──────Sabers Side──────


「ふぅ、なんかようやく着いたって感じがするわね。
 そんなに時間がかかったわけでもないのになんかすっごく色々あった気がする……」
「ああ、同感。なんかやる前から既にやり切った感でいっぱいだ。なぜだろう不思議っ!!」

 町に到達するまでに色々あった気もするが、セイバーと綾香はようやく冬木入りを果した。
 深夜だということもあり町は耳が痛くなるほどの静寂に染まっていた。
 今は冬季であるため虫の音も一切聞こえてはこない。ただ時折風に揺れる草木の葉音と夜行性動物の微かな鳴き声がしている。

「やっぱり静かね。特にこっちの町は橋の向こう側にある深山の港町と比べたら農村に近いから余計に静かだわ」
「とりあえずこっちの町を見回ってからあっちの港町に行くってことでいいかアヤカ?」
「うん。それでいいわよ。じゃあ早速探索を開始しましょう」
「よしそんじゃ進めヴェイヤンチーフ。速度はゆったりでいいぞ」
 綾香《ボス》の合図をきっかけに二人は敵マスター及び何かしらの異常の捜索を開始した。

 名馬に乗っているだけはあってか探索は実に快調だった。
 女の脚で歩き回るよりも遥かに短い時間で町中を見回れるし、体力を消耗しないのは戦闘を控える者にとっては本当にありがたい。
 綾香はこの優秀で働き者のホムンクルス製の名馬に人参でも差入れしてあげようかと考えていると、

「う~ん……。なあアヤカなんかたまに視線を感じないか──?」

 などとセイバーが実に不穏当な発言をしてきた。

「へ? ちょ! それってまさか敵?!」
 馬が騎手の指示に従い足を止めたと同時に綾香もすぐさま暗い周囲に眼を凝らしてみる。だがこれといった視線は感じ取れない。
「…………駄目、わたしじゃ発見できない。セイバーの気のせいってことは?」
「多分ないと思うぜ。これ小動物の視線って感じでもないし多分人間だと思う。それか象とか虎とかのでかい動物」
「虎や象なんかの大型獣がこんなところにいるわけないんだし人間って考える方が妥当そうね。しかもどう考えても敵よそれ。
 ああもうっ! 一人前の魔術師なら周辺に魔力で糸張って索敵なんてのも出来るんだろうけどわたしじゃまだ無理だし……」
 苛立たしさでくしゃくしゃと頭を掻く綾香。

 こういう時こそ魔術師の自分が役に立たなくてどうするのか。
 未熟な自分が恨めしい。せめてお爺様くらいの魔術の技量があれば───。

「───あ、そうだ! お爺様の魔術品!!」
 闇の中で煌めいた一筋の光明の如き閃き。己の未熟さにふて腐れるにはまだ早い。
 師はもうおらずとも自分にはまだ心強い遺品が残っている。
 綾香は持参した道具入れの中から今回の用途に一番適した一品を取り出すと、テキパキと道具の下準備を完了させ早速使用してみた。
 作動した魔導器の反応を習った通り落ち着いて見極めながら彼女はスッとある方向を指差した。
「あっち! 五十メートルくらい先で生物反応がある! 多分起きてるわこいつ」
「よっしゃ! 駆けろヴェイヤンチーフ!」



 ヴェイヤンチーフはものの数秒で少女の示した地点に到着した。
 そこは何の変哲もない民家が建っているだけで特に不審な点や異常は見受けられない。
「中からおっちゃんのと子供のっぽいイビキが聞こえるぜ? なあアヤカ本当に起きてる奴がいるのか?」
 セイバーが壁に耳を当てながら家屋の中の様子を探っている。
 綾香は不審に感じながらもセイバーに霊体化して中の様子を見てくるように指示を出した。
 頷いた騎士が外壁をすり抜けて家屋の中に入っていく。そして数十秒後に浮かない顔をして出てきた。
「やっぱダメだった。一家全員寝てたぞ。特に魔力も感じなかったしこの家にいるのは普通の人間だ」

 綾香はもう一度同じ魔導器を使用してみたが残念ながらさっきと同じ反応を得ることは出来なかった。
「…………わたしのミスじゃないのなら一足遅かったってことね」
「逃げられた?」
「ええ多分ね。なんにせよもう一度気を引き締めといた方が良さそうよ。こっちの想像以上に手強い敵かもしれない」

 これは少女たちが知る由もない話だが、騎士が感じていた視線の正体はゲドゥ牧師が潜伏させた間諜たちによるものであった。



「それじゃあそろそろ深山の町に行きましょうか?
 こっちの町はある程度調べ終えたし、さっきのやつも尻尾を掴み損なった以上今日はもう出て来ないだろうし」
「そうすっか。アヤカが発見したって敵も仕掛けるつもりがあるならとっくに仕掛けてるだろうしな。今夜はやる気がないんだろ」
 区切りのいいところで綾香が捜索の断念を切り出す。セイバーもその意見に全面的に賛同した。
 あれから二人はさらに小一時間ほど念入りな調査を続けてみたが、新しい発見をすることはなかった。
 なのでここは潔く気持ちを切り替えて次へ向かうことにする。
「そいじゃ移動だな。よ~しヴェイヤンチーフ、またいっちょ頼むぞ! アヤカしっかり捕まってろよ」
「え──? ちょわわわわ!」
 騎士が愛馬の横腹を軽く蹴り手綱を引いてやるとヴェイヤンチーフは嘶きを上げて颯爽と駆け出した。
 その走りは本当に見事なもので、たちまち大橋を渡り切ったと思いきやあっと言う間に深山入りを果たしてしまった。


「さてと、とりあえずどっから手を付ける?」
「そうね、折角こんな良い馬に乗ってるんだからまだ一度も手を付けてない場所の探索をするっていうのはどうかしら?」
「ウィ。じゃあまずは───」
 息を揃えたかのように綾香とセイバーの視線が同じ方向へと向く。
「まず河の上流方面を当たってみましょうか」

 およそこの世の生物とは思えぬくらい美しくもおぞましい駿馬に跨った騎士と少女が河を遡っていく。
 この未遠川は冬木の土地を真っ二つに分断する河川であり、その長さも幅も相当のものがある。
 山岳部から海へと注ぎ込むこの河は強い龍脈がある土地柄のせいか大昔には荒れ狂う龍神がいたとさえ言い伝えられているらしい。
 ちなみにその龍神を鎮めたのが柳洞寺の高徳な僧侶だった、なんて話も住職さんから聞いた記憶がある。

 河の上流部へ上るほどに人の気配がだんだんと減っていき、周りの景色も人の手があまり入っていない自然な姿へと変わっていく。
 この辺りまで来ると流石に民家らしき建物も五、六棟ほどしか見当たらない。
「どうやらハズレね。ここも異常はなさそう。これ以上進んでも山登りになるだけだしここらで戻りましょう」
 期待外れといった具合で綾香が肩を竦める。セイバーも夜目を利かせてみたが奥の方にもう一件家があるくらいで妙なものはない。
 一応念のため程度の気持ちで奥の方へ足を踏み入れた直後────

 ────ビシッ。

「──────ぇ!!?」
「───今の気付いたかアヤカ?!」

 魔術回路を震わせるような衝撃が走り抜けた。
 足を踏み入れるまで気付けなかったがこの感触は明らかに結界だ。
 今の地点を境界にしてこの辺りを中心に広域の結界が張られてある。
 用途は不明だが規模から考えるに隠匿専用の結界じゃないのは綾香にも理解できた。

「もしかしてこれ……地脈から魔力を吸い取ってる? ただの人払いの結界じゃないわね。それに……ウッ、何この臭い……?」
 風上から謎の異臭が漂ってくる。結界の外にいた時には感じなかったが結界内は異様な臭気で満ちていた。
 咽るような濃い臭い。強いて表現するなら鉄錆と生ゴミを混ぜ合わせたような感じ。
 正体不明の異臭に怯んでいる少女を尻目に白き外套の騎士には異臭の正体に心当たりがあった。心底嗅ぎ慣れた嫌な香りだ。
 セイバーは鋭い眼光で周辺へ注意を払っている。彼の危険信号がカンカンと忙しく鳴っている。この場所は危険だと。
「………血の臭いだなこれ。しかもこれだけ臭うってことは一人や二人の量じゃないぞ」
「─────血ッ!!!? ってことはまさかここに敵マスターがいる?!」
 綾香もセイバーの警戒心一杯の台詞で一気に緊張感が跳ね上がる。
 どうやら自分達はいつの間にやら地獄の釜底にまで辿り着いてたらしい。下手な判断を選べばきっとあっさりと死ねることだろう。


 ────ヴェイヤンチーフに乗ってここで待つ。
 ────セイバーと一緒に奥に進む。


 選べる二択にどうするか頭を悩ませていると。

「ヴェイヤンチーフから降りろアヤカ」
 いきなりセイバーが有無を言わさず少女を愛馬から抱き下ろした。
「ちょ、ちょっと離しなさい! いきなり何するのよセイバー!」
 突然身体を抱き抱えられたことに不満を零していると、
「───キミ、乗馬はできるのか?」
 なんて質問をセイバーが真顔でしてきた。
 ブンブンと首を横に振る少女。勿論乗馬なんてやったことなどない。
 まあ練習すれば出来るようにはなるだろうがそれも普通の馬に限った話でこんな怪馬の手綱を操るのは到底無理だ。
「だったら降りてオレの傍にいた方がいい。歩行《かち》の方が小回りも効くし、なにより騎乗できないんじゃ格好の的だ」
「……そういうことならわかった。ちょっと待っててわたしも武器を出すから」
 綾香はセイバーの諫言に素直に従うと、道具入れからウィッチクラフトで精製したガラス玉っぽい外見をした物体を数個取り出した。
「それなに?」
 セイバーが興味本位で彼女の手元を覗き込んでくる。
「簡単に説明すると、生贄の血肉と苦痛を媒介に呪的措置を済ませた………ようするに爆弾みたいなもの」
「────い!? ば、爆弾……?!?」
「そ、爆弾。わたしが作った魔術品の中では多分一番威力があると思うわ。使い捨て品だけど」
「思うって?」
「まともに使ったことがないのよ。計算上じゃ人が死ぬ程度の威力が出るはずだから余計に使う機会がなかったし」
「………………」
 セイバーが大丈夫なのかソレ?みたいな感じの如何にも心配そうな、あるいは不安そうな顔をしている。
「大丈夫よ。それに武器がないと敵マスターと遭遇した時困るじゃない?」
 自分にはこれと言った武器がない以上贅沢は言ってられない。持ってるモノ作れる物を全て使って敵に挑むしかないのだ。
「………なんならオレの魔導剣を貸そうか?」
 彼女の武装が些か心配なのかセイバーがそんな申し出をしてきた。
 魔導剣とは魔術を無力化する概念武装でセイバーのもう一つの武器のことだ。
 その概念武装の凄さは綾香も身を以て体験している。
 ファイターのマスター遠坂刻士との戦いで、圧倒的実力差がありながらも少女に善戦させ、ついには無事生還に至らせた魔剣。
 あの剣を持ってるか持ってないかだけで実力が六段階位ぐらいは違ってくるであろう秘密兵器。
 しかし彼女は遠慮がちに騎士の申し出を断った。
「ありがと、でも遠慮しとくわ。
 今回はちゃんと自分用の武器も持って来てるし、いざって時にその剣が無くてセイバーを困らせるのも嫌だしね。
 それに正直なとこすんごく重いのよねえあの剣……。前は死に物狂いだったからなんとか振り回せたけど。
 今度も前回みたいに振り続けられるかって言われたらちょっと自信ないわ」
 さらに言えば敵がキャスターの可能性だってまだあるのだ。
 もしそうなった場合、魔女の魔導剣があればセイバーの勝利は絶対的なものになってくれるだろう。
「あ~確かに女子にはキツイかもなあ。男からしてみればこの剣は全然軽い方なんだけど。
 ま、キミがそういうんならそれでいいぜ。でもヤバいと思ったら速攻で令呪だぞ?」
「わかった。本気でヤバいと思ったら迷わず令呪を使うからセイバーもそのつもりでね」
「おう、じゃあ行くぞ! オレの背後をゆっくりついて来てくれ」
 セイバーはヴェイヤンチーフの胴体に括りつけていた盾を取り外すと素早く自分の左手に装備する。
 二人は事前の最終確認を済ませると、まずは一番手前にある家屋を目指して慎重に歩き始めた。

