────────────────────────────Another Servant   八日目 剣士と闘士─────────


──────Casters Side──────

───────Interlude ───────

 彼はどこにでもいる人間だった。
 周りの人間と同じ様に生まれ。
 周りの人間と同じ様に平凡な家族に囲まれ。
 周りの人間と同じ様に日々の仕事に精を出した。

 港町として栄えている冬木は深山を町の機能の中心部としており、
 未遠川を挟んだ向こう側の町では田畑などの田園風景が広がっている。
 河を挟み二つの顔を持つ町。それが冬木の町だった。
 そんな漁業と農業が組み合わさったような町に生まれた彼は周りの人間と同じ様に農業に精を出していた。

 冬木は山々に囲まれていることもあり動植物が豊富で当然野生動物も結構生息している。
 流石に熊は出ないが猪くらいなら普通にいる。
 なので町の人間には猟師業を生業とする人間も居れば木こり業を生業とする人間も居る。
 彼もそんな人間の一人だった。

 彼の場合は主を農業に、副業に猟師をやっていた。
 趣味にも似た感覚で猟をし、余った獲物を市場に出して金銭に変える。
 楽しいし、腹にも溜まって、時にはお金にもなる。
 そんな素敵な仕事だ。

 だからこれも深い意味はなかった……。
 その日もいつもと同じ様に早朝から猟に出かけた。
 彼は新しい狩場を見つける気も特になかった。
 ただ、ただふらりとその坂を登ってしまっただけ。
 理由もない。目的も無い。ただよく判らないけど登っていた。
 そうして坂を登り始めてから彼は気が付いた。

 いつもの狩場にはこの坂を登って山に入るのに……。
 何故最近はこの場所に近づかなかったのだろうかと。

 その異常を彼は異常とは思わなかった。
 そんなこともあるかと軽く流してしまった。
 それは彼が無意識に、肉体が本能的に、避けていたのだと。

 彼は気付けなかった。



 一流の魔術師の張る結界は外部に異常を異常と感じさせぬが故に一流の業なのだと。

 そのことさえ知っていれば彼はこんな事にはならなかったのに………。



───────Interlude  out───────


 ぶっちゅっ。っと水気を含んだ何かが潰れる生々しい音が早朝の空に響き渡る。
 地面には粗挽きの挽肉が一丁。
 丘の上のシェフはこれからはんばーぐでも作るのかな?
 はんばーぐをこさえる一流シェフは豪奢なコートを着込んだ貴族風の男。
 ソフィアリだ。
 その背後にはさらさらなセミロングの髪をした眼鏡の優男が立っている。
 だがその表情は険しい。
「マスター……」
 野犬でも観るかのような目でソフィアリがキャスターへ振り返る。
「なんだね、キャスター?」
 先を促す様な言葉を口にしているが、目がただただ煩いから黙っていろと語っている。
 そんなマスターの目付きを無視してキャスターが喰いかかった。
「殺す必要など───!」
「あったな馬鹿め」
 キャスターが最後まで言い終える前にぴしゃりと遮ってソフィアリは断言した。
「我々魔術師は目撃者を見逃しておくわけにはいかない。
 そうしないと自分の身を守れないからだ。
 まさかそんな基本中の基本さえも知らんとは貴様にだけは言わせんぞキャスターのサーヴァント?」
 最後にじろりと敵意さえ剥き出しにした瞳で告げる。

 魔術師にとって目撃者自体が恐ろしいのではない。
 所詮彼らは一般人だ。束になって掛かって来ようが魔術師たちの敵ではない。
 彼らが真に恐れているもの。
 それは目撃者の口から招かれざる者へと伝わる事以外に他ならない。
 魔術協会。聖堂教会。その他の類似組織。
 そういった連中が魔術師を滅ぼすのだ。
 目撃者から始まった一連の流れが最終的に目撃された魔術師を破滅させる。
 だからこそ魔術師は目撃者を生かしてはおかない。
 全ては自身の身を守るために。

 だがそんな”正論”にもキャスターは納得がいかないらしい。
「ボクが忘却暗示を掛ければ済んだ話ではないですか!?」
 確かにキャスターの忘却術なら穏便に事は済んだはずだ。
 だがそんな提案を真っ当な魔術師は鼻で笑って一蹴した。
「馬鹿め。忘却暗示などどんな具合に術が解けるか判ったものではないわ。
 ”死人に口無し”という言葉を知っているかキャスター。
 私は貴様の言う不確定な隠匿ものよりもより確実な秘匿を行なったに過ぎん」

 そこまで言うとソフィアリは話は終わりだとばかりに踵を返した。
 それと同時に激しく燃え上がる人間の死体。
 ソフィアリの魔術で細切れにされていた元人体は炎によって綺麗に炭化し、元の原型を留めてはいなかった。


「ところでキャスター、お前にどうしても一つ聞いておきたいことがある」
 ソフィアリは工房の玄関前で足を止めキャスターの方へと振り返った。
「なんでしょうか」
 素っ気無い返答。彼の機嫌はよろしくは無いようだ。
「なにお前自身の事だ。答えられない筈は無い」
「ボクのこと……ですか?」
 マスターの口からそんな質問が出るとは余程以外だったのかキャスターは少し意外そうな表情をしている。
「ああ。お前の聖杯に賭ける悲願。確か貴様召還初日に”病魔の根絶を”などと抜かしたな?
 私にはそれが理解できん。ああいや、お前の頭がおめでたいのは既に知っている。
 私が聞きたいのはそんなことではない。何故病魔なのかという部分が聞きたいだけだ。
 お前が求めているものは平和などという戯言なのだろう?
 それ自体については文句は言わん。他人の趣味にとやかく口出しするほど私も野暮ではない」
 言いたいだけ言ってソフィアリはそこで一旦言葉を切って間を作った。
「だが……自分のサーヴァントがマスターに虚言を吐いているとなれば話は別だ」
 そう言って責めるような視線をキャスターに浴びせかける。
「なっ……虚言とは、それはどういう意味ですか?」
 流石のキャスターでもこれには少々不愉快な気分にさせられたのか声のトーンが一つばかり落ちた。
「言葉通りの意味だ。お前の言動には辻褄が合わん。はっきり言って矛盾している。
 何故人間を救うのに病魔の根絶だ?人間の幸福を望むならば争いを一掃した方が早かろうに?
 それが正義というものではないのか?なのにお前が言うことはそうではない。
 つまり貴様が口にしたことは虚言ということになる。
 え?どうなんだキャスター?納得のいく説明をしてもらおうか?」
 あくまで高圧的な態度で物言うマスターにキャスターは合点がいったとばかりにいつもの様に表情を崩した。
 流石は聖人君子魔術師、懐が広いらしい。
「なるほど。そういうことですか。でしたら何も矛盾はありません。
 マスターが前提を勘違いしているだけですよ」
「前提を勘違い………だと?」
 ソフィアリが訝しげな表情で小首を傾げた。
 淡々とした口調でキャスターがそれに続ける。
「まずボクは元は聖職者ですよ。
 それから東方の賢者達との出会いによって魔術師に転向した変り種の魔術師なんです。
 つまりボクは聖職者的思想と魔術師的思想の両方を持ち合わせた異端と言うわけです。
 ですので生粋の魔術師や生粋の聖職者たちとボクの倫理観とはでは当然ズレが生じます。
 それが今マスターが引っ掛っている違和感の正体ですよ」
 ソフィアリは目の前のローブ姿の男の言葉に黙って耳を傾けている。
 キャスターはさらに続ける。
「そして結論から言いますと、聖職者的且つ魔術師的な考えに基づいた場合。
 はっきり言ってしまえばマスターの言う様な人間の闘争心を消去するやり方はベストではありません。
 それは結果的に人類を滅ぼしかねない望みだからです。
 ボクはあくまで人類の霊的進化の促進を望んでいる。
 そしてそのための最初のステップがこの病魔の根絶なんですよ。
 これが叶えば人類の死因は肉体の破壊による外的なものと老衰による自然死のみになる。
 伝染病や奇病難病による病死や飢餓による栄養失調死、先天的後天的な不治の病による死からの解放。
 すると人類には今よりも精神に余裕が与えられる。
 そしてその余白の部分こそが人類を進化させ幸福にする可能性を秘めているのです」
 キャスターはまるで教祖のように厳かな口調で人類のあるべき未来を語る。
「ボクはその可能性のために聖杯を求めているんですよマスター」
 そうして魔術師の英霊は眼鏡を光らせ不敵な笑みを浮かべた。
「…………」
 ソフィアリは無言だ。
 一応それらしい言い訳が本人の口から出てきたので彼はその瞬間にこの話題の興味が失せたのだ。
 心底どうでも良さ気に鼻を鳴らして工房内に戻ろうと足を動かし始めた。
 と、その時。
 獣が鳴く声が響き渡った。

「───!?キャスター戻るぞ。例のやつだ」
 ソフィアリの表情が曇る。キャスターも真剣な顔をしていた。
「わかっています。もう少し結界の強度を上げた方が良さそうですね」
「それともう今回のようなヘマはするな。何度も一般人に結界内をうろつかれても迷惑だ」
 キャスターは黙って首肯する。
 建物内へと消えてゆく二つの人影。
 そうして冬木の町は何事もなかったかのようにいつもの朝を迎えた。
 ただ一人の失踪者を除いて。







──────Berserkers Side────

 雨生は野鳥の鳴き声で眼が覚めた。
 首をごきごきと鳴らしてから今度は背筋を伸ばす。
 硬い地面で寝たため体中の筋肉が凝っていた。
 しかしそれ以上に体力と魔力の消耗が激しい。
 だがそれは致し方ないことだ。
 なにせ雨生はつい一昨日死ぬ間際まで魔力を消耗したのだ。
 魔力とは即ち生命力とも言い換えてもいい。
 そういう類のエネルギーが枯渇しかけたのだ。無事で済む筈が無い。

 あの多勢に無勢の包囲劇の夜からの反省で雨生はこれから自分がしばらく拠点にする事になるであろう、
 地脈が通っている場所に非常に簡易ながらも工房を設置することにした。
 とは言ってもそれは魔術師の工房と呼べるほど大層な代物でもない。
 あえて表現するならば掘建て小屋だ。
 キャスターの工房のような物とは比べることすらおこがましく、
 遠坂の工房のような物とは並べて欲しくも無いような粗末なレベルだ。
 あくまで外部への魔力遮断のみの機能しかない結界と大して変わらないようなレベル……故に掘建て小屋。
 しかも外部への魔力遮断なんて工房としては初歩も初歩なのだ。
 新米魔術師でもその程度の物は作れることだろう。
 しかしそれでも雨生は工房を設置することにした。
 それは、用心するに越したことはない、という何が起こるか判らない聖杯戦争では賢い選択だった。

