───────────────────────────────Another Servant    四日目 古の城─────────


──────Casters Side──────

───────Interlude ───────

 その男にとっての始まりは、古びた宿のベッドの上だった──。
 
 聖地エルサレム巡礼。
 敬虔なクリスチャンたらんとする者であれば誰もが一度は胸に抱くであろう祈り。
 それは修道士クリスチャン・ローゼンクロイツも例外ではなかった。

 ドイツからエルサレムまでの長き道のり。
 いくつもの山を越え。深い谷を越え。風が強い荒野を越え。荒れる川を越え。
 美しい草原を越え。静かな村を越え。活気ある町を越えた。
 それなりには辛くもあったし苦しくもあった。
 だが彼は決して足を止めなかった。
 聖地を巡礼する。
 ただそれだけの無垢な祈りが彼の足を動かし続けた。

 しかし、そんな彼の祈りは適えられることは無かった。

 原因不明の病魔に倒れたのである。
 一体どこで病にかかったのかも判らなかった。
 彼を診た全ての医者が匙を投げた。
 自分の病は治らない。
 幼い頃からの念願だった巡礼の旅もこの地が終着点。
 もはや泣くしかなかった。
 床の上で絶望するしかすることもなかった。
 聖地を巡礼する。
 たったそれだけの試練も碌に成し得ない自分には神の御加護があろう筈もなし。
 日課だった神に祈りを捧げることもやめた。
 神に祈る資格すらないと思ったからだ。
 自分に出来るのはこの古びた宿のベッドの上で朽ち果てるのを待つだけ。

 病魔に犯された人間の絶望と苦悩の意味を────ここで初めて理解した。


「まだ、生を願うか小僧?」
 ある日、三人の男が彼の前に現れた。
 もはや言葉も発せられない程に衰弱した彼はただ必死な思いで首を縦に振った。
 見苦しいのは承知だったが、それでもまだ生きていたかった。
 どうしても。もう一度でいい。また神に祈りたかった。
 そんな返事に男達がニコリと笑う。
 それはとても柔らかく、暖かな微笑みだった。
 男が彼に向かって手を伸ばす。額に乗せられた手はひんやりと冷たい。
 しかし掌から身体の中に流れ込んでくるものはとても熱かった。
 あまりの熱さに久しく出ていない呻き声が出た。
 そればかりか熱い…とも喋れた。
 言葉を口にしたのなんていつ以来だろう?
 さらに信じられないことに腕が動いた。
 もっとありえないことに身体まで動いた。
 身体を動かせたのなんていつ以来だろうか?

 そして、彼の身体に流れ込んでくるその熱は。
 ……どんな医者でも治せないと言われていた病を治してしまった。

 涙が流れた。声をあげて泣いた。
 泣けることが嬉しかった。声が出せることが嬉しかった。
 心の底から感謝した。
 生きている事が、生きていられる事がこれほど嬉しい事とは知らなかった。
 涙しながら生を喜ぶ彼を賢者達は穏やかな表情で見つめていた。


 この奇跡の出会いが後に魔術師の英霊と呼ばれるクリスチャン・ローゼンクロイツの始まりだった。





───────Interlude  out───────

「バーサーカーのマスターは見つかったか?」
 傲慢な命令口調がキャスターの意識を引き戻した。
 声のした方へ振り返る。
「マスターですか。ええ、少々時間が掛かりましたがようやく捕捉しましたよ」
 バーサーカーのマスターの現在地を割り出したのはつい30分ほど前のことだ。
 ようやく見つけた安堵感からかどうもボーっとしてしまっていたらしい。
「よし、それならばいい。次の手筈は当然判っているな?」
 キャスターの回答にソフィアリも満足そうである。
「勿論ですよ。これから他のマスターに再び連絡を入れそれから作戦を決行します。
 ……しかしライダー達を信用してもいいのでしょうか?」
 昨夜のライダーとの裏同盟のことが何故か引っ掛かる。
 しかし別段妙なところは特になかったのもまた事実。
 まだ未見とは言えいくらライダーでもセイバーやファイターには流石に敵うまい。
 なら確かにお互いの利害は一致するのだ。
 だからライダーたちは信用してもいいはずなのだが……。
 この妙な不安はなんなんだろうか……?
「構わん。セイバーやファイターを蹴落とせるチャンスを棒に振るバカなどおらん」
 ソフィアリは昨日からこの調子でライダーたちとの同盟を完全に信じている。
 本当にこれでいいのだろうか?
 しかし仮にキャスターが異議を唱えても聞き入れるようなマスターではない。
 このままやるより他は無い。
「わかりました。では今から他マスターへの連絡を開始します」
 マスターが満足気に頷く。
 今のところちゃんと旨くいっている。
 何も心配は無い。だから気のせいだ。
 そう思ってもキャスターの不安は晴れてくれそうにはなかった。







──────Lancers Side──────

「いやぁああああああああああああああああああ!!!」
「何事で御座るか主殿ー!!?」
 主の絶叫を訊き付けたランサーが寝室に雪崩れ込んできた。
 絶叫した当人は部屋の隅っこで涙目になりながらガタガタ震えている。
「主殿!!?主殿!!一体どうなされた!?敵か!?アサシンは居らぬ筈だが他にも暗殺者が!?」
 ランサーは主の前に庇う様に立ちはだかり部屋全体を見回す。
 綾香が涙目になって震えている以外は特にこれと言って不審な点はない。
「主殿!?いったい何があったんでござるか!?」
「な、な、ナメク、ジ……」
「は?ナメック星人?」
「ナメクジがぁぁ~」
 綾香は聞き取れないくらいの小さく掠れた声で部屋の真ん中を指差した。
 そこには馬鹿でっかいナメクジがいた。
「うおデカ!?しかし……………なあ主殿?もしかして今の悲鳴の原因は……之か?」
「は、早くどっかやってよぉ~あんたわたしのサーヴァントでしょぅ~
 ひぃぃぃ!!?ビクンビクンしてるぅ!?きもちわるいぃぃうぇぇぇん!おじいさまぁぁぁ」
 野太いナメ公の怒りのビチビチ刎ねる威嚇攻撃で綾香が泣く。
 まあこれはこれで確かに気色悪くはあるが。
「……まったく何かと思えばただのナメクジではござらぬか……ん?手紙?ああキャスターの使者か」
 巨大ナメクジは手紙のような物を持っていた。
 ランサーは手紙を無造作に拾い上げてから用済みになったナメクジを手で摘んで放り捨てた。
「ぎぃゃぁああああああああああ!!どこ飛ばしてるのよこの馬鹿ぁぁああ!!」
 脱兎の如く飛び上がる身体。
 虎のような獰猛な跳躍。
 そして繰り出される右フックはハンマーの如し。
 軽快な打撃音と共に捩じれる侍の首。
 さっきまで隅でカタカタ震えていた筈の綾香が一瞬にして部屋の中央にいた。
「ぐあっ!?あ、主殿女子が暴力を振るうのはいかん!しかもグーはもっといかん!」
「バカバカバカ!女の子に向かってなんてもの投げつけてるのよ!!」
 綾香から鞭のようなパンチがいくつも飛ぶ。
 後世の人間はそれをフリッカージャブと呼ぶだろう。
「痛い痛い!拙者しばらく魔力温存のために霊体でいるゆえ!これにてさらば!」
「この!逃げんなー!!」
 ランサーが霊体化で退散すると同時に部屋の襖がノックされた。
「どうかしたのかね綾香ちゃん?」
 コンコン。儂じゃが。と一言前置きして悲鳴を聞きつけた住職が顔を出す。
 そりゃあんな絶叫すれば誰だって様子の一つも見にも来るだろう。
「い、いえなんでもないです!えと…え~…虫がいたものでつい驚いてしまって…それで…ももう大丈夫です!」
「そうかい?ならいいが……綾香ちゃん。
 気持ちが落ち着くまでこの寺に居てもよいからの。儂らはいつだって君を歓迎しよう」
 住職は微笑みながらそう言い残して部屋を後にした。
「ふぅ……」
 どうやら住職さんに新しくかけた暗示の効果は切れては居ないようだった。
 ならまだしばらくはここを拠点に出来る。
 でもある程度落ち着いたら此処を出よう。住職さん達に迷惑をかけちゃいけない。
 今の自分は情け無用の戦争をしているのだから。