「ゴクリ…………不気味なくらい静かね。運良くまだ生きてる人間がいればいいんだけど………」
 セイバーが前方左右を警戒し、綾香が背後を集中して警戒するという陣形で二人は進んでいく。
 何らかの魔術や罠が発動した気配はまだない。
 綾香は背後だけでなく敵マスターの動きに対しても細心の注意を払っていた。魔術はセイバーよりも専門分野だ。
 相手がなにかのアクションを起こしてきた時には素早く敵の狙いを見抜きセイバーに的確な指示を出さなくてはならない。
 彼らは一瞬の気も抜かず歩みを進め、一番手近だった民家まで辿り着いた。

「───チッ、クソッタレが……ッ!!」
 目の当たりにしたものに対しセイバーが怒りのまま毒づいた。
「───────うっ」
 騎士の後に続いた綾香が思わず口元を押さえた。

 屋内にはいつかアーチャーが町の一区画を滅茶苦茶にした時よりもさらに凄惨な光景が広がっていた。
 一言で表わせば血の池地獄とか臨床実験場。
 あるのは皆殺しにされた一家全員の亡骸。だがただの死体という感じではない。
 全身の血管がズタズタに切れて内側から爆発した、そんな感想を抱くような死体がいくつも転がっている。

「キャスターじゃない……これはバーサーカーのマスターの仕業よ絶対!」
「ああだろうな。少なくともキャスターはこういう陰気な真似をするタイプの英霊じゃねえ。
 こんな真似やるのは間違いなくバーサーカーのマスターどもだ───!!」
 ヤロウ……と、正義を信条とする英雄の瞳に明確な激怒の色が浮かぶ。
「セイバー次行くわよ!」
「オウ!」


 ────結局。
 次の家屋もその次の家屋もそのまた次の家屋も皆同じような有様だった。
 建物の中はどこももう滅茶苦茶で、殺し合いでもしたと言わんばかりの荒れ具合である。
 そしてお約束のように重なり合うようにして散らばる人間の骸。
 住人はみな血管が醜く浮かび上がり、皮が裂け、内側から中身が無理に飛び出したみたいな状態で死んでいた。
「酷い───ここも皆殺し」
「ヤツら一体何をやりやがったんだ? なんなんだよこの死体は……?」
 尋常ではない死者の数にどんどん気分が悪くなっていく。
 さらに雨生たちの目的が全く読めてこないのが余計に二人の不愉快さを加速させる。

「ねえセイバー、魂喰いってこんな感じでやるの?」
「───なッ!! おいアヤカ、流石のオレも女子相手に怒ることだってあるぞ。いくらなんでもその侮辱にはキレそうだ」
 綾香の感情を抑えた不躾な質問に対してセイバーの表情がみるみる変わっていく。
 完全にブチ切れ五秒前みたいな緊迫したマズい空気が辺りを包み込んでいた。
「貴方はそんな真似絶対にしないってことはもう誰に言われなくてもわかってるわよ! 他人の話は最後までちゃんと聞きなさいよね!
 わたしが訊きてるのは魂喰いって死体をこんな風にしないとできないのかってことよ。
 セイバーだってサーヴァントなんだから実際やらなくても方法くらいなんとなく察しはつくんじゃないの?」
「む、そうだったのかワリィ。う~んそうだなぁ多分だがここまでする必要性はまずないと思うぜ?
 キャスターだったら殺さず生気を抜き取れるだろうし、そういう魔術が使えないオレらは一刺しで事は済む。
 オレから言わせりゃどうすりゃ死体がこんな風になんのかが理解できねぇよ」

 人目が少ない区画にあった奇妙な死に方をした大量の死体。そしてこの周囲一帯に布陣されている広域結界。
 もう危険な臭いを通り過ぎて感覚が麻痺してきた気がしないでもないが、とにかく原因の解決を図るつもりでいるのなら……。

「根本的な解決を目指すならあの残虐な屑野郎をぶっ殺さないと駄目だ」
「とにかくまずはバーサーカーのマスターを直接探し出した方が得策のようね」

 実に気が合うことに二人して全く同じ結論に達した。
 どちらにせよ雨生とバーサーカーを倒さないと惨劇の連鎖は終わらないのだ。

 死体の謎の結論は出ないまま二人は地獄のような家屋を後にする。
 外に出るとまず綾香はあまり新鮮とは呼べない外気を肺に取り込んだ。
 だが沢山は吸い込まない。臭気が充満している家屋の中よりはマシという程度でここら一帯の空気は味も臭いも最悪だからだ。
 彼女らの視界にはもう一つ別のまだ調べていない建物がある。

 今度はそこを調べようと家へ向かって一歩足を踏み出したその瞬間───。


 ─────ジグン!


 不意打ち気味に今度は少女の身体に刻まれた聖痕が痛烈な悲鳴を上げた。

「─────痛ぅッ!!? え? ウソ、これって……まさか?!」

 自分は、この痛みを知っていた。
 自分は、この令呪が放つ痛みの意味を知っていた。
 自分は、この痛みがもたらす未来を知っていた。
 このサインが報せる警告、それは……

 間違いなく敵が近くにいる──────!!


 この一帯に張られた広域結界は主人の留守を守るものではなく、逆に滞在を示す無言のメッセージだったというわけか。
 元々雨生虎之介は拠点の情報漏洩を防ぐために敢えて高い防御性を誇る魔術工房を建設しなかった稀有なマスターである。
 つまりこの広域結界内こそが現在の雨生虎之介の仮工房のようなものだと言えた。

「セ、セイバー、バーサーカーのマスターが………この近くに、いるわ……それから多分バーサーカーも……」
 綾香は少々不安気に自分よりもずっと背丈のある騎士の顔を見上げた。
 金髪碧眼の青年の珍しく引き締まった顔。どの角度から見てもセイバーは男だ。曲げられぬ真実として"男性"なのだ。

 彼女は迂闊にも残虐非道な行ないを繰り返す雨生にばかり気を取られて一番肝心な問題を綺麗に失念していた。

 雨生《マスター》には当然バーサーカー《サーヴァント》が憑いており、そのバーサーカーは当然宝具を持っているという事実を。
 そう。バーサーカーのサーヴァントヘイドレクには最凶にして最悪の魔剣があるのだ。
 男ではどうあっても勝てない呪いの邪剣が───!

「アヤカ─────どうやらむこうさんもオレたち気付いたようだぜ」


 セイバーの表情がより一層凄味を増す。
 彼女が敵マスターを令呪で知覚したように、また彼も敵サーヴァントの存在を霊感で知覚していたのだ。
 ハッと綾香も先ほどからずっと一点だけを見つめている白騎士の視線を追うと────

「おやぁおやおや~? やーっぱ客だったのか。こ~んな人気もない場所をよくもまあ調べる気になったもんだねお宅ら?
 まあいいんだけどね丁度お披露目と試験運転の相手が欲しかったとこだしさ! "うぇるかむ・えねみー"ってね!」

 丁度これから調べようとしていた建物の中から和服を赤斑模様に汚した雨生が心底上機嫌そうに現れた。


「バーサーカーのマスター……雨生」
 綾香が憎々しげに零した呟きを耳聡くチャッチした雨生が不思議そうな顔をする。
「あれぇ? お嬢ちゃん俺とどっかで会った?」
「いいえ。だけど名前くらいは知ってるわ。ついでに反吐が出るような悪趣味さもね」
 たったそれだけのやりとりでなんとなく察しがついたのだろう。
 雨生はああ遠坂の奴か。と一瞬だけ不愉快そうな顔になるも、綾香とセイバーを交互にしげしげと眺めるとさぞ愉快そうに笑った。

 侮辱とも取れる雨生の笑い声に、ここに来てからずっと怒り度数の下がらないセイバーがすかさず噛みつく。
「おい外道───それは問答無用で斬り捨てていいって合図か?」
 身を裂くような剣気がセイバーの身体から放たれる。騎士の威圧は逆に味方の少女さえも怯ませる程に凄まじかった。
「───くぁっ!? っととおお怖い怖い! でもそんなんで俺を脅かそうったって無駄さ。
 だって、おまえたちじゃ俺らには勝てないんだからな。どうあっても」
 強気な態度の雨生はその自信をまるで体現するかのように騎士の威圧を僅かな間しか怯まなかった。

「へぇ大した自信じゃない変態殺人鬼。男相手に有利だからって油断してると足元掬われるわよ?」
 眼鏡を直し覚悟を決めて綾香が前に出た。彼女も雨生に負けじと超勝ち気な態度である。

 セイバーは間違いなくバーサーカーに大苦戦を強いられるだろう。
 いや最悪─────負ける。
 ならば自分が戦うしかない。しかしいくら綾香が女性だからといっても生身の人間がバーサーカーと戦っても勝ち目がある筈もない。

 "だからわたしが雨生《マスター》を倒す!"

 聖杯戦争の定石。敵のサーヴァントが自分のサーヴァントの力を上回っているのなら、それより遥かに弱いマスターの方を潰すまで。
 セイバーがバーサーカーを抑えている間に彼女が雨生を倒せれば彼女たちはこの戦いに勝利できる。
 例えサーヴァント同士の戦いが不利だとしても決して勝てない戦いではないのだ。

「く、くくくははははは! なんだいなんだいお嬢ちゃん? もしかして君が俺のバーサーカーと戦うってのかい? その細腕で?」
 だがそんな少女の決意を雨生は腹を抱えて嘲笑った。
「なにがおかしいってんだテメエ!! バーサーカーの尻の陰に隠れるだけの臆病者が彼女を哂う資格などないッ!」
 主君の覚悟に唾を吐きかけるような真似に少女の背後に控えるセイバーの鼻息がさらに荒くなる。
 そんなスタート前に気負い過ぎた競走馬を宥めるように綾香はセイバーを腕で制すと、
「落ち着いてセイバー、わたしは全然平気だから。
 ところで命を奪う前に一つ聞いておきたいんだけど……あんたここに住んでた人たちに何したの?」
 冷静な面持ちのまま彼女たちが一番知りたかった謎の答えを問いかけた。
「んん~? 何した……ってああそうだそうだった! そうなんだよお嬢ちゃん! 本気でいいところに気付いたねそうなんだよ!
 もう凄いのなんのってマジすげぇから俺最っ高っヒャッホーイ!! ああ~自分の頭脳が怖い……っ!!
 研究のなんたるかを理解出来ないお前らみたいな凡人には到底到達できない偉業を俺達は成し遂げたのさ!!」
 すると非道な魔術師は本当に喜ばしい発表をする子供のような無邪気さではしゃぎ出した。
「出て来いバーサーカー!!」
 それから狂乱の瞳をしたバーサーカーを己の背後に出現させた。
 敵サーヴァントの登場に応じてセイバーが腰の鞘にスッと手を掛ける。

「そう言えばまだ教えてないんだったねお嬢ちゃん。おまえたちが俺らに勝てない理由を!」
「別に教えてもらう必要なんかないわ。あんたたちの魔剣の能力はとっくに知ってる。それよりとっとと質問に答えてくれない?」
「ああいいとも。今から答えてあげるよ、さあおいで!!」
 雨生は彼女の言葉を綺麗に無視すると、さっきまで自分が滞在していた家屋に向かって大声で叫んだ。
「…………?」
 本気で意味不明過ぎる雨生の行動に思いっきり顔を顰めた二人。
 するとしばらくして、中から虚ろな目をした男性が三人フラフラとした足取りで外へ出てきた。
「え────生存者!!?」
 少女の反応に殺人鬼はニタァと心から嫌悪感を覚える嫌な笑みを浮かべた。

「………人間を使い魔にでもしたの? それともこの期に及んで人質のつもりかしら?」
「ハァ? 使い魔? それに人質? 人質だって? ぷっくくく、なるほどなぁそれは面白い発想だね、あはははははは!」
 雨生の他人を小馬鹿にしたような態度がいちいち癇に障る。しかし綾香は努めて冷静を装いその人達を仔細に観察した。
 まるで生気を感じられない顔。とりあえず彼らが生きているのはわかる。だが自由意思があるようにはとても見えなかった。
 それからもう一つ気になる点を挙げるとすれば三人の内の一人が用途不明なドデカい斧を両腕で抱えているところか。