「ハァ……魔力はまだ全回復には遠いね………」
 自分もバーサーカーもまだまだ完全回復には程遠い。
 それにこれからは慎重に行動する必要がある。
 前回の戦いで二個目の令呪を使ってしまったのだ。
 これで令呪はあと一個。よってもう令呪は使えない。
 行動するなら常に体力魔力が万全の状態でなければいけない。
 消耗しているような状態でなんらかの行動をするなど上記のような様々な要素から自殺行為だ。
 あと一日か二日はこうして地脈から魔力を吸い上げて回復に努めなければならないだろう。
 食料などは民家から大量に強奪してきたため不自由はしないが、寝床はどうしても不憫が出てしまう。
 たった数日の野宿生活とはいえ雨生は既に日本の心の友である畳と布団の寝所が懐かしいものになっていた。
 ビバ純和風。洋風なんて糞食らえだ。
 溜息を吐いて空を見上げる。
 木々や葉枝の隙間から早朝の青い空が見えた。
 どうやら今日もいい天気らしい。

「そういえばなんかバーサーカーの夢を見た気がするけど……まあいっか」
 ふと思い出した今朝の夢。
 だが雨生はあっさり夢の内容を忘却することに決めた。
 所詮夢は夢だ。雨生には大して関係が無い。
 ましてやあれはバーサーカーの夢なのだ。
 仮にあれが真実だとしても相方が人語解さぬ狂戦士のサーヴァントではどうしようもない。
 話のネタにもならないし、おまけにあんまり面白味のある話でもなかった。
 しかしただ一つだけ判ったこともあった。
「俺とバーサーカーは割と似た者同士だったってわけか」
 ヘイドレクの何かを証明したいという渇望は雨生にも心底理解出来た。
 なにせ雨生自身も証明したいのだ。
 人間の肉体から神の座に至る事が出来る神の肉体が存在するということを。
 ならばそんな二人が手を結ぶことになったのもこれもまた運命だと素直に喜ぶべきなのだろう。
「まあどの道しばらくは動けないし、のんびりと監視でもするかね」
 使い魔の幾つか思い返しながらそう洩らして雨生は再度仰向けに寝転ぶのだった。







──────Fighters Side──────

「ファイターいるか?」
「ああ、遠坂殿ここにいる」
「状態の方は?」
「問題ない。一昨日に消耗した魔力分は完璧に元通りだ」
「そうか、ならばいい」
 朝のいつも通りのやりとり。
 朝と夜に休息を挟んでお互いの現在状態を確認し合うための作戦会議。
 作戦会議とは言ってもそこまで大仰なものでもなくあくまで確認程度のものだが、
 それでもするかしないかではお互いの信頼関係にも大きな差があった。

「しかし宝具を二つも連続使用したにも関わらず回復が早いな?」
 遠坂はマスターならば誰もが抱くだろう当然の疑問をファイターにぶつけてみた。
 確かにファイターの魔力回復速度が意外なほどに早い。
 一昨日彼は宝具を二つも連続使用するという荒技をやってのけたのだ。
 その割にはファイターは実にピンピンした様子である。
「それは簡単な答えだ遠坂殿。私の宝具はそこまで極端に魔力消費が多くないからだ」
 そんなことを遠坂が考えているとファイターがその答えを教えてくれた。
「そうなのか?」
「ああ。フルンディングの方はそこそこの消費量だがネイリングは殆どと言って良いほどに負担が軽いのだよ。
 なにせ能力が能力だからな。下手をすると回復無しで二桁使用もいけるかもしれない。
 だから実質上私はフルンディング一回分の魔力消費しかしてないも同然なんだ。
 おまけにそれさえもあのアーチャーのような大規模な宝具と比べれば恐ろしく負担は軽い。
 それに私もそこそこの魔力量を誇っているからな。
 一回や二回の宝具使用ならばまだまだ余裕があるというわけさ」
 そこまでファイターが説明すると遠坂は合点がいったばかりに頷いた。
「そういうことか。それが対人宝具持ちのサーヴァントが持つ強みというやつか」

 対人宝具は基本的に対軍宝具や対城宝具と比べてサーヴァントやマスターの魔力負担が軽い。
 規模か小さい分無駄が少なくその分余計な消費を避けられるという寸法だ。
 特にランサーの持つ蜻蛉切などの利器型の宝具は全く消耗が無いと言ってもいい位の魔力消費量で、
 ネイリングなどの燃費が良い解放型の宝具よりもさらに数段燃費が良いのだ。
「長期戦になりがちな聖杯戦争では持久力があると有利だからな」
「その通りだ遠坂殿。いくら強力無比な大砲でも一発しか撃てないようでは後が続かない。
 だがその分対人宝具を持つサーヴァントは長期的に戦う事が出来る」
 それが我々対人戦特化のサーヴァントたちの強みだ。とニッとファイターは口元に笑みを浮かべた。

 そうしてお互いの状態確認を済ませた後、遠坂は朝食を取った。
 それから朝食の後は遠坂とファイターはもはや日課と成りつつある食後のお茶を楽しんでいる。
 ソファに腰を落ち着けテーブルを挟み向かい合った格好で二人は紅茶を飲んでいる。
 この時間はファイターも実体化して遠坂のお茶に付き合うというのが暗黙の了解となっていた。
 初めの内はファイターも遠慮して断っていたのだが来賓に茶のもてなしも出来ぬようでは遠坂家の名に傷が付く。
 とマスターに強く言われてはファイターも断るに断れなかったし、
 何よりも遠坂の淹れる紅茶は非常に美味であった為ファイターも次第に断る気さえも吹き飛んでしまったという訳だった。

「ところで───」
 熱い内に何口かお茶に口をつけた後、ファイターは真剣な表情で遠坂の顔を見た。
 遠坂もファイターの真剣な表情を酌んで手にしていたカップを皿の上に置いてくれた。
「なにかな?」
「───あの話は本当なのか遠坂殿?」
 ゆっくりと質問を投げかけた。
「まあ大体いくつかの候補は上がってはいるが一応確認しておく、あの話と言うのは?」
 顎鬚を触りながら遠坂が思い出すように考えている。
 ファイターも遠坂に促されて一気に本題に入ることにした。
「その……セイバーのマスターが……死体で発見されたという話だ」

 昨日の事だ。
 遠坂は非常に慌ただしい一日を過ごしていた。
 アーチャーの正体を探るための調べ物。
 そしてこの地を管理するセカンドオーナーとしての仕事。
 それらを遠坂は複数同時にこなしていたのだ。
 そしてファイターもその際に聞き捨てなら無い話を耳にした。

 ”外国の貴婦人が道端で死んでいる”

 というそんな奇妙でどこか覚えのあるような話を聞いたのだ。
 その報せを受けた遠坂は直ぐに現場に向かった。
 だがファイターはその時遠坂の待機命令を受け洋館に留まって回復に勤しんでいた。
 そのせいで事件の詳細を知らないのだ。
 帰ってきた後も遠坂は酷く忙しそうにしていた事もあり、今の今まで改めて話を聞く機会が無かったのだった。

「で、どうなのだ遠坂殿。その貴婦人の遺体というのは……」
 緊張した面持ちでファイターが再度遠坂を促す。
「ああ。間違いなくアインツベルンだった。その近辺には彼女に仕える侍女達の遺体もあったよ」
 眼を瞑ったまま遠坂はファイターの質問に答えた。
「そうか…ということはセイバーも……」
「かもしれん」
 心底残念そうにファイターが俯いた。
 あの騎士との決着はファイターも楽しみにしていた節がある。
 そんな折に最大のライバルの脱落を聞かされれば残念がるのも無理もない話であった。
「折角だ話を戻すぞ」
 遠坂は徐に話を仕切り直すと自分がそこで得た情報をファイターに開示した。
 話によるとアインツベルンだけが木に寄り掛る様に置かれており、侍女たちは道端に放置されていたらしい。
 しかもその亡骸の脇には花が添えてあったという。
「ファイター、これについてどう思う?」
「婦人を木に寄り掛らせ、侍女は道端に放置……しかも亡骸に花を添えてある、か。
 双方の扱いの違いを考えると上流階級の者に対する礼儀を知っている者の仕業か?」
「私も同意見だ。通りすがりの人間が花を添えたというのも少し考え難い。
 貴人であるアインツベルンだけを丁重に扱って使用人の扱いに差がある所を見ると
 そいつはそれなりの家の出である可能性が高いと思う」
 お互いの意見交換をしその時の起こった状況の推理を試みる。
 だがそれも長くは続かない。
 ファイターは思い切って核心を訊いてみる事にした。

「下手人などは判っていないのか遠坂殿?」
 あくまで駄目で元々のつもりだ。
 そう簡単に分かれば何事も苦労は少ない。
「いいや実は十中八九だが思い当たる人物がいる」
 すると思った以上に簡単に遠坂は首を縦に振った。
 あまりのあっけなさについ呆けた声を上げるファイター。
「………本当なのかそれは?」
 念を押すファイターに遠坂はあくまでハッキリと首肯して下手人の名を口にする。
「アーチャーだ。アインツベルンと侍女の胸には矢で穿たれたような痕跡が残っていた。
 刀剣類ではああいう傷にはならないし、魔術による殺害でもなかった。
 アイスピックのような細い武器を使う奴が居ない以上は消去法で弓矢を主武装にするアーチャーという事になる」
「本当にやつが?」
「私もアインツベルンの遺体の扱いが引っ掛かっていてな。
 だから君にも意見を求めてみたのだが……。
 現場の状況証拠だけを見ればアーチャーの可能性が高い」
 ファイターはアーチャーの姿を脳裏に思い返してみる。
 数日前アレだけの大破壊を引き起こした奴が敵の亡骸に花を……?
 おまけに遠坂のような貴族……とは少しイメージが違う。
 礼儀を重んじるようなタイプにはちょっと見えないが人は見かけによらないということなのだろうか?

