再び繰り返す。
 荒ぶる騎士はまるで嵐神のようであった。
 縦横無尽に振るわれる無数の刃は真空刃となって前に立つものを破壊する。
 セイバーが聖剣の本領を発揮させた途端、それは眼に視える形となって両者の前に現れ始めた。

 ─────キャスターの傷の復元がワンテンポ遅れ始めている。

 それはつまりキャスターの回復力をセイバーの攻撃力が上回っているという明確な証だった。
 たとえ"破邪"による退魔の特性がなくともデュランダルはそれ自体が人の手ならざる名剣である。
 ひとたび第三奇蹟を発現させれば、強固な盾や鎧を紙の如く一刀両断する程の攻撃力を得る。

「ごぶ──……、う、う、嘘だ…! そんな、回復が追いつかないなんて……ある筈がないんだ!!」
 セイバーの破壊力に負けじとキャスターもアクセルを全開にする。
 騎士の攻撃を無意味にする速度で損傷の復元がなされる。


 しかしその行為は、キャスターの敗北を確実にしてしまう破滅のスイッチであった────。


 魔術とは基本的に等価交換を原則とした神秘の所業である。
 無論キャスターの復元呪詛も彼自身の魔力を燃料に発現させている神秘でしかない。
 これまでが術者に最も負担の少ない最適化された状態の呪法であったとすれば、
 現在の復元の呪法はもはや暴走に近い有り様だった。
 無理を承知でエンジンを酷使し続ければ、いつか必ず燃料《まりょく》が底をつくのは当然の道理。


 そうして十合目の斬撃の末、

 ついにキャスターの復元《エンジン》は停止した──────。





「──────ぁぁ」
 胸に走る狂いそうな激痛と凍えてしまうような地面の冷たさ。
 そして視界に広がる天上の綺羅星が教えてくれた。

 ───そうか、ボクは敗れたのか…。

 そこでようやくキャスターは自分が仰向けに倒れている事実に気が付いた。
 言うまでもなく戦場で大の字に倒れるのは敗者の役割だ。
「最後の一太刀でサーヴァントの現界の核たる心臓を完全破壊した。肝心の復元呪詛ももう働いていないようだ」
 敗者《キャスター》を見下ろす勝者《セイバー》の静かな声が耳に届く。
 彼の言うように復元呪詛は仕事を完全に放棄していた。
 無理もあるまい、大魔術である復元魔術を無茶苦茶に乱用をしたのだ。
 あんな使い方をして魔力切れを起こさない方がおかしい。
 冬の澄んだ夜空には満天の星々や星座が輝いていた。
 ああ…なんて美しい世界だろうと、血と共に流れ出る生命の終わりを感じながらキャスターは思う。
 それにしても最後の一撃は本当に強烈だった。
 気持ちがよくなるくらいに清々しい一閃。まるであの流れ星のような煌輝だ。
 そんな益体もないことを血の通わぬ胡乱な頭で考えながら、

「残念だけど…おまえの、負けだキャスター……ッ」

 溢れそうになる涙を堪えて唇を震わせながらそう告げる聖堂騎士の言葉をゆっくりと受け入れた────。



 初めて───。
 ローランは生まれて初めて斬り捨てた後で己が行ないの是非を葛藤した。
 本当にこれでよかったのだろうか?

「オ、オレは──…、オレの願いは……」
 斬り伏せたキャスターを見下ろしながらセイバーは自らに問うた。

 果たして、己の悲願はキャスターの祈りよりも尊い願いであるのだろうか────?

 勝者になるということは即ち、他者の悲願を踏み潰すことに他ならない。
 彼の言う聖杯を人類の幸福の為に使うという願いは紛れもなく本当だろう。
 否、真実だからこそ騎士は自問してしまう。
 オードを救うという願いは、この尊い願いを踏みにじってまで叶えるに値する祈りなのか、と。
 いやそうではない。
 もし本当にオードを救う為だけに戦っているのならばきっと胸を張って是と宣言出来る筈だ。
 そう出来ないのは恐らく、自分の願いが純粋ではないから。
 本当に無意識下で自身を救おうとしていないのか。と問われればきっと答えられなくなるだろう。
 すこしだけ、むねが、いたい……。
 この聖人が抱く清き祈りと比べれば自分の悲願はなんと利己的で浅ましい欲望なのであろうか。