「いやいや間一髪でござったなぁ」
「あ。こいつ……」
 白々しい態度でランサーが戻ってきた。
 マスターが文句を口にする前に手紙を開封して話の矛先を逸らす。
「ふむふむ。どうやらバーサーカーのマスターが見つかったらしい」
「え?どれ?え~なになに?」
「この時刻、河川沿いのこの地点にバーサーカーのマスターを誘き出して作戦決行するつもりのようでござるな」
「……………」
「主殿?どうかされたか?」
「……なんか、話が旨過ぎるわよね……?」
 綾香が顎に手を添えて考え込んでいた。
 眼鏡に光が反射して少し知的な雰囲気を漂わせる。
「そんなことは百も承知。されど我々にはやらねばならぬだけの理由がござろう主殿?」
「…うん!そうよね、罠なんて承知の上!それでもバーサーカーのマスターは止めなくちゃ」
 頼もしい相棒の後押しを受けて自分を奮い立たせる。
 どんなに危険でもやらなければいけないことだってある。
 それがきっとこれなのだ。
「この作戦では他の連中も集まる。よって我が愛槍の長さは短くしたまま、その上からまた呪布を付けて隠しておくでござる」
「ええ。そうして。きっとしないよりはマシよ」
「それと今回は罠の可能性も考慮して拙者単独で出陣するのが最良かと思われるが如何だろう主殿?」
「う~ん。駄目っといいたいところだけど、わたしの方も前回の件があるし……。
 うん今回はそうしましょう。あ、でも知覚と聴覚の共感はしてもらうわよ?」
「それは勿論。ここからでも主殿には指示を出して貰わねばならぬからな」

 ランサーと共感しておけばお寺に待機したまま現地の状況だってちゃんと判る。
 そりゃ自分の足で直接現地に赴くよりは状況把握の精度は落ちるだろうけど何もしてないよりは全然いい。

 彼女がランサーの足を引っ張らないにはこれが最良だと言える判断だった。







──────Sabers Side──────

「マスター!行って来るぜ!!バーサーカーが相手だからマスターはココで待機だからなー!」
 なー!なー!なー!なー!と残響する声。
 そう言ってセイバーは手紙を見るなりすっ飛んで行ってしまった。
 お待ちなさい!その一言すら言わせる暇を与えない見事なスタートダッシュだった。
 セイバーの気持ちは既に打倒バーサーカーだけに向いている。
 赦すまじバーサーカーとそのマスター。
 罪無き者たちを虐殺した報い。我が聖剣の切れ味を以ってを受けるがいい!
 セイバーは森を駆け抜けながら霊体化する。
 こういう時は物理的な干渉を受けない霊体は非常に便利だ。
 木も岩も建物も障害物も気にしなくていい。
 おまけに空も飛べるし移動速度もかなり出る。
 これなら河川沿いの作戦決行場所に着くまでそんなに時間も掛かるまい。

 キャスターから連絡が入ったのは一分前の事だ。
 ヤドカリに続いてナメクジのような使い魔を送りつけて来たのはキャスター組の嫌がらせだろうか?
 送られてきた手紙の内容はバーサーカー討伐作戦について。
 詳細は作戦概要と決行時刻と場所。
 それらを読み終えた後、アインツベルンはどう行動するかを考えようとした矢先の悲劇だった。
 自分の隣に居る筈のセイバーが居ない。
 それと同時に玄関の方から聞こえてくる行って来る!というセイバーの元気な声。
 状況が理解出来ずに唖然とした静寂に包まれる洋館内。
 マスターである彼女も大甘だったとしか言いようが無い。
 自身が召還した英雄が彼の破天荒の権化、風雲児の中の風雲児。ミスター無邪気。
 シャルルパラディン。十二騎士筆頭ローランであるという事を失念していたのだから。

 




「あれ……?誰も居ない………?」

 バーサーカーのマスターを誘き出す場所である河川沿いには何故か誰も居なかった。
 辺りには暖かな太陽の光が降り注ぐ。
 実にいい魚釣り日和だ。
 でもやっぱり誰も居ない。今の自分のように霊体化してるような気配もない。
 一人何故?と首を傾げるセイバー。
 それもその筈。
 肝心な作戦決行の時刻。午前と午後を間違えたセイバーだった。







──────Fighters Side──────

「本当に来たか」
 今し方、室内に放り込まれるように現れた物体から手紙を遠坂は拾い上げた。
 前の手紙と同じ様な筆跡。恐らく同一人物が書いたものなのだろう。
 内容は討伐作戦について簡潔に書かれていた。
「直接この記されている場所に行くのか遠坂殿?」
「いいやまさか。まずは使い魔で下見してからだ。
 もしその場所に雨生が現れる様ならばランサー・バーサーカー戦と同様に身を潜めて指示を出そう」
「懸命な判断だ」
 ならもう言うことも無いとファイターは口を閉ざした。
 罠に対する警戒心もその後の自分たちの有利に繋がる行動もマスターは弁えている。
 もし心配するならむしろ今の自分のことだろう。
「どのくらい回復している?」
「まだ半分程度。短時間の戦闘自体は問題は無いが……」
 最大効率の回復手段をあの手この手で施してはいるがそれでも一日二日で回復できるダメージでもない。
「魔力量の問題で長時間は流石に問題が生じるか」
「ああ、そういうことになってしまう。すまない遠坂殿」
「いやそれは構わん。だがとりあえず今のうちに一つ指示を出しておく。
 出来うる限りバーサーカーとは直接ぶつかるな」
 その命令の意は単純明快だ。
 ようするに自分の手は汚さず他の連中に丸投げしろと言っているのだ。
「……しかし…………それは…」
「いいな?」
「………了解した…」
 遠坂が念を押すとファイターは渋々といった具合だったがとりあえずは納得したようだった。
 一度了解した以上は命令に従う男だ。勝手な真似はそうそうしないだろう。
 まだファイターにダメージが有る分、他の連中を上手く使わなければならない。
 幸いにも手駒になりそうな者はいる。
 ファイターではなくそいつに頑張ってもらえばいい。

 こんな探り合いも同盟の醍醐味の一つと言えるだろう。







──────Riders Side──────

「さっきからせわしいな牧師」
「貴様と違って私にはのんびりしていられるほど時間は無いからな」

 牧師はライダーに目も向けずにせかせかと書類らしきものを書いている。
 そうして書類を書きながら代わる代わるこの屋敷にやってくる聖堂教会の構成員らしき人間に指示を出していた。

 キャスターたちから送られてきた手紙を読んだ後、牧師は即座に行動を開始した。
 まず行なったのは牧師を含めて全部で八人の代行者たちへの戦闘に備えた待機命令。
 それから深山町と河の向こう側に潜らせておいた戦闘可能な僧兵30名に対する召集命令。
 非戦闘員である監視員と連絡員にはそのまま監視続行の命令を出しておいた。
 それは非戦闘員の情報網要員まで兵力として回しても仕方なし。
 と言う考えと。
 何より作戦が失敗したケースも考慮した上での牧師の保険だった。

「フ、ククククク!よもや全兵力投入とはな。中々思い切った事をする」
 牧師の思惑を聞いてからライダーは時折このような思い出し笑いをしている。
 大多数を動員した戦いがよっぽど愉しいのだろう。
「そういうお前も別に反対はしないのだろう?」
「無論だ。やや早計なきらいはあるがそれでもその判断自体は決して悪くないぞ?
 余程のトラブルでも無い限りは成功する。その思い切りの良さ誉めてやろう」
「ふん。お前に誉められたところでなんの益にもならん」
 ゲドゥ牧師が率いる聖堂教会より派遣された戦闘可能な全兵力。
 八名の代行者及び三十名の僧兵、計38名。
 牧師はそれをこのバーサーカー掃討作戦で牧師は投入する気でいた。
 只でさえ乱戦が予想される状況にさらに混乱する要素を投げ込むのだ。
 きっと良くも悪くも大博打になるだろう。
 だからライダーはずっと愉し気なのだ。
 マスターを何人仕留められるか想像もつかない。
 サーヴァントが何体脱落するか予想もつかない。
 自軍が一体何人死ぬかさえも検討もつかない
 狙われたバーサーカーたちは死ぬだろうか?
 裏で糸を引いている気でいるキャスターたちはどういう顔をするだろうか?
 先が読めない見世物は見世物としては上質だ。
 ライダーは楽しみで楽しみで仕方が無い様子で何度も想い馳せては笑む。

「く、くくくく……フフフ!」 

 本当に夜の到来が楽しみだ。







──────Archers Side──────

 陽は既に暮れ満月の煌々たる光が町を照らしている。
 とてもいい月夜だ。
 間桐の傍には霊体のアーチャーが控えてはいる。
 しかしどうも落ち着かない。
 元々自分はこの討伐作戦なんて知った事ではなかったのだ。
 なのに今こうして襲撃地点に向かっている。
 思い返すこと一時間前───。

「おいコラマスター!いつの間にかキャスターからの連絡来とるではないか!!何で教えんかぁ!」
「知るか!他の奴がやるって言ってるんだから勝手にやらせておけ!!」
「よし!じゃあワシも行って来るぞい」
「はぁ!?ちょちょ待てアーチャー!勝手なことをするな!ちょオイ!訊けよ!?」

 そんな微笑ましいやり取りがあった。
 昨日の時点でアーチャーは妙にやる気満々な様子は知っていたがまさかここまで本気だったとは思わなかった。
 アーチャーへの命令は悉く無視され、とうとう引っ張られる形で間桐までもが現地に出向く破目になってしまったのだった。
「チッ!なんでわざわざ俺が狂戦士退治に協力しなきゃならないんだ。
 こんな雑用はセカンドオーナーの遠坂にやらせればいいものを……」
 間桐は毒付きながらダラダラと歩く。
 しかしよくよく考えれば別段アーチャーは放っておいても良かった筈なのだが、
 自分の知らぬところでまた勝手な真似をされるとそれはそれで間桐のプライドに障る。
 サーヴァントを従えられるのはマスターの特権である。
 飼い犬は飼い主の目の届くところで行動するべきだ。
 という考えが間桐の足を渋々目的地へと動かしていた。

「こういうのは短期決戦でさっさとケリをつけるのがええんじゃ。
 この手の輩は機を逃すとしぶとく生き延びるからな」
 普段よりもずっと真剣味を帯びたアーチャーの声。
 気持ちは既に戦闘態勢に入っている。
 目的地にももう着く。

 そして、同様に約束の刻限も近づいていた。







──────Berserkers Side────

 突如眩暈がした。
 今夜は河の向こうの町を回ってマスターを探そうとしてた矢先の出来事だった。
 意識が刈り取られるような、眠りに沈んでいくような、そんな気持ちの良い浮遊感。
 己の意識が他者の意識で塗り潰されてゆく。
 身体が支配される。意思を支配される。言葉も支配される。
 回避する暇も無く、抵抗する隙も無く、速やかに雨生の精神は支配された。
 足が勝手に動き出す。何も思考出来ない。

 ───バーサーカーを連れてきなさい───

 そうだバーサーカーを連れて行かなければ。
 でもどこに?いつ?