「そしてこれがこの推察を裏付ける最大の証拠なのだが───アインツベルンは聖杯の器を持っていなかった」

 腕を組んで弓兵について闘士が考え込んでいると、突然遠坂がより慎重な口調でポツリとそんな話を口にした。
「聖杯の器を………持っていない?」
 ちょっとまて。
 それはちょっとおかしいのではないか?
 遠坂に聞いた話ではアインツベルンは聖杯を降霊するための器を持っている筈だ。
 それを持っていないなんてことが有り得るのだろうか?
「ちなみに聖杯の器をアインツベルンが所持しているという事実を知っているのは我々御三家のみだ」
「ということは」
 遠坂は外来のマスターはこの情報を知らないという。
 なぜなら今回初めて外の人間を招き入れての競い合いをしているのだ。
 そのため所有する情報量に御三家マスターと外来マスターでは大きな差がある。
「私たち遠坂陣営の者でもなく、アインツベルン陣営の者でもないとすると……。
 最後に残った御三家の一角である間桐陣営の者しかいない」
 そこまで話すと遠坂は少し冷めた紅茶に口をつけて喉を潤した。
「そういえば間桐のサーヴァントは確かアーチャーだったか。
 上手い具合に現場の痕跡の条件に合致しているな」
 顎鬚を手で遊びならが苦い顔をする遠坂。
「どうやら私達がセイバーを見逃した後に間桐に先を越されたらしいな」
「面目ない遠坂殿……まさかこんな事態になるとは………」
 そういってマスターに頭を下げるファイター。
 今回の件は元々ファイターがセイバーに肩入れしたのが切っ掛けだ。
 その結果他のマスターのリードを許す事になってしまった責任を感じているのだろう。
「いや構わんさ。どのみち聖杯の器が必要になってくるのは終盤からだ」
 奪回のチャンスはまだいくらでもある。と遠坂は相棒を元気付けた。

「とりあえず状況が変わった。今夜は町へ出るぞ」
「了解した」
 アインツベルンが消えた以上はセイバーも消えている可能性が非常に高い。
 とりあえず現在誰が生き残っているのかの戦局を確認する必要がある。
 アーチャーの正体も調べなければならない以上は今日も昨日同様に忙しい日になりそうだった。








──────Archers Side──────

「~♪~~♪」
 昨日に引き続き今日も間桐は上機嫌だった。
 使えない使えないと思っていた下僕が意外な働きを見せたのだ。
 枕元に置いた黄金の杯を眺めながら思わず鼻歌なんぞを歌ってしまう自分が可愛くてしょうがない。

 これで他のマスター共を確実に出し抜いてやった事になる。
 あの遠坂も、アインツベルンもだ。
 アインツベルンに至ってはマヌケにも死んで脱落したらしい。
 それだけではない。
 あの妖怪爺さえも早々にこれを手に入れたことには仰天したらしかった。
 実に愉快な顔をしていたのを思い出す。
「くっくっく。これで一組が消えた、あと五組を倒せば……俺が聖杯を手に入れられる」

 アーチャーの話では一昨日の戦闘でアインツベルンとランサーが脱落したと言う。
 そしてランサーのマスターはセイバーと再契約をしたお陰でその場ではリアイアせずに済んだらしく。
 ランサーのマスターと再契約したセイバーについては不明。
 ただしバーサーカーの魔剣をまともに喰らっておりかなりの重傷でそのまま死んだ可能性もあるとか。
 詳しい状況はあの馬鹿昆布が面倒臭がって喋らないが、
 とりあえずランサーとアインツベルンが消えたのは間違いだろう。
 セイバーについてもヘイドレクのティルフィングをまともに喰らったのならまず生きてはいないだろう。
 あれが持つ男を呪殺する魔力は超一流だ。
 セイバーも消えたと考えていいだろう。
 これでセイバーとランサーという強力な三騎士クラスのサーヴァントが二人も消えたことになる。
 その吉報につい口元が緩んでしまう。
 忍び笑いが止まらない。鼻歌が止まらない。

「………なんじゃい気色悪いやつじゃ…」
「サーヴァントの分際でマスター様の良い気分を台無しにするな」
 霊体のままだが相変わらず生意気な態度でアーチャーが声をかけてきた。
 しかも若干引き気味だ。
「おなごの鼻歌ならまだしも男の鼻歌など気色悪いだけじゃろうが」
「ふん、まあいい。今日の俺は機嫌が良いんだ許してやるさ」
「まぁワシも別に貴様の機嫌が良いのを非難する気は無いがの。むしろ有り難い位じゃ。
 で、結局今後の方針は昨日決めた方針でよいのか?」
 アーチャーは気を取り直して本題に入る。
 とりあえず自分たちは現状リードしているが、逆にそのリード分のリスクも負っている。
 そのリスクとは言わずもがな、そこにある黄金の聖杯の器だ。
 これを持っている限り他の連中との直接対決の危険性が一気に増える。
 器も手に入りライバルも蹴落とせる一石二鳥の戦闘になるからだ。

「ああ。聖杯の器は俺が管理することにする」
 黄金の杯を手で撫でながら間桐が言った。
「むぅしかし昨日もゆうたがワシは反対なんじゃがなぁ………。
 折角こんな上等の魔術師の工房があるのに何でわざわざそんなリスクを負う?」
 アーチャーは昨日の間桐と臓碩とアーチャーの三者会議の際に黙殺された意見をもう一度言ってみる。
「マスターの決定にいちいち口を挟むな。爺も爺だ喧しいったらありはしない」
 アーチャーに悪態を付く間桐。
「しかしじゃな。貴様がマスターである以上はワシと行動を共にするのじゃぞ?
 戦闘の度に器を奪われる危険に曝す必要はなかろう」
 そう言って引き下がらないアーチャーに間桐はさも面倒臭気に大げさな溜息をついた。
「お前も爺も阿呆か?」
「なんじゃとぅ?」
 いきなりの罵倒にカチンと来たのかアーチャーの目が細まる。
 睨んでくるサーヴァントを無視してマスターは話を続けた。
「いいか?そもそもこの聖杯戦争で最も安全な場所ってのはな、サーヴァントの近くだろうが。
 はっきり言って俺は爺の工房の力を信じていない。
 俺がその気になればこんな黴臭い洋館なんぞ一発で破壊してやるところだ。そうだろが?」
「……おい。その洋館を破壊をするのはワシじゃろうが!」
 弓兵の矢のように早い突っ込みが飛ぶ。やはり無視して間桐は続けた。
「にも関わらずそんな場所に聖杯の器を置いててみろ工房もろとも吹っ飛ばされて終わりになるだろうが」
「しかし魔術師の工房に真っ向から突っ込んでくるような輩がおるわけが────いやそういえば約一名はおったな」
 そう猪突猛進のセイバーが。
 確かにあやつならばやりかねない。
 現に以前アーチャーの『金亀神城』にも真正面から一直線に乗り込んで来た馬鹿者だ。
 弓兵自慢のアレに真っ向から挑むほどの馬鹿者なら人間の魔術師が建てた工房位簡単に攻略しかねない。

「まあセイバーはこの際どうでもいいんだがな」
「いやいや良くはなかろうが!
 今の貴様の話だと思いっきりセイバーを警戒してるように聞こえるぞ!?」
 くそぅ霊体のままでは体を使った突っ込みが出来ないのが残念だ。
 アーチャーは折角だから岩をも砕くなんでやねん!でもこのワカメにかましてやりたい気分だった。
「とにかくだ。はっきり言えばこんな工房よりも魔城を使って守った方が確実性が高いってことだ。
 しかも今の俺は不死身だぜ?殺されて器を奪われる事態などありえないな」
「まあそれはそうじゃが……」
 自分の宝具の話を出されるとアーチャーが否定する訳にもいかない。
 実際問題として間桐邸の工房よりもアーチャーの神城の方が数十倍、否下手すると数百倍は優れているのだから。
「それにこれが最大の問題なんだが。ここは場所が割れてしまっている。
 もし遠坂がお前の影に気付けば此処に乗り込んでくる事になるぞ」
「貴様そのトオサカとかいうマスターにやけに拘るようじゃな?」
 前々から思ってはいたが、間桐の遠坂に対する感情はちょっと尋常ではない。
 どうも執着にも似た敵対心を抱いているようだ。
「拘ってなどいないさ。ただ聖杯の器の事を知っているのは俺たち御三家の人間だけだ。
 アインツベルンが脱落した今、御三家は俺と遠坂のみ。
 そして聖杯の器のことに感づく可能性があるのもそのことを知る遠坂のみ。
 端から器を臓碩に任せるつもりは無い。なら用心に越したことは無いだろう」
 だがアーチャーの言葉にも間桐は案外冷静に流した。
 どうやらそれなりの考えがあっての選択なのだと言うのがその様子から伺えた。
「………ふむ、たしかにファイターがここに攻め込んできた場合を考えるとちっと防衛力が足らんだろうな。
 まあ話に筋は通っとるならワシも文句は無いわい。そういうことなら確かに有りだ」
「ふん。お前如きに言われる事じゃない。お前とは頭の出来が違うんだよ」
 間桐はベッドから立ち上がるとさっさと自室から出て行ってしまった。
 その後について行くアーチャー。
「で、今日の予定はどうするんじゃ?」
「とりあえず今日も昨日と同様に状況を見ることにする」
「待ちか。ま、それもよかろ」







──────Sabers Side──────

「おかえり。どう少しは気分は晴れたのかしら?」
 沙条綾香は沈んだ声でその帰宅者を迎え入れた。
 視線は窓の外へ向けたまま、たった今部屋に入ってきた者へは見向きもしない。
「そういう君は相変わらずの調子だな」
 という声と同時に何も無いところから突如一人の騎士が姿を出現させた。
 セイバーのサーヴァント。ローランである。

 いま綾香とセイバーは龍洞寺に居る。

 ライダーとアーチャーをなんとか撃退したあと。
 綾香はセイバーに現在自分たちが置かれている状況を全て説明した。
 アインツベルンがアーチャーによって殺されたこと。
 ランサーが自分を生き残らせる為にセイバーと再契約させたこと。
 そういう事情を全て説明した。
 それを聞いたセイバーは最初は中々信じてはくれなかったけど、
 それでも自分とマスターとレイラインが断線しているというこれ以上に無い証拠に加え。
 初めからその事実にセイバー自身が気付いていたからにはいつまでも自分を誤魔化し通せるものでもなかったのだろう。

 セイバーはマスターの死にかなり精神的なショックを受けたらしく、彼は涙を流した。
 純粋にアインツベルンの死と彼女に仕えていた侍女たちの死を哀しんでいた。
 マスターの死に涙するセイバーにまるで引き摺られるように自分も失ったランサーの事が重く圧し掛かってきたのだ。
 綾香は涙を流すことはしなかったが、それでも意地で我慢していたに過ぎなかった。
 本当ならば泣きたかった。
 でも近くに人が居たから泣けなかっただけにすぎない。

 ランサーとアインツベルンを失って、龍洞寺まで戻ってきてからがまた大変だった。
 バーサーカーに受けたセイバーの傷が悪化したのだ。
 傷には呪いが掛かっているらしく薬草などによる道具も魔術による回復も駄目。
 セイバーがファイターに言われた朝まで頑張れば呪いは解ける。という言葉を信じるしか打つ手がなかった。
 マスターの死。己を蝕む呪い。その他要因。
 心身ともに限界を迎えたセイバーはついに我慢に耐えかね独り裏山の奥へと走り去っていった。
 綾香は止める暇も無かった。
 何のためにセイバーは山へ向かったのかと思っていたらしばらくしてその答えが出た。
 境内まで響いてくるセイバーの雄叫びと地を揺るがす震動。
 仕舞いには裏山の木々に八つ当たりをし出す有様だったわけである。
 そしてさらに面倒なのが裏山から轟いてくる謎の轟音、異音、雄叫びに何も知らない寺の坊主たちは
 竜神様がお怒りか!?と一時パニックになり皆一同に揃って念仏を唱えだす有り様であった。
 しかしそのお陰で一人になった綾香はひっそりと少しだけ泣く事が出来た。