「ああ……、これはなんて、ひどい、病、でしょう。
 ゴホッ、いい、でしょう…ボクの、最後の仕事、です。貴方の病を癒しましょう────」

 たとえそれが自身を倒した敵であったとしても、
 癒しの聖者は目の前で苦しむ最後の患者を見捨てはしなかった。
 騎士の胸の奥底にとてつもない痕が視える。
 その病が今もなお彼を苦しめているのが聖者には手に取るようにわかった。
 ならば癒さなければ。最後まで己の使命に尽力しなければ。

「お気に、なさらずにセイバー。貴方はボクに…勝ったのです。
 聖杯に選ばれる…のは、初めからただ、独りの勝者……のみ。
 願いや祈りに貴賎はありません。だから貴方は胸を張って聖杯を、掴めばいい───」
「キャスター──……?」

 キャスターは微笑みを湛えて、苦悩で顔を歪ませる聖堂騎士の悲願を肯定した。
 心からの願いに貴賎などありはしない。
 それは司教が神に捧げる祈りと一介の信徒の祈りに差などないのと同じ。
 否、純粋な想いに差などあってはならないのだ。
 だから、聖堂騎士の願いも魔術師の願いにも差なんてないのだと、キャスターはそう思う。

 もはや肉体を維持出来ぬ程の傷を負ったキャスターの身体が足先からサラサラと崩れ去っていく。

「終わりですね────だけどボクは諦めません。
 百年かかろうとも、千年かかろうとも、人類の霊的進化の為、神へ祈りを捧げ続けましょう。
 それが我ら薔薇十字団の願った信仰の道。
 人類に幸福な…未来があらんことを、アー……メン───…」

 そうして最後に、
 視た者の胸に暖かな感情を灯さずにはいられない最高の微笑みを残して、

 クリスチャン・ローゼンクロイツの聖杯戦争はその幕を閉じた────。




              ◇                  ◇




 キャスターの敗退と同時に、間桐燕二の敗北も確定した。

「は……? え? え…!?」
 間桐自身にも一体何が起こったのかすぐには理解が及ばなかったことであろう。
 ついさっきまで何の問題もなく快調に放てていた筈の魔術行使が突如不可能になったのだから。
 キャスターが消滅した事で彼の宝具である『世界の書』も同様に消滅した。
 それ原因で彼が他者に貸し与えていた複製魔術刻印も本書と一緒に消失してしまったのだ。
 ソフィアリの時とは若干事情が異なる。
 あの時はまだキャスターと共に『世界の書』が現世に存在していた。
 しかし今回は違う。
 キャスターが完全に消滅した事で間桐に与えられた仮初めの力は初めから存在してなかったかのように消え失せてしまった。

 そして同時に───
「ぶ、ごっ───……ホ、ッ!!」
 燕二の左胸を目掛けて寸分狂わぬ刺突が貫通していた。
 間桐の眼前にはいつの間に現われたのか、尻餅をつく少女を背に仁王立ちするセイバーがいる。
 決着は着いたとばかりに騎士は無言のまま敵マスターの左胸を貫いた剣の刀身を引き抜くと、血を振り払って納刀した。
 支えを失った魔術師の身体が力失く地面に崩れ落ちる。
 一撃で即死させられた間桐燕二は数日前の屍食鬼ように再び立ち上がってくる事もなくそのまま絶命した。



「アヤカ大丈夫か? 怪我とか問題はないか?」
「おかげさまでなんとかね。ホントもうギリッギリだったけど……はあ~つっかれたぁ~」
 心配して声をかけてくる騎士侯に綾香は心身疲労困憊な様子で嘆息した。
 本当に危なかった、まさに間一髪で危機一髪な感じ。
 あと一分でもセイバーが駆けつけてくれるのが遅かったら多分保たなかったと、綾香は素直にそう思った。

「ハイ、これ返しておくわね。
 貸しててくれてアリガト、この魔剣がなかったらきっと瞬殺されてたわ」
 お礼の言葉と一緒に魔導剣を返却する。
 セイバーもオウ、とぶっきらぼうに答えながら剣を受け取った。
「わたしはとりあえず無事なんだけど……あーえ~と、セイバーの方は…?
 その、なんか見た目が既に大丈夫な雰囲気じゃないんだけど。
 髪の毛ウニみたいになってるし全体的に焦げてるし……」
「まあとりあえずオレも無事だぜ。命に支障はねえしな。
 なんつーか、キャスターを舐めてかかったら手痛いしっぺ返しを受けたってだけだ。うん問題ない」
 しっぺ返しって落雷にでも当たったんだろうか?と眼を丸くする綾香にセイバーは頭をポリポリと掻いて誤魔化す。