 ───今から、河川沿いへ───

 そうだ河へ行くんだった。
 靴を履いて玄関の扉を開ける。

 ───皆が貴方を待っていますよ───

 夜の闇と煌々とした満月が出迎えてくれた。
 ああ、今日は殺しにはもってこいの夜だ……。


 雨生の意思とは無関係に彼の足は処刑場へと向かう。
 身体と精神は既に敵によって完璧なまでに絡め取られている。
 マスター達の裏をかいて工房を作らなかったことが完全に裏目に出た。
 その結果がこれである。
 キャスターによる精神支配の魔術攻撃を無防備な状態でまともに受ける破目になってしまった。
 さらに運の悪いことに雨生のサーヴァントは自我無きバーサーカーである。
 サーヴァントによるマスターの救出は全く期待できない。
 一度こうなってしまうと生かすも殺すもキャスターの気分次第だ。
 だが雨生の悪運も中々のものだった。
 今夜の彼は猟犬たちへの生贄として捧げられる予定になっている。
 雨生が猟犬たちの気を逸らすための餌である以上は、今ここで人知れず脱落することは無い。
 雨生一人では一瞬で決着が付くため、猟犬たちの気を逸らす時間も稼げないからだ。
 キャスターがどんなに今雨生を殺してしまいたくてもマスターのソフィアリがそれを許可しない。
 それは状況的には最悪ではあるがそれでもまだ幸運と言えば幸運だった。



「……あれ?ここどこだ??」
 眩暈がした時と同じように突如意識が覚醒した。
 まるで夢でも見ていたような気分だ。
 今は身体も言葉も自由になる。
 ふと河の流れが奏でる美しい水音が耳に入った。
 周囲をキョロキョロと大雑把に見渡す。
 どちらの町寄りかは判別出来ないがどうも此処は河沿いのようだ。
「あれぇ??俺いつの間にこんな場所に??」
 首をかしげる。移動した記憶が全然無い。
「貴様の悪事もここまでだな。バーサーカーのマスター」
 すると前方から唐突に声がした。
 さっきまで誰も居なかったはずの場所に人型の何かが立っている。
 その人型は中世の騎士だった。
 装備した鎧と外套はどちらも穢れ一つ無い純白。
 闇夜であっても目立つだろうその白色は満月の光に照らされて淡く光っていた。
「…………!?」
 驚愕。そして混乱。
 雨生は冷や汗をダラダラと流しながら改めてよく周囲を見直す。
 気付かなかったが……見事に囲まれていた。
 前方には白い騎士。
 左方には甲羅鎧を着込んだ弓兵。
 後方には外套を纏った屈強な闘士。
 右方には身長と釣り合わない大槍を持った槍兵。
 上空には人間大はありそうな巨鳥に乗った魔術師。

 それぞれが雨生を中心に50m程度の間隔で陣取っていた。
 確かなのは逃げ場などどこにも無いということ。
 完璧に意味不明。ついでに状況も理解不能。

「ちょっとくーる過ぎるだろこれ……」







──────VS Berserker───────

 この場所に一番乗りで到着したのはランサーだった。
 次に約束の時刻よりも早く現れたのがセイバー。
 そして時間丁度にファイターが堂々と姿を見せ。
 さらに続くようにしてキャスターが空を飛んで現れ。
 最後に時刻よりも遅れてアーチャーが来た。
 集結した理由は一つ。
 バーサーカーとそのマスター雨生の排除である。

 各々のマスターたちもそれぞれの方針の下に事の成り行きを見守っていた。
 綾香は柳洞寺に待機。ランサーと感覚を共感する事で状況を把握している。
 アインツベルンは仕方が無いので使い魔をこの場所に送り込んで監視。
 下見が済み一応罠ではないと判断した遠坂と間桐はサーヴァント達から少し離れた場所で魔術を使い身を隠している。
 ソフィアリはキャスターが用意した人間大はあろうかという巨鳥の足に掴まり滞空していた。


「ちぇランサーが一番乗りか」
「ふふん。一番乗りは拙者のちょっとした特技でな」
 生前から戦場へは一番乗りで駆けつけていただけのことはあり今度もランサーは一番乗りだった。
「時刻を間違えて一旦帰っていなければオレが一番だったのにっ!キャスターめオレを騙すとは!」
「セイバー……それは何と言うか…君が悪いだろう」
「時間を間違うとは、ドジでござるなぁセイバー」
「流石にワシのマスターでもそんな阿呆なミスはやらんじゃろうな………」
「お前らうるさいぞ!!ところでなあキャスター、バーサーカーのマスターの方はどうなってるんだ?」
 セイバーの言葉につられるようにして他の三人も上空を見上げる。
 キャスターは自分で作成したのか両翼合わせて3mに届きそうな巨大な鳥の背に立っていた。
 そのすぐ隣には彼のマスターが同サイズの巨鳥の足にぶら下がっている。
「まもなくここに来ますよ。ですから全員霊体化して所定の位置に付いてください」
 キャスターの号令に四人は無言で霊体になり予め決めておいた配置へと移動する。

 その途中でアーチャーはマスターへ向けて此処へ来る前に仕込んでおいた念話を使う。
 ”わかっとるとは思うが下手に動くなよマスター?”
 ”判っている。呑気に浮いてるソフィアリの野郎は今すぐにでも殺したいところだがこの状況で他の連中を敵に回すのは拙い”
 ”ちゃんとわかっとるならいい。流石にこの面子で弱みを見せると同盟中とはいえどうなるか判らんからな”
 ”そういうお前こそ判っているだろうな?無駄な消耗は避けろよ!?”
 ”わあっとるわい”

 一方上空では。
 ”キャスターよ聴こえるな?連中がバーサーカーを仕留めそうになる瞬間を狙って同時に仕掛ける”
 ”ライダーのマスターからの返事はきたのですか?”
 ”ああ。お前が”仕込み”を用意している時に来た。恐らくもうどこか近くで待機している筈だ”
 ”どこか……という事は待機場所を確認していないんですか?”
 ”必要無い。ライダーのマスターも魔術師だぞ?潜伏場所まで知られたくはなかろう。
  それからバーサーカーとの戦いが佳境に入ったら私もトオサカに仕掛ける”
 ”な!?予定にありませんよマスター!?”
 ”お前が知らんだけだ。これはライダーのマスターの意向でもあるのだ”
 ”どういうことです?”
 ”我々は私の結界の裏に張ったお前の結界の力でトオサカの現在地を把握している。
  しかしライダーのマスターはそれを知らん。それではライダーのマスターと協力できんからな。
  いくらライダーと共に三騎士クラスに奇襲をかけるとは言え成功率は僅かでも上げておきたい。
  そのためにはトオサカを隠れ蓑を剥がしておく必要性が生じると言う程度の話だ”
 ”しかし大丈夫なのですか?”
 ”なあに心配はいらんどうせ勝つのは私だ。なにせ私には複数の刻印によるバックアップがあるのだからな”
 ”しかし何故トオサカなんですか?”
 ”トオサカがセイバーとファイターのどちらと契約しているのかまだ確定出来ていない。
  しかしそのどちらであったとしても奴が私の最大のライバルになる可能性が非常に高い。
  故に混乱に乗じて分断し各個撃破を狙う”
 ”なるほど。そういった考えですか”
 ”それにな私は一度是非トオサカの魔術師と競い合ってみたかったのさ!”