 それからお互い今の今まで一人の時間を過ごしていた訳である。


「元気が足りないな」
「貴方みたいに元気有り余って八つ当たりしないだけマシじゃない?」
「む………」
 つい思わず皮肉を口にしてしまった。
 途端、綾香は自分は嫌な奴だなと内心うんざりした。
 セイバーだって自分と気持ちは同じなのだ。
 それなのにわたしときたら……。
「ごめん。前言撤回……ごめんセイバー」
 囁くような落ち込んだ声で少女は自分の発言を謝罪した。
 本当に自分が嫌になる。
 すると騎士はまるで少女の謝罪を掻き消すかのような大きな声を上げた。
「君に一つ聞いておきたい事がある!」
「え!?な、なに?」
 突然の大声に驚く綾香。
 ていうかもう少し静かにして欲しい。
 寺の人たちに聞こえたらどうするつもりなんだろうか。
 だが純白の騎士は気にせず先を続けた。
「君はこれからどうするんだ?」
 騎士の視線は真っ直ぐ少女の瞳を見つめている。
 本当に真っ直ぐな瞳だった。
「貴方は、どうするのよセイバー?」
 セイバーの視線に耐え切れなくなりつい目を逸らしてしまう。
 ついでに回答も先延ばしにした。
 一応答えは出ているのだけどなんと答えたらいいかわからなかった。
 が、それ以上にセイバーの考えが何となく気になってしまった。

「決まっているだろう。オレは彼女に代わって聖杯を得る!それが彼女との約束だ」

 胸を張り真っ直ぐに綾香を見詰めたままセイバーはそう宣言した。
「でも……貴方のマスターはもう………」
 それを最後まで口にすることが出来なかった。
 しかしセイバーはそんなこと気にも留めずにどんどん言葉を続ける。
「たとえ彼女が死んでも彼女の願いまでもが死んだわけではない。
 確かに……オレは、彼女の身を護れなかった……だが、彼女の願いだけは死守してみせよう。
 マスターの願いは───オレが叶えてみせる!」
「セイバー……貴方」
「”聖杯を完成させる”と言うのがオレのマスターの願いだった。
 その意味はオレにはよく判らなかった。
 ただ聖杯で願いを叶えるのではなく、聖杯を完成させること自体が願いだと言うのはオレでも理解出来た。
 ならば絶対に聖杯を完成させてオレが願いを叶えてやるんだ。
 そうすれば天国に居る彼女も満足してくれるはずだから」
 セイバーの碧眼は確固たる決意を示していた。
 もし仮に綾香がなんと答えたとしても彼はやるだろう。
 そんな絶対の意志が綾香にも感じ取れた。

「それで君はどうするんだ?聖杯戦争を降りるか?
 確かにそれは選択としては十分に有りだと思う。
 オレとの契約はあくまで君があの場面から生き延びる為の緊急措置だ。
 今となってはオレもランサーに助けられたことになる。
 ランサーの気持ちを酌むのなら君はここで降りるべきだ。
 ただその場合は悪いがオレとの契約はそのままにしておいて貰いたい。
 流石にオレもマスター無しでは現界さえ出来ないからな」
 降りてもいいんだとセイバーは言う。
 そこには蔑みの類は一切無い。
 単純に女性を戦場から遠ざけたいという騎士の優しさだった。
 しかし……。
「冗談を言わないで。それはわたしが決める事であって貴方が決めることじゃないわよセイバー?」
 綾香は眼鏡の上げながら力強く騎士の言葉に言い返した。
 朝陽の光で眼鏡がきらりと光って不敵な印象を受ける。
 この勝ち気な少女の芯にあるものはどんなになっても変わらない。
「ランサーが死んで少しだけ落ち込んでただけじゃない。
 それが魂の贅肉だってのは勿論知ってるわ。でもいいじゃない人間なんだから」
 そうしてプイっとそっぽ向く少女。
 騎士も嬉しそうにニッと笑った。
「ああ、それでこそオレと再契約したマスターだぜ!」


 それから二人は互いの自己紹介をすることにした。
 お互いまだ名前さえちゃんと知らないのだ。
 新しいパートナーとの出発にはまず自己紹介からが無難であろう。
「さてと。じゃあちょっとバタバタしてたからわたしたちやることやってないわよね。
 今からでも遅くないわ。わたしは沙条綾香。
 まあ正直言えば実はもう貴方の正体知ってるんだけど一応ね。
 貴方はどこの英雄なのセイバー?」
「え、知ってんの!?」
 ありえんっとばかりに驚くセイバー。
 余程自分の正体がバレているのが不思議なんだろう。
 不思議なのはむしろセイバーの頭の方であるがそれは言わないお約束だ。
「うん。だって実はわたしって貴方の事を元々知ったのよね。
 セイバーって結構有名だし、それ以上に色々と判り易いし。
 おまけにランサーと共闘した時にペラペラと自分のこと話すからそれで完璧に判っちゃったわ」
「………う、嘘だハッタリだ!ブラフに決まってらい!」
 殊更に動揺するセイバー。
 そんなにバレて無い自信があったのだろうか?
「嘘じゃないわよ?貴方パラディンでしょ?」
 綾香はふっふ~んっとニマニマした顔で笑う。
 意地が悪いのはあえて核心をほんの少しだけ逸らして相手の反応を見ていることだ。
「────バカなーっ!!!?」
 ムンクの叫びのような顔で驚愕するセイバー。
 こいつリアクション面白いなー。などと暢気な事を考えてしまう綾香だった。



「セイバーのクラスにて現世に召還されしサーヴァント。
 我が名はローラン。彼の偉大なる聖堂王シャルルマーニュに仕えし十二聖堂騎士筆頭なり。
 これより我が聖剣デュランダルは汝が身を守り、汝が敵を討ち、汝が願いを叶えるために在り。
 ここに騎士の契約は完了した。共に戦おう新たなる主君よ」
「ええ。よろしくねローラン。さっきも言ったけどわたしは沙条綾香。綾香が名前だから」
 その後再び仕切り直して自己紹介と契約の儀を済ませた。
 契約は一昨日済ませたじゃないと言う綾香にローランは断固として食って掛かり今やった礼を執り行った。
 どうやら彼がいう契約とはマスターとサーヴァントの契約ではなく主君と騎士の契約の話だったようだ。
 どこまでも騎士道万歳な奴である。
「ところでマスター、シャジョアヤカって言い難いぞ。特にサ・ジョ・ウが……」
 セイバーは唇をくねくねしながら頑張って発音しようとするがどうもぎこちない。
「じゃあ別に綾香でいいわよ?それかマスターで統一したら?」
「それは駄目だ!出来るなら名前で呼んだ方が良いに決まっている!」
 しかしセイバーはそれを嫌だという。
「だからアヤカと呼ぼう。アヤカ。うんシャジョーより全然言い易いナイスな名前だアヤカ!」
 セイバーは親指を立て笑った。
 やぱり伝承通りのかなり変わった人物だった。
「まあそれは別にいいんだけどさ、セイバーはアインツベルンのマスターを名前で呼んでなかったじゃない?」
 思い返しても確かにセイバーはアインツベルンの事をマスターと呼び名前を呼んでいた所を見た事がない。
 するとセイバーの顔がみるみる曇っていった。
 というよりなぜか肩を落として落ち込んでいた。
「それは……マスターを名前を呼ぶと、侍女がな、デーモンの如く怒るんだ………馴れ馴れしいと……」
「ああ………それはなんていうか」

 ご愁傷様セイバー…。







──────Riders Side──────

 雑事を終えてゲドゥ牧師は自分の拠点(人様の一軒家)に戻ってきた。
 だが情報収集する人手が足りない。
 ゲドゥ以外に残った二名の代行者は情報収集のため出払っている。
 間者はあくまで各自所定の地点の周辺での活動でしか使う訳にはいかない。
 いくつもの修羅場を潜り抜けてきた代行者でもこの戦場の敵と遭遇した場合に無事退却出来るか怪しいのだ。
 代行者を務めた事がない牧師が連れてきた間者たちでは撤退することすらままなるまい。
 そしてこういう時に一番動いて欲しいサーヴァントに限っては休暇などとふざけた事を抜かし出す始末だった。

 一昨日の戦闘でライダーはランサーを仕留めてきたと言う。
 一週間前のランサーとの初戦での意趣返しが出来た事を鬱陶しい程に牧師に自慢したかと思えば、
 次は”祝杯だ。今日の俺様は余暇を愉しむ事にするが邪魔をするなよ”などと言って本当に休暇を取り出したのだ。
 それからライダーはどこかへ出掛けたかと思えば酒やら食料やらをどっさりと買い込んだ挙句、
 仕舞いには女までも何人か連れて帰ってきやがった。
 当然牧師はライダーに金銭など貸し与えてはいない。

 金はどうしたのか?と牧師が質問すれば。

 ”ふん、俺様の黄金率スキルの力にかかればこの位は造作もない!”

 などとよくわからないことを言い出し。
 ちなみにそれ以上の説明はなかった。
 その女をどうしたのか?と質問すれば。

 ”偉大な英雄というものには自然と女も集まるものよ!”

 などとよくわからないことを言い出し。
 ちなみに状況から推察すればナンパしてきたとしか考えられない。
 お前はやる気はあるのかと牧師が質問すれば。

 ”マンマンだろう見て判らぬか?”

 などと見当違いの方面のしかも下世話な話をし出すのだ。
 ちなみにあれが王宮式のジョークなのか本気なのかは牧師にはいまひとつ判断が付かなかった。


 まあとりあえすそんな頭の痛いパートナーと手を結びながらも牧師はこうして今も任務達成に向けて頑張っている。
 ところでライダーの休暇は腹立たしいが一応許可した。
 一見ふざけているとしか思えない行動だが、ライダーは真に無駄な事はしない筈の男だ。
 でなければ生前あれほどの手腕を発揮できる訳がない。
 休暇というのも言い換えれば体力魔力の回復のための行動であり、
 現にライダーはランサーに手酷いダメージを負わされていたのだ。
 通常のサーヴァントは数回戦闘したら嫌でも休まねばならない。
 だが逆を言えばそれは数回は連続して戦える意味でもあるが、それはあくまで大した損害が無い場合だ。
 外傷が無ければ戦闘で消費する魔力分しか消耗しないが外傷がある場合には傷の回復の為にさらに魔力が必要になる。
 だからこそ大事を取ったのだろう。と牧師は納得することにした。
 というよりはそう納得しないととてもじゃないがやってられない。
 しかし……。
 ライダーは聖杯への渇望は本物だ。
 奴は邪魔立てする男には例えマスターであろうとも容赦すまい。
 それだけは間違いなく、絶対の真実だ。



 そんな取りとめも無いことを考えながら牧師は陣地へと帰ってきた。
 割と立派な構えをした正門を跨ぐ。

「──────ん?」

 なんだ?

 いま。          強烈な。

       違和感が……?