「ま、まあとにかくだ! 突然の出来事だったが襲撃してきたキャスターは倒したし、そのマスターも倒したんだ。
 ティルフィングをあのままにしとくのはマズイし手っ取り早く処分しちまおう」
「────あ、そっか。そう言えばわたしって魔剣の処理をしようとしてた所で拉致されたんだっけ。
 そうね。また別の誰かに取り憑かれたら大変だし、さっさと戻って処分するとしますか」
 セイバーの言葉に綾香も自分たちの本来の目的を思い出す。

 二人は殺戮を生む呪剣を破壊するべく、早速魔剣が放置されている元の場所へと戻ることにした。





───────Interlude ───────



 聖堂騎士と魔術師と決戦は、深山の町を拠点としていたマスター達が感知するには十分な派手さだった。
 何しろ外界と結界内を完全に遮断する類の結界を禄に張っていない状態で大規模な大魔術が使われたのだ。
 感覚の鋭い優れたマスターや魔術が使われた付近に使い魔や結界などの仕掛けをしていた者なら容易に異変を発見するだろう。
 という以前に雷雲もなく特大の雷が何度も落ちる。
 などという実に視覚的にも分かり易い異常が見えれば嫌でも気付くというものである。

 闘王を引き連れた遠坂刻士と、太陽王に引き連れられたゲドゥ牧師。
 こうして両組共にお互いの存在を察知しないまま、一路異変の震源地を目指す。

 その邂逅がさらなる波乱の殺し合いを呼ぶとも知らないまま────。




───────Interlude  out───────



 綾香とセイバーの二人はティルフィングと遭遇した場所にまで帰ってきた。
「なんか……拍子抜けした」
「ええ……わたしもよ」
 しかし意外なくらいにすぐ着いてしまったせいでちょっとばかり驚いてしまう。
 あの時は必死&突然だった事もあり、彼らの感覚では1km程度は離れていると思っていたのだが…、
 まさかキャスターと戦った場所から歩いて五分と掛からないとは……。
 どうやら思ってた以上に近所だったらしい。

「魔剣は───あ、よかったちゃんと刺さってるじゃない」
「んじゃ、さっそく処分するか」
 とりあえず気を取り直して二人は本来の目的遂行に取り掛かった。
「でもこのティルフィングってどうする処分するの?」
 その魔性の美しさで人間を魅了してしまう呪いの剣を極力直視しないよう視線を逸らしながら綾香が訊ねた。
「ん~? とりあえずぶっ壊してみようかと思う」
 すると実に分かりやすい回答がセイバーから返ってきた。
 方法は任せるとだけ伝えると少女は騎士の作業を黙って見守ることにした。

 "───ギゲゲ…! ヤメテ、ヤメテ壊シチャ駄目───!"

 時折彼らの脳内に耳障りな音声《ノイズ》が流れ込んでくる。
 しかしセイバーはそんなノイズを極力聞かぬ振りをしつつ、問答無用の気合一発!
 手にしたデュランダルのフルスイングで身動き取れない魔剣を激しく叩き斬りつけた。

 "───イタイ! ナニスルノ───!"

「────い、痛ぅ…ッ?! くぁ~滅茶苦茶かってぇ!!
 痛つつぅ……。いや駄目だぜこれ。流石に硬いわこの呪剣」
 剣同志の激突で鼓膜が痛くなる甲高い金属音が激しく鳴る。
 が、ティルフィングは変わらぬ形のまま大地に突き刺さっていた。
 想像以上に頑強な素材と造りをしていたらしくセイバーは痺れる右手をぷらぷらフーフーしている。
「え……まさか駄目そう、とか?」
 不安そうな様子で綾香がセイバーの方にチラチラと視線を送った。
 少女の挙動はかなり怪しげだが騎士の近くには魅了の呪いを振り撒く魔剣があるせいでガン見出来ないのである。
「このティルフィングって確かデュランダル程じゃねえとは言え刃毀れしないって逸話のある剣だった筈だからなー。
 おまけに小人の錬鉄技術で造られてるから人間が鍛えた刀剣に比べて相当頑丈だときてる。
 う~ん、この状態なら壊せないことはねぇと思うんだけど………朝までかかりそうだな」
 軽く計算してみた結果にうんざりとした風に溜息を吐く騎士。
 いくらなんでも朝までこの魔剣の相手をするのは色んな意味で疲れるので遠慮したいと考えていると、ふと良案が閃いた。