 それぞれの他者を蹴落とそうとする思惑が絡み合う中、ついに雨生が姿を現した。
 夢遊病患者のような頼りない足取りでフラフラとこちらへ歩いてくる。
 その表情もどこか虚ろで意識がちゃんとあるのかも怪しい。
 手紙や偽情報か何かで誘き出すものだと想像していたが、キャスターはもっと強引かつ強制力のある手法を選んだらしい。
 油断していると明日は我が身……なんてことになりかねない。
 そんなことを考えながら雨生の囲いが終えたサーヴァント四人がキャスターへと視線を送る。
 霊体四人の準備完了の意が籠められた視線を受けてキャスターが雨生にかけている術式を解く。
 同時に雨生の意識が戻った。
「……あれ?ここどこだ??」
 理解不能といった感じで周りをキョロキョロと忙しなく見渡している。
 実際理解不能なのだろう。
 誰だって突然知らない場所に居たりしたら混乱の一つもする。
「あれぇ??俺いつの間にこんな場所に??」
 とにかく状況把握に努めようとする雨生。
 だが標的にそんな冷静さ取り戻す時間を与える連中ではなかった。
「貴様の悪事もここまでだな。バーサーカーのマスター」
 畳み掛けるようにしてセイバーが断罪を告げる。
 他のサーヴァント達も次々と実体化して姿を現す。
「…………!?!?」
 自分が置かれている事態を飲み込んだのか雨生はもう一度注意深く周囲を見渡していた。
 しかしその顔色からも混乱が限界値に達しているのが手に取るように判る。
 四人のサーヴァントは雨生を中心に50m程度の間隔で包囲している。
 当然死角や逃げ場などどこにも用意していない。
「ちょっとくーる過ぎるだろこれ……」
「お前を仕留める前にまずバーサーカーを出して貰おうか。
 流石にこのままマスターを殺してバーサーカーを脱落させるのは騎士として忍びない」
「……それが今から人様をりんちしようとする奴の台詞?」
「それは自業自得でござろうが。
 御主のような鬼畜生でも念仏くらいは唱えてやらんでもないから大人しく往生するでござる」
 セイバーの進言に悪態で返す雨生。
 ランサーも首にかけた大数珠を揺らしながら大槍を構えた。
「へ、へへ良いぜやってやろうじゃんか!俺のバーサーカーは超無敵だ。
 くーるさの足りないお前らなんぞに負けるかよ!」
 バーサーカーで抵抗しようとする気はあるらしい。
 それは全員の望むところだ。
 バーサーカーも戦士だ。
 ならばただ消え去るよりも討ち取ってやるのが戦士の情け。
 五人の間に緊張感が漂う。
「バーサーカー!!!」
 轟!っと実体化する狂戦士。
 包囲する四名がそれぞれの獲物を構える。
「ではいくぞバーサーカーとそのマスターよ。ココが貴様たちの悪事の終着点だ!」
 バーサーカーの正面に陣取るセイバーがまず最初に地を蹴った。
 それに続くランサー。
 アーチャーとファイターは散開して雨生の逃走経路を塞ぎ、その身柄を抑えにかかる。
「また捻り潰してやれっ!!」
「■■■■■■■ーーーーーー!!!!」
 雨生と共に咆哮を上げて迎撃するバーサーカー。
 セイバーの初太刀を受け止める。
 次いで飛んできたランサーの突きもなんとかいなす。

 こうしてバーサーカーを巡る七体のサーヴァントの戦いが始まった。





───────Interlude  Riders Side───────

 此処は六体のサーヴァントが戦っている河川沿いから数十m程度離れた地点。
 ソフィアリが張った結界に引っ掛からないギリギリの位置である。
 そこには装備を整えた代行者八名、僧兵三十名、そしてライダーが闇に身を隠し集結していた。
 目的は裏でキャスターと結んだ同盟を利用した一掃作戦。
 ゲドゥ牧師は自分が保有する全戦力をこの戦いでぶつけて早々に決着を付けるつもりでいる。
 聖堂教会代行者として戦ってきた彼の経験がこの作戦の勝率は高いと告げていた。
 ライダーが反対しなかったのも牧師の決断を後押しする要因になった。

 代行者と僧兵たちは精神を人間兵器としての自分に切り替える。
 いつも通りの精神状態。恐怖も高揚も何も感じない。
 彼らはいつでもいけるだろう。
 むしろ問題はもう一人の方だ。
 牧師はチラリとライダーの方に視線を送る。
 彼にとってもう一つの戦力であるライダーはバーサーカーたちの戦闘が始まってからずっと上機嫌である。
「ほう!いや狂人の分際で想像以上に踏ん張るではないか!
 おっと危ないぞ、隙を見せるとあっという間に首が落ちる。
 くくっ!セイバーの攻めはさぞきつかろうな!」
「ライダー愉しそうなのは結構だがいつでも行ける準備は出来ているのか?」
「黙っていろ牧師。どの道この様子ではまだ時間が掛かる」
 ライダーは鬱陶しそうに手でハエを追い払うジェスチャーをした。

 既に戦闘が始まってから三分が経過した。
 バーサーカーは五人を敵に回した状態で本当に良く頑張っている。
 セイバーとランサーの初撃を防いだ後すぐさま距離を詰めた事で結果的に入れ替わり立ち代りの混戦になった。
 それが功を奏したのかそれとも相手の誠意なのか。
 バーサーカーは上手い具合にセイバーとランサーの挟み討ちに合わずにいる。
 そのせいかバーサーカーと直接刃を交えて交戦しているのは基本的にセイバーだった。
 ランサーは獲物の長さを生かして支援攻撃に回っている。
 一対二の戦い。
 セイバーの剣を鞘込めのままの剣でなんとか受け止め。
 その防御の際に出来た僅かな隙を突いて飛んでくるランサーの大槍も何とか回避する。
 それから拳や蹴りで牽制。牽制で出来た隙を使いすばやく体勢を整える。
 だがバーサーカーが反撃に転じる前に次の斬撃と刺突が飛んできている。
 再び手にした鞘剣と言う名の鉄塊を使ってなんとか凌ぐ。
 さっきからこの繰り返しだ。
 バーサーカーは完全に防戦一方だがそれでもまだ致命打は受けていない。
「ハハ!本当によく粘る」
 しかしそれでもバーサーカーはセイバーに地力で劣る。
 そのため刃を交えれば所々でどうしても攻撃を受けてしまう。
 徐々に消耗してゆくバーサーカー。
 一方のセイバーとランサーは全くの無傷だった。
 それはセイバーの実力だけが原因ではなかった。
 セイバーの攻防の隙を埋めるランサーの援護。
 ランサーの味方のフォローセンスは目を見張るものがある。
 二人は今日初めて組んだとは思えないくらい見事な連携を取って狂戦士を圧倒していた。

「まさに多勢に無勢。いやぁ苦しいなバーサーカーよ」
 おまけにこの場にはセイバーやランサー以外にもサーヴァントはいる。
 なのにそんな状況にも関わらずバーサーカーが未だに生き延びている理由は……。
「ふむ。とは言え加減をされた戦いの観戦だけではいまいち物足りぬのは当然か。
 あれだけ意気の良い駒(セイバー)が居るのなら無駄な消耗は避けられるからな」

 ひとえにセイバー以外のサーヴァントが手を抜いているからに他ならなかった。
 ランサーはマスターの方針もあり槍の間合いも宝具能力も封印している状態で戦っている。
 飛び道具を持つアーチャーは積極的には戦闘に介入せず時折思い出したように何発か矢を撃つだけ。
 先日のバーサーカーとの戦闘に激しく消耗しているファイターは雨生を足で踏み押さえてからそのまま戦いを見守っている。
 そして空中から戦闘を見下ろすキャスターに至っては援護射撃の一つすらしていない。

「となるとやはり俺様たちで盛り上げてやらねばな。
 牧師。もう少しばかりかかるだろうがいつでも行ける準備はしておけ」
「……一番のんびりしているお前に言われたくは無いな」
「ふんファラオに向かって減らず口を──キャスターが動いたら俺様たちも出る。
 その際のそいつらの指揮は貴様の好きにしろ」
 ライダーは視線を牧師に、親指は背後に待機する兵隊を差した。
「お前が指揮を執らないのか?折角のカリスマスキルだろう。今使わんでどうする?」
「俺様が指揮を執れば烏合の衆であるそいつらも少しはマシな戦力になるんだろうが。
 そうなると戦場で指揮を執る必要性がある俺様の行動範囲が著しく制限される」
「問題があるのか?」
「この作戦はあくまでキャスターたちを纏めて背後から仕留められるタイミングを狙う作戦だ。
 指揮を執っている間に好機を逃しでもしたら冗談にもなるまい?」
 牧師は無言で考える。
 一見正論を言っているように見えるが、今のライダーの言葉を翻訳すると。
 ようするに自分はやる事があるから嫌だ。と言うことなのだろう。
 今までの付き合いから何となくだがそういう気がしてしまう。
「そうか判った、好きにしろ。ではお前達。判っているな?マスターを最優先で狙え。
 マスターたちはキャスターのマスターが引っ張り出してくれる予定になっている。
 場合によっては邪魔をするサーヴァントの足止めをする必要があるぞ」
 ライダーなど当てにはしない。
 そういう気概で牧師も同じく部下には振り向かず前を向いたまま命令する。
 場合によっては目的達成の為に死ね、と。
「「「──了解──」」」
 そんな命令に対する返事は機械的で硬質な一言のみ。
 彼らは教会で地獄のような訓練を受けた戦闘員たち。
 命の危険性のある任務であっても動揺さえしない。
 ライダー陣営の準備はもはや完璧に整っていた。
 あとは指揮者からの号令を待つばかりである。