 正門を通り過ぎた辺りで感じた強烈な違和感。
 自分の記憶と違うモノが存在していた、そんななんとも言えない感覚。
 牧師は嫌な予感を無視せずに今来た道を引き返して正門の前まで戻ってきた。
 よ~~~く観察する。
 そう観察するのは門の前に備え付けてある掌よりも大きい木の板だ。
 そうだ。割と立派なこの家の名を示す名札の部分だ。


 そこには 『羅目瀬巣 弐世』 と書かれていた─────。


「ラァァァイダーーーーーーーーーーーーー!!」
 雄叫びを上げ野獣のように家に駆け込む牧師。
 ズカズカと玄関を通過し、ライダーの私室へ急ぐ。
 そして勢いよくライダーの私室の襖を抉じ開けながら文句を言い放つ。
「おいライダー!!おい!聞きたいことがあ…………あ?」
 ライダーの私室を見た瞬間に牧師が固まってしまった。
「ん?なんだ騒々しい。情事の際だと言うのに騒がしい男め。
 もう少しムードというものを弁えろこのうつけめが」
 しかめっ面でそんなことをおほざきになられながらファラオ様は裸の女を下から突き上げていらっしゃられた。
 いくつもの甲高く甘い女の嬌声が室内に響いている。
 ライダーは左手であまり大きくない乳房を捏ね繰り回し、右手で別の女の秘所を愛撫し、腰は上に跨った女を突き上げ続けている。

「おい……貴様…なにをしている?」
 信じられんものを目撃したといった具合のなんとも言えない珍妙な掠れた声音で牧師がなんとか言葉を搾り出した。
 それ以上の言葉が出てこない。いろんな意味でありえない光景だ。
「なんだと…?キサマ、一体親に何を習ったのだ?そんなことも知らんのか?
 まったく愚かしいな牧師。いいか、これはな?
 今で言えば”せっくす”というもので男と女の正しい営みで男の一物を女の秘密の穴へだな───」
「誰が性交渉の概要を説明しろといった!!!?」
 ファラオの王家伝来のボケに憤怒する明王の形相で突っ込みを入れる牧師。
 しかしそれでも両手と腰は絶対に止めないファラオ様。
 パコパコ♪アンアン♪
「私が言っているのはマスターに黙って一体何をしているのかと聞いているんだ!!?」
「なんだ貴様?女に餓えているのか?だが断る。
 これは一度ファラオが手を付けたものである以上は俺様のものだ。
 例えお零れであろうと下僕の貴様如きにはやれんなぁ」
 さらに畳み込むようにしてボケるファラオ様。
 さらにボケ続けるとはエジプト王家式のジョーク侮りがたし。
「誰がそんなことを言った!!?その女たちはどうしたのかと聞いているんだ!!
 いやそれよりももっと大事な話がある!表の表札の名前はなんだ!?」
 ここにきてようやく当初の目的を思い出した牧師は猛然と詰め寄った。
「なんだ牧師?貴様”羅目瀬巣 弐世”より”雷田亜”の方が良かったのか?」
 ああそれはすまんな。
 とおまけに見当違いの謝り方をする僕らのファラオ様。
「そういうことを言っているのではない!!そうではないだろう!あれはどういうつもりだ!?」
「どういうつもりかだと?この屋敷はファラオたる俺様が住まい始めた時点で俺様のものだ。
 当然名札も俺様の名に変えるのが筋であり道理というものだろうが」
 これっぽっちも詫びれもせずに堂々と放言するファラオ様。
 その図太さは流石は王様だった。
「……お前はそういう屁理屈で他のファラオが建てた建造物もぶん獲ったのか?」
 実際ラメセス二世にはそういう逸話が残っていたりするのだ。
 他人が建てた遺跡に記されている名前の上からより深くラメセス二世と書き込むという子供染みた真似を。

「失礼なことをほざくな下郎。民の物は王の物、王の物は王の物。これは太古より続く常識だ!」
「どこの王侯貴族の常識だ!その前にあれはいつから”ああ”だった!?」
「ここに泊まった次の日には早速取り替えておいたぞ?俺様は仕事が早いファラオだからな」
 けろりと当然のことのように恐ろしく薄ら寒いことをファラオは仰った。
「なん、だと……?」
 一週間だと……?
 そんなバカな。
 一週間もあんな阿保らしい名札を世間に向けてこれでもかとばかりに曝していたというのか?
 ありえない。ありえない。
 正体は隠すものであるべき聖杯戦争で自分の名前を堂々と拠点の門前に立てておく莫迦が存在するか?
 否、いない。流石に無理だ。居るわけがない。
 仮に自分の真名を自分から名乗る大馬鹿は存在するかもしれない。
 だが自分の名前を、しかも自分たちのアジトの前に表示しておく超馬鹿は存在しようがない。
 全体的に奇人変人が多い英霊とはいえどもそこまで阿保集団ではあるまい。
 しかし一週間も気付かなかった自分たちも自分たちだ。
 いくらこの国の漢字に慣れていないからといってもこれはないだろう。
 流石に近所の住人や他のマスターなどに気付かれるだろう常識的に考えて。
「………」
 ライダーはメダパ2をとなえた!
 牧師はこんらんしている!

「……っとちょっと待て。そろそろ達する牧師少し黙ってろ」
 そういえば今も情事の最中だったライダーはそう言うや否や激しくスパートをかける。
 あまりの動きの速さにファラオの残像が見えるのはきっと気のせいだ。
 その雄雄しい姿はまるでスフィンクスのようである。
 無論皮肉だが。
 ………フィニッシュ。
 女たちは失神したのか荒い息のまま動かなくなった。
「ふぅ……。やはり駄目だなネフェルタリでなければ。
 どんな女を抱こうがいかな美女を侍らそうが胸の空虚は埋まらんか。
 まぁわかってはいたことだがな……」
 事が済むとライダーは自嘲気味にそんな言葉をボソリと呟いた。
 最愛なる女を失った時から出来た胸の空白。
 その空洞を埋める為に妻の死後幾人もの女達を囲い、妻にし、妾にし、抱き、子を生した。
 だが彼の空虚感は決して埋まることはなかった。
 しかしそれでもなお、わかっていながらもやってしまう自分に対する自嘲。
 だが牧師の耳には届かなかった。


「さてと、どこから説明してやればよいやら。
 とにかくまあこやつらは牧師が外出している間に招いた女共だ」
 ライダーは一旦霊体化すると、再び実体化した。
 すると既に衣装を身に纏った格好で登場し、あぐらをかいて牧師と対面する形になっていた。
「…………招いただと?どうやってだ?」
 名札の件は全て忘れることにして、げんなりとした様子で牧師が聞き返す。
 もはや名札のことは考えたら負けだ。
 見なかった知らなかったことにして目撃者がいないことを自分らの神に祈るしかない。
 可愛そうな事に強靭な精神力を持つ一線級の代行者が精神的疲労に陥っていた。
「なあに口説いた、とでもいうのか?貴様ら下賎の者の世間では」
 再び牧師の背中を物凄く嫌な予感が這う。
 この感じはもう間違いない。
 駄目だこいつ早く何とかしないと……というレベルでは済まない。
 駄目だこいつはもう手遅れだ。
「ちなみにどうやって口説いた?再現してみせてくれ……」
「よかろう。とくと見よ!これぞ王家式の技法だ!
 おい女たち光栄に思うがいいこの世で最も偉大なるファラオの褥の相手指名された喜ぶがいい!さあ来い!
 とまあこのようにナンパしてこの屋敷に連れてきただけの話よ、フハッハッハ」
「それは口説くとは言わん一般的に拉致と言うんだ愚か者っ!!!!」
 完全完璧に嫌な予感的中だった。
 やはりろくでもない事になっていた。
「なんだと?貴様にそんなことを言われたくは無いわ!
 牧師など女はその場で即犯す野獣であろうが!
 そもそも下賎の者に王の誘いに断る権利など存在せぬぞ!
 俺様が来いといったら地の果てからでも褥の相手に馳せ参じなければならんのだ!
 それが決まりであったのだぞっ!!」
「何千年前の話だそれは!!いやそれよりも何故ここに女などを連れてきたんだ!?
 ここは我々の拠点で何よりもまず隠し通さなければならない場所なんだとわかってないのか!!?」
 牧師はマスター的に至極当然な正論を振りかざすが王族たるライダーには無論通用しなかった。
 それどころか逆ギレされる始末だった。
「牧師!元を正せば貴様がしっかりしておらんから悪いのだ!!
 ファラオに対する持て成しが成ってないのだ持て成しがっ!
 供給魔力も多くない、上等な美酒も用意できん、上質な美食も用意できん、美女も用意できん、
 4用意できん、という無能っぷりを晒しておいて何様のつもりか!
 俺様はあくまで不足している魔力供給の一環としてこの女たちとまぐわったに過ぎん!
 ファラオを満足させるもてなしをしろ!
 繊維の薄い衣装を纏った美しい踊り子はどこだ!魅惑のベリーダンスは!?」
「嘘をつけお前の絶倫っぷりは伝説にさえ残るのもだろう!
 なにが美しいスケスケのベリーダンスな踊り子だ馬鹿馬鹿しい。
 お前はアレか?鏡張りの床の上で踊り子を踊らせて喜ぶ中東辺りのお下劣王侯貴族か?
 まったく、こんな阿保らしいことを考えたついた奴の顔を是非見てみたいものだな。
 あれは世紀の発明品だよ、鏡の反射を使って覗くとはな。
 さぞとんでもない頭脳の持ち主で、その上驚くほどの男前なのだろう」
 忌々しそうに皮肉と一緒に吐き捨てる牧師。
 本当、そんなえろいことを最初に思いついた奴の顔を是非拝見したいものだ。

「ハッ!ふはははは!ならばとっくりと拝むが良いわその伊達男の尊顔をな。
 それを考案し後の世に広めた偉人は、この俺様、だ!!
 ちなみに当時は鏡でなく大理石を鏡の様にピカピカに磨かせたものを床に使用した」

 スカートの中が覗きたくてやった、今も反省などしていない!
 とばかりに親指で自分を指し、胸を張る大柄の助平男。
 白い歯が光って見える。
 しかもなぜかこの男は物凄く得意気だった。
「──────よりにもよって世紀の変態はお前かライダー……」
 頭を抱えて座り込む牧師。
 このエロ大王と契約している自分が酷く情けなくなってきた。