「あ、そうだ! 海底に沈めちまおう!」
「…え? なんで海底?」
「おう海底だ。このやたら多機能な魔剣が単独行動スキルでも保有してんのかまでは知らないけどさあ。
 でもどのみち魔力を得られないといつかは消滅するだろ?
 人間が居なきゃまともに活動もできないコイツは下手に人里で埋めるよりも人の手が届かない海底に沈めた方が安全じゃん?」
「──────────ちょ、凄い名案じゃないセイバー!
 うんいいわよそれ、是非そうしましょ! やるわねセイバー!」
「いまオレ良いこと言いました!」
 綾香は珍しく良いこと言った騎士に惜しみない称賛と拍手を贈るのだった。


「さてと善は急げと言うし、それじゃあこの駄剣を港まで運ぶとするか!」
「…………ねえセイバーところでさ、わたし気付いちゃったんだけど。
 魔剣を海底に沈めるって案は最高なんだけどね、
 最大の問題というか当然の疑問と言うか………どうやってコレ持ち運ぶの?」
 良識派の少女は大地に禍々しくそして深々と突き立ったティルフィングを見て改めてそう思った。
 あの状態の魔剣を持ち運ぶなら地面から引っこ抜く段階でどうやっても接触する必要があるのではないか?

「そりゃアヤカに触らせる訳にはいかないんだからオレが運ぶしかないじゃないか」
 するとさも当然といった具合で断言するセイバー。
 これから発狂の剣を手に取るというのに気後れ一つしていないようだ。
「一応訊いておくけど、大丈夫なの…?」
「あっはっはっはっは! なんだよまるで心配だって言ってるみたいだぞアヤカ?」
「いやまるで、じゃなくてそのまんまの意味で心配してるんだけど……」
「はっはっは! 心配性だなまったく、大丈夫だって!
 対魔力もあるし念を入れて魔導剣も装備するから対策は万全だぜ!」

 そう言って騎士は徐ろに魔剣の柄に手を伸ばすと──、
 思いの外何事もなくティルフィングを地面から引き抜いてしまった。
 セイバーはマスターを安心させるつもりなのかブンブンと魔剣を振り回して大丈夫楽勝アピールをしてくる。
 その走り回る騎士の無駄に元気な姿に本当に大丈夫そうだと綾香は安堵の嘆息を吐いた。




 そして、その気持ちはセイバーとて同じだった。
 てっきり魔剣から何らかの抵抗があるものとばかり思っていたせいか存外あっさり成功して拍子抜けしてしまった程である。


 ──────だから二人とも安心して油断し切っていた。




「あ……ぁ、アアアアアァァァアァああああぁあああああああああーーーーーー!!!!
 や、やめろぉぉぉおおおお■■■■■■■■■■■■─────────!!!!!!」


 悲鳴のような慟哭。
 予期してさえいなかった事態急変、そして豹変。
 ソレを中心に轟ッ!と発生した衝撃波が細身の綾香の体を綿のように吹き飛ばした。
 少女が短い悲鳴を上げる。
 直後、宙を舞った体は墜落しお尻と背中をしこたま硬い地面に打ち付けた。
 鈍い痛みに悶絶しながら、それでも何が起こったのか状況を把握しようとし辛うじて顔を上げる。
「い、たぁ……、あ──────」