───────Interlude  Riders Side out───────




 バーサーカーとセイバーランサーの戦いを見守りながらファイターは思う。
 あの分だと時期に決着は付くだろう。
 当初の作戦通り彼らはバーサーカーに宝具を使わせていない。
 バーサーカーが男殺の魔剣を使用出来ない以上は人数的にも能力的にもこちらの勝利は動かないだろう。

「セイバーとランサーには感謝しなくてはいけないな。本来なら私もバーサーカーと戦うべきなのに」
 戦闘前セイバーはファイターに対して戦わなくて良いと伝えた。
 前回のバーサーカーとの戦いの際に受けたダメージとファイターの消耗具合を想ってのことである。
 その話を聞いていたランサーも、ならば拙者も。と名乗りを上げた結果、セイバーとランサーがバーサーカーの相手を。
 アーチャーが雨生の退路を断ち、オフェンス二人の援護射撃を。
 ファイターはバーサーカーを倒すまでの間、雨生を捕縛しておくという役割に決まった。
「セイバーたちもバカじゃないの?そんな損すること──ぐえ!!!?」
 雨生が最後まで言い終える前にファイターが太い脚に力を込めた。
 そのぶっとい脚に踏み付けられていた雨生が不細工な呻き声を喉から洩らす。
 雨生は戦闘開始早々にファイターに取り押さえられ、現在のように足で踏まれていた。
「彼らは高潔な精神の持ち主だ。悪く言わないでもらおうか」
 地べたを這っている男をジトリと見下ろす。
 威圧の意も兼ねてもう少し足に圧力を加えた。
「こ、おぇ……あ!お、前もバカさ…。俺を殺せば、バーサーカーだっ……で死ぬのに、さ!」
「確かにその方が簡単に済むだろう。だがそれではバーサーカーの誇りがあまりに不憫だ」
「へ、へへそういう熱血思考がバカなんじゃごげぇぇぇえ!!!?
 …痛っ!?痛いッス!ご、ゴメン!ゴメンナサイ!もう言いませんはい!!だから足をぉぉ」

 ファイターたちが雨生をまだ殺さないでいるのはあくまでバーサーカーのためであった。
 いくら理性を剥奪され狂気のままに暴れることしか出来なくなったとしても英雄は英雄なのだ。
 せめて戦いの中で、敵の剣で散らせてやるのがせめてもの情けだろう。という話が事前に決まっていた。

「くそっ!くそぉ!バーサーカーなにやってるんだよぅ!
 宝具だ!宝具を使え!よし!そうだ抜け!抜──げっ!?糞ランサーのやろう!?邪魔すんなよ死ね!!」
 雨生はさっきからずっとこんな感じでファイターの足元で騒いでいた。
 まあファイターに抑えられて手が出せない以上は口を出すしかやる事がないのだろうが実に喧しい。
 足元の雨生を無視してバーサーカーたちの方へ目をやる。
 それにしても上手い戦い方をする。
 またしてもバーサーカーが魔剣の鞘に手をかけた瞬間にランサーの槍が妨害した。
 なにがなんでも魔剣を抜かせる気は無いらしい。
 その前はセイバーの方が邪魔をして抜かさなかったが総妨害率はランサーの方がずっと高い。
 などと言ってる間にまた阻止している。
 ランサーは派手な攻撃はしていないがその分非常に良い援護攻撃をしてくれる。
 アーチャーから時々なされる援護射撃もやられる側から見れば実に嫌らしいタイミングで行なわれていた。
 距離を開くためなのか移動を開始しようとする狂戦士。
 その進行方向にまるで通行止めだと言わんばかりにいくつも矢が打ち込まれる。
 そして即座にセイバーの畳み掛けが加わりバーサーカーは移動する選択肢自体を潰された。
 真に見事としか形容しようが無い。
 とにかくセイバーが前へ前へと突っ込み、ランサーがフォローし、アーチャーが嫌がらせをする。
 三人のバーサーカーに対する連携攻撃は仮にファイターが相手をしても大苦戦することは必至だっただろう。

「しかし流石のセイバーも三人がかりでは少々気が引けるか。私と戦った時よりも幾分迫力が劣る」
「手加減ぐらい当ったり前だろう!大体お前ら三人掛かりで恥ずかしくないのかよ!?
 鬼!悪魔!人でなし!それでも英雄か?!もっと正々堂々と戦えよ卑怯者ー!ブゲッ!?!?」 
 ちょっと強めに踏みつけてその喧しい鬼悪魔人でなしを黙らせる。
 まったく一体どの口がそんなたわ言を吐けるのか?
 その図々しい神経が控え目な性格のファイターにはさっぱり理解できない。
「くそっくそぉ!宝具さえ使えればお前らなんかぶっころせるのに!」
 雨生はまだ切り札たる令呪を使っていない。というより使えずにいた。
 何故ならいざ使おうと精神集中すれば決まってその気配を察したファイターからの邪魔が入るのだ。
 どうすることも出来ずただただ戦況を見守るしかない。

 丁度セイバーがバーサーカーの攻撃を掻い潜って一太刀浴びせている。
 さらにアーチャーの援護射撃。二発の矢が立て続けに肩口に突き刺さり。
 側面に回り込んだランサーから繰り出される薙ぎ払いがバーサーカーの肉体を捉えた。
 強打のあまり地面を転がるもバーサーカーは即座に立ち上がる。
 身体中から血を流しながらそれでも狂のサーヴァントの闘争本能は萎えない。
 しかしそんな気迫とは裏腹に勝敗の行方は第三者の目からも明らかだった。

「チクショウ!もっとくーるにいけよバーサーカー!ガンバレ!ふぁいとだバーサーカー!まだだ!」
「そろそろ終わりそうだな……」


 ───決着の時は近い。






──────Interlude Masters Side─────

 バーサーカーに猟犬たちが群がったのを確認してからソフィアリは掴まっていた巨鳥の足から手を離した。
 重力に引かれて大地へ落下していく体。
 刻印から重力調整と気流操作の魔術を引っ張り出して行使する。
 肉体が羽根のように軽くなる。
 鮮やかな着地を決めるとそのまま目的の場所を目指し歩き出した。
 少し離れた場所に身を隠しているトオサカの元へと。