「もういい、疲れた…好きにしろ」
 心底疲れた声で牧師がライダーの私室から立ち去ろうとする。
 もうどうにでもしろとばかりの投げやりな態度である。
 しかしそんな寂しい牧師の背中に呆れた声でライダーが声を投げた。
「やれやれ全くせっかちな奴め。安心しろ。
 十分魔力を戴いたらこの女たちには暗示をかけて記憶を消しておいてやる」
「なに?」
 突然意味不明なことをライダーから言われた。
 思わずライダーの方へ振り返る牧師。
「聞こえなかったのか?魔力を貰って用が済んだら暗示をかけて記憶を消すと言ったのだ」
 再度改めてライダーはそういった。
 いま確かに暗示を使ってと口にした。
「ライダーお前……魔術なんか使えるのか?」
「おいおい牧師、英雄とは剣と魔術に優れた人間の総称でもあるのだぞ?
 本当に全く何の魔術を使えない英雄の方が逆に珍しいくらいだ」
 意外そうな顔をする牧師にライダーは呆れたとばかりに失笑している。
「しかしお前のスキルには───」
 ライダーの能力に魔術の項目はない。
「スキルになるほどのレベルではないから、ただそれだけの話だ。
 俺様は暗示程度の初歩の初歩レベルの魔術なら容易く使えるし、魔術に関する知識も当然ある。
 地脈の流れを調べたりも出来るし、星読みも容易いし、設置式の結界も張れる。
 ただ即席の簡易結界は張れんな。どうもあれは相性が俺様の魔術系統的に悪いらしい。
 あとは多くの民衆へのラーの神託を聞かせる為の遠話や、意図的に後光を射したりする魔術も使えるぞ?」
 そう言ってスラスラと己が使える魔術をいくつか挙げていくライダー。
 どれもかなり微妙な魔術ばかりだが確かにどれもちゃんとした魔術であるのは間違いないようだ。
「技能の問題で実践は出来んが知識の面だけで言えばお前たち魔術師共とそう変わらん水準の魔道の知識を持っている。
 そもそも牧師、お前も秘蹟だったか?とにかく一応魔術を使えるだろうが。
 牧師如きにも出来る程度のものをファラオである俺様に出来ん筈がなかろう、哂わせてくれる」
「……なぜ使えるんだ?」
 それでもいまいち納得いかない牧師は自分が思った疑問をそのまま返してみた。
「そんなもの、学ぶからに決まっているであろうが」
 ライダーから即答で返ってきた。
「学ぶ?王が魔術をか?」
「左様、いいか?かつてはむしろ魔術とは民を束ねる王者こそが学ぶべきものだったのだぞ?
 そもそも神代などの時代は魔術や呪術的な性格が強い。
 地上にまだ神が残っていた土地もあった位だからな。
 神々との対話や祈りや供物を捧げるのにも魔術儀式的なものが必要になるし、
 物事の吉兆を占ったり、魔を祓ったり退治するのにも魔術的な力が必要になる。
 ならば民の上に立つ者に全く魔道の知識や技術が全く無いのではそういう事態になった時に話になるまい?」
「……それは、まあそうだな」
 ライダーの言葉に素直に同意する牧師。
 魔を相手にする悪魔殺しの代行者だからこそわかる今の言葉の意味。
 奴らのような神秘的なモノには神秘的なモノで太刀打ちするしかない。
 そのためには神秘に通ずる知識が必要となってくる。
 つまりライダーが今言っているのはそういうことなのだろう。

「英雄の伝説を思い返してみろ。
 必ずといって良いほどに宮廷魔術師や魔導師の師などの影が存在するだろう?
 いつの時代にも王や英雄の傍にそういう助言役や知恵袋になる呪い師が存在するものなのだ。
 たとえば彼の騎士王にもマーリンという魔術師が居ただろう。
 クーフーリンのような英傑にもスカサハという槍と魔術の師が存在した。
 ギリシャにはケイローンという賢者がいた。
 そういった連中が俺様たち英雄に魔術の指南をするわけだ。後は本人の資質次第。
 彼のクランの猛犬のように武魔両道を修められる者もいれば、
 俺様のように魔術使い程度に使える者もいる、またギリシャの英雄のように素質の問題で殆ど使えん者もいる。
 しかしまあ少なくとも一国の王ならば魔術はもはや必須科目とさえ言っても良いぞ?
 魔術の行使は出来ずとも魔道の知識は持っておくべきだからな」
「だが全く使えない奴もいるのではないか?セイバーやランサーなどは使える様には見えなかったが」
 牧師はさらに質問を続ける。
 あの騎士や侍は魔術を使うようには見えなかったし実際使ってもいなかった。
 これはどうなのだろうか?
「そういう輩は実戦使用レベルに達してないか、そもそも使用を必要としていない、などの理由で”使えない様に見える”だけだ。
 魔力を持っている以上は術式さえ知っていれば何らかの神秘に手が届く。あるのは神秘の力の強弱だけだ。
 例えばだがどんな詰まらん効果の魔除けの呪いでもそれが魔力を使用して使われた以上はそれはれっきとした魔術だろう。
 技能や才の差でその効力に差が出ているだけに過ぎん。
 あのサムライにしても肉体変態らしき通常では考えられない業を使っていたぞ?
 恐らくそれが奴の魔術に当たるのだろうよ。
 牧師だってそうさ。秘蹟などと抜かしておるがやっている事は神秘へ至る道であり、それは即ち魔道だ」
「……ならつまり、もしかすると他のサーヴァント連中も何らかの魔術を使うかもしれんと?」
「まぁそういうことだな、高を括って油断せんに越した事は無い。
 つまり俺様が何が言いたいかというとだ。
 要するにお前たちマスターが持つ透視能力で視える性能だけがその英霊の力の全てではないという話だ。
 牧師たちのその能力は重要度の高いスキルや一定以上のランクがあるものから良く視えるようだからな。
 どうでもよさそうなものほどよく注意してみないと視えん。
 牧師、試しに今の俺様をよぉく注意して視てみるがいい魔術に関する事柄が視える筈だ」
 ゲドゥはライダーに促されるままによぉく注意してライダーを透視してみた。
 ……確かによぉぉぉぉぉおく視ればある。
 普通に視たんではまず気付かない位に小さく魔術に関する事柄が脳裏に視えた。
「………これほど視にくいとはな…これではどうしようもないぞ?」
 これを敵との戦闘中にやるのは結構大変な上に見返りはかなり微妙スキルが知れるという地味な裏技のような透視法。
 さすがにこれは実用性に問題が有るぞと文句を言おうとしたところで気絶していた女たちが意識を取り戻し始めていた。

「ん……ぅん、ぅ」
「────ムッ!?
 さあこれで長話は終わりだ!では速やかに我が御前より失せろ牧師」
「はぁ……わかったいいだろう。では事が済み次第暗示をかけて記憶を───」
「貴様如きに言われるまでも無いわ。さ早く!御楽しみの続きが出来ぬではないかシッシッ!」
 いつの間にか再び全裸となっているファラオ。

 後世に名を刻むエロスの大王は怒髪天つく股間のスーパーマ(ファ)ラオを振り回しながら牧師に退室を命じるのだった。

 いっそその格好のまま死んでしまえ。と牧師は自分たちの神に馬鹿の恥かしい死を切に祈ってみた。







──────Sabers Side──────

 深夜。
 寺の住職や坊主たちは既に寝静まっている。
 それは冬木の町も同様だ。

 こうして今宵もマスターたちの時間が始まった。


「よしっと準備完了、セイバーそっちの状態は?」
 部屋から出てきた綾香がセイバーに声をかける。
 和服から洋服に着替え終え、魔術品をポケットに仕舞って準備完了。
 残るは相方の現在の状態を確認すればいつでもいける。
 綾香の声に反応して実体化する騎士。
 その表情は今朝とは違い引き締まったものだ。
「ああ。一昨日バーサーカーにやられた傷はなんとか塞いだから体力は問題ない。
 オレの魔力はいくらか消耗してるけどそれでもあと一、二回は戦闘出来るだけの残量がある。
 そして体の傷を治すのに消費したデュランダルの魔力も昨日丸一日何もしなかったおかげで元通りだ」
 腰に吊るした聖剣を指し示して頷いた。
「うん結構。じゃあ町へ出ることにしましょう」
「ああ!」
 二人は寝静まった龍洞寺を後にした。


「ところでアヤカ。君は昼間に何をしてたんだ?」
 馬鹿長い寺への階段を下っている最中に、暇なのかセイバーが綾香に話しかけて来た。
 話題の種は昼間彼のマスターがやっていた怪しげな行為だ。
「昼間……?ああ魔術儀式を執り行なってコレを作ってただけだけど?」
 綾香はポケットからへんちくりんな物体を取り出してセイバーの方へ見せた。
 霊体セイバーはそれをしげしげと見詰める。
 それは小さくて丸っこい物体でそして色が黒っぽい。
「………ウサギのフン?」
 にセイバーは見えたらしい。
「そんな訳ないじゃない!これはウィッチクラフトでこさえた使い捨ての魔術品よ!
 なんでわたしがウサギのフンなんか持ち歩かなくちゃいけないのよ!?バッカじゃないのアンタ!?」
 キシャーっと牙を剥いてセイバーを睨め付ける綾香。
 いくらなんでも女の子に失礼すぎるぞこいつめ。
「いやだってさー見た目が。ところでウィッチクラフトってのは?」
 セイバーはセイバーでアハハと笑って詫びれた様子無し。
 おまけにさり気なく話題を転換してきやがった。
 侮り難し天然騎士。文句なんぞ屁の河童。
 まるで暖簾に腕押しをやってるようだ。
 疲れた様子で綾香はセイバーの質問に答える。
「ふぅ、もういいわ。ウィッチクラフトってのは陰性の魔術よ。
 丑の刻参りとか生贄を~みたいな一般で言う魔女がやってるあんなのだと思えばいいわ。
 これはまあ……呪いとしてそんなに効力も無いんだけど、なにも無いよりは有った方が良いじゃない…」
 最後辺りの台詞をムスッとしてボソボソ言う辺りが実に彼女らしい。
「へぇ、だから山の中で魔法陣書いてその中でずっと祈ってたのか?大変だな」
 しかし隣の男には最後の部分は聞こえていないようで、さぞ感心したように言うセイバー。
 眉を顰める綾香。
 なんだろうかこのまるで素人のような反応は?
「もしかしてセイバーって魔術を習ったこと無いの?」
 なんか素で感心しているように見えるセイバーに綾香は聞くだけ聞いてくることにした。
 戦闘に関わる情報だ。聞いても無駄にはならないだろう。
「そりゃそうだ。魔術なんか使うわけが無いだろう?オレはキリスト教の騎士だぞ?」
 するとやはり案の定の回答が返ってきた。
「でも教会の騎士である以上は悪魔や魔女なんかとも戦うわけでしょ?そんな時はどうしてたのよ?
 魔道に対する知識が全然無しじゃ大変だったんじゃない?」
 というよりも魔を相手にするのに魔道の知識が全く無しでは到底太刀打ち出来るとは思えない。
「その辺については問題ないぞ。
 オレ達は位の高い司教たちから悪魔や魔女たちと戦う時に必要になる秘蹟と言うものを教わるんだ。
 聖水の作り方とか魔除けのおまじないとか、護符のお守りの作成とかな。
 そんであとは神様や大天使たちのご加護がオレ達騎士を護ってくれるのさ!」
「え、それだけ!?敵の魔術を封殺したり、術式を解体したりは?」
「なんだそれ?」
 ニコニコと(霊体だけど)言葉を返してくる騎士。
「は?」
「え?」
 頭に?マークが浮かんだ二人が顔を見合わせる。
「……………………」
 そして当然のように訪れた沈黙。
 別に気まずくは無い筈なのだが何故か気まずい。
 沈黙を破ったのは綾香が先だった。
「えーとつまりなに?じゃあセイバーは戦闘中には魔術…じゃなかったその秘蹟ってのは使わないの?」
「おう使わない。普通そういうのは戦う前にするものだぞ?」
 ちなみにもう魔除けの呪いと体の清めと天への祈りは済ませてある、という台詞でセイバーは締めた。
「戦いの方法がわたしたちとは完全に違うってことか。
 その辺もわたしの方で注意しとかないと駄目みたいね」
「なにをブツブツ言ってるんだアヤカ?」
「なんでもないわ。ところでさわたしからも一つ質問」
「いいぞ、なんだアヤカ?」
 快く承諾するセイバー。
 それに対して綾香は心なしか緊張しているようにも見える。
 なにか重要なことを質問する気なのだろうか?
 ご丁寧に咳払いまでしていた。