 そうして、ソレを視た瞬間に全てが凍りついた。

 黒き呪いの魔力に身を墜とした魔王が屍体が散乱した血肉の沼の中心に立っている。

 それはとても見知った誰かの変わり果てた姿で……、

 殺意に満ちた禍々しい姿と悪魔のような表情をした騎士が。



 綾香の思考を真っ白に漂白した─────。









──────V&F Side──────

助けろ!ウェイバー教授!第三十一回

V「ごきげんよう諸君。ベルベット教室の時間だ」
F「起立ー! 気を付けー! 礼ー!」
魔「礼ー!」
ド「礼ー!」
槍「礼ー!」
弓「れーい!」
狂「アー」
雨「サー!」
間「礼ー……っていや待てよ礼じゃないだろ!」
魔「マスター、授業中は静粛に」
間「あ、ああそうだな──いやだから違うだろ!」
F「おおっ! たった今死んだとは思えない程の元気さですね!」
間「煩い黙れ小僧!」
F「うう~怒られた……ショボーン………」
ド「人を突然怒鳴りつけるなんて良くないのだわワカメ人間」
間「誰がワカメ人間だこのロリ人形!」
ド「ロリ…! やっぱり人間は品がないわ」
魔「まあまあ二人とも落ち着きなさい」
間「なんでお前が仕切ってるんだよ! 大体お前が愚図だからこうなったんだろ!?」
弓「がーっはっはっはっは!! 燕二の死亡で飯がウマい! ガツガツガツ!」
間「おま…人の死を肴に白飯かっ食らってんな!」
弓「ざまあみそー!」
ソ「キャスターおめでとう! 敗者の部屋へよく来たな。
  いやそれよりよくもまあ私の前に顔を出せたものだなあ?」
魔「……………やっぱりこちらもきましたか……」
ソ「マスターをおめおめと死なせておきながら自分一人は見苦しく生き残るその醜悪さ。
  なにが人類の霊的進化の為だこの偽善者め!」
ド「なーに言ってやがるですか。おまえがザコザコのへっぽこぴーだから真っ先に死んだんですぅ」
ソ「な、なんだとこの幼児人形がー!!」
ド「きゃーー!」
ア「今回は一段と騒がしいわね。付き合ってられないわ、お茶の用意をして頂戴」
メ「はいルゼリウフお嬢様。一番良い茶葉をご用意しております」
狂「おいそこの侍女。おれの分もくれ」
メ「貴方のような野卑で粗暴な男に飲ませる紅茶はありません」
狂「そうかぁ、ならしゃあねえなあ。ここは北欧の戦士らしく女諸共略奪と行くかぁ」
メ「…………ッ! そこで待ってなさい! まったくこれだから野蛮人は嫌なのですブツブツ」