「やあミスタトオサカ!この度はこんな素晴らしい大儀式にお招き頂いて光栄だよ。
 ところで話は変わるのだが、もし良ければ私と魔術戦を一勝負やってみないかね?」
 ソフィアリは紳士的な振る舞いで誰も居ないところへ向かって声をかける。
 否、それは居ないのではない。常人では認識できないだけ。
「いいや。私も君に来て貰えて喜ばしい限りだよ。
 しかし、しばらく会わない内に随分とジョークが上手くなったのだなミスターソフィアリ。
 それがたった今同盟中の相手に言う台詞かな?」
 何も無い。誰も居ない筈の場所から突然声がした。
 相手の素直な反応にソフィアリはつい笑みを浮かべる。
「折角の機会じゃないか。私はキミと是非魔術の競い合いがしたいのだよ!
 それとも────そのトオサカの家名は飾りか?」
 嘲りを少々含めた強気な台詞を選ぶ。
 遠坂は家の名を出されて引っ込んでいるような腑抜けではない。
 ソフィアリと同様に己の血筋を心から誇っている筈だ。
 ならば絶対に応じる。ソフィアリは確信を持って断言できた。
「フ、流石に家名を出されて引き下がるわけにはいかないな。
 君がそこまで言うのならば…いいだろうソフィアリ。
 バーサーカーとの決着が付くまで、少しの間だけだが付き合おうじゃないか」
 ゆらりと空気が揺れその中から遠坂が姿を現した。
 不敵な笑みを口元に浮かべている。
 両者共に笑みを浮かべて対面する二人の魔術師。
 しかし彼らはこの場にもう一人魔術師が居ることに既に気付いていた。
 同時に同じ方向へ視線を送る。
「というわけだ間桐。良ければ邪魔しないでくれると有り難いな」
「それで隠れられているつもりなのかは知らんが、まあそういうことだマトウ。
 精々邪魔しないでくれたまえよ?」
 ”───ッ!!!?”
 音を反響させながら間桐の動揺する声がした。
 だがもはや悪足掻きにも等しい小細工だ。
 間桐が身を隠している位置は二人に完全に特定されている。
「一応同じ御三家のよしみで忠告だけはしておくが。
 君程度の魔術の腕前では変にしゃしゃり出ない方がいい。怪我ではすまないぞ?」
「同感だ。マトウ、私もキミ程度の力量の魔術師には用は無い。
 これ以上火傷しない内に尻尾を巻いて逃げてはどうかな?
 ああそうそう!いつぞやの火傷の具合はどうだいク、ククハハハハハ!」
 ”なんだと!!?ふざけるなよ貴様ら!!”
 哀れんだ眼つき。見下した態度。そして微かな同情。
 エリート気取りの魔術師どものそういった態度が間桐のプライドを深く傷付ける。
 間桐は溢れ出る怒りを何とかして噛み殺す。
 いま挑発に乗ってもこの二人を同時に敵にするだけで何の得にもならない。
 殺すのならせめて1対1の状況でないと駄目だ。
「さて少し移動するか。サーヴァントの戦闘の余波に巻き込まれては厄介だ」
「ああいいだろう」
 離れた場所ではバーサーカーとセイバーたちとの戦闘が続いている。
 向こうの戦いもどうやら佳境に入りそうである。
 魔術勝負をしたいのなら早めにしないといけないだろう。
 怒りに震える間桐の姿を完全に無視して二人は背を向けた。
 ソフィアリは脆弱な魔術師のことなど興味なし。
 遠坂に至ってはあくまで御三家のよしみで忠告しただけ。
 間桐のことなぞ初めから眼中にすらない。
 だからこそ遠坂のすぐ近くに間桐が潜んでいる事にも気付いていたのに何もしなかったのだ。
「ま……っ!待てよ貴様ら───オイッ!!?」
 打算で自分を誤魔化すにも限界がある。
 ついに我慢の限界を超えた間桐が魔術による迷彩効果を解除して姿を曝した。
 だが遠坂もソフィアリも見向きもしない。
 間桐の魔術師などどうでもいい。その程度の術者いつでも好きな時に屠ればいい。
 と立ち去る二人の背中が語っていた。
 間桐の頭の中で何かが弾ける音がした。
「は、はは、ははは。ハハ!あははは!あっはっはっはっははははははははは!!!!
 …………アーヂャァァァ…………来い話がある……」
 二人の背中を見送りながら乾いた哂いが喉から毀れ出た。
 自嘲でさえもう少しマシな笑いになるだろう。
 あまりにも惨め過ぎる故に出る哂い。
 完全なる蚊帳の外だった。
 自分は傷一つ負っていない。
 むしろ傷一つ与えていない。
 そもそも戦ってさえもいない。
 それどころか間桐の業の一つすら見せていない。
 それが何よりも間桐の自尊心をボロボロにした。
 アーチャーを呼ぶその声音は怨念にも似た憎悪で出来ている。
 間桐の笑顔が狂気に染まっていく。
「ア”ァァヂャァァァア……マスター様が呼んでるんだぞ、すぐに来ぉぉい………」
 もう一度地の底で唸る怪物のように低く掠れた声で己が下僕を呼ぶ。
「……オイ、いまワシを呼んだか?」
 間桐の念が届いたのか程無くしてアーチャーがマスターの元へ現れた。
 どうやらバーサーカーとの戦闘をホッポリ出してきたようだ。
 ふふ、ちゃんと言いつけを守れてるじゃないか。かわいい奴だ。
「ああ。良く来てくれたよアーチャー。本当に、良ぉく来てくれた。
 く、クケケケケクク!見てろよ…ミテヤガレェ………ッ!」

 それを間桐は今まで己のサーヴァントに一度も見せなかった感謝にも似た態度で迎え入れた。



──────Interlude Masters out───────





 鋭く踏み込み。重く打ち込む。
 刃と刃が絡み合う。
 風を裂いて剣が奔る。
 セイバーの剣はバーサーカーに大半が防がれ、時折防御を掻い潜った斬撃が被弾していた。
 しかし筋力にも耐久にも差がある両者ではただ防御に徹するだけでも消耗を余儀なくされる。
 そのため被弾を避けられてもバーサーカーは着々と消耗してた。
 さらにバーサーカーを流血させているのは基本的にランサーの大槍である。
 それは死を避ける本能的な行動なのだろう。
 狂戦士は騎士の攻撃は喰らわないが槍兵の攻撃はよく喰らう。
 より攻撃力が高く致命的なセイバーの攻撃は確実に防ぎ。
 セイバーよりも攻撃力が若干落ちるランサーの攻撃は捌き切れないなら初めから防御しない。
 そのおかげか、バーサーカーはこれまで致命傷を一撃も受けずに生き延びていた。
「その奮闘ぶり実に見事だバーサーカー!
 三対一などオレも望むところではないが……お前のマスターの凶行は絶対に止めなければいけない。
 罪無き者達を守るためにもお前はここでオレが討ち取らせてもらう!!!」
 セイバーはバーサーカーに賞賛を贈りながらより強い一撃を見舞う。
 バーサーカーも渾身の大降りで応戦する。
 激突する魔力。荒ぶる血流が肉体をもっともっとと急かしている。
 剣から手に伝わる衝撃が英雄の魂を歓喜に震えさせる。
「■■■■■■■■■■ー!!!」
「タァァアアアアアアアアアア!!!!」
 しかしいくらバーサーカーが致命傷を避けているとはいえ損傷までは避けきれない。
 致命的な攻撃を本能的に取捨選択し延命しても受ける傷と共に戦況の天秤はどんどん傾いていく。
 結局、この戦いは……。
 終始セイバーたちの一方的な攻勢のまま終わりを迎えようとしていた。

 ランサーのアシストを受けセイバーはバーサーカーの剣をカチ上げる。
 バーサーカーのバランスが崩され、両腕が開いたせいで胴体の守りががら空きだ。
 おまけに既に懐にはセイバーが飛び込んでいる。
 必殺の間合い、必殺の隙が揃う、まさに必殺の好機!!
「ふっ、シャ!貰ったバーサーカー!!!」
 右手の聖剣を振り上げる。
 狂気に彩られたバーサーカーの両目が見開かれていた。
 ローランの美しい碧眼とヘイドレクの狂気で濁った赤眼が交差する。
 我が聖剣で討ち取ってやる。それは名誉ある死だ。だから安心して逝け狂戦士。
 セイバーはそのままそれを真っ直ぐ振り下ろそうとして─────突如間近で閃光が炸裂した。
「───ぅ!!!?」
 あまりの光量に目が眩む。
 目を閉じたままとっさの閃きに任せて後方へ飛び退いた。
 今立っていた場所をバーサーカーの剣が音を鳴らして通り過ぎていった。
 そして耳を覆いたくなるほどの怒号が轟く。
 穿られて粉々にされる地面。
 地上は何者かの爆撃を受けていた。
 空から降り注ぐ無数の光弾。
 それはまるで誘導ミサイルのような軌道を描いて次々にセイバーたちの足元へ撃ち込まれている。
 セイバーとランサーは即座に上空を、そこに居る筈の男を睨め付ける。
 ……やはりいた。
 そいつは登場した時と同じ格好で自分の使い魔である巨鳥の背中に立っている。
 ただ一つの相違点は膨大な魔力を放つ宝具らしき魔道書を開いていること。
「どういうつもりだ!キャスター!!」
 光弾の射手に向かってセイバーは怒鳴る。
 怒鳴り声と同時にセイバーの背後から風切り音が鳴る。
「セイバー余所見をするでない!バーサーカーはまだ健在でござるぞ!」
 余所見をしたセイバーを庇うようにランサーはバーサーカーの攻撃を受け止めていた。
「すまんランサー助かった」
 セイバー達の頭上には魔道書を開いたキャスター。
 そして前面には体勢を整え直したバーサーカーが立ち塞がっている。
「■■■■ー!!!■■■ーーー」
 血を流しながら佇むその姿はまるで幽鬼のようだ。
「もうしわけありませんねセイバーにランサー。
 不本意ですがマスターの指示です纏めて倒させて頂きます。
 せめてもの慰めですがバーサーカーはボクがキッチリ倒しましょう」
 地上の彼らには聞こえない様に口の中だけで呟く。
 セイバーたちがバーサーカーに気を取られている隙にキャスターは『世界の書』から魔術を起動させる。
「──圧縮開封──全機起動──自動戦闘───」
 魔道書が淡く光り指定された魔術を実行する。
 選択した魔術は工房から圧縮してここまで持ってきた”仕込み”の解凍。
 それから”仕込み”に対するオート戦闘命令だ。
 オート起動命令は愛用の八体の人形の様に個別に指示を出さないため動きの精度や戦闘力は落ちるが、
 細かい命令を逐一出せない分数を大量に扱えるという利点がある。
 