「じゃあ遠慮なく………あのさデュランダルってさ」
 上目遣いで窺っている綾香の様子はどことなく可愛げがある。
「うん」
 相変わらずニコニコした顔で騎士が相槌を打つ。
 自分の剣の名前が出たから余計に嬉しいのだろう。
「───結構微妙な能力よね……?」
 が言ってることは全然可愛げが無かった。
「─────な!!!!!?」
 セイバーの割と整った顔が引き攣っている。
「なんだとぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーうっ!!!!」
 そして続いてセイバーの大絶叫が宵の世界に木霊した。
 とは言っても霊体化しているサーヴァントの声はマスター以外には聞こえはしないのだが。
「ちょ!うるさいわよセイバー!静かにしてよ!?」
 手で耳を庇って注意するマスター。
 だがサーヴァントの方はそんなこと全く聞いていない様子である。
「お前が悪いからじゃないか!それはいくらなんでも失礼極まりないぞアヤカ!
 英雄の相棒を侮辱する発言は即ち英雄そのものを侮辱するにも等しい!
 もしアヤカが女子でなかったなら一発と言わず三発はぶん殴ってるくらいの暴言だー!!」
 天まで届けこの怒りとばかりに怒る騎士。
 どうやら綾香の問題発言はよっぽどのセイバーの逆鱗に触れたらしい。
「ごめん、悪かったわよ、ごめんさない!でも思ったことを口にしただけじゃない」
「言って良い事と悪い事があるってオリヴィエも言ってたぞっ!!……何故かオレに対してだけどな」
「それはアンタの問題行動が多過ぎただけ!」
 縄張りを争い合う深夜の猫の如く唸り睨み合う二人。
 冬の静かな夜にしばらく不協和音が残響するのだった。


 寺の階段を降り切り町の中心部へと歩を向けている最中。
「よぅしいいさ、よぉくわかった。マスターがそう思ってるんならしょうがない」
 さっきの件をまだ引き摺っているのかセイバーの声にはどことなく迫力があった。
「な、なによまだ怒ってるわけ?ちゃんと謝ったじゃない。
 そりゃ確かに知名度の割には派手さはないけど、良い武器よセイバーの宝具は」
 などと言いながらもフォローになってないフォローをする綾香も綾香だった。
 しかしセイバーは今の綾香の発言を全く気にした様子が無い。
 それどころか何故か元気満々である。
「あそこまで言われたからにはマスターにオレの聖剣の真髄を見せてやろうじゃないかっ」
「あれ怒ってないの?」
 一応綾香も確認を取ってはいるが、セイバーの様子はどの角度で観ても怒っているようには見えない。
 むしろ決意に燃えていると言った方がいいかもしれないほどだ。
「オレは騎士だ。陰湿なのは騎士あるまじき行為。
 君主がそういうのならそうじゃないところを見せ付けて前言を撤回させるのが正しい騎士のやり方だ!」
 そう言うが否やセイバーはやるぞー!エイエイオー!と気炎まで上げている。
 さっきまであれだけ遺憾の意を表していた男の姿とは思えない変貌っぷりにしばし呆然とする綾香。
 しかし彼女も知っている筈だ。己の目の前にいる騎士の性格を。
 純粋で単純明快、無邪気で天真爛漫な猪突猛進の騎士。
 それがローランなのだ。
 彼はサッパリした性格であるためネチネチとした行動はまず取らない。
 気に入らないのなら実力(拳骨)で黙らせるのが彼の生前からのやり方なのだから。

「へぇじゃあ魅せてくれるわけ?貴方の言うデュランダルの凄さってやつを?」
「おう君の網膜に焼き付く位の凄いやつを魅せてやろう。
 まぁそれも聖剣の本領を発揮するに値する敵とぶつかる機会があれば、だけどな」

 湧き立つ自信を引っ提げてセイバーチームはいざ進む。
 己が真髄を発揮するに値する敵を求めて。







──────Riders Side──────

「ライダー?ライダー?居ないのか?」
 牧師がライダーの名を呼ぶ。
 だが幾ら呼んでもライダーからの返事が無い。
「ライダー!?」
 一際大きな声でライダーを呼ぶ。
「ゲドゥ牧師、ライダーならば先ほど外へ出てゆきましたが?」
 すると廊下から生き残った代行者の一人が牧師に声をかけてきた。
「なに?あのバカがどこへ行ったか知っているのか?」
「なんでも、ゲーム進展に必要な仕込みを進めて来る。だとかなんとか。
 私は今し方ヤツからゲドゥ牧師への言伝を頼まれました」
「相変わらず訳が判らん奴だ……。昼間あれだけ女遊びをしていたというのに」
 頭を手で抑えて嘆息する牧師。
 真面目なのか不真面目なのか、やる気が有るのか無いのか掴めない。
「あの、ゲドゥ牧師」
「なんだ?」
「このままライダーと手を結んでいて良いのですか?」
 冷たい声で代行者が牧師へ問う。
 この代行者は明らかにライダーに対して不信感を抱いている。
「構わん、外身はアレだが中身は使える。しばらくはこのままで行くつもりだ」
「……了解」
 短くそう言って下がる代行者。
 上官がそう決めた以上は口を挟まずに従う。
 聖堂教会の構成員はそういう規律もしっかりしていた。
「とは言ったが……まったく、面倒臭いサーヴァントだ」
 暗い室内で一人、忌々しそうに呟いた。







──────Archers Side──────

 夜もすっかり更けた頃合い。
 間桐はまだ就寝せずにいつものように各拠点に配置した使い魔による監視を行なっていた。
 彼らにとっての活動時間はこれからである。
「アーチャーちょっとこい」
 自らの下僕の名を呼ぶ。
 監視していた地点のうちの一つにたった今反応があったのだ。
 その監視地点の一つとは勿論現在地が判明している遠坂邸である。
「なんじゃいマスター?先に言うておくが小言なら聞かんぞ面倒じゃからな」
 もう如何にも気だるそうな口調でアーチャーの気配が間桐の傍までやってきた。
「聖杯戦争の話だ阿呆。たった今遠坂が家から出た。
 お前ちょっと行って遠坂の動向を探って来い」
 間桐は愛想もなく放る様に命令を下す。
「ああん?それはいいが貴様はどうするんじゃ?」
 素っ気無く命令してくるマスターに今度はサーヴァントが言葉を返す番だ。
「俺は今回はこのままここで待機だ。そもそも戦闘目的で行く訳じゃない。
 お前監視とかそういうのは結構得意だろう?」
「そりゃまぁ視力は良い方じゃしな。
 遠くから監視出来る事が得意と言えるのならま~得意なんだろうなー」
 さもどうでも良さ気に間桐の言葉に同意するアーチャー。
「じゃあそういうわけだから行って来い」
 間桐は再度アーチャーに指令を出した。
 しかし命令を受けたアーチャーはかなり嫌そうにしているのが姿見えずとも気配で判る。
「………なんか納得いかんぞい」 
「喧しい!いいからマスターが行けと言ってるんだからさっさと行って来い!
 その後の状況次第で追って指示を出す!」
 強い語調で駄々を捏ねる駄犬を外へ追いやる。
 不平を洩らしならがダラダラとアーチャーが移動を開始し始めた。
「あいあい。まったく面倒臭いの~様子見じゃなかったんかい」
「だから様子見してるんだろう」
「ワシの予感が面倒なことになると言っとるんじゃ……あ”~~」
 心底気だるそうに野太い呻き声を垂れ流しながらアーチャーの気配が洋館から消える。

「ったくあいつは……少しは他のサーヴァントを見習えというんだ」
 他所様の事情知らぬが吉。
 愚痴を一人零す間桐だった。







──────Fighters Side──────

 凍てついた夜の町を徘徊する影が一つ。
 周囲には出歩くものなど居るわけも無く。
 空に佇む月のみがその人影の姿を捉えている。
 影は勿論遠坂その人である。
 傍らには影のように霊体となったファイターが付き従っている。
 今宵の彼らの目的は敵との邂逅。
 恐らく変動しているであろう聖杯戦争の現在状況を確認するため彼らは夜を闊歩する。


 現在、一通り闊歩し終えた二人は周りの家よりも背の高い民家の屋根に陣取っている。
「しかしよいのか遠坂殿?」
「構わん。向こうから手を出して来るのならば逆に好都合。それに、相手の大まかな予想は付く」
 ファイターが今言っているのは邸を出る際の一件についてであった。
 遠坂は邸を出た辺りで何者かの気配を察知したが敢えて放っておく事に決めた。
 彼曰く、使い魔を使い遠坂邸を監視している相手は恐らく間桐だ、という。
 なんでも遠坂邸の正確な所在地を知っているマスターは間桐とアインツベルン陣営くらいのもので、
 おまけに御三家の拠点を監視するという発想は今回初の飛び入り参加である外様マスターでは中々思い付かないとかなんとか。
「遠坂殿がそういうのならば私は別にいいのだが」
 遠坂の掌からバサバサと羽音を奏でて何羽目かの翡翠の鳥が夜空へ舞い上がっていく。
 さてこれで何羽目だったか。
 屋根に上ってから既に何羽もの監視用の使い魔を遠坂は放っている。
「もしもの場合は君の働きに期待している」
「その辺りは任せて貰おう」


 時間の経過と共に夜が色濃くなってゆく───。


「ん?あれは……?」
 使い魔と視覚を共有するために目蓋を閉じたままの格好で何故か眉を顰める遠坂。
 なにか不審なものが見つかったのだろうか?
「なにやら見つかったのか遠坂殿?」
 背後にいる主の様子を窺うようにファイターが声をかけた。
「いやランサーのマスターが出歩いている」
「ランサーの?」
 ピクリとファイターが反応した。