「これは使い魔でもなければ人質でもないよ。単に催眠暗示で一時的に彼らの意識を掌握しているだけさ」
 見せてやれバーサーカー。というマスターの合図に従い狂戦士が鞘に収められたままの殺戮の魔剣を掌に実体化させる。
「アヤカ下がっていろ。バーサーカーの相手はオレがやる」
 敵が武器を手にしたことで臨戦態勢のまま待機していたセイバーが完全に戦闘モードに切り替わった。
「そんなにいきり立つなよサーヴァント。戦いはこっちが見せたいものをちゃんと見てからにしなよ。
 俺はまだそこのお嬢ちゃんの質問の答えを見せてやってないんだから」

 バーサーカーがゆらりと雨生の前に歩み出た。
 邪悪な笑みを浮かべたマスターに見守られながら、狂戦士の魔剣が鞘ごと地面に突き立てられる。
 それから魔剣を手離したバーサーカーは役目は終えたとばかりに再び霊体となって姿を消した。
 黙って成り行きを見守る綾香たち。正直彼らの意図がさっぱり見えてこないのが少々不気味だった。
 続いて今度は三人の内の一人が屍鬼の如き鈍い足取りで雨生の前にやってきた。


 ────これこそが君たちにくれてやる答えのすべてだ───。


「さあ見みるがいい、そして眼にしたモノの素晴らしさに喝采を送るがいい凡人ども!!
 これぞ雨生虎之介の実験の集大成にして最っ高っ傑作ッッ!!! 人間がヒトを超越する瞬間だーーーーッッ!!!」

 まるで己の偉業に恍惚とした様子で雨生が感情を爆発させた。


 そして────驚愕はそこから始まったのだった。


「───────ウソ」
「なん………だって?」

 そのおぞましき光景は綾香を手始めに怪奇を見慣れてる筈のセイバーすらも愕然とさせた。
 雨生の前に立っていた───否、正確には魔剣の前に立っていた男が……よりにもよって殺戮剣を鞘から抜き放ったのだ───!!

「が、あ、あ"ぁぁぁお"お"おおおあああ■あ■■■■ぁ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーー!!!!!!」

 その男は兇刃を抜いてからたったの数秒足らずで人語を喪失した。
 狂獣の憎悪に満ちた雄叫びが辺り一帯を揺るがす。魔剣の呪いで男の全身の筋肉が内側から急激に怒張してゆく。
 その有り得ない光景を綾香は呆然とした様子で見つめていた。
 上腕、下腕が約二倍の太さに膨れ上がり、肩から胸板それに背筋の厚みが遥かに増し、腹筋が岩のように割れ、両脚は約三倍増。
 サイズが全然合わなくなった服は内から盛り上がる筋肉に圧迫されて所々がビリビリに裂けボロ布のようになった。
 そればかりではない。急激過ぎる筋肉増強の負担で男の皮膚や血管までもが多大な損傷を受けていた。
「あ、あ…………ぁ」

 そうして彼女たちはようやく事の全てを理解した。
 つまりあの謎の死体の真相はこういうことだったのだ。雨生の実験の集大成とはコレだったのだ。
 人間を超人に変えるための被験体。それがこの区域に住んでいた彼らだったというわけである。

 そして、狂戦士へと進化した人間は有無を言わさず少女を目掛けて襲いかかって来た───!!

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーー!!!!!!?」
「──ハッ!? おい呆けてる場合じゃないぞアヤカしっかりしろ!!」
 ショックのあまり放心しかけているマスターを横に押し退けて騎士が前へと踊り出た。瞬時に抜刀される聖剣。
 急に押された彼女が地面に転ぶと同時に鋼の爆裂音が響き渡る。
「うぉ、このスピードとパワー……間違いなく本物だぞ!!?」
 セイバーが驚愕するのも無理はなかった。男は明らかに人外のレベルに到達している。

 ただの何の変哲もない一人の人間があろうことか英霊と同じ領域にまで踏み込んで来ているのだ────!!!

 しかしさらに彼女の驚愕は続く。
 倒れたままの格好で狂戦士と化した男をじっと見つめていると何故かアリエナイモノがふわっと脳裏に浮かんできたのだ。
「そんなウソ……なんで能力値が視えるのよ………? まさかあの人、サーヴァントと同じ存在になってるわけ……?」
 信じられないことになんとあの男性はバーサーカーのサーヴァントと呼べるモノにまで変貌していた。
 ステータス筋D耐D敏D魔E幸Eのバーサーカーのサーヴァント。
 それは十分に並と呼べるレベルに達した狂戦士《えいゆう》のスペックであった。


 豹変から猛攻撃までの狂戦士の動向を黙って見守っていた雨生がついに我慢し切れなくなったという感じで雄叫びを上げた。
「く、ひひ、あーはははひゃーひゃははははっはははははっはっは!!! 見たか? 見たよな? 目に焼きついたよな!?
 どうだ驚いただろ? すげえだろ?! おまえたち程度じゃ考えもつかなかっただろう?! ざまぁーみろ!!
 でも俺はわかってた! わかってたのさ! 俺のバーサーカーはこんなもんじゃないって最初っからな!
 だから模索した! 色々試した! 実験を繰り返した! 沢山話しかけてバーサーカーの理解に努めた!
 普通のマスターじゃ到底やらないようなことを! 到底掘り返さないような場所を! 俺は自ら進んで掘り返した!
 そうやって掘り当てた埋蔵金がコイツらだ! ここら一帯にある死体も全部狂戦士を作るために使った被験体の残骸なのさ!!
 彼らはこの雨生龍之介が生み出す"ぐれーと"で"だいなみっく"で至高の芸術品の材料になれたことを喜んでくれてるよ!!」

 マッド野郎が気の狂ったようなハイテンションでなにやら喚き散らしている。
 だがその神経を逆撫でする叫声おかげで綾香はなんとか忘我状態から帰ってこられた。 

「図に乗らないで。わたしのセイバーを誰だと思ってんのよ! その程度の能力値の敵にどうこう出来るような英雄じゃないわ!」
「よく言ったアヤカ! まったくその通りだぜ───ウラァッ!!!」
 それをきっかけにずっと受けに回り続けていた騎士が今度は逆に攻勢に出る。
 するとたちどころに両者の力関係が逆転した。
 セイバーの圧倒的手数とパワーを前に狂戦士は防戦一方になるしかない。格が違うとはまさしくこのことであった。

「■■■■■■ーーーー!!!!」
「オイもうやめろ! 勝負は着いてる! おまえはあの外道に操られてるだけなんだぞ!!?」
 悪足掻きとも取れる狂戦士の応戦に聖堂騎士は必死の説得を試みる。
「ん~優しいねえセイバーは。騎士って連中はみんなああなのかなあ?
 そぉら狂戦士一号! 折角優しい優しいセイバーが手加減してくれてるんだ。今の内に一発くらい喰らわせてやれーい!」
 しかし雨生はそんな騎士の懸命の説得を面白可笑しく茶化す。
「貴様は黙ってろ!! くそっお前もだよ! 剣を振るのを止めろ! このままじゃ死ぬぞ!!」
 セイバーが声を荒げる。だがそれでも苛烈なる攻撃を決して止めようとしない狂戦士。
 敵を殺さねば代わりに己の心臓が止まるのだという必死さで無様な剣舞を踊り続けていた。
 負荷に耐えられなくなり始めた肉体からは鮮血が吹き出し、骨が軋んでいる嫌な音までしてくる。
 だというのに狂戦士はただ無我夢中で死に向かって暴れ狂い続ける。

「スマン。少々キツいだろうけど死ぬよりはいいだろ!!」
 はっきり言って見ちゃいられなかった。相手の自滅までの時間を考えれば今は一刻を争う。
 セイバーは多少強引な手を使ってでも相手の動き止めると決めた。
 騎士の頭をカチ割ろうとする凶刃の横腹を右手の聖剣で左回転しながらふわりと流し、開いている盾付きの左手で裏拳を喰らわせた。
 遠心力を効かせた鉄製バックナックルが綺麗にカウンターとなった。強烈な一撃をもろに浴び狂戦士が大きく吹き飛ぶ。
 そして地面に叩き付けられた衝撃で男の手から魔剣が零れ落ちた。剣は地を滑りそのまま雨生の足元まで転がる。
「ヨッシャ成功!」
「よくやったわセイバー! あの人も助けられたし雨生の魔力も削いでやったしで一石二鳥よ!」
 親指を立てて健闘を讃え合う二人。
 それを、

「プッ、ぶはははっはははははははははははははははは!! イヨッお見事ー! 流石セイバーのサーヴァントは強い強い!」

 限りなく見下した下品な笑い声で迎えた敵がいた。

「なにがおかしいんだよ貴様!!?」
 そのうち脳の血管が切れそうな騎士はこの際置いておくとしても、雨生の様子はどこか妙だった。なんなのだあの余裕は?
「────? ちょ、ちょっと待って…? 変よ、なんであいつ消耗した様子が全然ないの?
 バーサーカーのクラスって現界させてるだけでも魔力を馬鹿喰いするサーヴァントの筈でしょう?!」
 違和感の正体を確かめるため注意深く相手を観察してみたがやはり雨生は消耗している気配がない。
 息切れすら起こしてないのはいくらなんでも不自然すぎた。

「ほら次、出番だよ」
 困惑する綾香たちを置き去りにする形で雨生が次、という合図を出した。
 するとまたしても三人の内の二人目が幽霊の如き足取りで雨生の傍にまでやってきた。

 それからさっきの男と同様に大地に転がるモノに魅入られたかのように手を伸ばし────

「おいおいおいまさか……ッ!!?」
 嫌な予感で一杯になるセイバー。綾香も唖然として見ているしかない。全く同じ光景をさっきも見たが───。
 そうして次の瞬間には、その予感通りの現実がまたもや再来した。

「■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」 

「チクショウ! いったいどうなってんだよこれ!?」
 魔剣の呪いによってまたしてもどこにでもいるような普通の人間が狂戦士《えいゆう》へと豹変した。
 全身の筋肉が数倍大きくなり、理性を失った面相で獣人に堕する。
 先の狂戦士と全く互角の速度で突進をかけてくると、真人間では不可能な跳躍力で宙に飛び上がり、渾身の力で剣を振り落としてきた。
 騎士が狂戦士の重い一刀を左手の盾でなんとか受け止める。そしてそのまま剣戟の応酬へと雪崩込んだ。
 剣の英霊と飛び入り参加の狂戦士との決闘は今のところほぼ互角であった。
「────くぬッ!! クソッどうすればいいんだよこういう場合は……!!?」
 狂戦士が強いというよりはセイバーの動きが極端に悪い。明らかに困惑や迷いを抱えたまま剣を振るっていた。

「クク浅はかだね~きみたち。俺が狂戦士の魔力供給で自滅? おいおいこの俺がそんな間抜けな真似するわけがないじゃん?」
 先程の綾香たちのやりとりが聞こえていたのだろう。雨生はこれ見よがしに"失笑"を体全体で表現している。
「自滅しないってんならじゃああんたはどうやってあの狂戦士の魔力を賄ってるって言うのよ?!!」
「んん~知りたい? それならほら、ソレを見てみなよお嬢ちゃん?」
 言われるままに彼女は相手の指の動きを視線で追った、すると。
「───────!!? あ、あんたって男は……!!」

 男の指差す先にはまるで精魂尽き果てたかのように抜け殻になって死に絶えている男の死体があった。

「そう大正解っ! そもそも俺は芸術品たちに一切魔力供給していないのさ。
 勿論やり方次第ではそうすることも出来るし、俺自身が狂戦士になることも出来る。あくまで無駄だからやらなかっただけでね?
 魔剣ティルフィングは人間を狂戦士に変えた後、その被験体の全生命力を使って自律稼動するのさ。
 そして精魂のバッテリーが尽きると被験者はそのまま死ぬ。なっすごいだろう? 流石至高の"あーちすと・雨生"って感じじゃん?
 だいたいさあ、たかが狂戦士を一体程度生み出すだけじゃ"至高の芸術"なんて言えないと思うわけよ?
 製造技術の確立くらいしてこその至高の芸術品! そうだなぁ作品名を付けるならさしずめインスタント・サーヴァントってとこ?
 うん実に"くーる"な"ぐっどねーみんぐ"じゃね! まぁとにかくその名の通り無限に換えが利くのさ俺の狂戦士は───!!!」


