何とか忠勝から離脱したスキュラだったが、マスターの元へは戻れなかった。
あてどもなく夜の街をさまよう彼女。この体を治したい。だが戦いたくもない。
迷いを振り切れないまま彼女は士郎に保護される。

宝具の力で一見普通の人間と変わらない彼女は、普通の人間として士郎のもとで数日を過ごす。
足りない魔力は、悪いと思ったが彼が眠ったあと血液を通してパスを作らせてもらった。
それによって士郎の魔術は上達するが、どこか不吉な影が忍び寄ってくるのを敏感に感じ取っていた。

激化する聖杯戦争。
安陽王はベオウルフに討たれた。ローランは公主に敗北し、その公主もラメサス二世の前に倒れた。

――そして運命の刻が訪れる。
忠勝の衛宮邸襲撃。
迫り来る白刃から士郎を守るためスキュラは呪われた魔獣を解き放つ……


「士郎さん……わたし、化物なんです。……化物、なんです、よ……」
「そんなこと関係ない。スキュラは俺の大事な家族だ」
怪物と化して後、初めて抱きしめられた彼女はいつか以来となる涙を流す。


「お前は……ランサー!!」
「安心しろ衛宮士郎。ランサーにはこれ以上手は出させぬよ。君のサーヴァントが人を襲わぬ限り、な」
「……どういうことだ、言峰」
抑えきれない衝動。魔力を求め、血を啜ろうと蠢く異形。
少年に突きつけられる命題。『正義の味方』として戦うのか。『衛宮士郎』として守るのか。


「知ってましたか、先輩。スキュラちゃんを召喚したのは私なんですよ」
「マ、スター……」
「私と同じで汚れているのに、先輩を汚しちゃうのに、それでもアサシンは先輩の側にいるのね……」
「桜……」
「やっちゃえ、ライダー。灰一つ残さないで」
「ふははははっっ! 偉大なるファラオたる私に殺されること、誇りに思うがいいっ!」
親しいものの裏切り。猛威を振るう太陽神の戦車。

「ごめんなさい。士郎さん。あなたを守るために、私……本当の化物になります」
抗うことを止める彼女。愛しい人を守るため、今こそ伝承に詠われる真の姿を……。


「少年、君は弱い。君では彼女は救えない」
「……ッ! それでも、それでも俺はあの子を助けたいんだっ!!」
「君にはその力はない。……だが、それがどうした」
「……えっ?」
「力がないのなら強くなればいい。足りなければ更に強くなればいい。一歩一歩を積み重ねれば、必ずや遥か果てでさえ至ることができる」
「セイバー……」
「着いて来い。君の愛する彼女が待っている。君を愛する彼女が待っている。この『孤高王』ベイオウルフ、及ばずながら力になろう」
……ああ、今はあなたに及ばない。衛宮士郎の全てをかけてもあの背中には至れない。
だが、それがどうした。
あの背中に追いつく。追い抜く。どれだけの時間がかかろうと、届かぬ果ては決してない。
彼女と一緒にあの『英雄(おとこ)』がいる遥か高みへと――。



「……あ。――うそ。だって、わたし」
「迎えに来たよ。さ、一緒に帰ろう」