───────Interlude ───────

 その姿を捉えていたのは遠坂だけではなかった。
「おいマスター」
 魔術で共有した感覚を利用してアーチャーが遠く離れたマスターを呼び出している。
 直ぐ様間桐は応答してきた。
 弓兵は遠坂がいる場所よりもさらに数百メートル後方の地点からその人影を捉えていた。
「ちゃんと監視しとるわい、このワカメ猿め。
 いやな、お前さんが言った通りにトオサカを監視しておってその際に、つか丁度ついさっき見つけたんじゃがな」
 まるで独り言を言っているようだが勿論独り言ではない。
 今もきちんとマスターである間桐と会話している。
 無論、両者の間で文句と罵倒が交じり合う仲睦まじい内容でだ。
「いやぁそれがな。ランサーのマスターだったおなごが出歩いとるんだが……お前さんこれどう思う?」
 アーチャーは少し困惑した様子でマスターの意見を聞いている。
”それ本当か?!”
「いっぺん顔は見とるから間違いはない。ありゃランサーのマスターじゃ。
 それにランサーは前回の戦闘で消えとる。これは確実だなんせワシがこの眼で消滅シーンを確認しとる」
 ”ならなんでだ?お前セイバーはバーサーカーの魔剣を喰らったと報告したよな!?”
 間桐も間桐でよく判らない状況に少し困惑気味だ。
「ああ間違いないわい。セイバーもボロボロの瀕死だった筈じゃぞ?」
 だからこそアーチャーはセイバーを捨て置いたのだ。
 あの傷ならまず次の日までもつまいと踏んで。
 ”じゃあ誰を連れてるんだあの女は?”
「まさか、生き延びとるのか……セイバー?いやまさか……そんなはずは………」
 有り得ないとばかりに何度も首を振るアーチャー。
 あの傷は重傷ではない、致命傷だった。
 致命傷を受けているにも関わらず生き延びるなどあってはならない。
 しかしそれならば何故あの少女は今あそこにいる?
 自分はちゃんと念を押した。
 わざと見逃された事などあの娘も当然理解している筈だ。
 まさかサーヴァント無しでも戦いを続けるつもりなのか?
 いやそれも有り得ない。
 なまじ事情を知っている分アーチャーの混乱は増していく。

 ”おいアーチャー!その女にまだ手を出すな!絶対に手を出すなよ!!”
 困惑した思考を振り切った間桐が大きな声で命令を捲し立ててくる。
「わかっているしばし様子を見る。トオサカが手を出す事を願うぞ」
 舌で唇をペロリと舐めて観戦に徹する事に決め込む。
 先にあの場から撤退した遠坂陣営はまだランサーのマスターの事情を知らぬ筈だ。
 あの少女が一体何を連れているかも知らずに手を出す可能性が高い。
 さあ、手を出せトオサカ。あの娘が隠している手札をワシの前に曝させろ。




───────Interlude  out───────


「ランサーの?」
 ファイターが興味津々といった具合に遠坂の方へ歩み寄ってくる。
「あちらの方角の、龍洞寺へ通じる道沿いの途中の、そうその辺りだ。見えるか?」
 遠坂は指で正確な方角と、目印になるポイントを示しながらファイターにその位置を伝える。
 実体化したファイターが眼を凝らしてその人影をじっと凝視する。
 細部までハッキリとは見取れないが背丈や髪型それに雰囲気は確かにランサーのマスターに酷似していた。
「確かにランサーのマスターのようだ。どうするゆくのか遠坂殿?」
 視線はランサーのマスターに向けたままファイターが隣にいる遠坂を促がす。
 ファイターは内心ではランサーを発見出来たことを僥倖だと感じていた。
 セイバーが惜しくもリタイヤしてしまった以上はせめてランサーとの決着はしっかり付けたい。
 今彼らを発見出来たのはその決着をなるべく早めに付けられる絶好の機会だった。
 しかしどんな時でもまず第一にマスターの意向に耳を傾けるのがファイターの美点である。
 そんなファイターの様子を横目で観察する遠坂。
 胸に秘めているファイターの思惑を完璧に見透かしマスターは命令を下す。
「良い機会だ、ランサーを潰せファイター」
「心得たマスター」
 口元を吊り上げ獰猛に笑う。
 そして即座に遠坂の腰を太い片腕でしっかりと抱え、一気に空へ躍り出た。
 着地、そしてまた跳躍。
 次々に屋根の上を移動していく。
 二人とも小細工抜きで真っ向から仕掛ける算段だ。
 徐々に詰まって行く強敵との距離。

 さあ前回お預けなった勝負、今こそつけようではないか!











──────V&F Side──────

 助けろ!ウェイバー教授!第十五回

V「などと半端に良い処で次回に持ち越してみたりする」
F「鬼畜ですねー」
V「そうは言うがこの後の尺が大き過ぎたのだから仕方が無い」
槍「羨ましい……羨まし過ぎるでござるよ!拙者もセイバーやファイターとの尋常な勝負をぉぉ!」
V「まあ落ち着けランサー。此処が今の君の居場所だ」
F「ウェルカム!マイファミリー!」
槍「謹んで遠慮するでござるよ」
V「さて本日のお客さんは君だ!
  ソフィアリにミンチにされるという悲惨なデッドエンドを迎えた青年村人A君だ」
槍「名前からしてもうなんというかでござるな…」
F「ちなみに某村人A(アンリ青年)のAではありませんので念のため!」
V「村人Bでも町人Zでも好きなので構わん」
F「では早速先生ー!彼が生き残るにはどう立ち回るべきだったのでしょうかっ!?」
V「ソフィアリの魔術師然とした態度を描きたかったから生存ルートは用意していない、以上!」
F「簡潔なご意見ありがとう御座いました」
V「原作の魔術師陣営は士郎や凛を初め主人公陣営の魔術師が多いだから魔術師の掟とか使えないからな」
槍「それに対してASのマスター連中は主人公陣営も何も無いから好きな様に動かせる訳であるな?」
V「そういうことだな。見ろソフィアリが見事に非情な魔術師に見えてくるではないか!」
F「というわけで先生のヒントコーナーでしたー」
A「あれれオラ一言も喋ってないよ!?」


V「私からはもう言うべきことも特に無いのだがお前たちはまだ何かあるかね?」
F「はーい!俺一つあります!」
V「じゃあフラット。だがしょうもない話だったら私は無視する」
F「ああ先生そんな殺生なぁ!真面目ですよ真面目!
  えとですねアインツベルンさんにお花添えたのって安陽王さんでいいんですか?」
V「ああ奴の仕業だ」
F「やっぱりそうですか~でもなんでまた?
  あの人って忠勝さんみたいに討ち取った敵の為に念仏を唱える様な人じゃ無いでしょう?」
V「それはアインツベルンと侍女が美人だったからだ」
槍「それが何の関係が?」
V「以前アーチャーが二人を殺すのは勿体無いと惜しんでたのは本音も本音だ。
  アインツベルンたちを前世で己の嫁さん候補にしてた位だからな」
槍「…………聖杯戦争中に何を考えているんでござるかあの男?」
V「あれも大雑把で豪快な性質の男だからな。美人に対しては甘くなる。
  間桐邸に連れ帰らなかったのもその為だろう。
  亡骸に花を添えたのも美女に対するアーチャー流の礼儀だったと言うわけだ」
F「意外な一面が……にしてもマスターは美人のねえちゃんが良かったって言葉は本気も本気だったんですねえ」
槍「ではでは拙者も一つ言いたい事があるでござるぞ!」
V「ランサーもか?よかろう言ってみてくれ」
槍「ならば遠慮なく。きっと多くの人間が思った筈でござろう。
  それにしてもライダーが酷い、酷すぎるでござる……!」
V「うん私も心からそう思う。
  なにせふざけている時とシリアスな時との温度差が開き過ぎてるからな。
  ……私のせいじゃないぞ?」
F「流石はエジプト最強のファラオ様!
  英雄王や征服王でさえやらないようなアホな真似を平気でやってのけるなんてそこに痺れる憧れるぅ!
  あいえすいません嘘です。痺れはしますが憧れません」
V「あれは私のせいじゃない私のせいじゃないぞ!」
F「そうですあれはファラオ様が勝手にやったことです!
  大体生前に盗人中坊エロ大王な事ばっかりするのが悪いんですよ!
  何なんですかあの弄ってくれと言わんばかりの面白要素の数々は!?」
槍「拙者はあんなのに負けたでござるか…orz」
V「………少しだけ君に同情するぞランサー」

V「さて今回はまあ前日の各チームの行動のおさらいと、
  久しぶりの全チームの顔見せに使ったため相変わらず尺に収まらなかった。
  特に雨生は出せる時に出してあげないと出番が少ないからな」
F「ライダーで一杯尺取ったのが原因だ───ひでぶっ」
V「あれは不可抗力だ」
槍「教授殿、不可抗力の意味を取り間違えておらぬか?」
V「さーてと今回の教訓だが。
  ライダーが言う様にサーヴァントはどんな隠しスキルを持ってるか判ったものではない。
  精々油断しないことだ」
F「先生!ぶっちゃけ隠しスキルなんてあるんですか!?それに魔術云々の話だって!」
V「いや私もライダーと同様にああ解釈する。
  まずFateSNでエミヤが英雄とは剣と魔術に優れた者と言っちゃってるからな。
  技能は無くとも知識は絶対に持ってると考える。イスカンダルすらも錬金術がどういうものか知ってた。
  それに実際魔術師ではないアルトリアは風王結界という立派過ぎる魔術を一つだが行使出来る。
  ハサンも少なくとも風避けの呪いという魔術を一つ使用できる。
  性能の良し悪しはあろうがサーヴァントにはそういう心得がある可能性は十分にあると私は考えている。
  特にラメセスは実際アブシンベル大神殿を普通ではないやり方で作り上げているからな」
F「アブシンベル大神殿ってあれですよね?」
V「そうだ。自分の誕生日と即位した日の二日だけ太陽の光が神殿奥の神像を照らすのだが、
  その中で冥神プタハだけを除いた三体を照らすという尋常ではない真似をやってのけている」
槍「つまり型月風に解釈すれば魔術の力を使った設計によるものだと出来る訳でござるな?」
V「と作者は解釈した」
V「さて話を戻すがアルトリアは泉の精霊の加護で水面を走れるという隠しスキルを持っている」
F「そういえば何故かこのスキルってステータスには載ってませんね」
V「恐らく重要性や必要性が低いんだろうさ。
  実際問題としてあのスキルがSN内で使われる機会は無いからな。
  出番が無いのなら紹介の仕様が無い」
V「よってそういう普段は意識しないような微妙なスキルに気付かずに
  彼女と水辺で戦ったりなんかすると痛い目に遭う可能性があるから一応気を付けるようにという話でした」
F「はぁなんて奥が深いんだろうサーヴァントって!
  やっぱり俺も聖杯戦争に参加してサーヴァントと友達に…!」
V「では今回はここまでだ」
槍「ガチンコ、劇震走る第十六話、待て次回!」
F「一体、どうなってしまうのかっ!?」
V「フラット、悪いことは言わんからそのやらせ系バラエティ番組のナレーション風な言い方は止めておき給え」
F「はーい」