 ────宝具の中には剣を筆頭に支配者や王を選定する武具というものがいくつも存在する。
 それは宝具によって選ばれし者だけに力の加護と恩恵を与え、その選ばれし者のみを英雄としヒトを超越させる。
 しかし、そんな選定の宝具の中で一際異彩を放つ魔性の剣が存在した。
 それが魔剣ティルフィング────。
 天才鍛冶師であった黒き小人が創り上げたこの魔剣は他の選定の剣と違いヒトを一切選別しない。
 魔剣を手にした者、魔剣に関わった者すべてを英雄に変えてしまうその強力無比な呪いは常に人々に栄光と破滅を与え続けた。
 この剣にヒトが望む望まぬは関係ない。なぜならティルフィングの意思によって狂戦士《えいゆう》が誕生するからである。


 目まぐるしく立ち位置を変えながら戦う騎士と狂戦士。相手を足で翻弄し、手数で追い詰める戦闘。
 始めの内は互角のように映った戦いも、次第に変化が見え、徐々に戦局はセイバー優勢へと傾き始めていた。
 両者の英雄としての地力の差が出始めているのだ。
「確かに常軌を逸してるのは認めるわ。でもこれがあんたが自慢してたわたしたちでは勝てない理由ってわけ?
 だとしたら拍子抜けよ。生憎だけどあの狂戦士はあと何分もつのかしらね?」
 綾香が侮蔑の篭った台詞で敵を挑発する。彼女は量産狂戦士にはタイムリミットがあるということを冷静に見抜いていた。
 しかし雨生の方はなんでもないことのようにヘラっとした涼しい顔でいる。
「そうだなあ俺の実験では平均して15分ってところ? 特に短い奴で5分程度、一番長い奴では30分はもつかな。
 若くて体格のいい男はその分生命力も強いから比較的長くもつよ。ま、それでも精々30分が限界なんだけどさ。
 クスクスクス。どうやらAランクもの狂化の呪いは生身の人間には致命的な猛毒らしい。
 さっきのやつは特に短い被験体だったようだけど、一回の戦闘で15分ももてば十分だよ。
 でもねお嬢ちゃん、勘違いしてもらっちゃ困るんだけどさぁ。君、俺の芸術品に驚き過ぎてもう一つ大事な存在忘れてない?」
 雨生は言うと同時にパチンッ!と指を鳴らす小気味いい音を響かせた。
「あ─────────」

 なんてことだろう……。
 間抜けにもほどがあると、綾香は己の迂闊さを呪った。
 まさかよりにもよって真打ちの存在を一瞬でも忘れてしまうなんて本気でどうかしている。
 セイバーよりも自分の方が遥かに動搖してた事実に今更になって気付くなんて──────!!

「────2と1。
 さあて一体どっちの数字が強い《おおきい》のかってくらい……お嬢ちゃんらの貧弱な脳味噌でもわかるでしょ?」
「セイバーーーーー戻って早くッッ!!!」

 
 ────さあ思いっきり暴れて来いヘイドレク────


「■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」
 透明な霊体から肉を持つ実体となって本命《ヘイドレク》が虚空より現われた。
 量産狂戦士《まがいもの》とは比べ物にもならないほどに純度の高い本物の狂戦士《えいゆう》が少女の命を踏み潰しに突進して来る。
 いつの間にかバーサーカーの右手には三人の内一人が抱えていた用途不明だった馬鹿でかい斧が代わりの武器として握られていた。
 なるほど人間がサーヴァントを通常兵装で害することなど不可能だが、同存在のサーヴァントが通常兵装を使うなら話は別だ。
 あんな無骨なだけで何の神秘もない大斧でもサーヴァントが装備してさえいればサーヴァントの首を力任せに刈り獲れる。
 量産狂戦士に魔剣を装備させ、ヘイドレクにはなるべく頑丈そうな武器を与え二人がかりで敵を殲滅する戦術。
 サーヴァントを二体保有するなんて本当につくづく悪魔染みた発想を思いつく奇人だ。と綾香の胸中は忌々しさで一杯になった。

「アヤカ───!!? 同時にバーサーカーを使えるのかあいつ!?」
 セイバーが主の元へ駆け出そうと両足で地を力強く踏み締めた瞬間、
「■■■■■ーーーー!!!」
 騎士の死角より薙がれる一太刀。
 それをセイバーは持ち前の野性的な直感で打ち払った。
「チッ! 邪魔すんなよオマエ!!!」
 狂戦士が危機が迫る少女の元に必死に戻ろうとしている騎士を妨害をする。

 綾香は自分にとって最悪であるその状況を顔面蒼白状態で見ていた。
 セイバーは間に合わない。
 自分でなんとか時間を稼がなければ容易くあの凶獣に殺されてしまう。


「────呪怨解放、その怨念よ死まで届け─────ッ!!!」


 彼女はスカートのポケットから呪玉を二つ取り出し最速で詠唱を完了した。
 撃ち出される爆弾。彼女の黒魔術の中で最も火力が高いであろう一撃がバーサーカーに迫る。
 バーサーカークラスには対魔力スキルは存在しない。直撃すればきっと多少のダメージは免れないはず──!
「■■■■■■■■■ーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
 だがそれをバーサーカーは、英雄を舐めるなよ小娘!と言わんばかりの勢いで斬り捨ててさらに前進してきた。
 大斧になんらかの魔術付加がされていたのかまるで足止めにもならない。対魔力スキルがどうのという次元の話ではなかった。
 そんな心配はそもそもサーヴァントの体に魔術を当てられてからするべき心配だったのだ……!
 ついに綾香の元まで辿り着いたバーサーカー。振り下ろされるとどめの一撃。勝利を確信した雨生が歓喜の雄叫びを上げる。

「ア─────────」

 死んだ。これは死んだ。残念だがセイバーは間に合わなかった。つまりわたしにはもうこの死の運命を避ける手段がない。
 本当にもうない? いやまだあるだろう。令呪……。そう令呪だ! まだ令呪が残ってある。
 マスターの切り札。不可能を可能とする絶対遵守の奇跡の結晶がまだ少女には二画残っている。
 眼球が斧の動きをスローモーションで捉える中、死にもの狂いで彼女は令呪を宙に掲げた。


「屈めアヤカッ!! まだ、終わってねえぞコノヤロォぉぉおおおおおおおおおおおおおお────!!!」


 突如耳に飛び込む騎士の雄叫び。
 信じられないことにバーサーカーだけではなかった。
 なんと少女を守護する騎士もまた彼女のすぐ傍にまで迫っていたのだ。

 ─────令呪を使う。
 ─────セイバーを信じる。


 答えは即決だった。
 問うまでもない。なぜならわたしはセイバーを全面的に信頼すると今夜誓ったのだから。
 この騎士はちょっとバカで暴走しがちなところがあるけど何より純粋で本当に気持ちのいい英雄なのだ。
 彼はやると言ったら絶対にやる。屈めろと言ったのなら身を屈めさえすれば絶対になんとかしてくれる。絶対に守ってくれる!

 綾香はセイバーの言葉を信じ全力で身を屈めた。
 そこへすかさず聖堂騎士が左手にある盾をプロテクター代わりにして一か八かバーサーカーの側面から体当たりを仕掛ける。
「バーーーサーーーーカーーーーーーーァァアアアアッ!!!!!」
 ガゴシャ!っという生々しい激突音。鎧の金属音と肉が悲鳴を上げた。
 真横から渾身のタックルを受けたバーサーカーの胴体と脚が大きく"く"の字に揺れる。
 その衝撃の影響は上半身と両腕にまで及び、綾香の頭蓋を真っ二つにする筈の大斧は彼女の髪を数本刈り取っただけで終わった。
 体当たりの勢いのまま地面を転がる騎士と狂戦士。それから両者はゆらりと立ち上がると武器を構えて睨み合う。

「アヤカ無事か!!?」
「あ、危なかったぁ…………ありがとセイバー、なんとか、生きてる……」
 極度の緊張と興奮で心臓の脈動が止まらない。あと僅かにでも斧が逸れていたらきっと頭蓋を抉ってたことだろう。
「でもセイバー、貴方どうやってここに?」
 セイバーは直前までもう一人の狂戦士の相手をしていた筈だ。するとその疑問に騎士が簡潔な回答を返してきた。
「倒した。君を助けるためには選択の余地がなかった」
 量産狂戦士の方を見る。そこには確かに斬り裂かれて力尽きた亡骸が転がっていた。やや悔いるような表情をする騎士。
 しかしセイバーの判断は正解であった。どちらにせよ魔剣の呪いに汚染された時点で男性に生存の可能性はなかったのだから。

「く、ククク、くふふふふ、うふふふははははははははははははははーー!! なかなか凄いじゃないかセイバー!
 バーサーカー程じゃないけどかなり"くーる"だよおまえ! 今の攻防でお譲ちゃんは絶対に死んだと確信したんだけどなあ!」
 こちらの奮闘ぶりを心底楽しいショーでも見ているような感覚で大はしゃぎしている雨生がいつの間にか骸の傍にまで移動していた。
 それも三人の男性の内、最後の一人を連れ添って。
「さあさあセイバー、俺の可愛いバーサーカーたちと決闘しようぜ?
 これに応じる応じないはおまえの自由だけど、その場合そっちのお譲ちゃんは余ったこいつと遊ばせることにするけど?」
 ニタリと立場が上の人間が浮かべる優越感に満ちた笑みで雨生が傀儡に命じた。さあ行って来い俺の芸術品、と。
 男の虚ろな瞳に魅惑的な刀剣が写る。魅了の呪いを持つ魔の剣がおいでおいでと新たな使い手《えもの》を手招きしている。
 男は破滅する運命に何の疑問も抱かず魔剣へと手を伸ばして───
「う、うぅぅううぅ、ううおぉぉぉあああああああがあああ■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーー!!!!!!??」

 そうして三人目の狂戦士《えいゆう》がまたしても誕生した。

「チッ、こうも次から次へと狂戦士が出てくるとなれば流石に聖堂騎士としての血が滾ってくるぜ。
 いいだろう、決闘を挑まれたからには堂々と受けて立ちそして勝つのが騎士たる者だ。
 この悪神の傀儡たちめ、よりのもよってこのオレの前に立ちはだかるとは良い度胸。二人纏めて後悔させてやるぞ!!
 だが一つだけ約束しろ! オレがこの二対一の決闘を受ける代わりに、貴様らは彼女を襲うような卑劣な真似はするなッ!!」

 セイバーはこれより起こる乱戦の巻き添えにならぬよう綾香を自分に近く敵から遠のく位置にいるよう指示した。
 彼女はその指示に素直に従うと少々心配そうな顔で騎士を見守っている。
「おお~"べーりーぐっど"! 流石はセイバーのサーヴァント。この決闘を受けるとは勇気があるじゃん?!」
「御託はいらねえよ。さっさとかかってこい。まあ尤も、貴様にはかかってくる勇気なぞ持ち合わせてはないだろうがな」
 挑発を交えつつ、相手の喉元に美しき名剣の切っ先を突き立てるようにして構えるセイバー。

「ふん、その余裕そうな態度……すぐにでも顔面蒼白に変えてやるよ。
 光栄に思え、後にも先にもバーサーカーのサーヴァントを二体同時に相手にしたのは……きっとおまえが最初で最後だ。
 さあ二人の怒れるバーサーカーよ、その狂気を以て最優のサーヴァントを踏み潰せ────ッ!!!」

「「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」」

 雨生《マスター》の怒号を合図に二人の狂戦士《サーヴァント》が一直線にセイバーへと襲いかかる。
 右手には聖剣、左手にはアインツベルンが残した盾を装備した純白の騎士が敵を迎え撃つ。
 振り上げられる二振りの刃。片方は無骨な大斧。もう片方は災厄を撒き散らす破滅の魔剣。
 それをセイバーは聖剣と盾とを器用に使いこなし見事に防いでいた。そして隙を見つけると素早く距離を開く。
 間合いを開くセイバーを真っ先に追撃するのはバーサーカーだ。次いでそれを後追いする形で量産狂戦士が追走する。
 騎士が主に意識を割いているのはヘイドレクの方であった。量産狂戦士の方には三割程度しか注意を向けていない。