 空がパックリと割れ、亀裂の中から大小様々な大きさの化け物たちが地上にバラバラと降り立つ。
 羽が生えている者、太い尻尾が付いてる者、巨大な牙がある者、角が生えてる者、巨大な者とその形は様々だ。
 これこそがキャスタークラスに与えられる特権。
 道具作成スキルの力である。
 キャスターはこのスキルに『世界の書』に刻まれたどこぞのソロモンから人形作りの指南を受けた!
 と自称する家系の魔術刻印をバックアップに使い、ある程度の質とそれなりの量を兼ね揃えた使い魔を用意した。
 それにしても数が異様に多い。
 キャスターが用意した”仕込み”の数は実に200を超えていた。
「化け物?まさか……幻想種か!?」
 頭上から降下してくる化け物を見てセイバーが若干驚いた表情をした。
 もしこいつらが幻想種ならばあまりに危険すぎる敵だ。
 いくらセイバーと言えどこれだけの数の幻想種などとてもじゃないが相手にしていられない。
 セイバーは牽制のつもりで一番近くに降りて来た化け物を油断無く一刀してみる。
 すると化け物は面白いようにスパンと真っ二つにされてあっさり絶命した。
 さらにもう一体に向かって聖剣を突き込む。
 化け物は胴体に剣をスルリと飲み込ませ、そして動かなくなった。
 またしてもあっさりと死んだ。……ということは。
「ランサー!こいつら弱いぞ!幻想種にしては出来損ないもいいところだ!」
 三体目と四体目をまとめて切り伏せながら叫ぶ。
 キャスターの用意した化け物はあくまで幻想種の形を模しただけのゴーレムに過ぎない。
 年月の蓄えも神秘の蓄えも大して無い化け物達と本物の幻想種とではその力に圧倒的な差が出る。
 本物の幻想種退治すらした事のあるローランが相手ではこんな連中など雑兵と大して変わらない。
「ハッ!ヤッ!!お?確かに仰々しい見た目の割には手応えがそんなに無いでござるな」
「セイレーンとか巨人とか本物の幻想種はもっと凄いぜー?もしこいつら全員が本物なら結構ヤバかったよ」
「そこまでか?こやつらも結構強いんでござるが……うぅむ世界は広い!」
「特に竜種とか死ぬほどヤバいぞ……オレでもチビりそうになったもん」
「うわ……チビったんでござるかぁ?」
「チビりそうになっただけだっ!!その時丁度身ぐるみ全部盗まれてたんだよ!」
 二人して暢気に無駄口を叩いてはいるが、その手元は襲い掛ってくる化け物の急所を正確に突いていた。
「剣も防具も全部なんだぞ!流石に竜が相手で武器が棍棒しかないと知った時はちょっと泣きそうになったなぁフフフ!」
「で、負けてしまったと?」
「バカ言え!!ちゃんと勝ったさ!!フッ、オレの怒りパワーはドラゴンだってボコボコに叩き殺せるのだーアッハッハ!」
 セイバーの悪い癖が思いっきり出ていた。
 ランサーの口車に乗せられたセイバーはついカッとなり勢いで余計な事までペラペラと喋る。
 それはもう自分の正体に関わりかねないキーワードすらペラペラと。
「………ふ~ん」
 ほう、こやつ竜殺しの英雄でござるかぁ。通りで並大抵の覇気では無い筈でござるわな。
 マスターに後で報告しようと内心で舌を出しながらランサーは踊るように大槍を振り回す。
 回転する槍の柄に弾かれ小石の如く飛ぶ化け物たち。
 そしてついでに散髪されるローランの金髪。
「あ!信じてないなこの野郎!!?ってわっ!危ねぇっ!そんなデカいモンここで振り回すなよ!!」
「あーすまんすまん」
「話信じてないし、人の髪の毛切るし、ランサー後で覚えてろよぉぉ」
 低く唸りながら剣を振る。
 爪を薙いでくる敵よりもさらに速く薙がれた刃が頭蓋を叩き切った。
 セイバーとランサーは背中合わせになって聖剣と名大槍を操る。
 二人はお互いの背中を守り合いながら向かってくる化け物を一つ一つ潰していく。
 この化け物は数が多いだけの雑兵だ。大した脅威にならない。
 それよりも問題なのは───。
「■■■■■ーーー!!!」
 化け物を切り捨てながらバーサーカーがセイバー目掛けて突進してくる。
 セイバーも数歩前進して迎え撃つ。
 運悪くセイバーとバーサーカーの間に割り込んだ化け物が三つに解体された。
「こいつ!この状況でもお構いなしか!?」
「愚痴ってる場合ではござらんぞ!」
 戦場はセイバーとランサーとバーサーカー、それにキャスターと200のゴーレムが入り乱れての乱戦となった。



 ──────キャスターが対地爆撃と大量なゴーレムを召還を開始した直後。
 数十m外に居るランサー陣営。

「ハハハハ!キャスターの奴め随分と奮発したものよ!
 さあ愉しい舞踏会の始まりだ貴様らのお手並み拝見といこうか!」
 ゲドゥ牧師は両足に取り付けた黒鍵専用の鞘から二本ずつ。計四本を抜き両手に持つ。
 四の刃が満月の光を反射させた。
「各員に告ぐ───作戦開始」
 号令は無駄なく端的に。
 牧師のその一言をきっかけに全員が疾走を開始した。
 何人かは馬に乗っているがそれ以外の者は徒歩である。
 だが代行者たちの地を駆ける速度は馬のそれと変わらない。
 集団の先頭をゆくのは牧師だ。
 その後ろには代行者が七人と陣形を組んだ僧兵が追走する。
 ライダーは集団の一番後ろから付いて来ている。
 彼もまた他の連中と同様に特に乗り物には乗用せず徒歩のままだ。
 折角馬があるのだから騎兵らしく騎乗すれば良かったであろうに。
 ライダークラスが手繰る馬は騎手の技能で差が出るため通常よりも速度が出るのだから。
 流れるように走る武装集団の装備は幾つかに分かれていた。
 黒鍵、肉厚のナイフ、徒手空拳、投刀、槍。
 各自が最も使い慣れた獲物を武装している。
 十数mの助走距離をあっけなく使い切り結界の境界に足を踏み入れ、一気に突破する。
 黒衣の集団は戦場入りすると同時にさらに疾走する速度を上げた。

 こうして計38名の修羅たちが英雄と魔術師と化け物たちが入り乱れる戦渦の中に乱入した──────。




 黒い法衣を着込んだ武装集団が結界の中に雪崩れ込んで来た。
 雑魚を打ち倒しながら視界の端でそれを確認する。
 今度のは化け物ではなく人間。
 しかもその表情から奴らの素性が簡単に判る。
 懐かしささえ覚える戦う者の瞳。連中は全員間違いなく立派な兵士だ。
「新手!?まったくお互い主を置いてきて良かったでござるな」
「同感だ──なっと!!!」
 ランサーを背にしたままでバーサーカーの跳躍斬りをがっちり受け止める。
 高く飛び上がり落下してくる分の重さが加わり破壊力がいつもより高い。
 バーサーカーか着地する前に思いっきり押し返しついでとばかりに蹴りを加えて遠ざける。
 手負いの狂戦士などもはやセイバーの敵ではないが彼の周りに群がる雑兵共がいちいち邪魔をして戦い難いったらありゃしない。
 しかもふざけたことにこの化け物はバーサーカーを一切狙わないのだ。
 とは言うもののバーサーカーがセイバーも化け物も無差別に攻撃するため味方同士とも言い難いが……。
 ───殺気──伏せろ。
 脳裏に浮かんだ閃きを信じてセイバーは確認もせずに頭を屈めた。
 伏せると同時に頭上を何かが通り過ぎていくのを感じる。
 その直後、自分の右方が大爆発した。
「うおっ?!!!」
 危なかった。
 セイバーは爆心地の方をチラリと流し見るとすぐさま頭上へと視線を向けた。
 キャスターが右手で魔道書を開き、左手を突き出した状態で固まっている。
 今の魔術はさっきの光弾のミサイルとはランクも破壊力も一段は違う。
 詠唱しているせいで魔術の威力が上がっているのだ。
「よく避けました。ならばこれでどうです」
 手は突き出したまま立て続けに詠唱を開始する。
 破滅や創世、特殊能力的で洒脱な気がしないでもないような単語ばかりが目立つ詠唱。
 魔術師は詠唱中無防備にならないように注意して巨鳥を飛空させる。
 キリキリと頭に響く甲高い嘶きを発して巨鳥が空を自由に旋回している。
 高速詠唱で呪文を唱える。
 キャスターの詠唱の長さは既に五節。
 それだけ長い詠唱にもなれば大魔術クラスの魔術行使になる。
 万物よ皆安らかなる死を───悠久光氷雪──!!
「これは本気でマズイ!!!」
 世紀末レベルの嫌な予感に突き動かされるまま背後にいるランサーの肩を掴み出来るだけ遠くにダイブする。
 無音無色の大魔術が天空より放たれた。
 二人が飛び退くとの入れ違いになるように大地に着弾する。
 爆発音などはない。
 だが今し方セイバーたちが立っていた地が色々とヤバいことになっていた。
 大地が死滅している。
 おまけに空間そのものが凍結したかの様にまるで動きや流れといったものを感じない。
 まるで宇宙空間のような絶対的な眠りに侵された土地が出来上がっていた。
 冗談じゃないなんて危険な魔術だろうか。危うく本気で死ぬところだった。
「た、助かったぞセイバー。アレはちょっと危険すぎる」
「あれは流石に死ぬよな……今のを喰らうのは死んでもお断りだぞ!」
「同感でござる!」
 とっておきを外したことを悔しがるキャスターの姿が見えた。
 例えどんなに威力があっても攻撃は当たらなければ意味が無いのだ。




