海を飛ぶ夢


  • 監督: アレハンドロ・アメナーバル
  • 出演: ハビエル・バルデム, ベレン・ルエダ

ここ数年日本を支配している「泣き」・「感動」ストーリーものとして括ってしまう映画なのだろうか。そうでないとすれば、どこが違うのだろうか。初めから死を予告された話であることは多くのブーム映画と同じだ。けれど尊厳死というテーマを扱っていることから明確なように、死にたいして「泣き」や「感動」でもって了解することをむしろ拒むような映画だ。

人が一人死んで行くことへ感情移入して泣くことはとても簡単なことに思える。けれどそこだけに映画の表現すべてが入ってしまったような消化のされかたでは、余りにも安易だ。自殺にたいして付きまとう宗教観や、尊厳死というテーマについて考えなければならない問題へ向き合うキッカケとしてこの映画は存在してもいる。

そう考えるとむしろ目前の「泣き」や「感動」というのは煩わしい感情ですらある。ラストシーンには感動もない。むしろモノと化していく人間の物質感だけがリアルに迫ってくる。そこへ向かう主人公の精神がどれほど成熟した思考を持ち、のこされた言葉にどれほど深い洞察がこめられていようとも、目の前で物質と化していくモノには何も見当たらない。

死はそんな一瞬で始まり、やがて記憶となって定着していく。けれど生前、主人公と一番深くわかりあい、彼の言葉を出版物にまでした女性は、痴呆症が進み彼の死を判別できないばかりか、彼に関する一切を失っている。このように、「泣き」や「感動」を請け負う重要な演出を、この映画ではいくつも欠如させている。さらに実話に基づくフィクションであることが、かえって現実の不条理さをまとう。2006-07-09/k.m

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最終更新:2008年04月11日 08:14