「■■■■■■■■■■ーーーーーー!!!!!」
「やっぱりコイツ………狂戦士の割には隙が少ねえ!」
 二人の敵の攻撃を完璧に防ぎ切りながら騎士は驚嘆する。
 こっちバーサーカーは紛い物などとは比べられぬくらいに強い。
 腕力と速度に物言わせただけの斬撃。喰らえば当然危険だし、命も刈り取れよう。
 だが、それも喰らえばの話だ。セイバーの剣技から見ればこんなものは素人剣とそう変わりはない駄剣も同然。
 コレを遥かに凌駕する剛力と速度で迎え撃てば容易く返り討ちに出来ることだろう。
 なのにそんなことがちっとも上手くいかない。上手くいかないように絶えず妨害されている。他でもないバーサーカー本人にだ。
「■■■■■■■■ーーーー」
 耳をつんざく怒声に乗せて繰り出される斧の乱舞。そして敵の反撃への隙を埋めるように繰り出される原始的な格闘。
 さらにそれをまるで援護するかのように打ち込まれる量産狂戦士の凶刃。
 これら三重の攻めによってセイバーは完全に防戦に回るより他に道がなかった。

 騎士は以前にも彼の戦いっぷりを見たことがあるとは言えど、それでも思わず素晴らしいと感嘆せずにいられなかった。
 ヒトとはここまで本能のみで戦えるのだというまさしく見本のような雄姿。
 バーサーカーには何も視えていない。何も聞こえていない。何も教わっていない。何も理解していない。
 にも拘らずまるで知性の乏しい獣たちが敵の弱点を的確に喰らうように、それこそ本能のままに敵を追い詰めようと肉体を駆動する。
 生前によほど理性を失くし続けたのか、あるいはなんらかの加護的な抵抗要因があるのか、どちらにせよ騎士には知る由もない。
 狂戦士が力任せに大斧を振り回し続ける。そんな駄剣は騎士には届かない。地力はローランに及ぶ筈もない。
 だがそれでも────。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
 この戦士は紛うことなき英雄だった。
 こんな原始的な戦闘法のみでフランク最強の聖堂騎士に肉薄する。相手に攻めさせる暇を与えずただ連打連打連打。
 そこに加わるは量産狂戦士の援護攻撃。二人の狂戦士の苛烈な攻めは濁流の如き勢いで留まるところをまるで知らない。
 驚くのはそこだ。この量産狂戦士はマスターとパスが繋がっているヘイドレクとは違って雨生の支配下にない中立の敵の筈だ。
 言わば誰の敵でも誰の味方でもない筈なのだ。
 だがしかし、この量産狂戦士はただひたすらセイバーのみを猟犬のような執拗さで狙い続けていた。


 一方、そんな三人の決闘を綾香は納得いかない心境で見守っていた。
 セイバーがあれほど防戦を余儀なくされていては他に出せる指示がない。
「そんな……あの男、二体の狂戦士の制御まで可能だって言うわけ!!?」
 少女の独り言が聞こえたのだろう。雨生はまるで観衆に自慢するようなしたり顔でこのカラクリの答えを喋りだした。
「そもそもどうして俺が自由に狂戦士を量産できると思っているんだ? これは誰にでも簡単にやれることじゃないんだぜ。
 いくら魔剣ティルフィングが英雄を量産する魔剣だからって言ってもティルフィングには確固とした意識が存在している。
 もし彼女の意思に反してしまえばとてもじゃないが狂戦士を量産するなんて真似は到底出来っこない。
 つまりこれはな、ているふぃーちゃんと多少なりとも意思疎通が出来てないと不可能な! 俺だけに出来る! 芸当なのさ!!
 彼女はヘイドレクのマスターである俺を味方だと認識している! そして持ち主であるヘイドレクは言わずもがな。
 だからソレは当然の動きなのだ! さあやれぇぶっ殺しちまえ俺のヘイドレクとカワイイカワイイてぃるふぃーちゃん!!」

 雨生の激励に呼応するように勢いを加速させるダブルバーサーカー。
 バーサーカーは勿論だが、特に魔剣の方が本腰を入れたように圧力を増してくる。
 媒介になっている男性の事など完全度外視でセイバーの血を啜ろうと躍起になって襲いかかっていた。
 バーサーカーの大斧に対しては盾で、魔剣に対しては聖剣を以て応戦するセイバー。
 より攻撃力の高いバーサーカーの攻撃を盾だけで受け続けるのはリスクがある。しかし魔剣を盾で受け続けるのはさらに危険だった。
 概念の重みが天と地ほどに違う。どの程度の年代物かまではわからないが盾は所詮現代の魔術品でしかない。
 英霊が所持していた装備ならまだしも現代の魔術兵装を宝具である魔剣とぶつけ合うにはあまりに危険すぎる。

「■■■■■■ーーー!!! ■■■■■■■■ーーーーーーー!!!!」

 いくら間合いを離してもどこまでも狂犬は追ってくる。
 再度鳴る鉄鋼の乱打音。騎士は最短の動作で的確に身を守る。ひたすら凌ぎ続ける騎士を息もつかせぬと狂犬たちが攻め立てる。
「ふぅぅっ────どりゃあッ!!」
 瞬間的に酸素を肺に取り込み体に力を溜めたセイバー。
 そしてバーサーカーズの攻撃の一瞬の隙を突き敵二人の間をすり抜けるようにして回り込んだ。
 このままでは最悪ジリ貧でやられかねない。一旦戦術を変更し態勢を立て直すことを優先させる。
  だがどうもおかしい。今夜に限ってバーサーカーの奴がどういうわけか調子が良い気がする。
 そんな違和感の正体を確かめるべく敵の司令塔をチラ見する。ニヤついた雨生の憎たらしい面がしっかりと視界に捉えられた。

 "アイツ────なんであんなに余裕の表情なんだ?!"

 絶対におかしい。バーサーカーのサーヴァントの燃費の悪さは折り紙付きである。
 それがここまで暴れ狂っているというのにマスターがあれだけヘラヘラと余裕でいられる筈がない。
 そこまで強力な魔力はあの男から感じることは出来ない。ならば何故……?

「「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーー!!!!!」」
「ちぃ! これじゃ考える余裕もねえぞ!!」
 騎士の思考を寸断させる怨霊の絶叫。絶えず打ち込まれ続ける牙によってセイバーはまたしても二頭の猟犬に捕まってしまった。
「くっ……!! クソせめてもう一本剣があれば………!!」
 身動きを封じられつい苦々しく愚痴った。手数が足りない。左右から同時攻撃をしてくる狂戦士たちを捌くだけで手一杯だ。
 頭上から落ちてくる魔剣を右手の剣で止め、大斧の胴薙ぎを左手の盾で抑え、下から斬り上げてくる魔剣を一歩だけ下がっていなす。
 こちらが下がった隙に大斧の振り下ろしが来た、これを左の盾でカチ跳ねる。首を落としに来る魔剣を剣で受け止めまた繰り返す。

 "ちくしょうチクショウ! あと一本。左手にもう一本剣がありさえすればこの状況から脱するきっかけを作れるのに……ッ!"
  
 じわじわと焦燥感が募っていくセイバー。精神的な負担は勝敗を別ける大きな要因の一つだ。
 そういうもの積もり積もればどんな強者とていつしか足元を掬われることになりかねない。
 状況を打破するためのモノを考えるだけの余裕がない。脳味噌すべてを敵の乱打を捌くことに集中させなければ討ち取られる。
 嫌な汗がセイバーの頬を流れたその時、背後で彼のマスターからの天啓にも等しい指示が飛んだ。

「───セイバー魔導剣よ! 魔導剣を使って!! 援護するからその隙に装備して!!」
「───────ハッ!!? そ、それだ! いいぞスゲェぞアヤカ、頼む!!」

 聖杯戦争とは一人で戦うものではない。マスターとサーヴァントがそれぞれの持ち味をフルに生かして勝ち抜く生存競争である。
 サーヴァントが武器を取り、マスターが勝つための援護と知恵を絞る。
 それは聖杯戦争においては王道のスタイルにして最も安定した戦略の一つだった。


「─────末代まで祟れ、その苦痛今こそ晴らすべし─────そいつらから離れてセイバーッ!!!!」


 綾香は速攻で発動のための呪文を詠唱し呪玉に魔力を篭めた。増幅する呪いがより力強さを増している気がする。
 照準を二体のバーサーカーに絞ってセイバーに退避するよう指示を出す。
 なにやら雨生が綾香の行動を決闘の妨害だと非難しているが知ったことじゃない。そもそもこんな不公平な決闘自体が馬鹿げてる。
 騎士が合図に合わせて全力で左後方に跳躍すると同時にブッ放たれる呪弾。ドッチボール大の呪力が二体の狂戦士に飛来する。
 綾香の援護射撃に真っ先に反応したのは意外にも量産狂戦士の方だった。
 まるでヘイドレクを守るようにして間に割って入ると、呪弾を魔剣で激しく斬りつけた。
 より強大な神秘で真っ二つにされた呪術は幻のような呆気無さでかき消える。しかし大した問題ではない。
「うしっ! 反撃開始よセイバー!」
 彼らの目的は十分に果たされているのだから。

 月光に煌めく二振りの剣。
 二刀の名剣を左右の手にそれぞれ握り締めた聖堂騎士の面貌には復活を示す会心の笑みが────

「本気で助かったぞアヤカ! ────さあ、こっからが本番だぜ貴様ら……ゆくぞッ!!」

 騎士は二つの刃を翼のように広げて敵へと特攻して行った。
 水を得た魚の如き躍動感で剣戟の火花を散らす。騎士が手数を増やしてくるのに合わせて狂戦士たちも一気に剣速を上げる。
 二刀流となった剣士は先程の苦戦が嘘のように戦局を盛り返しにかかるのだった。





───────Interlude   VS Masters───────


「……チッ! 決闘に横槍を入れるとは随分汚いじゃないか小娘。これはセイバーとバーサーカーの決闘の筈だろう?」
 少女の援護射撃のせいで高揚していた気分に水を差された、といった具合の不愉快そうな表情をする雨生。
「なに寝ぼけたこと言ってるのよ。そもそもこんなものは決闘なんて呼べない代物じゃない。わたしは両者の条件を対等にしただけよ?」
 それに対して綾香は逆に涼しい顔で雨生の忌々しげな視線を受け止めていた。
「それに、そんな呑気に死合観戦なんて洒落込んでいる暇なんてないと思うけど?
 あんたは今からこのわたしにボッコボコにされるんだから────」

 雨生の方へ一歩足を大きく踏み出す綾香。その足取りに躊躇や恐怖といった感情はない。
 そう、どの道彼女には雨生とのマスター対決に挑む必要があるのだ。
 バーサーカーにはあの最悪にして最強の男殺しの邪剣がある。まともに戦る前に司令塔を叩き潰さねばこちらが不利なのは明白だった。

 雨生は自分に接近しようとする少女の意図を即座に読み取ったのだろう。しかしそれでも余裕の表情を保っていた。
「フッ、なるほど? 先にマスターを叩いてしまおうって魂胆なわけだ。
 でも出来るのかなあ? お嬢ちゃんのサーヴァントは一体。俺のサーヴァントは二体だ。この意味わかるかな?」
「…………………」

 わざわざ言われるまでもない。あれは明確な脅しだ。
 大人しくサーヴァントの決闘を見てろ。でなくばもう一体のバーサーカーを戻してお前を轢き潰すぞ、と。

「さあお嬢ちゃん。それでもなお俺に挑みに来る勇気があるのならどうぞご自由に。
 しかしそれにしても君さ、クク結構可愛いねぇ? その洋服みたいな衣装、随分と脚の露出が多くて蠱惑的だけど誘ってるのかな?
 だったらちゃあんと応えなきゃね。俺が勝った暁には特別に君を玩具にしてあげましょう。長く愉しめるように色々と、ね?」
「───────ッ!! この真性変態野郎ッ………もうアッタマに来たわ絶対に叩き潰す!!」
 彼女の背筋がぞわりと怖気立った。奴の眼は本気だ。もし万が一負けようものならどんな凌辱を味わうかわかったものじゃない。
 だけど今の台詞で完全に本気になった。要するに今までこの男は遊び感覚で多くの人々の命を玩具に貶めてきたのだ。
 自分は条理の外を歩く魔術師、ある意味で非人間と言ってもいい。そんな自分がセイバーみたく正義感を気取るつもりは毛頭ない。

「セイバー!! わたしがマスターを叩くから貴方はそいつらにこっちの戦いの邪魔をさせないで!!」
「────ムッ? ヨッシャならこっちは任せろ! 君がくれたチャンスをしっかり生かしてみせるから見てろ!」

 だけど、本気で気に食わない敵は完膚なきまでに叩き潰しとくのが魔術師の流儀だ。
 その流儀に従い、この下衆男をこの手で木っ端微塵に粉砕する────!