V「さてと、今回の戦いでまたサーヴァントとマスターが脱落したか」
槍「これで残るは三組。今回の脱落で半数が消えた事になるでござるな」
弓「燕二負けて飯がウマい! がはははー!」
間「黙れアーチャー! 大体貴様がファイター如きに負けるのが悪いんだ!」
弓「馬鹿抜かせ! こっちは城を素手でぶっ壊すようなバケモンと良い勝負しとるんじゃい!」
狂「ズズズーーコグリ。……む、茶と舐めてたが意外とうめえなこれ。闘王の奴がしょっちゅう飲んでる訳だ。
  それはそうとまあそこのボンクラは鼻糞程度の役にも立ってねえからなぁ。
  おいトラノスケ、マスターっぷりじゃテメーの方が一枚上だぞ?」
雨「Really?! 俺の方が間桐よりも良いって!?」
弓「それは言えとるな。サーヴァントからしてみればキッチリ援護してくれるマスターの方がええわい」
間「な……、そんな変態野郎のどこが優れてるって言うんだ!」
槍「令呪の使い方でござろう?」
狂「令呪の使い方だな」
弓「令呪の使い方じゃな」
間「ちっ、れ、令呪は普通マスターの為に使う物だろうが!」
魔「まあそれは確かにそうでしょうが、サーヴァントからしてみるとやはり……ですかね?」
ド「ケラケラケラ! ブルボッコにされてやがるですぅ!」
間「バラバラにしてやろうかくされ人形!」
ド「きゃーー! 人間が怒ったですぅー!」
間「もういい! おいエルメロイ二世! さっさとお助けコーナーに入ってくれよ!」
V「お助けと言われてもな……今回は特に語るべき所がないのだがね」
F「随分奮戦してましたよね?」
間「そんな訳ないだろう!? キャスターが愚図で間抜けで無能だったから敗北したとか色々理由があるだろ!?」
魔「酷いことを仰るマスターだ。これでもボクはとても頑張ったのですけどね」
間「負けは負けだろこの負け犬っ!」
ド「自分の無能さをお父様のせいにするなんてみっともなぁい」
ド「役立たずの小物人間ー!」
ド「お父様はとぉーってもがんばってたのー!」
弓「全面的に燕二が悪いわなぁ」
間「あああーー!! おまえらムカつくんだよぉぉぉ!」
V「そもそも間桐、キャスターがセイバーと戦って勝てる確率に期待する方が酷というものだろう?
  工房内でならば確かに叩き帰す事ぐらいは可能かもしれんが……。
  いやむしろキャスターの働きは相性最悪の敵に知力を使って大善戦したと讃えられてもいい程だ」
F「自分の持ってる武装を最大限に有効活用して総力戦で戦ってましたもんね!」
ド「一生懸命頑張ったのだわ」
魔「分かる人に分かって貰えればボクは満足です。
  惜しむのは勝利の書を発動させるだけの余裕がなかったことですか」
F「回復で一杯一杯でしたもんね。魔力量も万全とは言い難い状態でしたし」
間「なんだよなんだよ! じゃあ俺が悪いって言うのかよ? ふざけんな!」
V「まあ別に君の失態で負けたという訳でもないのだがね。
  こんな終盤に工房を建設しているような余裕はないのは事実だった。
  それに魔剣を回収するのもそんなに悪い案ではない。
  反省点があるとすれば宝具で擬似的な空想具現化を使えるだけの魔力もない状態でセイバーと戦ってしまった事か。
  マスター戦についてはミス沙条が魔導剣を持ってた以上は彼を責めるもの少々酷だろう」
ド「甘いですぅ。もっとギッタンギッタンのボコボコに酷評してやるくらいが丁度いいんです!」
間「おい、キャスター躾が全くなってないぞこのダッチワイフ」
ド「────ダ!?」
魔「な、なんて事言うんですか貴方は!!
  ボクの娘たちをそのような下品下劣な呼称で呼ぶなんてに無礼にも限度があるでしょうエンジ!」
ド「ねえねえ? だっちわいふ……ってなぁに?」
ド「貴女は知らなくていいのよ。大方脳みそが可哀相な人間の戯言だから」
間「誰の脳味噌が可哀相だ!」
狂「しっかしよぉ、ソイツらそういう風に使うんじゃねーンか?」
ソ「私もそうだと思っていたぞ」
魔「全然違いますよ! 今すぐにその暴言を吐く口を閉じねば貴方達を分子分解しますよ!?」
弓「じゃあキャスターはロリコンじゃったのか。
  いやいや恥じることは無いぞキャスター! 嫁は若ければ若い方がええにきまっとる!」
ソ「しかし若いにも限度がないか?」
槍「流石の拙者もそこは守備範囲外でござるなぁ。せめて齢十は超えておらんと世継ぎも産めぬでは無いか」
狂「おれは女なら年齢は問わねえな。何歳だろうが体格がどうあろうがどうせ褥での扱いは同じだ」
魔「だから違うと言っているでしょう! 人の話を聞きなさい!」
雨「じゃあなんでこんな偏りまくった嗜好で作っちゃったのさ?」
弓「うんうん。尤もな意見じゃな」
狂「認めちまえよ、このむっつりロリコンお父様」
魔「娘達が児童の成り形をしているのは彼女達が元々医療用の義体として作られてるからですよ。
  先天的な欠損者の為に製作された義肢なのだから子供サイズなのは当然でしょう?」
F「え、うそマジっスか!? この子達って義手や義足なんですか?」
間「おい。初耳だぞ」
ソ「マトウ君はまだいい。私なんかもっと初耳だ。てっきり戦闘用の自律人形とばかり思ってたのに」
ド「ええそうよ。完全な義体を目指したのが私たちドールズの製作理念」
魔「彼女達薔薇人形はその発展系にして完成型なのです。
  そんな私の情熱と魔道と芸術の結晶を罷り間違っても空気嫁なんかと一緒にしないで頂きたい!」
狂「ちっ、つまんねえぜ。空気嫁機能くらい付けとけよ不能者め」
魔「────よく言ったバーサーカー。その無意味な口と脳髄、ボクが手術して差し上げましょう」
V「まあそんなこんなで今日も我が教室は平和だな」
F「先生! 教室内が大乱闘状態なのに何をのんびりとコーヒーなんか飲んで───ってなにモンハンで狩りしてるんですか!」
V「ふむ、やはり麒麟は色んな意味で最強だな。それじゃ諸君これにて授業終了また次回だ。
  …というか次回もまた誰か来そうな予感がするな………面倒な」