乾いた花


松竹ヌーベルバーグ という括りに属している篠田正浩監督の作品。大島渚、吉田喜重、彼らの作品はどれもがみな緊張感に満ち、それでいてテンポの良い「軽さ」を持っていて、カッコ良い。


刑期を終えて出所したやくざ・池部良は偶然入った賭場で、正体不明の若い娘・加賀まり子に出会う。加賀まり子のなんとも言えない茶目っ気のある演じっぷりへ惚れた。


それは「賭場」と「彼女」のアンバランスが、単にかわいい娘が入り込んだヤクザな場所、という「思わぬ出会い」以上に運命的な「巡り合わせ」があるのだと言う見え方へ繋がっていく。そして「美しさ=はかなさ」は既にこの時点で表れていて、水をすくい上げるような感覚で彼女を追いかける池部良に、同一化していく。


「もっと掛け金の高い賭場に連れて行ってほしい」という加賀の願いを聞き入れて、池部は弟分・杉浦直樹が仕切っている連れ込み宿へ加賀を導く。杉浦直樹は既に今を彷彿させる8:2ほどに分けた髪型だが、明らかに若くてカッコいい青年でもあったことに驚いた・・。


危険な遊びに突き進む加賀の姿は、危なっかしさと同時に、生きることに苦痛を感じるほど孤独であるのだと言いたげな、稚拙であるが故に切実な感情となって迫ってくるものがある。本来なら狡猾な大人にその孤独を存分に弄ばれる所だが、池部は親の役目でも演じるように加賀を叱り、それでいて娘ほど離れた彼女へ恋愛感情を抱いている自分へ戸惑う。

やがて加賀の目の前で、対立している関西の暴力団組長・山茶花究を刺し殺す池部。本当の刺激を見せてやるのだと言わんばかりの池辺の殺しには、不器用な大人の全うできない恋愛感情の掃き溜めを見るようでいて悲しい。


池部が刑務所に入って2年、加賀は香港人のハーフで薬物中毒の殺し屋・藤木孝に麻薬中毒にされた挙句に殺されるのだった。獄中でそれを知った池辺の表情は、やや物足りないほどの反応をしめした。しかしこの作品全体に漂う緊張感は、まさに彼のこの押さえられた演技に支えられている。


最後まで感情の破滅を向かえず、したたかに役を演じることほど難しいのではないか。加賀の壊れそうでいて、ついに消えてしまった「痛み」と対を成すこの両者の醸し出す「空気」は見もの。2002.08.05k.m


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最終更新:2013年03月06日 01:47