「……へえ? それでもやる気かい。なら同時にさようならだ。てぃるふぃーちゃん、そこの命知らずの馬鹿娘を殺していいよ!
 ………………………………ってあれれ? オ、オーイ、てぃるふぃーちゃん……?」
 何の応答もないのを不審に感じサーヴァントたちの方に目を向けてみると。


「うおおおおおおおおおおおどりゃりゃりゃりゃりゃりゃーーーッ!!!」
「■■■■■■■■■ーーーーーー!!!」
 華麗な剣舞を披露する騎士が現世の主君の指示通り二体のバーサーカーを見事に押しとどめていた。
 この戦況の変化は騎士が剣を二本手にしたことでより攻撃的な防御動作が出来るようになったおかげだろう。
 どちらの狂戦士も雨生の元へ戻る余裕はない。
 いや、目の前の獲物を殺すことだけに躍起になっていて主人の制御が全く効いていない。

「───なぁ、くっ! バーサーカー! てぃるふぃー! そいつは放っておけ今は戻れ、戻れえぇえッ!!」
 だがバーサーカーたちはマスターの指示を無視してセイバーを襲い続ける。騎士も受けて立つとばかりに全力で火花を散らしている。
「ざまぁみなさい。わたしのセイバーの実力を甘く見過ぎたのが敗因のようね。やる時はバッチリやる奴なんだから。
 さあ、これでお互い余計な邪魔は入らないわ。わたしとあんたの一騎打ち。
 でもバーサーカーに膨大な魔力供給してる時点であんたにはまともな魔術戦なんてする余裕はない。さあ往生なさいッ!!」
 綾香が呪文詠唱を始める。魔力が身体中を蹂躙する感覚を我慢して、術の完成のみに執心する。
 まずは敵に呪詛を叩き付けて動きを封じる。その後にとどめとなる大技を喰らわせたら勝負は決着だ。

「────嫉妬よ、煉獄に通ずる穴を開けよ────!!!」

 いつもは上手くいかない呪術が今夜はバッチリ手応えがあった。
 狂戦士に撃った呪弾といい今夜は珍しく調子が良い日らしい。これならなんとかいけると少女は確信する。
 雪崩込むようにして男に殺到する黒い球の群れ。雨生は一切逃げようともせずにつっ立ったままの体勢でいる。
 しかしだからといって無行動ではなかった。

「───水面は光を反射する鏡────!!」

 という詠唱が聞こえた直後に雨生の前に突如水膜が張られる。
 水膜に直撃した黒い球の群れは反射するように全弾明後日の方向に飛び散っていった。
「防御魔術……!? 嘘、なんで!!?」
「なんでだって? これまたとんだ"るーきー"だな。一人前の魔術師なら礼装の一つや二つ所持してるものだろう?
 でもまあお嬢ちゃんのような半人前には縁のない話かもしれないけど。おまけにここら一帯には俺を補助するための結界を敷いてある。
 この結界と礼装の補助があれば宝具でも抜かない限りは普段よりも遥かに余力があるんだよ今の俺にはね!」

 和服の腰に巻かれた血のように赤い帯。それが雨生の礼装であった。
 ────名を『集飲する渦《パワースポイト》』。
 礼装には固定化された神秘を具現するものと術者本人を補助する二種類が存在するが、この礼装は後者に分類される品である。
 その能力は自然界の水や生物の血液など液体に含まれる魔力を渦のように巻き集め、己の魔力として変換し増幅させる機能を持つ。
 特に川や地下水脈からは多くの魔力が摂取出来るため雨生はこの辺一帯に結界を敷きより自身に魔力が集中し易いよう工夫していた。

「ちぃ、だったら余裕がなくなるまで攻めるだけよ────射抜け呪いの指───!!」

 短詠唱と共に人差し指で雨生を指差す綾香。直後マシンガンのように乱射されるガンドの嵐。

「話にならないな────水弾を土砂降らす豪雨────!!!」

 同時に雨生も一小節の詠唱を完了させ、水雫の散弾銃を撃ち放った。
 圧倒的な水砲の弾数を前に容易く飲み込まれてしまうガンドの嵐。
 悔しいが魔術の技量が違った。これが半人前と一人前の差なのか。
 綾香は自分目掛けて飛んで来る水の散弾をすんでのところで横に飛び込みなんとか回避する。
 地面を勢いよく転がった際、スカートがめくれ上がりそうになったので咄嗟に中が見えないよう手で抑え込んだ。
「────ああああああああもうちょいだったのに! チッ、おしいぃぃぃ!!」
 すると雨生が突然大声を上げてワシャワシャと頭を掻き毟って身悶えしだした。しかもなんかどうも本気で惜しがっている。
「あ、あんた人が命のやりとりやってる最中にどこ見てるのよッ! もしかしてわたしを舐めてるわけ!?」
 少女の怒声に、まだくねくねともんどり打っていた雨生の体がピタっと停止した。
 綾香を見る奴の目はとてつもなく冷淡だ。その瞳の色は怒りよりもむしろ失望の念が強い。
「それはこっちの台詞だよお嬢ちゃん。舐められてるのは俺の方だろう? そんなザマじゃ嫌でも脚に目が行くってもんだ。
 魔術戦を挑んで来るからにはそこそこ腕はあるんだと思っていたのにまさか七階位程度の実力とは……身の程知らずも甚だしい」
 雨生が吐き捨てた台詞は少女の怒りに火を点けた。あろうことか敵に力不足だと呆れられていたのだ。これ以上の屈辱はそうない。
「───ッ! だったらこれを受けてからもう一度同じ減らず口を叩いてみなさいよ!」
 スカートのポケットから取り出したビー玉サイズの呪玉。それは昼間の内に頑張って精製した彼女のウィッチクラフトの結晶。

「────呪怨解放、その怨念よ死まで届け─────ッ!!!」

 彼女にとって最大火力の呪いを渾身の力で敵に撃ち込んだ。
 こちらの攻撃に対し雨生は片腕を上げて何やら呪文を唱えている。するとその直後、眼に見える異変が起きた。

「ふ……不発………?」

 敵に直撃する筈だった呪詛など最初から存在しなかったかのような唐突さで彼女の魔術は消滅してしまった。
「いいや不発じゃない。お嬢ちゃんの魔術を俺が解体しただけだ。……しかしなんて脆い術式なんだこりゃ?
 ここまで酷いとは思わなかったよ。まさかウィッチクラフトの基本的な術式構成も全く出来てないとはね。見事に向いていない」
 そんな馬鹿な……魔術を解体した……だって?
 それがどうしても信じられず綾香はもう一度同じ魔術を雨生へと放つ。だが結果は先と全く同じに終わった。
 ただ同じことの繰り返しをしただけで、またもや雨生は綾香の呪術を容易く解体してしまったのだ。
「そ、そんな…………」
「ククックックッ、なにをそんなに驚いてるわけ? 魔術師同士の戦いってのは誰よりも速く世界を読み解く戦いなわけじゃん?
 遅いんだよ君が。圧倒的に。どうしようもないほどにさ。そもそも魔術師と殺し合いを出来る"れべる"に全然届いてない」
 綾香は気付けば雨生の前進に気圧される形で後退りしていた。
 あまりに不抜けた己の逃げ腰に数日前の屈辱的な記憶が蘇ってくる。
 あからさまにこちらを見下してくる敵の視線。そういえば前にもああいう目で敵に見下されたことがあった。
 ファイターのマスター遠坂刻士と魔術戦をした時だ。そのとき彼もああいう風に自分を未熟者の魔女と鼻で哂っていた。

「おやおやなんだい、もしかしてもう手札が無くなっちゃった? しょうがない、それじゃあ俺がちょっと遊んであげましょう!」
 少女からまるで反撃の気配が無いのを読み取った殺人鬼は嗜虐の笑みに顔を歪ませながら彼女の方へと歩みを進める。

「───凍傷を怖れよ、荒ぶれ雹───」

 十秒ほどで二小節の詠唱を完了させた雨生の両掌から雪玉のような氷塊が出現する。
 前方へ突き出された両腕。そうして間髪入れずに雪玉から轟々と噴射される極寒冷気。周囲を局地的猛吹雪が襲う。
 吹き荒れるその冷気はただでさえ肌寒い冬の夜をたちどころに氷点下の世界へと豹変させた。
「あく……さ、寒い………?!!」
 肌が痛くなるぐらいの外気に曝されて綾香の動きがみるみる内に衰えていく。それを狙いすました雨生の追撃が彼女に襲いかかる。
「ほ~らお嬢ちゃん頑張って躱すなりしないと串刺しになるよ~?」

「────水滴よ豹変せん、氷片纏いて成るはつらら───!!」

 雨生の両手がいつの間にか水でびしょびしょに濡れていた。
 一小節の呪文と共に振り払われる無数の水滴。魔術で発生させた水滴は極寒の猛吹雪に反応して即座に氷片と化す。
 始めはなんてことない大きさだった氷粒は次第にどんどん一つに集まってゆき、ついには立派なつららへと変貌を遂げ標的を射貫く。
 綾香は素早く回避しようとした。
「くぁ──あ、脚が思うように動かない……!??」
 ──が、逃げようにも極寒でやられた両脚が脳の命令通りに動いてくれなかった。
 彼女の判断は実に迅速だった。避けられないのなら残る手段は手に握っている簡易礼装で相殺するしかない。
 成功する保証などどこにもなかったがとにかく無我夢中で呪術を開放した。射ち込みながら両腕で顔や胴体をすっぽりとガードする。
 少女の必死の一発はとりあえずつららに命中した。爆発音と共に砕け散る氷柱。
 しかし砕けた氷柱は無数の氷片となって彼女の身に激しく降り注いだ。華奢な両腕に刺さる華美なる凶器。苦痛に歪む女の貌。
「痛ッ、あぐぃ……ギ!」
 今の攻防は完全に綾香の力負けだった。彼女は致命傷となる串刺しを免れただけで攻撃の相殺すらまともに成功しえていない。

「う~ん折角手加減してあげたのにまともに相殺も出来ないなんてね。お嬢ちゃんもしかして……劣等生?」
「……!! 誰が劣等生よこの変態殺人鬼ッ!!」
 雨生の暴言に綾香がすかさず吠え返した。敵からの許しがたい侮辱を受け弱気なんか一気に吹っ飛んでしまった。
「おおっ! 結構結構! やっぱり獲物はある程度活きが良くないと駄目だよねー。いったい君はどんな声と表情で鳴くのかな?」
 そう言って雨生は雨生家魔術刻印から強化の魔術を引っ張り出すと一工程で脚に強化を施し、虎の如く駆け出した。
 舌舐めずりする殺人鬼が猛スピードでこちらに迫ってくる。敵の動きが疾すぎて攻撃魔術での迎撃が間に合わない。

「───筋骨強化開始───!!」
「ヒャッホーイ! ────殴り殺す雫───!!」

 両者の詠唱はほぼ同時に始まり、そしてほぼ同時に完了した。
 雨生の右拳にはボクシンググローブのように水の球体が覆っている。一方の綾香は苦肉の策として肉体の強化で魔術防御を試みる。
 頭と胴体を亀のように両腕ですっぽりと覆って急所を守っている綾香に雨生の水球の拳が容赦なく叩き付けられた───!