 ───キャスターの爆撃とほぼ同時刻。
 バーサーカー達から数十mの場所では遠坂とソフィアリが魔術戦をしていた。
 炎、氷、風の魔術が飛び交い。
 張った障壁がそれらを悉く遮断する。
 精神攻撃を仕掛けようとすれば、相手の技が発動するよりも速く守りに入ったり、技自体を潰しにかかったりして無力化する。
 遠坂が宝石魔術を繰り出せばソフィアリが複合刻印の魔術をお見舞いして対抗してみせる。
 それは両者共にかなりレベルの高い魔術戦だった。
 ぱっと見は互角。
 だが底を計ればキャスターの恩恵を受けたソフィアリの方に分があるだろう。
「──根絶やせ、業火──!」
「……輝石の紅炎よ!」
 遠坂とソフィアリの魔術が同時に発動した。
 炎と炎が衝突し弾け拡散し足元の草花を炭に変える。
「風曲!」
「雷鳴刃!」
 今度は風の塊を叩き込み放電魔術で相殺を計る。
 残心。二人は構えたまま相手を讃える言葉を贈り合った。
「ふぅ、やるではないかトオサカ!まさかここまで私を楽しませてくれるとは予想外だったよ!」
「こちらこそ驚いたよ見事だソフィアリ。君の魔術の腕前はいつの間にそこまで上がったんだ?
 明らかに聖杯戦争が始まる以前の君とは比べ物にならないぞ」
「クク。魔道の名門に生まれた者は才能も溢れているものさ」
 遠坂が相槌を打とうと口を開きかけたところでバーサーカーたちの居る方向からとんでもない魔力反応と爆音が耳に届いた。
「む?なんだ?」
「あれは……キャスター?何をやっているんだ奴は?」
 一旦戦いを一時中断してそちらに目を向けると上空に陣取っていたキャスターが地上に向けて爆撃していた。
 それは味方の援護射撃と言うにはあまりに荒々しい。
 おまけに何故か地上には化け物が何十体もばら撒かれている。
 あまつさえセイバーとランサーとバーサーカーに斬り捨てられていた。
 キャスターの行いはとてもじゃないが味方に対する好意的な支援には見えない。
「これは────む?」
 ソフィアリは自分が敷いた結界から感じとった違和感に眉を顰める。
 なんだ……これは?
 結界の中に侵入してくるナニか。
 だが数がおかしい。5…10…20…30…39…数が異様に多い。
 ライダーのマスターだとしても妙だ。
 自分はこんな話は全く聞いていない。
 なんだこれは?
「どうかしたのかソフィア……なんだと?」
 どうやら遠坂もその異常に気付いたらしい。
 満月の明かりのおかげで、もう肉眼でも確認出来る黒い法衣を着た武装集団。
 しかも遠坂とソフィアリの方へ真っ直ぐ突っ込んでくる。
 その中には黒鍵を片手に二本ずつ構えた代行者。ゲドゥ牧師も当然いる。
「───主の御名の下に!!」
「代行者──!!?」
「何故奴らがここに!?」
 魔術師たちの組織、魔術協会にとっては天敵ともいえる組織聖堂教会。
 その中でも異端狩りを専門行う代行者たちは修羅の異名を持つほどの殺戮兵器だ。
 何人もの魔術師たちとその英知が異端狩りの名の下に彼らの手に掛かり葬り去られた経緯がある。
 そんな連中がどうしてこんなところにいるのか?
 牧師とは別の代行者と視線がぶつかった。
 冷たい殺意。
 連中は明らかに自分たちを殺す気だ。
 応戦しなければ確実に殺される。
 遠坂は懐から宝石を三個取り出し一気に魔力を叩きつける。
 狙いは一番間近に迫っている僧兵。
 乾いた音と共に緑の閃光が三条点り僧兵は斃れた。
 続いてソフィアリも複合刻印を起動させ氷結の魔術を中から引っ張り出す。
 一工程で発動した氷は別の僧兵の足と地面を一瞬で凍結させた。
 動けない敵へとどめの雷撃を浴びせる。一瞬で感電死した男はそのまま動かなくなった。
 遠坂たちの攻撃に対してマスクで顔を隠した女が応戦する。
 ナイフが8本。遠坂とソフィアリを同時に狙った投擲が放たれる。
 魔術師たちの前に展開された障壁があっさりとナイフの進攻を阻止する。
 しかし代行者は魔術師が守りに廻った隙を使い地面擦れ擦れを這う様に駆ける。
 人間にしては異様に速い。
 間合いがあっという間に詰められた。ソフィアリとの距離は3m程度。
 代行者に応戦しようとソフィアリが手をかざす。
 喰らわせるのは先ほどと同じ氷結の魔術。
 すると女代行者は魔術が放たれる直前。0、コンマ何秒のタイミングで斜め前に跳躍した。
 まさに代行者たちの地獄の訓練と経験による賜物。
 ソフィアリのモーションは完全に盗まれていた。
 自分の真横に迫る殺し屋に驚愕した表情を向ける。
 法衣から抜き放たれる一振りの黒鍵。狙いは頚椎。
 一秒後にはソフィアリは死んでいたことだろう。
 遠坂の妨害さえなければ。
 ズン!っと少し派手な音がした。
 宝石から放たれた魔術はまるでレーザーのように女代行者の心臓を打ち抜いた。
 死角からの攻撃に対処し切れなかった女代行者は刃を振り抜くどころか言葉一つ吐くこと無く絶命した。
「これはどういうことだクソッ!?」
 代行者や僧兵は他にもまだまだいる。
 事態が把握できないソフィアリは苛立たしげな様子で暴風玉の魔術と一緒に吐き捨てる。
「どうやら好くない事態のようだな」
 片や家訓に従いなんとか表情と仕草には余裕を保たせている遠坂。
 ここまでくると見事な貴族根性である。
 だがその内心は表層ほど穏やかではない。
 頭の中で舌打ちしながら遠坂は次の宝石を炸裂させるのだった───。









──────V&F Side──────

助けろ!ウェイバー教授!第九回

V「ファーック!HinHにFakefirstにRebirthの作者は筆早すぎるわー!!」
F「ふぬぅぅぅう!ファーック!よーし!新年早々投下だーとか企んでいたらあれよあれよと言う間に最後ですよ!?」
V「このウスノロめ!お前は裸ドカリオンか?あん?……いや脱がんでいい私が悪かった」
F「えー!!新年早々先生のために初脱ぎしようと頑張ったんで──ぐふっ!?」
V「う~む初バイオレンスかぁ」
F「じ、しみじみ言ばないでぐだざいよぉ……」

F「さて現場リポーターのフラットですが戦場では凄いことになってます……!」
V「あーどう凄いことになってるんですかね?リポーターのフ裸ットさん」
F「現地ではミサイル魔術が乱れ飛び狂戦士と騎士と侍と化け物が乱闘を繰り広げ!
  さらには隅っこの方でお貴族魔術師とお貴族魔術師二号と牧師様と僧侶が乱闘を繰り広げ!
  遠坂バーニングにソフィアリフレイムにエアロガにサンダガにエターナルフォースブリザードが乱れ飛ぶ…ってなぁにこれぇ?」
V「はい以上ノリツッコミも出来る現場のフ裸ットからでした。では続いてのニュースに──」
F「いやいやちょっと待ってくださいよ!最後の何ですか!?
  遠坂バーニングにソフィアリフレイムはネーミング的に見なかったことにしますけど!
  いえもう百歩譲ってサンダガにエアロガも目を瞑ります!
  けど!エターナルフォースブリザードは何ですか!!?」
V「エターナルフォースブリザード。日本の魔術師、中弐家が代々継承すると言われる大禁忌だ。
  圧倒的な威力を誇るそれはあまりに世界にとって破滅的な結果を生むため、発動すると常に世界からの修正を受けてしまう」
F「なにを真面目に解説してるんですか先生っ!!?」
V「エターナルフォースブリザード!その効果は───当たると死ぬ!
  ただしどんなに頑張っても世界からの修正を受けるため絶対に当たらない!」
F「おおお!超カッコイイじゃないですかそれ!エターナルフォースブリザード!」
V「エターナルフォースブリザード!」
F「エターナルフォースブリザード!」
V「さてとバカな事をやってないで先に進めるか」
F「そうですねー」
V「とは言っても戦況が混乱しきってて特に言うこと無いんだがな」
F「えーなんです?もうちょっとなんかコメントくださいよ!」
V「いやどう転んでもおかしくない状況だからな。全員等しく死ぬ危険性があるぞこれ。さっき現場に行って来ただろ」
F「キャスターさんの流れ弾に当たりそうでした。というかお尻の部分が破けた……」
V「この乱戦の結果誰が笑うことになるか見物だな」
F「雨生さん逃げてー!」
F「ところで綾香さんにナメクジを使った悪戯をするとどうなりますか?」
V「フリッカーで切り刻まれるだろうな。では次回だデッドりそうな君を待つ!」
F「菓子折り持って掛かってきてくださいよー!!」

追記
F「真面目路線でいくため加筆修正を加えてみたがどうでしょう?」
V「最初から真面目にやればよかったものを……」
F「てへ♪」