 標的との接触により弾け飛ぶ水の雫。だが弾け飛んだのは水球のグローブだけではない。
「ギャブッ──────うぎゅ!!!」
 恐ろしく圧縮された水圧のパワーによって少女の身体もまた巨人に投げられたかのような凄まじい勢いで薙ぎ飛ばされた。
 そして大地に無惨にも叩きつけられる。半端じゃない痛みと衝撃が少女の細い身体を存分に蹂躙していった。
 苦悶の声を吐き出し全身擦り傷だらけになった女の姿を男は愉しげに見下ろしながらゆっくりと歩み寄ってくる。
 綾香は身体中を襲う強烈な痛みよりもなお先に身体の違和感に気が付いてしまった。

「くぁ……う、嘘…か、身体が凍り始めて──!!?」

 信じられないことに今の一撃で水にずぶ濡れた身体が冷気で急冷却されることによって早くも凍り始めていたのだ。
「そりゃ凍るさこれだけの極寒の気温なんだ。
 しかもただの"うぉーたー"じゃないから凍るのも実に"すぴーでぃー"。う~んまさに"ぐれいとこんぼ"素晴らしい!」
 ダメージでまだ起き上がれない彼女に埋められぬ実力差を明確に証明してやった殺人鬼は完全に余裕の表情だ。
 今から自分を嬲る気でいるのが丸分かりの下品な面貌が近付いて来るというのに綾香はまだ立ち上がれない。
 水圧球の傷と瞬間冷凍の二重苦で彼女は完全に窮地に追い込まれていた。
 再び身体強化を施した雨生が奇声を発してまっすぐに走ってくる。
 20mの距離を瞬時に駆け抜けた殺人鬼はあろうことか四つん這いから立ち上がろうとしていた少女の横腹を思いっきり蹴り飛ばした。

「ごっ…………ぶ……」
 蹴り飛ばされて地面を転がっている筈なのに不思議と痛みがなかった。
 冷凍による感覚麻痺と蹴りがあまりに痛すぎたせいだ。痛いという認識を脳がしてくれずにいる。
 ただ肺の空気を全て強制的に排出させられた息苦しさだけが蜘蛛の巣のように絡み粘りついて離れない。
 肺がボイコットを起こし脳に酸素を回さないせいで気を抜くとつい貧血でノックアウトしそうになる。
「こ、コノォ……ゴボッ、ガフッ! こ、こっちは女子、なんだから少しは加減、したらどうなのよ…………ゴホッ!」
 あの変態の前で気を失えば完全に終わりだと理解していた彼女は悪態を気付け薬にしてなんとか覚醒状態を維持していた。
 歩みを止めぬ雨生。少女の睨みなぞ何の重圧も感じていない鼻歌交じりの軽い足取りだ。
「さあてとそろそろ"ふぃにっしゅ"といきますか。あ、安心していいよお嬢ちゃん? ちゃんと持って帰るからこの場では殺さないよ」
 彼の両手から湧き出たモノは頭大の水の玉。雨生の胸の位置で浮遊する大水玉の用途を綾香は何となく察してしまった。

 アレは敵を窒息させるものだ。
 攻撃力に重きを置かない、敵を捕獲するための悪辣な魔術───それがあの大水球の正体である。

「う、く…マズい……本気でマズイわよこれ。このままじゃ格好の餌食じゃない……ッ!」
 敵がとどめを刺しに、もといこちらの僅かに残った意識を刈り取らんと迫る。
 逃げようにも手足の反応が極端に悪い。気持ちは焦る一方なのに肉体は激しいダメージと凍りかけのせいで上手く機能しない。
 焦りと混乱で頭が真っ白になる。心臓の動悸が一向に止まらない。心拍数が上がり過ぎて胃の中のものを吐きそうになる。


 "───正直なところさアヤカ。キミって、黒魔術下手だろう?"


 その瞬間、数日前に誰かに言われた意味のない言葉が流れ星のように頭を通り抜けていった。
 思わず笑いそうになった。本当に今思い出す必要がなさすぎる。どうせ思い出すならこの場面で使える記憶でないと意味がない。
 だというのに彼女の脳はついでとばかりにさっきの記憶と連動して遠き日の嫌な過去《トラウマ》まで思い出させてくれた。

 "やったぁ! ねぇおじいさま見て見てせいこうよ! はじめてまじゅつがせいこうしたっ!"
 "ハ、ハハ………………………………こりゃあ、困ったのぅ……"

 初めての大成功に喜ぶ幼き日の自分。それとは対照的な師匠でもあった祖父の苦い顔。
 生まれて初めてまともに成功したわたしの魔術は祖父にとっては──────。
 尊敬する師の困り果てた顔を見て子供心に思った。
 祖父は成功を喜んでくれない。ならこの魔術はよくない、出来の悪い魔術なのだと。
 だからわたしはその日から■■■■なんて金輪際使わないと決めた。
 そうだ、あんな魔術は頭が悪い。
 魔女なら魔女らしくもっとスマートな感じに無駄な破壊なく魔術行使せねば駄目なのだ。そうなのだ、そうに決まってるのだ。


 "───キミはさ、オレと同じで気に入らない相手には嫌がらせするよりも真っ向からブッ飛ばすタイプじゃないか?"


 だっていうのにさっきから無意味な記憶のリプレイばかりを見せられている。
 だから今そういうのは必要ないんだってば。欲しいのはあの変態殺人鬼のとどめを防ぐ方法だ。
 強化魔術───窒息への防御としては無意味。
 空気操作で酸素の確保───あの男がみすみす呼吸を許すとは思えない。
 呪術で迎撃───したところで力負けするのは目に見えてる。
 簡易礼装───既に使い切ってしまった。
 ─────他にはなにかないの!?


 "────アヤカは陰気臭いウィッチクラフトよりも派手で直接的な魔術の方が性に合ってるんじゃないのか?"


 まるで無視できぬ警鐘のように頭の中で何度も何度も何度も繰り返される騎士の言葉。
 ああもういい加減にうるさい。うるさいうるさい五月蝿いうるさいウルサイうるさい五月蝿いうるさい。
 お願いだからちょっと静かにしててよセイバーこの危機を脱する方法を死に物狂いで模索してるんだか──ああもうまた同じ事を!
 いやだからわたしはさっきから言ってるように────

「それじゃ"ぐっばいがーる! うぇるかむぺっと!" ────我が敵の意識を飲み下せ渦潮────!!」
 ついに獲物《あやか》の目の前まで肉薄した舌舐めずるケダモノ《うりゅう》が最後の一撃を発動させた。
 一小節で練り上げられた魔術。内部で激しい渦を巻く巨大水球が少女の頭上から頭部目掛けて鉄槌の如く振り下ろされる。
 綾香の眼球はその光景をスーパースローカメラのようなゆっくりとした映像で映し続ける。
 死を間近にして一際大きな心音がドグンと───。


 ─────今の貴女に残ってる手札なんてあと一つだけでしょう─────?

 ─────あの日鍵を掛けて以来ずっと仕舞い続けた宝箱の中身だけ─────。

 ─────持たざる者の癖に選り好みの贅沢とは関心しないわ─────。

 ─────ここで終わりたくないと願うのならば、この瞬間を以て本来の自分に戻りなさい─────!!



「だから─────元素変換なんて使わないって言ってるじゃない!!!」

 長きに亘って少女の内に眠っていた獣が目覚めの刻に高らかな咆哮を上げた。喉から迸る死に抗う気合に満ちた雄叫び。
 敵に向かって真っ直ぐに突き出された一本の手。思考は肉体と同じく完全に凍結──否、破棄した。
 清々しいと思えるほどにキレたせいで自分でも何をやってるのか全く理解が及ばない。
 理解などいらず、ただ自然体のまま、まるで今までの鬱憤を晴らす様に、渾身の最高速度で掌に魔力を集中させた。
 想像したのはこの極寒を打破する熱風。凍りかけで感覚も麻痺したこの身体を蘇らせる奇跡の風だ。
 収束する魔力に反応して赤く光り輝く掌。

 そして次の瞬間──────とてつもない魔力の奔流が辺り一帯を飲み込んだ───!!

 眼を眩ませる閃光を伴って、綾香と雨生の間には突如高温の熱をその身に纏った台風が出現した。
「な……この魔力──ぉおおおおお!? ずごッ──!? ごぁああがああああがががギががああああうあぁぁぁああッ!!!??」
 回避する間さえなく暴風をまともに浴びた雨生。
 浮遊感に襲われた両足はあっさり地を離れ、呆気無く宙に放り飛ばされた。そして勢い良く空を舞った直後に墜落。
 だが勢いは失われることなくそのまま錐揉み状態で大地と宙を往復するケダモノ《うりゅう》の身体。
 野球のライナーゴロでもああ跳ねないだろう。例えるなら川などでやる平石を使った水面飛ばし遊びのような美しさ。
 雨生はつい溜息が出てしまうような豪快さで荒々しく跳ね飛ばされながら、最後には水柱を上げて冬の川の中へと没していった。

「ふぅはぁはぁ、ふぅッ。 ほらみなさいよ………やっぱり力任せのゴリ押しみたいで全ッ然ッ華麗な魔術じゃあないわ……ッ!
 これだから嫌なのよフォーマルクラフトなんて。頭悪そうに見えるったらありゃしないじゃない!!」

 己の愚行に悪態をつきながらふらふらと立ち上がる少女の姿。右手でズレていた眼鏡をかけ直した。
 高温の熱風に晒されたおかげで凍りかけていた体は綺麗に解凍され再び元の自由を取り戻している。
 不幸中の幸いか全身が凍りかけていたおかげで冷気と高熱が互いに相殺し合い火傷も殆ど見受けられない。
 しかし冷気で身体を守られていなかった雨生の方は────

「───ぷはぁっ!! はぁはあはぁはぁ…ッ! こ、このグソガキィィ……!! まさか今のがおまえの切り札……!?」
 熱風と錐揉みダイブで至る所に火傷と怪我を負った雨生が頭から血を流しながらもなんとか川から這い上がってきた。
 その双眸は憎悪と憤怒で血走っている。ずぶ濡れた髪と憎しみに歪む眼球のせいで雨生の姿もはや亡者か悪霊の類にしか見えない。
 彼からしてみれば少女の反撃は大誤算もいいところであった。
 余裕で勝てる筈の子猫がまさかライオンじみた攻撃をしてくるとは想像すらしていなかったのだから。
 完璧に不意を突かれた分、肉体的にも精神的にもダメージがとてつもなく大きい。
 取り繕うように雨生が治癒魔術を発動させる。だが傷は非常にゆったりとした速度でしか塞がらない。
 帯の礼装が川の水気をかき集めて魔力に変換しているにも拘わらすだ。
 明らかに雨生が動揺して治癒魔術の術式が不完全になっているのだと手に取るようにわかった。

「チッ、傷の治りが遅い……! ぐっ、七階位の新米魔術師だと思っていたが、まさか三味線を弾いてたとは言わないよなぁ?」
「あんたみたいに余裕かまして土壇場で敵に噛み付かれるほどわたしは馬鹿じゃないわ」
 雨生の感情をさらに揺さぶるべく心底相手を見下した態度でそう放言する綾香。
 しかし台詞とは裏腹に彼女とて余力は全くない。これまでで散々嬲られた分の蓄積ダメージは確実に彼女の体を蝕んでいた。

「────ッ!!? こ、コノ…言わせておけばこの小娘がァ!!
 どうせ今の魔術行使は命の危機に晒された新米にありがちな"びぎなーずらっく"や火事場の馬鹿力の類だってのは分かっている!
 なにもおまえの魔術の腕前自体が急激に上がったわけじゃない。我々の力量の差は何も変わっちゃいないのさ。
 クハハハハ、君を持って帰って実験玩具にするのはもう止めだ。今この場で殺してあげるよお嬢ちゃん────!!!」
 魔術師が両腕を鳥のように大きく広げた。雨生虎之介がこの戦闘で初めて本気の魔術を行使するための構え。
 ここにきて男はようやく少女を一人の敵対者と認識していた。
「ふん。フォーマルクラフトはあの日以来金輪際使わないって決めてたけど……この際だからもういいわ。
 死んだら元も子もないし、何よりあんたみたいな狂人の玩具にされるくらいなら毒をもって毒を制すのを選んだ方が万倍マシよ!!」
 ここにきて少女はようやく己の好みを投げ捨てて敵に立ち向かおうとしていた。

「─────その猛威を人々は恐れん、水龍は遥か高みより集まり巨となりて下来する、全てを押し流せ流水────ッッ!!!!」
「─────煉獄到来、懺悔すべき罪人は此処にあり、神仏の怒りを槌に変え奴らを炭と化せ紅蓮の業火────ッッ!!!!」

 両者共に三小節以上にも及ぶ長い詠唱を以て発動させる攻性魔術。
 魔術師にとって詠唱とは長く小節数が増えるほどに魔術が強力極まりないものとなる。
 そんなある種の決め技とも言っていい大技を敵を屠るためだけに行使する二人の魔術師。その身に刻まれた刻印が脈動している。
 熟達した手練である雨生の方が一足先に魔術を起動させた。湿気を帯びた水の匂いが辺り一帯に広がる。
 そして鉄砲水の如き膨大な水量の奔流がちっぽけな少女の体に襲いかかった。
 同時に、一足遅れて綾香の魔術が起動する。空気を焼く焦げた匂いの後に轟々たる灼熱が文字通り火を噴く。
 赤と青の激突する。火と水。熱と冷。互いに正反対に位置する属性を持った天敵同士が相手の力を呑み尽くさんと勢いを増していく。

「馬鹿な……こりゃ何かの冗談じゃないのかよ!? この餓鬼、魔術の根本的な威力が上がっているとはどういう事だ!!?」
「五分───!? よし力負けしてない! これならなんとかやり合える!!」

 火花散らす激突の末、二人の魔術師が放った必殺の魔術は相手の喉笛を掻き切れずに揃って消失した。
 すかさず次弾の装填を開始する魔術師たち。詠唱は先よりもずっと短い一小節。より最速で自己に埋没する事にのみ集中する。
「───泣き喚け血の飛沫───!!」
 今度の先手もやはり雨生だった。魔術の練度がまだ半人前の綾香と違って達者な分同じ詠唱量でも発動が圧倒的に早い。
 掌から乱射される水砲撃の弾幕。一発一発の破壊力は近年日本に流入してきた拳銃程度しかないがその反面連射性に富んだ魔術だ。
 長詠唱による大砲の威力が五分同士ならば、次は短詠唱による速射性で敵を押し切る戦術に切り換えてきた雨生。
 この戦法を使われればどれだけ相殺しようとも常に後手に回る少女はいずれ詰むことになる。
 知恵者でもある彼は冷静かつより確実な方法で綾香を殺しにきていた。
「───我がもとに来たれ烈風────!!!」
 しかし、そんな雨生の思惑はトルネードのような一陣の風によって薙ぎ飛ばされてしまった。
 爆風が産声を上げる。拳銃弾と同等の破壊力を秘めた水粒たちは少女の柔肌に穴を空けることすら叶わず四散した。
「チィィ! 信じられん! こいつなんて魔力馬鹿なんだ、詠唱のトロさを補って余りある破壊力があるだと───?」
 雨生は続け様にもう一発別の魔術を試した。魔術刻印に魔力を通す。ただそれだけの動作で一つの魔術が成立した。
 雨生家魔術刻印に保存された攻撃用魔術を引っ張り出し一工程という最短時間で発動させた広範囲に及ぶ攻撃。
 半径五メートル四方を簡単に吹き飛ばせる水性爆弾。
 だがそれすらも少女が放った力任せの魔術によって相殺させられてしまった。

 ───妙だった。熟達した魔術師の自分が半人前魔術師に魔術戦で互角に持ち込まれている。
 これは普通に考えればありえない事態だった。
 弱者が強者を喰らうなんてことはまず起こり得ない。奇跡でも使わない限りそんな大逆転なんて起こり得る筈がないのだ。
 だがさっきと今ではあの小娘の勢いがまるで違うのも事実。
 呪術を使ってた時と現在の元素変換では魔術の躍動感が完全に別物としか思えない。
 むしろ直感的に元素変換《こちら》の方がより馴染んだスタイルに感じてしまっている有り様だ。

「あの小娘────まさか呪術《ウィッチクラフト》よりも元素変換《フォーマルクラフト》の方が専門なのか………ッ!!!?」
 だとしたらこれはマズい。兎狩りにかまけて追い詰めすぎた結果自ら余計な強敵を増やしてしまったことになる。
「──────氷結一夜、凍えし氷天で昼夜を覆え───ッ!!」
 挙句に思考に意識を取られ過ぎたせいで相手に先手を許してしまった。氷結系の魔術が雨生を凍てつかせんと襲う。
「───内と外をその流水にて遮断せよ滝───!!」
 人間を数分足らずで冷凍人間に変える寒波は即座に川の流水を引っ張り防護膜を展開した雨生によって綺麗に封殺された。

 冬だというのに冷たい汗が男の背中を流れ落ちた。贔屓目に見ても雨生が敵からのプレッシャーを感じているのがわかる。
 ここまでの応酬で一つハッキリしたことがある。
 それは少女の操る魔術から感じ取れた魔力の強さはまだ残る未熟さを補えるだけのものがあるということ。
 それこそ己と小娘の差を埋めるだけの力が。雨生でさえこの魔力の強さはもはや生まれ持った才能だと認めるしかなかった。
「笑えない話だ。どうやら俺はグースカ眠っていた雌獅子をむりやり蹴り起しちゃったってわけか? なんて"ぶらっくじょーく"だ」
 男の口元から苦々しい自嘲が自然と零れた。この小娘をこれ以上育ててはいけない。無闇に経験を積ませてはならない。

 この女は今此処でまだ芽の内に摘み取っておかねばいつか自分の首を絞める結果になるに違いない────!

「戻れバーサーカーーーッ!! お前は今すぐにこの小娘を殺せ! てぃるふぃーは少しの間でいいセイバーの足止めをしろ!!」
 条理の外に生きる魔術師の本能で少女を未来の危険分子と判断した雨生は全力で自分のサーヴァントへ向けて念を送った。
 このまま消耗戦をしていても埒が明かない。狂戦士クラスを手繰る己はそれだけで長期戦は不利なのだ。もっと確実な手段で消す。
 マスターの必死の念が通じたのか、未だセイバーと交戦中だったバーサーカーはその動きをピタリと止めついに少女の方を見た。

「■■■■■■■■■ーーーーーーー!!!!!!!」
「───────ちょ、うそ本気!!??」

 そして咆哮を上げて綾香の方へ一直線に突っ込んできた────!





───────Interlude  out───────



──────V&F Side──────


 助けろ!ウェイバー教授!第二十五回


F「あ"~暑い"……なんて猛暑なんですか東京は……さすがコンクリートジャンゴーですね……」
V「いやまあ別に東京に住んではいないのだがな。くそ暑いのは事実だが」
槍「あ~駄目でござる。拙者の速さを以てしてもこの暑さを振り切れぬ……むしろ足を止めた後が地獄とは」
F「先生~今日は巻いて行きましょうよぅ。この教室クーラーどころか扇風機すらないですから長居すると死にます。主に俺が」
V「ああ珍しく良いことを言ったなフラット。そうしよう。暑いから無駄なことしてないでさっさと済ませてしまおう」

槍「今回は拙者の元マスター沙条綾香チームVS雨生虎之介チームの戦いでござったわけだが……」
F「次回に持ち越しちゃいましたね先生?」
V「ある程度書き終わったら吃驚した。なんか二話分の容量を書いてたからな……。
  まあそういうわけなんで今話が剣組VS狂組の前半戦に当たる」
F「雨生さんなんか大分凄くなってね? 出番全然無い人だったのになんかいつの間にか進化してね?」
槍「フラット殿フラット殿、口調が移ってるでござるぞ?」
V「いやすまない。まさか虎之介がこんなに出来る子に進化するとはAS開始当初は夢想だにしてなかったから……」
F「前回雨生さんがなんかこそこそやってたのってこれだったんですね」
V「そうだ。より確実に人間を英雄に昇華させるための実験と、より高い適合者の共通パターンを調べてたわけだな。大量殺人しながら。
  そして最終的にはティルフィングの特殊能力を活用して自陣の兵力を増やしマスター本人の負担を軽減しようと考えたわけだな。
  作中の通り一体のサーヴァントでは無理でも二体いればセイバークラスとも宝具抜きで五分に戦える。
  魔力消耗が激し過ぎる雨生らしい省エネ戦略だな。何より同盟で裏切られる心配がないのがダブルバーサーカーの利点だ」
F「すっげー! っていうかなんか雨生さんが一番魔術師らしく知恵使って戦ってませんか先生!?」
V「ああ私もそう思う。他の連中もゲンコツで勝負してないで魔術師らしく戦って欲しいものだ。
  それにしてもあっれー? 当初はこんな人物になる予定なんて微塵もなかったのに……?」
槍「時の流れを感じるでござるなぁ~そして拙者の主殿の成長も。いやはや時の流れを感じるよのぅ」
F「そういえば先生! 彼女はなんでパワーアップしたんですか!? 突然の都合よくパワーアップなんですか!?」
V「いや待て待て、彼女が『沙条綾香』の名を冠してる時点でどういう人物なのかくらいわかってたも同然だろう?
  完全に予定通りだ。あと強いて言えばいい加減そろそろ戦闘の展開がキツイので本来の姿にシフトチェンジして貰わないとな。
  何がきついって魔術師として半人前の綾香をどう自然に戦闘させて引き分けさせるかを考えるのがこれまでで一番大変だったぞ。
  普通に考えれば序盤の頃の士郎みたいなキャラが凛みたいな連中に襲われて生き残れるわけがないからな。
  ゲドゥみたく戦場から離脱できるような身体能力や経験値があるわけでもないし。どれだけ魔導剣に助けられたことか……くぅ!
  なんで彼女は戦闘から逃がすのも一苦労だった。別に主人公ってわけでもないからいつでも退場させられるとは言え」
ア「私たちのように……ですね? アインツベルンの者ではキャラ的に面白味がないからですね?」
メ「役割に不満がありますベルベット教授。今すぐお嬢様を現世復帰させなさい。さあさあさあ!」
槍「おおっとだったら拙者も拙者も! Fateルートのアーチャーのようにゴールドになって帰ってくるってのはどうでござろう?」
V「却下だ。敗者は全員ここで大人しく見物してなさい」

V「ちなみに彼女が元素変換のことを頭の悪い魔術と呼ぶのはASの設定では幼少期のトラウマのせいってことになっている。
  初めて行使した魔術の威力があまりに高過ぎたせいで大好きな祖父に(゜Д ゜)って顔されて思いっきり引かれちゃったのだ」
F「ひどい師匠ですね!! ああ可哀想な幼女沙条さん! 好き好きお爺ちゃんにそんな顔されたら誰だってヘコむでしょ!」
V「まあとにかく彼女は祖父も戦慄する位に元素変換の適性が高過ぎて威力が洒落になってなかったわけだな。魔力も高いしで。
  幼少の頃の彼女はいわば歩くダイナマイト。やる事なす事の規模がいちいち派手で大仰なのをいつしか頭の悪い魔術と思うように…。
  余りに威力有り過ぎで危険だったんで師である沙条翁は自分が専攻していた東洋呪術に孫娘を切り替えさせたと言う訳だ」
槍「大変だったのか主殿も……。まあ人一人を倒すのにロケラン使ってたようなものなのか。それはまあ頭悪そうでござるなぁ…。
  しかし祖父殿の習得魔術の切り替えはどう考えても失敗してるでござるが」
F「適性に全然合ってない魔術を習得させてワザと力をセーブさせたってところですかね先生?」
V「沙条翁は彼女が大きくなってから元の元素変換に戻す腹積もりでいたようだが途中(AS序盤)で死んじゃってなぁ」
槍「遺言も無いとは………」
F「まあとにかくこれで沙条さんは真っ当な魔術師と十分に戦えるレベルに成長したわけですし結果オーライじゃないっすか?」
V「エミヤのような性格した知的なアーサーなら彼女を導く感じで助言するのだろうが、あまり知的じゃないローランがやるとああなる。
  なんか適当に喋ってるんだけど何故かなんとなく当たってしまってた感じ。そう例えるなら藤ねえのような男それがローラン!」
槍「言われてみればそこはかとなく猛獣系でござるなあやつは」
F「さすが藤ねえさん! あの人のやることは全て正しい! さあ型月は今すぐ尺30分以上の藤ねえルートの製作に取り掛かるのです!」
V「S(そこまでに)S(しておけよ)F(藤村およびフラット)」

F「ところで先生、なんか途中選択肢風味なのが二つほどあったんですけどあれ別の選ぶとどうなってたんですか?」
V「馬に乗ったままなら戦闘すらせずにデッドエンド。セイバー信じず令呪を使えば遅延デッドエンドが降りかかるのだった!」
F「ひぃ……! 即死はともかく、とてつもなく長いノベルゲーにとっては最恐とも言えるフラグ判定による遅延バッドエンド怖ぇ!」
槍「遅延死喰らったら一気にやる気失くすでござるからなぁ……特に原因がわからぬ場合が鬼畜ぞな」
V「それでは諸君また次回だ」